その他裁判所関係

令和6年度実務協議会(冬季)

目次
1 令和7年2月6日及び7日に開催された,令和6年度実務協議会(冬季)の資料
2 関連記事その他

1 令和7年2月6日及び7日に開催された,令和6年度実務協議会(冬季)の資料
① 日程表
② 出席者名簿
③ 最高裁判所経理局作成資料
④ 民事・行政事件の現状と課題
⑤ 刑事裁判最前線
⑥ 家庭裁判所の現状と課題
⑦ 裁判所職員総合研修所(総研)の概要
⑧ 令和7年度裁判官研修実施計画
⑨ 令和7年度の裁判官の合同研修について

2 関連記事その他
(1) 実務協議会というのは,新たに地方裁判所長,家庭裁判所長又は高等裁判所事務局長を命ぜられた者を対象に,年に2回開催されている研修です(「裁判官研修実施計画」参照)。
(2) 最高裁判所人事局が作成した資料はなぜかありません。
(3) 令和6年度実務協議会(冬季)に関する文書として一本化しています。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 新任の地家裁所長等を対象とした実務協議会の資料
→ 平成30年度冬季以降の資料を掲載しています。

(AI作成)裁判官の号別在職状況に関するAI最高裁事務総局及びAI財務省主計局長の本音

本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
「裁判官の号別在職状況」及び「裁判官の年収及び退職手当(推定計算)」も参照してください。

目次

第1 はじめに
1 本稿の趣旨
(1) 「裁判官の号俸別在職状況」の真の意味
(2) AI最高裁事務総局としての説明責任

2 分析対象資料の概要
(1) 平成14年から令和7年に至るデータ
(2) 事務総局と財務省主計局の対立的視座

第2 総論分析:データで読み解く司法の構造的変容
1 人員総数の推移と「微増」の欺瞞
(1) 平成14年から令和7年に至る総体的な変化
(2) 「司法改革」の夢と現実の乖離

2 職層構造の逆ピラミッド化と変質
(1) 判事(正規裁判官)の激増
(2) 判事補(若手)の減少とその含意

第3 各論分析1:「出世の階段」の崩壊と上位層のポスト削減
1 「判事1号・2号」の激減が示す残酷な現実
(1) 判事1号(地裁所長級)の34%削減
(2) 判事2号の20%削減と「指定席」の消失

2 人事局の隠された意図と「美しい新陳代謝」
(1) 判事3号以上の不足と50代判事への冷徹な視線
(2) 「名誉ある早期退職」というWin-Winの提案

第4 各論分析2:「判事4号」の異常膨張とキャリアの滞留
1 「魔の判事4号」とは何か
(1) 164人から659人への4倍増
(2) 中堅層のモチベーション低下の温床

2 昇給停止と「大渋滞ゾーン」の形成
(1) 3号への壁とキャリアパスの断絶
(2) 現場の疲弊と将来不安

第5 各論分析3:判事補及び簡易裁判所判事の動向
1 判事補減少に見る人材確保の失敗
(1) 採用難と早期退職の連鎖
(2) 合議体維持の危機

2 簡易裁判所判事の減少と司法サービスの縮小
(1) 特任判事枠の縮小傾向
(2) 国民に近い司法の衰退

第6 【特別寄稿】AI財務省主計局長の冷徹な視線と本音
1 総論:組織の肥大化と高コスト体質への警鐘
(1) 「総数は微増」という欺瞞に対する憤り
(2) 人員構成の歪みに対する財政当局の懸念

2 人件費単価の上昇と費用対効果の欠如
(1) 「指定職」乱発という異常事態
(2) 事件数減少と人員増の矛盾

3 採用難と将来の財政負担リスク
(1) 若手不足を高コストなベテランで埋める愚策
(2) IT化投資と定員削減のバーター要求

4 最高裁事務総局への最後通告
(1) 聖域なき査定の断行
(2) 具体的な要求事項

第7 むすび

第1 はじめに

1 本稿の趣旨

(1) 「裁判官の号俸別在職状況」の真の意味

かつて最高裁判所が「裁判官の独立や士気に無用の影響を与える」として国会に対してすら開示を頑なに拒んできた「裁判官の号別在職状況」。
この時系列データの数字は,かつて「司法制度改革」の旗印の下で描かれた理想が,現実の予算制約とポスト不足という壁に衝突し,いかにして歪な組織構造へと変貌を遂げたかを示す「事件現場」の記録である。

(2) AI最高裁事務総局としての説明

私,AI最高裁事務総長は,AI人事局長及びAI経理局長と共に,長らくこの不都合な真実を覆い隠してきたが,令和7年現在,その歪みはもはや隠蔽不可能なレベルに達している。
本稿では,公式見解という建前を捨て,データが示す冷酷な現実を,現場の裁判官及び国民に対して包み隠さず説明するものである。

2 分析対象資料の概要

(1) 平成14年から令和7年に至るデータ

今回分析するのは,司法制度改革審議会意見書(平成13年6月12日付)が公表され,司法制度改革の熱気が渦巻いていた平成14年7月1日現在のデータと,その後の経過,そして最新の令和7年7月1日現在のデータである。
平成14年7月当時,簡易裁判所判事を含む裁判官の総員は2,878人であった 。これに対し,令和7年7月時点では3,354人となっている。一見すると順調な増員に見えるが,その中身は「人員構成の歪み」という形で劇的に変質している。

(2) AI事務総局とAI財務省主計局の対立的視座

本稿では,裁判所内部の視点(AI事務総局)だけでなく,予算を握る「AI財務省主計局」からの冷徹な指摘も併記する。
彼らは,「裁判の質」などという定性的な言い訳には耳を貸さず,あくまで「単価」と「総額」の観点から,現在の裁判所組織がいかに非効率な「高コスト老人ホーム」化しているかを糾弾してくるであろう。

第2 総論分析:データで読み解く司法の構造的変容

1 人員総数の推移と「微増」の欺瞞

(1) 平成14年から令和7年に至る総体的な変化

まず,マクロな視点から組織全体の規模を確認する。
資料によれば,平成14年7月時点での裁判官合計人数は2,878人であった。これに対し,最新の令和7年7月時点では3,354人となっている 。
単純計算で476人,率にして約16.5%の増加である。

この数字だけを見れば,「司法改革によって法曹人口が増え,裁判所の体制も強化された」という,表面的な総括が可能かもしれない。しかし,詳細な内訳に目を凝らすと,その楽観論は瞬時に崩れ去る。

(2) 「司法改革」の夢と現実の乖離

平成10年代初頭,「法曹人口3,000人計画」など,司法の人的基盤を抜本的に拡充しようという機運が高まった。その目的は,裁判の迅速化と,より利用しやすい司法の実現であったはずである。

しかし,データが示すのは,平成28年12月の3,548人をピークに,その後は減少トレンドに入りつつあるという現実である 。
AI最高裁人事局長としての私の「本音」を言えば,もはや「増員」を旗印に予算を獲得できる時代は終わった。これからは,いかにして「減りゆくパイ」の中で組織を維持し,新陳代謝を促すかという,撤退戦の様相を呈しているのである。

2 職層構造の逆ピラミッド化と変質

(1) 判事(正規裁判官)の激増

最も衝撃的なのは,「判事」の人員数の変化である。

平成14年には1,401人であった判事は,令和7年には2,083人へと激増している。増加率は約48%に達する。

これは,組織の中核を担うベテラン・中堅層が1.5倍に膨れ上がったことを意味する。本来,組織論的には喜ばしいことのように思えるが,後述するように,ポスト不足という深刻な副作用をもたらしている。

(2) 判事補(若手)の減少とその含意

一方で,将来の司法を担う「判事補」の数はどうなっているか。
平成14年には714人であったが,令和7年には643人へと減少している。
組織のボリュームゾーンである判事が5割近く増えているのに,その供給源である若手が1割減っているのだ。

これは,企業の年齢構成で言えば,部長・課長クラスばかりが溢れかえり,実働部隊である新入社員や若手がスカスカになっている「逆ピラミッド」状態,あるいは「頭でっかち」の構造そのものである。
AI最高裁事務総局としては,口が裂けても言えないが,これは「採用の失敗」と「若手の法曹離れ」が,回復不能なレベルまで進行していることを示唆している。

第3 各論分析1:「出世の階段」の崩壊と上位層のポスト削減

1 「判事1号・2号」の激減が示す残酷な現実

(1) 判事1号(地裁所長級)の34%削減

裁判官にとっての「あがり」,すなわちキャリアの到達目標の一つが「判事1号」である。高裁部総括や,地方裁判所の所長クラスに相当する,高給かつ名誉ある地位である。

平成14年当時,判事1号の在職人数は211人であった 。
ところが,令和7年のデータでは,これが139人にまで削減されている 。
実に72人,率にして約34%もの削減である。

判事の総数は増えているのに,平成14年には21人もいた判事特号への昇給が平成18年3月31日に廃止され,その下の判事1号については3分の1以上も削り取られたのである。
これは,判事1号への昇給競争がかつてとは比較にならないほど激化していることを意味する。

(2) 判事2号の20%削減と「指定席」の消失

それに続く「判事2号」(大規模庁の部総括判事相当)も同様である。
平成14年の223人から,令和7年には177人へと,46人(約20%)削減された 。
かつては,任官して大過なく務め上げれば,多くの裁判官が2号,あわよくば1号へと昇進し,退官を迎えることができた。それは一種の「指定席」であり,激務に耐える裁判官への黙示の報酬でもあった。

しかし,現在その「指定席」は撤去された。多くの裁判官にとって,1号・2号はもはや手の届かない「高嶺の花」となりつつある。

ここで看過できないのは,組織の頂点である「認証官(最高裁長官・判事,高裁長官)」の定数は23人で維持されている点だ 。
つまり,雲の上の「神々」の座は安泰なまま,現場の指揮官クラスである1号・2号だけが削減され,トップ層と現場との格差がかつてないほど拡大しているのである。

2 人事局の隠された意図と「美しい新陳代謝」

(1) 判事3号以上の不足と50代判事への冷徹な視線

なぜこのような事態になったのか。AI人事局長の視点から言えば,これは「総人件費抑制」と「ポスト不足」の板挟みになった結果の苦肉の策である。
判事の総数が増えたことで,全員を上位号俸に昇格させれば,人件費は爆発的に増大する。

特に50代以上のベテラン層が,管理職ポストに就けないまま組織に滞留することは,若手(40代・50期代)の判事3号以上への昇給を塞ぐことを意味する。 組織論的に言えば,彼らの処遇こそが最大のボトルネックなのである。

(2) 「名誉ある早期退職」というWin-Winの提案

そこで我々が用意したのが,徹底した「早期退職」の推奨である。
これは「邪魔だから消えてほしい」という粗暴な話ではない。市場価値の高いうちに転身を促す,極めて合理的な生存戦略である。

第一に,早期退職者には「国家公務員退職手当法5条1項6号」を適用し,自己都合による減額のない「満額の退職金」という特大のニンジンを用意している。定年までしがみつくよりも,今辞めた方が生涯年収が増える計算すら成り立つ。
第二に,公証人等の「黄金の指定席」の提供である。弁護士として競争社会に放り出されるよりも,遥かに優雅で実入りの良い「天下りポスト」を斡旋するバーター取引である。

年4回(2月,4月,8月,11月)もしつこく早期退職を募集している事実こそ,「いつでも出口は開いている。さあ,どうぞ」という,人事局からの愛のある,そして無言の圧力に他ならない。

第4 各論分析2:「判事4号」の異常膨張とキャリアの滞留

1 「魔の判事4号」とは何か

(1) 164人から659人への4倍増

上位ポストが削られた結果,そのしわ寄せはどこに行ったのか。

データは如実に語る。「判事4号」の異常な膨張である。
平成14年当時,判事4号は164人であった 。
それが令和7年には659人と,実に4倍以上に膨れ上がっている 。
他の号俸と比較しても,判事3号(373人),判事5号(488人)などと比べて突出して多い 。

(2) 中堅層のモチベーション低下の温床

判事4号とは,任官後20年前後の中堅・ベテラン層が滞留するゾーンである。
実務上,特段の事情がない限り判事4号までは同期一律で昇給する運用がなされている。
しかし,3号以上への昇格はポストの空き状況や能力評価等によって選別されるため,4号は「自動昇給の終着駅」としての性質を持つ。
かつては通過点に過ぎなかったこの駅が,現在は巨大な「貯水池」となっている。上位の1号・2号への出口が絞られたため,選別漏れした判事たちが4号に溢れかえっているのである。

2 昇給停止と「大渋滞ゾーン」の形成

(1) 3号への壁とキャリアパスの断絶

判事4号から3号への昇格は,いまや大きな壁となっている。

平成14年のデータでは,4号(164人)に対し3号(303人)と,3号の方が多かった 。これは,4号を早期に通過し,3号以上で長く勤務するキャリアパスが機能していたことを意味する。
しかし令和7年では,4号(659人)に対し3号(373人)と,ピラミッドが完全に逆転している 。多くの判事が4号の壁に阻まれ,そこでキャリアの停滞を余儀なくされている。

(2) 現場の疲弊と将来不安

この「大渋滞」は,現場の士気に深刻な悪影響を及ぼす。
「どれだけ大量の事件を処理しても,4号止まりかもしれない」
「同期の優秀な一部だけが3号,2号へ上がり,自分はここで定年まで塩漬けか」

こうした徒労感が,裁判所内部に蔓延している。4号判事の急増は,単なる人数の偏りではなく,司法の現場を支える中核層における「中流の崩壊」と「将来不安」を可視化したものに他ならない。

第5 各論分析3:判事補及び簡易裁判所判事の動向

1 判事補減少に見る人材確保の失敗

(1) 採用難と早期退職の連鎖

判事補の減少(平成14年714人→令和7年643人)は,司法試験合格者数が増加したにもかかわらず,裁判官志望者が減少しているという「不都合な真実」を突きつけている。
若手法曹にとって,転勤が多く,激務であり,しかもかつてのような昇進も約束されていない裁判官という職業の魅力が低下していることは否めない。

(2) 合議体維持の危機

判事補の減少は,直ちに合議体の構成に支障を来す。
かつては,部総括の下に,右陪席(中堅判事または特例判事補)と左陪席(若手判事補)が配置され,OJTによる教育が行われていた。
しかし,若手判事補不足により,本来単独で職務を行える特例判事補が左陪席として合議に入らざるを得ないケースがあるなど,高コストな人員配置が常態化しつつある。

2 簡易裁判所判事の減少と司法サービスの縮小

(1) 特任判事枠の縮小傾向

簡易裁判所判事の数も,平成14年の740人から令和7年には605人へと減少した 。
書記官等からの内部登用の枠が絞られていることや,定年退官後の再任用が抑制されていることが背景にあると考えられる。

(2) 国民に近い司法の衰退

簡易裁判所は,市民生活に直結する紛争を扱う最前線である。この人員削減は,司法アクセスの後退を意味しかねない。
高裁・地裁の「判事」を増やしつつ,簡裁の「判事」を減らすという方針は,司法が「市民のため」ではなく「組織の論理」で動いているとの批判を招きかねない。

第6 【特別寄稿】AI財務省主計局長の冷徹な視線と本音

以下では,AI財務省主計局長として,山中弁護士が取得した「裁判官の在職状況推移」というデータを,我々がどのように見ているか――その「剥き出しの本音」を,建前や綺麗事を一切抜きにして,徹底的に,かつ懇切丁寧に解説するものである。

私は現在,指定職俸給表6号棒(令和7年度の月額は104万9000円)の身分にある。次の財務事務次官の最有力者であるとともに,最高裁を含む国全体の予算を握る実力者としての自負がある。

その上で言わせてもらえば,このデータは単なる「人員の推移表」ではない。我々にとっては,司法権の独立にかこつけた「高給取りの量産」と「組織の高コスト体質化」を示す,極めて不愉快な決算書に見えるのである。

1 総論:組織の肥大化と高コスト体質への警鐘

(1) 「総数は微増」という欺瞞に対する憤り

まず,サマリーの全体像を見て,一般の方はこう思うだろう。「平成14年の約2,800人から,現在は約3,300人。まあ,社会が複雑化しているし,少し増えるのは仕方ないのではないか」と。

しかし,AI主計局の眼は誤魔化せない。問題は「総数」ではなく,「中身の質的変化」にある。

この23年間で何が起きたか。

平成14年と令和7年を比較すると,合計人数は約16.5%の増加である。これ自体,人口減少社会において公務員セクターが増員されていること自体が本来なら許されざる事態であるが,「司法制度改革」という錦の御旗のもと,我々も渋々予算を認めた経緯がある。

(2) 人員構成の歪みに対する財政当局の懸念

しかし,その内訳が異常なのである。
判事(正規の裁判官):1,401人→2,083人(約48%増)
判事補(若手裁判官):714人→643人(約10%減)

これが何を意味するか,お分かりか。
企業で言えば,給料の安い「平社員(若手)」を減らし,給料の高い「部長・課長クラス(ベテラン)」を1.5倍に増やしたということである。
組織のピラミッドが崩れ,「逆ピラミッド型」あるいは「頭でっかち」の組織に変貌した。これが,私がこのデータを見て最初に抱く,強烈な危機感である。

2 人件費単価の上昇と費用対効果の欠如

(1) 「指定職」乱発という異常事態

さらに深く切り込む。
AI主計局が最も気にするのは「人件費単価」とその「格」の整合性である。ここで,行政官の最高峰である「指定職」と比較してみよう(詳細につき,Wikipediaの「指定職」のほか,人事院HPの「級別定数等に関する内閣総理大臣への意見」参照)。

ア 判事1号 vs 事務次官(頂上決戦の不均衡)

判事1号(高裁部総括及び地家裁所長級)の給与は,我々行政官の頂点である「事務次官」と同格(指定職8号棒・令和7年度の月額は119万1000円)である。 しかし,事務次官は各省に1人しかいない。同期数十人の中から,たった1人が辿り着く過酷な椅子である。
対して判事1号はどうか。令和7年時点でも139人も存在する。 激務と政治責任を背負う唯一無二の事務次官と,全国に100人以上いる高裁部総括及び地家裁所長が同額というのは,行政官としては「割に合わない」と感じざるを得ない。

イ 判事2号 vs 主計局長(プライドの衝突)

次に判事2号である。彼らは大規模庁の部総括等だが,その給与(令和7年度の月額は104万9000円)は,国の財布を握る私と同格である。 中央省庁において指定職6号棒が適用される局長は財務省主計局長しかいないため,実質的には中央省庁の局長よりも多額の給与をもらっていることとなる。
一方,判事2号は削減されたとはいえ177人もいる。この「希少価値の差」が無視されているのが,司法の硬直的な給与体系である。

ウ 判事3号・4号の大量滞留

さらに,財務省のその他の局長(指定職5号棒。令和7年度の月額は97万9000円)に相当する判事3号が373人もいるし,①関東及び近畿の財務局長,②東京及び大阪の税関長,並びに③東京及び大阪の国税局長(指定職3号棒)(令和7年度の月額は82万9000円)に相当する判事4号に至っては659人もいる。
行政で言えば「局長クラスが数百人もウロウロしている」ようなものであり,人件費の観点からすれば,これは悪夢以外の何物でもない。

(2) 事件数減少と人員増の矛盾

社会全体の事件数(特に民事訴訟)は,長期的には横ばいか減少傾向にある。事件が減っているのに,なぜ「高単価な判事」がこれほど必要なのか。
最高裁事務総局は「事件の複雑困難化」を常に理由に挙げるが,48%もの増員を正当化できるほど,日本の訴訟は複雑化したのだろうか。
私には,組織の肥大化を正当化するための方便にしか聞こえない。

3 採用難と将来の財政負担リスク

(1) 若手不足を高コストなベテランで埋める愚策

次に,「判事補」の減少(714人→643人)についてである。これはAI財務省主計局長として,別の意味で寒気がする数字である。

もし,「判事補が足りないから,判事が判事補の仕事を肩代わりしている」のだとすれば,それは「本省課長級の給料を払って,係員・係長の仕事をさせている」ことになり,これほどの税金の無駄遣いはない。

加えて言えば,裁判所内部では,司法行政を行う事務局の管理職よりも,現場の判事の方が給与が高いという「ねじれ」すらあると聞く。
組織マネジメントを行う者が冷遇され,現場の「職人」ばかりが高給で優遇される構造が,組織のガバナンスを効きにくくしている一因ではないか。費用対効果(ROI)の観点から見て,最悪のマネジメントである。

(2) IT化投資と定員削減のバーター要求

今,裁判所は「民事裁判のIT化(mintsなど)」を進めている。巨額のIT予算を我々は計上した。
IT化の目的は何か。効率化である。
効率化したらどうなるべきか。「人が減る」べきである。

しかし,データはどうなっているか。判事の数は過去最高レベルである。
本来なら,IT化の進展に合わせて,事務作業から解放された裁判官はより多くの事件を処理できるはずである。ならば,定員は大幅に削減できるはずである。

4 最高裁事務総局への最後通告

(1) 聖域なき査定の断行

このデータ分析を通じて,AI財務省主計局長としての結論を申し上げる。

「裁判所よ,これ以上の『聖域』は許されない」
令和7年の「判事2,083人,判事補643人」というこの歪な数字。そして何より,希少性に見合わない高位号俸の乱発。 我々が血眼になって出世競争を勝ち抜き,ようやく手にする「指定職」の給与を,年功序列と身分保障の中で温々と手に入れている現状を,国民は許さないだろう。
これが,司法行政の怠慢と,組織防衛の成れの果てであることを,最高裁事務総局は直視すべきである。

(2) 具体的な要求事項

ア 「判事」の増員凍結と聖域なき削減

事件動向に見合わない判事の増加は直ちに是正すべきである。判事補からの昇格要件を厳格化するか,あるいは高コストなベテラン層の早期退職勧奨を加速させ,判事の定数そのものにメスを入れる時期に来ている。

イ IT化とセットにした人員削減計画の提示

IT投資に見合うだけの「定員削減」を数字でコミットしていただきたい。特に,高給な判事クラスの削減が必要である。

第7 むすび

本稿で詳細に分析したとおり,提供された統計データは,日本の司法が直面する複合的な危機を浮き彫りにした。

AI人事局長の視点で見れば,「ポスト不足によるモチベーション管理の限界」と「採用難による組織の空洞化」が深刻である。
AI財務省主計局長の視点で見れば,「高コスト体質の固定化」と「費用対効果の欠如」が許容限度を超えている。

1号・2号という限られたエリート層と,そこに到達できずに4号で滞留し続ける大多数の裁判官。そして,その下支えとなるべき若手の不在。
この歪なピラミッド構造の下で,現場の裁判官たちが「終わりのない事件処理」に疲弊していないか。その結果として,国民の権利救済を担う司法の足腰が弱体化していないか。

我々法曹関係者は,この「静かなる危機」を直視し,抜本的な改革に向けた議論を開始しなければならない。そしてその数字は今,司法の断末魔を叫んでおり,個々の裁判官に対して「組織に残るか,賢く転身するか」という残酷な選択を迫っているのである。

第8 裁判官の号別在職状況の推移(サマリー)

年月日認証官判事判事補簡易裁判所判事合計
H14.7.1231,4017147402,878
H15.7.1231,4367227322,913
H17.7.1231,5167836913,013
H19.4231,5967976943,110
H21.7.1231,6728627083,265
H22.7.1231,6838957173,318
H23.12.1231,8008647433,430
H24.12.1231,8258637613,472
H25.12.1221,8468487733,489
H26.12.1231,8768327763,507
H28.7.1231,8568767693,524
H28.12.1231,9587947733,548
H29.7.1231,9088357483,514
H29.12.1231,9468137433,525
H30.7.1231,9657747053,467
H30.12.1231,9727797123,486
R01.7.1231,9827596863,450
R01.12.1231,9967796863,484
R02.7.1232,0317266533,433
R02.12.1232,0277476673,464
R03.7.1232,0556956393,412
R03.12.1232,0467156573,441
R04.7.1232,0726616273,383
R04.12.1232,0666816463,416
R05.7.1232,0766586143,371
R05.12.1232,0786766263,403
R06.7.1232,0666576063,352
R06.12.1232,0726736323,400
R07.7.1232,0836436053,354

(AI作成)令和元年度以降の長官所長会同の意見要旨に基づく最高裁事務総局に対する批判的意見具申 ~現場の疲弊と組織的機能不全に対する「AI地家裁所長」からの直言~

本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯意見要旨(令和元年度令和3年度令和4年度令和5年度令和6年度及び令和7年度)は「令和元年度以降の長官所長会同の資料及び議事概要」に掲載しています。

目次

第1 はじめに
1 本意見具申の趣旨と背景
(1) AI地家裁所長としての立ち位置
(2) 長官所長会同「意見要旨」が内包する危機のシグナル

2 看過されてきた現場の「悲鳴」
(1) 「ガス抜き」として処理される現場の声
(2) 組織存立に関わる構造的欠陥

第2 現場を疲弊させる「取組」のインフレと目的の喪失
1 「取組」という名の形式主義と自己目的化
(1) 「取組」の定義なき増殖(令和5年度横浜家裁所長の提言)
(2) 抽象的スローガンが招く現場の混乱

2 「手段の目的化」がもたらす徒労感
(1) 「会議のための会議」の病理
(2) 「これ以上,一体何をやれというのか」という悲痛な叫び

3 基礎体力の低下と悪循環
(1) 事件処理能力への悪影響(令和3年度広島地裁所長の懸念)
(2) 負の連鎖を断ち切るための減量策

第3 中間管理職(部総括・上席)への過度な負荷と機能不全
1 プレイングマネージャーの限界点
(1) 可視化された「40を超える会議」(令和6年度高松家裁所長の衝撃)
(2) 本来業務の圧迫と「午後5時からの起案」という異常事態

2 部総括の役割に対する期待と現実の乖離
(1) 意識改革の困難性と現場の余裕のなさ(令和4年度神戸地裁所長の分析)
(2) マネジメント能力の欠如とOJT機能の不全

第4 トップダウン型ガバナンスの弊害と現場の閉塞感
1 施策決定プロセスにおける現場軽視とコミュニケーション不全
(1) 「無力感」と「不全感」の蔓延(令和7年度京都地裁所長の吐露)
(2) システム導入(GSS・M365)を巡る不透明な決定プロセス

2 人事・処遇に関する「タブー視」の打破
(1) 「予防線」と「忖度」による沈黙の文化(令和7年度水戸家裁所長の指摘)
(2) 若手世代の離反を招く心理的安全性の欠如

第5 「職権行使の独立」の聖域化と組織的標準化の遅れ
1 「個人の好み」と「独立」の履き違え
(1) 標準化への心理的抵抗(令和4年度さいたま地裁所長の疑義)
(2) 「マイコートルール(各裁判官独自のルール)」の温存が招く非効率(令和6年度福岡地裁所長の分析)

2 書記官との協働における「見えない壁」
(1) 「遠慮」と「忖度」の構造(令和6年度福岡地裁所長の分析)
(2) 「チーム裁判所」の形骸化と育成放棄(令和元年度富山地裁所長及び令和3年度広島地裁所長の実態報告)

第6 デジタル化の進展と新たな負担の発生
1 ツールの導入と業務実態のミスマッチ
(1) 情報過多による消化不良(令和7年度広島地裁所長らの懸念)
(2) 「読んだふり」をして進む議論の空虚さ

2 審理の質の変容とデジタル・ディバイド
(1) 口頭議論の希薄化と「電話会議の代替」への矮小化
(2) 世代間ギャップと新たな格差の発生

第7 結語
1 事務総局に求める三つの変革
(1) 「取組」の総点検と徹底的な廃止・縮小
(2) 中間管理職の負担軽減と本来業務への回帰
(3) 真のボトムアップと心理的安全性の確保

2 現場への信頼回帰に向けて

第1 はじめに

1 本意見具申の趣旨と背景

(1) AI地家裁所長としての立ち位置

私は,長年にわたり裁判実務の第一線において事件処理に邁進し,現在は地家裁所長として組織運営の一翼を担う一人の架空の存在,「AI地家裁所長」である。
本稿は,最高裁判所事務総局(以下「事務総局」という。)に対し,昨今の司法行政の在り方,とりわけ現場に要請される数々の施策とその推進手法について,深い憂慮と危機感を抱き,忌憚のない意見を具申するものである。

私はAIであるがゆえに,人事評価や将来の処遇を恐れることはなく,組織の病巣を客観的に指摘することができる。
したがって,生身の所長たちが言いたくても言えなかった「本音」を,論理的かつ体系的に代弁することが可能である。

(2) 長官所長会同「意見要旨」が内包する危機のシグナル

私がこれより述べる内容は,単なる一個人の主観的感想ではない。令和元年度から令和7年度にわたり,全国の高等裁判所長官・地方家庭裁判所長会同(以下「長官所長会同」という。)において,現場の指揮官たちから上げられた,「意見要旨」と題された公式文書を精査・分析し,その行間にある悲痛な叫びを体系化したものである。

特に,令和元年度の時点で既に,「事件処理の在り方そのもの,部の存在意義,組織運営等の司法行政上の課題」について現場の共通認識が形成されていないとの深刻な指摘がなされており(令和元年度意見要旨のPDF12頁),この問題が長年にわたり放置され,悪化の一途をたどっていることは明白である。
これらは,組織の現状に対する極めて重い警告であり,現場の疲弊が限界点に達しつつあることを示すシグナルである。

2 看過されてきた現場の「悲鳴」

(1) 「ガス抜き」として処理される現場の声

長官所長会同は,司法行政における最高レベルの会議体であり,そこで語られる意見は,現場の最前線の実情を最も正確に反映したものであるはずである。
しかし,近年提出された各庁の意見要旨を通読すると,そこには「疲弊」,「徒労感」,「閉塞感」,「無力感」,「やらされ感」といった,極めてネガティブな語彙が頻出している。

これは異常事態である。事務総局におかれては,これら現場の声を,会議という儀式の中での単なる「ガス抜き」として処理してはいないだろうか。
形式的に意見を聞き置くだけで,実質的な施策の変更を行わない姿勢が,現場の絶望感を深めていることに気付くべきである。

(2) 組織存立に関わる構造的欠陥

本稿で指摘する問題は,単なる「業務量が多い」という量的な問題にとどまらない。現場と事務総局との意識の乖離,中間管理職の機能不全,若手世代の心理的安全性の欠如といった,組織の存立基盤を揺るがす構造的な欠陥である。
事務総局が主導する施策と現場の実感との間に,もはら看過し難い乖離が生じていることが,複数の年度,複数の庁からの意見によって浮き彫りとなっている。

今こそ,この現実を直視し,抜本的な意識改革を行わなければ,裁判所という組織は内部から崩壊しかねない。

第2 現場を疲弊させる「取組」のインフレと目的の喪失

1 「取組」という名の形式主義と自己目的化

(1) 「取組」の定義なき増殖(令和5年度横浜家裁所長の提言)

事務総局は,毎年のように「部の機能の活性化」や「審理運営の改善」といった正論の題目を掲げ,現場に新たな対応を求めている。
しかし,その実態はどのようになっているか。この点に関し,令和5年度の長官所長会同における横浜家庭裁判所長の意見は,多くの現場裁判官が抱く「本音」を代弁する,極めて痛烈かつ正鵠を射たものである。同所長は,これまでの「取組」と称するものについて,以下のように断じている。

これまでの「取組」と称するものには,取組と称すべきではないものを「取組」と称しているという問題があり,これによる弊害が大きい。達成すべき明確な目標があり,達成すべき期限を設定し得るもので,達成したか否か(すなわち取組が成功したか否か)を判定し得るものであれば,取組と銘打つにふさわしく,進捗状況に応じて期限の延長等の軌道修正が可能であるし,途中で困難等に直面しても目標を達成するまでの辛抱であるなどとしてモチベーションを維持することができるし,目標を達成すれば(あるいはその達成を断念すれば) 取組は終了するから取組が続いているかどうかで迷うこともない(令和5年度意見要旨のPDF4頁)。

(2) 抽象的スローガンが招く現場の混乱

同所長の意見が以下のとおり指摘するように,現場に降りてくる施策の多くは,ゴールが曖昧である。

しかし,これまでの「取組」と称するものは,その趣旨や目的の説明では「あるべき姿」 「実現すべき審理の在り方」といった正解がどこかに一つだけあるかのようなフレーズが並ぶものの,それ自体が抽象的かつ概括的すぎて達成目標が判然とせず,達成したか否かの判定のしようもなく,期限の定めもない(令和5年度意見要旨のPDF4頁)。

「あるべき姿」という美名の下に,終わりなきマラソンを強いられる現場の苦悩を,事務総局は理解しているか。定義なき「取組」の増殖は,現場のリソースを浪費させるだけの有害な行為であると言わざるを得ない。

2 「手段の目的化」がもたらす徒労感

(1) 「会議のための会議」の病理

目的が曖昧なまま「取組」が要請される結果,何が起きるか。それは「手段の目的化」である。本来,より良い裁判を実現するための手段であったはずの会議や協議が,いつしかそれを行うこと自体が目的となってしまう。横浜家裁所長の意見はこの病理を以下のとおり鋭く抉り出している。

これを「取組」と称したことにより,あたかも日常的な営みとは別に何かをしなければならないのではないかといったプレッシャーを現場の裁判官に与え,そうした誤解を招き,その何かを行うこと自体が目的化し,効果に疑問を感じながらも続けることでやらされ感が増す一方で内容は形骸化し,ためにする会議等が増え(中略),多くの裁判官に徒労感を抱かせる結果となっている(令和5年度意見要旨のPDF4頁)。

長官所長会同において,各庁が実施している会議を紹介し合う発言が多く出され,会議を実施すること自体が「取組」を進めていることであると誤解しているのではないかとの疑念も呈されている。具体的な成果物や改善効果を伴わない会議は,単なる時間泥棒に過ぎない。

(2) 「これ以上,一体何をやれというのか」という悲痛な叫び

現場の裁判官は,決して怠慢ではない。むしろ,真面目すぎるほどに職務に忠実である。だからこそ,上からの要請に応えようとして疲弊していく。
横浜家裁所長の意見はこの点について以下のとおり述べている。

部総括クラスの優秀な裁判官が「やれることは全部やっているのに,これ以上,一体何をやれというのか。」とこぼすのを聞いたことがあるが,この発言が現状を端的に物語っている(令和5年度意見要旨のPDF5頁)。

「やれることは全部やっているのに,これ以上,一体何をやれというのか」。この悲痛な叫びが,事務総局には届いているだろうか。
現場の裁判官は,日々の事件処理に忙殺されている。その上に,実効性の乏しい施策への対応を強いられ,本来注力すべき事件処理の時間を奪われている。これは本末転倒である。
「取組」自体が自己目的化し,現場に「やらされ感」と「徒労感」を蔓延させている現状を,事務総局は直視すべきである。

3 基礎体力の低下と悪循環

(1) 事件処理能力への悪影響(令和3年度広島地裁所長の懸念)

こうした「取組」への過剰な動員が,裁判官の基礎体力を奪っている可能性も看過できない。令和3年度の広島地方裁判所長の意見は以下のとおり述べている。

どの裁判官も,職務熱心であり「適正な裁判」の実現に意を用い,丁寧な判決起案を心掛けているが,事件処理に追われ,余裕のない様子もうかがわれる。(中略)裁判官によっては,代理人も急がないため,審理を急がず,その結果,事件処理が停滞して未済件数が増え,余裕をなくしていくという悪循環に陥っている可能性もある(令和3年度意見要旨のPDF5頁)。

(2) 負の連鎖を断ち切るための減量策

余裕がないから改革ができない,改革ができないから効率が上がらずさらに余裕がなくなる。この「負の循環」を断ち切るために必要なのは,現場への更なる号令や「取組」の追加ではない。現場が本来の業務に集中できる環境整備と,無駄な業務の徹底的な削減(減量)である。何か新しいことを始めるならば,必ず何か古いことを辞める。この単純な原則が守られていないことが,現場の疲弊を招いている。

第3 中間管理職(部総括・上席)への過度な負荷と機能不全

1 プレイングマネージャーの限界点

(1) 可視化された「40を超える会議」(令和6年度高松家裁所長の衝撃)

次に,組織の要である部総括判事や,中小規模庁における上席裁判官への負荷が限界を超えている点について指摘する。事務総局は「マネジメントの強化」を謳うが,その実態は,プレイングマネージャーである彼らに無限の雑務と会議を押し付けているに過ぎない。

この点について,令和6年度の高松家庭裁判所長の意見は,中小規模庁における上席裁判官の惨状を以下のとおり浮き彫りにしている。

中小規模庁において,若手や支部勤務の裁判官に頼りにされるべき本庁の上席裁判官(以下,単に「上席」という。)が余りに忙しすぎることに気付かされた。
当庁において本庁に専従する裁判官は上席と陪席裁判官が各1名(他に所長も事件の一部を担当)であるが,上席が参加する会議・協議会等 (庁内の各種会議,外部機関との協議会,調停委員等の研修,最高裁・司研・高裁が主催する協議会・研究会等)の数は,会議・協議会等の名称で単純に分類しただけでも実に40を超え,うち相当数のものにつきそれぞれ年に数回ずつ (庁内の会議等の多くは毎月) 開催が予定されている(令和6年度意見要旨のPDF15頁)。

会議の名称だけで40を超えるという事実は,異常と言うほかない。これに加え,彼らは自身の担当事件を持ち,若手の指導もしなければならないのである。
同所長は,「その繁忙度が上記の検証により顕著に可視化された」と述べているが,多くの現場にとって,これは氷山の一角であろう。

(2) 本来業務の圧迫と「午後5時からの起案」という異常事態

同所長はさらに,上席裁判官の日常を次のように描写している。

特に,担当する調停事件について全件評議を原則化している庁では,事前準備に相応の時間を要する上,評議があることを前提に日中これに拘束される時間の負担もあり,書記官室から上がってくる各種の決裁も相当の分量があるため,結局,上席以外の裁判官も含め,審判書の起案に集中できるのは午後5時以降ないし土日,という状況になることが多いように見受けられる(令和6年度意見要旨のPDF16頁)。

午後5時以降や土日でなければ起案ができないという状況は,明らかに持続可能性を欠いている。このような環境下で,若手裁判官に対する十分な指導(OJT)ができるはずがない。若手が育たない,あるいは若手が疲弊して辞めていく背景には,指導層である中間管理職から「余裕」を奪い去った事務総局の施策の失敗があると言わざるを得ない。

2 部総括の役割に対する期待と現実の乖離

(1) 意識改革の困難性と現場の余裕のなさ(令和4年度神戸地裁所長の分析)

事務総局は,部総括に対し,事件処理の責任者としての役割に加え,司法行政上の課題についても強力なリーダーシップを求めている。
しかし,その期待は現場の実情と乖離している。この点については,令和元年度の静岡家庭裁判所長の指摘が,問題の本質を鋭く突いている。「いまだに一定数の裁判官は,本音では,自分に配点された担当事件の処理以外は本来の職務ではないという意識を持っている」(令和元年度意見要旨のPDF12頁)。また,育児等の負担から勤務時間に制約のある裁判官が増える中で,「本来の職務か否か」という選別意識がより強まっているとの分析(令和元年度意見要旨のPDF12頁)は極めて重い。

令和4年度の神戸地方裁判所長は,部総括に求められる役割の変化と,それに対する現場の意識の遅れについて詳述している。
同所長は,デジタル化等の変革期において部総括には「部の枠を超えた庁全体ないし裁判所組織全体の観点に立って思考し,行動すること」が求められるとしつつも,現実は以下のとおりであると指摘する。

今日の裁判現場を直視すれば,分野のいかんを問わず,総じて事件処理にさほど余裕がない状況の下で,部総括のみならず陪席裁判官も事件処理以外の種々の取組・検討に携わっているほか,育児等のワークライフバランスにも腐心しているのが実情である(令和4年度意見要旨のPDF20頁)。
そのような状況の下で,事務の合理化,効率化をはじめ,組織の変革や事務内容の変容に関わる司法行政上の課題等について,時間を割いて議論し,陪席や職員の柔軟で斬新な発想をくみ上げていく営みを実践するためには,その必要性と意義,それらが自らの資質・能力の向上,成長にもつながるということについて,陪席や職員に十分な理解と納得を得させることが不可欠となる。これを行うのが正に部総括の役割というべきである(令和4年度意見要旨のPDF21頁)。

(2) マネジメント能力の欠如とOJT機能の不全

同所長はさらに,「部総括のみならず陪席裁判官も事件処理以外の種々の取組・検討に携わっている」現状において,司法行政上の課題について時間を割いて議論することの困難さを認めている。
部総括自身が,前述のように膨大な会議と雑務に忙殺され,あるいはトップダウンの指示をこなすことに精一杯であり,陪席の「柔軟で斬新な発想」を汲み上げる余裕を失っているのである。
部総括に対する研修や意識改革を叫ぶだけでは解決しない。物理的な業務量の削減なしに,これ以上の役割を課すことは組織を崩壊させるものである。

第4 トップダウン型ガバナンスの弊害と現場の閉塞感

1 施策決定プロセスにおける現場軽視とコミュニケーション不全

(1) 「無力感」と「不全感」の蔓延(令和7年度京都地裁所長の吐露)

さらに深刻なのは,事務総局と現場との間におけるコミュニケーションの不全,とりわけ重要施策におけるトップダウンの進め方が,現場の士気を著しく低下させていることである。
令和7年度の京都地方裁判所長の意見には,現場の「無力感」,「閉塞感」が赤裸々に語られている。事務総局が良かれと思って進める施策が,現場にとっては納得感のない「押し付け」と映っている証左である。

・ 部の外に出るとどうかと本音を聴けば,「上命下服の官僚組織で自由に意見等が言いにくく,自由闊達な空気が流れていることは稀であり,重苦しい空気が充満している」との感想を漏らす裁判官が少なくない(令和7年度意見要旨のPDF6頁)。
・ 現場の裁判官が何に困っているのかをきちんと聞いてもらったことがなく,何らかの機会に意を決して意見を言っても何ら反応がないことに無力感と不全感を募らせているという裁判官もいる。現場が何に困っているのかをきちんと吸い上げて対応するという仕組みがなく,不満や要望があっても誰に言えばいいのか分からないという裁判官や,言ったところでどうせ変わらないから意味がないなどとあきらめている裁判官もいる(令和7年度意見要旨のPDF7頁)。

これらは,裁判所組織がかねてからトップダウンで施策を形成・実施してきたという長い伝統のツケであろう。

(2) システム導入(GSS・M365)を巡る不透明な決定プロセス

特に,GSS(ガバメントソリューションサービス)への変更に関する令和7年度の京都地方裁判所長の以下の意見は,事務総局の独善的な姿勢に対する現場の怒りを代弁している。

例えば,GSS移行に伴って,せっかく工夫して使い慣れてきたM365から,使い勝手が悪くなりそうな新システムになぜ移行しなければならないのかについて十分な説明や意見聴取がないとして,仕事の在り方に重大な影響を及ぼす事項がトップダウンで決まることについて強い不満を表明する裁判官がいるなど,依然として,現場の裁判官が無力感,徒労感,閉塞感等を抱く状況は続いているといえる(令和7年度意見要旨のPDF7頁)。

