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戸籍の公開制度の沿革――明治5年式戸籍から昭和51年・平成19年改正を経て現在まで(AI作成)

第1 戸籍の「公開」を理解するための前提

1 本記事の対象と結論

本記事は,明治5年式戸籍から令和8年8月16日現在まで,戸籍簿の閲覧,戸籍謄抄本等の交付,届書等へのアクセス及び戸籍情報の電子的提供が,誰にどのような要件で認められてきたかを整理するものである。戸籍の様式や記載事項の変遷それ自体ではなく,戸籍情報へアクセスできる者とその方法の変化を対象とする。

制度史上の転換点は,①明治31年戸籍法が一般的な閲覧・謄抄本交付請求を明文化したこと,②昭和51年改正が現戸籍の閲覧を廃止しつつ「何人でも」という謄抄本交付請求の枠組みを残したこと,③平成19年改正が「何人でも」を削り,本人等,具体的な必要性を示す第三者,公的機関及び一定の士業者ごとに請求要件を分けたこと,④令和元年改正後の情報連携が本籍地以外での広域交付と電子的な資格確認を可能にしたことである。現在の戸籍は一般公開された名簿ではないが,身分関係を公証する必要から,法定の者に目的を限定して情報を提供する制度でもある。

2 「公開」に含まれる四つの制度

戸籍の公開を論じる際は,①原簿を直接見る閲覧,②戸籍又は除籍の謄本・抄本その他の証明書の交付,③出生届等の届書及び受理書類の閲覧・記載事項証明,④戸籍情報連携システムを通じた広域交付又は電子的提供を区別する必要がある。昭和51年に廃止されたのは現戸籍の閲覧であり,同時に戸籍証明書の交付まで廃止されたわけではない。

また,現戸籍,除籍及び改製原戸籍では記録の法的状態が異なり,戸籍の附票は住民基本台帳法上の制度である。明治5年式戸籍を非公開とした措置,現行戸籍法10条以下の交付制度及び戸籍の附票に対するDV等支援措置を一つの「戸籍非公開」という言葉で括ると,根拠法令と判断基準を取り違える。

3 公開制度の主要な転換点

時期制度上の転換公開範囲の要点
明治4年・5年太政官布告第170号による全国統一戸籍後の戸籍法にみられる一般的な閲覧・謄抄本交付請求条項は確認できない
明治31年法律第12号戸籍法「何人ト雖モ」による閲覧・謄抄本交付請求を法律上明文化
昭和22年現行戸籍法制定「何人でも」という公開原則を承継し,拒否を正当な理由がある場合に限定
昭和43年明治5年式戸籍に関する通達閲覧請求に応じない取扱いと,廃棄許可後に残す簿冊の封印・保管を別の通達で実施
昭和51年法律第66号現戸籍の閲覧を廃止し,謄抄本請求では理由明示と不当目的による拒否を導入
平成19年・20年法律第35号の制定・施行「何人でも」を削除し,請求主体と利用目的を法定類型に限定して本人確認を法定化
令和元年・6年法律第17号の制定・広域交付開始情報連携を導入しつつ,広域交付は本人等の窓口請求に限定

第2 明治5年式戸籍から一般公開原則の成立まで

1 明治4年太政官布告第170号と明治5年式戸籍

明治4年4月4日の太政官布告第170号による戸籍法は,明治5年2月1日に全国一斉の戸籍編製を実施した。実施年の干支から壬申戸籍とも呼ばれるこの戸籍は,全国的に統一された最初の近代戸籍であり,身分関係の把握だけでなく,人口把握,治安,徴税及び兵役等の行政目的を併せ持っていた。

もっとも,国立国会図書館の日本法令索引から到達できる『法令全書』の原本画像を確認しても,後の明治31年戸籍法13条に相当する一般的な閲覧・謄抄本交付請求の条項はない。したがって,明治5年式戸籍が作られた時点から法律上の一般公開原則が存在したと説明するのは正確でなく,全国統一戸籍の成立と一般公開条項の成立は分けて理解すべきである。

