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調停委員の役割と実務――民事・家事調停の進め方,権限と限界(AI作成)

第1 この記事の対象と調停委員の基本的な役割

1 この記事が扱う範囲

この記事は,民事調停委員及び家事調停委員が,担当事件の指定を受けてから調停が終わるまでに何をするのかを,現行法令,最高裁判所規則,最高裁判所事務総局の手引及び実務文献に基づいて整理するものである。任命制度だけでなく,期日前の記録検討,事情聴取,争点整理,裁判官との評議,専門的知見の扱い,調停条項の確認,守秘及び不成立時の処理までを対象とする。

調停の運営方法には裁判所,事件類型及び担当部による差がある。このため,法令上の権限,全国的な公式手引に示された基本と,特定庁で紹介された時間配分などの運用例とを区別する必要がある。また,平成31年の『民事調停委員の手引』及び令和5年の『家事調停の手引』に記載された内容についても,その後の拘禁刑への用語変更,ウェブ会議及び令和8年施行の家族法改正は現行法令を優先している。

2 調停委員は判定者でも単なる聞き役でもないこと

裁判所の説明によれば,調停は当事者のどちらが正しいかを判定する手続ではなく,調停委員会が仲介して合意による解決を図る手続である。もっとも,調停委員は当事者の話を受動的に聞くだけではない。裁判官又は調停官とともに調停委員会を構成し,事実と争点を整理し,法的見通し及び生活・事業上の実情を踏まえ,履行可能で適法な解決を形成する役割を担う。

調停委員の働き掛けは,当事者の自己決定を支えるためのものである。一方当事者を説得して委員の考える結論に従わせたり,専門家としての私的な確信によって事実を確定したりすることは,この役割を超える。実務上の中心は,傾聴と評価のいずれか一方ではなく,十分な聴取,情報格差の補正,理由を示した見通しの共有及び最終選択を当事者に返すことの組合せにある。

第2 法的地位,任命及び調停委員会

1 任命資格,任期及び非常勤職員としての地位

民事調停委員及び家事調停委員規則1条によれば,調停委員は,弁護士資格を有する者,紛争解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活上の豊富な知識経験を有する者で,人格識見の高い者の中から最高裁判所が任命する。年齢は原則として40歳以上70歳未満であるが,特に必要がある場合には例外が認められる。任期は2年であり,再任されることがある。

令和7年6月1日施行の現行規則2条は,欠格事由の一つを「拘禁刑以上の刑に処せられた者」と定めている。調停委員は非常勤の裁判所職員であり,担当事件の処理状況に応じた手当並びに必要な旅費及び日当の支給を受ける(民事調停法10条,家事事件手続法249条)。

2 民事調停と家事調停の委員会構成

民事調停法6条による民事調停委員会は,調停主任1人と民事調停委員2人以上で構成される。家事事件手続法248条による家事調停委員会は,裁判官1人と家事調停委員2人以上で構成される。実務ではいずれも委員2人の構成が通常であるが,法律上「必ず2人」に限られるわけではない。

期日に当事者から事情を聴く場面では,調停委員だけが調停室にいることも多い。しかし,調停委員だけで独立して事件を処理しているのではなく,進行,法的評価,解決案及び事件の出口は裁判官又は調停官を含む委員会の評議を経て決める。民事調停規則19条は委員会の決議を過半数とし,可否同数のときは調停主任が決すると定めており,家事調停でも裁判官が手続を指揮する(家事事件手続法259条)。

3 除斥があり忌避申立てはないこと

調停委員には,当事者又は事件との一定の関係がある場合の除斥がある(民事調停法9条,家事事件手続法16条)。これに対し,裁判官に対する忌避と同じ申立制度は調停委員には設けられていない。これは偏りのおそれを放置してよいという意味ではなく,委員自身による申告,担当指定の取消し,裁判官及び所属裁判所への報告によって公正を確保することになる。

当事者が調停委員の言動に問題があると考える場合には,結論に不満があることと,具体的な不公平な取扱い,威圧的発言,利益関係又は秘密管理上の問題とを分け,日時,発言及び経過を特定して裁判所書記官等に伝えるのが適切である。任命関係の資料,国会答弁及び苦情申出に関する説明は,別稿「調停委員(AIリライト)」に掲載している。