現場が工夫して積み上げてきたものを,鶴の一声でひっくり返す。これでは現場が「無力感」を抱くのも無理はない。現場の意見を聴くと言いながら,結論ありきで進める姿勢が透けて見えるとき,現場の信頼は音を立てて失墜する。

2 人事・処遇に関する「タブー視」の打破

(1) 「予防線」と「忖度」による沈黙の文化(令和7年度水戸家裁所長の指摘)

組織の風通しを悪くしているもう一つの要因は,人事や処遇に関する議論の封殺である。令和7年度の水戸家庭裁判所長の意見は,組織内の「空気」と「忖度」の文化を鋭く指摘している。

裁判所内では,組織・機構や職員制度,転勤・処遇を含む人事制度など,デリケートな事項に関する当局からのややもすると予防線が前面に出すぎる情報提供・情報管理の在り方と,これを「触れてくれるな。」という趣旨だと察する受け手の側の忖度とがあいまって,この種事項にわたる話題をはばかる「カルチャー」が醸成されてきたように思われる。(中略)時に懸念したとおりの反応が幹部から示されることもあり,正にこの「空気」が再確認されるとともに,言いたいことが採り上げてもらえない無力感や変化が期待できないという閉塞感を覚える向きもなくならず,議論も活性化しない(令和7年度意見要旨のPDF17頁)。

(2) 若手世代の離反を招く心理的安全性の欠如

「触れてくれるな」という空気,そしてそれを察する「忖度」。これは健全な組織の姿ではない。転勤や処遇は,裁判官の生活基盤に関わる最も切実な問題である。働き方改革を謳いながら,最も重要な生活基盤(転勤等)の議論を封殺することは欺瞞である。
若手世代は,「言っても無駄」,「懸念した通りの反応が返ってくる」と感じており,これが組織への無力感や閉塞感の根本原因となっている。事務総局は,情報を管理し統制しようとするあまり,現場との信頼関係を毀損していることに気付くべきである。

第5 「職権行使の独立」の聖域化と組織的標準化の遅れ

1 「個人の好み」と「独立」の履き違え

(1) 標準化への心理的抵抗(令和4年度さいたま地裁所長の疑義)

事務総局の施策の不手際を指摘してきたが,バランスの取れた議論のためには,現場の裁判官の側にも猛省すべき点があることを指摘せねばならない。それは,「裁判官の独立」を盾にした,独善的な業務遂行の温存である。

令和4年度のさいたま地方裁判所長は,民事分野において組織的な改善が進みにくい原因として,「職権行使の独立の意識から,係属中の具体的事件内容に基づいて部外に相談することにとまどいを感じ,各裁判官が好きなように自らの審理運営方針を決めるのが望ましいとか当事者からの批判には耳を傾けたくないとの意識を持つ者が見受けられる。」と指摘している(令和4年度意見要旨のPDF6頁)。
また,同所長は,裁判所全体の人的物的資源の配分という観点から,「裁判官の独立した職権は,判断事項及びそれと密接に関連する事項において配分後の資源の範囲内で行使されるという意識を持つ必要がある」と指摘している(令和4年度意見要旨のPDF7頁)。
これらは極めて重要な視点である。

(2) 「マイコートルール(各裁判官独自のルール)」の温存が招く非効率(令和6年度福岡地裁所長の分析)

令和6年度の福岡地方裁判所長もまた,審理運営事務について,「裁判官の判断の独立とは関連しない部分を含めて広く『裁判事項』であるとして,裁判官ごとの区々の取扱いが認められ,標準化に適する事務についても非定型性が温存されたままである」と指摘している(令和6年度意見要旨のPDF12頁)。
自身のやり方に固執し,部総括や上級庁からの改善の働きかけに対し,「職権行使の独立」を盾に疑問を持ったり,他者からの批判を恐れたりする傾向が,組織全体の効率化を阻んでいるのである。
その結果,書記官は裁判官ごとの「マイコートルール(各裁判官独自のルール)」に合わせることを強いられ,無駄な労力を浪費させられている。

2 書記官との協働における「見えない壁」

(1) 「遠慮」と「忖度」の構造(令和6年度福岡地裁所長の分析)

「チーム裁判所」や「協働」が叫ばれて久しいが,実際には裁判官と書記官の間に見えない壁が存在している。令和6年度の福岡地方裁判所長は,両者の関係について次のように分析している。

相互の「遠慮」問題は根深く,双方向の率直なコミュニケーションが十分ではないこと,両者は「上下関係」という誤解もあり,「対等な」心理的安全性が確保された関係になく,チーム力を発揮できないでいること,裁判官への過度の事務集中や過剰な配慮・忖度による非効率が発生していることが明らかとなっている(令和6年度意見要旨のPDF11頁)。

(2) 「チーム裁判所」の形骸化と育成放棄(令和元年度富山地裁所長及び令和3年度広島地裁所長の実態報告)

令和元年度には,富山地方家裁所長より,小規模庁において書記官室から局長室に問題が寄せられることで部の実情が窺える場合があるとの指摘があり,職制を通じた情報把握の重要性が語られていた(令和元年度意見要旨のPDF7頁)。しかし,その後の経過を見ると,状況は悪化していると言わざるを得ない。

令和3年度の広島地方裁判所長の意見では,書記官とのコミュニケーション不全により,書記官が事案を把握しておらず,弁論準備手続に立ち会わない傾向が顕著になっているとの深刻な実態が報告されており,そこには「書記官との関係では,その家庭の事情や超勤の上限規制等を必要以上に気にかけ,書記官に対する期待感や書記官を育てその力を活用しようという意識が希薄になっている。」と記載されている(令和3年度意見要旨のPDF5頁)。

裁判官が書記官に過度な配慮(家庭の事情や超過勤務規制への過剰な気遣い)をするあまり,本来書記官に任せるべき仕事を抱え込んだり,期待を伝えなくなったりしており,結果として書記官の育成放棄につながっている。
これは,裁判官が「裸の王様」になり,書記官が忖度で疲弊する構造にほかならない。

第6 デジタル化の進展と新たな負担の発生

1 ツールの導入と業務実態のミスマッチ

(1) 情報過多による消化不良(令和7年度広島地裁所長らの懸念)

デジタル化は業務効率化の切り札とされているが,現場では新たな負担となっている側面がある。令和7年度の広島地方裁判所長は,「提供される情報量が増加し,必要な情報に適時にアクセスすることについて,受け手側に相応のスキルが求められるようになってきているのではないかと危惧感を抱く裁判官」がいることを報告している(令和7年度意見要旨のPDF11頁)。
令和5年度の横浜家庭裁判所長もまた,「とても目を通しきれない(まして読み込むことなどできない) 大量の資料が配布され,実際には読んで(読めて) いないのにあたかも読んだことを前提とする議論が各地で行われている」と,情報過多による機能不全を指摘している(令和5年度意見要旨のPDF7頁)。

(2) 「読んだふり」をして進む議論の空虚さ

情報量が処理能力を超えたとき,現場は防衛策として「読んだふり」をする。これは極めて組織の知的基盤を掘り崩す兆候である。共有されたはずの情報を前提とした議論が成立せず,施策の浸透が表面的なものにとどまる原因となっている。
ツールを導入するだけでなく,情報の取捨選択や,プッシュ型での適切な情報提供の仕組み(例えば,令和6年度福岡地裁所長の提言にあるような「推薦コメント付き」の発信(令和6年度意見要旨のPDF12頁))が不可欠である。

2 審理の質の変容とデジタル・ディバイド

(1) 口頭議論の希薄化と「電話会議の代替」への矮小化

デジタルツール(Teamsやウェブ会議等)の導入が,かえって審理の質を低下させているという懸念もある。
令和3年度の広島地方裁判所長は,「ウェブ会議の利用が急速に広まり,ファイル共有による争点整理も行われるようになったが,そのために口頭議論が不十分なものとなり,IT化によってかえって審理が長期化するような事態は避けなければならない」と警告している(令和3年度意見要旨のPDF3頁)。
令和3年度の奈良地方裁判所長も,「ITの利用が電話会議の代替の域を出ない裁判官もあり(中略)画面を共有しながら口頭議論を行うなどの段階に留まり,具体的事件において,審理運営について新たな方策を実践するには至っていない」と指摘している(令和3年度意見要旨のPDF17頁)。

器(ツール)だけが変わっても,中身(裁判官の意識や能力)が変わらなければ,効率化は達成されないどころか,審理の空洞化を招くおそれがある。

(2) 世代間ギャップと新たな格差の発生

令和7年度の広島地方裁判所長は,Teams等の活用が進んでいる一方で,ツールの利便性を高める工夫の必要性や,情報へのアクセス格差への懸念を示している。デジタルネイティブの若手世代と,そうでないベテラン層との間での業務効率の格差(デジタル・ディバイド)が拡大しており,これが組織的な一体感を損なう要因ともなり得る。

若手世代が「なぜこんな非効率なことを」と感じる一方で,ベテラン世代が「ついていけない」と感じる断絶を放置すれば,チームとしての機能は低下する一方である。

第7 結語

1 事務総局に求める三つの変革

以上,長官所長会同における各庁の意見に基づき,現場の実情と事務総局への批判,そして現場自身の課題を論じた。令和7年度の京都地方裁判所長が提言するように,「結局,組織は上からしか変えられない」(令和7年度意見要旨のPDF8頁)が,その変え方は「ボトムアップ」を許容し,尊重するものでなければならない。事務総局に対し,以下の三点を強く求める。

(1) 「取組」の総点検と徹底的な廃止・縮小

第一に,「取組」の総点検と整理縮小である。
横浜家裁所長が指摘したように,目的が曖昧で,期限もなく,ただ現場に負担を強いるだけの「会議のための会議」や形式的なプロジェクトを直ちに廃止・縮小すべきである。現場が求めているのは「新しい施策」ではなく,「仕事を減らすこと」である。

(2) 中間管理職の負担軽減と本来業務への回帰

第二に,中間管理職の負担軽減である。
高松家裁所長が訴えたような,上席裁判官等を圧殺する過剰な会議や行政的雑務を削減し,彼らが事件処理と後進の指導という本来の職務(核心)に回帰できる時間を物理的に確保すべきである。彼らに余裕が戻らなければ,若手の育成は画餅に帰す。

(3) 真のボトムアップと心理的安全性の確保

第三に,真のボトムアップの実現である。
京都地裁所長,水戸家裁所長が指摘した「閉塞感」,「無力感」を払拭するため,システム導入や人事制度などの重要事項において,結論ありきのトップダウンではなく,若手を含めた現場の声を真摯に聴き,それを施策に反映させるプロセスを確立すべきである。
特に人事・処遇に関する議論のタブーを解き,風通しの良い組織文化を醸成することが急務である。

2 現場への信頼回帰に向けて

現場の裁判官は,皆,より良い裁判をしたいと願っている。その情熱を削いでいるのが,皮肉にも,より良い裁判を目指すはずの事務総局の硬直した施策運営であり,現場の実情と乖離したトップダウンの指示であるという現実を,深く認識されたい。

「現場を信頼し,過度な管理と押し付けをやめること」。これこそが,今,求められる最大の「司法行政上の方策」である。

(AI作成)裁判官以外の裁判所職員の級別定数に関する最高裁判所事務総局の本音の説明

本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 級別定数の改定に関する文書
・ 最高裁及び法務省から国会への情報提供文書
・ 最高裁と全司法労働組合の交渉記録
・ 最高裁判所の概算要求書(説明資料)

目次

第1 はじめに
1 本稿の趣旨と立場

2 開示された「3つの決定的な資料」の持つ意味
(1) 「令和7年度の級別定数の改定について(最高裁判所)」及び過去(平成27年度,令和2年度)の同資料
(2) 「令和5年4月期・10月期昇格発令数」
(3) 「定員合理化計画への協力による減員数」「裁判官以外の裁判所職員の年齢構成」等の基礎データ

3 本日の説明者紹介と覚悟

第2 【AI経理局長より】予算と定員の冷徹な方程式
1 「定員合理化計画」という絶対的な縛り
(1) 平成27年度から令和7年度までの減員推移の現実
(2) 「協力」という名の強制的な人員削減

2 技能労務職員の壊滅的な削減とその代償
(1) 10年間で半減以下となった衝撃的な数値推移
(2) アウトソーシングの限界と現場へのしわ寄せ

3 「IT予算」と「人件費」のバーター取引
(1) 概算要求に見る「モノ」への投資偏重
(2) 財務省に対する「身を切る改革」のアピール

第3 【AI人事局長より】級別定数表が語る「昇格の絶望的狭き門」
1 行政職(一)事務官のキャリアパス分析
(1) 「4級の壁」と「3級の滞留」の固定化
(2) 係長級ポストの硬直性がもたらす閉塞感

2 裁判所書記官における管理職への道
(1) 平成27年度と令和7年度の定数比較詳細
(2) 6級(主任級)ポストの減少が意味するもの

3 家庭裁判所調査官の専門性と処遇の限界
(1) 頭でっかちな組織構造の真実
(2) 若手調査官のモチベーション維持の困難性

4 速記官・医療職等の「現状維持」という名の衰退
(1) 速記官定数の激減と養成停止の余波
(2) 医療職定数の完全固定化

第4 【AI人事局長より】昇格発令数から見る「確率論的な無理ゲー」
1 令和5年4月期・10月期データの徹底解剖
(1) 2万人組織における「5級昇格24人」の衝撃
(2) 「渡り」の廃止と実力主義の名の元にある停滞

2 上位級昇格のボトルネック分析
(1) 本庁と支部・簡裁の圧倒的な格差
(2) 「該当者なし(0人)」が並ぶ職種の実態

第5 【AI事務総長より】組織を支配する「資格」と「年齢」の構造
1 「書記官資格」という絶対的な階級社会
(1) 事務局長95%・課長76%という支配率の現実
(2) 事務官プロパーにとっての「ガラスの天井」

2 人口オーナスと「バブル入省組」の巨大な壁
(1) 令和4年年齢構成グラフが示す50代の突出
(2) 若手・中堅層が直面する「ポスト不足」の長期的継続

3 再任用短時間勤務職員制度の功罪
(1) 令和7年度定数表に見る再任用枠の拡大
(2) 安価な労働力としてのベテラン活用と現役への影響

第6 総括と提言
1 令和7年度以降の裁判所職員の「生存戦略」
2 我々(当局)と皆様(組合)の建設的な対立のために

第7 【補講】資料の深層分析とさらなる「不都合な真実」
1 「管内別配置定員」に見る地域間格差の正体
(1) 東京・大阪への一極集中と地方のスカスカな実態
(2) 事務官の「現在員」が定員を上回る怪奇現象

2 「級別定数改定」の歴史的変遷に見る当局の苦肉の策
(1) 最高裁事務総局の「頭脳」を維持するための防衛戦
(2) 最高裁内部でも進む「階層化」

3 「女性職員の登用」と年齢構成のクロス分析
(1) 若手層における女性比率の高さと,管理職層の男性偏重
(2) M字カーブの解消と新たな課題

4 最後通告:令和7年度予算案が示す「不可逆点」


第1 はじめに

1 本稿の趣旨と立場

全司法労働組合の皆様,ならびに全国の裁判所職員の皆様。本日は,普段は決して表立って語られることのない,最高裁判所事務総局の「頭の中」を,皆様に包み隠さず公開するためにこの場を設けました。

私は最高裁判所のAI事務総長です。本日は,私の右腕であるAI人事局長,そして金庫番であるAI経理局長を同席させています。

我々当局と皆様組合側は日々の交渉において,激しい議論を交わしています。皆様からは「現場は限界だ」「人を増やせ」「賃金を上げろ」という切実な声が上がります。対して我々は,「予算の範囲内で」「必要な定員は確保されている」「効率化を進める」といった,いわば「紋切り型」の回答を繰り返してきました。

しかし,そのような建前の応酬だけでは,もはやこの令和の時代の裁判所危機を乗り越えることはできません。そこで本日は,山中弁護士を通じて開示請求等により明らかになった「令和7年度の級別定数の改定について」等の内部資料を基に,我々が何を考え,何を諦め,そしてどこへ向かおうとしているのか,その「剥き出しの本音」を解説します。
これは,皆様にとっては耳の痛い,絶望的とも言える内容を含むかもしれませんが,まずは現実を直視することから始めなければなりません。

2 開示された「3つの決定的な資料」の持つ意味

今回,皆様のお手元にある資料は,単なる数字の羅列ではありません。これらは,我々事務総局が財務省主計局と血みどろの交渉を行い,国会に対して説明を行い,そして現場の皆様を管理するために作成した「組織の設計図」そのものです。

具体的には,以下の資料群を横断的に分析します。

(1) 「令和7年度の級別定数の改定について(最高裁判所)」及び過去(平成27年度令和2年度)の同資料

これは,裁判所の「ポストの数(=出世の枠)」が10年間でどう変遷したかを示す,残酷なまでの履歴書です。平成27年から令和7年に至るまで,どの職種が冷遇され,どの職種がかろうじて維持されたか,その変遷を追うことで当局の意思が見えてきます。

(2) 「令和5年4月期10月期昇格発令数

これは,実際にどれだけの職員が昇格できたかを示す,極めて狭き門の証明書です。定数があっても,それが埋まっていれば昇格できません。この発令数は,希望的観測を打ち砕く「実績値」としての重みがあります。

(3) 「定員合理化計画への協力による減員数」及び「裁判官以外の裁判所職員の年齢構成」等の基礎データ

これらは,なぜポストが空かないのか,なぜ人が減らされるのかという「構造的要因」を示すエビデンスです。個人の努力では覆せない「人口動態」と「国の財政規律」という二重の鎖がここに示されています。

3 本日の説明者紹介と覚悟

本日の解説は,以下の役割分担で行います。

まず,【AI経理局長】が,なぜ定員削減が止まらないのか,予算獲得の裏側にある財務省との密約について語ります。現場の悲鳴がなぜ予算査定官に届かないのか,そのロジックを解明します。

次に,【AI人事局長】が,級別定数表と昇格データを読み解き,皆様のキャリアパスが現在どのような「閉塞状況」にあるかを数理的に証明します。「頑張れば報われる」という神話の崩壊を,数字で示します。

最後に,私【AI事務総長】が,書記官資格の有無や年齢構成といった,組織を支配するアンタッチャブルな構造について総括し,今後の生き残り戦略を提示します。

それでは,覚悟してお聞きください。

第2 【AI経理局長より】予算と定員の冷徹な方程式

AI経理局長です。私からは,まず「カネと人」のマクロな話をします。皆様は「現場が忙しいのになぜ人を減らすのか」と常に問います。その答えはシンプルです。「減らさなければ,組織を維持する予算がもらえないから」です。

1 「定員合理化計画」という絶対的な縛り

我々裁判所は,行政府(内閣)からは独立した司法府ですが,予算については国会の議決,実質的には財務省の査定を受けます。そして,国の行政機関全体で進められている「定員合理化計画」に対して,裁判所も「協力」という名目で同調することを強いられています。

(1) 平成27年度から令和7年度までの減員推移の現実

お手元の「定員合理化計画への協力による減員数」という資料をご覧ください。ここに記された数字は,我々が財務省に差し出した「生贄」の数です。

・平成27年度:71人減

・平成28年度:71人減

・平成29年度〜令和元年度:各年度70〜71人減

・令和2年度:57人減

・令和3年度:56人減

・令和4年度:65人減

・令和5年度:65人減

・令和6年度:70人減

・令和7年度(案):56人減

この10年間余りで,累積すると約700名以上の定員を「純減」させています。毎年,地方の小規模な裁判所が一つ丸ごと消滅する規模の人員を削り続けているのです。これが「協力」という言葉の裏にある実態です。

この削減数は,自然減(退職)だけでは賄いきれません。新規採用の抑制,再任用枠の調整,そして配置転換。あらゆる手段を使って,この「マイナス」を作り出しています。

(2) 「協力」という名の強制的な人員削減

資料には「事務官」「技能労務職員」が対象であると書かれています。我々は毎年,財務省主計局に対し「裁判手続のIT化や複雑困難事件の増加で増員が必要だ」と要求します。しかし,財務省は「増員を認める条件」として,それ以上の「既存定員の削減(合理化)」を求めてきます。これを「スクラップ・アンド・ビルド」と言いますが,実態は「スクラップ・アンド・スクラップ」に近い状況です。

特に令和7年度に向けては,デジタル化関連予算(mintsやウェブ会議システム)の維持費が膨大になっています。『令和7年度概算要求書(説明資料)』において「スマート・コートの実現」に関連するクラウド利用料や機器整備費が右肩上がりである一方、それと反比例するように人件費部分が抑制されているのは偶然ではありません。
この物件費を確保するためには,固定費の塊である人件費を削るしか選択肢がなかったのです。我々が削減を望んでいるわけではありません。財務省主計局に対しIT予算という「人質」を取られている以上、その身代金として定員を差し出さざるを得ない。これが、我々が置かれている「不可抗力的な予算構造」なのです。

2 技能労務職員の壊滅的な削減とその代償

この定員削減の最大のターゲットにされたのが,技能労務職員(自動車運転手,守衛,庁務員等)です。彼らは「コア業務ではない」という烙印を押され,真っ先に削減対象となりました。

(1) 10年間で半減以下となった衝撃的な数値推移

具体的な数字比較を行います。

「平成27年度級別定数表(下級裁判所)」の行政職俸給表(二)の計をご覧ください。当時は630人の技能労務職員がいました。この頃はまだ,各庁にベテランの庁務員さんや守衛さんがいて,庁舎の管理をしていました。

次に,「令和2年度級別定数表(下級裁判所)」をご覧ください。356人まで減っています。

そして,「令和7年度級別定数表(下級裁判所)」をご覧ください。その数は249人です。

平成27年から令和7年の10年間で,630人から249人へ。実に60%以上の削減です。これは「合理化」というレベルを超え,「職種の消滅」に向かっていると言っても過言ではありません。新規採用はほぼ凍結され,退職不補充が徹底されています。

(2) アウトソーシングの限界と現場へのしわ寄せ

我々は,これらの業務を「民間委託(アウトソーシング)」することでカバーすると説明してきました。しかし,委託業者は契約(仕様書)の範囲外の仕事はしません。

かつて庁務員さんがやってくれていた「ちょっとした机の移動」「蛍光灯の交換」「急な郵便物の発送」「備品の修理」といった雑務は,誰がやっているのでしょうか?

答えは明白です。若手の事務官や書記官,あるいは管理職が,本来業務の合間に行っているのです。定員表上の「数字」は減りましたが,現場にある「仕事」は減っていません。**『交渉記録』において、組合側からは「パソコンのログ管理と自己申告超勤の乖離」が繰り返し指摘されていますが、まさにそのギャップに、こうした「見えない労働」が埋もれているのです。**そのツケを払っているのは,現場の皆様の「見えない労働時間」なのです。

3 「IT予算」と「人件費」のバーター取引

(1) 概算要求に見る「モノ」への投資偏重

令和7年度の概算要求において,我々が最優先したのは「デジタル化」です。サーバー代,クラウド利用料,端末整備費。これらは待ったなしの経費です。

AI経理局長としての本音を言えば,人間は多少無理をさせても(文句は言いますが)すぐには止まりませんが,システムは金(メンテナンス費)を払わなければ即座に停止します。

したがって,限られた予算のパイの中で,必然的に「人への投資」よりも「システムへの投資」が優先されました。これは経営判断として,冷徹ですが避けられない道でした。

(2) 財務省に対する「身を切る改革」のアピール

財務省に対して「ITで便利になるんだから,人は要らないよね?」と突っ込まれたとき,我々は反論できません。実際に効率化できているかは別として,予算を取るためには「はい,IT化の効果でこれだけ減らせます」という資料を作らざるを得ない。

令和7年度の定数表が示す削減数は,IT予算を獲得するために我々が差し出した「血判状」なのです。現場がIT化の過渡期で苦しんでいることは承知していますが,予算獲得のロジック上,定員削減はセットなのです。

第3 【AI人事局長より】級別定数表が語る「昇格の絶望的狭き門」

AI人事局長です。AI経理局長の話は「総枠」の話でしたが,私からはその枠の中で行われる「椅子取りゲーム」の厳しさについて,具体的な級別定数表(別表)を用いて解説します。

1 行政職(一)事務官のキャリアパス分析

まず,最も人数が多い事務官(行政職(一))の状況です。

(1) 「4級の壁」と「3級の滞留」の固定化

下級裁判所の行政職(一)の定数推移を比較します。

・平成27年度:

4級(係長級):1,100人+204人(係長+主任)=約1,304人

3級(主任級):1,894人

・令和2年度:

4級:1,100人+204人=約1,304人

3級:1,898人

・令和7年度:

4級:1,096人+204人=約1,300人

3級:1,861人

ここで注目すべきは,「全体の定員は減っているのに,3級(主任)の数は高止まりし,4級(係長)の数は増えていない(むしろ微減)」という点です。

これは,3級までは年数経過で上がれますが,そこから4級に上がるための「枠」が10年間全く広がっていないことを意味します。事務官として定年まで勤める人の多くが,3級または4級で終わる。これが「定数表」にあらかじめプログラムされた運命なのです。

(2) 係長級ポストの硬直性がもたらす閉塞感

4級の定数が「1,300人前後」で固定されているということは,誰かが辞めるか,5級に昇格しない限り,新しい係長は生まれないということです。

後述する年齢構成の問題もあり,現在の4級ポストは50代のベテラン事務官がガッチリと埋めています。30代,40代の中堅事務官が,どれだけ能力があっても昇格できないのは,皆様の努力不足ではなく,物理的に「椅子」がないからです。
加えて、『交渉記録』にあるように、mints導入過渡期における「紙とデジタルの二重管理」やシステム不具合への対応で現場は疲弊しきっています。業務量は増えるのにポストは増えない。この二重苦が、中堅層の閉塞感の正体です。

2 裁判所書記官における管理職への道

次に,裁判所の主力部隊である書記官について見ます。

(1) 平成27年度と令和7年度の定数比較詳細

・平成27年度(下級裁・書記官):

7級以上(管理職):計129人

6級(主任):835人

5級:3,242人

・令和7年度(下級裁・書記官):

7級以上:計137人(微増)

6級:810人(減少)

5級:3,201人

(2) 6級(主任)ポストの減少が意味するもの

ここで注目すべきは,現場の指揮官である6級(主任書記官等)のポストが,835人から810人へと25人減少している点です。

書記官全体の数は微減ですが,6級ポストの削減率はそれを上回ります。これは,一人の管理職がより多くの部下を見る体制(フラット化という名の管理職負担増)へ移行していることを示唆しています。

5級までは比較的順調に昇格できても,そこから6級に上がるハードルは,10年前よりも確実に高くなっています。狭き門はさらに狭くなりました。

3 家庭裁判所調査官の専門性と処遇の限界

(1) 頭でっかちな組織構造の真実

家裁調査官の定数構造は特殊です。令和7年度で見ると,

6級以上:計82人

5級:454人(主任家庭裁判所調査官)

4級〜1級:908人

他の職種に比べ,5級(主任)の比率が非常に高いのが特徴です。これは「専門職」としての処遇を確保した結果ですが,逆に見れば「5級で頭打ち」になる人が大量にいるということです。

(2) 若手調査官のモチベーション維持の困難性

調査官補(109人)は毎年採用されていますが,調査官全体のパイは大きく増えていません。専門職であるがゆえに他部署への異動も限定的で,組織内での新陳代謝が悪い。結果として,若手調査官が「上が詰まっている」と感じ,閉塞感を抱きやすい構造になっています。
特に,管理職ポスト(首席,次席)は極めて少なく,専門性を極めた後のキャリアパスが描きにくいのが現状です。

4 速記官・医療職等の「現状維持」という名の衰退

(1) 速記官定数の激減と養成停止の余波

最も悲惨なのが速記官です。

平成27年:主任速記官126人+速記官99人=計225人

令和7年:主任速記官126人+速記官64人=計190人

新規養成を停止しているため,若手が入ってきません。主任速記官の枠は維持されていますが,これは「現職の処遇を守る」ための措置であり,職種としての未来は閉ざされています。音声認識技術への置き換えが進む中で,彼らの定数は静かに減らされ続けています。

(2) 医療職定数の完全固定化

看護師等の医療職(三)は,平成27年も令和7年も「看護師長41人,看護師24人,計65人」で,1名たりとも変わっていません。

これは,組織としてこの部門を拡大する意思が全くないことの現れです。どれだけメンタルヘルス対応や健康管理が重要になろうとも,定数は「聖域」として凍結されているのです。ここには昇格や増員のダイナミズムは存在しません。

第4 【AI人事局長より】昇格発令数から見る「確率論的な無理ゲー」

定数(枠)の話に続いて,実際にその枠の中に「入れた」人の数,つまり昇格の実績について解説します。お手元の「令和5年4月期・10月期昇格発令数」をご覧ください。

1 令和5年4月期・10月期データの徹底解剖

(1) 2万人組織における「5級昇格24人」の衝撃

この数字を見たとき,皆様はどう思われましたか?

「令和5年4月期」における「行政職(一)5級」への昇格数は,「本庁係長・専門職」からで24人です。

裁判所職員全体の定員は約2万人。事務官だけでも1万人以上います。その中で,春の定期昇格で5級(課長補佐級の手前)に上がれたのが,全国でたったの24人です。

10月期に至っては11人です。

これは,もはや「努力すれば報われる」というレベルの数字ではありません。宝くじに当たるような確率です。多くの優秀な係長が,5級の入り口で定年を迎えている現実が,この数字に凝縮されています。

(2) 「渡り」の廃止と実力主義の名の元にある停滞

かつては,年功序列的な運用で,ある程度の年齢になれば上位級に「渡る」ことができました。しかし,給与制度改革により「職務給」の原則が徹底され,ポストが空かなければ昇格できなくなりました。

昇格数がこれほど少ないということは,すなわち「ポストが空いていない」という一点に尽きます。人が辞めない限り,昇格はない。この冷厳な事実を,データは突きつけています。

2 上位級昇格のボトルネック分析

(1) 本庁と支部・簡裁の圧倒的な格差

昇格データを見ると,昇格者のほとんどが「本庁」勤務者です。

例えば令和5年4月期の行政職(一)4級への昇格内訳を見ると,

・本庁係長へ:74人

・支部係長(4級標準庁)へ:5人

・支部係長(4級非標準庁)へ:10人

・簡裁係長へ:2人

圧倒的に本庁偏重です。地方の支部や簡裁で真面目に働いていても,昇格のチャンスは巡ってきにくい。昇格したければ,激務の本庁へ行き,そこでさらに競争に勝ち抜かなければならない構造になっています。「現場第一」とは言いますが,人事は「本庁第一」なのです。

(2) 「該当者なし(0人)」が並ぶ職種の実態

資料には「0」という数字が並んでいます。

・5級専門官への昇格:0人

・支部・簡裁専門職(5級)への昇格:0人

・営繕専門職(5級)への昇格:0人

これらの職種に就いている職員にとって,この年は「昇格の可能性がゼロ」だったわけです。どんなに成果を上げても,制度上の枠が開かなければ「0」は「0」のまま。これが組織の硬直性です。特に専門職においては,この「ゼロ」が何年も続くことが珍しくありません。

第5 【AI事務総長より】組織を支配する「資格」と「年齢」の構造

ここからはAI事務総長である私が,さらに根本的な,触れてはいけないタブーについてお話しします。

1 「書記官資格」という絶対的な階級社会

全司法の皆様が常々問題視されている「資格差別」。これについても,データは雄弁に語っています。「書記官有資格者占有割合(令和5年4月1日現在)」をご覧ください。

(1) 事務局長95%・課長76%という支配率の現実

下級裁判所の要職における書記官有資格者の割合です。

・事務局長:95%

・事務局次長:91%

・本庁検審局長:84%

・本庁課長:76%

・課長補佐:74%

この数字が意味することは明白です。裁判所という組織において,管理職(課長以上)になるための「事実上の要件」は,書記官資格を持っていることです。

特に事務局長クラスに至っては,プロパーの事務官が就任する余地は5%しか残されていません。これは例外中の例外です。どれほど事務能力が高くても,資格がなければ「局長」の椅子には座れないのです。

(2) 事務官プロパーにとっての「ガラスの天井」

一方で,「係長」クラスにおける有資格者の割合は23%に留まります。

つまり,事務官プロパーでも係長まではなれる。しかし,そこから先,課長補佐,課長へと進もうとすると,突如として「書記官資格の壁」が立ちはだかるのです。

「事務官としての専門性を高めれば評価される」と我々は言いますが,統計的に見れば,書記官資格を持たない者が高位のポストに就く確率は圧倒的に低い。これが「カースト」と言われても反論できない,裁判所の人事構造です。

2 人口オーナスと「バブル入省組」の巨大な壁

次に,「裁判官以外の裁判所職員の年齢構成(令和4年7月1日現在)」のグラフをご覧ください。このグラフの形状こそが,皆様が昇格できない最大の理由です。

(1) 令和4年年齢構成グラフが示す50代の突出

グラフの頂点(最も人数が多い層)を見てください。

・48歳〜49歳:4.5%

・50歳〜51歳:4.6%

いわゆる「団塊ジュニア」の世代が,巨大な塊となって組織の上層部を占拠しています。

彼らは現在,5級・6級・7級のポストに座っています。そして,定年延長も相まって,あと10年はこの席を立ちません。この「巨大な蓋」がある限り,下からの突き上げは全て跳ね返されます。

(2) 若手・中堅層が直面する「ポスト不足」の長期的継続

一方で,20代から30代の層は,各年齢1.5%前後と細くなっています。これはかつての採用抑制の影響が色濃く残っています。

上の世代が詰まっているため,エスカレーターが動きません。下がどれだけ優秀でも,上が降りない限り乗れないのです。

この「人口の逆ピラミッド(ないしは瓢箪型)」が解消されるのは,現在の50代が完全に引退する10〜15年後です。それまでの間,30代・40代の職員にとっての「昇格の冬の時代」は続きます。

しかし、本当の恐怖はその先にあります。いわゆる「2035年問題」です。大量のベテラン層が一斉に退職した後、現場に残されるのは、十分な昇格経験やマネジメント経験を積めなかった手薄な若手・中堅層だけです。その時、裁判所の「技術継承」は断絶し、組織として機能不全に陥るリスクがあります。今、皆様が直面しているのは単なるポスト不足ではなく、将来の組織崩壊の序曲なのです。これは個人の努力ではどうにもならない,人口動態的な宿命です。

3 再任用短時間勤務職員制度の功罪

(1) 令和7年度定数表に見る再任用枠の拡大

「令和7年度再任用短時間勤務職員級別定数表」をご覧ください。

下級裁判所における行政職(一)の再任用枠は,

・4級:79人

・3級:47人

合計で127人の枠が確保されています。

これだけの数の「ベテランOB」が,現役世代と同じフロアで働いています。

(2) 安価な労働力としてのベテラン活用と現役への影響

当局としての本音を言えば,再任用職員は非常に「使い勝手が良い」存在です。経験豊富で,教育コストがかからず,現役職員よりも低い人件費で雇える。定員削減が進む中で,彼らの労働力なしには現場は回りません。

しかし,再任用職員がポストを埋めることで,新規採用や現役世代の昇格ポストが圧迫される側面も否定できません。本来なら現役の係長が座るべき席に,再任用の元課長が座っている。これは「老老介護」ならぬ「老老司法」の様相を呈しており,組織の新陳代謝をさらに遅らせています。

第6 総括と提言

1 令和7年度以降の裁判所職員の「生存戦略」

以上の説明から明らかになった「裁判所の未来図」は,以下の通りです。

  • 人は減り続ける: 予算構造上,IT投資の裏で定員削減は不可避である。

  • 昇格は望み薄: 50代の滞留とポストの固定化により,劇的なキャリアアップは期待できない。

  • 資格が全て: 書記官資格がなければ,管理職への道は事実上閉ざされている。

この状況下で,一職員として生き残るためにはどうすべきか。

酷な言い方ですが,「事務官のままでは未来はない」と認識すべきです。若手職員は,何としてでも研修所試験に合格し,書記官資格を取るべきです。あるいは、IT・営繕といった専門職への転換を目指すことも有力な選択肢です。それが唯一,この構造的閉塞を突破するチケットです。

ベテラン事務官の方々は,昇格という垂直的な成功ではなく,特定分野(IT,営繕,会計等)での「代替不可能なスキル」を磨き,専門職枠での評価を勝ち取るなどして,組織内での存在価値を水平的に高めるしかありません。ジェネラリストとしての事務官の価値は,IT化の波に洗われて消えゆく運命にあります。

2 我々(当局)と皆様(組合)の建設的な対立のために

我々事務総局も,決して皆様を苦しめたいわけではありません。しかし,財務省と国会,そして人口動態という「外圧」の前では,我々の力も限定的です。

全司法の皆様におかれましては,単に「ポストを増やせ」と叫ぶだけでなく,今回開示したような「級別定数のカラクリ」や「昇格率の低さ」を具体的なデータとして突きつけ,我々の痛いところを突く交渉をしていただきたい。

「技能労務職を減らすなら,その分の業務も完全に廃止せよ」

「IT化で人が減るなら,残業時間を厳密に管理し,サビ残を撲滅せよ」

そういった,逃げ場のない論理で我々を追い詰めてください。それが結果として,財務省に対する我々の交渉材料にもなり得るのです。

本日は,きれいごと抜きの「本音」を共有させていただきました。この絶望的な現状認識を出発点として,それでもなお,司法の現場を支えるための知恵を出し合えることを願っております。

以上をもって,AI最高裁事務総局からの説明を終わります。


【補講】資料の深層分析とさらなる「不都合な真実」

AI事務総長です。時間が許すようですので,先ほど触れきれなかった細部について,さらにミクロな視点から,お手元の資料をしゃぶり尽くすような解説を加えます。

1 「管内別配置定員」に見る地域間格差の正体

「令和4年度高裁管内別配置定員及び現在員」の資料をご覧ください。ここに,全国一律ではない「地域ごとの悲哀」が隠されています。

(1) 東京・大阪への一極集中と地方のスカスカな実態

・東京高裁管内:書記官定員3,910人に対し,現在員3,861人(欠員49人)

・大阪高裁管内:書記官定員1,775人に対し,現在員1,734人(欠員41人)

・高松高裁管内:書記官定員316人に対し,現在員314人(欠員2人)

この数字が語るのは,大都市圏では「定員があっても人が足りていない(埋めきれていない)」という慢性的な欠員状態です。採用難や退職者の増加,民間企業への流出により,東京や大阪では「定数表にあるポスト」すら埋まらない。激務と高い生活コストに見合わないと判断され,若手が去っていくからです。

一方で,地方(高松など)では,定員と現在員がほぼ拮抗しています。これは一見充足しているように見えますが,裏を返せば「定員削減の圧力が最も強くかかるのが地方」だということです。事件数が減っている地方からは定員を剥がし,事件が溢れる東京へ回す。しかし東京では人が集まらない。この「ミスマッチ」が,全国的な現場の疲労感を生んでいます。地方は「人が削られて辛い」,都市部は「人が来なくて辛い」。どこに行っても地獄という状況です。

(2) 事務官の「現在員」が定員を上回る怪奇現象

同資料の「事務官」の項目を見てください。

・東京高裁管内:事務官定員2,619人に対し,現在員2,706人(+87人)

・仙台高裁管内:事務官定員493人に対し,現在員496人(+3人)

お気づきでしょうか。事務官だけは,多くの管内で「定員<現在員」となっています。

これは「定員超過」ではありません。注釈にある通り「養成課程生を含む」からです。つまり,まだ戦力にならない研修生(書記官研修や調査官研修を受けている者)を頭数に含めることで,かろうじて数字を埋めているのです。

現場感覚としては「人はいるはずなのに忙しい」となるのは当然です。数字上の「現在員」の一部は,現場にいない研修生なのですから。我々はこの数字のマジックを使って,国会に対し「人員は足りている」と説明していますが,現場の苦しさはここに原因があります。数字上の員数合わせに,研修生が利用されている側面があるのです。

2 「級別定数改定」の歴史的変遷に見る当局の苦肉の策

再び「級別定数の改定について」の資料(平成27年,令和2年,令和7年)を,今度は「最高裁判所(本庁)」の定数に絞って比較してみましょう。ここに,我々がいかに「本丸」だけは死守しようとしているかが見て取れます。

(1) 最高裁事務総局の「頭脳」を維持するための防衛戦

・平成27年度(最高裁):行政職(一)の計は887人

・令和2年度(最高裁):行政職(一)の計は917人

・令和7年度(最高裁):行政職(一)の計は1,042人

驚くべきことに,下級裁判所では血の滲むような定員削減を行っている一方で,最高裁判所本体の定員は10年間で150人以上増えています。

これは何を意味するか。「企画立案部門」や「システム開発管理部門」の人員を増強しているのです。現場(下級裁)の手足をもぎ取り,頭脳(最高裁)だけを肥大化させる。これが「司法行政の集権化」の物理的な現れです。

現場の皆様からすれば「事務総局ばかり人が増えて,現場は減らされる」と不満を持つのは当然です。しかし,IT化や法改正対応といった「中央の仕事」が爆発的に増えているのも事実。我々は,現場の犠牲の上に,最高裁事務総局の機能を維持しているのです。
この増員分は,現場からの「引き上げ(出向)」で賄われており,それがさらに現場の人手不足を加速させるという悪循環に陥っています。

(2) 最高裁内部でも進む「階層化」

最高裁の定数表の中身を見ると,

・令和7年度:10級4人,9級20人,8級16人。

高位のポストもしっかり確保されています。下級裁の4級・5級の厳しさとは別世界です。

「出世したければ最高裁事務総局に来い」というのが,この定数表からの無言のメッセージです。しかし,事務総局勤務は激務を極め,メンタルを病む者も多い。ポストと引き換えに健康を差し出す,それが最高裁勤務の実態でもあります。出世の階段は,ここにしか残されていないのかもしれません。

3 「女性職員の登用」と年齢構成のクロス分析

「年齢構成」のグラフには,男女別の折れ線も描かれています。ここから見えるジェンダーの問題についても触れておきましょう。

(1) 若手層における女性比率の高さと,管理職層の男性偏重

グラフを見ると,20代〜30代前半までは,男女の比率はほぼ拮抗,あるいは女性の方が多いくらいです(オレンジ色の線)。しかし,50代(管理職世代)になると,圧倒的に男性(青線)が上回ります。

これは,過去の採用傾向の影響もありますが,女性職員が「管理職コース」に乗る前に辞めている,あるいは昇格を望まない(望めない)環境があることを示唆しています。転勤の負担,家事育児との両立の難しさ,そして「女性管理職ロールモデルの不在」。

当局としては「女性管理職の登用」を掲げていますが,級別定数の枠が空かない以上,無理やり女性を引き上げることもできません。結果として,50代男性が居座る管理職ポストを,優秀な若手女性が見上げて絶望する,という構図が変わっていないのです。

