第1 弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(原資料)
日本弁護士連合会(日弁連)は,各弁護士会に対する懲戒請求,日弁連に対する審査請求,異議申出及び綱紀審査申出の件数を毎年集計し,「懲戒請求事案集計報告」として自由と正義誌及び日弁連ウェブサイトで公表している。この公表は毎年3月中旬から下旬にかけて行われ,直近10年分の推移がまとめて掲載されるのが通例である。日弁連ウェブサイトの「基礎的な統計情報」は,2026年8月時点で2010年版から2025年版まで毎年更新されているが,そこに掲載されている懲戒統計のグラフも,新受件数の推移は2008年分から,懲戒処分率の推移は2002年分からしか遡っていない。本記事は,日弁連が毎年公表する当該年分の集計報告を通算し,1993年分から2025年分までを一覧化したものである。1993年から2002年までの分は,現在の日弁連ウェブサイトでは個別の集計報告として公開されておらず,自由と正義誌のバックナンバーによって確認した。
日弁連が公表している各年分の集計報告(2015年分以降,日弁連ウェブサイトで確認できる分)は次のとおりである。
第2 全国の弁護士に対する懲戒請求・懲戒処分の推移(1993年~2025年)
次の表は,各年の懲戒請求等の新受件数,懲戒処分の内訳及び合計と,処分件数を同年の懲戒審査開始件数で割った参考比率を示す。
この分母は弁護士会段階の懲戒審査開始件数であり,日弁連懲戒委員会の審査開始件数ではない。
また,同じ年に審査を開始した事案が同じ年に処分されたとは限らないため,同一事案群を追跡した処分率や個別事件の成功確率を示すものではない。
令和7年分の原資料の表1では懲戒処分計115件,懲戒審査開始233件であり,115÷233は約49.4%となる。
新受3,049件を分母にする比率とは異なるため,分母・手続段階・暦年を明示して読む必要がある。
| 年 | 新受 | 戒告 | 業務停止 | 退会命令 | 除名 | 懲戒計 | 参考比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025 | 3,049 | 59 | 51 | 4 | 1 | 115 | 49.4% |
| 2024 | 3,243 | 60 | 33 | 3 | 3 | 99 | 45.6% |
| 2023 | 2,587 | 72 | 36 | 5 | 1 | 114 | 65.1% |
| 2022 | 3,076 | 62 | 32 | 6 | 2 | 102 | 52.0% |
| 2021 | 2,554 | 63 | 33 | 6 | 2 | 104 | 59.1% |
| 2020 | 2,254 | 61 | 35 | 8 | 3 | 107 | 75.4% |
| 2019 | 4,299 | 62 | 25 | 7 | 1 | 95 | 45.7% |
| 2018 | 12,684 | 45 | 39 | 1 | 3 | 88 | 51.2% |
| 2017 | 2,864 | 68 | 31 | 4 | 3 | 106 | 50.2% |
| 2016 | 3,480 | 60 | 47 | 3 | 4 | 114 | 59.7% |
| 2015 | 2,681 | 59 | 30 | 5 | 3 | 97 | 52.2% |
| 2014 | 2,348 | 55 | 37 | 3 | 6 | 101 | 55.5% |
| 2013 | 3,347 | 61 | 29 | 6 | 2 | 98 | 55.4% |
| 2012 | 3,898 | 54 | 23 | 2 | 0 | 79 | 59.0% |
| 2011 | 1,885 | 38 | 35 | 2 | 5 | 80 | 58.4% |
| 2010 | 1,849 | 43 | 29 | 7 | 1 | 80 | 60.6% |
| 2009 | 1,402 | 40 | 30 | 5 | 1 | 76 | 57.6% |
| 2008 | 1,596 | 42 | 15 | 2 | 1 | 60 | 53.6% |
| 2007 | 9,585 | 40 | 28 | 1 | 1 | 70 | 50.7% |
| 2006 | 1,367 | 31 | 33 | 2 | 3 | 69 | 60.0% |
| 2005 | 1,192 | 35 | 22 | 3 | 2 | 62 | 56.4% |
| 2004 | 1,268 | 23 | 21 | 3 | 2 | 49 | 52.1% |
| 2003 | 1,127 | 27 | 25 | 3 | 4 | 59 | 83.1% |
| 2002 | 840 | 28 | 32 | 3 | 3 | 66 | 55.0% |
| 2001 | 884 | 34 | 24 | 4 | 0 | 62 | 66.7% |
