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労働審判員の任命,役割,権限及び裁判例(AI作成)

第1 この記事の対象と労働審判員の位置付け

1 この記事が扱う範囲

労働審判員は,個別労働紛争を扱う労働審判委員会に,労働審判官である裁判官とともに加わる専門家である。本記事は,令和8年8月20日現在の法令及び公表資料に基づき,労働審判員の任命,任期,事件ごとの指定,役割,議決権,除斥,守秘義務及び解任を説明し,労働審判員を含む委員会の職務を扱った裁判例と現在の制度上の論点を整理するものである。

労働審判法は平成16年法律第45号として成立し,平成18年4月に施行された。労働審判手続は,労働者と事業主との間の個別民事紛争を対象とし,労働関係の専門家が参加する審理,調停及び必要な場合の労働審判を一つの手続に組み合わせている。

2 非常勤の裁判所職員であること

労働審判法9条によれば,労働審判員は,労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから最高裁判所が任命し,非常勤とされる。裁判所の公式説明は,これを「非常勤の裁判所職員」と表現している。労働審判員は,当事者の代理人でも,推薦した労働団体又は使用者団体の利益代表でもなく,中立かつ公正な立場で職務を行う。

この地位は,労働委員会の労働者委員又は使用者委員,民事・家事調停の調停委員,専門訴訟で裁判所を補助する専門委員,一定の重大刑事事件を審理する裁判員とは異なる。裁判所で働く者の全体像との関係は,裁判所における一般職の職員―職種・身分・定員・採用で整理している。

3 労働審判委員会の構成

労働審判法7条は,労働審判委員会を労働審判官1人及び労働審判員2人で組織すると定める。労働審判員2人を形式的な助言者にとどめず,労使実務の知識経験を審理と判断へ直接取り込むことが,この制度の中心的な特徴である。

実務上は,労働者側の実務経験を持つ者1人と使用者側の実務経験を持つ者1人を組み合わせる運用が,各地の地方裁判所委員会議事概要から確認できる。ただし,「労使各1人」は法律に明記された構成要件ではない。法律が求めるのは,事件ごとの知識経験その他の事情を総合考慮し,委員会の適正な構成を確保することである。

第2 任命,任期,推薦及び事件ごとの指定

1 任命資格と欠格事由

労働審判員規則1条によれば,労働審判員は,原則として68歳未満で,労働関係に関する専門的な知識経験を有する者から任命される。特に必要がある場合には年齢要件の例外があるため,「68歳以上は一律に任命できない」とするのは正確でない。

同規則2条は,①拘禁刑以上の刑に処せられた者,②労働関係法令違反により罰金刑に処せられた者,③公務員として懲戒免職となり,処分の日から2年を経過しない者,④中立・公正を害する行為等を理由として労働審判員を解任された者を欠格者としている。令和7年施行の刑法改正後は,旧来の「禁錮以上」ではなく「拘禁刑以上」という現行条文を用いる必要がある。

2 労使団体による推薦の法的位置付け

労働審判法及び労働審判員規則は,労働組合又は使用者団体による推薦を任命の法定要件としていない。他方,立法時の国会答弁及び地方裁判所委員会の議事概要によれば,実務では,連合,経団連その他の労使団体を通じた推薦が,候補者を確保する主要な経路となっている。

推薦は,専門的知識経験を持つ候補者を発掘するための仕組みであり,推薦団体から事件処理について指揮を受ける関係を作るものではない。労働審判員は,その経歴にかかわらず,個々の事件では中立かつ公正に職務を行わなければならない。推薦実務と中立性を区別することが,制度を理解する上で重要である。

3 2年の任期,所属裁判所及び事件指定

労働審判員の任期は2年であり,最高裁判所が所属する地方裁判所を定める。特に必要がある場合には,最も近い共通の上級裁判所が,所属外の地方裁判所で職務を行わせることもできる。

