第1 この記事が扱う対象
「経営・管理」は,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)別表第一の二に定める在留資格の一つであり,本邦において事業の経営を行い又はその管理に従事する外国人を対象とする。この在留資格の上陸許可基準は,令和7年10月16日に大きく改正されており,改正前によく知られていた「資本金500万円以上」という要件は,改正後は存在しない。本記事は,令和8年8月22日現在で確認できる入管法及び上陸基準省令の条文(改正前後の対比を含む。),出入国在留管理庁が公表する運用資料,国会審議の内容,並びに関連する裁判例に基づき,現行の上陸許可基準の内容を整理するものである。
出入国在留管理庁が作成した内部の審査基準である「入国・在留審査要領」(令和8年4月開示文書)第12編第2章第10節は,本記事が扱う在留資格の審査実務を最も詳細に記載した一次資料である。当該文書は,出入国在留管理庁作成の「入国・在留審査要領」(令和8年4月の開示文書)で全編を掲載しているので,個別の条文や運用の詳細を原文で確認したい場合はそちらを参照されたい。
第2 「経営・管理」の在留資格とは何か
1 入管法上の定義
入管法別表第一の二の「経営・管理」の項の下欄は,本邦において行うことができる活動を次のとおり定めている。「本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動(この表の法律・会計業務の項の下欄に掲げる資格を有しなければ法律上行うことができないこととされている事業の経営又は管理に従事する活動を除く。)」。出入国在留管理庁の審査要領によれば,この活動には,①本邦で事業の経営を新たに開始してこれを行い又は管理する活動,②本邦で既に営まれている事業に参画してこれを経営し又は管理する活動,③事業の経営者(法人を含む。)に代わって経営を行い又は管理に従事する活動の3類型が含まれる。事業の経営に従事する活動には代表取締役・取締役・監査役等の役員としての活動が該当し,事業の管理に従事する活動には部長・工場長・支店長等の管理者としての活動が該当するが,いずれも名目的な地位にとどまらず,経営又は管理に実質的に参画し,又は従事するものであることが求められる。
2 「投資・経営」からの改称の経緯
現行の「経営・管理」は,平成26年の入管法改正により,それ以前の「投資・経営」という在留資格を改組して設けられたものである。審査要領によれば,「投資・経営」の在留資格は,日米友好通商航海条約第1条1項が定める内国民待遇・最恵国待遇の規定その他の条約上の待遇を担保するため,外資が参入している企業の経営・管理業務に従事する外国人の受入れを目的として平成元年の法改正で創設された経緯を持つ。「投資・経営」という名称のとおり,外国人が我が国に投資していることが対象となる前提条件であり,これ以外の事業の経営や管理に従事する外国人は対象外とされていた。平成26年改正により,この投資要件は撤廃され,外国人若しくは外国法人が投資しているか,日本人若しくは日本法人のみが投資しているかを問わず,事業の経営又は管理に従事する外国人を広く対象とする「経営・管理」に改められた。
3 他の在留資格との関係
同じ活動内容が複数の在留資格に該当し得る場合の優先関係についても,審査要領が整理を示している。企業の経営活動や管理活動が自然科学又は人文科学の知識等を要する業務と重複する場合は,「技術・人文知識・国際業務」ではなく「経営・管理」を決定する。この振り分けの詳細は,「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で扱った他資格との関係の説明も参照されたい。弁護士,公認会計士等の資格を有しなければ行うことができないとされている事業の経営又は管理に従事する活動は「法律・会計業務」に該当するが,病院の経営に係る活動は,医師の資格を有する者が行う場合であっても「経営・管理」に該当する。日本法人の経営者に就任し,かつ日本法人から報酬が支払われる場合は,会議出席等の短期間の来日であっても「経営・管理」に該当し,「短期滞在」では入国できない。
第3 令和7年10月16日改正――何が変わったのか
1 改正の骨格
「経営・管理」の上陸許可基準を定める上陸基準省令は,令和7年10月16日付けの改正省令(令和七年法務省令第五十号)により大きく改められた。改正前の基準では,事業の規模について,①経営・管理に従事する者以外の常勤職員を2人以上雇用していること,②資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること,③これらに準ずる規模であること,のいずれかに該当すればよいという選択制が採られていた。これに対し改正後の基準では,常勤職員の雇用と,事業の用に供される財産の総額が3,000万円以上であることの両方を満たすことが必要になった。金額要件が500万円から3,000万円へ引き上げられただけでなく,選択制からいずれの要件も満たす必要がある構造に変わった点が実務上の影響として大きい。さらに,改正前には存在しなかった日本語能力要件(経営者又は常勤職員のいずれかがCEFR B2相当の日本語能力を有すること)と,学歴又は経営管理の実務経験に関する要件(経営管理関連分野の修士・博士・専門職学位,又は3年以上の経営管理経験)が新設された。新旧の条文は,第4で号ごとに対比して示す。