2 明治19年戸籍取扱手続

明治19年10月16日内務省令第22号「戸籍取扱手続」は戸籍事務を詳細化したが,日本法令索引及び『法令全書』の原本画像で確認した範囲では,一般の者に閲覧又は謄抄本交付を請求する権利を認める明文は発見できなかった。もっとも,明治4年から明治31年までの府県令,伺,指令及び各戸籍役場の実務をすべて確認したわけではないため,この時期に行政実務上どの範囲の閲覧・交付が行われたかは,なお未確定である。

3 明治31年戸籍法による一般公開の明文化

明治31年法律第12号戸籍法13条1項は,手数料を納付した「何人ト雖モ」が身分登記簿を閲覧し,又は登記の謄本・抄本を請求できると定めた。同法174条が13条を戸籍簿及び戸籍の謄抄本に準用したため,ここで不特定の者による戸籍簿の閲覧・謄抄本交付請求が法律上明示された。

同法の御署名原本には明治31年6月15日と記載されているが,公布日は同月21日であり,施行日は同年7月16日である。御署名の日,公布日及び施行日は同じではない。

4 大正3年戸籍法への承継

大正3年法律第26号戸籍法は身分登記簿を廃止して戸籍簿へ一元化し,14条1項で戸籍簿の閲覧又は戸籍の謄抄本交付を請求できる制度を承継した。同条3項は,市町村長が請求を拒める場合を「正当ノ理由アル場合」に限定し,17条は除籍簿及び除かれた戸籍にも同じ規律を準用した。同法は大正4年1月1日に施行された。

第3 戦後の公開原則と昭和43年・昭和51年の制限

1 昭和22年制定時の戸籍法10条

昭和22年法律第224号による制定時の戸籍法は昭和23年1月1日に施行され,10条1項は,「何人でも」手数料を納めて戸籍簿を閲覧し,又は戸籍の謄本・抄本の交付を請求できると定め,市町村長が拒否できるのを正当な理由がある場合に限定した。他方,出生届等の受理書類については,制定時から48条2項が利害関係人に「特別の事由」がある場合だけ閲覧又は記載事項証明を認めており,戸籍簿本体より厳しい制度であった。

この公開原則の下でも,証明書にすべての記載をそのまま転記する運用が一貫していたわけではない。大正期以降,身分表示,施設内での出生・死亡場所その他の機微な記載を証明書から省略する先例が積み重ねられ,公開制度を維持しながら交付情報を調整する方法が採られた。

2 昭和43年の明治5年式戸籍に関する二つの通達

明治5年式戸籍については,昭和43年3月4日民事甲第373号通達が閲覧請求に応じない取扱いを示し,同月29日民事甲第777号通達が,廃棄許可後も残す簿冊を包装・封印して法務局等で保管する取扱いを定めた。閲覧停止と封印・保管は同じ通達の効果ではなく,別の措置である。

この措置は,現戸籍の閲覧制度を廃止した昭和51年改正より8年前に行われた。そのため,明治5年式戸籍の封印を昭和51年改正によるものとする説明も正確ではない。なお,二つの通達は法務省の公開年表,情報公開審査会答申及び通達を引用する公表資料で照合したが,通達原本の画像自体は公開資料から取得できなかった。

3 昭和51年改正による現戸籍閲覧の廃止

昭和51年法律第66号は昭和51年12月1日に施行され,現戸籍の閲覧制度を廃止した。もっとも,改正後10条1項は戸籍謄抄本等についてなお「何人でも」と定め,請求事由の明示を求めた上で,不当な目的によることが明らかなときに市町村長が拒否できる仕組みとした。除籍については,12条の2により本人等,公的機関,一定の士業者又は相続関係の証明等に請求主体・目的を限定した。