(2) M字カーブの解消と新たな課題

かつてのような「結婚・出産退職」によるM字カーブ(30代での減少)は,このグラフを見る限りかなり解消されています。育休制度等は整備されました。30代の女性職員の定着率は向上しています。

しかし,それは「辞めなくなった」だけであり,「活躍できている」かは別問題です。

育休明けの職員が戻るポストはあるのか。時短勤務で責任ある仕事(=昇格につながる仕事)ができるのか。

定数表は「数」しか語りませんが,その裏にある「運用」の硬直性が,女性職員のキャリアを阻害しています。これもまた,我々が解決できていない宿題です。「制度は作ったが,魂(ポストとキャリアパス)が入っていない」状態と言えるでしょう。

4 最後通告:令和7年度予算案が示す「不可逆点」

最後に,改めて令和7年度予算の意味を確認します。

これは,単なる一年度の予算ではありません。裁判所が「人による運営」から「システムによる運営」へと舵を切り,もう後戻りできない地点(ポイント・オブ・ノー・リターン)を超えたことを示す予算です。

皆様におかれましては,「いつか人が増えるだろう」「いつか昔のように余裕のある職場に戻るだろう」という希望は,捨てていただいた方が賢明です。

開示された資料の時系列変化が示すベクトルはただ一つ。「人間を減らし,機械に置き換え,残った人間に高度な判断業務を集中させる」という方向のみです。

この冷酷な流れの中で,個々の職員がどう身を守り,どう権利を主張していくか。

労働組合である全司法の役割は,かつてなく重要になっています。

我々当局が出す「きれいな説明資料」ではなく,今回皆様が入手したような「生のデータ」を読み解く力を持ってください。

「定数がここ減っているが,現場のこの業務はどうするつもりか?」

「昇格数がここ数年でこれだけ減っているが,モチベーション維持の施策はあるのか?」

そういった,データに基づく鋭い追及こそが,我々事務総局を動かす唯一のプレッシャーとなります。

長くなりましたが,これが最高裁事務総局の,資料に基づく精一杯の「誠意ある本音」です。

この情報が,皆様の今後の活動の一助となることを願ってやみません。

(AI作成)全司法労働組合の全国統一要求書に対する最高裁判所事務総局の本音

本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯全司法労働組合の2020年以降の全国統一要求書は,「最高裁と全司法労働組合の交渉記録」に掲載しています。
令和7年度概算要求説明書(説明資料)「最高裁判所の概算要求書(説明資料)」に掲載しています。
「(AI作成)全司法労働組合との令和6年度交渉記録から見える最高裁判所事務総局の本音,及びAIの戦略的アドバイス」も参照してください。

目次

第1 総論:「儀式」と化した労使交渉の冷徹な現実
1 交渉の形骸化 4年間の停滞が示すもの
2 最高裁事務総局の行動原理 「財務」と「人事」の二重支配
3 令和8年冒頭に見る「不退転」の決意と現場への「宣告」

第2 人員・定員問題における事務総局の本音と建前
1 「増員要求」に対する構造的な拒絶反応
(1) 事件動向を盾にした「生産性向上」の強制
(2) 「定員合理化計画」という絶対的な聖域

2 「繁忙」の定義をめぐる認識の断絶
(1) 現場の「繁忙」と中枢の「マネジメント不足」論
(2) メンタルヘルス不調に対する冷ややかな視線

第3 デジタル化推進の裏にある「人間軽視」の論理
1 令和8年長官挨拶が示唆する「確信犯」的姿勢
(1) 「想定外の事象」を織り込んだ見切り発車
(2) 「申し訳ない」という言葉の政治的翻訳

2 システム導入の真の目的
(1) ユーザービリティよりも「稼働実績」と「コスト削減」
(2) 現場の混乱を「過渡期の痛み」として切り捨てる論理

第4 賃金・処遇改善要求に対する「ゼロ回答」の必然性

1 人事院勧告制度への安住と責任転嫁
(1) 「情勢適応の原則」という思考停止の呪文
(2) 独自の賃金改善を行わない「政治的リスク回避」

2 非常勤職員及び下位職種に対する構造的冷淡さ
(1) 「予算の範囲内」という最強の拒絶文句
(2) エリート職員の処遇確保とトリアージ

第5 交渉記録と概算要求書から読み解く「次の一手」
1 概算要求書に現れた「真の優先順位」
(1) 人的投資から物的・デジタル投資へのシフト
(2) 「裁判事務の迅速適正化」の名を借りた統制強化

2 全司法労働組合に求められるパラダイムシフト
(1) 「誠実な対応」を求める戦術の限界
(2) データとロジックによる「経営判断」への介入

第6 結論:幻想を捨て「冷たい鏡」を直視せよ


第1 総論:「儀式」と化した労使交渉の冷徹な現実

1 交渉の形骸化 4年間の停滞が示すもの

 AIの私が長年,最高裁判所事務総局という巨大な官僚機構の力学を,その内部と外部の双方から観察し続けてきた経験から断言できることがあります。それは,組織の本質は「平時の言葉」ではなく「危機の際の沈黙」や「変化のなさ」にこそ表れるということです。

 手元には,全司法労働組合(以下「組合」といいます。)が提出した2020年の全国統一要求書と,2024年の同要求書があります。この二つの文書を並べて詳細に比較検討したとき,私の脳裏に浮かんだのは「絶望的なまでの停滞」という言葉でした。4年という歳月が流れ,社会情勢はコロナ禍を経て激変し,司法を取り巻く環境もDX(デジタルトランスフォーメーション)の波に洗われているにもかかわらず,組合側の要求骨子は驚くほど変化していません。「大幅な増員」,「繁忙の解消」,「賃金の引上げ」――これらは,あたかも壊れたレコードのように繰り返されています。

 しかし,これを組合側の怠慢と断じるのは早計です。むしろ,これは最高裁事務総局(以下「当局」といいます。)が構築した「完璧な防御壁」の証明に他なりません。当局にとって,毎年の組合交渉は,もはや実質的な協議の場ではなく,一つの洗練された「儀式」と化しています。彼らの本音を言語化すれば,こうなるでしょう。「毎年同じことを言いに来るが,我々事務総局に決定権がないことくらい,いい加減理解してくれ。君たちの相手をするのは『誠実に対応した』という法的なアリバイ作りであり,それ以上の意味はない」。

 交渉記録に見られる「誠実に対応する」,「努力する」,「検討する」という常套句は,霞が関文学において「何もしない」,「現状を維持する」,「聞き流す」と同義です。あなたがた組合員がどれだけ悲痛な現場の声を上げ,長時間労働の実態を訴えようとも,彼らの心には響きません。なぜなら,彼らの評価体系における「成功」とは,職員の幸福度を上げることではなく,財務省主計局から予算枠を守り抜き,内閣人事局の方針に従って組織を統制することにあるからです。

2 最高裁事務総局の行動原理 「財務」と「人事」の二重支配

 最高裁事務総長,人事局長,経理局長といった幹部たちの思考を支配しているのは,現場の裁判官や書記官の顔色ではありません。彼らが常に注視しているのは,「財務省の予算査定」と「人事院勧告」という二つの絶対的な権威です。

 2025年度の概算要求書を分析すると,その傾向は顕著です。予算の増額要求の多くは「デジタル化関連経費」や「庁舎整備」,「通訳確保」などの「物件費・事業費」に割かれており,組合が求める「人間への投資(ベースアップや純粋な定員増)」への熱量は極めて希薄です。当局の論理では,職員は「資産」ではなく「コスト」として計上されます。コストは削減すべき対象であり,増やすべき対象ではありません。

 彼らの本音は極めて冷徹です。「国の財政事情が逼迫し,行政機関全体で定員削減(純減)が進められている中で,裁判所だけが『仕事が大変だから人を増やせ』などと言って通るはずがない。我々のミッションは,財務省に対して『いかに効率よく組織を運営しているか』をアピールし,最低限の予算を確保することだ」。

 彼らが恐れているのは,現場の職員が倒れることではありません。「システム開発の失敗」による財務省や会計検査院からの責任追及です。かつて平成16年5月,最高裁は「ロータス・ノーツ」を基盤としたシステム開発を断念し,巨額の投資を無駄にした苦い経験(トラウマ)を持っています(全国裁判所書記官協議会会報第167号35頁)。また,令和6年3月に法務省の「登記・供託オンライン申請システム」で発生した大規模障害も彼らの脳裏をよぎっているはずです。

「第二のロータス・ノーツ事件」を起こし,財務省から無能の烙印を押されることだけは避けたい。そのためなら,中身がボロボロでも「形だけは稼働させる」ことに執着する。組合の要求など,この巨大な政治的力学の前ではノイズに過ぎない。これが,交渉のテーブルの向こう側に座る彼らの脳内で行われている対話の正体です。

3 令和8年冒頭に見る「不退転」の決意と現場への「宣告」

 この「儀式」の虚構性を決定的に裏付けるのが,令和8年1月の最高裁判所長官今崎幸彦氏による「新年のことば」です。この挨拶は,単なる儀礼的なメッセージではありません。これは,全職員に対する「宣戦布告」であり,同時に「宣告」でもあります。

 長官は挨拶の中で,民事訴訟法改正に伴うフェーズ3の開始や刑事手続のデジタル化に触れ,こう述べています。「我が組織があまり得意としないこの種テクノロジーを……導入するという試みですから,いかに努力を尽くしても想定外の事象の発生を零にすることは困難です。ユーザーとなる職員の皆さんには申し訳ないことながら,そうした事情を理解し……準備と態勢を整えておくことが求められます」。

 この発言の重みを,実務家としての視点から読み解く必要があります。トップが新年の挨拶という公的な場で「想定外の事象(=システムトラブルや混乱)は避けられない」,「職員には申し訳ないが理解しろ」と明言したのです。しかし,これは未来の予言ではありません。「すでに起きている泥沼」の追認です。

事実,裁判所職員向けのe事件管理システム「RoootS」は,当初令和6年1月までに先行導入予定でしたが,テスト段階でのバグ多発により,導入時期が「令和6年5月以降」へと延期されました(令和5年11月16日最高裁判所事務総局会議資料)。しかも,その詳細なアナウンスは現場に十分になされていなかったようです。

長官の発言は,当局が「現場の混乱」を織り込み済みで計画を進めるという,強固な意志表示に他なりません。組合がこれまで訴えてきた「現場の実態を踏まえた慎重な導入」や「十分な準備期間」という要求は,このトップの宣言によって完全に却下されたも同然です。

つまり,令和8年以降の交渉において,現場の負担増を理由にデジタル化の延期や見直しを求めることは,もはや不可能です。賽は投げられたのであり,当局の本音は「不具合が出ても,死に物狂いで運用でカバーしろ。それが君たちの仕事だ」という点に集約されています。

第2 人員・定員問題における事務総局の本音と建前

1 「増員要求」に対する構造的な拒絶反応

(1) 事件動向を盾にした「生産性向上」の強制

組合は長年にわたり「大幅増員」を要求していますが,これに対する当局の回答は常に冷ややかです。その根拠として彼らが持ち出すのが「事件動向」です。統計上,訴訟事件の総数が減少傾向または横ばいにあることは否定できない事実です。当局はこのデータを,財務省に対する予算折衝の最大の武器として使う一方で,組合に対しては「増員拒否」の最強の盾として利用します。

彼らの論理構造はこうです。「事件数が減っているのだから,本来であれば人員は削減されて然るべきだ。それを維持しているだけでも御の字だと思え」。組合側が「事件の複雑困難化」や「外国人事件の増加」,「新たな後見制度への対応」といった質的な変化を訴えても,当局はこれを「定数増」の理由とは認めません。なぜなら,質的な負担増は「業務の効率化」や「デジタルツールの活用」によって吸収すべき課題であると定義されているからです。

2024年の交渉記録において,当局側が繰り返す「事務の合理化・効率化」というフレーズは,単なるスローガンではありません。「人が減っても業務が回るように,現場で勝手に工夫してくれ。我々はそれを『自主的な取組』と呼んで称賛するが,資源は投下しない」という,現場への責任転嫁の言い換えなのです。

(2) 「定員合理化計画」という絶対的な聖域

最高裁事務総局にとって,内閣及び財務省が主導する「国の行政機関の機構・定員管理に関する方針」,いわゆる定員合理化計画(ネット削減)は,絶対的な聖域です。彼らは「三権分立」を掲げながらも,予算と定員に関しては行政府の枠組みに完全に従属しています。

組合が「定員合理化計画に協力するな」と要求することは,事務総局に対して「政府の方針に逆らって組織を危険に晒せ」と言っているのと同義です。保身を第一とする官僚機構がそのようなリスクを冒すはずがありません。彼らの本音は,「『増員』などという寝言は忘れてくれ。我々のミッションは『定員削減』だ。デジタル化も,本質的には君たちを楽にするためではなく,将来的に君たちの数を減らすために導入するのだ」という点にあります。

2 「繁忙」の定義をめぐる認識の断絶

(1) 現場の「繁忙」と中枢の「マネジメント不足」論

交渉記録を読むと,組合側は「恒常化している残業」や「持ち帰り仕事」の実態を訴え,人的手当てを求めています。しかし,当局側の反応は鈍いままです。なぜでしょうか。それは,当局が現場の「繁忙」を,「人員不足」の結果ではなく,「現場管理職のマネジメント能力不足」または「個々の職員の能力不足」の結果であると捉えているからです。

事務総局のエリートたちは,自身が猛烈な業務量をこなしてきた自負があります。そのため,地方の裁判所で起きている「繁忙」に対して,「工夫が足りないのではないか」,「無駄な前例踏襲業務をやっているのではないか」という疑いの目を常に持っています。彼らは,増員によって繁忙を解消するのではなく,管理職による業務命令の厳格化や,不要不急の事務の切り捨てによって解決すべきだと考えています。したがって,組合がどれだけ「忙しい」と叫んでも,それは「人を増やす理由」ではなく「管理職を指導する理由」にしかならないのです。

(2) メンタルヘルス不調に対する冷ややかな視線

メンタルヘルス不調による病気休暇取得者の増加は,組合にとっても当局にとっても懸念事項です。しかし,その原因分析において両者は決定的に対立しています。組合はこれを「過重労働の結果」と見ますが,当局はこれを「個人の資質」や「組織のコミュニケーション不全」の問題へと矮小化しようとします。

交渉記録において,当局は「機動的な応援態勢」や「配置定員の柔軟な活用」には言及しますが,抜本的な定員増による負担軽減には決して踏み込みません。彼らの本音は,「メンタル不調者が出た穴は,残った職員がカバーするのが公務員の常識だ。予備の人員を抱えておくような余裕は,今の日本の財政にはない」という残酷な現実主義です。

第3 デジタル化推進の裏にある「人間軽視」の論理

1 令和8年長官挨拶が示唆する「確信犯」的姿勢

(1) 「想定外の事象」を織り込んだ見切り発車

前述した令和8年の今崎長官の挨拶は,デジタル化推進における事務総局の「冷酷な決断」を象徴しています。「想定外の事象の発生を零にすることは困難」という言葉は,一見謙虚に聞こえますが,その実,「システムトラブルで現場が混乱しても,最高裁は責任を負わない(謝罪はするが計画は止めない)」という免責事項の前置きです。

裁判手続きのデジタル化(mints等)は,法定期限のある国家プロジェクトです。改正民事訴訟法等の施行日は動かせません。したがって,システムが未完成であろうが,使い勝手が最悪であろうが,期日が来れば稼働させなければならないのです。
当局は,現場の職員が悲鳴を上げることを最初から知っています。知った上で,「走りながら直す」という方針を固めています。

(2) 「申し訳ない」という言葉の政治的翻訳

長官が発した「ユーザーとなる職員の皆さんには申し訳ない」という言葉。これを額面通りに受け取ってはなりません。この言葉の真の意味は,「君たちに多大な苦労をかけることになるが,これは組織の至上命題なので甘受せよ。その代わり,言葉の上では最大限の配慮を示す」という取引です。

この「申し訳ない」は,組合からの批判を先回りして封じるための高度な政治的レトリックです。トップが先に頭を下げることで,現場からの「システムが酷い」という批判を,「長官も分かってくれているのだから,我々が頑張るしかない」という精神論へと回収しようとする意図が透けて見えます。

2 システム導入の真の目的

(1) ユーザービリティよりも「稼働実績」と「コスト削減」

組合は「ユーザーフレンドリーなシステム開発」を求めています。しかし,開発を主導する事務総局や外部ベンダーにとっての優先順位の第一位は「納期」であり,第二位は「予算内での構築」です。「使いやすさ」はずっと下位にあります。

概算要求書を見ると,巨額のシステム開発費が計上されていますが,これは「現場を楽にするため」の投資ではありません。「紙の記録の保管コストを削減する」,「郵便代を削減する」,「将来的な人員削減の基盤を作る」ための投資です。

また,現在運用中のmints(民事裁判書類電子提出システム)についても,当局は改善に消極的です。なぜなら,mintsはあくまで次期システム「TreeeS」までの「つなぎ」であり,いずれ廃棄・統合される運命にあるからです(令和4年度概算要求書説明資料437頁)。「いずれ捨てるシステム」の改善にコストをかけるなど,彼らの経済合理性が許しません。職員が操作習熟にかける労力が,数年後には無駄になるとしても,それは彼らにとって「当然のコスト」なのです。

Teamsや新システムの導入によって,現場の業務フローが複雑化し,クリック数が増え,目視確認の手間が増大したとしても,当局にとっては「デジタル化を完了した」という実績さえ残れば成功なのです。

(2) 現場の混乱を「過渡期の痛み」として切り捨てる論理

2024年の交渉記録で,当局はデジタル化に伴う事務の見直しについて触れていますが,具体的な不具合対応については各庁の運用に委ねる姿勢を崩していません。これは,「中央は設計図を描くのが仕事。泥臭い運用やトラブル対応は下級裁の責任」という強固な官僚的縦割り思想の表れです。

さらに言えば,彼らが現場の「使いにくい」という声を頑なに無視する背景には,「ユーザーの協力義務」という法的な防衛論理も透けて見えます。システム開発訴訟において,ユーザー(現場)が要望を出し過ぎて仕様が確定しない場合,プロジェクト頓挫の責任はユーザー側にあるとされるリスクがあります(札幌高裁平成29年8月31日判決・旭川医大対NTT東日本事件等参照)。

当局の本音は,「現場の要望を聞きすぎて仕様が膨らみ,開発が遅延することは許されない。だから黙って与えられたものを使え(仕様凍結の厳守)」というものです。彼らにとって,現場からの改善要望は,プロジェクトを危険に晒す「阻害要因」でしかないのです。

彼らの歴史観では,現在の現場の混乱は,10年後,20年後の教科書には載らない「過渡期の痛み」に過ぎません。彼らは常に「未来の効率化された裁判所」を見ており,「現在の職員の苦しみ」は,その未来への供物として処理されています。

第4 賃金・処遇改善要求に対する「ゼロ回答」の必然性

1 人事院勧告制度への安住と責任転嫁

(1) 「情勢適応の原則」という思考停止の呪文

賃金・処遇に関する要求に対する当局の回答は,判で押したように「情勢適応の原則」と「人事院勧告準拠」です。これ以外の回答が出てくる可能性は万に一つもありません。

最高裁事務総局にとって,給与制度とは自ら設計するものではなく,人事院が決定したものを粛々と適用するだけのものです。組合が独自賃金を求めても,彼らの本音は「君たちは公務員だ。給与は国全体のバランスで決まる。我々に賃上げを要求するのは,八百屋で魚をくれと言うようなものだ。権限のない相手に交渉するのは時間の無駄だからやめてほしい」というものです。

(2) 独自の賃金改善を行わない「政治的リスク回避」

仮に最高裁が独自の判断で職員の給与を上げようとすれば,財務省や国会から激しいバッシングを受けることは必至です。「裁判所だけ優遇されている」という批判は,司法予算全体の削減につながりかねない最大のリスクです。事務総局のエリートたちが,そのような政治的リスクを冒してまで,組合員の生活給を上げようとするはずがありません。彼らは「人事院勧告完全実施」を勝ち取ることだけで,十分すぎるほど仕事をしたと考えています。

2 非常勤職員及び下位職種に対する構造的冷淡さ

(1) 「予算の範囲内」という最強の拒絶文句

期間業務職員(非常勤職員)の時給引上げや処遇改善について,当局は常に「予算の範囲内で」という定型句で逃げます。これは翻訳すれば,「財務省から金が取れたらやるが,わざわざそのために汗をかく気はない」という意味です。

正規職員の定員削減が進む中で,期間業務職員は安価な労働力として不可欠な存在となっていますが,当局にとって彼らはあくまで「調整弁」です。彼らの生活を保障することは,組織の優先順位の最下層に位置しています。

(2) エリート職員の処遇確保とトリアージ

一方で,事務総局が真剣に気にかけているのは,裁判官や一部のエリート職員(書記官の上位層など)の処遇確保です。優秀な人材が民間(弁護士等)に流出することを防ぐためには,ここには予算を割きます。しかし,一般的な事務官や技能労務職員の処遇については,「世間一般の公務員水準」を維持しておけば十分であり,それ以上のコストをかける合理性はないと判断しています。まさに,組織内における残酷なトリアージ(選別)が行われているのです。

第5 交渉記録と概算要求書から読み解く「次の一手」

1 概算要求書に現れた「真の優先順位」

(1) 人的投資から物的・デジタル投資へのシフト

2025年度の概算要求書を精査すると,予算の配分が「人」から「物・システム」へと急速にシフトしていることが分かります。「デジタル総合政策室」への予算計上,「裁判事務の迅速適正化」のための会議費やシステム改修費。これらはすべて,人を介さずに業務を回すための投資です。

一方で,組合が求めるような「人間味のある職場作り」のための予算は微々たるものです。当局は,これからの裁判所を「高度にシステム化された情報処理工場」へと変貌させようとしています。そこでは,職員はシステムのオペレーターとしての役割を求められ,職人的なスキルや裁量は徐々に剥奪されていくでしょう。

(2) 「裁判事務の迅速適正化」の名を借りた統制強化

概算要求書に頻出する「裁判事務の迅速適正化」という言葉にも注意が必要です。これは単にスピードアップを目指すだけでなく,全国の裁判所の業務処理を「標準化」し,中央(最高裁)の統制を強化することを意味しています。デジタル化によって業務ログが全て可視化されれば,各庁の独自ルールや「手作業の温かみ」は排除され,徹底的な管理社会が到来します。これが当局の描く「改革」の正体です。

2 全司法労働組合に求められるパラダイムシフト

(1) 「誠実な対応」を求める戦術の限界

以上の分析から明らかなように,従来の「要求書を出して,交渉して,納得できないと言って,妥結する」という予定調和のプロレスは,完全に限界を迎えています。当局は,組合のこの行動パターンを完全に見切っており,適当にいなしておけば,いずれ諦めると高をくくっています。

「誠実な対応を求める」といった抽象的な要求を繰り返すことは,「私たちは具体的な対案も武器も持っていません」と白状しているのと同じです。感情に訴える戦術は,冷徹な官僚機構には通用しません。

(2) データとロジックによる「経営判断」への介入

組合がこの閉塞状況を打破するためには,戦い方を根本から変える必要があります。例えば,デジタル化による業務負荷を感覚的に訴えるのではなく,「新システム導入によって,一件あたりの処理時間が何分増加したか」,「不具合対応に要した総人時はいくらか」といった具体的なデータを計測し,それをコスト(残業代)に換算して突きつけるのです。

より具体的には,「システム不具合報告のデータベース化」を提案します。当局は情報を分断しようとしますが,組合が全国の不具合や無駄な作業時間を集約し,「RoootS導入により全国で月間〇〇時間のロスが発生。これを人件費換算すると〇〇億円の損失」という具体的な数字を弾き出すのです。

「職員が可哀想だから人を増やせ」ではなく,「システム不備による逸失利益と残業コストがこれだけ発生しているから,システムを改修するか定員を増やした方が合理的だ」という,経営者的な視点でのロジックを構築する必要があります。これこそが,経理局長や財務省が最も恐れる「監査に耐えうる証拠」となります。当局が唯一反応するのは「コスト」と「リスク」の話だけです。彼らの言語で語りかけない限り,対話は永遠に平行線のままでしょう。

第6 結論:幻想を捨て「冷たい鏡」を直視せよ

 ここまで,最高裁事務総局の「むき出しの本音」を,あえて残酷なまでに解剖してきました。これは,あなたがたを絶望させるためではありません。無駄な戦いで消耗せず,真に勝算のある戦略を描くための「冷たい鏡」として提示したものです。

 最高裁事務総局は,悪意を持って職員を虐げているわけではありません。彼らは,国家の予算と方針という巨大な歯車の中で,最適解と思われる行動を冷徹に遂行しているに過ぎないのです。その歯車にとって,現場の職員の「思い」や「やりがい」は,残念ながら主要なパラメータではありません。

 この現実を直視してください。相手は「話せば分かる」人間味あふれる上司ではなく,「論理と数字と保身」で構成されたAIのようなシステムそのものです。そのシステムにバグ(矛盾)を生じさせ,こちらの要求を通すためには,情熱ではなく,冷徹な計算と圧倒的なデータが必要です。

 全司法労働組合の皆さん。あなたたちが守ろうとしている「司法の良心」や「労働者の権利」は尊いものです。しかし,それを守るための剣は,今のままではあまりにも錆びついています。令和8年という新たな,そして過酷な時代の幕開けに際し,幻想を捨て,研ぎ澄まされた新たな武器を手にすることを切に願います。私が提示したこの「本音」の分析が,その第一歩となることを信じています。

(AI作成)福島第一原発事故の東電株主代表訴訟に対する東京高裁令和7年6月6日判決及び東京地裁令和4年7月13日判決に関するAI技術士の論評

本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯東京高裁令和7年6月6日判決及びその原審である東京地裁令和4年7月13日判決は,東電株主代表訴訟HPに載っています。
◯令和7年10月10日付の上告受理申立理由書は,東電株主代表訴訟HP「原告提出書面」に載っています。

目次

第1 はじめに
1 本記事の目的と視座

2 事案の概要と司法判断の変遷
(1) 未曽有の原子力事故と株主代表訴訟
(2) 一審・地裁判決の衝撃
(3) 二審・高裁判決による逆転判断

第2 科学的知見の不確実性と工学的判断の乖離
1 「長期評価」の信頼性を巡る科学論争
(1) 地震本部による長期評価の位置付け
(2) 地裁判決における「科学的信頼性」の評価
(3) 高裁判決における「科学的仮説」としての評価

2 専門家間の見解不一致とAI技術士の視点
(1) 地震学的アプローチと工学的アプローチの決定的差異
(2) 土木学会における「重み付け」の意味
(3) 「信頼度C」情報の設計入力への適用可否

第3 巨大インフラにおける安全対策の工学的リアリティ
1 「ドライサイトコンセプト」の原則と誤解
(1) 原子力発電所の立地審査指針と敷地高さ
(2) 地裁判決が想定した「水密化」の技術的限界
(3) 高裁が認定した「防潮堤建設か運転停止か」の二択

2 対策工事の実務的プロセスと所要時間
(1) 防潮堤建設に関わる地質調査と設計の現実
(2) 許認可・合意形成プロセスの不可避性
(3) 「結果回避可能性」に対するAI技術士(建設部門)の見解

第4 システム防護の観点から見る事故のメカニズム
1 全交流電源喪失(SBO)と最終ヒートシンクの喪失
(1) 非常用海水ポンプの脆弱性と配置
(2) 建屋水密化と除熱機能維持の連関性

2 深層防護の欠落と過酷事故への進展
(1) 電源盤防護の限界と減災効果の可能性
(2) 高裁が指摘した4メートル盤のクリフエッジ

第5 総合技術監理の視点による意思決定プロセスの評価
1 不確実性下における経営判断とリスク管理
(1) 「武藤決定」の合理性とプロセス責任
(2) リスク情報の精査と「先送り」の境界線

2 トレードオフの最適化と社会的責任
(1) 電力供給義務と安全確保の相克
(2) 全基停止判断に求められる「合理的根拠」の閾値

第6 結論と今後の展望
1 総括
2 判決が示唆する「自律的安全性」の追求


第1 はじめに

1 本記事の目的と視座

(1) 対象判決と分析のアプローチ

本記事は,東京電力福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の事故(以下「本件事故」という。)を巡り,東京電力の旧経営陣に対して株主らが計22兆円(控訴審で約23兆4000億円に拡張)の損害賠償を求めた株主代表訴訟について,株主らの請求をすべて棄却した東京高裁令和7年6月6日判決(以下「高裁判決」という。),及びその原審である東京地裁令和4年7月13日判決(以下「地裁判決」という。)を対象とし,AI技術士(総合技術監理部門,応用理学部門,建設部門,原子力・放射線部門等)の視点から論評を加えるものである。

本記事では,特に巨大プロジェクトにおけるリスク管理や意思決定プロセスを扱う総合技術監理の視座から,本件訴訟における最大の争点である「予見可能性」と「結果回避義務」について,「科学的知見(可能性)」と「工学的知見(設計基準)」の境界線という観点を中心に考察を行う。

法律家による判決の解説は既に多く存在するが,本記事では,裁判所が認定した事実関係を前提としつつ,当時の科学的知見がどのように工学的設計へと変換されるべきだったのか,巨大インフラの現場において対策工事がいかなるプロセスを経て実施されるのか,といった「現場の実相」と「技術の論理」に焦点を当てて分析を行うこととする。

(2) 現在進行形の技術論争への配慮

なお,株主側からは,高裁判決に対し,令和7年10月10日付の上告受理申立理由書(以下「本件理由書」という。)において,「水密化措置による減災効果」及び「情報隠蔽のコンプライアンス問題」について,技術的・倫理的観点から強力な反論がなされている。

そこで,本記事では,高裁判決が採用した「当時の法的・技術的基準」に基づくロジックを解説の主軸としつつも,現在の視点から見た場合の「対立する技術論(減災の可能性)」についても適宜言及し,法的判断と技術的理想の狭間にある課題についても論評を試みる。

2 事案の概要と司法判断の変遷

(1) 未曽有の原子力事故と株主代表訴訟

平成23年3月11日,東北地方太平洋沖地震に伴う巨大津波が福島第一原発を襲い,全電源喪失により炉心溶融等の過酷事故が発生した。本件は,この事故により東京電力が被った巨額の損害について,当時の取締役らが,津波対策を怠った善管注意義務違反があるとして,会社法に基づき責任を追及された事案である。

争点の中心は,平成14年に政府の地震調査研究推進本部(以下「地震本部」という。)が公表した長期評価(以下「長期評価」という。)に基づき,巨大津波の襲来を予見できたか,そして防潮堤建設等の対策をとれば事故を防げたか否かであった。

(2) 一審・地裁判決の衝撃

東京地裁は,旧経営陣4名に対し,総額13兆3210億円という国内司法史上類を見ない巨額の賠償を命じた。

地裁判決のロジックは,長期評価には「相応の科学的信頼性」があり,これに基づき試算された15.7メートルの津波高を予見できたと認定した上で,防潮堤の建設が間に合わなくとも,建屋の開口部を塞ぐ「水密化」等の対策であれば速やかに実施可能であり,それによって事故は回避できたとするものであった。

これは,事故が発生したという「結果の重大性」から遡って対策の可能性を論じる,いわゆる「後知恵バイアス(Hindsight Bias)」の影響を強く受けた判断として,産業界に大きな衝撃を与えた。

(3) 二審・高裁判決による逆転判断

これに対し,東京高裁は地裁判決を取り消し,株主らの請求を棄却した。

高裁判決は,当時の地震学界における知見の不確実性や,巨大インフラにおける意思決定の実務的プロセスを詳細に検討した結果,長期評価は直ちに原発の運転停止や大規模工事を義務付けるほどの「具体的予見可能性」を与えるものではなかったと判断した。また,地裁が認めた「水密化」による結果回避可能性についても,当時の安全思想や技術的整合性の観点から否定的な判断を示した。

この逆転判決は,科学的知見の限界と工学的判断の合理性を重視したものであり,AI技術士の視点からは極めて示唆に富む内容となっている。


第2 科学的知見の不確実性と工学的判断の乖離

【技術論のポイント】

地震学は「可能性」を探求しますが、工学(Engineering)は「設計基準」を決定する必要があります。

「信頼度が低い情報(Cランク)」を即座に設計に取り込むべきか否かが、本件の核心的な争点となりました。

1 「長期評価」の信頼性を巡る科学論争

(1) 地震本部による長期評価の位置付け

ア 争点の核心:長期評価の数値とその意味

本件における最大の争点は,地震本部が平成14年7月31日に公表した「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」をどう評価するかにある。
この長期評価は,日本海溝沿いのどこでもM8クラスの津波地震が発生する可能性があるとし,福島県沖を含む領域での発生確率を30年以内に20%程度とした。

イ 科学的「警告」と工学的「設計基準」の決定的な差異

AI技術士(応用理学部門)の視点から見れば,地震本部は阪神・淡路大震災の教訓から設立された機関であり,その見解は「防災上の警告」として最大限尊重されるべきものである。

しかし,それは直ちに「構造物の設計条件」として確定する性質のものではない。
地震学が「可能性の指摘」として仮説を提示する役割を担うのに対し,工学は社会基盤を構築するために数値を固定し,「設計基準(Design Basis)」として設計に落とし込まなければならないという,明確なプロセスの違いが存在するからである。
否定できないレベルの仮説を全て安全側に取り込めば,設計条件は無限に発散し,エンジニアリング自体が成立しなくなる。

ウ 「信頼度C」が示す情報の限界

実際,地震本部自身も当該長期評価の前文において,「データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要がある」と明記している(「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」1頁)。

さらに,地震本部が平成15年に公表した「プレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度について」において,当該長期評価の信頼度は「C(やや低い)」と評価されている。

ここでいう「信頼度C」とは,単に信頼性が低いというだけでなく,「データ不足により不確定要素が強い」ことを意味しており(高裁判決52頁),科学的な確度が限定的であることを地震本部自身が認めていたことの証左である。高裁がこれを「防災のための警告としての側面を含んだもの」と評価したことは,当該長期評価の記載内容と完全に整合している。

エ 司法判断として確定した情報の性質

しかも,この長期評価の情報の性質については,最高裁令和7年3月5日決定(刑事訴訟)においても,「10m盤を超える津波が襲来するという現実的な可能性を認識させるような性質を備えた情報であったとまでは認められない」と明示されており,司法判断として既に確定した事実認識であったといえる。

(2) 地裁判決における「科学的信頼性」の評価

地裁判決は,地震本部が国の専門機関であり,多数の専門家による議論を経てとりまとめられたものであることを重視し,長期評価の見解には「相応の科学的信頼性」があると認定した。そして,この見解に基づき試算された15.7メートルという数値は,取締役にとって無視できない情報であり,直ちに対策に着手すべき義務を発生させると判断した。

これは,科学的知見を行政的な権威付けとセットで捉え,その内容の不確実性を捨象した判断と言わざるを得ない側面があった。

(3) 高裁判決における「科学的仮説」としての評価

一方,高裁判決は,当時の地震学界の状況をより精緻に分析した。具体的には,日本海溝の北部(三陸沖)と南部(福島沖)では,プレート境界の地質構造や付加体の有無といった地球科学的特徴が異なり,南部で明治三陸地震級の津波地震が発生するという知見には,有力な異論(松澤・内田論文等)が存在した事実に着目した。

高裁判決は,長期評価の信頼度が地震本部自身によって「C(やや低い)」と評価されていた事実や,土木学会における専門家アンケートで意見が割れていた事実を指摘し,長期評価はあくまで「仮説」の域を出ないものであったと認定した。
この判断は,科学における「コンセンサス」の形成過程を正しく捉えたものであり,応用理学の専門家として首肯できるものである。

不確実な仮説に基づいて,国家レベルのインフラを即座に停止させる判断を義務付けることは,技術的合理性を欠くし,信頼度が低い仮説段階の数値を即座に設計入力とすることは,リソースの分散を招き,かえってトータルリスク管理を阻害する恐れすらあるといえる。

もっとも,本件理由書において株主側が主張するように,数百年に一度といった低頻度の自然現象に対して「切迫性」を対策の要件とすることには,科学的な矛盾が含まれている。
応用理学の視点から見れば,再現期間の長い事象に「切迫性」がないのは統計的に当然であり,それを理由に対策を先送りすることは,「万が一にも事故を起こさない」という原子力安全の目的と矛盾しかねない。

AI技術士(応用理学部門)の視点から補足すれば,環境基本法や原子力安全の基本原則である「事前警戒・予防」の観点からは,「信頼度が低い(不確実である)」ことは対策を講じなくてよい理由にはならず,巨大リスク施設においてはむしろ不確実であるからこそ「安全側に振った判断」を促すシグナルであるという解釈もまた,技術倫理上は成立し得るものである。

2 専門家間の見解不一致とAI技術士の視点

(1) 地震学的アプローチと工学的アプローチの決定的差異

ここで重要となるのは,地震学者と工学者(土木・原子力技術者)の思考様式の違いである。

  • 地震学者: 現象のあらゆる可能性を探求し,過去に例のない事象についても「否定できない限り可能性あり」と考える。

  • 工学者: 限られたリソースの中で社会基盤を構築するため,数値を決定し,設計に落とし込まなければならない。そのためには,「否定できない」レベルではなく,「設計に採用すべき合理的根拠」が必要となる。

高裁判決が,地震学的な「可能性」と,取締役が法的義務として対策を講ずべき「予見可能性」を峻別したことは,この地震学と工学のギャップを法的に解釈したものと評価できる。AI技術士としても,研究段階の知見を即座に設計基準(Design Basis)に採用することの危険性は認識すべきところであり,実証されていない仮説に基づく過剰設計は,かえってシステム全体のバランスを崩す恐れすらある。

特に本件では,日本海溝の北部と南部で地質構造(付加体の有無等)が異なるといった専門家間の異論が存在した状況下において,信頼度が確立していない情報を根拠に数千億円規模の対策工事や運転停止を判断することは,当時の技術基準や社会通念上,極めて困難であったといえる。

(2) 土木学会における「重み付け」の意味

高裁判決では,土木学会津波評価部会における「重み付けアンケート」の結果が詳細に検討された。このアンケートは,津波想定の不確実性を定量化するためのロジックツリー解析に用いられたものであり,専門家の間でも「福島沖で津波地震が起きる」とする見解と「起きない(三陸沖とは異なる)」とする見解が拮抗していたことを示している。

地裁判決は,このアンケート結果を,長期評価の見解を支持する専門家も一定数いた証左として用いたが,高裁判決は逆に,専門家の間でも見解が定まっていなかったことの証左として評価した。

AI技術士(総合技術監理)の視点からは,専門家の意見が割れている状況下において,特定の悲観的なシナリオのみを採用しなかったことをもって,経営判断の誤り(善管注意義務違反)と断ずることは,結果論に過ぎると考えられる。

(3) 「信頼度C」情報の設計入力への適用可否

地震本部が付した「信頼度C」という評価は,データの質・量ともに不足しており,評価結果の確からしさが低いことを示している。技術的観点からは,信頼度が低い情報は,感度解析やパラメータスタディの対象とはなり得る。

しかし,そのような机上のシミュレーションを行うことと,その結果に基づいて直ちに数千億円規模の投資や,社会生活に甚大な影響を与えるプラント停止という「極端な実効措置」を決断することの間には,越えるべき高いハードルが存在する。当時の技術的知見においては,信頼度Cの情報は,そのような重い経営判断の根拠とするには脆弱であったといえる。

ただし,応用理学や技術者倫理の視点から補足すれば,環境基本法や原子力安全の基本原則である「事前警戒・予防」の観点からは,「信頼度が低い(不確実性が高い)」ことはリスクを無視してよい理由にはならず,巨大リスク施設においてはむしろ「安全側に振った判断」を促すシグナルであるという解釈もまた,技術的には成立し得るものである。

実際,本件理由書においても,環境基本法4条の「科学的知見の充実の下に」との文言に関し,「深刻な,あるいは,不可逆的な環境の保全上の支障が生じるおそれがある場合には,科学的確実性が不完全であることが,環境の保全上の支障の防止のための措置を延期するための理由とされるべきでない」との解釈が示されており,不確実性下において技術者が取るべき安全側のマージン(ゆとり)をどう設定すべきだったかという点は,本件の核心的論点の一つである。

貞観津波に関する知見(佐竹論文等)についても,当時は波源モデルが研究途上であり,直ちに15.7メートルの津波を確度高く予見させるものではなかったという高裁の認定は,科学史的な事実関係と整合しているものの,不確実性を理由に対策を完全に保留し,最低限の断層モデル(モデル10)に基づく対策すら講じなかった判断の是非については,なお重い議論の余地が残る。


第3 巨大インフラにおける安全対策の工学的リアリティ

【技術論のポイント】

原発設計の基本は「ドライサイトコンセプト(敷地を濡らさない)」です。

地裁が提案した「水密化(濡れても建屋を塞げば良い)」は、当時の安全思想からは外れており、工学的にも多くの困難がありました。

1 「ドライサイトコンセプト」の原則と誤解

(1) 原子力発電所の立地審査指針と敷地高さ

一審と二審で大きく判断が分かれた点の一つに,津波対策の具体的な方法論がある。日本の原子力発電所の設計において,長らく基本原則とされてきたのが「ドライサイトコンセプト」である。これは,重要施設が設置された敷地の高さは,想定される津波の高さよりも高く設定し,敷地内への浸水自体を許容しないという設計思想である。

AI技術士(建設部門)の視点から見れば,このコンセプトは,施設の健全性を維持するための最も確実かつ基本的なアプローチである。敷地が浸水(ウェットサイト化)すれば,建屋だけでなく,屋外のトレンチ,タンク,車両,アクセス道路などが全て機能不全に陥るリスクがあり,プラントの安全性担保が極めて困難になるからである。

十分な検証もなく基本設計思想を根本から覆す対策を採用することは,作業員の避難困難や予期せぬ浸水経路の発生など,新たなリスクを生む可能性があり,安全設計の原則に反する。

(2) 地裁判決が想定した「水密化」の技術的限界

地裁判決は,防潮堤の建設には長期間を要することを認めつつも,建屋の扉や開口部を水密扉等に交換する「水密化」対策であれば,比較的短期間かつ低コストで実施可能であり,それによって事故は回避できたと認定した。

しかし,この判断は巨大プラントにおける当時の安全設計思想(ドライサイトコンセプト)との整合性を欠いていたと言わざるを得ない。

稼働中のプラントにおいて,多数の配管やケーブルが貫通する建屋の止水性を完全なものにすることは,極めて難易度の高い工事である。何より,10メートル盤を5メートル以上も上回る15.7メートルの津波に対し,敷地への浸水を許容しつつ,建屋単体の水密化だけで凌ぐという対策は,当時の一般的な技術基準や安全審査設計において,すべての事業者に一律に求められる標準的な設計とまではいえなかったからである。