最高裁判所による任命と,個別事件への指定は別の段階である。任命された労働審判員の中から,事件ごとに裁判所が2人を指定し,知識経験その他の事情を総合考慮して委員会の適正な構成を確保する。労働審判法10条の指定主体は「裁判所」であるため,一般的な制度説明として「労働審判官が指定する」と言い換えるのは正確でない。

4 解任

労働審判員が欠格事由に該当したとき,最高裁判所は解任しなければならない。また,心身の故障により職務を行えないとき,職務上の義務に違反したとき,中立かつ公正に職務を行えないと認めるに足りる行為があるとき,又は品位を害して適任でないときは,最高裁判所が解任することができる。

最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会令和7年3月5日答申からは,令和5年1月から4月までに福岡地方裁判所所属の労働審判員1人について解任関係文書が作成されたことを確認できる。ただし,氏名,具体的理由及び適用条項の一部は不開示であり,解任原因は公表資料から確定できない。

第3 期日,調停及び労働審判における役割と権限

1 事情聴取と争点・証拠の整理

労働審判員は,期日に出席し,当事者から事情を聴き,争点及び証拠を整理する。労働審判委員会は,職権で事実を調査し,申立て又は職権で必要な証拠調べをすることができる。労働審判員も,労働現場の実情,労使慣行及び人事労務管理の知識を踏まえて質問し,事実の意味を評価する。

労働審判手続は,原則として3回以内の期日で審理を終結し,第1回期日は特別の事情がない限り申立ての日から40日以内に指定される。当事者は第2回期日の終了までに主張及び証拠を提出することが求められるため,労働審判員には,短期間で書面と証拠を把握し,法律上の争点と職場の実情を結び付けて検討する役割がある。

2 調停による解決

労働審判委員会は,審理の過程で調停による解決を試みる。労働審判員の実務知識は,法的な権利関係の見通しだけでなく,職場復帰の可能性,退職条件,解決金,今後の労使関係その他の現実的な解決条件を検討する場面でも用いられる。

もっとも,労働審判員が当事者の一方を説得するための代表者となるわけではない。調停案は,労働審判官と2人の労働審判員が委員会として検討するものであり,個々の構成員の発言と委員会の最終的な見解は区別する必要がある。調停委員との共通点及び相違点については,調停委員の役割と実務も参照されたい。

3 評議と議決

評議は秘密であり,労働審判委員会の決議は過半数で決まる。3人の構成員はそれぞれ1票を持つため,制度上は,2人の労働審判員の意見が一致すれば,労働審判官と異なる結論が多数意見となり得る。この意味で,労働審判員は裁判官への単なる助言者ではなく,結論形成に直接参加する構成員である。

ただし,実際の評議で誰がどの意見を述べたかは秘密であり,労働審判官と労働審判員の意見分布を示す公式統計もない。「労働審判員2人だけで結論を決める例が多い」といった頻度については,公表資料から判断できない。

4 労働審判書への署名押印

調停が成立せず,委員会が労働審判をした場合,労働審判書には労働審判官及び労働審判員が署名押印する。労働審判員が署名押印できないときは,労働審判官がその理由を付記する。この規定も,労働審判員が審判の決定主体であることを示している。

第4 中立性,除斥及び忌避

1 法定の除斥原因

労働審判員には,非訟事件手続法11条の除斥規定が準用される。労働審判員本人又は配偶者等が当事者である場合,一定範囲の親族関係がある場合,後見関係がある場合,その事件で証人,鑑定人又は代理人等として関与した場合,仲裁判断又は前審の裁判に関与した場合などが除斥原因となる。

除斥については,申立て又は職権により裁判所が裁判する。したがって,当事者が労働審判員の公正に疑問を持った場合には,単に「使用者側出身である」「労働者側出身である」という経歴だけでなく,非訟事件手続法11条のどの除斥原因に当たるのかを区別して検討する必要がある。

2 忌避制度がないこと

労働審判法11条は,非訟事件手続法13条を準用する際,忌避に関する部分を明示的に除外している。労働審判規則12条も同じ構造である。このため,法定の除斥原因には当たらないが,公正を妨げる事情があるという理由で労働審判員を忌避する申立制度は設けられていない。