第77回国会衆議院法務委員会では,法制審議会答申が正当な理由を有する場合に積極的に限定する案であったのに対し,政府案は実務上の便宜等を考慮して「何人でも」を残し,理由明示と不当目的による拒否で調整したと説明された。昭和51年改正は,公開から非公開へ一度に転換した改正ではなく,閲覧を廃止しながら証明書交付には消極的拒否方式を残した中間段階である。

第4 行政運用の強化から平成19年改正まで

1 大量請求と職務上請求に対する統制

昭和57年2月17日民二第1282号通達は,学術研究を理由とする大量請求等に事前承認等の統制を設けた。昭和61年1月21日民二第483号依頼は,職務上請求の不正利用を受け,八士業の統一請求用紙,請求者の本人確認,職印及び請求書管理等の徹底を求めた。これらの資料は,法務省戸籍法部会第2回会議の資料一覧に収録されている。

制度は「何人でも」という条文を残したまま,請求主体,利用目的及び必要な範囲を行政実務で厳しく確認する方向へ進んだ。もっとも,通達による運用強化には法律上の請求主体を組み替えることができないという限界があり,後の法改正が必要となった。

2 コンピュータ化と本人確認の強化

平成6年法律第67号は,法務大臣の指定を受けた市町村長が戸籍事務を電子情報処理組織で扱う制度を導入した。平成14年法律第174号による証明制度の整備と平成15年以降の法務省通知により,届出及び戸籍証明の請求時における本人確認も強化されたが,これらは請求権者を法律上限定する改正ではなかった。

紙の原簿を閲覧する制度から,データベース化された情報に基づく証明書交付へ移るほど,不正な一件の請求が短時間に広範な情報へ及ぼす危険も増す。本人確認は単なる窓口事務ではなく,公開範囲を制御する制度の一部となった。

3 平成19年改正による権利者・目的限定方式への転換

平成19年法律第35号は戸籍法10条1項の「何人でも」を削除し,平成20年5月1日に施行された。本人等の請求は10条,本人等以外の第三者,公的機関及び一定の士業者による請求は10条の2,本人確認は10条の3,必要事項が明らかでない場合の追加説明要求は10条の4に分けられ,不正取得に対する制裁も過料から刑事罰へ強化された。

第166回国会衆議院法務委員会における政府説明は,個人情報保護意識の高まり,不正請求事件及び本人確認の不足を背景として戸籍公開の原則を見直すことを明示した。制度の中心は,不当目的であることが明らかな場合だけ拒否する方式から,請求者が法定の資格と具体的な利用目的を示す方式へ移った。

第5 現行法と戸籍情報連携

1 現在の交付請求者と審査

現行戸籍法10条1項は,戸籍に記載されている者,その配偶者,直系尊属又は直系卑属を本人等として交付請求を認め,同条2項は不当な目的によることが明らかな請求を拒否できるとする。10条の2第1項は,本人等以外の第三者について,①自己の権利行使又は義務履行に必要な場合,②国又は地方公共団体の機関へ提出する必要がある場合,③その他戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合に限定する。

国又は地方公共団体の機関は同条2項,一定の受任事件・事務を遂行する弁護士,司法書士,土地家屋調査士,税理士,社会保険労務士,弁理士,海事代理士及び行政書士は同条3項から5項までの要件により請求できる。市町村長は10条の4により追加の説明又は資料を求めることができるため,所定の請求書を提出すれば常に交付される制度ではない。除籍謄本等には12条の2がこれらの規定を準用し,偽りその他不正の手段によって戸籍謄本等を取得した者は135条により30万円以下の罰金となる。

2 届書等と学術研究は別の法的経路であること

出生届その他の受理書類は,戸籍法48条2項により,利害関係人が「特別の事由」を示した場合に閲覧又は記載事項証明を請求できる。戸籍受附帳等の行政文書まで10条の2の「戸籍謄本等」に含まれるわけではなく,関連文書ごとに根拠条文を確認する必要がある。