2 改正の理由として示された事情
出入国在留管理庁は,改正の理由について,許可基準が諸外国の同様の制度と比べて緩やかであり,移住の手段として悪用されているとの指摘があったこと,在留審査において事業の実態がないことが判明する事案が認められていたことを挙げている。参議院法務委員会(令和8年4月14日)における内藤惣一郎・出入国在留管理庁次長の答弁によれば,改正の検討に当たり令和6年末時点で「経営・管理」の在留資格を有する41,615人を対象に調査を行ったところ,資本金の額が3,000万円以上であった者は約4%にとどまっていたことが明らかにされている。同庁は,改正に先立ち令和7年8月20日に法務大臣の私的懇談会「出入国在留管理政策懇談会」で有識者の意見を聴取し,同年8月26日から9月24日までの30日間,意見公募手続(パブリックコメント)を実施して702件の意見を受け付けた。国会審議での賛否両論の内容は,第9で扱う。
第4 現行の上陸許可基準
1 事業所の存在(第1号)
上陸基準省令の「経営・管理」の項第1号は,「申請に係る事業を営むための事業所が本邦に存在すること。ただし,当該事業が開始されていない場合にあっては,当該事業を営むための事業所として使用する施設が本邦に確保されていること」と定めている。この要件は令和7年10月改正の前後を通じて変わっていない。事業所の実体をめぐる審査の詳細は第5で扱う。
2 事業の規模(第2号)
第2号は,「申請に係る事業の規模が次のいずれにも該当していること」として,イ「その経営又は管理に従事する者以外に本邦に居住する常勤の職員(法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く。)が従事して営まれるものであること」,ロ「申請に係る事業の用に供される財産の総額(資本金の額及び出資の総額を含む。)が三千万円以上であること」の両方への該当を求める。改正前の第2号は,イ「常勤の職員(同)が2人以上」,ロ「資本金の額又は出資の総額が500万円以上」,ハ「イ又はロに準ずる規模」のいずれかに該当すればよいとしていた。財産の総額には,事業所確保に係る経費,雇用する職員への1年間の給与等,事務機器購入費等の設備投資が含まれる。事業主体が法人である場合は,株式会社における払込済資本の額又は持分会社の出資の総額で判断し,登記事項証明書により実際の投下を確認する。個人事業の場合は,貸借対照表の資産の部の額から,事業に投下される財産が3,000万円以上であることを確認する。単なる預貯金は事業に投下される財産として扱われず,設備投資契約書や雇用契約書等により,実際に事業へ投下されることが見込まれることを確認する必要がある。
3 日本語能力(第3号)
第3号は,改正により新設された要件であり,「申請に係る事業の経営を行い,又は当該事業に従事する者(非常勤の者を除く。)のうちいずれかの者が,高度に自立して日本語を理解し,使用することができる水準以上の能力を有している者であって,かつ,申請人が当該事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する時において,本邦に居住することとしているものであること」と定める。審査要領によれば,「高度に自立して日本語を理解し,使用することができる水準以上の能力」とは,日本語教育の参照枠におけるB2相当以上の日本語能力であり,日本語能力試験(JLPT)N2以上,又はBJTビジネス日本語能力テストにおいて400点以上を得点した者が対象となる。次のいずれかに該当する場合は,試験による証明を要しない。①日本人,②特別永住者,③中長期在留者として20年以上本邦に在留している者,④本邦の大学を卒業し,又は本邦の高等専門学校若しくは専修学校の専門課程を修了した者(恒常的に外国語で授業を行う課程等を除く。),⑤我が国の義務教育及び高等学校を修了・卒業している者。参議院法務委員会(令和8年6月18日)における内藤惣一郎次長の答弁によれば,この日本語能力要件は,パブリックコメントの意見募集時点の改正案には含まれておらず,「近隣の住民等と日本語でコミュニケーションが取れることを担保する必要がある」等の意見を踏まえて省令案を修正する形で追加されたものである。
4 学歴又は経験(第4号)
第4号も改正により新設された要件であり,イ「経営管理に関する分野又は申請に係る事業の業務に必要な技術又は知識に係る分野において博士の学位,修士の学位又は専門職学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有していること」,ロ「事業の経営又は管理について三年以上の経験」のいずれかへの該当を求める。経営又は管理の経験には,本邦外での経歴のほか,起業準備を目的とする「特定活動」(貿易その他の事業の経営を開始するために必要な事業所の確保その他の準備行為を行う活動を指定されたもの)で在留していた期間も算入される。