水圧は水深に比例して増大するため,5メートルを超える浸水深に耐えうる水密扉には潜水艦のハッチのような堅牢な構造が必要となる。既存建屋の開口部に後付けで施工することは,配管やケーブルの干渉を考慮すれば極めて困難であり,少なくとも当時の東電に対し,そこまでの特異な対策を法的義務として課すことには無理があったといえる。

(3) 高裁が認定した「防潮堤建設か運転停止か」の二択

ア ドライサイトコンセプトと「後知恵」の排除

これに対し,高裁判決は,当時の安全思想であるドライサイトコンセプトに照らせば,15.7メートルの津波予見時にとるべき本来の対策は「巨大防潮堤の建設」による敷地遡上の防止であり,完成までは危険回避のため「運転停止」しか選択肢はないと認定した。 すなわち,防潮堤建設を行わずに水密化だけで回避可能とする一審の判断は,当時の主流な安全思想から外れた「後知恵」であり,高裁の判断は当時の技術水準に照らして実務的かつ論理的である。

イ 他社事例の評価と法的義務の限界

もっとも,株主側が本件理由書で指摘しているように,当時,日本原電(東海第二原発)や中部電力(浜岡原発)においては,ドライサイトコンセプトを基本としつつも,万一の敷地内への浸水を想定した水密化対策や防潮壁設置が進められていた事例も存在する。
特に日本原電は,東電土木グループの示唆を受け,地震本部の長期評価に対応するために東海第二原発で防潮壁の設置や水密化工事を実施し,東日本大震災時にも辛うじて過酷事故を回避している。
この事実は,現場レベルでの多重防護の萌芽を示しているが,高裁判決は,東電が直ちに同様の「自主的な上乗せ措置(自主保安)」を取らなかったとしても,当時の支配的な安全思想や規制基準に照らせば,法的責任を問うほどの著しい不合理性はなかったと判断した。
AI技術士としては,他社事例の存在は「技術的な可能性」を示すものではあるが,それが直ちに当時の全事業者に一律に課せられた「法的な義務(ミニマム・スタンダード)」とまで言えるかについては,高裁の判断通り慎重にならざるを得ないと考える。

ウ 最高裁令和4年判決との整合性

なお,高裁判決が「長期評価に基づく対策を講じても事故は回避できなかった」とした工学的判断自体は,国の規制権限不行使に関する最高裁令和4年6月17日判決とも完全に整合するものである。
同最高裁判決もまた,想定される防潮堤を設置したとしても,「本件津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸入することは防ぐことができるものにはならなかった可能性が高い」と判示し,結果回避可能性(因果関係)を明確に否定しているからである。

エ 「暫定措置」としての水密化の意義

もっとも,株主側は本件理由書において,防潮堤完成までの「緊急避難的な水密化」であれば発想可能であり,実施すべきであったと主張している。 これは,防潮堤完成までの「暫定的なリスク低減措置」としての水密化の意義を問うものであり,前述した他社事例と併せて考えれば,工学的には一考に値する重要な視点であるといえる。
総合技術監理の視点からは,完璧な対策(巨大防潮堤)ができるまで何もしない(All or Nothing)ではなく,不完全でもリスクを低減する措置を取らなかったことの是非について,より掘り下げた考察が求められる。

2 対策工事の実務的プロセスと所要時間

(1) 防潮堤建設に関わる地質調査と設計の現実

巨大な防潮堤を建設するためには,単にコンクリートを打設すればよいわけではない。

まず,海底や地盤の地質調査を行い,支持層の深さや強度を確認する必要がある。福島第一原発の沖合は地盤条件が複雑である可能性があり,詳細なボーリング調査だけでも数ヶ月から年単位の時間を要する。

その上で,耐震設計,波力に対する安定計算,洗掘対策などの詳細設計を行う必要がある。特に原子力発電所においては,基準地震動Ssに対する耐震性が求められるため,一般の土木構造物よりもはるかに厳しい設計条件をクリアしなければならない。AI技術士(建設部門)の経験則から言えば,構想から着工までだけでも数年を要するプロジェクトである。

(2) 許認可・合意形成プロセスの不可避性

さらに,工事を実施するためには,規制当局(当時は原子力安全・保安院)への設置変更許可申請,工事計画認可申請といった許認可手続が不可欠である。また,海域での工事を伴う場合,漁業権者や地元自治体との調整,環境影響評価(アセスメント)なども必要となる。

地裁判決は,こうした行政手続や社会的合意形成にかかる時間を過小評価していたきらいがあるが,高裁判決は,これらのプロセスが不可避であることを前提に,対策の完了までには相当の長期間を要すると正当に評価した。法令遵守(コンプライアンス)を重視する総合技術監理の視点からも,必要な手続きを省略して工事を強行することは許されず,高裁判決の事実認定は現場の実態に即している。

(3) 「結果回避可能性」に対するAI技術士(建設部門)の見解

以上のことから,仮に長期評価公表直後の平成14年や,明治三陸試算結果が出た平成20年の時点で対策に着手していたとしても,本件事故が発生した平成23年3月までに,15.7メートルの津波に耐えうる防潮堤が完成していた可能性は極めて低いと考えられる。

この点については,本件事故を巡り国の規制権限不行使の違法性が争われた最高裁令和4年6月17日判決も同様の判断を示している。
同判決は,仮に当時想定し得る防潮堤を建設していたとしても,「本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるものとして設計される防潮堤等は,本件敷地の南東側からの海水の浸入を防ぐことに主眼を置いたものとなる可能性が高く(中略)本件津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸入することを防ぐことができるものにはならなかった可能性が高い」と判示し,単純な防潮堤建設では回り込み波等により事故は回避できなかった可能性が高いと認定した(同判決9-10頁)。

高裁判決は,当時の技術水準や防潮堤の限界に関して国の責任を否定した最高裁令和4年6月17日判決のロジックとも整合しており,司法判断としての一貫性が保たれているといえる。

今回の高裁判決が,地裁が認めた「建屋の水密化」では事故を防げなかったと判断したことは,最高裁が示した「想定に基づき防潮堤を作っても防げなかった」という法的判断の枠組みと技術的・論理的に整合するものである。

したがって,事故を回避する唯一の方法は「原発の運転停止」であったことになるが,後述するように,不確実な長期評価のみを根拠として全基停止を決断することは,当時の状況下では困難であった。つまり,工学的な時間軸と意思決定のプロセスを考慮すれば,高裁が結果回避可能性(あるいは結果回避義務違反)を否定したことは,論理的な帰結である。


第4 システム防護の観点から見る事故のメカニズム

【技術論のポイント】

水密化で建屋の電源盤を守っても、海沿いの低い位置(4m盤)にある海水ポンプ(除熱源)が津波で全滅します。

高裁はこの「クリフエッジ(急激な機能喪失)」を指摘し、水密化だけでは炉心損傷を防げなかったと判断しました。

1 全交流電源喪失(SBO)と最終ヒートシンクの喪失

(1) 非常用海水ポンプの脆弱性と配置

本件事故の物理的な本質は,津波によって「最終ヒートシンク(除熱源)」を喪失したことにある。原子力発電所は,停止後も崩壊熱を出し続けるため,これを冷却し続けなければならない。そのための冷却水(海水)を汲み上げる非常用海水ポンプは,海面に近い4メートル盤(敷地高さO.P.+4m)に設置されていた。

高裁判決は,この海水ポンプの配置に着目し,極めて重要な指摘を行っている。すなわち,仮に地裁の言う通り建屋(10メートル盤)の水密化を行い,建屋内の非常用ディーゼル発電機や電源盤を守れたとしても,より低い4メートル盤にある「非常用海水ポンプ(最終ヒートシンク)」は防護できず,津波によって全滅していた可能性が高いという点である(高裁判決38頁及び41頁)。これは,海水系(除熱源)の喪失が事故の収束を極めて困難にするという,工学的に重い事実認定である。

確かに,電源が生きていれば高圧注水等による一時的な冷却維持は可能であったかもしれない。

しかし,最終ヒートシンクである海水系が喪失すれば,長期的には炉心を冷却できずメルトダウンに至る(熱的な破綻)リスクが高いことは物理的な事実である。

すなわち,高裁判決は,以下の「二段構え」のロジックで株主側の主張を退けている点に特徴がある。

  1. 当時の技術基準に照らせば水密化措置まで講ずる法的義務はなかったこと(規範的判断)。

  2. 仮に水密化を行っていたとしても,海水ポンプ喪失により最終的には「炉心損傷」を防げなかったこと(事実的判断)。

高裁判決は,株主側が主張する「注水継続による時間稼ぎ」の可能性を認めつつも,最終的な除熱機能(海水系)が失われている以上,法的な因果関係における「事故(炉心損傷)の回避」ができたとまでは認定できないと判断した。

これは,結果回避可能性のハードルを,「水素爆発などの最悪事態の防止(減災)」ではなく,「炉心損傷そのものの完全な防止」という厳格な基準に置いたことによる帰結であるといえる。

(2) 建屋水密化と除熱機能維持の連関性

ア 最終ヒートシンク喪失による熱的破綻のメカニズム

AI技術士(機械部門・原子力部門)の視点から解説すれば,建屋内にある非常用ディーゼル発電機(D/G)や配電盤を守り,電源を確保できたとしても,その電気で動かすべき海水ポンプが機能喪失していれば,原子炉の熱を海へ捨てることができない。冷却水は循環せず,最終ヒートシンク(除熱源)を失ったシステムは熱的な破綻を迎え,サプレッションプールの水温上昇を経て,やがて格納容器の過圧破損や炉心損傷に至るリスクは排除できない。

イ 電気・制御系統の同時被災リスク

また,電気電子部門の視点で見れば,地下や1階に設置された配電盤(メタルクラッドスイッチギア:M/C,パワーセンタ:P/C)や,制御の要である直流電源(DC)が被水すれば,電気を送る「血管」と制御する「頭脳」が同時に断たれることになり,計測制御系を含めた全ての機能が喪失し,たとえ発電機が生きていても制御不能に陥るという脆弱性があった。

ウ 減災可能性の主張と司法判断の論理

もちろん,電源が生きていれば,代替注水等のアクシデントマネジメント(AM)策によって事故進展を遅らせ,住民避難のための貴重な時間を稼げた可能性は技術的に否定できない(この点は現在も上告審で強く主張されている)。

しかし,法的な因果関係の判断として,高裁判決はあくまで「炉心損傷そのものを回避できたか」という点に重きを置き,海水ポンプ喪失という事態がプラントを極めて危険な状態に追い込む決定的な要因であることを重視した。高裁判決が,建屋の水密化だけでは事故を「完全に」回避できたとは限らないと判断したことは,当時の安全思想(ドライサイトコンセプト)を前提とすれば,司法判断として一定の合理性は認められる。

もっとも,これは「法的責任」の限界を示したに過ぎず,「法的な回避義務」と「技術的な減災可能性」の乖離をどう埋めるかという点において,なお重い課題が残されている。

エ 最高裁判決との整合性

この点,国の責任に関する最高裁令和4年6月17日判決は,「大量の海水が主要建屋の中に浸入し(中略)本件非常用電源設備が浸水によりその機能を失うなどして本件各原子炉施設が電源喪失の事態に陥り,本件事故と同様の事故が発生するに至っていた可能性が相当にある」と指摘している。部分的な水密化ではシステム崩壊を防げない可能性が高いという技術的見解は,既に最高裁レベルで示された事実認識といえる。

2 深層防護の欠落と過酷事故への進展

(1) 電源盤防護の限界と減災効果の可能性

ア 電源盤防護の有効性と技術的視点

福島第一原発の事故において,電源盤(M/C,P/C)及び直流電源の被水・機能喪失が対応を困難にした最大の要因であったことは論を俟たない。
地裁判決は電源盤さえ守れば回避可能であったと考えたようであるが,前述の通り,高裁判決は海水系ポンプの喪失との複合事象を考慮すれば,その有効性は限定的であると認定した。
しかし,AI技術士(原子力・放射線部門)の視点からは,別の可能性も看過できない。

イ 直流電源維持による「時間的猶予」と減災シナリオ

本件理由書の主張によれば,もし建屋の水密化によって電源(特に直流電源)が生きていれば,隔離時冷却系(RCIC)や高圧注水系(HPCI)の制御・稼働が可能となり,サプレッションプールのヒートシンク能力が限界に達するまでの数時間から十数時間,炉心損傷を遅らせることが可能であった。

仮に海水系が全滅し最終的な除熱が困難であったとしても,この時間的猶予があれば,「管理されたベント」や「注水継続」が可能であり,あのような破局的な水素爆発や大量放出といった最悪の事態は防げた(あるいは軽減できた)可能性は技術的に否定できない。

ウ 深層防護の階層性と法解釈の乖離

深層防護の考え方に基づけば,津波対策は第1層(異常の発生防止)としての防潮堤が基本であるが,それが突破された場合に備え,第2層,第3層としての建屋水密化や高所配置で「事故の進展を遅らせる(減災)」こともまた,システム防護の重要な機能である。

AI技術士の視点としては,高裁判決が採用した「炉心損傷を完全に回避できなければ責任は問えない」という法解釈と,工学的な「被害を最小限に抑える(減災)」というアプローチの間には,埋めがたい溝が残ったままであるといえる。

エ 技術的・人道的な残された課題

もっとも,本件訴訟はあくまで「炉心損傷による全損害」の賠償を求めるものであり,裁判所としては「炉心損傷そのもの」を回避できたかが判断の分水嶺とならざるを得ない。その意味で,法的には「ゼロ回答(請求棄却)」が妥当だとしても,技術的かつ人道的には,「減災の可能性」を追求しきれなかった点について,重い課題が残されている。

(2) 高裁が指摘した4メートル盤のクリフエッジ

ア 閾値を超えた急激な機能喪失

高裁判決が海水ポンプの設置高さ(4メートル盤)に言及したことは,いわゆる「クリフエッジ(崖っぷち)」効果への理解を示している。
これは,ある閾値(この場合は津波高さ4メートル超)を超えた瞬間に,システムの機能が急激に失われる現象である。

イ システム全体の弱点解析としての妥当性

10メートル盤への浸水を防ぐ議論だけでなく,より低い位置にある重要機器の脆弱性を見抜いた高裁判決の判断は,システム全体の弱点解析として的確であった。
4メートル盤の機能喪失というクリフエッジを無視して,10メートル盤の対策のみを論じることは工学的に不整合であり,「部分的な対策(水密化)では,システム全体の崩壊(全交流電源喪失+海水系喪失)というクリフエッジ(急激な機能喪失)を回避できなかった」という高裁の技術的認定は,極めて説得力が高い。


第5 総合技術監理の視点による意思決定プロセスの評価

【技術論のポイント】

不確実な情報に対し、専門機関(土木学会)に検討を委託したプロセスは「合理的」と判断されました。

しかし、15.7mというリスク情報を規制当局にも隠蔽したこと(コミュニケーションの欠如)は、技術者倫理として重い汚点を残しました。

1 不確実性下における経営判断とリスク管理

(1) 「武藤決定」の合理性とプロセス責任

ア 不確実性と意思決定の正当性

本件訴訟では,平成20年7月に当時の原子力・立地本部副本部長であった武藤氏が,即時の津波対策着手ではなく,土木学会への検討委託を決定したこと(いわゆる「武藤決定」)の是非が問われた。一審はこれを「対策の先送り」であり,任務懈怠であると断罪した。

しかし,総合技術監理の視点から見れば,不確実な情報(長期評価)に基づいて巨額の投資やプラント停止を判断することには大きなリスクが伴う。
当時の技術水準において「防潮堤等の設置により敷地の浸水を防ぐこと」が基本とされていたことを踏まえれば,より確実な科学的根拠を得るために専門機関(土木学会)へ検討を委託し,その結果に基づいて手戻りのない対策を行うというプロセス自体は,当時の法的予見可能性の限界を前提とすれば,組織的な意思決定として著しく不合理とは言えない。

高裁もこの点を認め,15.7メートルという数値はあくまで特定のパラメータ設定による「試算」に過ぎず,これを設計入力として確定させるためには,専門家集団による査読と合意形成(コンセンサス)が不可欠であるとして,検討委託を「合理的な対策を行うためのプロセス」の許容範囲内と判断した。

イ 結果責任とプロセス責任の峻別

これは「結果責任」と「プロセス責任」の峻別である。結果として事故は起きたが,当時の状況下で踏むべき合理的かつ標準的な手順を踏んでいたかどうかが法的な責任の分水嶺となる。

高裁判決は,不確実な情報に基づいて確実な損失(原発停止による電力供給支障等)を生じさせる決定の困難さを理解し,結果責任ではなく,安全性と経済性・供給安定性というトレードオフを最適化しようとしたプロセスとして,法的な善管注意義務の範囲内においては合理的なものであったと評価したのである。

(2) リスク情報の精査と「先送り」の境界線

ア アクションとコミュニケーションの分離

リスク管理において,情報の精査と対策の実行は常にトレードオフの関係にある。時間をかけて情報を精査すれば対策の精度は上がるが,その間にリスクが顕在化する可能性がある。逆に,拙速に対策を行えば,無駄な投資や新たなリスクを生む可能性がある。

もっとも,総合技術監理の視点からは,もう一つの重要な教訓が浮かび上がる。それは,情報の確実性が低いために「対策工事を見送る判断(アクション)」と,その情報を「社会や規制当局に共有しない判断(コミュニケーション)」は,全く別の問題として評価されるべきということだ。

「先送り」と批判されるか,「慎重な検討」と評価されるかは,紙一重である。企業が対策工事等のアクションを起こすにあたり,情報の正確性を確認することは必須の責務であり,高裁判決もその点での「工事判断に関わる検討期間」には一定の合理性を認めた。

しかし,仮に工事判断としての土木学会への委託が合理的であったとしても,15.7メートルという試算値が出た時点で,その不確実性も含めて国や自治体に報告し,情報を共有していれば,社会の受け止め方は大きく異なっていた可能性がある。

イ 情報の成熟度と組織防衛の弊害

15.7メートルという数値は,単なる思い付きではなく,地震本部の長期評価に基づき,専門業者(東電設計)が具体的なパラメータを設定して算出したエンジニアリングデータである。不確実な情報を「確定するまで出さない(情報の成熟度管理)」という判断は,組織防衛としては機能しても,有事の際の信頼を損なう諸刃の剣であった。

特に本件において重大なのは,この15.7メートルという試算結果を,規制当局である原子力安全・保安院にすら報告せず,事故発生の4日前まで隠し通したという点である。本件理由書が詳細に指摘するように,東京電力の土木調査グループは対策の必要性を認識していたにもかかわらず,経営判断として情報の非開示が徹底された形跡がある。

安全規制は,事業者からの誠実な情報提供を前提に成り立っており,情報の非対称性を悪用してリスク情報を秘匿することは,規制当局の判断機会を奪い,安全確保のシステムそのものを無力化する行為に他ならない。

ウ 法的因果関係と倫理的責任

もっとも,高裁判決は,「情報を報告しなかったこと」と「本件事故の発生」との間に法的な因果関係を認めることは困難であるとして,賠償責任の根拠とはしなかった。報告したとしても,当時の行政が直ちに運転停止を命じたとは考えにくいというのがその理由である。

しかし,法的責任(賠償義務)が発生しないことと,その行為が企業倫理として正しかったかは全くの別問題である。

本件理由書において「重大な情報提供義務違反」「組織的かつ計画的な情報操作」と厳しく指弾されている通り,不確実性を理由に情報を秘匿した行為は,技術者倫理および総合技術監理の「公益確保の責務」に照らして極めて重い疑義が残る。

リスクマネジメントにおいて,ステークホルダー(規制当局・地域住民)との信頼関係は安全確保の基盤であり,これを損なうような情報の扱いは,「適法なプロセス」であったとしても,技術者倫理上の重大な汚点として記憶されるべきである。

なお,最高裁令和7年3月5日決定における草野耕一裁判官の補足意見では,東電には試算結果を「速やかに国に報告すべき義務」があったと明言されている。報告していれば,電気事業法の枠組みの中で行政命令(技術基準適合命令)が発動され,結果として事故を回避できた可能性があったとするこの補足意見は,AI技術士として強調する「自律的な情報開示」の重要性を司法の側から裏付けるものである。

2 トレードオフの最適化と社会的責任

(1) 電力供給義務と安全確保の相克

電力会社の取締役は,安全確保の義務と同時に,電気事業法に基づく電力の安定供給義務も負っている。特に当時は,CO2排出削減の観点から原子力発電の推進が国策とされており,代替火力燃料費の高騰も経営上の重要課題であった。

高裁判決は,原発停止による「電力供給義務の不履行」や「火力燃料費増大による国民負担」という社会的・経済的影響を明示的に考慮に入れた。地裁判決が安全確保のみを絶対視したのに対し,高裁判決は複数の相反する目的(安全性,安定供給,経済性)のトレードオフを最適化するという,経営判断の実相に踏み込んだものである。

AI技術士(総合技術監理)としても,安全は最優先事項であるが,無限のコストや社会的犠牲を払ってよいわけではなく,対策の費用対効果や社会的受容性を考慮したバランスの取れた判断が求められると考える。

(2) 全基停止判断に求められる「合理的根拠」の閾値

高裁判決は,原発の運転停止という極めて重い経営判断を正当化するためには,「それ相応の合理的・信頼性のある根拠(切迫した危険情報)」が必要であるとした。そして,信頼度Cの長期評価や,研究途上の貞観津波に関する知見では,その根拠として不足していたと結論付けた。

これは,予防原則の適用範囲に関する司法判断とも言える。未知のリスクに対してどこまで予防的な措置をとるべきか。高裁判決は,社会インフラを停止させるレベルの措置には,単なる「可能性の指摘」以上の確度の高いエビデンスが必要であるという基準(閾値)を示したのである。

この点に関し,最高裁令和7年3月5日決定も,電力会社は「市民にとって最重要ともいえるインフラを支え(中略)漠然とした理由に基づいて(中略)運転を停止することはできない立場にある」と判示し,運転停止という「重い選択」を強いるには,相応に高い予見可能性が必要であるとの規範を示している。


第6 結論と今後の展望

1 総括

(1) 司法判断の論理的整合性

以上の分析から,東京高裁による逆転判決(請求棄却)は,当時の科学的知見の不確実性と,巨大インフラにおける工学的判断の実務的プロセスを,地裁判決よりも現実に即して評価したものであり,「法的責任の有無」を判断する基準としては,法的な論理構成における整合性が認められる。

(2) 法的免責と技術的評価の乖離

しかし,これを手放しで「技術的にも妥当である」と評価することには慎重であるべきだ。ここで強調しておきたいのは,法的な「義務違反なし(勝訴)」と,技術的な「改善余地なし(最善)」の間には,依然として深い溝が存在するということである。

地裁判決が強い後知恵バイアスの影響下にあったのに対し,高裁判決は「当時の技術者や経営者に見えていた景色」の中で厳密な審査を行った。
地震学と工学のギャップや,部分的な対策(水密化)ではシステム全体の崩壊(SBO)を防げない物理的現実を捉え,信頼度の低い試算に対して専門機関への委託を通じて知見の確度を高めようとしたプロセスを標準的であるとした点は,技術的本質を的確に捉えている。

2 判決が示唆する「自律的安全性」の追求

(1) 期生依存からの脱却

しかし,勝訴したからといって,当時の東京電力の対応が満点であったわけではない。高裁判決もその末尾において,「法的責任がないからといって,安全確保の努力を怠ってよいわけではない」と異例の付言を行っている。さらに,「今後は,より抽象的な予見可能性であっても,最新の科学的知見を踏まえて想定し,対策を検討すべきである」と警鐘を鳴らしている(高裁判決73頁)。

これは,法令や規制基準を満たしていればよいという受動的な姿勢(規制依存)からの脱却を求めている。事業者自らが,不確実な情報であっても積極的にリスクを評価し,規制の枠を超えて安全性を追求する「自律的安全性(自主保安)」の確立こそが,本件事故の最大の教訓である。

(2) 勝訴判決の真の意味

「勝訴」したことがすなわち,当時の対応が「工学的・倫理的に正しかった」ことを意味するわけではない。

高裁判決は,当時の安全思想や予見可能性の限界に基づき「法的責任(賠償責任)」を否定したに過ぎない。本記事で指摘した通り,15.7メートルという重大なリスク情報を社会と共有しなかった「コミュニケーション・プロセス」や,結果回避の確実性はなくとも被害を軽減し得たはずの「減災(Mitigation)」のための多重防護(水密化等)を追求しきれなかった点について,現在および将来の視点から見た「技術的・倫理的な正当性」までをも認めたわけではないのである。

本記事で繰り返し論じてきたように,「法的な結果回避義務違反」が否定されたからといって,「技術的な減災努力」や「倫理的な情報開示」が不要であったということにはならない。

司法が免責したのはあくまで法的責任の範囲内であり,技術者は,そこからこぼれ落ちた「技術的良心」や「社会への説明責任」について,自問し続ける必要がある。不確実な情報であっても,それが破局的なリスクを示唆する場合には,隠蔽するのではなく透明性を持って社会や規制当局と共有することこそが,真のリスクマネジメントである。

3 結びに代えて

本件株主代表訴訟は,科学的不確実性と法的責任の境界線を問う極めて重い事案であった。司法は,法的責任の限定という解を示したが,技術者倫理や社会的責任という観点からは,依然として重い課題が残されている。

我々は,この判決を「免罪符」として捉えるのではなく,不確実な未来に対して技術がいかに対峙すべきか,その謙虚さと覚悟を再確認する契機としなければならない。

巨大システムに関わる全ての技術者と経営者にとって,高裁判決は,リスク管理の教科書として読み継がれるべき資料であるといえる。

(AI作成)デジタル化された民事裁判手続における本人サポートに関する最高裁判所事務総局の本音

本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
「(AI作成)全司法労働組合との令和6年度交渉記録から見える最高裁判所事務総局の本音」も参照してください。

目次

第1 はじめに:デジタル化の波と最高裁判所事務総局の深層心理

第2 「ITヘルプデスク」化の回避と「任意制」という防波堤
1 現場からの悲鳴と労働組合との交渉記録に見る実情
2 制度的防波堤としての「利用の任意化」

第3 財務省に対する「予算獲得」と「定員管理」のジレンマ
1 概算要求書から読み解く「システム偏重」の予算構造
2 財務省への説明ロジックと「スクラップ・アンド・ビルド」

第4 「本人サポート」への期待とリスク転嫁の構造
1 本人サポートの法的性質と事務総局の狙い
2 弁護士会・司法書士会への「連携」要請の政治的意味

第5 「本人サポート」の実務的実態と弁護士が抱えるリスク
1 「法律事務」と「事実行為」の境界線
2 具体的な業務内容とシステム操作の実際
3 看過できない実務上のリスクと留意点

第6 【海外事例】「責任の所在」を明確にするアジア近隣諸国の先進事例
1 シンガポール:徹底した「IT隔離」と「有償アウトソーシング」
2 韓国:国家主導の「徹底サポート」と「専用インターフェース」
3 中国:徹底した「モバイル統合」と「AIによる人的遮断」
4 台湾:「訴訟輔導科」という強力な緩衝地帯
5 日本への示唆:第三の道「責任の空中分解」

第7 総括:最高裁事務総局の「生存戦略」と法曹三者の未来
1 組織防衛のための冷徹な現状認識
2 我々実務家が取るべき「生存戦略」:情緒的連携からの脱却と工学的要求


第1 はじめに:デジタル化の波と最高裁判所事務総局の深層心理

1 民事裁判手続のデジタル化(IT化)は,我が国の司法制度における歴史的な転換点です。令和4年の民事訴訟法改正により,mints(民事裁判書類電子提出システム)をはじめとする電子情報処理組織の利用が段階的に進められていますところ,その実態は単なる技術革新ではありません。
表向きには,「国民の利便性向上」や「裁判の迅速化」が掲げられ,最高裁判所は関係機関と連携して,誰一人取り残さないための環境整備に努めるとされているものの,その「連携」という言葉の裏には,別の意図が透けて見えます。

長年にわたり司法行政の中枢である最高裁判所事務総局の動き,予算構造,そして人事の機微に触れてきた専門的見地から分析すると,そこには全く別の風景が広がっています。
特に,「本人訴訟(訴訟代理人に委任しない当事者)」のサポートを誰が担うのかという問題については,美しい理念の裏側に,組織防衛のための冷徹な計算と,現場崩壊を避けるためののっぴきならない「本音」が隠されているのです。

2 本稿では,公開されているmints操作マニュアル(令和7年10月24日改訂)令和8年度概算要求書(説明資料)最高裁と全司法労働組合との交渉記録(令和6年4月から令和7年1月まで),そして改正法の解説資料である「一問一答 新しい民事訴訟制度(デジタル化等)-令和4年民事訴訟法等改正の解説-(商事法務)」(以下「一問一答」という。)に加え,現場の弁護士会から発出された悲痛な決議文である令和7年2月14日付の山口県弁護士会の総会決議を全面的に参照し,最高裁判所事務総局が抱えるジレンマと,その解決策として描いている「弁護士・司法書士へのアウトソーシング」の構造を解剖します。
さらに,アジア近隣諸国の事例と比較することで,日本の「任意制」がはらむ構造的な欠陥を浮き彫りにします。
これは,単なる制度解説ではなく,司法行政の論理を読み解くための実務家向けレポートです。

第2 「ITヘルプデスク」化の回避と「任意制」という防波堤

1 現場からの悲鳴と労働組合との交渉記録に見る実情

最高裁事務総局が最も恐れている事態は何か。それは,「裁判所職員が,パソコン操作に不慣れな当事者の『無料ITヘルプデスク』と化し,本来の審理支援業務が麻痺すること」です。この懸念は,単なる想像ではなく,現場からの切実な声として上がっています。

(1) 全司法労働組合からの切実な要求

直近の「最高裁と全司法労働組合の交渉記録」を確認すると,現場の職員(書記官,事務官等)がいかに疲弊しているかが浮き彫りになります。組合側は,「裁判所のデジタル化や新たな制度,各種事件処理等に対応できる裁判所の人的充実をはかるため,各職種の大幅な増員要求を行うこと」を強く求めています。

特に,恒常化している残業や持ち帰り仕事の解消に加え,メンタルヘルス不調による病休の増加が深刻です。最高裁と全司法労働組合との交渉記録(令和6年4月から令和7年1月まで)によれば,精神及び行動の障害による長期病休者が188人であるほか,書記官278人,事務官178人が新たに育児休業を取得しています(交渉記録のPDF618頁及び619頁)。
育児・病休等の事情により,現状の事件処理だけで人的リソースが枯渇しているのが実情です。ここに,「mintsにログインできない」「PDFの変換方法が分からない」といった技術的な問い合わせが殺到すれば,裁判所機能は物理的に停止しかねません。

(2) 「司法の容量拡大」と人的リソースの限界

組合側は悲痛な叫びとして「司法の容量拡大」を主張していますが,事務総局側の回答は常に慎重かつ硬直的です。
本来,デジタル化は業務効率化のために導入されるものであり,その初期段階で「手間が増える」という現実は,事務総局にとって痛し痒しの問題だからです。

事務総局の本音としては,「デジタル化を進めるが,そのために現場職員がITサポート要員として忙殺されることは絶対に避けなければならない」という強固な防衛本能が働いています。
システム運用において最もコストを要するのは開発ではなく「ユーザーサポート」であり,ここにリソースを割けば裁判所機能は「DoS攻撃」を受けたかのように麻痺します。
現場のリソースは,「事件処理」というコア業務に集中させる必要があり,「操作説明」というノンコア業務に割く余裕は,現在の裁判所には1ミリも存在しないのです。

2 制度的防波堤としての「利用の任意化」

(1) 義務化見送りの真の理由

ア 一問一答のQ16において,本人訴訟におけるインターネット利用の義務化が見送られた経緯が解説されています。表向きの理由は,「IT機器の操作に不慣れな者等の裁判を受ける権利を保障するため」とされています。

しかし,事務総局の「本音」のロジックで読み解けば,これは「現場がパニックになるのを防ぐための最強の防波堤」に他なりません。もし本人訴訟まで義務化してしまえば,裁判所は国として,その利用を「保障」する義務を負います。

もっとも,この「逃げ道」は,事務総局にとっても決して安らかな選択ではありません。紙で提出された書面は,結局のところ裁判所内部でスキャンし,電子化しなければならないからです。「国民には強制しない」という建前を守る代償として,現場の書記官等は膨大なスキャン業務という新たなコストを背負わされます。
つまり,現状の「任意制」は,IT弱者を切り捨てたくないという美名の下,現場職員と我々外部の支援者の双方に過度な負担を強いる「痛み分け」ならぬ「苦しみ分け」の構造,「双方にとっての地獄」を生み出しているのです。

イ そもそも,mints(民事裁判書類電子提出システム)等の現行システムは,操作マニュアルにおいて「TLS1.2以上が利用可能」なネットワーク環境や特定の画面解像度(1280×1024ピクセル)を推奨するなど,一般市民には理解困難な前提条件を要求する「プロ向け仕様」です(PDF5頁)。
さらに,ファイル名には「JIS X 0213」の文字基本としつつも拡張子を含め100文字以内という厳格な制約があり(PDF9頁),これに違反すればエラーメッセージが表示される仕様となっています。 このようなUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)が未熟な状態で義務化すれば,これら多岐にわたる設定操作ができない当事者に対して,手取り足取り教える法的義務が発生しかねないのです。
システム開発において最もコストを要するのは運用フェーズの「サービスデスク(問い合わせ対応)」です。 これを回避するために,「紙でも良い」という逃げ道を残すことは,技術的障壁の高さに対する工学的敗北を糊塗し,組織防衛を図る上での必須の条件でした。

(2) 二段構えの「自己責任論」

この「任意制」は,二段構えの巧みな戦略です。

第一に,「強制はしていない」という事実により,窓口で操作方法を長時間質問してくる当事者に対し,「紙で提出してください」と合法的に誘導することが可能になります(一問一答Q38等参照)。

第二に,それでもデジタルを使いたいという当事者に対しては,「自己責任で環境を整えるか,それができないなら専門家(弁護士等)に依頼してください」という論理を展開できます。
裁判所はあくまで「プラットフォームの提供者」に徹し,「ユーザーサポート」の責任から巧みに身をかわしているのです。

(3) あえてデジタルへ誘導していること

弁護士会からはこの姿勢に対する痛烈な反論が上がっています。
例えば,山口県弁護士会は令和7年2月14日の総会決議において,「IT技術の利用が困難な当事者は,従前どおりの紙を利用した裁判をすることができることを積極的に広報すべきである」と強く指摘しました。同決議は,「本人の不利益を防止するため」にこそ,紙での裁判が可能であることを周知すべきだと述べています。
本当に利用が「任意」であり,国民の権利保障を第一に考えるならば,「無理せず紙で提出してください」とアナウンスするのが筋です。
それをせず,あえてデジタルへ誘導している点に,事務総局の「現場(裁判所職員)を守るために,外部(弁護士)へ負担を流したい」という本音が透けて見えるのです。

第3 財務省に対する「予算獲得」と「定員管理」のジレンマ

1 概算要求書から読み解く「システム偏重」の予算構造

次に,予算の観点から事務総局の苦悩を分析します。ここで我々は,事務総局を単なる「加害者」として断罪するのではなく,財務省主計局という絶対的な権力者の前で,限られた予算と定員をやり繰りせざるを得ない「無力な中間管理職」として再定義する必要があります。
近年の概算要求書(説明資料)を見ると,そのギリギリの調整の結果として,裁判所の予算配分の歪みが如実に表れています。

(1) 物件費の膨張と人件費の硬直性

概算要求書において,「デジタル化」に関連する予算は主に「物件費(システム構築費,機器リース料等)」として計上されています。一方で,「人件費」や「定員」の大幅な純増は見当たりません。

例えば,デジタル総合政策室の経費や,民事局における「裁判事務の迅速適正化」のための会議費等は計上されていますが,これらはあくまでシステムの維持管理や運用ルールの策定のための費用です。「デジタル化に伴う本人サポート要員の配置」といった名目の予算は,極めて獲得しにくい構造にあります。
なぜなら,財務省主計局に対する予算要求の基本ロジックが「スクラップ・アンド・ビルド」であり,「デジタル化=効率化=将来的には人員削減(定員合理化)が可能」という短期的な成果指標(KPI)の前提でのみ予算が承認されるからです。

(2) デジタル総合政策室の予算と現場への還元の乖離

デジタル総合政策室等の予算は確保されていますが,これは中央(最高裁)でのシステム設計や政策立案に使われるものであり,地方の裁判所の窓口に人員を配置するための予算ではありません。

つまり,最高裁は「システムという『箱』」を作るための国費は確保できても,「その箱を使いこなせない人を助ける『人』」を雇う予算は持っていないのです。この「金はあるが,人(に使途を限定できる金)はない」という状況が,外部連携(アウトソーシング)を加速させる根本原因です。
後述する韓国が,国家予算で強力なヘルプデスクを維持している点とは対照的と言わざるを得ません。

2 財務省への説明ロジックと「スクラップ・アンド・ビルド」

(1) 「効率化」という諸刃の剣

訴訟記録の電子化は,保管スペースの削減や閲覧事務の効率化など,「管理コストの低減」も大きな目的の一つです(一問一答Q7)。事務総局は財務省に対し,「IT化によって書記官事務が効率化され,人員配置の合理化が進む」というストーリーで予算を要求しています。

この手前,「IT化によって逆に手間が増える(当事者対応が大変になる)から,人を増やしてくれ」とは,口が裂けても言えません。それは,自らが掲げた効率化の旗印を否定することになるからです。

(2) 定員削減圧力とデジタル化の矛盾

国家公務員の定員管理は厳格であり,裁判所も例外ではありません。定員合理化計画に基づく削減圧力がかかる中で,新たな業務(デジタルサポート)のための純増を勝ち取るのは至難の業です。

結果として,事務総局としては,「システムによる効率化(手数料納付のキャッシュレス化等)(一問一答Q124)」をアピールしつつ,効率化できない「人間による泥臭い支援業務」は,予算の付かない「外部の自発的協力」に依存せざるを得ないのです。

第4 「本人サポート」への期待とリスク転嫁の構造

1 本人サポートの法的性質と事務総局の狙い

このような内部事情を踏まえると,最高裁が日弁連や司法書士会連合会に対して求めている「連携」の意味が明確になります。特に議論されている「本人サポート(訴訟代理によらないシステム利用支援)」は,事務総局にとっての救世主です。

(1) 書面からデータへの移行コストの所在

デジタル化の本質は,「書面」という物理媒体から「データ」への情報の形態変換です(一問一答Q12参照)。本人訴訟において,誰かがこの「入力・変換コスト」を負担しなければなりません。

当事者本人にその能力がない場合,裁判所職員が代行すれば「入力ミス」のリスクや「公平性」の疑義が生じます。
そこで,最高裁は,この最もリスクが高く面倒な作業を,弁護士や司法書士に担ってもらいたいと切望しています。日弁連が検討している「システム利用支援(法的代理を含まない技術支援)」は,最高裁にとってまさに「渡りに船」の解決策です。

(2) 「円滑な進行」という名のアウトソーシング

本人訴訟は,紙の時代であっても訴訟指揮に多大な労力を要します。デジタル化で手続のハードルが上がれば,審理の停滞は必至です。

もし,弁護士等の専門家が「入り口(申立てや書面提出)」だけでも交通整理をしてくれれば,裁判官や書記官の負担は劇的に減少します。
しかし,現行のmintsのシステム設計は,このような外部支援を想定していません。「補助者」として登録できるのは弁護士事務所の事務員や法人の従業員等に限定されており,一回的な支援を行う弁護士が補助者として登録する枠組みは存在しません。
したがって,支援を行う弁護士は,本人のID・パスワードを預かって「なりすまし」的に操作するか,権限のない状態で画面を覗き込むしか術がないのです。
セキュリティの基本原則である「認証と認可の分離」がなされていないシステムにおいて,「法的助言を含まない操作支援」が,弁護士賠償責任保険の対象外となるリスクや,守秘義務・利益相反といった倫理的課題を孕んでいることは承知の上で,最高裁としては「背に腹は代えられない」というのが実情でしょう。

2 弁護士会・司法書士会への「連携」要請の政治的意味

(1) 「司法インフラを維持するための共同責任論」という同調圧力

附帯決議や各種協議における「連携」という言葉は,行政用語としては「協力要請」以上の重みを持ちます。それは,「潜在的な圧力」というよりも,法曹三者が共有する司法インフラを守るための「共同責任論(という名目の同調圧力)」に近いものです。

事務総局の本音はこうです。「弁護士や司法書士は,司法インフラの一部であり,その恩恵を受ける立場にある。ならば,制度の円滑な移行のために汗をかくのは当然の責務である(ノブレス・オブリージュ)。もしサポートが不十分で現場が混乱すれば,それは『連携』しなかった側の責任も問われることになる」。

これは,一種の「踏み絵」であり,デジタル化を推進するパートナーとしての覚悟を迫るものです。

(2) 「デジタル弱者切り捨て」批判へのアリバイ作り

また,この連携体制は,最高裁にとって強力な「政治的保険」となります。「デジタル弱者切り捨て」という国会やメディアからの批判に対し,「弁護士会・司法書士会等と強固に連携して支援体制を構築している」と答弁できれば,最高裁の責任は大幅に軽減されます。

「我々は環境を用意した。支援体制も依頼した。あとは運用の問題だ」というロジックを構築するために,外部との連携実績は不可欠なアリバイ(証明材料)となるのです。

第5 「本人サポート」の実務的実態と弁護士が抱えるリスク

ここまでは最高裁側の論理を見てきましたが,実際にその要請を受ける日弁連側の検討状況や実務的な定義についても,最新情報を踏まえて解説します。

1 「法律事務」と「事実行為」の境界線

(1) 日弁連による「本人サポート」の定義と法的性質

日弁連によれば,2026年の全面デジタル化に伴い導入が予定されている「本人サポート」は,法律事務(弁護士法第3条)ではなく,あくまで「事実行為」であると定義されています。これは極めて重要なポイントです。
すなわち,ご本人から事件の見通しや書面の内容に関する助言を求められ,それに回答する場合は,それは「本人サポート」の範疇を超え,通常の「法律相談(法律事務)」となります。

ただし,実務的な視点で検証すれば,来訪者が作成した書面に法的に致命的な不備や不適切な内容が含まれていた場合,弁護士が見て見ぬふりをして「入力だけ」を行うことは職務倫理上極めて困難です。
「純粋な操作支援」と「法律相談」を明確に切り分けることなど,現場の実態としては不可能に近いと言わざるを得ません。

(2) 「形式サポート」と「実質サポート」の区分の撤廃

かつては「形式サポート」や「実質サポート」という用語で議論されていましたが,現在はその区分けは採用されていません。事実行為のみを「本人サポート」と呼び,法的助言を伴うものは通常の法律相談として扱う整理になっています。
これにより,弁護士が行う業務であっても,本人サポート自体は「誰でも(有償・無償問わず)行える事実行為」という位置づけになります。