統計又は学術研究には戸籍法126条の別経路があり,公益性が高く,目的達成に戸籍等の情報を利用する必要がある場合に必要な限度で提供される。歴史研究であるというだけで明治5年式戸籍又は現行戸籍を一般閲覧できるわけではない一方,公開制度の外側に研究利用の法的経路が全くないわけでもない。

戸籍法128条は,戸籍簿・除籍簿の副本,48条2項の書類及び届書等情報に国の情報公開法を適用しないと定める。一般の情報公開請求によって,戸籍法が定める請求要件を迂回することはできない。

3 令和6年3月1日開始の広域交付

令和元年法律第17号は,戸籍情報連携システムを前提に,本籍地以外の指定市町村長に対する広域交付,戸籍電子証明書提供用識別符号及び行政機関への戸籍関係情報提供等を整備した。広域交付は令和6年3月1日に開始されたが,利用できるのは戸籍法10条1項の本人等であり,窓口に本人が出向く必要があり,郵送請求と代理人請求はできない。

第198回国会衆議院法務委員会では,一回の請求で広範な戸籍情報に到達できることによる不正取得リスクと市町村の審査負担を理由に,第三者請求と士業者の職務上請求を広域交付の対象外とした旨が説明された。デジタル化は公開範囲を当然に広げたのではなく,提供経路ごとに請求主体を絞る設計を伴っている。

第6 公開範囲を画した主要裁判例

1 昭和51年改正前後の裁判例

昭和51年改正前の裁判例は,差別を防止する行政目的が正当であっても,市町村が本人の承諾又は委任状を一律の交付条件として法律上の請求権を縮めることはできないとした。他方,改正後の裁判例は,単なる資料収集では足りず,社会生活上の具体的な必要性を求める方向を示した。

富山家裁高岡支部昭和51年9月10日審判は,明治5年式戸籍について,所定の保存期間の満了後に適法な廃棄処分がされれば,現物が焼却されず残っていても戸籍法10条の閲覧・謄抄本交付の対象たる戸籍ではなくなるとした。戸籍を永久に保存して一般公開する権利が憲法上保障されるものでもないとし,明治5年式戸籍の法的状態を直接扱った裁判例である。

2 第三者請求と市町村長の実質審査

東京高裁昭和63年3月1日決定は,債権契約時に戸籍取得へ包括的に同意する条項があっても,それだけで請求要件を当然に満たすものではなく,市町村長が目的,必要性その他の具体的事情を審査できるとした。東京地裁平成27年4月21日判決は,現行戸籍法10条の2第1項1号の請求者が権利の存在する蓋然性まで当然に立証するものではなく,通常は請求書が主要な審査資料になるとしながら,10条の4による実質審査と追加説明・疎明資料の要求を認めた。

将来の遺言又は信託を念頭に除籍謄本等を求めた事件では,横浜地裁令和3年6月9日判決が交付を認めたのに対し,東京高裁令和4年3月17日判決はこれを取り消した。東京高裁は,戸籍法10条の2第1項1号が請求時点で権利又は義務の発生原因と内容が具体化していることを前提とし,同項3号の「正当な理由」は1号・2号に準ずる,社会生活上一般に期待又は許容される場合をいうとした。不当目的がないことだけでは足りず,最高裁令和4年11月9日決定は上告を棄却し,上告受理申立てを受理しなかった。

3 DV等支援措置と戸籍関連文書の区別

東京地裁令和7年1月28日判決は,面会交流調停の代理業務のために戸籍謄本を職務上請求した事案で,戸籍には一般に住所が記載されず,どの記載から支援措置対象者の住所が判明するのかが具体化されていないとして,不交付処分を取り消した。支援措置の存在だけから戸籍謄本の具体的な危険を当然に推定した判決ではない。