除斥の申立てができることと,忌避制度がないことは矛盾しない。前者は法律が列挙する客観的な関係を理由とし,後者はそれ以外の公正を妨げる事情を理由とする制度である。事件指定一般への不服申立て,法定除斥の申立て及び忌避を一括して「審判員を替えてもらう申立て」と理解すると,制度の範囲を誤る。

3 専門性と中立性の緊張関係

労使実務を深く知る者ほど,特定の組織,産業又は立場と関係を持つ可能性がある。専門性の源泉と中立性への疑念の源泉が重なり得るため,法は,中立・公正義務,除斥,事件ごとの適正な構成及び守秘義務を設けている。

他方,忌避制度がないため,法定除斥に至らない外観上の疑念をどう扱うかは,事件指定及び裁判所の運用に委ねられる部分が残る。全国統一の事件指定基準,利益相反申告の方法及び除斥申立件数は公表されておらず,制度の透明性を評価するための資料には限界がある。

第5 守秘義務,記録管理,手当及び旅費

1 在職中及び退職後の守秘義務

労働審判員は,職務上知り得た秘密を漏らしてはならず,退職後も同様である。正当な理由なく評議の経過又は各構成員の意見若しくはその多少の数を漏らした場合は30万円以下の罰金に処せられ,職務上知り得た人の秘密を漏らした場合は1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処せられる。

ここで保護されるのは,評議の内容だけではない。労働審判事件には,賃金,評価,懲戒,疾病,障害,ハラスメント,営業情報その他の機微情報が含まれ得るため,事件記録から知った個人又は事業上の秘密も対象となる。

2 記録の事前検討と情報管理

労働審判員が短期間で適切に判断するには,申立書,答弁書及び証拠を期日前に検討できることが望ましい。他方,裁判所外での閲覧,複製,持出し又は電子化は,機微情報の漏えいリスクを伴う。

令和5年刊行の実務書は,申立書及び答弁書を労働審判員へ送付する一方,書証の写しは送付せず,労働審判員が第1回期日前に裁判所で閲覧する運用を記載している。ただし,これは実務書が紹介する運用であり,全国一律の現行基準を公表したものではない。全国の記録送付,端末利用,保管,返却及び廃棄の統一基準は,公表資料から確認できない。

3 手当及び旅費

労働審判員には,最高裁判所の定めるところにより手当及び旅費が支給される。令和8年度裁判所所管概算要求書には,労働審判員手当として2億2,275万円が計上されているが,この予算総額から1人当たり又は1期日当たりの支給額を算出することはできない。個別の手当額については,確認できる公表資料がない。

第6 人数,事件数及び手続の終了状況

1 全国の労働審判員数

裁判所データブック2026によれば,令和8年4月1日現在の労働審判員は全国で1,499人である。立法時には,全国50の地方裁判所で事件ごとに2人を関与させるため,少なくとも約1,000人が必要になるとの見通しが国会で示され,令和4年末には実務書で約1,600人と紹介されていた。

もっとも,1,499人の性別,年齢,産業,企業規模,労働組合加入状況,地域及び推薦母体別の内訳は,最新の裁判所公表資料から把握できない。人数だけでは,未組織労働者,中小・零細企業,非正規雇用又は新しい就業形態の実情がどの程度反映されているかを評価できない。

2 令和6年の事件処理

最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(令和7年)」によれば,令和6年の労働審判事件は,新受3,359件,既済3,451件,未済875件であり,既済事件の平均審理期間は96.7日であった。既済事件の65.6%が調停成立,8.7%が異議のない労働審判で終了し,両者の合計は74.3%である。また,77.4%の事件が第2回期日までに終了した。

これらの数値は,制度全体が短期間に高い割合で手続内解決へ至っていることを示す。ただし,事件の難易度,当事者の代理人の有無,地域差その他の条件を分離した統計ではないため,労働審判員の参加だけが期間又は解決率を生じさせたと推論することはできない。