第3 期日前の準備

1 記録から確認する事項

担当委員は,申立ての趣旨,相手方の回答,前提となる法律関係,時系列,争いのない事実,争点及び提出済み資料を確認する。その上で,初回期日に聴くべき事項,追加資料,安全上の懸念,当事者の出頭又は通信環境,想定される手続の出口を整理する。民事調停規則9条も,裁判所及び調停委員会に対し,期日前に事件の関係を明らかにしておくため必要な準備をするよう求めている。

事前検討は,早い段階で結論を固定する作業ではない。申立書に記載された事実は一方当事者の説明であり,資料の欠落や作成目的も検討しなければならない。委員は,暫定的な仮説と確定した事実を分け,期日で反対方向の説明を受けたときに見直せる形で準備する必要がある。

2 事前評議で決める事項

裁判官又は調停官との事前評議では,当日の目標,重点聴取事項,同席と別席の使い分け,時間配分,提出を求める資料,家裁調査官その他の職種の関与及び次回までの課題を共有する。既に合意可能性が低い事件では,不成立,民事調停法17条の決定,審判移行又は訴訟への復帰を含む出口も視野に入れる。

評議は,調停委員が作った結論を裁判官に事後承認してもらうためのものではない。委員が聴取した生活事情,事業実態及び専門知識を,裁判官の法的判断及び手続全体の見通しと統合する場である。期日の途中で重要な新事実が出たときは,中間評議を行い,当初方針を変更することも必要となる。

3 安全及び秘密のための設計

家事事件でDV,虐待,ストーカー行為又は強い支配関係が疑われる場合には,同席を当然の前提にしてはならない。待合場所,裁判所内の導線,退庁時刻,住所・連絡先の秘匿,発言順序,ウェブ参加及び家裁調査官の関与を事前に検討する。民事事件でも,近隣紛争,職場関係又は長期の対立があるときは,同様の配慮が必要になり得る。

事件記録,写し,メモ及び電子データの扱いも準備段階から問題となる。最高裁判所事務総局の両手引は,事件情報を私的な場所や機器へ持ち出さず,紛失,誤送信その他の事故が生じた場合には直ちに裁判所へ報告することを求めている。

第4 調停期日における事情聴取と争点整理

1 冒頭説明

初回期日の冒頭では,調停委員会の構成,非公開の手続であること,当日の進め方,予定時間,同席・別席,資料の提出及び合意が自由意思によることを説明する。録音・録画,ウェブ参加又は同室者に関する裁判所の取扱いも,該当する事件では最初に確認する。

調停委員は,当事者との私的な関係を作らないため,自宅,勤務先,電話番号又は名刺を示さず,通常は氏名だけを名乗る。代理人の一方だけを「先生」と呼ぶなど,内容以前に外形上の不公平を感じさせる扱いも避ける必要がある。

2 同席と別席の使い分け

別席での聴取は,当事者が率直に話しやすく,安全を確保しやすい一方,委員を介した伝言によって内容が変わり,情報格差が生じるおそれがある。同席での聴取は,双方が同じ説明を聞ける一方,威圧,発言の萎縮又は再被害を招く場合がある。したがって,事件全体を一律に別席又は同席とするのではなく,安全,透明性及び協議の成熟度に応じて局面ごとに選択する。

別席で一方から情報を得た場合には,相手方へ伝えてよい範囲を確認する必要がある。伝達できない情報を解決案の根拠に用いると,相手方は理由を検討できない。他方で,生命・身体の危険又は子の安全に関する情報は,単に「秘密にしてほしい」と言われたことだけで処理せず,裁判官及び裁判所職員と共有して安全措置を検討することになる。

3 傾聴と事実の整理

傾聴には,当事者が尊重されていると感じて冷静さを取り戻す機能と,紛争の構造,利益及び解決障害を発見する機能がある。ただ話し続けてもらうのでも,早く結論へ誘導するのでもなく,開かれた質問,要約,確認及び時間配分を組み合わせる。声の大きさ,社会的地位,代理人の有無又は専門用語の多さによって,委員会の理解が左右されないようにする必要がある。