| 2000 | 1,030 | 17 | 16 | 7 | 1 | 41 | 47.7% |
| 1999 | 719 | 17 | 27 | 5 | 3 | 52 | 57.1% |
| 1998 | 715 | 19 | 20 | 2 | 2 | 43 | 55.1% |
| 1997 | 488 | 11 | 23 | 1 | 3 | 38 | 62.3% |
| 1996 | 485 | 16 | 7 | 3 | 1 | 27 | 60.0% |
| 1995 | 576 | 17 | 15 | 5 | 2 | 39 | 78.0% |
| 1994 | 517 | 15 | 6 | 2 | 2 | 25 | 44.6% |
| 1993 | 439 | 12 | 4 | 4 | 3 | 23 | 42.6% |
表のうち,2007年の新受件数9,585件と2018年の新受件数12,684件は,他の年と比べて際立って多い。2007年の突出は,光市母子殺害事件の弁護団に対して大量の懲戒請求がされたことによる。同事件をめぐっては,弁護士がテレビ番組で懲戒請求をするよう視聴者に呼び掛けた行為の違法性が別途争われ,最高裁判所第二小法廷は,平成23年7月15日の判決で,この呼び掛けが不法行為法上違法とはいえないと判断した(詳細は後記関連記事「弁護士の懲戒請求権が何人にも認められていることの意義」を参照)。2018年の突出について,日弁連は,同一人から100件以上の懲戒請求をした事案が4例(合計1,777件)あったこと,特定の会員1名に対する同一内容の懲戒請求が8,640件あったことなどによると説明している。このほか,2019年,2022年,2024年及び2025年の新受件数が3,000件を超えているのも,同一人又は同一内容による大量請求が個別に発生したことが主な要因であり,懲戒処分に至る個々の非行が急増したことを示すものではない。
第3 日弁連に対する審査請求等の推移
弁護士会から懲戒処分を受けた対象弁護士等は,日弁連へ審査請求をすることができる。
次の表は,日弁連懲戒委員会による審査請求事案の新受件数,原処分取消件数及び原処分変更件数を示す。
懲戒請求者の異議申出や綱紀審査申出の件数とは区別する必要がある(弁護士法59条・64条・64条の3)。
| 年 | 審査請求新受 | 原処分取消 | 原処分変更 |
|---|---|---|---|
| 2025 | 32 | 2 | 3 |
| 2024 | 28 | 4 | 2 |
| 2023 | 48 | 3 | 2 |
| 2022 | 30 | 3 | 3 |
| 2021 | 31 | 1 | 4 |
| 2020 | 41 | 2 | 4 |
| 2019 | 30 | 3 | 1 |
| 2018 | 37 | 6 | 4 |
| 2017 | 29 | 3 | 2 |
| 2016 | 33 | 1 | 2 |
| 2015 | 33 | 6 | 1 |
| 2014 | 34 | 1 | 4 |
| 2013 | 35 | 3 | 1 |
| 2012 | 29 | 2 | 0 |
| 2011 | 28 | 2 | 3 |
| 2010 | 31 | 4 | 5 |
| 2009 | 31 | 0 | 2 |
| 2008 | 17 | 1 | 2 |
| 2007 | 30 | 6 | 2 |
原処分取消とは,弁護士会がした懲戒処分が取り消されることをいい,原処分変更とは,処分が維持されつつその内容が変更されることをいう。
同じ年の審査請求新受件数と取消・変更件数から,同一事案群の認容率を算出することはできない。
また,対象弁護士側の審査請求で処分が取り消されることと,懲戒請求者側の綱紀審査で審査相当とされることは,方向も段階も異なる。
綱紀審査申出事案の処理状況(2016年~2025年)
次の表は,日弁連「2025年懲戒請求事案集計報告」の表5(PDF実頁2頁)を転記したものである。
「審査相当」「審査不相当」は原資料の項目名であり,前者は最終的な懲戒処分件数を示すものではない。
| 年 | 新受 | 審査相当 | 審査不相当 | 却下 | 終了 | 既済計 | 未済 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2016 | 332 | 0 | 399 | 4 | 3 | 406 | 72 |
| 2017 | 376 | 35 | 246 | 6 | 0 | 287 | 161 |
| 2018 | 398 | 3 | 325 | 6 | 0 | 334 | 225 |
| 2019 | 479 | 2 | 475 | 7 | 2 | 486 | 218 |
| 2020 | 372 | 1 | 357 | 11 | 1 | 370 | 220 |
| 2021 | 358 | 2 | 403 | 49 | 2 | 456 | 122 |