3 利用者評価の読み方

東京大学社会科学研究所の利用者調査では,労働審判員の中立性,丁寧さ,労働実務知識等が調査項目とされている。平成30年から令和元年までに実施された第2回調査では,制度全体の結果満足度が労働側58.0%,使用者側41.6%であった。

この数値は手続結果全体への満足度であり,労働審判員個人の評価に読み替えることはできない。また,現在の利用者評価を直接示す調査でもないため,制度の現況を論じるときは調査時点と質問項目を明示する必要がある。

第7 労働審判員に関係する裁判例

1 裁判例の全体像

裁判所ウェブサイト,判例秘書及びD1-Lawを横断して確認した範囲では,労働審判員本人の任命,事件指定,除斥,忌避,議決,守秘義務違反,手当又は解任を主要争点とする公刊裁判例は確認できない。他方,労働審判員を含む委員会の手続運営及び国家賠償責任を直接扱う地裁判決が2件あり,いずれも裁判所HP未掲載である。

判例データベースで「労働審判員」を検索すると,先行する労働審判を事実経過として記載する判決や,当事者の経歴として労働審判員歴を記載する判決も多数含まれる。以下では,労働審判員の法的地位又は委員会の職務と実質的に関係するものに限って取り上げる。

2 大阪地裁平成25年11月26日判決

大阪地方裁判所平成25年11月26日判決(平成25年(ワ)第6779号,『訟務月報』60巻7号1586頁)は,労働審判で調停が成立したのに審判書等が作成されなかったことと,代理人でない関係者を期日に出席させて発言させたことが,労働審判官及び労働審判員等の違法な職務執行に当たるかを判断した。裁判所HP未掲載であり,判例秘書収録の判決全文を確認した。

同判決は,調停成立の場合に審判書等を作成する法的義務はなく,事実の調査によるか証拠調べによるかは委員会の判断に委ねられるとした。その上で,事情を知る関係者への質問及び発言の許可は事実調査の範囲内であり,違法・不当な目的等の特別の事情もないとして,国家賠償請求を棄却した。この判決は,迅速で柔軟な手続を実現するため,委員会の事実調査の方法に相応の裁量があることを示すが,あらゆる期日運営を適法としたものではない。

3 長崎地裁令和2年12月1日判決

長崎地方裁判所令和2年12月1日判決(平成31年(ワ)第3号,『判例時報』2500号115頁,『労働判例』1240号35頁)は,労働審判に付された口外禁止条項の適法性と,委員会及び構成員の国家賠償責任を扱った。裁判所HP未掲載であり,判例秘書収録の判決全文を確認した。

同判決は,労働審判の内容の相当性について,権利関係との合理的関連性,当事者の受容可能性及び予測可能性等から判断した。本件の口外禁止条項には合理的関連性と予測可能性があるものの,明確に拒絶した申立人に過大な負担を課し,受容可能性がないため,労働審判法20条1項及び2項に違反するとした。他方,国家賠償責任については,委員会又は労働審判官・労働審判員が違法・不当な目的で審判するなど,権限の趣旨に明らかに背く特別の事情を必要とし,本件ではこれを否定した。

同判決の重要点は,労働審判の条項自体が労働審判法に違反し得ることと,その違反が直ちに国家賠償法上の違法となるわけではないことを分けた点にある。委員会の裁量を認めつつ,審判内容の法的限界も示した判決である。

4 重要な隣接裁判例

最高裁平成22年5月25日第三小法廷判決(平成21年(オ)第1727号,民集64巻4号1081頁)は,労働審判を担当した裁判官が異議後の訴訟を担当しても,民事訴訟法23条1項6号の「前審の裁判」に関与したことにはならないとした。ただし,対象は労働審判官であり,労働審判員の除斥又は忌避を直接判断したものではない。