5 報酬(第5号)
第5号は,「申請人が事業の管理に従事しようとする場合は,日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」と定める。改正前の第3号後段と同内容であり,事業の経営に従事する場合(役員として経営に当たる場合)にはこの要件は適用されない。
第5 事業所の実体をめぐる審査
事業所の存在(第1号)に関する審査で実務上特に問題となるのは,名目的な事業所を排除する運用である。審査要領は,事業所は実際に事業が営まれている場所であることを要するとし,住所及び電話番号等のみを借り受け,電話にはオペレーターが対応し,郵便物を転送するなど,実際に経営又は管理を行う場所が存在しない「バーチャル・オフィス」等と称する形態は,事業所として認めないと明記している。月単位の短期間賃貸スペースや,容易に処分可能な屋台等の施設を利用する場合も,それを合理的とする特別の事情がない限り,事業所の確保の要件に適合しているとは認められない。賃貸借契約は,使用目的が事業用・店舗・事務所等の事業目的であることを明らかにし,契約者名義も当該法人等とすることが必要である。審査要領は,令和7年10月改正により事業規模要件が見直され常勤職員の雇用が必須となったことも踏まえ,「自宅兼事業所とするような形態は基本的に想定されず,独立して事業を営む事業所であることが客観的に見て明らかであることを必要とする」と述べており,改正が事業所要件の運用にも影響を及ぼしていることを示している。
もっとも,例外的な取扱いもある。独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)が運営する対日投資・ビジネスサポートセンター等のインキュベーションオフィスについては,独立区画でなくても,起業支援を目的として一時的に貸与されているものであれば事業所の確保の要件に適合するものとして扱われる。地方公共団体が実施する起業支援対象者についても,自治体がインキュベーション施設の賃料等を負担している場合,その負担額(年間最大200万円)を申請人の投下額に合算して3,000万円要件の充足を判定する取扱いがある。
第6 複数の経営者・共同出資の場合の判断基準
複数の外国人が同一の事業の経営又は管理に従事する場合,審査要領は,それだけの人数の者が経営又は管理に従事することが必要とされる程度の事業規模,業務量,売上げ,従業員数等がなければならないとした上で,次の3条件を満たす場合に,それぞれの外国人について該当性を認めるとしている。①事業の規模や業務量等の状況を勘案して,それぞれの外国人が経営又は管理を主たる活動として行うことについて合理的な理由が認められること,②経営又は管理に係る業務について,それぞれの外国人ごとに従事することとなる業務の内容が明確になっていること,③それぞれの外国人が経営又は管理に係る業務の対価として相当の報酬の支払を受けることとなっていること。共同出資で会社が運営される場合についても,同じ観点から確認を行い,申請に係る事業の用に供される財産の総額が基準と乖離していないことを確認するとされている。したがって,複数の外国人を経営者として並べるだけでは足りず,それぞれの業務分担と報酬が事業の規模に見合ったものであることを個別に示す必要がある。なお,入国・在留を認める役員の人数自体には制限がないが,この観点からの慎重な審査を要するとされている。
第7 事業の継続性の審査
上陸許可基準そのものではないが,「経営・管理」の在留資格該当性の判断において,事業の継続性は独立した重要な審査対象である。審査要領は,決定する在留期間の途中で事業が立ち行かなくなるなど在留活動が途切れることが想定される場合には,該当する活動を行うものと認められないとした上で,直近期の決算状況に応じた段階的な判断枠組みを示している。直近期末に剰余金がある場合,又は剰余金も欠損金もない場合は,事業の継続性に問題はない。直近期末に欠損金があるが債務超過となっていない場合は,事業計画や資金調達の状況を踏まえ,原則として継続性を認める。直近期末が債務超過であっても直近期前期末は債務超過でなかった場合は,中小企業診断士・公認会計士・税理士による改善見通しの評価書の提出を求めた上で継続性を判断する。直近期末及び直近期前期末の双方が債務超過である場合は,原則として継続性を認め難いが,増資や他企業による救済等の具体的な予定があればこれを考慮する。この場合でも,設立5年以内の新興企業については,独自性のある技術やサービスに基づき事業を成長させようとする過程での赤字であることを踏まえ,投融資の状況や製品・サービス開発の状況を示す資料により柔軟に判断するとされている。直近期及び直近期前期の双方で売上総利益がない場合は,増資等の具体的な予定がある場合を除き,原則として継続性が認められない。