| 2022 | 586 | 0 | 407 | 6 | 3 | 416 | 292 |
| 2023 | 385 | 1 | 542 | 13 | 4 | 560 | 117 |
| 2024 | 341 | 0 | 362 | 19 | 6 | 387 | 71 |
| 2025 | 590 | 0 | 366 | 16 | 3 | 385 | 276 |
2017年の審査相当35件には,同種事案に関する議決32件が含まれるという原資料の注記がある。
原資料は,一事案に複数の議決・決定がある場合は各項目に計上し,終了には資格喪失・死亡のほか,日弁連段階での異議申出・綱紀審査申出の取下げも含めると説明している。
単年の新受件数,既済件数及び未済件数を混同せず,この表から個別事案の見通しを断定しない。
申出の要件・期限・手続については,綱紀審査会の要件・期限・申出書を参照されたい。
第4 弁護士賠償責任保険の支払実績
自由と正義2023年7月号13頁から20頁には「座談会 弁護士賠償責任保険の成り立ちと現状」が掲載されており,同16頁によれば,2018年度から2022年度までの保険金支払総件数は627件であり,そのうち次の5類型で全体の43%を占めるとされている。
- 上訴期間等手続期限の徒過又は消滅時効の完成(20%)
- 債務整理・破産申立て代理人業務の過誤(11%)
- 離婚時の年金分割の期限徒過(6%)
- 遺留分減殺請求権の行使期間の徒過(3%)
- 情報漏えい(3%)
同座談会17頁によれば,年度別の支払保険金の総額は次のとおりである。
- 2018年度:5億198万円
- 2019年度:2億7,364万円
- 2020年度:3億4,179万円
- 2021年度:5億2,104万円
- 2022年度:2億1,446万円
弁護士賠償責任保険は,弁護士の懲戒処分そのものとは別の制度であるが,弁護士がどのような業務過誤によって責任を追及されやすいかを示す統計であり,懲戒事由の防止という観点からも参考になる。
何度も言っていますが
「相手方や揉めそうな依頼者との電話は録音するか、せめて電話後にすぐ文書にまとめて相手に送る」
これは弁護士として自分の身を守るため、是非習慣にして欲しいと思います。
言った言わないで揉めることの非効率さ&ストレスたるや…#新人弁護士に言いたいこと
— ノーネクタイのマイクロス (@nise_mike_ross) April 22, 2022
懲戒という制度はあくまでも弁護士自治を維持するための制度であって、個々の弁護士に対する嫌がらせや恫喝の手段として用いられることがないように制度設計する必要があると思っている。
— 教皇ノースライム (@noooooooorth) March 20, 2021
第5 関連記事
- 弁護士の戒告,業務停止,退会命令及び除名,並びに第二東京弁護士会の名簿登録拒否事由
- 弁護士の業務停止処分に関する取扱い
- 弁護士の懲戒事由
- 弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」-判断枠組みと50の懲戒例(AI作成)
- 弁護士の懲戒請求権はなぜ何人にも認められるか|条文・判例・大量請求の教訓
- 弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めた弁護士職務基本規程の条文
- 弁護士会の懲戒手続―綱紀委員会・懲戒委員会と異議申出
出典・参考資料
1 裁判例
①最高裁判所第二小法廷平成23年7月15日判決(平成21年(受)第1905号,民集65巻5号2362頁,裁判所ウェブサイト)
2 公的資料
①日本弁護士連合会「2015年懲戒請求事案集計報告」(日弁連)
②日本弁護士連合会「2016年懲戒請求事案集計報告」(日弁連)
③日本弁護士連合会「2017年懲戒請求事案集計報告」(日弁連)
④日本弁護士連合会「2018年懲戒請求事案集計報告」(日弁連)
⑤日本弁護士連合会「2019年懲戒請求事案集計報告」(日弁連)
⑥日本弁護士連合会「2020年懲戒請求事案集計報告」(日弁連)
⑦日本弁護士連合会「2021年懲戒請求事案集計報告」(日弁連)
⑧日本弁護士連合会「2022年懲戒請求事案集計報告」(日弁連)
⑨日本弁護士連合会「2023年懲戒請求事案集計報告」(日弁連)
⑩日本弁護士連合会「2024年懲戒請求事案集計報告」(日弁連)
⑪日本弁護士連合会「2025年懲戒請求事案集計報告」(日弁連)
⑫日本弁護士連合会「弁護士白書2021年版」資料3-2-3-3「懲戒請求事案処理の内訳(全弁護士会)」(2004年から2020年までの集計を掲載)
⑬日本弁護士連合会「基礎的な統計情報(2025年)」(日弁連)
⑭日本弁護士連合会「基礎的な統計情報2010」(日弁連)
⑮1993年分から2002年分までの各年の懲戒請求事案集計報告(自由と正義各年4月号所収)
⑯「自由と正義2023年7月号」13頁~20頁「座談会 弁護士賠償責任保険の成り立ちと現状」(日弁連)