東京地方裁判所平成23年7月15日判決(平成22年(ワ)第36480号等,『労働判例』1035号105頁)は,労働審判員の職務を労働基準法7条の「公の職務」として扱った。東京地方裁判所平成22年11月29日決定(平成22年(労)第894号,『判例タイムズ』1337号148頁)は,労働関係の専門的知識経験を有する労働審判員が審理に参加することを,労働審判手続の重要な特質と位置付けた。いずれも裁判所HP未掲載であり,判例秘書収録の全文を確認した。

大阪地方裁判所令和2年1月16日判決(平成31年(ワ)第30008号)は,労働審判員の質問とこれに対する当事者の回答を,異議後訴訟の事実認定資料の一つとして扱った。東京地方裁判所令和4年1月14日判決(令和3年(ワ)第18077号)では,労働審判員による賃金控除への指摘が当事者の主張経過に現れる。これらは労働審判員の権限を判示したものではないが,期日での質問が争点の発見及び後続訴訟の事実認定に関係し得ることを示す。いずれも裁判所HP未掲載であり,判例秘書収録の全文を確認した。

札幌地方裁判所平成28年7月11日判決(平成27年(行ウ)第13号)は,北海道労働委員会の労働者委員候補者の適格性をめぐる事件で,旭川地方裁判所における8年間の労働審判員経験を考慮しなかったことを,任命処分の裁量逸脱・濫用を判断する一事情とした。労働審判員制度そのものを争点とする判決ではないため射程は限定されるが,労働審判員経験が個別労働紛争の専門的経験として評価された例である。裁判所HP未掲載であり,判例秘書収録の全文を確認した。

第8 現在の制度上の論点

1 代表性と多様性

労使団体からの推薦は,現場経験を持つ人材を継続的に確保する利点がある。他方,推薦母体が主要な労働団体及び使用者団体に偏る場合,未組織労働者,中小・零細企業,非正規雇用,プラットフォーム就労その他の新しい働き方の実情を十分に反映できないおそれがある。

この論点を検証するには,労働審判員の性別,年齢,産業,企業規模,労働組合加入状況,地域及び推薦母体別の構成が必要である。しかし,令和8年現在の全国内訳は公表資料から確認できない。人数の確保だけでなく,専門知の範囲と構成の多様性を可視化することが課題である。

2 労働法知識と労使実務知識

労働審判員に必要な専門性は,慣行を知っていることだけではない。適正な人事労務管理,労使関係の実情及び正確な労働法知識を結び付ける必要があるため,裁判所及び関係団体による継続研修が制度の質を左右する。

労働審判を,まず法的権利関係を判定してから利益調整をする二段階の手続と捉えるか,法的判断と現実的調整を一体として行う手続と捉えるかについては,実務分析上の見解が分かれる。実際には,労働審判員の実務知識が事実評価と解決案形成の双方に働くため,権利判定の正確さと柔軟な解決を両立させる研修が必要になる。

3 記録のデジタル化と遠隔期日

令和8年5月21日に民事訴訟のデジタル化が拡大したが,労働審判は同日のオンライン申立ての対象外であり,令和10年6月までのデジタル化が予定されている。他方,裁判所の「労働審判制度20周年」によれば,ウェブ会議による期日は既に広く用いられている。

デジタル化は,労働審判員による記録の早期検討を容易にする可能性がある一方,機微情報の端末外流出,本人確認,通信障害及び画面越しの事情聴取という新たな問題を生じさせる。民事訴訟と労働審判の施行時期の違いは,mintsを利用できる裁判所と対象事件で整理している。

第9 類似する裁判所制度との違い

1 調停委員との違い

調停委員も非常勤の裁判所職員として紛争解決に関与するが,労働審判員は,労働関係の専門的な知識経験を任命要件とし,調停だけでなく,労働審判の評議及び議決にも参加する。労働審判員2人と労働審判官1人が各1票を持つ点は,労働審判制度を理解する上で特に重要である。