第8 既存の在留者に対する経過措置
令和7年10月16日より前から「経営・管理」の在留資格で在留していた者に対しては,経過措置が設けられている。出入国在留管理庁の公表資料によれば,施行日から3年後に当たる令和10年10月16日までの間の更新申請については,改正後の基準に適合していないことのみを理由として不許可とはせず,事業の経営状況等を踏まえて許否を判断するとされている。もっとも,この経過措置は上陸基準省令自体の条項としてではなく,運用上のガイドラインとして示されたものである。参議院法務委員会(令和8年6月18日)における内藤惣一郎次長の答弁は,この点について「省令事項ではございませんが,出入国在留管理政策懇談会やパブリックコメントでいただいた御意見も踏まえて一定の配慮を行うべきと,ガイドラインにおいて対応を明らかにした」と説明している。永住許可申請及び高度専門職2号への移行については,改正後の基準への適合が前提とされており,経過措置の対象には含まれていない。
第9 改正をめぐる国会での議論
改正の是非については,国会審議において賛否両論が示されている。改正を推進する立場から,内閣総理大臣石破茂は,参議院決算委員会(令和7年6月9日)において,「民泊経営を口実に経営・管理の在留資格を取得し,我が国に移住する者が増えておるという御指摘がございます。この許可基準につきましては,今後,出入国在留管理庁において適切に見直しをいたしてまいります」と述べている。参議院外交防衛委員会(令和7年5月8日)における福原申子・出入国在留管理庁在留管理支援部長の答弁も,「経営・管理の在留資格に関する在留申請の中には,委員御指摘の民泊も含めまして,事業の実態が疑われるような事案もあるというふうに承知をしている」とし,実地調査や不許可処分等の対応を説明している。
これに対し,改正の急激さや遡及的な影響を批判する意見も示された。参議院法務委員会(令和8年4月14日)における打越さく良議員(立憲民主・無所属)は,「経営・管理の在留資格は昨年末時点で約四万一千六百人,資本金などが三千万円以上の方は全体の四%にとどまる」とした上で,「あと九六%のお店とか事業所を潰してどうするんでしょうか」と改正を批判した。同委員会(令和8年5月21日)で参考人として出席した近藤敦・名城大学法学部教授は,改正後「申請者が九六%減少したと最近報じられております」と指摘し,既存の経営者に改正後の基準を将来的に適用することは「信頼保護の原則」に反すると論じた。同参考人は,改正の根拠として政策懇談会で示された「韓国が資本金要件を500万円から3,000万円に引き上げた」という説明についても,韓国には資本金要件の異なる2つの在留資格制度(「貿易経営」と「企業投資」)が並存しており,比較対象の選定に誤りがあると指摘している。参議院法務委員会(令和8年5月14日)では,仁比聡平議員(日本共産党)が,大阪出入国在留管理局における具体的な事案(飲食店開業準備中の申請人について,建設資材や職人の不足による工事遅延のために保健所の営業許可取得が遅れたことを理由に在留期間更新が不許可とされた事案)を挙げ,運用の硬直性を問題視した。
近藤敦参考人が「報じられております」として紹介した申請件数の96%減という数値は,実際には出入国在留管理庁自身が国会で認めている。同じ参議院内閣委員会(令和8年4月14日)で,礒部哲郎・出入国在留管理庁在留管理支援部長は,「経営・管理」及び一部の「高度専門職」に係る在留資格認定証明書交付申請件数について,「令和七年五月一日から同年十月十五日までの五か月半の期間において月平均で約千七百件であったのに対し,基準改正日である令和七年十月十六日から令和八年三月三十一日までの五か月半の期間においては月平均で約七十件となっております」とし,「在留資格認定証明書交付申請件数は約九六%減となっておりまして,大幅に減少している状況にございます」と答弁した。もっとも同部長は,この数値が「通常の統計として作成しているものではな」く,「基準見直しの前後の状況を把握することを目的として概数として集計した」単純比較であると留保を付けている。
これらの国会答弁からは,出入国在留管理庁が把握している「経営・管理」の在留者数の推移も確認できる。同じ参議院内閣委員会における礒部部長の答弁によれば,「令和七年末現在,我が国において経営・管理の在留資格を持って在留する者の数は四万六千七百八十一人」であり,新規の申請件数が大幅に減少した後も,在留者総数自体は増加している。もっとも,この総数の増加が新規許可によるものか,既存在留者の更新によるものかは,同答弁からは判別できない。
第10 経営・管理該当性が争われた裁判例
