メインコンテンツへスキップ
       

弁護士報酬の源泉徴収義務と支払調書(AIリライト)

第1 弁護士報酬を支払うときの基本判断

1 支払者と受領者を確認する

弁護士報酬の源泉徴収の要否は,請求書の表題又は振込口座の名義だけで決まるものではない。まず,誰が誰に対し,どの業務の対価を支払うのかを,委任契約書,請求書及び実際の業務関係に即して確認する必要がある。

国内の法人が,居住者である個人の弁護士に弁護士業務の報酬又は料金を支払う場合,原則として所得税及び復興特別所得税を源泉徴収する必要がある(所得税法204条1項2号)。個人の支払者については,その個人が給与等の源泉徴収義務者であれば,個人弁護士への支払も原則として源泉徴収の対象となる。

これに対し,従業員を雇用していない個人依頼者等,給与等について所得税法183条の源泉徴収義務を負わない個人が支払う弁護士報酬は,所得税法204条2項2号により源泉徴収の対象外となる。常時2人以下の家事使用人だけに給与を支払う個人についても,所得税法184条との関係で同様である。なお,給与から実際に徴収する税額がゼロであっても,給与等の源泉徴収義務者であること自体は変わらない(所得税基本通達204-5)。

弁護士法人は個人の弁護士ではないため,弁護士法人に対する報酬の支払について,所得税法204条1項2号による源泉徴収は不要である(国税庁タックスアンサーNo.2798の質疑応答)。

2 源泉徴収の要否の早見表

支払者報酬の受領者原則的な取扱い
法人個人の弁護士源泉徴収が必要
給与等の源泉徴収義務者である個人個人の弁護士源泉徴収が必要
給与等の源泉徴収義務者でない個人個人の弁護士源泉徴収は不要
法人又は個人弁護士法人所得税法204条による源泉徴収は不要

この表は,居住者である弁護士が日本国内で通常の弁護士業務を行う場合の原則を示すものである。非居住者への支払,雇用に基づく給与その他の特殊な支払は,別途検討する必要がある。

第2 源泉徴収の対象額と税額計算

1 報酬の名目と実費の取扱い

弁護士業務の対価であれば,着手金,成功報酬,法律相談料,顧問料又は日当等の名目を問わず,原則として源泉徴収の対象となる。謝金,調査費,旅費等の名目で弁護士本人に支払う金銭も,実質が弁護士業務の対価又はこれに付随する支払である限り,対象に含まれる(国税庁タックスアンサーNo.2798所得税基本通達204-2)。

支払者が交通機関又はホテル等に直接支払い,その金額が通常必要な範囲内である旅費又は宿泊費については,源泉徴収の対象に含めなくても差し支えない。弁護士本人へ旅費相当額を交付する場合はこの取扱いを当然には利用できないため,直接払か立替精算かを区別する必要がある(所得税基本通達204-4)。

また,依頼者が国又は地方公共団体に本来納付すべき登録免許税又は申請手数料等に充てることが明らかな金銭は,源泉徴収の対象とならない(所得税基本通達204-11)。対象外とする実費は,請求書,領収証その他の資料によって報酬部分と区別できるようにしておく必要がある。

2 消費税等がある場合

報酬額と消費税及び地方消費税の額が請求書等で明確に区分されている場合,報酬額だけを源泉徴収の対象として差し支えない。明確に区分されていない場合は,消費税等を含む支払総額が源泉徴収の対象となる(国税庁タックスアンサーNo.6929)。この取扱いは,適格請求書発行事業者であるかどうかによって変わらない。

例えば,請求書に「弁護士報酬100,000円,消費税10,000円」と明確に区分して記載されている場合,源泉徴収税額は100,000円の10.21%である10,210円となり,振込額は99,790円となる。これに対し,請求書に「弁護士報酬110,000円」としか記載されていない場合,源泉徴収税額は110,000円の10.21%である11,231円となり,振込額は98,769円となる。

3 税率と手取額契約

同一人に対して1回に支払う源泉徴収対象額が100万円以下である場合,税率は10.21%である。1回の支払額が100万円を超える場合は,100万円までの部分を10.21%,100万円を超える部分を20.42%で計算する。100万円の判定は年間累計額ではなく,原則として1回の支払額による。

契約で弁護士の手取額を定めた場合は,手取額から逆算した総額を源泉徴収の対象額とする。例えば,税率10.21%の支払について手取額を300,000円とする場合,報酬総額は334,112円,源泉徴収税額は34,112円となる。計算の確認には,生活や実務に役立つ計算サイトkeisanの源泉徴収税計算及び手取額からの逆算も利用できるが,請求書上の消費税区分及び契約内容は別に確認する必要がある。

第3 源泉所得税の納付と徴収漏れ

1 源泉徴収の時期と納期限

源泉徴収は,原則として報酬を現実に支払う際に行う。源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は,原則として支払日の属する月の翌月10日までに,e-Tax,金融機関又は所轄税務署の窓口で納付する(国税庁タックスアンサーNo.2798)。