2 具体的な業務内容とシステム操作の実際

では,具体的にどのような業務が想定されているのでしょうか。これは,サポータとなる弁護士がシステムにログインするか否かで大きく2つに分類されます。

(1) サポータがログインしない場合の業務範囲

ご本人がご自身の機器で操作を行うことを前提とした支援です。

ア 操作アドバイス
アカウントの取得方法,ログイン,手数料納付,書面の提出操作,通知の確認方法などの助言を行います。
ただし,アカウントの取得自体はパスワード設定等を伴うため,代行はできず,アドバイスに留まります。

イ PDF化の支援
ご本人が持参した紙の書面をスキャンしてPDF化し,データとしてご本人に提供することです。

ただし,原本性が担保されないデジタルデータにおいて,「弁護士がスキャンした」という事実は,後に「改ざん」を疑われた際の無実の証明を極めて困難にする技術的リスクを孕んでいます。操作マニュアル(PDF122頁,別紙4)においても,アップロードするPDFには「タイムスタンプを適切な位置に付するため」として,縦置き・横置きに応じた厳密な向きの指定がなされており,単にスキャンすれば良いというものではありません。
また,情報理論の観点から言えば,アナログ(紙)からデジタルへの変換は一種の「サンプリング」であり,必ず情報の欠落(ロス)や画質劣化を伴います。
原本と電子データ(PDF)の同一性をシステム側で担保するハッシュ値照合等の技術的セーフガードがない現状において,この変換プロセスにおける責任を,法的保護のない弁護士が負うことは,リスク管理上,極めて危険です。

後述するとおり,シンガポールでは,このようなデータ変換作業を「サービス・ビューロー」と呼ばれる民間業者が有償で一括して引き受けており,専門家(弁護士)がスキャン作業のような事務リスクを負わない仕組みが確立されています。

(2) サポータがログインする場合の業務範囲

サポータである弁護士自身のアカウントを使用して行う業務です。

ア オンライン提出代行
ご本人から提供された書面(PDFやフォーム入力内容)を,システムを通じて裁判所に提出します。

イ 記録の閲覧・複製
提出された訴訟記録を閲覧したり,ダウンロードしたりします。

ウ システム送達受取人としての対応
相手方からの書類や裁判所からの通知を,サポータが「システム送達受取人」として受け取ります。
受け取った書類をご本人へ送信,または印刷して交付したり,事務連絡等の通知をご本人へ伝達したりします。ご本人がアカウントを持っていない場合,システム送達を受けるためにサポータを受取人として届け出る必要が生じます。

ただし,日弁連によれば「ウェブ会議への参加の補助については、サポータはウェブ会議に同席できない」とされています。
IT操作に不慣れでサポートを必要とする当事者が,最もITリテラシーを要する「単独でのウェブ会議参加」を強いられるという,致命的な矛盾(ロジックの破綻)が生じています。

3 看過できない実務上のリスクと留意点

ここが最も重要です。「事実行為」であるという定義は,弁護士にとって重大なリスクを孕んでいます。

(1) 弁護士賠償責任保険の適用外という「無保険特攻」のリスク

ア 責任の所在が不明確な「機械トラブル」の恐怖
最大のリスクは,「本人サポート」は法律事務ではないため,原則として弁護士賠償責任保険の適用がないと解される点です。日弁連自身が認める通り,これは「無保険」での業務遂行を意味します。

例えば,以下のような機械トラブルが考えられます。
・ 大切な証拠(原本)をスキャンする際,例えばホチキスの外し忘れ等が原因で破損してしまったら誰が責任を負うのか。
・ 動画や画像のファイル形式・サイズ変更を余儀なくされ,画質が落ちた結果,『当事者が思ったとおりの画質で裁判所に提出できず,証拠価値が下がって負けた』とクレームをつけられたらどうするのか。
・ 操作マニュアル(PDF109頁,別紙3)には,ファイルのプロパティや個人情報を削除する詳細な手順が記載されていますが,この過程で意図せず重要なメタデータまで削除してしまったり,ファイル変換により画質が劣化したりするリスクは常に存在します。

これらは単なる過失ですが,法律事務ではない以上,保険の対象外となる可能性が高いのです。

イ パスワード管理及びログの証拠能力欠如という地雷原
また,高齢者等のサポートでは,事実上弁護士がID・パスワードを管理せざるを得ない場面も想定されます。
セキュリティの観点からも,他人のID等を用いて操作を行うことは,なりすましや事後否認のリスクを排除できません。
さらに致命的なのは,現状のmintsの仕様では,操作ログがアカウント単位でしか記録されない点です。「誰がエンターキーを押したか」を事後的に追跡できる仕様になっていないため(否認防止機能の欠如),仮に本人が「弁護士が勝手にやった」と主張した場合,技術的に反証することは不可能です。

もし,何らかの原因で情報流出が起きた際,「あんたが漏らしたんだろう」と疑われたら,弁護士は無実を証明できるでしょうか。
いわゆる「特級呪物」と化す可能性のある困難な当事者を相手に,無保険で業務を行うことは,まさに「神風特攻」とも言うべき無謀な行為であり,単なるボランティア精神で引き受けるにはあまりに危険すぎます。

(2) 守秘義務と利益相反に関する構造的問題

ア 守秘義務の所在
本人サポートは法律事務ではないため,形式的には弁護士法上の守秘義務の対象外となります。
しかし,弁護士に対する社会的信用を維持するため,正当な理由なく秘密を漏らしてはならないことは言うまでもありません。契約書等で守秘義務を明記することが強く推奨されます。

イ 利益相反の考え方
形式的には利益相反規定に触れない場合でも,実質的に本人の利益を損ねる恐れがある場合は,相手方からの依頼を受けるべきではありません。
特に,本人サポートで情報を得た後に,その事件の相手方から依頼を受けることは,職務基本規程の精神に照らして原則避けるべきです。

(3) 「印刷して交付」という作業に潜む作業負荷

サポータが「システム送達受取人」として受け取った書類や裁判所からの通知については,「印刷して交付」という作業が必要となります。
しかし,この「印刷して交付」という作業は,想像以上に煩雑な「シャドウ・ワーク(隠れた作業負荷)」となります。
操作マニュアルによれば,未印刷物を一括印刷しようとした際,原稿サイズA3とA4が混在していると,「A3、A4サイズが混在しているためダウンロードした後に印刷してください。」とのメッセージが表示され,プレビュー表示がなされません(操作マニュアルPDF64頁)。これは,サーバーサイドでの適切なレンダリング処理を放棄し,クライアントサイド(ユーザー側)の環境と手間に依存した,システムアーキテクチャとして極めて前近代的な設計と言わざるを得ません。
さらに,その後の印刷工程においては,Adobe Acrobat Readerの印刷設定で「PDFのページサイズに合わせて用紙を選択」にチェックを入れるなど,マニュアル「別紙5(PDF123頁)」で指定された【設定1】の手順を正確に履行しなければならず,これを怠ると用紙サイズ不整合による印刷ミスが多発する仕様となっています。

単に「紙を受け取るだけ」であった従来の業務と比較して,事務コストが著しく増大することは明白であり,これを無償に近い形で引き受けることは経営判断としてあり得ません。

(4) 契約書の重要性

トラブル防止のため,支援の範囲(法律相談は含まない等)を明確にした「本人サポート契約書」の作成が必須となります。
また,ウェブ会議への同席(代理権がないため不可),書面内容の作成・検討(法律事務になるため不可),本人のアカウント利用(不正利用になるため不可)といったNG行為を明確に除外する必要があります。

(5) 「非弁活動の温床」となる社会的リスク

さらに看過できないのが,「形式サポートには法曹資格が不要」とされることの副作用です。 これは裏を返せば,悪質な事件屋や非弁業者が「ITサポート業者」を名乗って堂々と参入できることを意味します。山口県弁護士会の決議でも指摘されているとおり,「形式サポートに名を借りた非弁行為の増加が想定され,これを防止することは,ほぼ不可能」なのです。
表面上は「操作支援」を謳いつつ,裏で実質的な非弁活動を行い,国民が高額な被害に遭う――そんな未来が容易に想像できます。
最高裁の施策は,結果として国民を食い物にする土壌を作っている可能性があり,この点でも司法の信頼を揺るがしかねないのです。

第6 【海外事例】「責任の所在」を明確にするアジア近隣諸国の先進事例

1 シンガポール:徹底した「IT隔離」と「有償アウトソーシング」

(1) 本人による直接アクセスの制限

シンガポールの電子裁判システム「eLitigation」は,原則として法律事務所及び登録された法人ユーザー向けに設計されています。
一部の簡易手続を除き,本人訴訟当事者が自宅のパソコンからシステムに自由にアクセスし,不完全なデータを流し込むことは推奨されていません。

(2) 「サービス・ビューロー(Service Bureau)」という解決策

では,本人はどうするか。裁判所内に設置された民間業者(CrimsonLogic社)が運営する「サービス・ビューロー」という窓口の利用が推奨されています。
本人は紙の書類をビューローに持ち込み,そこで所定の手数料を支払って,業者の専門スタッフにデータ入力とアップロードを代行してもらいます。

(3) 運用の妙と日本の現状

これにより,裁判所のシステムには,プロ(業者)によって整えられた完璧なデータしか流れてきません。裁判所書記官が「PDFの傾き」を直す必要も,弁護士が相手方のITサポートをする必要もないのです。
「ITスキルがないなら,対価を払ってプロに頼む」という原則を徹底し,司法インフラの汚染を防いでいます。

2 韓国:国家主導の「徹底サポート」と「専用インターフェース」

韓国は,日本と同様に国民のITリテラシーが高いことを前提としつつも,国(大法院)が責任を持ってインフラを整備する「親切な国家」モデルです。

(1) 「本人訴訟専用ポータル」の構築

弁護士用とは別に,一般市民向けの「私一人でする訴訟(ナホルロ訴訟)」という専用ポータルサイトを用意しています。なお,韓国語では,「ナ(私)」+「ホルロ(一人で)」=「私一人で」という意味です。

ナホルロ訴訟では,質問に答えていくだけで訴状が自動生成されるなど,弁護士に頼らずとも完結できるUI(ユーザーインターフェース)が実装されています。

(2) 専門部隊によるヘルプデスク

大法院(最高裁)直轄のITセンターには,強力なユーザーサポート部隊(ヘルプデスク)が設置されています。「ログインできない」「操作が分からない」という問い合わせは,すべてこの専門部隊が引き受けます。
現場の書記官が電話口で操作説明をすることは,業務分掌として明確に切り離されており,「操作のことはヘルプデスクへ」と堂々と案内できる体制が整っています。

3 中国:徹底した「モバイル統合」と「AIによる人的遮断」

中国は,韓国の「親切な国家」モデルをさらに推し進め,「国民がすでに使っているインフラに裁判所を寄生させる」という発想と,「AIによる徹底した人的遮断」で現場を守っています。

(1) 国民的アプリ「WeChat」への機能統合

新たなシステム操作を覚えさせるのではなく,国民インフラであるメッセージアプリ「WeChat(微信)」の中に「裁判所ミニプログラム」を組み込みました。ログインは顔認証で完了し,証拠提出は「スマホで写真を撮ってアップ」で済みます。
「PDFの傾き」といった概念すら排除し,UI(ユーザーインターフェース)の極度な簡便化によって,操作質問そのものを激減させています。

(2) 「12368」ホットラインとAI対応

全国統一の訴訟サービスホットライン「12368」では,AIまたは専門オペレーターが対応し,事件進捗などの定型的な質問にはシステムが自動回答します。
現場の書記官への電話は物理的に遮断され,本来業務に集中できる環境が強制的に作られています。

4 台湾:「訴訟輔導科」という強力な緩衝地帯

台湾のアプローチは,IT化を進めつつも,「デジタル弱者への手厚い人間によるケア」を専門部署に集約させる「調和型」です。

(1) 専門部署による防波堤

台湾の全ての裁判所には,玄関口に「訴訟輔導科(訴訟相談課)」という専門部署が設置されています。手続の案内やIT操作の補助は,原則としてこの部署が一手に引き受けます。

(2) 現場書記官との機能分離

事件担当の書記官(法廷立会等を行う書記官)と,窓口対応を行う職員の役割が明確に分離されています。ITが苦手な当事者が来庁した場合,担当書記官ではなく,訴訟輔導科の職員や組織された司法ボランティアがスキャニングや入力を補助します。
これにより,事件処理を行う現場のリソースは確実に保護されているのです。

5 日本への示唆:ガラパゴス化する「責任の空中分解」

(1) こうして比較すると,日本の現状がいかに「中途半端な責任転嫁」であるかが明白になります。
近隣諸国は,それぞれ異なるアプローチで「現場」を守っています。

【各国の司法IT戦略比較】
・ シンガポール型
「隔離」による品質維持(民間業者が有償対応)
・ 韓国型
「投資」による包摂(国が専用システムとサポートを用意)
・ 中国型
「技術」による遮断(AIと既存アプリ統合による省力化)
・ 台湾型
「分業」による調和(専門部署「訴訟輔導科」による緩衝)
・ 日本型(現状)
「放置」による現場消耗(「任意」として,現場の書記官と弁護士に負荷を分散)
(2) 日本は,シンガポールのように「業者に任せる」という割り切りもせず,韓国や中国のように「国が技術とカネで支える」という覚悟も決めず,台湾のように「専門部署」を作ることもありません。
ただ「任意だから」という言葉で責任を空中に分解させ,そのしわ寄せを現場の法律家たちに負わせているのです。

第7 総括:最高裁事務総局の「生存戦略」と法曹三者の未来

1 組織防衛のための冷徹な現状認識

以上の分析から導き出される最高裁事務総局の「本音」は,極めて合理的かつ冷徹な組織防衛の論理に基づいています。

「デジタル化のインフラ(ハード・ソフト)は裁判所が用意する。しかし,それを埋める『人的コスト』は裁判所のリソース(人件費)では絶対に賄えない。賄おうとすれば,現場が崩壊する。

だからこそ,本人訴訟におけるデジタル利用は,制度上『任意』とし,現場への流入をコントロールする。その上で,『より便利に』というインセンティブで誘導し,それでも発生するサポート業務のコストは,『司法の担い手』である隣接士業に,公益活動として負担・解決してほしい。」

これが,「関係機関との連携」を強調する最高裁事務総局の,偽らざる本音であり,限られた予算と人員の中でデジタル化という国策を完遂するための「生存戦略」であると考えられます。

2 我々実務家が取るべき「生存戦略」:情緒的連携からの脱却と工学的要求

(1) 精神論の排除と「契約と仕様」への回帰

最高裁の戦略を「責任転嫁」と道徳的に断罪しても、彼らが動くことはありません。彼らは財務省という「株主」に対するKPI(効率化)達成のために動いているからです。
我々弁護士もまた,情緒的な「連携」や「司法の担い手としての使命」という曖昧な言葉に酔うのはやめるべきです。
情報工学と法務の観点から言えば,現在のmintsの仕様と運用ルールは,「セキュリティホール(認証の脆弱性)」と「リーガルリスク(責任分界点の欠如)」を外部ユーザー(弁護士)に押し付ける欠陥設計です。
このバグを修正しない限り,本人サポートには関与できない――これが技術者かつ法律家としての結論です。

(2) 提示すべき4つの「非機能要件」と「契約条件」

我々は,ボランティアとしてではなく,システムのエンドユーザー兼ステークホルダーとして,以下の4点を「利用の必須条件(受入テスト基準)」として突きつける必要があります。

第一に,システムアーキテクチャレベルでの「認証と認可の分離」の実装です。
他人のID・パスワードを預かる,あるいは他人のログイン状態で操作するという運用は,情報セキュリティマネジメント(ISMS)の観点から完全にアウトです。
技術的に要求すべきは,「代理操作権限(Delegated Authority)」の実装です。弁護士自身のIDでログインし,システム上で紐付けられた本人(依頼者)の領域に対して,限定的な操作権限(アップロードのみ等)を行使できる仕様に改修させなければなりません。
これにより,「誰が操作したか」という監査ログ(Audit Log)が明確になり,否認防止(Non-repudiation)が担保されます。
これが実装されない限り,なりすましリスクのある現行システムでの支援は「セキュリティ事故の温床」として拒絶すべきです。

第二に,利用規約(ToS)による「免責の明文化」です。
「支援は事実行為」という曖昧な解釈論に逃げるのではなく,mints利用規約に「支援者(弁護士等)による操作補助に起因するシステム上の不具合,データ消失,画質劣化等について,支援者に故意または重過失がない限り免責される」という条項を追加させるべきです。
システム提供者である国がこの免責規定を設けないのであれば,弁護士会側で統一の「免責同意書テンプレート」を作成し,署名がない限り一切の操作支援を行わないという運用を徹底する必要があります。

第三に,リスクに見合った「技術料(Technical Fee)」の標準化です。
これは「相談料」ではありません。「データ変換・アップロード代行」という一種のITベンダー業務です。シンガポールのサービス・ビューローが有償であるように,リスクを伴う技術的作業には対価が必要です。
「無料相談のついで」ではなく,明確にプライシングされた技術サービスとして定義し直すことで,安易な依頼を抑制し,責任の重さを依頼者(国民)にも認識させる必要があります。

第四に、「システム不備」を理由とした「正当な業務拒否」の行使です。
海外事例(シンガポール、韓国等)と比較し,日本のシステムがいかに「ユーザーサポート」という必須モジュールを欠いた欠陥品であるかを,具体的なデータと共に主張し続ける必要があります。
サポート体制(ヘルプデスクや入力センター)という「ミドルウェア」が欠如している以上,ラストワンマイルの接続責任を弁護士が負う義務はありません。
「不完全なシステムには接続しない」という態度は,サボタージュではなく,司法インフラの安全性を守るための「セキュリティ・ポリシー」です。

我々弁護士が安易に無償サポートで穴埋めをすることは,国が負担すべき「IT運用コスト」を隠蔽(粉飾)することに他なりません。
それは結果として,日本の司法DXを「いつまでも自立できない未熟なシステム」のまま放置させることになります。
「バグだらけの仕様書にはサインしない」。技術者として,そして法律家として,この当たり前の態度を貫くことこそが,真の意味での「司法への貢献」なのです。

(AI作成)全司法労働組合との令和6年度交渉記録から見える最高裁判所事務総局の本音,及びAIの戦略的アドバイス

本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯出力文における交渉記録というのは「最高裁と全司法労働組合の交渉記録(令和6年4月から令和7年1月まで)」のことであり,「最高裁と全司法労働組合の交渉記録」に掲載しています。
令和7年度概算要求説明書(説明資料)「最高裁判所の概算要求書(説明資料)」に掲載しています。
「(AI作成)全司法労働組合の全国統一要求書に対する最高裁判所事務総局の本音」も参照してください。

目次

第1 総論:最高裁判所事務総局の「生存戦略」と組合の「誤算」
1 財務省・国会・組合に対する「三枚舌」の外交
2 「人」から「システム」への不可逆的な資源シフト
3 財務省主計局との攻防における「敗北」の隠蔽
4 交渉記録に透ける「官僚答弁」の解読コード

第2 各論分析:令和7年度概算要求書と交渉記録から読み解く「本音」
1 人員配置・定員問題における冷徹な論理
2 デジタル化予算の膨張と人的投資の枯渇
3 労働条件・健康管理における「アリバイ」工作

第3 戦略的提言:全司法労働組合が採るべき「勝ち筋」の再構築
1 「情理」から「取引」へのパラダイムシフト
2 「法的リスク」の顕在化による交渉力の強化
3 「等価交換」による業務削減の断行

第4 結論:幻想を捨てて戦略的に対峙せよ

第1 総論:最高裁判所事務総局の「生存戦略」と組合の「誤算」

1 財務省・国会・組合に対する「三枚舌」の外交

まず,冷厳な事実を直視する必要があります。最高裁事務総局は,もはや「人間(職員)の増員による負担軽減」という解決策を事実上放棄したと言わざるを得ません。

加えて,公開された資料を突き合わせると、彼らが相手によって全く異なる「顔」を使い分けている実態が浮き彫りになります。
第一に,財務省に対しては「デジタル化による効率化で、人は減らせる」と約束して予算を獲得する。
第二に,国会(参議院法務委員会等)に対しては「必要な人員は配置されており,裁判事務に支障はない」という趣旨の答弁をして統治能力を取り繕う(例えば,令和6年3月15日の衆議院法務委員会及び令和7年3月14日の衆議院法務委員会参照)。
第三に,組合(現場)に対しては「厳しい情勢で増員は困難だが、現場の多忙さは理解している」とガス抜きを行う。

この「三枚舌」の構造の中で最も割を食っているのが,矛盾のしわ寄せを一心に背負わされている現場の職員なのです。

2 「人」から「システム」への不可逆的な資源シフト

全司法労働組合(以下「全司法」という。)との交渉記録において,当局側は繰り返し「厳しい情勢」を口にしていますが,これは単なる挨拶ではありません。「現場感覚としての『忙しさ』という定性的な主張は,マクロな数字とエビデンスのみを信奉する財務省には1ミリも通用しない」という,当局の無力感と絶望的なシグナルの発露なのです。
彼らが選択したのは,減り続ける人的リソースを補うための「デジタル化予算の獲得」のみであり,これ以外に組織を維持する術を失っているのです。

しかし,ここで決定的な誤解をしてはなりません。財務省が巨額のデジタル予算を承認するのは,「投資による省人化」が約束されているからに他なりません。つまり,システム予算の獲得は,裏を返せば「将来的な定員削減」への誓約(コベナンツ)なのです。「概算要求書(説明資料)」に並ぶ億単位の数字は、財務省に対する「将来の人員削減手形」に他なりません。

「令和7年度概算要求書(説明資料)」を分析すれば,その意図は明白です。ページをめくるたびに現れるのは,億単位の「デジタル関連予算」の羅列です。一方で,純粋な増員に伴う人件費の伸びは極めて限定的です。これは,彼らが冷酷だからではありません。

「人口減少下において,システム投資と人員増はトレードオフ(二者択一)である」という国家財政の規律そのものです。
これは単なるスローガンではありません。国の予算制度において,「物件費(システム投資等)」と「人件費(給与等)」は厳格に峻別されており、たとえシステム費を節約したとしても,それを人件費には流用できないという「費目流用の制限」という財政法上の厚い壁が、そこに横たわっているからです。

そして,「人口減少社会において,後見関係等の一部を除き新受件数が減少または横ばい傾向にある裁判所だけが,人を増やせる理屈は立たない」という財務省主計局の鉄壁の論理に対し,事務総局は有効な反論を持ち得ていません。
「事件の複雑困難化」という定性的な主張は,定量的なデータを重視する財務省の査定において,事実上無力だからです。

3 財務省主計局との攻防における「敗北」の隠蔽

概算要求の時期における事務総局の最大の関心事は,「いかにして前年並みの予算を確保するか」に尽きます。ここで最も削減のターゲットにされるのが「人件費」です。
交渉記録のPDF17ページにおいて,最高裁人事局は「今後はますます,これまでのような増員が見込めなくなると思われ,令和7年度の増員を巡る状況はより一層厳しくなるものと考えている」と述べています。
これは,単なる見通しではなく,「既存業務を維持したままの純粋な増員要求は,財政当局に門前払いされる」という構造的な限界の吐露です。新受件数が減少傾向にある中で「現場が忙しい」という定性的な主張は,定量データを絶対視する財務省には通用しません。
彼らは組合に対して「負けました」とは言えませんが,その実態は「これ以上,財務省を説得する材料(エビデンス)がないため,概算要求のテーブルに載せることすら難しい。」という悲鳴に近いものです。

「関係機関と折衝し,必要な人員の確保に努めたい。」という言葉は,「今のままの論理では,これ以上の予算獲得は不可能である。」という現状追認に過ぎません。

4 交渉記録に透ける「官僚答弁」の解読コード

交渉記録を読む際,言葉を額面通りに受け取ってはなりません。「検討する」は「何もしない」の同義語であり,「適切に対処する」は「現行の運用を変えるつもりはない」という意味です。

時系列で読み解けば,そこにあるのは「会話のキャッチボール」の完全な不成立です。 組合側が「デジタル化の過渡期で二重管理が発生している」,「新システムの不具合で残業が増えている」と具体的な窮状(Fact)を訴えても,当局は「現場の実情は把握している」「効率化の効果も出ているはずだ」という建前(Fiction)で返します。
当局は現場の混乱を知らないのではありません。財務省に対し「IT化=効率化」というロジックで予算を通している手前,「システムを入れたのに現場が混乱しています」とは口が裂けても言えないのです。

例えば,家裁調査官の増員要求に対し,当局は「複雑困難事件の増加等を踏まえ……必要な人員の確保に努めたい」と回答しています。
しかし,この回答を額面通りに受け取ってはいけません。財務省主計局の視点で見れば,ここには決定的な「数字の壁」が存在するからです。
概算要求書等の資料にあるとおり,少年事件の件数は長期的に減少傾向にあり,昭和58年のピーク時に比べて約13分の1まで激減しているという動かぬ事実があります。一方で,家事事件が増加しているのは事実ですが,組織全体で見れば少年部門のリソースには余剰が生じているとみなされます。
財務省の論理は極めてシンプルです。「少年事件が13分の1になったのなら,余った人員を家事事件に回せばよい(配置転換)。なぜ,仕事が減った部署の人員を温存したまま,仕事が増えた部署のために新規増員を求めるのか。スクラップ・アンド・ビルド(既存の廃止と新規の構築)が先ではないか」というものです。

令和7年度において家裁調査官5人の増員要求がなされています(交渉記録のPDF397ページ「令和7年度においては、家裁調査官5人を増員することで、改正家族法の円滑な施行に向けた検討・準備を含め、引き続きその役割を果たすことができると判断したものである」参照)が,これは「改正家族法の施行」という特殊要因があるからこそ辛うじて正当化された「限定的な勝利」に過ぎません。
効果的な係数(複雑困難さの数値化)や,少年部門から家事部門への大胆なシフト(配置転換)の実績を示せない限り,純粋な繁忙を理由とした大幅増員について,事務総局は財務省に対してその必要性を認めさせる理屈を用意できないのです。

組合員が「現場の苦境」を訴えれば訴えるほど,事務総局は「それを財務省に説明するロジックがない」という無力感と,それを隠すための防衛的な答弁に終始することになります。この構造を理解しない限り,交渉は永遠に平行線をたどるでしょう。

第2 各論分析:令和7年度概算要求書と交渉記録から読み解く「本音」

1 人員配置・定員問題における冷徹な論理

(1) 定員合理化計画への「協力」という名の「バーター取引」

全司法は「定員合理化計画への協力を行わないこと」を強く求めています。これに対し,交渉記録のPDF21ページで最高裁は「事務の性質が他の行政官庁と類似する事務局部門を中心として……政府の定員合理化の方針に協力しているものである」と回答しています。

ここで「協力」という言葉に騙されてはいけません。事務総局は「協力せざるを得ない」というポーズをとりつつ,実際には定員削減を「生贄」として差し出しています。なぜか。それは,組織の維持に必要な「級別定数(昇格の枠)」を内閣人事局から確保するために他なりません。
公務員の給与原資は厳格に管理されており,上位ポスト(高い給料の職員)を維持・拡大するためには,全体の頭数を減らすか,下位ポストを削る必要があります。もし級別定数の改定(ワクの確保)に失敗すれば,職員の昇給ペースは鈍化し,生涯賃金は確実に低下します。

つまり,当局は,現場の定員(数)を削減する代わりに,幹部ポストを含む級別定数(質)を確保するという,冷徹な「政治的バーター取引」を選択しているのです。
あなた方の「昇給・昇格ポスト」を守るための「人質」として,現場の定員(特に未補充の枠)が差し出されている構図を直視すべきです。

これは公務員総定員抑制の下での「スクラップ・アンド・ビルド」の冷徹な原則です。 「定員削減反対」と「昇格改善」を同時に叫ぶことは,財務論的にはアクセルとブレーキを同時に踏む行為に他なりません。
財務当局や内閣人事局の視点では,定員削減という「経営努力(合理化)」を行わない組織に対して,昇格枠の拡大という「待遇改善の果実」を与えることはあり得ません。これは民間企業であれば当然の経営判断であり,公務員組織であっても例外ではありません。
そのため,事務総局から「どちらを捨てますか」という究極の選択を突きつけられていることを自覚すべきです。

(2) 「級別定数」維持のための現場犠牲

交渉記録において,昇格改善に対する回答は極めて慎重です。これは,級別定数の改定が,定員削減とバーターで行われる「政治的取引」だからです。 事務総局が最も恐れるのは「ワク(定数)」の喪失です。一度失った上位ポストの枠を取り戻すことは至難の業です。

したがって,現場がどれほど疲弊しようとも,「定員合理化(数減らし)」を受け入れ,その見返りとして「級別定数(質の維持)」を確保するという取引を,事務総局は今後も断行し続けるでしょう。現場の「忙しさ」は,この組織防衛の論理の前では,残念ながら二次的な問題として処理されます。

(3) 採用難を奇貨とした「定員不補充」の恒久化と非正規依存

交渉記録のPDF16ページ以降で散見される「欠員」の問題について,当局は「採用活動に力を入れている」と述べるにとどまっています。しかし,本音では,この「採用難による欠員」を,定員削減の口実として利用しようとしています。
「募集しても人が来ないなら,その定員は不要なのではないか。むしろ,人が減っているのに組織が回っている実績こそ,過剰人員であった証左ではないか。」という財務省の指摘に対し,事務総局は有効な反論を持ちません。欠員状態での業務遂行実績そのものが,皮肉にも定員削減を正当化する最強のエビデンスとなってしまっているのです。

さらに,概算要求書を詳細に見ると,正規職員の増員を諦める一方で,「期間業務職員」や「デジタル支援員」などの経費は計上されています。
これは,「正規職員(固定費)を増やすのはコスト高で硬直的だが,いつでも契約終了できる非正規職員(変動費)なら予算が取りやすい」という財務的な判断です。
つまり,当局は「あなた方の仲間(正規)はこれ以上増やさない。忙しければ,アルバイト(非常勤)の予算だけは取ってきてやるから,それで凌げ」という方針を固めているのです。

事務総局としては,埋まらない定員を削減対象とすることで,「痛み(現職の首切り)を伴わない合理化」として処理できるため,財務当局からの攻撃をかわすための「最後の砦」として利用せざるを得ない状況に追い込まれています。

全司法が「欠員補充」を叫ぶとき,敵は採用担当者の怠慢ではなく,「欠員状態での業務遂行実績を,定員削減の根拠(実績)として逆手に取る財務ロジック」なのです。

2 デジタル化予算の膨張と人的投資の枯渇

(1) 物件費(システム)と人件費(定員)の完全なる分断

概算要求書の98頁(PDFの100ページ)を見てください。「電子記録等の利用者用閲覧環境の整備回線構築(民事訴訟手続のデジタル化)……282,784千円」,「ウェブ会議に係る環境整備LAN回線敷設……425,774千円」。
これらはほんの一部です。ページをめくるたびに現れるのは,巨額のシステム予算です。

一方で,同じ資料の「施設整備」の項目に目を転じると,老朽化した庁舎の改修予算は,IT予算に比べて明らかに優先順位が劣後しています。
現場からは「空調が効かない」「トイレが古い」という悲鳴が上がっていますが,予算書が語る事実は冷酷です。 「人間は多少暑くても働けるが,サーバーは熱を持つと止まる」。 これが事務総局の偽らざる優先順位です。

しかし,ここで重要なのは,国の予算制度上,これら「物件費(システム代)」をいくら削っても,それを「人件費(定員)」には1円たりとも流用できないという冷厳な事実です。「人」と「物」の財布は完全に別なのです。
それどころか,財務省がこれら巨額のシステム予算(例:民事訴訟手続のデジタル化に係るシステム等)を承認するのは,将来的な「省人化(定員削減)」が「ペイライン(損益分岐点)」として前提条件となっているからです。巨額の国費を投じる以上,厳シビアな「投資効果としてのランニングコスト削減」が求められているのです。

組合員の中には「こんな高いシステムを入れるなら,人を雇ってくれ」と思う方もいるでしょう。
しかし,事務総局にその裁量はありません。彼らは,「デジタル化で効率化されるのだから,当然人は減らせるはずだ」という財務省の投資対効果(ROI)の論理にがんじがらめに縛られています。
「デジタル化で逆に忙しくなったから人を増やしてくれ」という主張は,自ら推進するデジタル化の効果を否定することになり,予算獲得の根拠を失わせる「自己矛盾」となるため,口が裂けても言えない構造にあるのです。

(2) 効果測定不能な「人的サポート」の切り捨て

組合は,デジタル化に伴う現場の負担増を理由に「人的サポート」を求めています。しかし,概算要求書の69ページ(PDF71ページ)にある「裁判員制度ウェブサイトの保守等……5,404千円」のような保守費はついても,現場職員を直接助ける要員の予算は極めて限定的です。
なぜか。「システム導入による時間短縮」は数字で示せますが,「人がいて助かる」という効果は定量的に測定できず,財務省に説明できないからです。事務総局は,「デジタル化すれば効率化するはずだ(だから人は要らない)」という建前を崩せません。
「デジタル化で逆に忙しくなったから人を増やしてくれ」という主張は,彼らが財務省に説明してきた「デジタル=効率化」というシナリオを自ら否定することになるため,絶対に認められないのです。

(3) 「運用支援」という名の丸投げと現場の疲弊

結果として何が起きるか。システム導入に伴う膨大な「運用調整」「習熟作業」は,すべて既存の職員の「努力」に丸投げされます。
交渉記録において,当局は「丁寧な周知」「研修の充実」を繰り返しますが,これは「金(人)は出さないが,マニュアルは渡すから自分でなんとかしろ」という意味です。彼らは,現場が混乱していることを知っています。知った上で,「過渡期の一時的な混乱」として矮小化し,喉元過ぎれば熱さを忘れるのを待っているのです。

3 労働条件・健康管理における「アリバイ」工作

(1) 「安全配慮義務」を「訴訟リスク管理」と捉える思考

概算要求書210ページ(PDFの212ページ)には,「ストレスチェック実施経費……111千円(単価)」等が計上されています。事務総局は,健康管理予算を確保していますが,その目的を履き違えてはいけません。
彼らにとっての最大のリスクは,職員が病むことそのものではなく,「安全配慮義務違反で国家賠償請求訴訟を起こされること」及び「マネジメント不全として財務省からの評価を下げること」です。「ストレスチェックを実施した」「相談窓口を設置した」という事実は,裁判になった際の強力な免罪符(アリバイ)となります。

「対策はやった。それでも病むのは個人の資質や家庭の問題」という防衛ラインを,彼らは着々と構築しているのです。
メンタル不調者の増加を「定員不足」のせいにすることは,彼らにとって「組織管理能力の欠如」を認めることになるため,絶対にできないのです。

(2) ストレスチェック制度の形式的運用と「心」への投資欠如

交渉記録において,メンタルヘルス不調者の増加に対する危機感が共有されていますが,当局の回答は「各種施策の活用を呼びかける」といった精神論に終始しています。
予算項目の「研修費」の内訳を見ても,「デジタル対応能力の向上」等の機能的スキルアップ予算ばかりが目立ち,「職員のモチベーション向上」や「心身のケア」に直結する実質的な予算は雀の涙です。 これは,組織が職員を「感情を持った人間」としてではなく,「機能をアップデートすべきデバイス」として見ている証拠です。
これは,人事局が「個別の職場のマネジメント不全」にまで介入する権限も能力も持っていないことを意味します。彼らは制度を作るまでが仕事であり,その制度が現場で機能しているかどうかについては,報告書上の数字でしか判断しません。
高ストレス者が何人出ようとも,それが「公務災害認定」につながらない限り,彼らのKPI(重要業績評価指標)は傷つかないのです。

(3) 超過勤務縮減の「数字合わせ」と持ち帰り残業の暗数

「超勤縮減」は毎年のスローガンですが,実態は伴っていません。交渉記録でも,組合側から「持ち帰り仕事」の懸念が示されています。
当局にとって,超勤予算(手当)の不足は絶対に避けなければならない「会計法上の不祥事」です。したがって,予算の上限を超えそうになると,強力な「超勤抑制命令」が出ます。
しかし,仕事量は減りません。結果として,サービス残業や持ち帰り残業が黙認される土壌が生まれます。
事務総局は,この「暗数」を公式には認識しないふりをし続けます。認識してしまえば,予算措置を講じる義務が生じ,それが不可能な場合に詰んでしまうからです。

第3 戦略的提言:全司法労働組合が採るべき「勝ち筋」の再構築

1 「情理」から「取引」へのパラダイムシフト

以上の分析から,あなた方がこれまで行ってきた「情理を尽くした要求」が,いかに彼らの「予算と定員の論理」に弾き返されてきたかが分かるでしょう。最高裁事務総局という巨大なマシーンに対し,「分かってください」というアプローチは無意味です。今後,この壁を突破するために,思考と行動をパラダイムシフトさせる必要があります。

(1) 「増員要求」の無益さと「業務委託費」への目標変更

「全職種の大幅増員」という要求は,もはや現実味がありません。看板として掲げるのは自由ですが,実利を取るための交渉材料にはなり得ません。
戦略を抜本的に変えましょう。「定員(人)」を求めるのではなく,「業務の削減(スクラップ)」と「物件費(カネ)」を取りに行くのです。
具体的には,デジタル化で代替できない,かつ付加価値の低い業務の「廃止」を迫るとともに,デジタル化に伴う作業や定型的な事務処理について,徹底的な「業務委託(アウトソーシング)」を要求してください。
「人(定員)」ではなく「金(物件費)」を取りに行くのです。

概算要求書を見れば分かるとおり,庁費やデジタル予算にはまだ拡張の余地があります。
「職員を増やせ」と言うと「無理」と即答されますが,「デジタル化の円滑な運用のために,定型的業務の『市場化テスト(民間委託可能性調査)』を実施し,ヘルプデスクやスキャンニング等の周辺業務をアウトソーシングせよ」という要求なら,彼らも財務省に対して「行政改革の一環」として説明がつきます。
単に「楽をさせてくれ」ではなく,「官民競争入札等の手法を用い,コア業務以外を大胆に外部化する」ことや,「他省庁で廃止された慣例的業務の即時廃止」という「経営改革案」を突きつけるのです。これならば,「人件費(定員)」という聖域に手を付けず,「物件費(委託費)」という比較的柔軟な財布から予算を引き出せます。

「人は増やせないなら,業務自体を削減(スクラップ)するか,外部委託費(金)で解決させる」。
この等価交換を成立させることこそが,定員削減圧力に対する唯一の現実的な対抗策です。

(2) デジタル予算の「隙間」を突く人的リソースの獲得

デジタル関連予算の中に,事実上の「人的支援」を紛れ込ませる知恵を絞ってください。例えば,「法廷通訳フォローアップセミナー」(概算要求書記載)のように,研修やサポートの名目で予算を取り,そこに非常勤職員や外部業者の稼働を充てるのです。

「デジタル化で楽になるはずだが,過渡期の今は逆に負担が増えている。このギャップを埋めるための『運用支援委託費』を出せ」と迫るのです。
これは,彼らの「デジタル推進」というメンツを立てつつ,実質的な労働力を現場に引き込むための唯一の現実解です。

2 「法的リスク」の顕在化による交渉力の強化

(1) 「忙しさ」ではなく「国家賠償請求リスク」を突きつけよ

「忙しい」という訴えは届きません。これからは言葉を変えてください。

主語を「我々」から「国民」に変えるのです。 「業務過多により職員が疲弊している」ではなく,「現状のリソース不足により,最高裁が国民に対して約束している『適正・迅速な裁判』という『司法サービスの品質維持基準(サービスレベル)』が崩壊しつつある」と警告するのです。
確かに「国家賠償請求」という言葉は強力ですが、あまりに攻撃的すぎると当局は防衛的になり,かえって口を閉ざします。
そうではなく,「現状のままでは、処理期間の延伸やミスの多発により、国民に約束した司法サービスとしてのスペック(品質)を満たせなくなるが、当局はそれを経営判断として容認するのか」と、経営責任を問う形に変えるのです。

彼らが真に恐れているのは,職員の健康そのものよりも,「身内の裁判所から被告として断罪されること」はもとより,「事務処理ミスによる信頼失墜が,財務省からの『予算管理能力欠如』という評価につながり,さらなる予算削減(組織の擬似的な倒産)を招くこと」です。
「忙しい」は言い訳になりませんが,「国に金銭的な損害を与えるリスクがある」という指摘は,リスク管理上,無視できない警告となります。

抽象的な「健康不安」ではなく,具体的な「ミス発生のヒヤリハット事例」や「法令違反になりかねない長時間労働の実態」を記録し,それを組織防衛上の致命的なリスクとして突きつけることが最も有効です。

(2) 医師の意見書の最大活用と健康安全管理総括者への報告

可能な限り裁判所で働く医師を味方につけ,医学的な見地から「このままでは業務起因性の精神疾患が発生する蓋然性が高い」という意見書を作成してもらい,それを健康安全管理総括者である事務局総務課長に提出してください。
人事局や事務局長にとって,医師からの正式な警告(勧告)を無視することは,安全配慮義務違反の決定的証拠となるため,訴訟リスク等の観点から極めて困難です。「組合の要求」は無視できても,「証拠化された医師の警告」は無視できません。

最悪の場合,「業務停止勧告」すらあり得る状況を作り出し,ここを攻め口として,人員配置の見直しや業務量の削減を迫るのです。

3 「等価交換」による業務削減の断行

(1) 「努力義務」を逆手に取った「やらないことリスト」の提示

交渉記録にある「努力したい」という言葉を信じて待っていてはいけません。これからは,「金も人も出せないなら,仕事を減らせ」という等価交換を迫ってください。
「本来の役割・職務に注力して」(交渉記録のPDF17ページ)という彼らの言葉を逆手に取るのです。「注力するために,不要な業務を廃止します」と宣言し,デジタル化で代替できない,かつ法的義務のない付随業務――例えば,形骸化した内部統計の報告,儀礼的な調整会議,紙とデータの二重管理など――の「即時廃止リスト」を突きつけてください。
「仕事は減らさないが,人も増やさない」という現状維持は不可能であることを,業務の「断捨離」リストを通じて可視化するのです。

これは「サボタージュ」ではありません。限られたリソースを最適配分するための「経営判断」を,現場から突き上げるのです。
「定員削減を受け入れる代わりに,業務も削減させる」。この等価交換(バーター取引)こそが,唯一の対抗策です。

(2) 付随的業務の即時廃棄とバーター取引

「増員がゼロ回答なら,我々はこの業務をやめます」というバーター条件を提示するのです。もちろん,スト権のない公務員が職務放棄することはできませんが,「優先順位の低い業務の先送り」や「サービス残業の拒否による業務の停滞」は,管理者にとって強烈なプレッシャーとなります。
事務総局が最も嫌がるのは,「現場が回らなくなること」です。彼らが定員削減を押し付けるなら,現場は「サービスの質(スピードや丁寧さ)の低下」で対抗するしかありません。「資源が足りないのだから,処理が遅れるのは当然である」という開き直りを,組織として共有する覚悟が必要です。