「経営・管理」及びその前身である「投資・経営」の在留資格該当性が正面から争われた行政訴訟の公刊裁判例は多くないが,資格外活動該当性が争われた事案として,東京地方裁判所平成20年9月19日判決(平成19年(行ウ)第274号等)とその控訴審である東京高等裁判所平成21年1月29日判決(平成20年(行コ)第346号)がある。「投資・経営」の在留資格で在留していた外国人が,入国審査官から入管法24条4号イ(資格外活動)に該当する旨の認定を受け,異議申出も棄却された上で退去強制令書の発付を受けたことから,各処分の取消しを求めた事案である。判決は,「投資・経営」の在留資格を有する外国人が無許可の資格外活動を「専ら」行っているといえるか否かは,①本邦において開始し又は投資している事業の経営又は管理への従事の状況,②無許可で行われた資格外活動の状況・態様及びその就労等に至った経緯,③生活費の支出状況その他の諸事情を総合考慮し,本来の在留資格に係る事業の経営又は管理の遂行状況と資格外活動の状況・態様等を比較検討した上で,活動内容が本来の在留資格に対応する事業経営・管理以外の資格外活動に「実質的に変更されたもの」と認められるか否かの観点から判断するのが相当であるとした。本件では,会社への関与が事業の経営又は管理としての実質を相応に備えたものとは評価し難く,会社は実質的に休眠状態にあり,申請人が主にホステスとして稼働して生計を維持していたという事情の下で,資格外活動を専ら行っていたと認定し,請求をいずれも棄却した(控訴審も同旨)。
この判断枠組みは,名称こそ改正前の「投資・経営」についてのものであるが,事業の経営又は管理への従事が「実質」を備えているかを問う点で,現行の「経営・管理」の在留資格該当性の判断にも参考になる。もっとも,令和7年10月16日改正後の基準適合性を正面から扱った公刊の行政訴訟判決は,本記事の作成に当たって網羅的に検索した範囲では見当たらなかった。改正の施行から日が浅いことに加え,行政裁量が広範な分野であるため,不許可・不交付の多くが再申請等の形で処理され,訴訟にまで至らないまま解決している可能性があるが,この点を裏付ける統計資料までは確認できていない。
出典・参考資料
1 法令・告示
①出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)別表第一の二,2条の2,7条,20条,24条(e-Gov法令検索)
②出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令(平成2年法務省令第16号)「経営・管理」の項(令和7年10月16日改正後現行,e-Gov法令検索)
2 裁判例
①東京地方裁判所平成20年9月19日判決(平成19年(行ウ)第274号等,退去強制令書発付処分取消請求事件,裁判所ウェブサイト)
②東京高等裁判所平成21年1月29日判決(平成20年(行コ)第346号,退去強制令書発付処分取消請求控訴事件,裁判所ウェブサイト)
3 公的資料
①「経営・管理」の許可基準の改正等について(出入国在留管理庁,令和7年10月10日公表・同月30日更新)
②外国人経営者の在留資格基準の明確化について(出入国在留管理庁)
③出入国在留管理庁「入国・在留審査要領」(令和8年4月開示文書)第12編第2章第10節(山中弁護士ブログ掲載版)
4 国会会議録
①第217回国会参議院外交防衛委員会第11号(令和7年5月8日)福原申子出入国在留管理庁在留管理支援部長答弁(国立国会図書館国会会議録検索システム)
②第217回国会参議院決算委員会第9号(令和7年6月9日)石破茂内閣総理大臣答弁(国立国会図書館国会会議録検索システム)
③第221回国会参議院法務委員会第4号(令和8年4月14日)打越さく良議員質疑(国立国会図書館国会会議録検索システム)
④第221回国会参議院法務委員会第4号(令和8年4月14日)内藤惣一郎出入国在留管理庁次長答弁(国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑤第221回国会参議院内閣委員会第3号(令和8年4月14日)礒部哲郎出入国在留管理庁在留管理支援部長答弁(在留者数,国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑥第221回国会参議院内閣委員会第3号(令和8年4月14日)礒部哲郎出入国在留管理庁在留管理支援部長答弁(申請件数の増減,国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑦第221回国会参議院法務委員会第8号(令和8年5月14日)仁比聡平議員質疑(国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑧第221回国会参議院法務委員会第10号(令和8年5月21日)近藤敦参考人(名城大学法学部教授)意見陳述(国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑨第221回国会参議院法務委員会第16号(令和8年6月18日)内藤惣一郎出入国在留管理庁次長答弁(経過措置,国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑩第221回国会参議院法務委員会第16号(令和8年6月18日)内藤惣一郎出入国在留管理庁次長答弁(日本語能力要件の追加経緯,国立国会図書館国会会議録検索システム)