東京地裁令和7年4月21日判決は,戸籍受附帳が戸籍法10条の2第2項の公用請求にいう「戸籍謄本等」ではないとした一方,出生届の記載事項証明については,判決により調査義務を負う地方公共団体の職員が48条2項の「特別の事由がある」利害関係人となり得るとした。二つの判決は,戸籍,戸籍の附票,届書及び受附帳を一括せず,記載内容と根拠条文ごとに危険と請求要件を判断すべきことを示している。

4 不正取得に対する民刑事責任

東京地裁平成8年11月18日判決は,行政書士が目的を偽り,又は根拠を示さずに戸籍等を取得した事案で,正当な理由なく戸籍等を取得されないという静穏な生活上の利益を法的保護に値するとし,慰謝料50万円を認めた。名古屋地裁平成24年7月4日判決は,偽造された司法書士職務上請求書を使って戸籍全部事項証明書,除籍謄本及び改製原戸籍謄本等を組織的に取得した行為に有罪判決を言い渡した。

東京地裁令和7年7月15日判決は,弁護士が調査会社の依頼を受け,自らの依頼事件ではないのに虚偽の利用目的を記載して戸籍等を取得した事案で,法定要件を満たさない第三者へ戸籍情報を開示されないという期待を法的保護に値するとし,慰謝料5万円を認めた。職務上請求は士業者個人の一般的調査権ではなく,受任事件又は事務と具体的必要性に従属する。

5 裁判例の一覧と確認範囲

裁判例事件番号・掲載誌公開制度上の要点原文確認
和歌山家裁田辺支部昭和49年3月27日審判昭和49年(家)第56号・家月27巻2号88頁本人承諾等を一律の交付条件にできない判例秘書・D1-Law.com判例体系,裁判所HP未掲載
富山家裁高岡支部昭和51年9月10日審判昭和50年(家)第368号・家月29巻3号93頁適法な廃棄処分後の明治5年式戸籍は10条の対象ではない判例秘書・D1-Law.com判例体系,裁判所HP未掲載
広島家裁昭和53年1月19日審判昭和52年(家)第2304号・家月30巻10号41頁正当な利害関係には社会生活上の必要性を要する判例秘書,裁判所HP未掲載
東京高裁昭和63年3月1日決定昭和62年(ラ)第677号・家月40巻11号100頁包括同意だけでは足りず,具体的必要性を審査できる判例秘書・D1-Law.com判例体系,裁判所HP未掲載
東京地裁平成8年11月18日判決平成7年(ワ)第21479号・判時1607号80頁不正取得されない静穏な生活上の利益を保護判例秘書・D1-Law.com判例体系,裁判所HP未掲載
東京地裁平成27年4月21日判決平成25年(ワ)第33939号・判タ1419号292頁請求書を主要資料としつつ10条の4の実質審査を認める判例秘書・D1-Law.com判例体系,裁判所HP未掲載
横浜地裁令和3年6月9日判決・東京高裁令和4年3月17日判決・最高裁令和4年11月9日決定令和元年(行ウ)第49号・令和3年(行コ)第182号・令和4年(行ツ)第204号,同年(行ヒ)第220号3号の正当な理由には1号・2号に準ずる具体的必要性を要する判例秘書,東京高裁はD1-Law.com判例体系でも確認,裁判所HP未掲載
東京地裁令和7年1月28日判決令和6年(行ウ)第148号DV等支援措置だけを理由とする戸籍謄本不交付を取消し裁判所HP・判例秘書
東京地裁令和7年4月21日判決令和3年(ワ)第28700号戸籍受附帳と戸籍謄本等を区別し,届書の48条2項を検討裁判所HP・判例秘書・D1-Law.com判例体系
名古屋地裁平成24年7月4日判決平成23年(わ)第2811号偽造職務上請求書による組織的不正取得裁判所HP・判例秘書
東京地裁令和7年7月15日判決令和6年(ワ)第21010号虚偽目的の職務上請求について不法行為を認定判例秘書・D1-Law.com判例体系,裁判所HP未掲載