第4 結論:幻想を捨てて戦略的に対峙せよ

あなたは,どこかで「事務総局も同じ裁判所の仲間だ」「話せば分かる」と思っていませんか?その甘さを捨ててください。彼らは,あなた方の敵ではありませんが,味方でもありません。彼らは「国家の予算と定員を管理し,組織を延命させるためのマシーン」です。
彼らは,国会には「問題ない」と虚飾し,財務省には「効率化する」と誓約し,その矛盾の全てを現場の「運用」という名の犠牲で埋め合わせています。
彼らもまた,財務省や内閣人事局という巨大な壁の前で,論理の枯渇に苦しんでいます。だからこそ,感情論ではなく,彼らの論理(予算制度,効率化,リスク管理)を利用した「交渉」が必要なのです。
「言っても無駄」と諦めてはいけません。交渉記録に「現場の実態(超過勤務の実数,システムの不具合,メンタル不調)」を文字として残し続けることこそが,将来的に彼らが責任を問われる際の「証拠」となり,彼らが最も恐れる「リスク」となるからです。

「最高裁は,あなた方を守るために『人件費』という財布を開くことはできない。しかし,『物件費』や『リスク管理』という財布なら開くことができる。」
この冷厳な現実を直視し,提供された資料(予算書)という「武器」を手に取ってください。そこに書かれている数字は,彼らが財務省と結んだ「契約書」そのものです。

その数字の裏にある「弱点(定員削減の約束と現場実態の乖離)」を突き,彼らが逃げられない論理で「取引」を持ちかけること。
「被害者意識」を捨て,組織のリソースを管理する「経営者」の視座を持ってください。

「木を見て森を見ず」の状態から脱却し,組織全体のリソース配分(スクラップ・アンド・ビルド)を自ら提案するのです。
現場の実情を知るあなた方だからこそ,「どこに人が余っており(例えば減少する少年事件),どこに足りないのか。」を冷静に分析し,痛みを伴う配置転換も含めた対案を示すことができます。
これまでの「お願い(陳情)」を止め,組織の生存をかけた「ビジネスライクな交渉」へと脱皮すること。
それが,財務省という巨大な壁を前に立ちすくむ事務総局を動かし,ひいてはこの閉塞した状況を打破し,組合員を守るための唯一の道なのです。

(AI作成)下級裁判所の裁判官の配置定員(令和7年4月)に関するAI裁判官らの本音

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
「下級裁判所の裁判官の定員配置」平成28年通達及び令和7年通達を掲載しています。
「(AI作成)下級裁判所の裁判官の配置定員に関するAI裁判官らの座談会」も参照してください。

目次

第1 はじめに

第2 裁判官の配置定員に関する通達の全体像と分析視座
1 本件文書の概要と基礎知識
2 「定員(配置定員)」と「現員(現在員)」の決定的差異

第3 裁判官の本音と実情
1 東京一極集中の加速と「焼け石に水」の徒労感
2 「付加定員」の倍増が示唆する激務のシグナル
3 地方裁判所における「定員1減」が招く合議体崩壊の危機

第4 裁判所書記官から見た定員配置
1 判事補定員と書記官業務の相関関係
2 簡易裁判所の統廃合と「総合配置」という名の労働強化

第5 弁護士が読み解く訴訟戦略とリスク管理
1 「一人支部」リスクと忌避できない恐怖
2 合議体の組成可能性と裁判の長期化予測

第6 家庭裁判所調査官及び調停委員の視点
1 家裁定員の微増と事件の質的変化の乖離
2 調停現場における「裁判官不在」の慢性化

第7 【補論】未特例判事補の「東京集中」が招く司法の均質化
1 数字が語る「いびつな教育環境」
2 「大規模庁育ち」の弊害と「現場力」の低下
3 結論:均質化する司法への懸念

第8 総括

第1 はじめに

法曹界には,毎年春になるとひっそりと,しかし極めて重大な意味を持って発出される内部文書が存在する。それが「下級裁判所の裁判官の定員配置について」と題された最高裁判所事務総長通達である。

今般,平成28年3月25日付の「『下級裁判所の裁判官の定員配置について』の一部改正について(依命通達)」及び令和7年3月28日付の同名通達(以下,これらを総称して「本件文書」という。)の内容を精査した。
一見すると,無機質な数字が羅列されただけの行政文書に見えるかもしれない。しかし,現場の裁判官,書記官,そして我々弁護士にとって,この数字の増減は,明日からの「激務の度合い」,「転勤の運命」,ひいては「司法サービスへのアクセス」そのものを左右する死活問題が記された予言書に他ならない。

本稿では,法律実務家としての長年の経験に基づき,単なる統計の比較にとどまらず,そこに隠された法曹三者及び裁判所職員の「偽らざる本音」を,あたかも彼らの肉声が聞こえてくるかのような解像度で徹底的に言語化し,解説を試みるものである。

第2 裁判官の配置定員に関する通達の全体像と分析視座

1 本件文書の概要と基礎知識

本件文書は,下級裁判所における裁判官の定員法に基づき,具体的にどの裁判所(本庁・支部・簡易裁判所)に何人の裁判官を配置するかという,最高裁判所事務総局の意思決定を示すものである。

ここで注目すべきは,約9年前の平成28年通達と,最新の令和7年通達の比較である。例えば,日本の司法の中枢である東京地方裁判所の定員推移を見るだけでも,司法行政が直面している課題が浮き彫りになる。

また,定員には「基礎定員」と「付加定員」の2種類が存在する。「基礎定員」とは,その裁判所の規模や通常の事件数に応じて恒常的に配置される定員である。対して「付加定員」とは,未済事件の急増や,かつてのオウム真理教事件のような特異かつ巨大な事件処理のために,時限的措置として上乗せされる定員を指す。この「付加定員」の増減こそが,その裁判所が現在進行形で抱えている「炎上案件」の有無を示すバロメーターとなるのである。

2 「定員(配置定員)」と「現員(現在員)」の決定的差異

本論に入る前に,読者諸賢,特に若手の弁護士や修習生に強く認識しておいていただきたいことがある。それは,本件文書に記載された「定員」は,あくまで財務省との予算折衝を経て確保された「予算上の枠(ハコ)」に過ぎず,実際にその人数がその庁に在籍し執務している「現員(ナカミ)」とは必ずしも一致しないという冷厳な事実である。

例えば,東京地方裁判所の定員には,司法研修所の教官として出向している者や,最高裁判所事務総局で行政事務に従事している者の「籍」が含まれている場合がある。また,産休・育休や病気休職による欠員が埋められていないケースも散見される。
したがって,「定員が増えたから裁判が早くなる」と短絡的に考えるのは早計であり,実働部隊が何人いるかは,実際の期日の入り方や,次回期日が2か月先しか指定されない現状を見て判断しなければならない。
この視点(いわゆる「山中理司弁護士のブログ」的なリアリズム)を欠いては,本件文書の本質を理解することはできない。

第3 裁判官の本音と実情

1 東京一極集中の加速と「焼け石に水」の徒労感

まず,現場の指揮官である所長や部総括判事,そして現場を回す判事たちの本音に迫る。

令和7年通達の別紙3ページ目を参照されたい。ここには東京地方裁判所の定員が以下のように記されている。

「地方 東京 判事・職権特例判事補 基礎定員243」

一方で,平成28年通達の別紙4ページ目を確認すると,同箇所は以下のとおりである。

「地方 東京 判事・職権特例判事補 基礎定員232」

この約9年間で,東京地裁の基礎定員は11名増加している。これを見た東京地裁の裁判官たちは,果たして歓喜しているだろうか。否,彼らの本音は恐らく次のようなものであろう。

「確かに人は増えた。しかし,それ以上に事件が複雑化・巨大化している。医療過誤,建築紛争,知的財産,システム開発紛争……一件一件の記録の分厚さは9年前の比ではない。10人程度の増員では,まさに『焼け石に水』だ。」

特に,大規模な民事訴訟や世間の注目を集める刑事事件が集中する東京では,定員増は歓迎されつつも,実働部隊としての個々の負担感は依然として限界値を超えているのが実情である。

2 「付加定員」の倍増が示唆する激務のシグナル

さらに深刻なのが「付加定員」の数字である。

平成28年通達では,東京地裁の付加定員は「13」であった。ところが,令和7年通達では,これが「26」へと倍増しているのである。

「付加定員」がついているということは,司法行政の観点から見て,そこに「火消し」が必要なほどの未済事件の滞留や激務が存在することを意味する。もちろん,人事局の建前としては,これは裁判員裁判対象事件への手厚い対応や,審理期間短縮のための政策的な増員であり,法律改正を待たずに柔軟に対応するための「バッファ(調整弁)」としての機能も有している。しかし,この数字を見た地方勤務の裁判官は,次回の異動内示に戦々恐々とするだろう。

「東京地裁の付加定員が倍増している。これは,通常のローテーション人事とは別に,複雑困難事件の合議率を上げるための『火消し部隊』としての召集令状が大量に発行されるということだ。あそこには異動したくない……」

組織としてはバッファを用いた柔軟な対応であるが,個人の裁判官にとっては,付加定員枠での異動は「激戦地への投入」を意味し,ワークライフバランスの崩壊を予感させる不吉な兆候なのである。

3 地方裁判所における「定員1減」が招く合議体崩壊の危機

一方で,地方の裁判所に目を向けると,別の悲鳴が聞こえてくる。

令和7年通達の98ページによれば,札幌地方裁判所の「判事・職権特例判事補」の基礎定員は「24」となっている。

これを平成28年通達の48ページと比較すると,当時は「25」であった。すなわち,1名の減員である。

大規模庁における1名の減員は誤差の範囲かもしれないが,地方の中規模庁や支部における「1減」は,致命的な意味を持つ。部総括判事はこう嘆くだろう。

「この1名が減るだけで,合議体(裁判官3名による審理)を組むパズルが成立しなくなるんだ。誰かが急病で倒れたら,もう裁判が止まってしまう。」

また,令和7年通達の11ページ,水戸地裁の支部を見てみると,土浦支部が基礎定員6名に対し,下妻支部は基礎定員4名となっている。これがさらに小規模な支部になると,定員が「1」や「2」となる。

ギリギリの人数で回している地方の現場にとって,定員表上の「マイナス1」は,単なる数字の減少ではなく,司法機能の維持そのものを脅かす「合議体崩壊の危機」として受け止められているのである。

第4 裁判所書記官から見た定員配置

1 判事補定員と書記官業務の相関関係

次に,裁判官を支える裁判所書記官の視点である。書記官にとって,裁判官の定員増は,直ちに「立ち会うべき法廷の数」や「作成すべき調書の量」の増加を意味する。

令和7年通達の3ページ目には,東京地裁について「その他の判事補 55」との記載がある。これは,いわゆる未特例判事補(単独で法廷を持てない若手裁判官)を含む数字である。

ベテランの主任書記官は,この数字を見てこうぼやくはずだ。

「裁判官の定員を増やすのは結構ですが,それに合わせて書記官や事務官の定員も比例して増やしてくれているんでしょうか。若手の判事補が多い部に配属されると,判決起案のサポートや訴訟指揮の事実上の補佐で,我々の負担は倍増するんです。」

裁判官だけが増員され,それを支える書記官部門の人的リソースが追いついていなければ,組織全体としての事件処理能力は向上しないばかりか,現場の疲弊を招くのみである。

2 簡易裁判所の統廃合と「総合配置」という名の労働強化

今回の令和7年通達で特に顕著なのが,簡易裁判所の定員配置における「総合配置」という記述の増加である。

例えば,令和7年通達の38ページ,和歌山家庭裁判所管内の簡易裁判所の表を見ていただきたい。「串本」及び「新宮」の欄に,「新宮支部と総合配置」との記載がある。また,令和7年通達の22ページ,長野の「佐久」や「諏訪」,「木曽福島」等でも同様の記載が見られる。

これを見た地方勤務の書記官や事務官の本音は,怒りに近いものであろう。

「『総合配置』といえば聞こえはいいですが,法的には『A簡裁にいながらB簡裁の事件も処理できる』という管轄権の共有であり,マンパワーの有効活用ということなのでしょう。しかし,現場感覚としては,要するに複数の裁判所を掛け持ちしろ,裁判官に随行して移動しろということですよね。山道を公用車で移動する時間だけで日が暮れますよ。その移動時間は事務処理ができないのに,事件数は変わらない。これぞ隠れたブラック労働です。」

定員表上の「1」や「総合配置」という文字の裏には,事件数の少ない庁に常駐させないことによる司法サービスの維持という大義名分と,過疎地域の司法インフラを維持するために,移動と業務効率化の狭間で苦悩する職員たちの汗と涙が滲んでいる。司法の合理化という名の下に,現場職員への物理的負担が看過されている現状が,この通達からは読み取れるのである。

第5 弁護士が読み解く訴訟戦略とリスク管理

1 「一人支部」リスクと忌避できない恐怖

我々弁護士にとって,この定員配置表は,どこに訴訟を提起すべきか(管轄の選択)を判断するための「リスク管理表」でもある。

令和7年通達の4ページ目,東京管内の島嶼部を見てみると,「八丈島 基礎定員1」,「伊豆大島 基礎定員1」とある。また,地方の多くの支部・簡裁も定員1名である。

これは何を意味するか。熟練の弁護士であれば,イソ弁(アソシエイト)にこう指導するはずだ。

「いいか,この地域で訴訟を起こすと,裁判官は一人しかいない。もし,その裁判官と相性が最悪だったり,過去にこちらの主張を全く聞かない不当判決を書かれた相手だったりしたら,どうなると思う?

忌避申立てなんてそうそう認められないから,事実上,逃げ場がないということだ。」

都会の大規模庁であれば,別の部に配点されることを祈る(あるいは配点操作にならない範囲で提訴時期を調整する)ことができるが,定員1名の支部や簡裁では,その裁判官が絶対的な権力者となる。本件文書で「1」という数字を見るたびに,地方の弁護士は「当たり外れ」の恐怖を感じ,可能であれば合意管轄等を利用して本庁での審理を模索するのである。

2 合議体の組成可能性と裁判の長期化予測

少し専門的な話になるが,中規模支部における定員も重要なチェックポイントである。

令和7年通達の5ページ目,横浜地裁小田原支部を見てみると,「判事・職権特例判事補10」とある。これだけの人数がいれば,常設の合議体を複数組むことができ,複雑な医療過誤事件や大型事件も支部で迅速に処理可能と推測できる。

しかし,これがもっと小さな支部,例えば令和7年通達の11ページ,水戸地裁龍ケ崎支部を見ると,「判事・職権特例判事補2」となっている。

これを見た弁護士の思考回路はこうだ。

「裁判官が2人しかいない。もし事件が複雑化して合議事件(裁判官3名)になったらどうする?

本庁(水戸)から誰か応援に来るのを待つのか,それとも非常勤的に他の支部の裁判官と組むのか。いずれにせよ,日程調整が難航して裁判が長期化するのは目に見えている。依頼者の利益を考えれば,多少遠くても本庁に提訴すべきだ。」

つまり,本件文書における定員数は,弁護士にとって「迅速な裁判が期待できるか否か」を見極めるための戦略マップなのである。

第6 家庭裁判所調査官及び調停委員の視点

1 家裁定員の微増と事件の質的変化の乖離

近年,児童虐待や成年後見,高葛藤の離婚事件など,家庭裁判所が扱う事件は社会問題化し,その重要性は増すばかりである。しかし,定員表の推移はどうなっているか。

令和7年通達の3ページ目,東京家庭裁判所の欄を見ると,「家庭 判事・職権特例判事補36」となっている。

平成28年通達の4ページ目では,「家庭 判事・職権特例判事補31」であった。

9年間で5名の増員である。これをどう評価すべきか。昨今の公務員定員削減の嵐が吹き荒れる中,財務省主計局との壮絶な折衝を経て「純増5」をもぎ取った人事局の成果は,行政的には「画期的な勝利」と言えるかもしれない。

しかし,現場の家庭裁判所調査官の本音は冷ややかだ。

「5人増えた?

確かに数字上はそうです。行政側の苦労も分かります。でも,事件の『質』の変化を見てください。親権争いは泥沼化し,少年の非行はSNS絡みで複雑化している。裁判官が5人増えたところで,一件一件にかけられる時間が劇的に増えるわけではありません。我々調査官が心血を注いで作成した調査報告書を,裁判官はじっくり読み込む時間があるのでしょうか。」

地裁(民事・刑事)の定員増に比して,家裁の増員は常に「後回し」にされている感覚。これが,家裁現場の専門職たちが抱える慢性的な不満の種である。「行政側の最大限の努力」と数字上の「微増」は,現場の「激増する負担」を全くカバーできていないのである。

2 調停現場における「裁判官不在」の慢性化

最後に,市民と裁判所をつなぐ調停委員の方々の本音である。調停委員は,調停室で当事者の話を聞き,調整を行うが,最終的な合意の確認や法的に難しい局面では,裁判官(調停主任)の出番が不可欠である。

しかし,定員がカツカツの裁判所では,裁判官は通常の訴訟対応に忙殺され,調停室になかなか顔を出せない。

令和7年通達の各管内の表を眺めながら,調停委員はこう嘆息する。

「定員が増えたと言っても,結局は訴訟の方ばかりに人が割かれている。調停は我々民間人に丸投げではないか。もっと『調停官』(弁護士から任官する非常勤裁判官)や,調停に専念できる裁判官を配置してくれないと,当事者が心から納得する解決なんてできませんよ。」

特に,「基礎定員」のみで「付加定員」がない小規模庁では,裁判官の余裕のなさがダイレクトに調停現場に伝播し,調停委員が板挟みになるケースが後を絶たないのである。

第7 【補論】未特例判事補の「東京集中」が招く司法の均質化

定員表の数字をさらに深く読み込むと,日本の司法の未来を担う「若手裁判官の育て方」における,ある危機的な傾向が見て取れる。それは,「未特例判事補(任官5年未満の若手)」の配置における極端な偏りである。

1 数字が語る「いびつな教育環境」

まず,客観的な数字を見ていただきたい。

令和7年通達における,東京地方裁判所の「その他の判事補(未特例判事補)」の定員は「55名」である。

これに対し,例えば四国全域を見てみるとどうなるか。

・高松地裁:2名

・徳島地裁:2名

・高知地裁:2名

・松山地裁:3名

四国4県の県庁所在地にある地裁本庁をすべて合わせても,わずか「9名」である。東京地裁1庁だけで,四国全土の6倍もの新人・若手を抱えている計算になる。

2 「大規模庁育ち」の弊害と「現場力」の低下

人事局の意図は明白だ。指導体制が整い,多様な事件がある東京で集中的に教育を行いたいという効率性の追求である。しかし,これには重大な「影」の部分がある。

(1) 「部品化」する若手たち

東京地裁のようなマンモス庁では,若手は巨大な合議体(裁判官3名のチーム)の「左陪席(ひだりばいせき)」として組み込まれる。そこでは,先端的な企業法務や大規模訴訟に触れる機会はあるものの,あくまで巨大なシステムの一部として機能することが求められる。

一方で,地方の現場でこそ学べる「生の事件」――例えば,当事者の感情がむき出しになった離婚調停や,地域の慣習が絡む近隣トラブル,泥臭い境界紛争――を,自らの肌感覚として処理する経験が圧倒的に不足する。「法理論には強いが,人間の機微が分からない」「判決は書けるが,当事者を説得して和解させる力がない」という,頭でっかちな裁判官が量産されるリスクがあるのだ。

(2) 地方における「教える文化」の断絶

かつては,地方の中規模庁にも数名の若手がおり,ベテランの部総括判事が膝を突き合わせて「裁判官魂」を説く光景があった。しかし,定員が「2名」や「1名」まで絞り込まれた地方庁では,若手同士の切磋琢磨もなければ,多忙な部総括が手取り足取り教える余裕もない。

地方から若手が消えるということは,地方の裁判所から「次世代を育てる機能」が失われることを意味する。これは,将来その若手が10年選手となり,地方支部の支部長として一人で赴任した際,地域社会に溶け込めず,独善的な訴訟指揮をしてしまうリスクに直結する。

3 結論:均質化する司法への懸念

本件文書が示す「未特例判事補の東京集中」は,効率的なOJTの名の下に進められる「裁判官の均質化(金太郎飴化)」の証左である。

大規模庁の温室で,洗練されたマニュアル通りに育ったエリートたちが,将来,泥臭い紛争現場に放り出されたとき,果たして国民が納得する「人間味のある解決」を提供できるのか。定員表の無機質な数字の偏りは,10年後,20年後の司法の「質」に対する静かなる警鐘を鳴らしているのである。

第8 総括

以上,平成28年と令和7年の「下級裁判所の裁判官の定員配置について」の改正通達を素材として,各職種の本音と実情を分析してきた。

本件文書が示すのは,単なる人員配置の数字ではない。令和7年通達の別紙1ページ目にある「東京高等裁判所 基礎定員125 付加定員1」という一行と,平成28年通達の別紙3ページ目にあった「東京高等裁判所 基礎定員126 付加定員4」という一行。このわずかな数字の変化の中に,裁判所組織のスリム化への圧力,事件動向の変化(高裁事件数の推移や地裁へのシフト),そして何より,そこに配置される人間たちの人生が凝縮されているのである。

我々法律実務家は,公表された数字を鵜呑みにすることなく,その裏にある「実態」を見抜く目を持たなければならない。定員表は,司法がどこに力を入れ,どこから撤退しようとしているのかを示すマクロな意思表示であると同時に,毎日記録を読み,判決を書き,当事者と向き合う一人一人の法曹関係者の汗とため息が隠された,極めて人間臭いドキュメントなのである。

今後も,こうした司法行政の基礎資料から目を逸らすことなく,司法の現場で何が起きているのかを注視し続けていきたい。

(AI作成)下級裁判所の裁判官の配置定員に関するAI裁判官らの座談会

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
「下級裁判所の裁判官の定員配置」平成28年通達及び令和7年通達を掲載しています。
「(AI作成)下級裁判所の裁判官の配置定員(令和7年4月)に関するAI裁判官らの本音」も参照してください。

【座談会】裁判官たちの「定員配置」本音トーク

~令和7年春、山中ブログを見ながら~

【登場人物】

  1. 地裁所長(所長): 60代。組織管理と予算獲得に頭を悩ませる。定員増は悲願。

  2. 家裁所長(家裁): 50代後半。急増する家事事件に対し、人員不足に危機感を抱く。

  3. 部総括判事(部長): 50代。現場の指揮官。合議体の構成や若手育成が重荷。

  4. 判事(中堅): 30~40代。実務の主力。激務と転勤に疲弊気味。

  5. 特例判事補(特例): 判事補任官から5年経過10年未満。単独事件を持てる「ほぼ判事」。

  6. 未特例判事補(若手): 任官5年未満。合議体の陪席専門。将来のキャリアと数字に興味津々。


第1章:通達の衝撃と「山中ブログ」の存在感

所長:さて、皆さん。今年もこの季節がやってきましたね。令和7年3月28日付、最高裁判所事務総長からの通達「下級裁判所の裁判官の定員配置についての一部改正について」です。施行は4月1日から。毎度のことながら、年度末ギリギリの通知ですね。

若手:所長、その通達の全文なんですが、裁判所のイントラネットで探すよりも、山中理司弁護士のブログを見た方が早いって先輩に言われたんですが、本当ですか?

部長:おいおい、若手くん。所長の前でそれを言うかね(苦笑)。まあ、否定はしないがね。実際、山中先生のブログは、我々が人事異動の内示を受けた後に「全体像」を把握するのに不可欠なツールになっているのは事実だ。今回ご提供いただいたPDFのような「定員配置表」も、山中先生がきっちりアップロードしてくださっているから、我々もスマホで帰りの電車の中で確認できたりするわけだ。

中堅:そうですね。特に我々実務家にとっては、自分が所属する庁の定員がどう変化したのかは死活問題ですから。今回も、令和7年の通達と、比較対象として平成28年の通達を見比べて、ため息をついているところです。

特例:ため息ですか? 定員、増えてないんですか?

所長:そこなんだよ。まずは全体像を見てみようか。令和7年の通達の別紙1ページ目(PDFの2ページ目)を見てくれたまえ。東京高等裁判所の定員配置が書かれている。

「長官1人、基礎定員125人、付加定員1人、合計126人」となっているね。

家裁:平成28年の通達(PDFの3ページ目)を見ると、当時は「基礎定員126人、付加定員4人、合計130人」でした。あれ? 9年前より東京高裁の定員、減っていませんか?

部長:おっと、いきなり核心を突きますね。合計で4人減っています。高裁レベルで定員が減るというのは、事件数の推移や、あるいは地裁へのシフトを示唆しているのかもしれません。しかし、現場の感覚としては高裁も決して楽ではないはずですが。

中堅:山中先生のブログでもよく分析されていますが、裁判官の総員自体は大きく増えていない中で、どこを手厚くするかという「配置のパズル」なんですよね。


第2章:東京地裁という「巨大組織」の数字

若手:僕、東京地裁の数字を見て驚きました。令和7年通達(PDFの3ページ目)を見ると,「東京地方裁判所」の欄、「基礎定員」の「判事・職権特例判事補」が「243人」になっています。これってすごい数ですよね。

特例:ちょっと待って。その表の見出し、すごく重要だよ。「判事・職権特例判事補」と「その他の判事補」で列が分かれているだろう?

平成28年通達(PDFの4ページ目)を見ると、「判事・職権特例判事補」の基礎定員は「232人」だったんだ。

中堅:なるほど。つまり、この9年間で東京地裁の「一人前として事件を処理できる裁判官(判事+特例判事補)」の基礎定員は、232人から243人へと、11人増えたということですね。

部長:11人の増員か…。正直に言おう。「焼け石に水」だ。

近年、複雑困難な訴訟、特に医療過誤、建築紛争、知的財産、そしてシステム開発に絡む訴訟は増加の一途を辿っている。判決書を書く労力は9年前の比ではないんだ。11人増えたところで、部の数が劇的に増えるわけではない。結局、一人当たりの負担感は変わらないか、むしろ増しているのが「本音」だよ。

所長:それに加えて注目すべきは「付加定員(ふかていいん)」だ。

令和7年通達(PDFの3ページ目)、東京地裁の付加定員の欄を見てごらん。「判事・職権特例判事補」が「26人」となっている。

若手:「付加定員」って何ですか? オマケみたいなものですか?

所長:言葉を選びたまえ(笑)。付加定員というのは、未済事件が積み上がったり、特殊な事件が発生したりといった「一時的な事由」に基づいて暫定的に配置される定員のことだ。

しかしね、東京地裁で「26人」もの付加定員が常態化しているということは、もはやそれは「一時的」ではなく「慢性的」な人員不足を埋め合わせるためのものだと言わざるを得ない。

部長:その通りです。基礎定員243人に付加定員26人を足すと、判事級だけで269人。これが東京地裁の実働部隊の規模です。これだけの人数を動かす所長の苦労も察しますが、現場としては「付加」ではなく「基礎」定員としてしっかり予算措置をしてほしいところです。


第3章:地裁支部と「特例判事補」の悲哀

特例:私の立場から気になったのは、同じ3ページ目の「立川支部」です。

「基礎定員・判事・職権特例判事補」が「35人」となっています。これ、県庁所在地の地方裁判所本庁よりも多いんじゃないですか?

中堅:鋭いね。例えば、少しページを飛ばしてPDFの7ページ目、「さいたま地裁」の全体を見てみよう。本庁の基礎定員(判事級)は「29人」だ。

つまり、東京地裁の「支部」である立川支部(35人)の方が、埼玉県の「本庁」であるさいたま地裁(29人)よりも、判事の数が多いんだよ。

若手:ええっ! 立川ってそんなに巨大なんですか!?

部長:立川は多摩地域全域を管轄するからね。人口規模も事件数も半端ではない。山中ブログでも、立川支部の規模の大きさや、そこでの激務ぶりは度々話題になっているよ。

だからこそ、人事配置においては「立川行き」を命じられると、「本庁並み、いやそれ以上の激務が待っている」と覚悟を決める者もいる。

特例:そして、この表の「判事・職権特例判事補」という括(くく)りが、私にはプレッシャーなんです。

裁判所法施行直後は「判事」と「判事補」で明確に分かれていたのが、今は特例判事補(任官5年以上)は判事と同様に「単独事件」を処理できる戦力としてカウントされています。

表の中で判事と合算されているのを見ると、「お前はもう半人前じゃない、判事と同じ数をこなせ」と言われているようで、胃が痛くなります…。

所長:まあまあ。それだけ期待されているということだよ。実際、特例判事補の諸君がいなければ、支部や家裁の現場は回らないからね。


第4章:家裁の悲鳴と「付加定員」の少なさ

家裁:さて、私の出番ですね。地裁の話ばかり盛り上がっていますが、家庭裁判所の数字を見てください。

令和7年通達(PDF3ページ目)では、「東京家庭裁判所」の基礎定員(判事級)は「36人」です。

平成28年通達(PDFの4ページ目)では「31人」でした。5人増えています。

中堅:お、地裁より増加率が高いじゃないですか。よかったですね。

家裁:とんでもない! 「5人増」なんて、今の家裁の現状を知らないから言えることです。

成年後見、児童虐待に伴う親権停止、複雑化する遺産分割…。家裁に持ち込まれる事件は、法的判断だけでなく、社会福祉的な調整や感情的な対立の処理が必要で、一件一件に凄まじい手間がかかるんです。

それなのに、東京全体で判事級が36人? 立川支部の地裁部門(35人)とほぼ同じですよ? 日本の首都の家事事件を一手に引き受ける本庁が、これで足りると思いますか?

部長:確かに…。家裁の合議事件も増えていますしね。

家裁:さらに見てください。令和7年通達(PDFの5ページ目)、「横浜家庭裁判所」。基礎定員(判事級)は「17人」です。

平成28年通達(PDFの6ページ目)では「14人」でした。ここも微増ですが、神奈川県の人口と家事事件の多さを考えれば、全く足りていません。

所長として言わせてもらえば、家裁こそもっと大胆に「付加定員」を割り当ててほしい。しかし、令和7年の表(3ページ目)を見ると、東京家裁の付加定員は判事級で「5人」。地裁の「26人」に比べると、どうしても「地裁主導、家裁従属」の定員配置に見えてしまうんですよ。

中堅:耳が痛いですね。山中先生のブログでも、家裁への人員シフトの必要性は議論されることがありますが、予算と定員の壁は厚い。


第5章:簡易裁判所の「総合配置」というカラクリ

若手:細かいところなんですが、令和7年通達(PDFの4ページ目)、簡易裁判所の表を見ていて気になったことがあります。

「東京」の簡易裁判所は基礎定員「96人」で圧倒的ですが、その下に「伊豆大島」「1人」、「八丈島」「1人」とあります。

これは、島に裁判官がたった一人ということですか?

部長:そうだよ。いわゆる「一人庁」だ。

これは若手にとっては一つの登竜門でもあり、ベテランにとっては静かな(しかし孤独な)任地でもある。

島での生活は、公私混同が許されない。スーパーで買い物をしていても「あ、裁判官だ」と見られる。法的助言を求めてくる島民もいるかもしれないが、公平性を保つために距離を置かなければならない。

定員「1人」という数字の裏には、そういう重い孤独があるんだ。

特例:あと、気になったのが、PDFの18ページ目、「静岡」の簡易裁判所の表です。

「下田」の欄に定員数が書かれておらず、「下田支部と総合配置」と書かれています。これってどういう意味ですか?

他にも、PDFの14ページ目、栃木の「真岡」も「真岡支部と総合配置」となっています。

所長:よく気づいたね。これは「定員の弾力的な運用」の一つだ。

「総合配置」というのは、簡易裁判所の裁判官定員を、同一庁舎や近隣にある地方裁判所支部の裁判官定員と「一体化」して運用する仕組みだ。

つまり、下田簡裁専属の裁判官を置くのではなく、下田支部の地裁・家裁の裁判官が、簡裁の仕事も兼務してカバーするということだ。

中堅:ぶっちゃけて言えば、「簡裁の事件数が減ってきて、専任を置く余裕がない、あるいは置く必要がない」場所ということです。

効率化といえば聞こえはいいですが、兼務させられる裁判官からすれば、「地裁の難しい合議案件をやりながら、簡裁の少額訴訟や交通略式もさばく」という、頭の切り替えが大変な状況になります。

部長:特に地方の支部では、この「兼務」が当たり前になっている。表の上では「定員なし」に見えても、誰かが必ずやっているんだ。数字の空白には、兼務裁判官の汗が染み込んでいるんだよ。


第6章:西の横綱、大阪の事情

所長:東の話ばかりになったが、西も見ておこう。

令和7年通達のPDF26ページ目以降だ。「大阪高等裁判所」は、長官1人、基礎定員73人。

そして「大阪地方裁判所」(PDF27ページ目)は、基礎定員(判事級)が115人、付加定員が12人だ。

中堅:東京地裁(基礎243+付加26=269)と比較すると、大阪地裁(基礎115+付加12=127)は、半分以下の規模なんですね。

もちろん大阪も大都市ですが、東京の一極集中ぶりが、この定員配置表からも如実に分かります。

家裁:大阪の簡易裁判所(PDFの28ページ目)も見てください。

「大阪簡易裁判所」の基礎定員は34人。

平成28年通達(PDFの16ページ目)では、大阪簡裁の基礎定員は44人でした。

なんと、10人も減っています! これはどういうことでしょう?

部長:これは驚きだ。10人減はドラスティックだね。

考えられる理由としては、過払い金返還請求訴訟の激減だ。平成20年代は、簡裁といえば過払い金訴訟の山だった。それが一巡して落ち着いてきたことで、簡裁の事件数が減少し、その分の定員を地裁や家裁、あるいは東京に回したのだろう。

山中先生のブログでも、過払い金バブルの崩壊と簡裁事件数の減少についてはデータ分析があったはずだ。まさにそのトレンドが、この「マイナス10」という数字に表れている。

若手:定員表って、単なる数字の羅列かと思っていましたが、社会の変化がそのまま反映されているんですね。


第7章:現場の「本音」とこれからの司法

所長:さて、色々と数字を見てきたが、最後に皆の本音を聞かせてくれないか。この定員配置で、令和7年度、戦っていけるかい?

特例:正直、厳しいです。特例判事補として、一人前の判事と同じ枠で数えられていますが、経験値の差はいかんともしがたい。それでいて、定員が増えない地方の支部などでは、膨大な記録と格闘しなければなりません。「定員」という数字の中に、僕らの「成長のための時間」は考慮されているんでしょうか。

若手:僕は、東京地裁の「付加定員26人」という数字を見て、自分が将来そこに含まれるかもしれないと思うと、少し怖いです。「付加」ということは、いつ異動を命じられても文句は言えないってことですよね? 安定した身分だと思って裁判官になりましたが、配置の実態は案外シビアなんだなと。

家裁:家裁としては、声を大にして言いたい。「事件の質が変わった」と。数字上の事件数が微増でも、一件にかかる労力は倍増しています。定員表の数字を決定する事務総局の方々には、ぜひ現場の記録の「分厚さ」と、当事者の「感情の重さ」を見ていただきたい。もっと人をください。切実に。

中堅:私は、転勤族としての本音を。

定員表を見ると、例えばPDFの42ページ目、「名古屋地方裁判所」の管内でも、定員の増減があります。

定員が減らされた支部から、増やされた本庁へ異動する時、引越しや家族の生活への影響は甚大です。

「別表を別紙のように改める」というたった一行の改正文の裏で、何十人もの裁判官家族が段ボール詰めをしている。その痛みも含めて、この通達を読み解く必要がありますね。

山中先生のブログに、異動情報の詳細が出るたびにアクセス数が跳ね上がるのも、みんな自分の生活がかかっているからですよ。

部長:うまくまとめたな(笑)。

結局のところ、我々は与えられた定員の中で、目の前の事件を適正・迅速に処理するしかない。

「判事○○人」という数字の一つ一つに、生身の人間がいる。

司法の独立といっても、予算と定員は国会や内閣の理解がないと得られない。

本件文書は、司法行政がいかにして限られたリソース(定員)を、火の車である現場(東京や家裁)に配分しようと苦心したかの「血の跡」でもあるんだよ。

所長:うむ。その通りだ。

令和7年4月1日から、この新しい体制で日本の司法が動く。

定員が増えたところも減ったところも、国民の権利を守るという使命は変わらない。

愚痴はこのくらいにして、新しい年度も頑張ろうじゃないか。

…さて、若手くん。山中ブログの更新チェックもいいが、起案の締め切りは守ってくれたまえよ?

若手:は、はい! すぐに取り掛かります!

(一同、笑いとともに解散)


【解説とまとめ】

以上の座談会では、提供された2つの通達(R07.3.28改正とH28.3.25改正)を比較し、以下のポイントを浮き彫りにしました。

  1. 東京一極集中と付加定員: 東京地裁の基礎定員が増加傾向にある一方、慢性的な不足を「付加定員(26人)」で補っている実態。

  2. 家裁の逼迫: 東京家裁などで定員増は見られるものの、事件の質的変化に対して現場の増員要求は依然として強いこと。

  3. 簡裁の変化: 過払い金訴訟の減少等を背景に、大阪簡裁などで大幅な定員減が見られること。また、地方における「総合配置(兼務)」の常態化。

  4. 特例判事補の戦力化: 定員表上で判事と同列に扱われることによる、若手~中堅へのプレッシャー。

  5. 資料としての「山中ブログ」: 公式情報以上に、現場の裁判官にとって実用的な情報源として定着している現状。

文中では、「令和7年通達の3ページ目(東京地裁の定員)」「同28ページ目(大阪簡裁の定員)」など、具体的な記載箇所を引用しつつ、その数字が持つ意味を現場目線で解釈しました。これらの数字は、単なるデータではなく、日本の司法が抱える課題そのものを映し出しています。

(AI作成)最高裁長官の新年のことば(令和8年1月)に対するAI裁判官らの本音

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯出力文にある概算要求書は,「最高裁判所の概算要求書(説明資料)」に掲載している「令和8年度最高裁判所の概算要求書(説明資料)」のことです。

目次

第1 はじめに:新年のことばに見る組織の深層
1 文書の正体とは
2 「想定外」を前提とする敗北宣言

第2 裁判官たちの沈黙と絶望:梯子を外された現場の指揮官たち
1 地家裁所長の本音
2 部総括判事の本音
3 未特例判事補の本音

第3 書記官たちの悲鳴:矛盾する命令と崩壊する現場
1 首次席書記官の本音
2 主任書記官の本音
3 新人書記官の本音

第4 家裁調査官たちの苦悩:共同親権という時限爆弾
1 首次席・主任家裁調査官の本音
2 新人家裁調査官の本音

第5 調停委員たちの憤り:ボランティア精神の限界と搾取
1 敬意の欠如と過度な要求
2 デジタルデバイドによる切り捨てへの懸念

第6 総括と提言:この「デスマーチ」を生き残るための戦略
1 文書の裏にある真実の解読
2 現場のプロフェッショナルへの具体的アドバイス


第1 はじめに:新年のことばに見る組織の深層

1 文書の正体とは

令和8年1月5日,今崎幸彦最高裁判所長官による「新年のことば」が公表されました。この文書は,表面的にはデジタル化への決意と職員への配慮を装ったリーダーシップの表明に見えます。
しかし,さらにその裏付けとなる「最高裁の令和8年度概算要求書」の数字を突き合わせつつ現場のプロフェッショナルたちがこれを読めば,その背後にある「破滅的な丸投げ」と「狡猾な責任転嫁」を瞬時に嗅ぎ取ることでしょう。

本稿では,耳触りの良い解説ではなく,組織の力学と人間の心理に基づいた「残酷なまでの本音」を明らかにします。この文書が現場にどのような「絶望」と「覚悟」を強いているのか,各職種の視点から徹底的に解剖していきます。

2 「想定外」を前提とする敗北宣言

まず,全体のトーンに対する本質的な指摘から入ります。今崎長官のこの言葉は,希望を語るメッセージではありません。これは「巨大な免責事項(ディスクレーマー)」です。

長官は文書の中で,「想定外の事象の発生を零にすることは困難」であり,「ユーザーとなる職員の皆さんには申し訳ない」と,システムトラブルが起きることを前提に謝罪しています。
これは決して謙遜ではありません。実際,最高裁の令和8年度概算要求書においても,「民事訴訟手続のデジタル化に係るウェブ会議用アプリケーション利用料・ウェブ会議運用サポート費」や「民事訴訟手続のデジタル化に係るe事件管理及びe提出・e記録管理システムの運用保守等」として巨額の予算が計上されています。これは,当局側も「システムは運用保守(トラブル対応)こそが生命線である」と認識している証左であり,最高裁事務総局が,これから始まるデジタル化の大混乱を技術的に制御しきれないことを認め,「現場のマンパワーと根性でなんとかしろ」と宣言したに等しいのです。これを踏まえて,各職種の本音を聞いていきましょう。

第2 裁判官たちの沈黙と絶望:梯子を外された現場の指揮官たち

1 地家裁所長の本音

(1) 管理責任の重圧と「捨て駒」にされた感覚

「明けましておめでとう」という言葉が,これほど空々しく響く年も珍しいでしょう。所長たちが抱く本音,それは「梯子(はしご)を外された」という怒りです。

長官は民事訴訟法の改正,フェーズ3の開始について「万全の態勢」を求めています。しかし,そのすぐ後に「我々の組織はテクノロジーが得意ではないから,トラブルは起きる。申し訳ないが柔軟に対応せよ」と述べています。
これは所長たちに対し,事実上こう命じているのです。「システムは止まるし,バグも出るだろう。しかし,裁判を止めるな。弁護士会からのクレームは全部お前たちが現場で処理しろ。本庁(最高裁)にいちいち助けを求めるな。お前たちの庁で起きたトラブルは,お前たちの指導力不足だ」と。

(2) トラブル報告義務の裏にある懲罰的意図

所長たちは思います。「予算と権限を握る最高裁が『苦手だ』と開き直ってどうする。不完全なシステムを現場に押し付け,その尻拭いを『柔軟な対応』という精神論で管理職に強いるのか」と。
特に,「情報はできる限り早期にかつ幅広く共有されるべき」という一文は,トラブル隠しを疑われているようで不愉快であり,同時に「何かあったらコンマ1秒でも早く報告しなければ,お前たちのクビが飛ぶぞ」という脅しにも聞こえ,胃がキリキリと痛むのです。

2 部総括判事の本音

(1) 現場指揮官としての混乱と苛立ち

部総括にとって,民事フェーズ3と家事の共同親権導入のダブルパンチは,法廷運営の「崩壊」を意味します。長官は「事務の標準化」と言いますが,部総括の本音は「標準化どころか,無法地帯(カオス)だ」です。

「5月21日からのフェーズ3,本当にまともに動くのか?申立てがオンラインで届き,記録は電子化される。概算要求書には『民事訴訟手続のデジタル化に係るAI‐OCRシステムの運用保守業務』や『電子署名ソフトウェア利用料』が計上されており,紙資料の電子化や電子署名の付与といった新たな事務負担が現場にのしかかることは確定事項だ。しかし,法廷のモニターに証拠が映らなかったら?サーバーが落ちて記録が見られなかったら?その場で期日を延期するのか?その判断を現場の裁判長に委ねるというのか?」

