第1 判決宣告と訓戒の対象範囲
本記事は,刑事裁判の判決が公判廷でどのように宣告され,いつ外部的に成立するかを説明した上で,口頭の宣告内容と判決書が食い違う場合,控訴期間の告知及び判決宣告後の訓戒を取り上げるものである。
法廷では,主文・理由の宣告,上訴期間等の告知,執行猶予等の制度説明及び訓戒が続けて行われることがある。しかし,これらは同じ法的効果を持つ一連の発言ではない。特に,訓戒は判決の主文又は理由を構成せず,判決宣告に付随する別の処置である。
第2 判決宣告の方式と効果
1 主文は朗読し,理由は朗読又は要旨の告知をする
刑事訴訟法342条は,判決を公判廷における宣告によって告知するものと定める。刑事訴訟規則35条によれば,宣告は裁判長が行い,主文及び理由を朗読するか,主文を朗読すると同時に理由の要旨を告げなければならない。
結論である主文は必ず朗読する一方,理由については全文の朗読に代えて要旨を告げることができる。証拠書類の朗読に代わる要旨の告知は刑事訴訟規則203条の2に基づく証拠調べの方式であり,判決理由の要旨の告知とは根拠及び対象が異なる。
2 宣告によって判決が外部的に成立する
最高裁昭和47年4月5日第二小法廷決定は,判決宣告を,既に内部的に成立している判決を告知し,外部的にも成立させる手続と位置付けている。審理と評議により形成された判断が,公判廷での宣告によって当事者及び外部に示されるという関係である。
司法研修所刑事裁判教官室の『新プロシーディングス刑事裁判』79頁は,判決は宣告により外部的に成立し,以後,同一裁判所で変更できないと説明している。後に作成される判決書が判決を新たに成立させるのではない。
3 宣告時に裁判官が交代しても公判手続の更新を要しない
公判開始後に裁判官が交代した場合,原則として公判手続を更新しなければならないが,判決を宣告する場合は例外である(刑事訴訟法315条)。最高裁昭和47年4月5日決定も,審理及び判決に関与していない裁判官が,公判手続を更新せずに判決を宣告することを認めている。
この例外は,判決内容を形成する審理・評議と,既に成立した判決を外部へ告知する宣告の機能を区別したものである。交代後の裁判官が改めて事件の証拠評価又は量刑判断を行うという意味ではない。
第3 口頭の宣告内容と判決書が食い違う場合
1 公判廷で宣告された刑が判決内容となる
最高裁平成20年4月15日第三小法廷判決が扱った事件では,裁判官が公判廷で懲役6月と宣告したのに,後に作成された調書判決には懲役1年6月と記載されていた。最高裁は,宣告された懲役6月の刑が確定しており,これと異なる調書判決の記載は効力を有しないとした。
この判例から分かるのは,判決書の記載が口頭の宣告内容を置き換えるのではないということである。判決書は判決内容を示す極めて重要な裁判書であるが,公判廷で実際に宣告された内容と食い違う場合に,後から作成された書面が当然に優先するわけではない。
2 宣告内容の確認には公判調書等が問題となる
口頭の宣告内容と判決書の記載が食い違うとの疑いが生じた場合,何が実際に宣告されたかを確認する必要がある。最高裁平成20年4月15日判決の事案では,公判調書上,懲役6月と宣告したことが明らかであった一方,調書判決には懲役1年6月と記載されていた。
したがって,単に当事者の記憶と判決書の記載が違うというだけで直ちに宣告内容が確定するわけではない。公判調書その他の記録に基づいて,宣告された主文を具体的に確認する必要がある。
第4 有罪判決宣告時の上訴期間の告知
刑事訴訟規則220条は,有罪判決を宣告する場合,被告人に対し,上訴期間と上訴申立書を差し出すべき裁判所を告知することを求めている。この告知は,訓戒ではなく,有罪判決の宣告に伴う法定の手続である。
控訴の提起期間は14日である(刑事訴訟法373条)。日で計算する期間には原則として初日を算入せず,末日が土曜日,日曜日,祝日又は年末年始の所定日に当たるときは期間へ算入しない(同法55条)。『新プロシーディングス刑事裁判』81頁も,有罪判決の場合の告知例として,宣告日の翌日から数えて14日以内に控訴申立書を提出する旨を示している。
判決宣告を受けた当事者は,判決書の入手を待って初めて期限を検討するのではなく,宣告期日に告知された期間と提出先を記録しておく必要がある。個別事件の最終日は,宣告日,休日及び記録上の手続を確認して計算すべきである。
第5 判決宣告後の訓戒
1 訓戒は任意的な付随処置である
刑事訴訟規則221条は,裁判長が判決宣告後,被告人の将来について適当な訓戒をすることができると定める。「することができる」とされているため,訓戒は任意的な措置であり,判決宣告の必要的な構成部分ではない。
最高裁昭和47年4月5日決定は,訓戒を判決宣告に付随する処置と位置付けている。訓戒は被告人の将来に向けた言葉であって,判決の主文又は理由を構成せず,有罪判決時に必要な上訴期間等の告知とも異なる。
2 審理及び判決に関与していない裁判官も訓戒できる
最高裁昭和47年4月5日決定は,訓戒の性質上,審理及び判決に関与した裁判官でなければ訓戒できないものではないとした。判決宣告のために交代後の裁判官が出廷した場合,その裁判官が宣告後の訓戒を行うこともできる。
これは,訓戒が証拠評価又は判決内容の形成ではなく,宣告後の付随的な処置だからである。訓戒を行った裁判官が審理へ関与していないことを理由として,判決内容が変わるものではない。
3 訓戒中に刑を言い誤っても主文は変わらない
大阪高裁平成元年2月28日判決が扱った事件では,裁判官が主文と判決理由中の法令適用で懲役1年6月と告げた後,訓戒中に懲役1年と言い誤った。大阪高裁は,訓戒は判決と別個の付随的処置であるから,主文朗読時に告げられた懲役1年6月が宣告刑であり,訓戒中の言い誤りは刑に影響しないとした。
もっとも,同判決は,主文朗読時の刑と判決理由で告げられた刑が異なる場合には,判決中に矛盾する二つの刑が存在することになり,重大な瑕疵となると述べている。訓戒が判決と別であるからこそ,訓戒中の言い誤りと,主文・理由自体の食い違いは区別される。
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第7 出典・参考資料
1 法令・規則
①刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)55条,315条,342条及び373条(e-Gov法令検索)。
②刑事訴訟規則(昭和23年最高裁判所規則第32号)35条,220条及び221条(最高裁判所,令和8年5月21日現在)。
2 裁判例
①最高裁昭和47年4月5日第二小法廷決定,昭和46年(あ)第2721号,集刑184号3頁(裁判所ウェブサイト)。
②最高裁平成20年4月15日第三小法廷判決,平成20年(さ)第1号,集刑294号147頁(裁判所ウェブサイト)。
③大阪高裁平成元年2月28日判決,昭和63年(う)第1063号,高刑集42巻1号91頁(裁判所ウェブサイト)。
3 公的資料
①司法研修所刑事裁判教官室『新プロシーディングス刑事裁判』(令和8年2月)79頁~81頁(PDF89頁~92頁)。
②裁判所「判決宣告」(刑事事件の手続案内)。
4 文献
①法曹会編『刑事訴訟規則逐条説明 第2編第3章(公判)』(法曹会,1989年)169頁~170頁。