現行戸籍法10条の2第1項の「正当な理由」又は士業者の職務上請求の交付要件を正面から示した最高裁判決は,裁判所HP,判例秘書及びD1-Law.com判例体系での本件検索では確認できなかった。最高裁令和4年11月9日決定も実体判断を示した判決ではないため,東京高裁令和4年3月17日判決の射程を最高裁判例として一般化することはできない。

第7 現在の到達点と残る争点

1 一般公開と全面非公開の二分法では捉えられないこと

明治5年式戸籍の成立から現在までの変化は,単純な「公開から非公開へ」という一本の線ではない。法律上の一般公開条項が明文化されたのは明治31年であり,昭和51年には閲覧と証明書交付が分離され,平成19年には証明書交付も権利者と目的の法定類型に組み替えられた。現在は,身分関係を公証する社会的必要と,第三者へ家族関係その他の情報を開示されない利益とを,請求主体,利用目的,必要範囲及び本人確認によって調整する制度である。

デジタル化後は,戸籍一通の交付だけでなく,行政機関が必要な属性を電子的に確認する情報連携が増える。このため,今後の中心的な問題は戸籍全部を見せるか否かだけではなく,必要な情報だけを提供する仕組み,アクセス履歴の監査及び一件の認証事故が広範囲へ及ぼす危険の管理に移っている。

2 職務上請求と本人通知制度

職務上請求の要件,統一請求用紙,DV等支援措置,不正取得の民刑事責任及びオンライン化の実務は,戸籍謄本・住民票の職務上請求――要件,DV等支援措置,不正取得の責任及びオンライン化(AI作成)で整理している。本記事では制度沿革との役割分担から,個々の請求書の記載方法までは扱わない。

不正取得を請求後に本人へ知らせる制度は一部自治体で導入されているが,全国一律の法定制度ではない。平成26年6月6日付け政府答弁書も,地方公共団体の判断で行われている本人通知制度について,国が一律に実施を要請することは考えていないとした。捜査,訴訟,債権回収,DV等支援及び正当な職務上請求との関係で,誰にいつ通知し,どの情報を示すかは現在も政策的な争点である。

3 確認できた範囲と残る史料上の限界

明治4年から明治31年までの全国の府県令,伺,指令及び戸籍役場の実務は網羅できておらず,この時期の行政実務上の公開範囲は未確定である。また,昭和43年の二つの通達は公的年表等で内容を照合したものの,原通達画像を取得できていない。明治5年式戸籍を研究目的で閲覧できるという一般的制度が現在存在するとする根拠も確認できなかった。

裁判例については,裁判所HPに加えて判例秘書及びD1-Law.com判例体系を検索し,戸籍又は除籍の閲覧・交付拒否,戸籍関連文書へのアクセス及び不正取得を直接の争点又は重要な前提とする公刊例を確認した。ただし,裁判所HP又は商用DBに収録されない非公刊裁判例の不存在を証明することはできない。