聴取した内容は,争いのない事実,争いのある事実,資料で確認できる事実,評価・感情・推測,法的争点,実際に守りたい利益及び解決条件に分けて整理する。この区別によって,過去の責任を決めるための主張と,将来の合意を設計するために必要な情報とを混同しにくくなる。

4 法的見通しと評議

調停委員会は,必要に応じて法的見通し及び立証上のリスクを示すことができる。しかし,「裁判になれば必ず負ける」と断定したり,成立させなければ不利益を受けると威圧したりしてはならない。委員個人の発言なのか,裁判官との評議を経た委員会の見解なのかも区別する必要がある。

実務では,まず事情と利益を十分に聴き,次に不足する情報を補い,その後に法的評価又は解決案を示す流れが有効である。もっとも,代理人が双方に就き争点が成熟している事件では,早期に評価を示す方が合理的な場合もある。傾聴を重視する促進型と法的評価を重視する評価型は,固定的な二者択一ではない。

第5 解決案,調停条項及び事件の終了

1 解決案の作り方

解決案は,法令・裁判例上の見通しだけでなく,支払能力,履行時期,登記,税務,担保,第三者の協力及び将来の紛争予防を考慮して作る。法律上請求できる内容と,当事者が合意によって選べる内容を区別し,提案の理由及び不確実性を説明することが,当事者の自己決定に資する。

一方当事者の譲歩だけで成立させようとすると,表面上は合意しても履行されにくい。成立直前の沈黙,疲労又は「裁判所が言うなら仕方がない」という発言を実質的同意と取り違えず,条件を理解した上で受け入れる意思があるかを各当事者について確認する必要がある。

2 調停条項は調書だけで履行・執行できるようにすること

成立時には,当事者,目的物,金額,支払期限,振込先,費用負担,遅延時の効果,条件,清算範囲及び強制執行可能性を一項ずつ確認する。東京高裁昭和38年9月23日判決・昭和37年(ネ)第764号は,当事者の真意が複数人に義務を負わせるものであっても,調停調書に単数の「被告」と記載された事案で,調書外の資料によって執行債務者を追加することはできないとした。読み合わせは形式的な儀式ではなく,後日の執行範囲を確定する作業である。

名古屋高裁昭和29年12月28日判決・昭和28年(ネ)第364号は,代理権を証明する書面がない代理人による調停行為を無効とした旧制度下の事例である。現行手続でも,代理権及び調停成立に必要な特別授権の確認を軽視してはならない。

家事調停では,一つの合意に訴訟事項と非訟事項が混在することがある。大阪高裁昭和54年1月23日判決・昭和53年(ネ)第991号は,遺産の範囲を定める部分と分割方法を定める部分とで調停の効力を区別した。前提合意,給付義務及び分割内容を分節して記録化する必要がある。

3 成立,不成立及び裁判による代替的な解決

民事調停が成立し,その内容が調書に記載されると,裁判上の和解と同一の効力を有する(民事調停法16条)。家事事件手続法268条による調停では,一般調停事件の記載は確定判決と,別表第2事件の記載は確定した審判と同一の効力を有する。合意に相当する審判の対象となる特殊調停事件は同条の適用外であるため,委員会は,単に「判決と同じ」と説明せず,対象事件に応じた成立方法及び効果を確認する必要がある。

合意の見込みがなければ,期日を重ね続けるのではなく,不成立その他の出口を選ぶ。民事では,裁判所が委員の意見を聴き,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を見て,申立ての趣旨に反しない限度で調停に代わる決定をすることができる(民事調停法17条)。当事者は告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができ,適法な異議があれば決定は効力を失う(同法18条)。

最高裁大法廷昭和35年7月6日決定・昭和26年(ク)第109号は,旧金銭債務臨時調停法の下で,純然たる訴訟事件の権利義務を当事者の意思にかかわらず非公開の非訟手続で終局的に確定することを憲法32条及び82条に反するとした。現行17条決定は2週間の異議制度を備えるため,成立を拒む当事者への強制的判定として扱うべきものではない。