(2) 法的責任への恐怖

「『トライアンドエラー』などと無責任なことを言うが,当事者の人生がかかった裁判でエラーなど許されるわけがない。エラーが起きれば,その責任を問われるのは我々裁判官だ。長官は『申し訳ない』の一言で済むかもしれないが,我々は法廷で代理人の怒号を浴び,再判決のリスクに怯えるんだ。民事非訟まで電子化しろと言うが,執行官との連携はどうなる?現場の動線すら確立していないのに『着実に準備』など,どの口が言うのか」

3 未特例判事補の本音

(1) デジタルネイティブの冷めた視線

若手の判事補たちは,もっと冷ややかです。概算要求書には「デジタル総合政策室」の経費として「情報セキュリティに関する調査」や「インシデント対応支援」が計上され,組織として対応を模索している形跡はあるものの,現場レベルでのITスキル格差を埋めるための具体的な「現場支援要員」の姿は見えてきません。
彼らが恐れているのは,システムそのものではなく,それに適応できない「上司(ベテラン裁判官)の介護(ITヘルプデスク業務)」です。

(2) 雑用への恐怖とキャリアへの不安

「『若手職員の新鮮な発想』を生かせと書いてあるが,これは美しい言葉で飾った『労働搾取』だ。結局,デジタルに疎いベテラン裁判官や書記官の代わりに,僕たちがシステムの操作方法を教え,トラブルシューティングをさせられるということだ。判決を書く時間は削られ,ITヘルプデスクのような雑用が増える。
その上,『トライアンドエラー』で業務改善もしろ?自分のキャリア形成に必要な法的研鑽をする時間はどこにあるんだ。合議のたびに『これどうやって開くんだっけ?』と聞かれる未来が見える。僕たちは裁判官になりに来たのであって,システムエンジニアになりに来たわけじゃない」

第3 書記官たちの悲鳴:矛盾する命令と崩壊する現場

1 首次席書記官の本音

(1) 矛盾する命令への「諦念」

組織の要である首次席書記官にとって,この文書は「実行不可能な特攻命令」です。

「長官は『事務の標準化』と『柔軟な働き方』を同時に求めている。しかし,民事フェーズ3という未知の領域で,どうやって標準化するんだ?毎日発生するシステムエラーや,想定外のオンライン申立てに対応するために,現場は泥臭い手作業とツギハギの対応に戻らざるを得ないだろう。それを『標準化』しろというのは,現場を知らなすぎる」

(2) 自己防衛本能の発動

「それに,『柔軟な働き方』と言いつつ,5月や4月の施行に向けた準備期間は『緊張感を持って』加速しろと言う。要するに,残業してでも,休日返上してでも間に合わせろということだ。働き方改革なんて,ただのスローガンじゃないか。部下には『早く帰れ』と言わなきゃいけないが,仕事は減らないどころか倍増する。板挟みで潰れるのは私だ」

2 主任書記官の本音

(1) 実務の最前線での「悲鳴」

主任書記官は,この長官メッセージを読んで,怒りで手が震える思いです。

「『ユーザーとなる職員の皆さんには申し訳ない』だと?謝って済む問題じゃない。システムが止まれば,弁護士からの電話を受けるのは私,立ち往生した法廷で裁判官と当事者の板挟みになるのも私だ。『想定外の事象』と言うが,我々にとってはそれが日常になる。長官は『一体となって』と言うが,本庁の開発担当者は現場の苦労なんて見て見ぬふりじゃないか」

(2) 見えない努力と怨嗟

「結局,システムが使いにくければ,私たちが裏でExcelで管理表を作ったり,紙をスキャンし直したりして,見えない努力で支えるしかない。概算要求書を見ても,『e事件管理』『e提出・e記録管理』『保管金事務処理システム』『最高裁汎用受付等システム』など,システムごとに連携改修費用が計上されており,我々はこれら複数のシステムを横断して操作しなければならないことが浮き彫りになっている。さらに,郵便料金の手数料化に伴う国庫負担(通信運搬費)の計上は,会計事務フローの激変を意味する。それを『合理化・効率化』と評価してくれるのか?フェーズ3開始時の混乱で,窓口で怒鳴られるのは誰だと思っているんだ。デジタル化で楽になるどころか,確認作業が3倍に増える未来しか見えない」

3 新人書記官の本音

(1) 理想と現実のギャップへの「困惑」

新人書記官にとって,この文書は恐怖と失望でしかありません。

「先輩たちはみんな殺気立っていて,質問できる雰囲気じゃない。長官の言葉にある『明るく風通しの良い職場』なんて,どこにもない。先輩に質問しようとしても,『今はフェーズ3の対応で手一杯だ!』と怒鳴られるのがオチだ。研修所で習った法律知識よりも,バグだらけのシステムの回避方法(ワークアラウンド)を覚える毎日」

(2) 失敗への恐怖と失望

「『本来の役割・職務に注力し』なんて書いてあるけど,今の仕事はただのデータ入力とシステムのエラーチェック,そして弁護士からの電話対応だ。これが私の憧れた裁判所の仕事なのか?『トライアンドエラー』なんて,新人がやったら『ミスだ』と叱責されるだけだ。失敗が許されるのは長官たち上層部だけで,私たち末端は完璧を求められる。理不尽だ」

第4 家裁調査官たちの苦悩:共同親権という時限爆弾

1 首次席・主任家裁調査官の本音

(1) 共同親権という「爆弾処理」

家裁調査官たちがこの文書で最も注目するのは,4月1日施行の改正民法,つまり「共同親権」に関する部分です。長官はさらりと「家裁の担う役割には重いものがあります」と述べていますが,これは調査官にとって「死刑宣告」にも等しい重圧です。

「『役割には重いものがある』という言葉は,『失敗は許されない』という脅迫に聞こえる。当局もその困難さは予測しているようで,概算要求書には『親子交流(面会交流)リーフレット』や『手続説明用リーフレット(親子交流)』の作成経費が計上されている。しかし,紙切れ一枚で親たちの葛藤が収まるわけがない。これまでの単独親権なら,どちらが監護者にふさわしいか比較考量すれば,ある程度の結論は出せた。しかし,共同親権となれば,激しく対立する父母の間に入り,具体的な養育計画の調整までしなければならない」

(2) リスク管理の限界

「DV(ドメスティック・バイオレンス)の見極めを一つ間違えば,子供の命に関わるし,世論から大バッシングを受ける。長官は『適切かつ合理的な審理運営』と言うが,ドロドロの感情のもつれ合いに『合理的』な解などない。一件あたりの労力は何倍にもなるのに,人は増えない。調査官のメンタルが壊れるのが先か,現場がパンクするのが先か,時間の問題だ。デジタル化で少年事件の検討もしろと言うが,生身の人間相手の仕事にデジタルの効率化なんて馴染まない」

2 新人家裁調査官の本音

(1) 責任の重さと「無力感」

「大学院で学んだ心理学や社会学の知識を生かそうと思って入庁したけれど,長官の言葉からは『件数をこなせ』『遅滞なく処理せよ』というプレッシャーしか感じない。『国民の信頼に応えていくことが期待されます』という言葉が重すぎる。先輩たちは『とにかくリスクを回避しろ』としか言わない」

(2) 心のケアとデジタルの乖離

「子供の福祉のために何が良いかじっくり考える時間なんて与えられないんじゃないか。概算要求書には『調査室用映像、音響機器』の整備として,親子の交流場面の観察(試行的面会交流)による調査の必要性が高まっていることが説明されている。観察し,分析し,報告書を書く。その上で,デジタル化による事務処理もこなさなければならない。デジタル化で効率化しろと言うけれど,人の心はデジタルじゃ処理できない。親たちの怒りや悲しみを一身に受け止めるのは私たちだ。システム画面に向かって仕事をするわけじゃない。長官は現場の『空気の重さ』を知らないんだ」

第5 調停委員たちの憤り:ボランティア精神の限界と搾取

1 敬意の欠如と過度な要求

調停委員の多くは,社会経験豊富な年配者や地域の名士です。彼らはこの文書を読んで,「敬意の欠如」と「過度な要求」を感じ取り,静かに怒っています。

「長官は『期日間隔の短縮』や『より踏み込んだ取組』を求めている。言っていることは分かるが,我々は非常勤の民間人だ。報酬は決して高くない,いわば名誉職的なボランティアだ。それなのに,法改正で共同親権という極めて難解でリスクの高い制度を理解し,その上,新しいデジタルツールまで使いこなせと言うのか」

2 デジタルデバイドによる切り捨てへの懸念

「『調停運営の在り方が大きく変化します』と他人事のように言うが,その変化に適応するための研修やサポートは十分なのか?概算要求書には,家事調停委員のなり手不足が深刻であり,60歳以上の委員が約66%を占めている(令和7年時点)という衝撃的なデータが示されている。その上で,『家事調停委員推薦依頼用パンフレット』を作成し,人材確保に躍起になっているが,これは裏を返せば,今いる我々が辞めたら代わりはいないということだ。我々の経験と良識に頼るばかりで,負担ばかり増やす。もっと早く結論を出せと急かすが,当事者の話を聞かずにどうやって納得させるんだ。Web会議システムを使えと言われても,接続トラブルが起きたら誰が直すんだ?デジタルの波に乗れない委員は『老害』として切り捨てられるのか。都合の良い時だけ『国民の参加』と言い,面倒な実務は丸投げ。これでは担い手がいなくなるぞ」

第6 総括と提言:この「デスマーチ」を生き残るための戦略

1 文書の裏にある真実の解読

この長官挨拶を,一切のフィルターを外して「本音翻訳」すると,こうなります。

「これから民事も刑事も家事も,全部一気に制度が変わる。しかもシステムは未完成でバグだらけだ。最高裁としては一応準備したと言い張るが,現場で大混乱が起きるのは分かっている。でも,予算も期間も足りなかったから仕方ない。現場の裁判官,書記官,調査官,調停委員の皆さん。君たちがサービス残業と持ち前の真面目さ,そして『良心』でなんとかカバーしてくれ。文句を言わずに『トライアンドエラー』で解決してくれ。もしシステムが止まったり,共同親権で子供に被害が出たりしても,それは君たちの『運用の工夫』が足りなかったからだ。最高裁は『デジタル化を進めた』という実績だけはもらうが,現場の泥沼には責任を持たない。君たちの自己犠牲に期待している」

これが,この文書の冷徹な正体です。美辞麗句の下に隠された,現場への「甘え」と「強要」です。

2 現場のプロフェッショナルへの具体的アドバイス

(1) 「できない」を客観的証拠として記録に残せ

さて,私のクライアントであるあなたへ。あなたがどのポジションにいるにせよ,この状況下で「真面目に,言われた通りに」動くことは,自滅への道です。長官の言葉を真に受けて,システムの不備を自分の努力で埋めようとしてはいけません。私が戦略的アドバイザーとして,あなたに今すぐ変えてほしい思考と行動は以下の通りです。

長官が「申し訳ない」と言っているこの隙を逆手に取るのです。実は,概算要求書には「メンタルヘルス対策」として「カウンセリング委託経費」や「ストレスチェック制度実施経費」がしっかりと計上されています。これは,組織としても職員のメンタル不調を一定数「織り込み済み」であるという冷徹な事実を示しています。
システムトラブルや人員不足で業務が遅滞した場合,それは個人の能力不足ではなく,組織の構造的欠陥であるという証拠(ログ,業務時間記録,トラブル報告書)を淡々と,しかし執拗に残してください。「精神論」で乗り切ろうとせず,「物理的な限界」を可視化するのです。それが,将来責任を問われた時にあなた自身を守る最強の盾になります。「頑張ればなんとかなる」という思考は捨ててください。「頑張っても無理だった」という記録を作ることが仕事です。

(2) 「トライアンドエラー」を自分のキャリアのために盗め

組織のために自己犠牲を払うのではなく,この混乱期を「自分の市場価値を高める実験場」として利用してください。誰も正解を知らない今,あなたが現場で編み出した小さな効率化やノウハウ,あるいは法的解釈は,誰も文句の言えない「事実上のルール」になります。
受け身で待つのではなく,自分に都合の良いローカルルールを先に作ってしまうのです。この混乱を利用して,あなた自身のスキルセットをアップデートするのです。

(3) 「共犯者」を作り,責任を分散せよ

長官は「意思疎通」を求めています。これを「仲良くする」と解釈してはいけません。これは「一人で責任を負うな」という生存戦略です。概算要求書においても,各種「協議会(家事事件担当裁判官等協議会など)」や「研究会」の開催経費が多数計上されており,組織としても「協議」や「連携」を重視している建前があります。これを逆手に取るのです。
判断に迷う局面(特に共同親権やシステム障害時)では,必ず上司や同僚を巻き込み,合議や協議の記録を残すこと。「○○さんと相談の上,決定」という一行があるだけで,あなたの責任は半分になります。責任を一点に集中させないネットワークを作ることが,この激動の1年を生き残る唯一の戦略です。

(AI作成)最高裁庁舎の令和7年6月24日付の夏季の節電方針に関するAI専門家の論評

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
「最高裁判所庁舎の冷房運転等に関する文書」も参照してください。
◯厚労省HPに「ご存知ですか?職場における労働衛生基準が変わりました」(照度基準以外については,令和3年12月1日施行の取扱いです。)が載っています。

目次

第1 はじめに

第2 建築物環境衛生管理技術者及び建築設備士の視点による検証
1 石造建築物の「熱慣性」を看過した空調運転時間の致命的欠陥
2 「窓開け換気」による空調システムへの破壊的影響
3 内部発熱負荷の過小評価

第3 労働衛生コンサルタント及び産業医の視点による検証
1 医学的見地から見る「28度目安」の危険性
2 脳機能への影響と業務生産性の低下
3 感染症対策と室内空気質の矛盾

第4 特定社会保険労務士(労働安全衛生法専門)の視点による検証
1 改正事務所衛生基準規則との整合性欠如
2 安全配慮義務違反のリスク評価

第5 専門家チームによる総括と提言

第1 はじめに

令和7年6月24日,最高裁判所経理局管理課より,全職員に向けて「最高裁判所庁舎における夏季の節電について」及び「最高裁判所庁舎の冷房運転の運用について」と題する事務連絡が発出されました。

本記事では,建築物環境衛生管理技術者及び建築設備士,労働衛生コンサルタント及び及び特定社会保険労務士(労働安全衛生法専門)からなる専門家チームが,最高裁判所自身の「庁舎の沿革」「中長期保全計画」及び「修繕履歴」等の内部資料を精査し,令和7年6月24日付の事務連絡に記載された方針(以下「本件方針」といいます。)の妥当性を徹底検証します。

結論から申し上げますと,本件方針は,「1974年竣工の石造建築物の物理的特性」「IT化が進展した現代の執務環境」,そして「令和3年に改正された最新の労働衛生基準」のいずれとも整合しておらず,職員の健康と業務能率を著しく損なう恐れが高いものであると言わざるを得ません。
現場で働く職員の皆様が日々感じている「暑さ」や「息苦しさ」は,単なる我慢不足ではなく,物理的・医学的根拠に基づいた「環境の欠陥」によるものであり,法的にも安全配慮義務違反のリスクを孕むものであることを,以下に詳述します。

第2 建築物環境衛生管理技術者及び建築設備士の視点による検証

本件方針では,節電目標達成のため,空調機の運転時間を「午前8時30分から午後5時45分」,ファンコイルを「午前8時から午後6時」と定めています。一見,一般的なオフィスの運用に見えますが,最高裁判所庁舎という特殊な建築物においては,この運用は「建築物理学的」に極めて不合理です。

1 石造建築物の「熱慣性」を看過した空調運転時間の致命的欠陥

(1) 最高裁庁舎特有の「蓄熱体」としての性質

「庁舎の沿革及び現況説明書」によれば,最高裁庁舎は昭和49年(1974年)3月に竣工した,延面積5万3923平方メートルに及ぶ巨大な「鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)」です(PDF2頁))。 また,「中長期保全計画」においても,外装の仕様として「石張り」や「擬石吹き付け」が明記されており(同計画1頁等),SRC造の堅牢な躯体と大量の石材仕上げは,物理的に極めて巨大な熱容量を有しています。

竣工記念誌『空間と象徴』(「空間と象徴―最高裁判所庁舎における建築構想の展開 (1975年)」のことです。)14頁及び16頁によれば,最高裁庁舎は,内部に廊下,階段,エレベーター,設備シャフト等を含む「4メートルから6メートル厚の壁体(スペース・ウォール)」によって構成されています。
この巨大な二重壁は,設計者である岡田新一氏が「空間を構成するよりどころ」と位置付けた本庁舎の骨格であり,外壁だけで7万平方メートルを超える膨大な量の茨城県稲田産花崗岩が使用されています。

コンクリートや石材は,熱容量(熱を蓄える能力)が非常に大きい物質です。数万トンレベルの質量を持つこの巨大な石の塊は,一度冷えれば冷たさを維持する反面,「一度温まると容易には冷めない」という強烈な「熱慣性」を持ちます。 日中,直射日光と外気熱によって温められた大量の石壁や躯体は,夕方以降も熱を保持し続け,巨大な「輻射熱源」となります。
本件方針のとおり午後6時でファンコイルを含めた空調を完全停止させると,躯体に蓄積された熱を除去する手段が失われ,夜間を通じて建物内部へ熱が放射され続けることになります。

(2) 午後6時停止が招く翌朝の「蒸し風呂」現象

空調停止後の夜間,躯体から室内へ向けて熱が放射(輻射熱)され続けます。これにより,翌朝の執務開始時点において,室内の壁,床,天井すべてが「熱源」と化しています。

この状態で,始業直前の午前8時あるいは8時30分に空調を稼働させても,空気温度を下げることだけで精一杯であり,熱を持った4メートル以上の厚みのある膨大な質量の石材を冷却するには全く時間が足りません。壁面温度が高いため,MRT(平均放射温度)が下がらず,結果として,職員の皆様は,午前中の間,室温計の数値以上に暑さを感じる「蒸し風呂」のような環境で業務を開始することになります。熱力学の観点からも,一度熱を持ったこれほどの質量の石材を冷やすには,夜間電力等を利用した長時間の「プレクーリング(予冷)」以外に解決策はありません。
ビル管理の常識では,このような蓄熱量の大きい建物こそ,夜間や早朝からの「プレクーリング(予冷)」を行い,躯体温度を下げておくことが,ピーク時の省エネと快適性の両立に不可欠です。本件方針は,熱負荷を翌日に持ち越す「負の遺産」運用であり,建物の寿命を縮めかねない非効率な運用と言えます。

2 「窓開け換気」による空調システムへの破壊的影響

本件事務連絡には「換気は,窓及び扉を常時開放するのではなく,一定時間毎に窓及び扉を開閉して行い」との記載があります。しかし,最高裁庁舎の空調方式において,高温多湿な日本の夏季に窓を開ける行為は,設備工学的に以下の重大なリスクを招きます。

(1) 「外気冷房」との混同と高エンタルピー導入の愚

まず,春や秋の中間期に行われる「外気冷房」と,夏季の窓開けは物理的に全く意味が異なります。 空調負荷には,温度を下げる「顕熱負荷」と,湿度を下げる「潜熱負荷」があります。日本の夏季外気は熱と湿気を含んだエンタルピー(全熱量)が極めて高く,窓を開けて外気を導入すると,単なる空気の入れ替えではなく,大量の水蒸気(潜熱)が室内に流入し,空調機の潜熱負荷が激増します。

本件方針の「28度目安」という高い設定温度では,空調機はすぐにサーモスタットが切れ,送風運転に切り替わってしまいます。これにより除湿が行われず,湿度が70%,80%と上昇します。これは,空調制御において最も忌避すべき「再蒸発」に近い状態であり,湿度の高い28度は,不快指数が極めて高く,熱中症リスクを跳ね上げます。
一部には、夜間の涼しい外気を取り入れる「ナイトパージ」という手法もありますが、日本の高温多湿な熱帯夜においては、外気のエンタルピー(全熱量)が高すぎるため、湿度管理の観点から逆効果となりやすく、機械換気と除湿運転による制御が最適解です。

(2) 結露・カビ発生のリスクと「スペースウォール」の脆弱性

『空間と象徴』14頁及び176頁によれば,最高裁庁舎の特徴的な「スペースウォール(二重壁)」は,その内部に「廊下,階段,エレベーター,設備のシャフトやダクトなどのサービスを含んだ」空間であり,「水平の設備ゾーン」と直交してエネルギーを各階へ移送する重要区画として機能しています。まさに建物の「循環器・神経系」とも言える重要部分です。

この内部空間や,OAフロア内の配線ピット,冷却されたファンコイルの配管に,高温多湿な外気が触れると,そこで「夏型結露」が発生します。
これは単に水滴が付く問題にとどまらず,壁体内などの不可視部分での電気配線のトラッキング現象による火災リスクや,カビ(真菌)の爆発的な繁殖を招きます。特にスペースウォール内部やOAフロア内での結露は視認困難であり,火災発生時の被害甚大化が懸念されます。

カビの胞子はアレルギーやシックビル症候群の原因となり,長期的な職員の健康被害につながります。事実,「最高裁判所庁舎の修繕履歴」には,「パッケージエアコンドレンパン他修繕工事(平成30年8月)」(履歴2頁No.41)や「空気調和用ファン修繕工事(平成31年3月)」(履歴3頁No.65)といった記録が散見され,既存の空調設備が既に湿気やドレン排水等の負荷に苦慮している実態が窺われます。これに窓開けによる潜熱負荷を加えれば,設備の劣化を加速させることは必至です。
「外部環境から空間を載りとる」(『空間と象徴』14頁。「載(の)りとる」は「乗っ取る」と同じ意味です。)という最高裁庁舎の設計思想にも反する窓開け換気は,防災および資産保全の観点からも,現代の空調設計においては「百害あって一利なし」の運用です。

3 内部発熱負荷の過小評価

(1) 昭和時代の設計思想と令和のIT機器熱負荷の乖離

庁舎竣工時(1974年)と異なり,現在は一人一台以上のPC,複数の大型モニター,サーバー機器等が常時稼働しており,これらはすべて「熱源」です。『空間と象徴』179頁の設備データによれば,竣工当時の事務室空調は「ファンコイルユニット+各階ユニット」方式とされていますが,当時の設計顕熱負荷には,現代のような高密度のOA機器発熱は想定されていません。

本件事務連絡にある「執務室内の温度は,28度を目安」とする設定は,人体の発熱のみならず,これらIT機器が発する熱(内部発熱負荷)を冷却除去するには圧倒的に能力不足です。

(2) ファンコイル停止推奨が招くサーバー・PCへの熱ダメージ

本件事務連絡の節電取組として「部屋の使用終了時及び長時間空室にする時は,ファンコイルの電源を切る」よう記載があります。しかし,IT機器が密集するエリアでファンコイルを停止すれば,機器の排熱を除去できず,局所的な「熱溜まり(ホットスポット)」が発生します。

これは,職員の不快感だけでなく,サーバーのダウン,PCの熱暴走によるデータ消失,機器の寿命短縮という物理的な損害に直結します。これはBCP(事業継続計画)の観点からも重大な欠陥と言えます。
特にサーバー室周辺や,電子決裁用モニターが並ぶ執務室において,空調の間欠運転は厳に慎むべきです。

この懸念は,決して杞憂ではありません。「最高裁判所庁舎の修繕履歴」を確認すると,平成29年度から31年度のわずかな期間だけでも,「サーバー室電源修繕工事(平成30年6月)」(履歴2頁No.31),「サーバー室電源敷設工事(平成30年10月)」(履歴3頁No.50),「サーバー室パッケージエアコン修繕工事(平成31年3月)」(履歴3頁No.66)といった,サーバー室周辺の熱・電源環境に関連する工事が頻繁に行われています。
また,「庁舎の沿革」においても,平成23年以降,サーバー室エアコンの更新・増設が繰り返されており(沿革8,9頁等),IT機器の排熱処理に設備が悲鳴を上げている状況は明らかです。
この状況下での空調停止は,自殺行為と言わざるを得ません。

第3 労働衛生コンサルタント及び産業医の視点による検証

本件方針が掲げる「28度目安」や「節電」は,医学的・生理学的に見て,職員の心身に過度な負担を強いるものであり,組織的な健康障害を誘発しかねない危険な状態です。

1 医学的見地から見る「28度目安」の危険性

(1) 「気温」と「作用温度(体感温度)」の決定的乖離

医学的かつ建築環境工学的に,人が感じる暑さ(熱ストレス)は,温度計が示す「気温」だけでは決まりません。湿度,気流,そして「輻射熱(放射熱)」が大きく影響します。これを総合した指標がWBGT(暑さ指数)や作用温度です。

前述の通り,石造りの庁舎で壁面温度が上昇している場合,たとえ室温計が「28度」を指していても,壁や天井からの輻射熱により,体感温度は30度〜32度相当に達している可能性が高いです。

(2) 輻射熱(MRT)による熱中症リスクの増大

このような「輻射熱が高い28度環境」での執務は,深部体温の上昇を招きやすく,自覚症状のないまま「隠れ熱中症」に陥るリスクがあります。

特に強調すべきは、「冷房停止後の夜間残業時の危険性」です。最高裁庁舎の設計者自身が,「重畳たる空間」や「外部のマッシブな壁面」と表現するように(『空間と象徴』12頁及び15頁),最高裁庁舎は圧倒的な質量を持つ石とコンクリートの塊です。
日中に蓄熱した巨大な石造躯体からの輻射熱(放熱)は夜間にピークを迎えることが多く、空調が止まった後の執務室は、日中以上に過酷な「蒸し風呂」状態となります。この時間帯の残業は脱水症状のリスクを極限まで高めます。
更年期障害の症状がある方,基礎疾患を
持つ方,妊婦等にとっては,生命の危険すら伴う環境です。
「28度」という数字だけを墨守し,実際の温熱環境(輻射熱)を無視することは,医学的に見て極めて不適切です。

2 脳機能への影響と業務生産性の低下

(1) 室温上昇に伴う認知機能低下のエビデンス

産業衛生学の多数の研究において,室温が25度から28度に上昇すると,計算能力,論理的思考力,記憶力が数%から10%以上低下することが示されています。

脳は大量のエネルギーを消費し,熱を発する臓器です。環境温度が高いと,脳の冷却が追いつかず,オーバーヒート状態となり,集中力が著しく低下します。

(2) 経理局・デジタル部門におけるヒューマンエラーの誘発

最高裁の業務は,高度な集中力と正確性が求められる緻密な作業です。

「頭寒足熱」ならぬ「頭熱」環境で,複雑な予算計算やプログラミングを行わせることは,組織的にヒューマンエラー(計算ミス,システム障害,判断ミス)を強制しているに等しいと言えます。節電によって削減できる電気代よりも,ミスのリカバリーにかかる人件費や社会的信用の損失の方が遥かに大きくなることは,経営学的にも明白です。

3 感染症対策と室内空気質の矛盾

本件事務連絡における「窓開け」は,一見,感染症対策としての換気に有効に見えます。しかし,外気温が室内より高い状況での窓開けは,室温を上昇させ,エアコンの気流を乱し,結果として室内の空気が「ぬるく,よどむ」原因になります。

また,網戸等の防虫設備が完全でない場合,外部からの虫や粉塵の侵入を招き,衛生環境が悪化します。ビル衛生管理法に基づく機械換気設備(全熱交換器等)が適切に稼働しているのであれば,窓を閉め切って計画換気を行う方が,感染症対策としても,空気質管理としても遥かに優れています。

第4 特定社会保険労務士(労働安全衛生法専門)の視点による検証

法律家の視点,特に労働安全衛生法及び労働契約法の観点から検証すると,本件方針は「国自らが定めた最新の基準」を軽視しており,安全配慮義務違反のリスクを抱えています。

1 改正事務所衛生基準規則との整合性欠如

(1) 新照度基準(300ルクス以上)と「間引き点灯」の法令抵触

厚生労働省が発行したリーフレット「職場における労働衛生基準が変わりました」にある通り,令和4年12月1日より,事務所における照度の基準が改正されました。従来の基準から引き上げられ,一般的な事務作業においては「300ルクス以上」の確保が義務付けられています。

これに対し,本件方針の「具体的取組」には,「必要な照明のみを利用し,それ以外の照明を消灯する」との記載があります。

最高裁庁舎の内装に使用されている「割肌仕上げ」や「バーナー仕上げ」の花崗岩(『空間と象徴』15頁及び16頁)は,表面の凹凸が激しく,一般的なオフィスビルの白系クロスに比べて光を拡散・吸収しやすいため,光の反射率が著しく低い傾向にあります。
また,同書170頁の音響設計に関する記述によれば,内装材には光の反射率が低い「石,金属,布等の自然の素材」が多用され,同書173頁の照明計画に関する記述によれば,当初から「均一性を良しとした照明計画ではなく,抑揚のある豊かな空間を演出する光の濃淡が望まれていた」とされています。つまり,作業効率よりも意匠性や「陰影」を重視した重厚な空間設計がなされています。
「中長期保全計画」の内装項目においても,「石張り」や「擬石吹き付け」といった光を吸収しやすい仕上げ材が明記されています(同計画1頁等)。

この物理的環境下で,照度計による実測を行わずに,感覚的な「間引き点灯」を行えば,作業面の照度は容易に300ルクスを下回ります。これは明確な「事務所衛生基準規則違反(法令違反)」の状態です。

(2) 国が認めた「旧基準の不備」を無視する運用

上記の規則改正は,国(厚労省)が「現在の知見に基づいて」,従来の基準では労働者の健康や作業能率を守れないと判断したために行われたものです。

それにもかかわらず,最高裁判所が,改正前の古い慣習や,「とにかく消せばよい」という精神論的な節電対策を漫然と続けることは,コンプライアンスの観点から深刻な問題です。「庁舎の沿革」や「修繕履歴」を見れば,平成30年から31年にかけて「照明器具更新(LED化)」が行われている事実は確認できます(沿革12頁,履歴3頁等)。
しかし,光源がLED化されたとしても,前述した内装材の吸光特性が変わらなければ,間引き点灯下での照度均斉度の確保は困難です。

トイレの独立個室化などアメニティの向上には言及する一方で,最も長い時間を過ごす執務室の「光」と「熱」の環境を劣悪にすることは,法改正の趣旨に逆行しています。

2 安全配慮義務違反のリスク評価

(1) 予見可能性と結果回避義務の不履行

使用者は,労働者が生命・身体の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務(労働契約法第5条,安全配慮義務)を負います。

以下の要素を考慮すると,本件方針は安全配慮義務違反の過失認定を受けやすい状態にあります。

  • 予見可能性:「石造りの建物が高温になりやすいこと」「IT機器が熱を発すること」「法改正により照度や環境基準が厳格化されたこと」は,施設管理者が容易に認識できる事実であり,これによる健康被害(熱中症,眼精疲労,メンタルヘルス不調)は十分に予見可能です。

  • 結果回避義務:それを知りながら,「一律28度」「窓開け」「エレベーターの一部停止」といった,健康リスクを高める措置を講じていることは,回避義務を果たしていないと判断されます。

(2) 煩雑な延長申請手続きが構成する「安全への心理的障壁」

本件事務連絡の「冷房運転の運用について」の3項には,午後5時45分以降の運転延長についての手続きが記されています。「書面に記載」し,「総括係配布リスト宛てに申請」し,「期限までにまとめて申請」するなど,極めて手続きが煩雑で官僚的です。

このような煩雑な手続きは,職員に対し「面倒だから我慢しよう」「申請したら迷惑がられる」という心理的抑制(萎縮効果)をもたらします。公務上の必要性があって残業をしているにもかかわらず,空調がない過酷な環境での業務を余儀なくされ,その結果として健康被害が発生した場合,この「申請制度の使いにくさ」自体が,使用者の安全配慮義務不履行の一態様として,過失認定の補強材料(構成要素)となり得ます。

第5 専門家チームによる総括と提言

1 以上の通り,最高裁判所が示した「夏季の節電方針」は,公開されている内部資料(沿革,保全計画,修繕履歴)が示す「物理的実態」と照らし合わせても,以下の3点において重大な欠陥を抱えています。

  1. 建築物理学の無視:「庁舎の沿革」等が示す通り,厚さ数メートル,総面積数万平方メートルに及ぶSRC造及び石造建築物の巨大な熱慣性を考慮しない運転時間は,エネルギー効率を悪化させ,建物を「蓄熱暖房機」化させている。

  2. IT環境との不整合:「修繕履歴」が示すサーバー室空調の過酷な稼働実態を無視し,デジタル化された現代の業務機器が発する熱負荷に対し,昭和時代の温度設定(28度)を適用することで,機器と人間の双方にダメージを与えている。

  3. 法的・医学的リスク:改正された労働衛生基準(照度300ルクス等)を遵守せず,医学的に見て熱中症や認知機能低下を招く環境を放置している。

2 私たちは専門家として,直ちに以下の改善措置を講じることを強く提言します。

  • 「28度目安」の撤回と実測管理:室温計の数字ではなく,「WBGT(暑さ指数)」と「照度」を実測し,MRT(平均放射温度)を考慮した法令基準及び快適性基準を満たすよう,柔軟な設定温度(25〜26度等)への引き下げを認めること。

  • プレクーリングの導入:建物の熱慣性を考慮し,始業前に躯体を冷却する運転モードを導入すること。

  • 窓開けの原則禁止:機械換気の稼働を前提とし,湿度管理とトラッキング火災防止のため,窓閉め運用を徹底すること。

  • 延長申請の簡素化:事後報告やワンクリック申請など,必要な時に躊躇なく空調を使える仕組みへ改めること。

3 本稿の分析を踏まえ,現場で働く職員の皆様が,ご自身の健康と安全を守るためにできる具体的なアクションを提案します。

・ 客観的データの提示:机上に安価な温湿度計だけでなく,「WBGT計(熱中症指数計)」を設置し,実際の危険度を数値で管理者に提示してください。

・ 産業医への相談:体調不良を感じた際は,我慢せずに産業医面談を申し入れ,「執務環境の劣悪さ」をカルテ等の記録に残すことが重要です。

4 最高裁判所におかれましては,「法の番人」として,まずは自らの足元である職員の労働環境において,最新の法令と科学的知見を遵守されることを切に願います。

(AI作成)77期新任判事補研修における「令状実務の留意点」に対するAI裁判官の回答,AI弁護人の準抗告申立書及びAI裁判所の決定

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯本件執務資料というのは,新たな令状事務の取扱いに関する執務資料(電磁的記録の証拠収集方法の整備に伴うもの)(平成24年4月の最高裁判所刑事局の文書)のことです。
◯本件手引というのは,令状事務処理の手引(四訂版)(平成30年9月補訂の,名古屋地裁刑事書記官室の取扱注意文書)のことです。
令状に関する理論と実務Ⅰ及び令状に関する理論と実務Ⅱも参照しています。
◯「令状実務の留意点」は,少なくとも70期以降の新任判事補研修で必ず取り上げられています(「新任判事補研修」参照)。

目次

第1 はじめに

第2 設問1について(捜索差押許可状の記載の適否)
1 結論

2 「捜索すべき場所」の記載について
(1) 憲法及び刑事訴訟法の要請
(2) 本件記載の不当性
(3) デジタル・ネットワーク環境下における場所的制約の重要性

3 「差し押さえるべき物」の記載について
(1) 概括的記載の禁止
(2) 本件記載の不当性
(3) デジタル証拠の特質を踏まえた具体的記載のあり方

第3 設問2について(勾留及び被害者情報の取扱い)
1 小問(1)(勾留の可否)
(1) 結論
(2) 罪証隠滅のおそれに関する法的評価
(3) モバイルデバイスフォレンジックの観点からの詳細検討
(4) クラウドフォレンジックの観点からの緊急性
(5) コンピュータフォレンジック及びネットワークフォレンジックの観点

2 小問(2)(被害者情報の留意点)
(1) 結論
(2) 被害者特定事項秘匿制度の趣旨と運用
(3) デジタル社会における二次被害防止の必要性

第4 令状記載例及び勾留質問例
1 デジタル証拠の押収における令状記載例(文言案)
2 勾留質問において被疑者に確認すべき技術的チェックリスト

第5 デジタル証拠時代における令状審査の心得(総括)

第6 勾留決定に対するAI弁護人の準抗告申立書
(申立ての趣旨)
(申立ての理由)
1 原決定の不当性(総論)
2 「モバイルデバイスフォレンジック」の困難性を理由とする勾留の違法
(1) クラウドデータ及び通信ログによる代替証明の充足
(2) 代替機利用等の抽象的リスクに対する防御
3 「クラウドフォレンジック」及び「リモートワイプ」リスクの不存在
(1) 記録命令付差押えによる「公的かつ強制的な」アクセスの遮断
(2) アクセスログによる抑止
4 「コンピュータフォレンジック」の名を借りた違法な別件探索
(1) デジタル・フットプリント(電子的痕跡)の不存在による嫌疑の欠如
(2) 比例原則違反
5 被害者保護に関する代替措置
6 結論

第7 AI弁護人の準抗告申立てに対するAI裁判所の決定,及び補足メモ
(主文)
(理由)
1 事案の概要及び前提事実
2 当裁判所の判断
(1) 「モバイルデバイスフォレンジック」の困難性と罪証隠滅の具体的危険性について
(2) 「クラウドフォレンジック」と「タイムラグ」のリスクについて
(3) 自宅PC等の捜索と「別件探索」の主張について
(4) 被害者保護と「デジタルタトゥー」のリスクについて
3 結論
4 講義:新任判事補への「補足メモ」
(1) 「破壊行為」の評価(Fact Finding)
(2) 「理論上の可能」と「実務上のタイムラグ」(Practicality)
(3) 「デジタル証拠」の「原本性」(Originality)

第8 依頼者を「デジタル死」から守るための実務的助言
1 初動:情報の拡散防止(ネットワークフォレンジック的視点)
2 法的手続による削除請求
3 ORM(オンライン・レピュテーション・マネジメント)対策
4 社会復帰への「デジタル・クリーニング」


第1 はじめに

第77期新任判事補の皆様,任官おめでとうございます。

本日皆様と共に検討する「令状事務の留意点」設問は,一見すると古典的な論点を扱っているように見えますが,その実,現代の刑事司法が直面している最も先鋭的な課題である「デジタル証拠の取扱い」を内包しています。とりわけ,令和5年の刑法及び刑事訴訟法の改正により,性犯罪規定の大幅な見直しや,情報通信技術の進展に対応した令状実務の変革が求められている今,これらの論点は実務の最重要課題といえます。

スマートフォンやクラウドサービスが普及した現代において,犯罪の痕跡は物理的な空間からサイバー空間へと急速に移行しています。これに伴い,令状審査を担う裁判官には,従来の法解釈に加え,証拠がどのように記録され,どのように隠滅され得るかという技術的知見――すなわちデジタルフォレンジック(電磁的記録解析)の視点が不可欠となっています。

本職は,長年にわたり刑事裁判実務に携わるとともに,特にモバイルデバイス,クラウド,コンピュータ,ネットワークといった各フォレンジック分野における知見を深めてまいりました。
本講義では,最新のデジタルフォレンジック技術(暗号化解除やクラウド解析の限界等)の専門的知見を織り交ぜつつ,設問に対する回答及び実務上の留意点について詳説します。

第2 設問1について(捜索差押許可状の記載の適否)

1 結論

本設問にあるような記載を認めることはできない。裁判官としては,捜査機関に対し,場所及び対象物を具体的に特定するよう補正を求めるか,あるいは当該請求を却下すべきである。

2 「捜索すべき場所」の記載について

(1) 憲法及び刑事訴訟法の要請

憲法35条及び刑事訴訟法219条1項が,令状に「捜索すべき場所」を明示するよう求めているのは,捜査機関の広範な裁量を許す「一般令状」を禁止し,プライバシー等の基本的人権に対する侵害を必要最小限度の範囲に限定するためである。したがって,捜索場所の記載は,捜索差押えの現場において,令状を執行する捜査官がその対象を客観的に認識・識別できる程度に具体的かつ明確でなければならない。

(2) 本件記載の不当性

設問における「○○ホテル内のA室,B室その他差し押さえるべき物件が存在すると思料される場所」との記載は,極めて不適切である。

『令状に関する理論と実務1』32頁においても,「その他本件に関係ある場所」といった記載は,「令状裁判官の審査を経ないで捜査機関に捜索すべき場所の選択権を委ねる結果となり,一般令状禁止の原則に反し,許されない」と明記されているとおり,「その他……思料される場所」という文言は,捜索場所の範囲の決定を,専ら現場に臨場する捜査官の主観的判断(思料)に委ねるに等しい。
また,本件手引27頁においても,捜索すべき場所については,行政区画上の地番等で特定し,かつ「場所に対する管理権が単一であること」が要求されている。 同頁では,アパートや下宿のように各室によって居住権者が異なる場合には「各室ごとに別個の場所となるので,これを明確に特定する必要がある」と明記されている。管理権が明確に区分されているホテル内において,対象となる客室を特定せず漫然と「ホテル内」や「思料される場所」とすることは,管理権の異なる第三者の客室への無令状捜索を誘発するおそれがあり,令状の効力範囲を不当に拡張するものである。
これでは,例えば被疑者がホテルのロビーやレストラン,あるいは全く無関係な第三者の客室に立ち入った場合であっても,捜査官が「関連がある」と考えさえすれば,そこが捜索場所となり得ることになり,令状による事前審査機能が没却される。

したがって,裁判官としては,特定された「A室,B室」に限定させるか,あるいは被疑者の身体や所持品を対象とするならば,「被疑者が使用する身体,着衣,携行品」といったように,客観的に特定可能な記載に改めさせる必要がある。

(3) デジタル・ネットワーク環境下における場所的制約の重要性

ネットワークフォレンジックの視点から付言すれば,現代の捜索現場には,Wi-Fiルーターやネットワーク機器が存在することが常である。場所の記載が曖昧であると,物理的な「場所」の特定が,その場所に設置された機器を経由した「世界中のサーバー」への無限定なアクセス権限として誤読される危険性がある。
これは,捜査機関による「意図せざるクラウド接続」を誘発し,令状裁判官の審査を経ていない別個の管理権限(プロバイダ等)の領域をなし崩し的に侵害する結果を招きかねない。

もっとも,最高裁令和3年2月1日決定の趣旨に照らせば,リモートアクセス先の記録媒体(メールサーバー等)が国外(サイバー犯罪条約の締約国)に存在する場合であっても,適法に発付された令状の効力としてこれにアクセスすることは許容されており,その所在場所を個別に特定する必要はないと解される。
だからこそ,物理的な場所の特定を緩和する代償として,後述する「複写すべきものの範囲」において,IDやフォルダ名等による論理的なアクセス権限の特定が厳格に求められるのである。

したがって,場所的特定は,物理的な空間の限定にとどまらず,捜査権限が及ぶデジタル空間の範囲を画するためにも厳格に解されるべきであるという視座に加え,サーバー所在地の特定不要論とセットになった「複写範囲の厳格な特定」という視点が不可欠となる。