第8 出典・参考資料

1 法令

明治4年太政官布告第170号戸籍法,国立国会図書館日本法令索引及び『法令全書』原本画像。

明治19年10月16日内務省令第22号「戸籍取扱手続」,国立国会図書館日本法令索引及び『法令全書』原本画像。

明治31年法律第12号戸籍法,明治31年6月21日公布,名古屋大学法令データベース及び国立公文書館御署名原本。

大正3年法律第26号戸籍法,大正3年3月31日公布,名古屋大学法令データベース。

昭和22年法律第224号戸籍法,昭和22年12月22日公布,衆議院制定法律情報。

昭和51年法律第66号,昭和51年6月15日公布,衆議院制定法律情報。

平成19年法律第35号,平成19年5月11日公布,衆議院制定法律情報。

令和元年法律第17号,令和元年5月31日公布,衆議院制定法律情報。

現行戸籍法,e-Gov法令検索,10条から10条の4まで,12条の2,48条,120条の2,120条の3,126条,128条及び135条。

2 公文書・歴史資料

①法務省民事局「戸籍公開制度の改正経過」,法制審議会戸籍法部会第2回会議参考資料,平成17年11月29日,PDF1頁~6頁,資料掲載ページ

②法務省民事局「戸籍公開等関係年表」,法制審議会戸籍法部会第2回会議参考資料,平成17年11月29日,PDF1頁,資料掲載ページ

③法務省民事局「昭和57年2月17日付け民二第1282号通達」,同「昭和61年1月21日付け民二第483号依頼」及び同「戸籍謄抄本等交付申請の取扱いに関する先例」,法制審議会戸籍法部会第2回会議資料19から22まで,平成17年11月29日,資料掲載ページ

第77回国会衆議院法務委員会第11号会議録,昭和51年5月14日。

第166回国会衆議院法務委員会第7号会議録,平成19年3月20日,及び同第8号会議録,同月23日。

第198回国会衆議院法務委員会第15号会議録,令和元年5月10日。

戸籍謄抄本等の不正請求事件並びに本人通知制度に関する質問に対する答弁書,内閣,平成26年6月6日。

3 裁判例

①和歌山家裁田辺支部昭和49年3月27日審判,昭和49年(家)第56号,家庭裁判月報27巻2号88頁,判例秘書及びD1-Law.com判例体系で全文確認,裁判所HP未掲載。

②富山家裁高岡支部昭和51年9月10日審判,昭和50年(家)第368号,家庭裁判月報29巻3号93頁,判例秘書及びD1-Law.com判例体系で全文確認,裁判所HP未掲載。

③広島家裁昭和53年1月19日審判,昭和52年(家)第2304号,家庭裁判月報30巻10号41頁,判例秘書で全文確認,裁判所HP未掲載。

④東京高裁昭和63年3月1日決定,昭和62年(ラ)第677号,家庭裁判月報40巻11号100頁・戸籍時報381号60頁,判例秘書及びD1-Law.com判例体系で全文確認,裁判所HP未掲載。

⑤東京地裁平成8年11月18日判決,平成7年(ワ)第21479号,判例時報1607号80頁・判例評論471号36頁,判例秘書及びD1-Law.com判例体系で全文確認,裁判所HP未掲載。

⑥東京地裁平成27年4月21日判決,平成25年(ワ)第33939号,判例タイムズ1419号292頁,判例秘書及びD1-Law.com判例体系で全文確認,裁判所HP未掲載。

⑦横浜地裁令和3年6月9日判決,令和元年(行ウ)第49号,東京高裁令和4年3月17日判決,令和3年(行コ)第182号,判例地方自治492号14頁,最高裁令和4年11月9日決定,令和4年(行ツ)第204号・同年(行ヒ)第220号,判例秘書で全文確認し,東京高裁判決はD1-Law.com判例体系でも確認,裁判所HP未掲載。

東京地裁令和7年1月28日判決,令和6年(行ウ)第148号,裁判所HP及び判例秘書で全文確認。

東京地裁令和7年4月21日判決,令和3年(ワ)第28700号,裁判所HP,判例秘書及びD1-Law.com判例体系で全文確認。

名古屋地裁平成24年7月4日判決,平成23年(わ)第2811号,裁判所HP及び判例秘書で全文確認。

⑪東京地裁令和7年7月15日判決,令和6年(ワ)第21010号,判例秘書及びD1-Law.com判例体系で全文確認,裁判所HP未掲載。

4 文献

①証明書交付請求研究会編著『実用 各種証明書のとり方』日本法令,令和3年5月,38頁~48頁・71頁~79頁。

②二宮周平「個人情報の保護と戸籍公開原則の検討」立命館法学2005年6号,2005年,論文PDF

③櫻庭倫『一問一答 戸籍法―戸籍情報の連携,押印義務の見直し,氏名の振り仮名の法制化―』商事法務,令和6年。