報酬債務と別の債権を相殺する場合,依頼者の回収金から報酬を控除する場合その他,銀行振込み以外の方法で報酬を決済するときも,支払時期と源泉徴収方法を事前に確定する必要がある。

2 納期の特例

給与の支給人員が常時10人未満であり,所轄税務署長の承認を受けた源泉徴収義務者は,弁護士等の報酬から源泉徴収した税額についても納期の特例を利用できる。この場合,1月から6月までに源泉徴収した税額は7月10日までに,7月から12月までに源泉徴収した税額は翌年1月20日までに納付する(所得税法216条,国税庁「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」)。

納期の特例は自動的に適用されるものではなく,承認を受ける必要がある。また,納期の特例の対象となる報酬の範囲は限定されているため,弁護士報酬以外の報酬もまとめて年2回納付できるとは限らない。

3 徴収漏れと求償

源泉徴収をしないまま報酬を支払った場合,税務署から徴収を受けるのは,報酬を受け取った弁護士ではなく,源泉徴収義務者である支払者である(所得税法221条)。支払者は,徴収された税額を受領者に請求し,又は以後に支払う金額から控除することができる(所得税法222条)。

支払者が受領者へ求償せず,税額を自ら負担することにした場合は,その負担額自体が追加の報酬となり,いわゆるグロスアップ計算が必要となり得る(所得税基本通達221-1)。委任契約又は発注条件には,源泉徴収の要否,税額控除後の支払方法及び後日誤りが判明した場合の精算方法を定めておくことが望ましい。

第4 共同受任と法律事務所内の報酬分配

1 振込口座だけでは受領者を決められない

共同受任事件の源泉徴収及び支払調書について,代表弁護士の預金口座へ一括送金することだけを理由として,代表弁護士一人を報酬の受領者とすることはできない。誰が依頼者との委任契約の当事者であり,誰が依頼者に対して報酬請求権を取得するのかを確認する必要がある。

もっとも,共同事務所の共同事業契約により代表者が対外的な報酬債権を取得し,事務所内部で収入を按分する仕組みである場合は,真正の共同受任とは異なる処理となり得る。委任契約書,事務所の共同事業契約,請求書,報酬分配の合意及び従前の会計処理を相互に照合して判断すべきである。

2 真正の共同受任

依頼者が弁護士甲及び弁護士乙の双方に事件を委任し,各弁護士が依頼者に対する報酬請求権を取得する合意である場合,依頼者は各弁護士に帰属する報酬額を確定し,各人について源泉徴収及び支払調書の処理をするのが原則である。代表口座に一括して振り込む場合も,各弁護士の報酬額と源泉徴収税額が分かる支払明細を作成する必要がある。

3 他の弁護士への再委託

依頼者が弁護士甲だけに委任し,弁護士甲が自己の責任で弁護士乙へ業務を委託する場合,依頼者から弁護士甲への支払と,弁護士甲から弁護士乙への支払は別の支払である。依頼者が源泉徴収義務者であれば,依頼者は弁護士甲への支払について源泉徴収する。

弁護士甲が給与等の源泉徴収義務者である個人に当たる場合,弁護士甲は弁護士乙への報酬の支払についても源泉徴収義務を検討する必要がある。共同事務所内部の収入経費按分だけで,依頼者との委任契約及び報酬債権の帰属が当然に変更されるものではない。

4 預り金等から報酬へ振り替える場合

相手方から回収した金銭その他の依頼者に帰属する預り金から弁護士報酬を控除する場合も,法人依頼者等の源泉徴収義務が当然に消滅するわけではない。報酬への振替時期,源泉徴収税額,依頼者への精算額及び納付の担当者を,委任契約書又は精算書に明示する必要がある。

第5 弁護士報酬の支払調書

1 源泉徴収と支払調書は別に判定する

源泉徴収義務の有無と,「報酬,料金,契約金及び賞金の支払調書」の提出義務の有無は別に判定する必要がある。そのため,弁護士法人に対する報酬のように源泉徴収を要しない支払であっても,支払調書の提出範囲に該当する場合がある(国税庁タックスアンサーNo.7431)。

2 提出範囲と提出期限

弁護士に対する報酬については,同一人に対するその年中の支払金額の合計額が5万円を超える場合,原則として支払調書の提出対象となる。提出期限は,支払の確定した日の属する年の翌年1月31日であり,「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」とともに所轄税務署へ提出する。

5万円の判定では,原則として消費税等を含む金額を用いる。ただし,請求書等で報酬額と消費税等の額が明確に区分されている場合は,消費税等を含めずに判定して差し支えない(国税庁「法定調書における消費税等の取扱い」)。

3 マイナンバーと受領者への写し

税務署へ提出する支払調書には,受領者のマイナンバー又は法人番号を記載する。他方,「報酬,料金,契約金及び賞金の支払調書」には受領者への交付義務がなく,支払者が任意に写しを交付する場合は,受領者及び支払者のマイナンバーを記載してはならない(国税庁「法定調書に関するFAQ」Q3-1)。