2 専門委員との違い

専門委員は,専門訴訟等で裁判所の理解を補助するために専門的説明を行うが,その説明は証拠ではなく,専門委員自身が判決の評議及び議決に加わるものではない。これに対し,労働審判員は,事実の調査,証拠調べ,調停及び労働審判の決議に関与する。専門委員制度の詳細は,裁判所の専門委員制度で説明している。

3 裁判員及び労働委員会委員との違い

裁判員は,選挙人名簿を基礎に選ばれ,一定の重大刑事事件に国民一般の良識を反映させる制度である。労働審判員は,専門的知識経験を要件として最高裁判所が任命し,個別労働紛争を継続的に担当する専門家参加制度であり,選任の基礎も対象事件も異なる。

労働委員会は,労働組合法に基づく行政委員会であり,公益委員,労働者委員及び使用者委員から構成される。労働審判員は,地方裁判所の個別事件を担当する非常勤の裁判所職員であり,労働委員会委員とは法的地位,権限及び手続が異なる。

第10 出典・参考資料

1 法令及び最高裁判所規則

e-Gov法令検索「労働審判法」,②e-Gov法令検索「非訟事件手続法」,③裁判所「労働審判員規則」,④裁判所「労働審判規則」

2 裁判例

最高裁平成22年5月25日第三小法廷判決・平成21年(オ)第1727号・民集64巻4号1081頁,②大阪地方裁判所平成25年11月26日判決・平成25年(ワ)第6779号・『訟務月報』60巻7号1586頁・判例秘書L06851296・D1-Law判例ID28223886(裁判所HP未掲載),③長崎地方裁判所令和2年12月1日判決・平成31年(ワ)第3号・『判例時報』2500号115頁・『労働判例』1240号35頁・判例秘書L07551086・D1-Law判例ID28290075(裁判所HP未掲載)。

④東京地方裁判所平成23年7月15日判決・平成22年(ワ)第36480号等・『労働判例』1035号105頁・判例秘書L06630553・D1-Law判例ID28180035(裁判所HP未掲載),⑤東京地方裁判所平成22年11月29日決定・平成22年(労)第894号・『判例タイムズ』1337号148頁・判例秘書L06530694・D1-Law判例ID28170193(裁判所HP未掲載)。

⑥大阪地方裁判所令和2年1月16日判決・平成31年(ワ)第30008号・判例秘書L07550012・D1-Law判例ID28333095(裁判所HP未掲載),⑦東京地方裁判所令和4年1月14日判決・令和3年(ワ)第18077号・判例秘書L07730160・D1-Law判例ID29068754(裁判所HP未掲載),⑧札幌地方裁判所平成28年7月11日判決・平成27年(行ウ)第13号・判例秘書L07150581・D1-Law判例ID28243234(裁判所HP未掲載)。

3 裁判所資料,国会会議録及び統計

裁判所「労働審判員」,②裁判所「労働審判制度20周年」,③裁判所データブック2026,④最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(令和7年)」,⑤裁判所「労働審判手続」,⑥裁判所「民事裁判手続のデジタル化」

第159回国会衆議院法務委員会第5号(平成16年3月23日),⑧第159回国会参議院法務委員会第14号(平成16年4月27日),⑨横浜地方裁判所委員会平成28年5月20日議事概要,⑩最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会令和7年3月5日答申

4 調査報告,論文及び書籍

浅野高宏「労働審判制度の意義と課題」『日本労働研究雑誌』731号45頁~59頁,②東京大学社会科学研究所「労働審判制度についての意識調査基本報告書」,③東京大学社会科学研究所「第2回労働審判制度利用者調査報告書」

④鴨田哲郎・君和田伸仁・棗一郎『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令,令和5年5月21日,39頁~40頁・53頁,⑤日本労働弁護団編『労働審判実践マニュアル Ver.2』日本労働弁護団,平成25年10月16日,23頁~24頁・44頁・62頁・79頁~80頁,⑥鵜飼良昭『事例で知る労働審判制度の実際』労働新聞社,平成24年9月24日,20頁・23頁・26頁~27頁・34頁。