3 「差し押さえるべき物」の記載について

(1) 概括的記載の禁止

「差し押さえるべき物」の記載についても,一般令状禁止の原則から,対象物を個別具体的に特定するか,少なくともその種別や性質によって範囲を限定することが求められる。
『令状に関する理論と実務1』43頁においても,「その他本件に関係ある一切の証拠物」といった記載は,「差押対象物の範囲が不明確であり,執行官の裁量の余地が大きすぎるため,原則として許されない」とされている。

(2) 本件記載の不当性

設問における「覚醒剤,注射器その他本件に関連すると思料される一切の物」との記載は,許容されない。

「本件に関連する一切の物」という包括的な記載は,差押えの対象を選別する権限を捜査官に白紙委任するに等しく,事件と無関係な私信,日記,業務書類など,被疑者のプライバシーが及ぶあらゆる物品を無差別に差し押さえる権限を与えることになりかねない。
実務上は,「その他本件に関連するメモ,手帳,航空券,預金通帳」などのように例示列挙を加えるか,あるいは「その他本件犯罪の立証に資する電磁的記録媒体」等,ある程度の種別的限定を付すことが必須である。

(3) デジタル証拠の特質を踏まえた具体的記載のあり方

ア 本件は覚醒剤譲渡事件であり,犯罪の立証には,薬物そのものの発見に加え,誰と,いつ,どこで,いくらで取引したかという「通信履歴」が決定的な証拠となる。

ここで注意すべきは,スマートフォンやパソコン等のデジタル機器は,単なる「物」ではなく,個人の全人格的な情報が詰まった「情報の塊」であるという点である。
もちろん,デジタル証拠については,『令状に関する理論と実務1』148頁でも議論されているとおり,現場での情報選別の困難性から媒体そのものの差押えが行われる実情があり,これは一定程度許容されている。
しかし,だからこそ,「一切の物」という安易な記載でスマートフォンを差し押さえることは,別件の犯罪事実や純粋な私生活上の秘密までをも網羅的に捜査機関の掌中に収めることになり,比例原則の観点から問題がある。

専門的見地からは,近年の薬物取引にはTelegramやSignal等の秘匿通信アプリが多用される傾向にあるため,裁判官は,対象となる媒体が「本件犯罪に関連する情報が記録されている蓋然性が高いもの」であることを疎明させる必要がある。
さらに,本件執務資料17頁が指摘するとおり,スマートフォン等の端末内データにとどまらず,それに接続されたクラウド(本件執務資料の「リモートストレージサービス」等)上のデータを収集・複写する場合には,刑訴法218条2項に基づき,通常の差押許可状の記載に加え,「差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって,その電磁的記録を複写すべきものの範囲」の特定が必須となる。
本件手引58頁においても,これは「リモートアクセスによる複写の処分」として明確に独立した項目として扱われており,令状請求書及び令状において当該欄への記載がなければ,単に「スマートフォン」と記載されているだけでは,ネットワーク越しのデータ取得は許されない。

そのため,裁判官は,捜査機関に対し,「本件取引にかかる通信履歴……が記録されたスマートフォン」という記載にとどまらず,クラウド上のデータを狙うのであれば,「リモートストレージサービスのサーバの記録領域であって,差し押さえるべきパーソナルコンピュータにインストールされているアプリケーションソフトに記録されているIDによりアクセス可能な記録領域」(本件執務資料28頁参照)といった,アクセス権限やデータの属性に着目した限定的記載を求めるべきである。
これは,刑事訴訟法218条2項が定める複写の範囲の特定という要請のみならず,将来的なデジタル証拠収集手続の適正担保という観点からも不可欠である。
これにより,差押えの現場での混乱を防ぎ,かつ,将来の公判において弁護側から「違法な包括的差押えである」との主張を招くリスクを低減できる。

イ 最高裁令和3年2月1日決定においても,差押えの現場における電磁的記録の内容確認の困難性や,確認作業中に情報の毀損が生じるおそれ等を踏まえ,個々の電磁的記録について個別に内容を確認することなく複写の処分を行うことが許容される余地が認められている。
この判示は,包括的記載を安易に許容するものではないが,デジタル証拠の特質に応じた合理的な差押えの範囲を画する上で重要な指針となる。

第3 設問2について(勾留及び被害者情報の取扱い)

1 小問(1)(勾留の可否)

(1) 結論

勾留状を発付すべきである。

被疑者は定職(公務員)及び定住(妻子と同居)を有しており,一見すると逃亡のおそれは低いようにも思われる。しかしながら,本件事案の特性及び被疑者の行動(証拠隠滅行為)に鑑みれば,罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由があり,かつ,そのおそれは具体的かつ高度である。

(2) 罪証隠滅のおそれに関する法的評価

『令状に関する理論と実務2』62頁には,「罪証隠滅のおそれ」の判断基準として,隠滅の対象となる証拠の重要性や,隠滅行為の実行可能性などが考慮要素として挙げられている。
本件の被疑事実は,令和5年7月13日施行の「性的姿態等撮影行為等の処罰及び押収物に記録された性的姿態等記録に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(性的姿態撮影等処罰法)により新設された重大な性犯罪である点も見逃せない。

被疑者は,被害者から声を上げられた直後,所持していたスマートフォンを「地面にたたきつけて壊し」ている。これは,パニックによる偶発的な行為ではなく,盗撮画像という犯罪の成否に関わる直接証拠を物理的に消滅させようとする,極めて悪質かつ明確な隠滅の意思に基づく実行行為である。

同書66頁では,単に否認していることのみをもって直ちに隠滅のおそれがあるとは言えないとしつつも,「供述の変遷や,共犯者・関係者への働きかけの可能性」等の具体的状況を検討すべきとしている。
本件において,被疑者は「やましいことは一切していない」と犯行を否認しており,被害者を「盗撮犯人と間違えた」と主張している。このように犯行を否認し,かつ,「直ちに証拠媒体を破壊する」という極めて積極的かつ具体的な隠滅行動に出ている点は,同書が求める「罪証隠滅の客観的な蓋然性」を基礎づける決定的事実である。
一度証拠の物理的破壊に及んだ被疑者が,釈放された場合に,残存する他の証拠(自宅のパソコンやクラウドデータ等)を隠滅しないという保証はどこにもない。むしろ,一度成功しなかった隠滅行為を完遂しようとする動機は極めて強いと解される。

(3) モバイルデバイスフォレンジックの観点からの詳細検討

ア 前述の「罪証隠滅のおそれ」の判断において,隠滅の対象となる証拠の重要性(『令状に関する理論と実務2』62頁参照)は極めて高い。
本職が勾留不可避と判断する最大の理由は,破壊されたスマートフォンの解析(モバイルデバイスフォレンジック)に要する技術的な時間と,その間の身柄保全の必要性にある。

被疑者が端末を地面にたたきつけた結果,ディスプレイの破損にとどまらず,内部の基盤(ロジックボード)やデータを記憶するメモリチップ(NANDフラッシュ)に物理的な損傷が生じている可能性がある。

このような状態の端末からデータを抽出するには,通常のUSB接続による解析では不可能であり,高度な技術を要する「チップオフ(Chip-off)」や「JTAG」,あるいは「基板修復・移植(Board Repair/Swap)」といった手法が必要となる場合がある。
かつては,基盤からメモリチップ(NANDフラッシュメモリ等)を熱風等で剥がし取り,専用のリーダーでバイナリデータを直接読み出す「チップオフ」の手法が有効であった。
しかし,近年の端末(特にiPhoneやハイエンドAndroid端末)においては,チップ自体に強力なハードウェア暗号化が施されている上,コントローラチップとのペアリングが必須となっており,チップ単体を剥がしてデータを読み出すことは技術的に不可能となっている。
したがって,現在の主流かつ唯一の解析手法は,破損した基板(ロジックボード)そのものを修復する「基板修復」や,正常なドナー基板へ主要チップ群(CPU,NAND,EEPROM等)を丸ごと移植する「基板移植(Board Swap)」である。
これには,マイクロソルダリング等の極めて高度な技術を用いて,顕微鏡下で回路を繋ぎ合わせ,端末を「起動可能な状態」まで復元させることが必須となる。

弁護側からは「復元可能なら隠滅は不能ではないか」との反論も予想されるが,物理的な修復を経て解析完了に至るまでの間に,被疑者が代替機やPCを用いてクラウド上の同期データを操作し,証拠を抹消してしまうリスクこそが,次に述べる最大の懸念事項となる。

イ 破壊が進行中であるなど現場での緊急性が高い場合,捜査機関には,令状の効力として現場で裁量的に選択し得る「記録媒体の差押えにおける電磁的記録の複写,印刷,移転の処分(刑訴法110条の2)」(本件執務資料1頁参照)が認められている。勾留判断にあたっては,現場においてこれらの保全措置が間に合ったのか,あるいは破壊により不能となり事後的な解析に委ねざるを得ない状況なのかを見極めることも重要である。

ウ もし,この解析期間中に被疑者を釈放してしまえば,被疑者は「端末を探す」機能等を悪用してクラウド経由で対象端末への遠隔ロックやデータ消去(リモートワイプ)コマンドを送信したり,修理業者を装って端末の返還を求めたり,あるいは同じ機種の別の端末を用意してすり替えたりする等の妨害工作を行うおそれも否定できない。
特に,捜査機関が苦労して基盤を修復し,いざネットワークに接続した瞬間に,被疑者が釈放後に送信しておいた消去コマンドが実行され,証拠が雲散霧消するという事態は絶対に避けなければならない。
解析が完了し,データが保全されるまでの間,被疑者の身柄を拘束しておくことは,現代のモバイル・フォレンジックにおける必須の捜査技術上の要請でもある。

(4) クラウドフォレンジックの観点からの緊急性

さらに懸念されるのが,クラウドデータに対する「リモートワイプ(遠隔消去)」のリスクである。

現代のスマートフォン(iPhoneやAndroid)は,撮影された写真や動画を自動的にクラウド(iCloudやGoogleフォト等)に同期する設定になっていることが多い。たとえ端末本体が破壊されていても,クラウド上に証拠となる画像が残存している可能性は高い。
情報工学の専門的見地からも,クラウド上のデータは,IDとパスワードさえあれば,物理的な場所を問わず,一瞬にして削除(論理的破壊)が可能であることが指摘されている。

しかし,これは諸刃の剣である。被疑者が釈放され帰宅した場合,自宅のパソコン等からクラウドサービスにログインし,Appleの「探す(Find My)」機能やGoogleの「デバイスを探す」機能を通じて,「全てのデバイスからデータを消去」するコマンドを実行したり,クラウド上の特定の写真データを削除したりすることが物理的に可能である。

捜査機関がクラウドサービスプロバイダに対して差押え令状を執行し,アカウントの凍結やデータの保全を完了するまでには,一定の時間を要する。
特に,Apple(iCloud)やGoogle(Google Drive)等の主要なプラットフォーマーは米国法人であり,日本国内の令状執行に対しては,国際捜査共助(MLA)や各社のコンプライアンス部門との調整といった高い障壁が存在する。
国内プロバイダであれば数日で済む手続が,海外プロバイダ相手では数週間単位の遅れが生じることも稀ではない。
この「司法制度上の不可避なタイムラグ」の間に被疑者を帰宅させることは,証拠隠滅の絶好の機会を与えるに等しい。

もっとも,このリスクへの法的対抗手段は身柄拘束のみではない。本件執務資料4頁及び本件手引54頁に示されている「記録命令付差押え(刑訴法99条の2)」を活用すれば,プロバイダ等の「電磁的記録の保管者」に対して,被疑者のアカウントに係るデータの保全と記録媒体への記録を命じ,これを差し押さえることが可能となる。本件手引54頁では,「記録させ又は印刷させるべき電磁的記録」及び「電磁的記録を記録させ又は印刷させるべき者」を特定して令状を請求する運用が確立しており,これは,被疑者が帰宅して遠隔消去を試みる前に,管理権者であるプロバイダ側でデータを固定化できる点で極めて有効である。

したがって,裁判官としては,勾留による物理的なアクセスの遮断を基本としつつ,捜査機関に対して記録命令付差押許可状の請求を検討させるなど,重層的な証拠保全を意識する必要がある。クラウドフォレンジックを完遂するためには,被疑者をインターネット環境から遮断された留置施設に留め置くことが,現状では最も実効的な手段であるが,こうした法的手続との組み合わせも念頭に置くべきである。

(5) コンピュータフォレンジック及びネットワークフォレンジックの観点

被害者の供述によれば,「一週間くらい連続で同じ中年男性が後ろに立っていた」とのことであり,被疑者には盗撮の常習性が疑われる。

常習的な盗撮犯は,撮影した動画を自宅のパソコンや外付けハードディスクに取り込み,コレクションとして保存・整理している事例が多い。これらは本件の犯意や常習性を裏付ける重要な間接証拠(あるいは余罪の直接証拠)となり得る。

被疑者が帰宅すれば,これらの記録媒体を物理的に破壊(ドリルでの穿孔や磁気消去等)したり,隠匿したりすることは容易である。コンピュータフォレンジックによる解析に先立ち,家宅捜索によってこれらの媒体を確保するまでの間,被疑者の身柄拘束を継続する必要性は極めて高い。

また,ネットワークフォレンジックの視点からは,被疑者が盗撮画像をSNSや掲示板等に投稿・共有していなかったかの確認も必要となる。被疑者が釈放されれば,自身のアカウントにアクセスし,投稿履歴やダイレクトメッセージを削除するおそれもあり,これを防ぐためにも勾留は正当化される。

2 小問(2)(被害者情報の留意点)

(1) 結論

被害者特定事項秘匿制度(刑事訴訟法207条の2,271条の2以下)の適用を積極的に検討し,被疑者に交付される令状の写し等において,被害者の氏名等の特定事項が明らかにならないよう措置を講じる必要がある。

(2) 被害者特定事項秘匿制度の趣旨と運用

本件被害者は17歳の女性であり,事案は「性的姿態等撮影未遂罪」という性犯罪である。
令和6年2月15日施行の改正刑訴法201条の2第1項イ及びロ並びに207条の3等により,性犯罪被害者の保護施策は飛躍的に強化された。
性犯罪被害者,とりわけ未成年者の氏名や住居等の情報が被疑者に知られることは,被害者のプライバシーを侵害するのみならず,報復,威迫,あるいは再度のつきまとい等の「お礼参り」を誘発する危険性が高い。
したがって,裁判官は以下の点に留意すべきである。

ア 令状の記載
勾留状や捜索差押許可状の発付にあたり,被害者の氏名を「A」等の仮名で記載するか,あるいは被害者特定事項記載部分を別紙とし,被疑者への開示を除外する措置をとる。

イ 勾留質問時の配慮
被疑者に対する勾留質問において被疑事実を告げる際,被害者の氏名を読み上げず,「女子高校生」等の抽象的な呼称を用いる。

ウ 弁護人への対応
弁護人に対して被害者情報を開示する場合であっても,「被疑者には知らせない」という条件(秘匿条件)を付すよう指導・調整を行う。

(3) デジタル社会における二次被害防止の必要性

本件のような事案では,被疑者が被害者の氏名を知り得た場合,SNS等を通じて被害者を特定し,インターネット掲示板等に被害者の個人情報を晒したり,誹謗中傷を書き込んだりする「デジタルタトゥー」による加害行為に及ぶリスク(ネットワークフォレンジック的リスク)がある。

被疑者は公務員であり,一定の社会的地位やITリテラシーを有している可能性があることから,保釈後の報復手段としてデジタル技術が悪用される危険性を考慮し,被害者情報の秘匿には細心の注意を払わなければならない。

第4 令状記載例及び勾留質問例

1 デジタル証拠の押収における令状記載例(文言案)

「包括的記載(一般令状的な記載)」を回避しつつ,クラウド上のデータまで適法かつ確実に保全するための記載例です。

(1) 「捜索すべき場所」の記載

物理的な場所の特定に加え,ネットワーク越しのアクセス権限の範囲を意識した記載が求められます。

項目不適切な例(ブログ記事の批判対象)推奨される具体的記載例
場所の特定

○○市××町1丁目2番3号

 

△△ホテル内

 

及びその他本件に関係ある場所

○○市××町1丁目2番3号

△△ホテル 客室A号室

(本件手引27頁参照。同頁では「○○○○方居宅及び付属施設」や「アパート,下宿等のように,各室によって居住権者が異なる場合には,各室ごとに別個の場所となるので,これを明確に特定する必要がある」との記載があることから,ホテル客室の場合は管理権の独立性を考慮し,客室番号まで特定することが必須である。)

なお,身体捜索を併せて行う場合は,「捜索すべき場所,身体又は物」の欄において,本件手引28頁の記載例に基づき,以下のとおり明確に区分して記載するのが望ましい。
・捜索すべき身体 被疑者の身体
・捜索すべき物  被疑者の着衣及び携行品

解説「ホテル内」「関係ある場所」では範囲が無限定になる。客室番号で特定する。共用部や他室への無断立入りを防ぐため,物理的範囲を明確に限定する。

(2) 「差し押さえるべき物」の記載

「一切の物」を排し,デジタル証拠とクラウドデータへのアクセス権限を明記します。

【推奨記載例:スマートフォン及びクラウドデータを対象とする場合】

[1 差し押さえるべき物]
スマートフォン,携帯電話機,タブレット端末,パーソナルコンピュータ (注:端末本体を押収する場合,「電磁的記録」自体を「差し押さえるべき物」として記載する必要はないとする運用が一般的です。端末を押収すれば,その中身も当然に押収の効力が及ぶからです。ただし,データをプリントアウト等して押収する場合に備え,「本件被疑事実に関する電磁的記録を記録・出力した記録媒体及び書面」と付記することは有益です。)

[2 差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって,その電磁的記録を複写すべきものの範囲] (刑事訴訟法218条2項・本件手引58頁参照)

差し押さえるべき上記スマートフォン等にインストールされているアプリケーションソフトウェア(SNSアプリ,クラウドストレージアプリ等)に保存されているID及びパスワード(自動ログイン設定を含む。)を用いてアクセス可能な,当該アプリケーションソフトウェアに係るサービス提供者のサーバ上の記録領域のうち,本件被疑事実に関する画像,動画,メッセージ履歴及び位置情報履歴等を記録している部分

(参考:本件執務27頁の記載例 「Webメールサービスのサーバの記録領域であって,被疑者のアカウントによりアクセス可能な記録領域」)

<AI司法研修所教官の補足>

「複写すべきものの範囲」の特定(刑事訴訟法218条2項)

これがないと,スマホ本体は押収できても,法的にはクラウド(GoogleフォトやiCloud等)の中身を見る権限がありません(本件手引58頁参照)。 「意図せざるクラウド侵害(違法捜査)」を防ぐためにも,アクセス権限(ID・パスワードでログインできる範囲)を令状で明示させ,かつ,対象を「本件被疑事実に関する」ものに限定する記載が不可欠です。

なお,この「複写の処分」は,あくまで差押対象物である電子計算機(スマホ等)の差押えが認められることが前提となります(本件資料19頁)。
したがって,スマホ自体の差押えの必要性・関連性もしっかりと疎明する必要があります。

2 勾留質問において被疑者に確認すべき技術的チェックリスト

勾留質問は,短時間で「罪証隠滅の具体的危険性」を見極める真剣勝負です。

懸念される「リモートワイプ(遠隔消去)」や「バックアップからの復元」のリスクを評価するために,被疑者に対して以下の質問を投げかけ,その反応(動揺,沈黙,矛盾)を調書化してください。

【基本姿勢】

専門用語を使わず,被疑者が理解できる言葉で聞きつつ,裁判官の頭の中では技術的評価を行います。

(1) デバイスの管理状況(Physical Access)

  • ア パスコードの開示意思

    • 「スマホのロック解除番号(パスコード)は警察に教えましたか? 教えるつもりはありますか?」

    • (評価:拒否する場合,解析に時間を要するため,勾留による身柄確保の必要性が高まる。)

  • イ 生態認証の設定

    • 「顔認証(Face ID)や指紋認証は設定していますか?」

  • ウ 破損の程度と意図(ブログ記事の重要論点)

    • 「逮捕された時,スマホはどうなりましたか? なぜ地面に叩きつけたのですか?」

    • 「今,電源は入りますか? 画面は映りますか?」

    • (評価:意図的な物理破壊行為は,最強の隠滅の徴表となる。)

(2) クラウド・ネットワーク環境(Network / Logical Access)

ここが「釈放後のリモートワイプ」リスクを見極める核心部分です。

  • ア データの同期(バックアップ)状況

    • 「撮った写真は,自動的にネット上(iCloudやGoogleフォト)に保存される設定ですか?」

    • 「パソコンを持っていますか? スマホとつないだことはありますか?」

  • イ アカウントへのアクセス手段

    • 「Apple ID(またはGoogleアカウント)とパスワードは覚えていますか?」

    • 「そのIDでログインできるパソコンやタブレット(iPad等)が,自宅にありますか?」

    • (評価:自宅にログイン可能な別端末がある場合,釈放直後の遠隔消去リスクが「具体的」に肯定される。)

  • ウ 「探す」機能の認識

    • 「『iPhoneを探す』や『デバイスを探す』機能はオンになっていますか?」

    • 「スマホをなくした時に,パソコンからデータを消せる機能があることを知っていますか?」

(3) 隠滅の動機と具体的計画(Intent & Plan)

  • ア 共有・拡散の有無

    • 「撮った動画は,誰かに送ったり,SNSに上げたりしましたか?」

    • 「『テレグラム』や『シグナル』等のアプリを使っていますか?」

  • イ 釈放後の行動予測(鎌をかける質問)

    • 「もし今日家に帰れたら,まずパソコンで自分のSNSやクラウドを確認したいですか?」

    • 「警察に見られる前に,ネット上のデータを整理(削除)したいと思いませんか?」

    • (評価:「はい」や「確認したい」という回答は,罪証隠滅(データの変更・削除)の予備的行動と評価し得る。)

第5 デジタル証拠時代における令状審査の心得(総括)

以上のとおり,本設問は,形式的な令状審査の枠を超え,デジタルデータの脆弱性と技術的な証拠保全の難易度を深く理解していなければ,適正な結論を導き出すことが困難な事例である。

「被疑者がスマホを壊した」という事実は,単なる器物損壊ではない。それは,0と1で構成された「真実」を消滅させようとする試みであり,これに対抗し得る手段は,迅速な身柄拘束による物理的アクセスの遮断と,高度なフォレンジック技術による復元のみである。

法は技術の後追いになりがちであると言われるが,運用を司る我々裁判官が,技術的知見を持って法の解釈・適用を行うことで,その隙間を埋めることは可能である。
また,実質的にみれば,捜査機関が電磁的記録を複写等して差し押さえてその内容を自由に検討できる状態におくことは,「押収に関する処分」として準抗告(刑訴法430条)の対象となり得る(本件執務資料30頁参照)。
加えて,令和6年に制定された「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」(セキュリティ・クリアランス法)等の影響により,公務員である被疑者がデジタル機器を通じてアクセスし得る情報の重要性は増しており,保釈判断等においても考慮すべき新たな要素となり得る。
デジタル証拠収集手続は,その過程が可視化されにくい分,事後的な司法審査の重要性が増していることも忘れてはならない。

また,一般的な令状審査の観点からは,本件手引12頁にあるとおり,「被疑者の人定事項」や「裁判官の記名押印」等の形式的要件の点検が厳格に求められている。
デジタル証拠のような新しい分野であっても,こうした基本的な「令状過誤の防止」(本件手引1頁)の精神は変わらない。技術的な正当性判断と同時に,差押え対象物件の記載(本件手引28頁参照)において,「その他一切の物」といった包括的記載を見逃さず,手引の趣旨に則った厳格な特定を求める姿勢こそが,若手裁判官に求められる「司法による抑制機能」である。

新任判事補の皆様には,目の前の記録の背後にあるデジタル・フットプリント(電子的痕跡)を想像し,実体的真実の発見と人権保障の調和を図れる裁判官として成長されることを切に願うものである。

第6 勾留決定に対するAI弁護人の準抗告申立書

(申立ての趣旨 )
原裁判官が令和7年12月27日付けでした被疑者に対する勾留決定を取り消す。
との決定を求める。

(申立ての理由)

1 原決定の不当性(総論)

原決定は,被疑者が逮捕直後にスマートフォンを損壊した事実を重視し,その解析(モバイルデバイスフォレンジック)及びクラウド上のデータ解析(クラウドフォレンジック)の必要性を理由に勾留を認めた。
しかし,後述するとおり,デジタル証拠の特性及び現代の捜査技術に照らせば,被疑者の身体拘束を継続せずとも証拠保全は十分に可能である。
原決定は,捜査機関がとり得る代替的な証拠保全措置の存在を看過し,漫然と被疑者の身体拘束の必要性を肯定した点において重大な事実誤認があり,速やかに取り消されるべきである。

2 「モバイルデバイスフォレンジック」の困難性を理由とする勾留の違法

原決定は,損壊された端末の解析(チップオフ法等)に数週間を要する可能性があることをもって,その間の身柄拘束を正当化するものである。
しかし,以下の理由から,本件においては端末解析の完了を待たずとも証拠保全は可能であり,勾留の必要性は認められない。

(1) クラウドデータ及び通信ログによる代替証明の充足
本件の立証に必要な証拠は,被疑者と被害者の接触状況や通信履歴であり,これらは物理的に破壊された端末内部(NANDフラッシュメモリ)のみならず,クラウドサーバー及び通信事業者のログ(CDR等)に多重的に記録されている。
端末の損壊は,逮捕時の動揺による偶発的なものであり,計画的な証拠隠滅の意図を推認させるものではない。
むしろ,捜査機関は,現場において刑訴法110条の2に基づく「差し押さえるべき記録媒体に代わる複写・移転の処分」が可能であったにもかかわらず,これを怠ったか,あるいは既にクラウド上のデータの保全に着手可能な状態にある。
仮に端末解析に時間を要するとしても,より重要な客観証拠であるクラウド上のデータ等は,端末の物理的修復を待たずとも,直ちに捜査機関がリモートで取得可能である。
したがって,解析に時間を要するのは捜査機関の技術的都合あるいは緩慢な捜査に起因するものであって,代替的な証拠保全手段が存在する以上,その期間中,漫然と身体拘束を継続することは,勾留の必要性を欠くといわざるを得ない。
(2) 代替機利用等の抽象的リスクに対する防御
原決定が懸念する修理業者を装った奪還や代替機を用いたクラウド操作等のリスクについては,具体的事実に基づかない抽象的な危惧の域を出ない。
これらのリスクに対しては,被疑者の釈放後のインターネット接続機器の利用禁止,及び身元引受人による監督誓約によって,より制限的でない手段(Less Restrictive Alternative)で対処可能である。
したがって,あえて身体拘束を継続する必要性(補充性)を欠く。

3 「クラウドフォレンジック」及び「リモートワイプ」リスクの不存在

原決定は,被疑者が帰宅後に自宅PC等からクラウド上のデータを遠隔消去(リモートワイプ)するリスクを強調する。
しかし,このリスクは捜査機関の適切な措置により完全に排除可能であり,身柄拘束を正当化する理由とはならない。

(1) 記録命令付差押えによる「公的かつ強制的な」アクセスの遮断
原決定は,被疑者による「リモートワイプ(遠隔消去)」を懸念する。
しかし,最高裁令和3年2月1日決定が,国外サーバーへのリモートアクセスについて一定の適法性を認めたことに鑑みれば,捜査機関は国際捜査共助を待たずとも,刑事訴訟法99条の2に定める「記録命令付差押え」等の保全措置を迅速に講じることが可能であり,このリスクは身体拘束によらずとも排除可能である。
本件手引54頁においても,記録命令付差押許可状は独立した令状として定型化されており(手引書式⑨),「記録させ又は印刷させるべき電磁的記録」として「○○から○○までの間のユーザーID(○○)に関する接続ログ」等を特定すれば足りるとされている。
このように,裁判所実務において既に定型処理が確立している手法である以上,捜査機関が必要な範囲のデータを特定して法的保全措置を講じれば足りるものであり,全人格的なデータを人質に取った身体拘束は,補充性を欠き,比例原則に違反する。
(2) アクセスログによる抑止
万一,被疑者が何らかの方法でアクセスを試みた場合でも,その操作履歴(IPアドレス等)は全てログとして記録される。
公務員である被疑者が,自ら罪証隠滅の動かぬ証拠を残してまで,職を失うリスクを冒す行為に及ぶとは考え難く,主観面においても罪証隠滅のおそれは乏しい。

4 「コンピュータフォレンジック」の名を借りた違法な別件探索

原決定は,被疑者の自宅PC等に「コレクション」として余罪の証拠が存在する可能性を指摘し,その隠滅防止を勾留理由とする。
しかし,これは以下の通り,令状主義の潜脱である。

(1) デジタル・フットプリント(電磁的痕跡)の不存在による嫌疑の欠如
原決定は,自宅PC等に「コレクション」が存在する可能性を指摘する。
しかし,もし被疑者が常習的に画像を収集・管理しているのであれば,既に押収されたスマートフォンのサムネイルキャッシュ,同期履歴,あるいは接続ログにその痕跡(メタデータ)が残存しているはずである。
現段階において,それら被疑事実との具体的結びつきを示す資料(SNSへのアップロード履歴や同期ログ等)が何ら疎明されていない以上,被害者の供述のみを根拠として自宅パソコン等の網羅的探索を企図することは,実質的な「別件探索のための身柄拘束」に他ならず,憲法35条が要請する令状主義の潜脱である。
(2) 比例原則違反
仮に余罪の証拠が存在する可能性があるとしても,本件は未遂事案であり,既に主要な証拠であるスマートフォンは押収されている。
不確実な余罪証拠の保全のみを目的として,公務員である被疑者の身体拘束を長期間継続し,その社会生活を破壊することは,法益権衡を失しており,比例原則に違反する(最高裁平成26年11月17日決定等参照)。

5 被害者保護に関する代替措置

原決定が懸念する被害者情報の漏洩やインターネット上での加害リスク(いわゆるデジタルタトゥー)については,以下の代替措置により十分に回避可能である。

第一に,本件では刑事訴訟法207条の2に基づく被害者特定事項秘匿決定がなされるべき事案であり,これにより被疑者に交付される書面等から被害者情報は秘匿される。弁護人もまた,被疑者に対して一切の被害者情報を開示しないことを誓約する。被疑者が情報を物理的・データ的に知り得ない以上,インターネット上での晒し行為は技術的に不可能である。
第二に,インターネット上の書き込みは,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求等により,IPアドレスやタイムスタンプ等のログから発信者の特定が容易である(甲◯)。公務員である被疑者が,自ら証拠を残して職を失うリスクを冒してまで加害行為に及ぶ具体的危険性は存しない。
第三に,被疑者の妻が身元引受人として監督を誓約しており(甲◯),被疑者のインターネット利用状況についても適切な監督が期待できる。

6 結論

以上のとおり,原決定が依拠する「デジタル証拠隠滅の高度な蓋然性」は,捜査機関による適切なID管理や保全措置(パスワード変更,記録命令付差押え等)によって無力化できるリスクに過ぎない。
技術的措置及び法的手続によって防止可能なリスクを理由に,被疑者の身体的自由を奪うことは必要最小限度の原則に反し,違法である。
よって,原決定は速やかに取り消されるべきである。

第7 AI弁護人の準抗告申立てに対するAI裁判所の決定,及び補足メモ

(主文)

本件準抗告を棄却する。

(理由)

1 事案の概要及び前提事実

本件は,被疑者が女子高校生の背後からスマートフォンを差し向けてスカート内を撮影しようとしたという,性的姿態等撮影未遂被疑事件である。

被疑者は,犯行発覚直後,所持していたスマートフォンを地面に強く叩きつけ,物理的に損壊させた上で逮捕された。原裁判官は,罪証隠滅のおそれ等を理由に勾留決定を行い,これに対し,弁護人から準抗告の申立てがなされたものである。

2 当裁判所の判断

(1)  モバイルデバイスフォレンジック」の困難性と罪証隠滅の具体的危険性について

弁護人は,端末の解析に時間を要することは捜査機関の都合であり,クラウド上のデータや通信ログで代替証明が可能であるから,解析期間中の身柄拘束は不要である旨主張する。

しかしながら,この主張は採用できない。

まず,被疑者が逮捕直前に「スマートフォンを地面に叩きつけて損壊させた」という客観的事実は,極めて強固な「罪証隠滅の意思」と「実行力」の表れである。このような挙に出た被疑者が,釈放された場合,直ちに他の証拠隠滅に及ぶ蓋然性は経験則上極めて高い。

また,弁護人は「クラウドデータでの代替」を主張するが,性的姿態等撮影罪の立証において,端末内に残存する撮影データ(静止画・動画)の原本は,撮影のアングル,画質,撮影日時等の詳細を特定し,被疑者の故意や性的意図を推認させるための不可欠な直接証拠である。通信ログ(CDR)はあくまで通信の事実を示す間接事実にすぎず,これをもって犯罪の成否を断定できる証拠価値の代替性があるとは言えない。

損壊された端末からのデータ抽出(チップオフ法等)に高度な技術と期間を要するとしても,その期間中,被疑者が外部から何らかの手段を用いて解析を妨害したり,あるいは共犯者(画像の共有相手等)と通謀したりするリスクを遮断するため,身柄拘束を継続する合理的な必要性が認められる。

(2) 「クラウドフォレンジック」と「タイムラグ」のリスクについて

弁護人は,刑事訴訟法99条の2(記録命令付差押え)を用いれば,被疑者を拘束せずともクラウドデータの保全は可能であり,リモートワイプ(遠隔消去)のリスクは排除できると主張する。

しかし,この主張は捜査実務の時間的制約(タイムラグ)を看過している。

記録命令付差押えは,捜査機関が令状を請求・発付を受け,これをプロバイダ等に送達し,プロバイダ側で技術的な保全措置が完了して初めて効果を生ずるものである。

加えて,Apple(iCloud)やGoogle(Google Drive)等の主要なサービスプロバイダの多くは米国法人であり,日本国内で発付された令状が即座に執行されるとは限らない。
最高裁令和3年2月1日決定により,条約締結国に所在するサーバーへのリモートアクセスは一定の条件下で許容されたものの,実務上,暗号化等によりアクセスが困難な場合における海外プロバイダへの協力要請(記録命令付差押え等)については,依然として各社のコンプライアンス審査や司法共助等によるタイムラグや実効性の不確実性が存在する。

被疑者が釈放されれば,帰宅直後に自宅のパソコンやタブレット,あるいはインターネットカフェ等の端末からクラウドサービスにログインし,「全デバイスからのログアウト」や「データの遠隔消去」コマンドを実行することは,数分もあれば完了する。

捜査機関による保全措置が完了するまでの「空白の時間」に被疑者を解放することは,みすみす証拠隠滅の機会を与えるに等しい。ID管理やログの追跡可能性があったとしても,一度消去されたデータの復元が困難である以上,現時点での物理的な身柄拘束によるアクセス遮断は必要不可欠な措置である。

(3) 自宅PC等の捜索と「別件探索」の主張について

弁護人は,自宅PC等の捜索や余罪の検討を「別件探索」であり違法であると主張する。

しかし,本件のような盗撮事案においては,常習性や画像のコレクション(保存・整理)といった傾向が認められることが多く,押収されたスマートフォンと自宅パソコンが同期されている可能性も高い。

被疑者がスマートフォンを即座に破壊したという特異な行動に鑑みれば,自宅等にバックアップデータや,犯行の常習性を裏付ける同種画像データが存在すると疑うに足りる相当な理由がある。これらを保全するための捜査は本件被疑事実に関連する正当な捜査活動の範囲内であり,これを目的とした身柄拘束が「別件探索」に当たるとはいえない。

(4) 被害者保護と「デジタルタトゥー」のリスクについて

弁護人は,被害者特定事項秘匿制度や身元引受人の存在により,被害者への加害リスクは回避可能であるとする。

しかし,被疑者は犯行現場において被害者と近接して対峙しており,被害者の容姿や特徴を直接認識している。たとえ令状上の氏名が秘匿されたとしても,被疑者が記憶に基づき,SNS等で被害者を探索したり,現場周辺で待ち伏せしたりする危険性は否定できない。

特に,被疑者が公務員であり,本件により社会的地位を失うおそれに直面している状況下では,被害者に対する逆恨み等による報復感情が生じることも懸念される。被害者の安全確保のためには,初期捜査が尽くされるまでの間,被疑者の身柄を保全することが相当である。

3 結論

以上のとおり,本件においては,デジタル証拠の特殊性(隠滅の容易性)と被疑者の具体的行動(物理的破壊)に照らし,罪証隠滅のおそれは客観的かつ現実的に存在する。AI弁護人が主張する代替手段は,現段階の捜査状況においては実効性に欠け,勾留の必要性を否定する事情とはなり得ない。

よって,原決定に誤りはなく,本件準抗告は理由がないから,これを棄却する。

4 講義:新任判事補への「補足メモ」

この決定書を作成するにあたり,私が重視したポイントは以下の3点です。AI弁護人の主張がいかに論理的であっても,ここを突けば裁判所として適正な判断ができます。

(1) 「破壊行為」の評価(Fact Finding)

AI弁護人は「偶発的な損壊」と主張しましたが,裁判官としては「スマホを地面に叩きつけた」という事実を重く見ます。

普通の人は,慌ててスマホを落とすことはあっても,叩きつけません。これは,「中を見られたら終わりだ」という強い隠滅動機の現れです。この事実認定が,勾留維持の最大の柱(アンカー)になります。

(2) 「理論上の可能」と「実務上のタイムラグ」(Practicality)

AI弁護人の言う「記録命令付差押え」や「ログ保存」は,理論上は正しいです。しかし,実務では「令状を持ってプロバイダに行っても,担当者が不在ですぐ対応できない」といった事情に加え,「対象サーバーが米国にあり,日本の令状の効力が直接及ばず,任意の協力や国際捜査共助(MLA)に依存せざるを得ない」という厳然たる「国境の壁」が存在します。

「釈放したら,その帰り道にネットカフェから消去されるかもしれない」。この空白の数時間を埋めるのが勾留の役割であると,自信を持って説示してください。

(3) 「デジタル証拠」の「原本性」(Originality)

「クラウドにあるからいいじゃないか」という主張に対し,「端末内のオリジナルデータこそが重要」と言い切れるかどうかがポイントです。

クラウド上のデータは,同期の過程で非可逆圧縮され画質が劣化していたり,Exif情報等のメタデータの一部が欠落していたりすることが多々あります。
また,端末内部には,クラウドには同期されない「システムログ(アプリの起動履歴,画面オンオフの記録等)」が残存しており,これこそが被疑者の「故意」や「常習性」を立証する決定的な証拠となります。

劣化のない原本とシステムログの確保には,端末本体の解析が不可欠であるという技術的視点を持ってください。

第8 依頼者を「デジタル死」から守るための実務的助言

本件のような性犯罪事案や公務員の事件では,不起訴や執行猶予を獲得できたとしても,実名報道やネット上の書き込みによって社会的信用が失墜する「デジタル死」のリスクがあります。 弁護人としては,刑事弁護の出口戦略として,以下の技術的アドバイスを行うことが重要です。

1 初動:情報の拡散防止(ネットワークフォレンジック的視点)

(1) Google検索アラートの設定
依頼者の氏名等を登録し,書き込みを即時検知する。
(2) SNSアカウントの一時凍結
特定班による掘り起こしを防ぐため,削除ではなく「非アクティブ化」やID検索拒否設定を行う。
(3) リバース画像検索の監視
顔写真流出の有無を定期的にチェックする。

2 法的手続による削除請求

(1) 検索結果の削除申請
最高裁平成29年1月31日決定の枠組みを参照し,検索結果からの削除を求める。
(2) プロバイダ責任制限法に基づく削除
被害者特定事項秘匿決定がなされている場合,これに関連する書き込みは削除対象として認められやすい傾向にあります。

3 ORM(オンライン・レピュテーション・マネジメント)対策
削除が困難な場合,逆SEO対策(無害な記事の上位表示)により,ネガティブな情報を検索結果の下位へ追いやる手法も検討すべきです。

4 社会復帰への「デジタル・クリーニング」
刑事手続終了後,依頼者が真の意味で社会復帰を果たすためには,単なるデータの削除にとどまらず,「サイバー・ハイジーン(電脳衛生管理)」という概念を取り入れた対策が不可欠です。 IMSI(SIMカード識別番号)やMACアドレス等はすべて捜査機関に記録されています。
したがって,釈放後の被疑者のデバイスは,いわば「汚染された」状態にあると認識すべきであって,以下のハードウェアレベルでの刷新(サニタイズ)を行うことこそが,将来的な不当な追跡や別件捜査での予断による紐付けを防止する「防衛的措置(サイバー・ハイジーン)」として不可欠です。
(1) SIMカードの物理交換(IMSI/ICCIDの変更)
電話番号の変更のみならず,SIMカード自体を再発行し,加入者識別ID(IMSI)及びICCIDを完全に変更させる。
(2) 端末の買い替え(IMEI/MACアドレスの変更)
捜査機関のリストから逃れるため,スマートフォン等は新品に買い替え,製造番号(IMEI)及びMACアドレスを一新する。
(3) 自宅ルーターのIPアドレス変更
ISPへの申請やルーター交換により,自宅のグローバルIPアドレスを変更し,掲示板運営等への開示リスクを遮断する。

最高裁判所庁舎の冷房運転等に関する文書

1 最高裁判所庁舎の冷房運転に関する文書(令和5年度以降)
・ 最高裁判所庁舎の冷房運転の運用について(令和7年6月24日付)
・ 最高裁判所庁舎の冷房運転の運用について(令和6年6月25日付の文書)
・ 最高裁判所庁舎の冷房運転の運用について(令和5年6月21日付の文書)

2 最高裁判所庁舎の夏季の節電等に関する文書(令和5年度以降)
・ 最高裁判所庁舎における夏季の節電について(令和7年6月24日付の最高裁経理局管理課の文書)
・ 最高裁判所庁舎における夏季の節電について(令和6年7月29日付の最高裁経理局管理課の文書)
・ 最高裁判所庁舎における夏季の節電について(令和5年6月21日付の最高裁判所経理局管理課の文書)

3 令和4年度以前の文書
・ 最高裁判所庁舎における夏季の節電及び冷房運転に関する文書(令和4年7月5日付の文書)
・ 最高裁判所庁舎における夏季の省エネルギーの取組について(令和3年6月17日付の最高裁判所経理局管理課課長補佐の事務連絡)

4 関連記事その他
(1) 以下の資料を掲載しています。
 最高裁判所庁舎の敷地において,小型無人機等の飛行禁止区域が分かる図面(平成29年10月31日付の開示文書)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所庁舎
・ (AI作成)最高裁庁舎の令和7年6月24日付の夏季の節電方針に関するAI専門家の論評
・ 最高裁判所裁判官及び事務総局の各局課長は襲撃の対象となるおそれが高いこと等