弁護士は,支払調書の交付がなくても,委任契約書,請求書,入金記録及び源泉徴収税額の明細に基づいて収入金額と源泉徴収税額を申告できるようにしておく必要がある。

4 法定調書の電子提出義務

法定調書の種類ごとに,基準年である前々年の提出枚数が100枚以上であった場合,その法定調書はe-Tax又は認定クラウド等による電子提出が必要となる。令和9年1月1日以後に提出すべき法定調書から,この基準は30枚以上に引き下げられる(国税庁タックスアンサーNo.7455)。

法定調書は現在63種類である(国税庁タックスアンサーNo.7401)。制度改正により種類又は提出方法が変わり得るため,作成する年分の法定調書作成手引を確認する必要がある。

第6 特殊な支払

1 破産管財人である弁護士の報酬

弁護士である破産管財人が破産財団から自らの管財人報酬を支払う場合,破産管財人は報酬の支払者として源泉徴収義務を負う。最高裁平成23年1月14日第二小法廷判決(平成20年(行ツ)第236号,民集65巻1号1頁)は,この点を明らかにしている(裁判所HP)。

破産管財人報酬の決定及び支払の実務については,当ブログの破産管財人の選任及び報酬も参照されたい。

2 非居住者である弁護士等への支払

非居住者である弁護士等が日本国内で行う人的役務の対価を支払う場合,居住者である個人弁護士への通常の支払とは異なる検討が必要であり,国内法上の税率は原則として20.42%である(国税庁タックスアンサーNo.2884)。

租税条約によって軽減又は免除を受けられる場合があるが,原則として最初の支払日の前日までに届出書を提出する必要がある(国税庁タックスアンサーNo.2888)。非居住者への支払は,支払調書の様式及び提出基準も居住者への支払と異なるため,役務提供地,居住地国及び租税条約を個別に確認すべきである。

3 雇用に基づく給与との区別

法律事務所又は企業と弁護士との契約が業務委託と表示されていても,指揮監督関係,業務の独立性,時間的拘束,費用負担及び報酬の計算方法等の実態によって,税務上は給与として取り扱われる場合がある。給与に該当するときは,所得税法204条の報酬・料金ではなく,給与所得の源泉徴収の仕組みによる。

契約名だけで処理せず,業務実態と契約内容を一致させる必要がある。継続的な外部弁護士契約又は法律事務所内の委託契約を設計するときは,報酬の所得区分と源泉徴収方法を契約締結前に確認すべきである。

第7 支払前の確認事項

弁護士報酬を支払う側では,少なくとも次の事項を支払前に確認すべきである。

① 報酬の受領者が個人の弁護士か,弁護士法人か。

② 支払者が法人か,給与等の源泉徴収義務者である個人か。

③ 共同受任の場合,各弁護士との委任契約及び報酬債権の帰属がどうなっているか。

④ 請求書で報酬額と消費税等の額が明確に区分されているか。

⑤ 旅費,宿泊費,登録免許税等を対象外とする根拠資料があるか。

⑥ 手取額契約,相殺又は預り金からの報酬振替があるか。

⑦ 納付期限,納期の特例の承認及び支払調書の提出期限を管理できているか。

⑧ 非居住者又は国外業務が関係する場合,国内源泉所得及び租税条約を確認したか。

弁護士側でも,委任契約書,請求書,入金記録,源泉徴収税額の通知及び共同受任時の分配資料を一致させて保存する必要がある。源泉所得税に関する一般的な事項は,当ブログの源泉所得税に関するメモ書きも参照されたい。

第8 出典・参考資料

1 法令及び通達

① e-Gov法令検索「所得税法」183条,184条,204条,205条,216条,220条~222条及び225条。

② 国税庁「所得税基本通達204-2,204-4及び204-5」,「所得税基本通達204-11」及び「所得税基本通達221-1」。

2 国税庁資料

① 国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」。

② 国税庁「No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金」及び「No.2793 報酬・料金等の源泉徴収義務者」。

③ 国税庁「No.6929 消費税等と源泉所得税及び復興特別所得税」。

④ 国税庁「No.7431 報酬,料金,契約金及び賞金の支払調書の提出範囲と提出枚数等」,「法定調書に関するFAQ」及び「No.7455 法定調書のe-Tax等による提出義務化の概要」。

⑤ 国税庁「No.2884 非居住者等に対する源泉徴収」及び「No.2888 租税条約に関する届出書の提出」。

3 裁判例

① 最高裁平成23年1月14日第二小法廷判決(平成20年(行ツ)第236号,民集65巻1号1頁)。

4 文献及びウェブ資料

① 吉田行雄・岡本勝秀・杉尾充茂編著『令和6年版 源泉所得税相談事例集』法令出版,令和6年,741頁~743頁,762頁~765頁及び888頁~889頁。

② 横田寛『弁護士・事務職員のための法律事務所の確定申告入門』日本加除出版,平成28年,123頁~134頁。

③ 伊東博之「弁護士業務の報酬と源泉徴収」税経通信令和8年4月号,125頁~127頁。

④ 安積健「請負と雇用は税務上どう区別される?―外注先への支払報酬が給与と認定されるリスクと税務上の留意点」BUSINESS LAWYERS,平成31年2月4日。