家事では,別表第2事件は調停不成立後に審判へ移る一方,離婚等の一般調停事件は必要に応じて人事訴訟等へ進む。家庭裁判所は,相当と認めるときは調停委員の意見を聴いて調停に代わる審判をすることができるが,原則として2週間以内の異議によって効力を失う(家事事件手続法284条~286条)。

第6 専門家調停委員の役割と限界

1 専門知識を使う場面

建築,不動産評価,医療,知的財産,会計又は税務等の事件では,専門家調停委員が技術的な争点を理解可能な形に翻訳し,必要資料,主張立証の不足及び合理的な解決幅を委員会へ示すことができる。民事調停法8条は,調停委員会での職務のほか,裁判所から命じられた専門的意見の陳述及び受命による事実の聴取を民事調停委員の職務としている。

家事調停委員にも,調停委員会が相当と認めて行わせる事実調査,他の裁判所から嘱託された意見聴取及び担当委員会の外で専門的意見を述べる仕組みがある(家事事件手続法262条~264条)。したがって,調停委員は自分が担当する期日の聞き役に限られない。

2 事実上の鑑定を避けること

専門家委員の意見は,委員会及び当事者の検討を助けるが,正式な鑑定の代わりではなく,委員会の法的判断を拘束しない。争いのある基礎事実,精密な価格評価又は因果関係を,反対当事者が検証できない委員個人の知見だけで確定してはならない。

宇田川博史・長谷川裕「民事調停官の実務(上)(下)」は,東京及び大阪の調停部における実務として,調停委員による事実上の鑑定を避け,必要に応じて当事者提出の評価書,正式鑑定又は専門委員制度を用いると報告している。専門知識は,争点整理,適切な質問及び解決幅の形成に使い,結論を左右する争いが残るときは検証可能な証拠へ戻すのが相当である。

3 家裁調査官等との役割分担

家事事件では,子の意思,親子関係,生活環境及び心理的葛藤について,家裁調査官の専門調査が必要になることがある。家事調停委員による事実調査は,委員が何でも調査できる包括的権限ではなく,調停委員会が相当と認めて行わせる範囲で実施する。反復的,詳細又は心理学的な調査が必要な場合には,家裁調査官その他の専門職へ接続する。

子に影響する事件では,年齢及び発達の程度に応じて子の意思を把握し,これを考慮しなければならない(家事事件手続法65条)。子の発言を一方の親の主張を裏付ける材料として扱うのではなく,親からの圧力,忠誠葛藤及び安全を検討する必要がある。

第7 守秘義務,情報管理及び期日外の接触

1 秘密漏示と評議漏示の刑事罰

調停委員が,民事では正当な事由なく,家事では正当な理由なく,職務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは,1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象となる(民事調停法38条,家事事件手続法292条)。調停委員会の評議の経過又は各委員の意見若しくは員数を漏らしたときは,30万円以下の罰金の対象となる(民事調停法37条,家事事件手続法293条)。

秘密には,当事者名や提出資料だけでなく,事件が係属していること,家庭事情,聴取内容及び評議内容が含まれ得る。家族や勤務先に匿名化して話せばよいというものでもない。研修又は相談のために共有する必要がある場合も,裁判所が設けた経路及び範囲による必要がある。

2 記録管理と私的接触の禁止

紙の記録,コピー,手書きメモ及び電子データを,私物端末,個人クラウド又は私用メールへ保存してはならない。外部の生成AIサービスへ事件情報を入力することも同じ情報管理上の問題を生じるため,本記事では,裁判所が許可した環境及び運用がない限り入力すべきでないと考える。事故が発生した場合には,自己判断で隠したり復旧だけを試みたりせず,直ちに裁判所へ報告する必要がある。

期日外に当事者と個別に連絡を取り,事件の相談に応じたり,贈答又は飲食を受けたり,特定の弁護士を紹介したりしてはならない。偶然の接触又は既存の知人関係が判明した場合も,内容を問わず裁判官及び裁判所へ報告し,担当継続の可否を判断してもらうことになる。

3 ウェブ会議で追加される確認事項

令和7年3月1日以後,離婚又は離縁の調停も,裁判所が相当と認めるときは,家庭裁判所及び当事者双方が映像と音声により相手の状態を相互に認識しながら通話できる方法で成立させることができる。音声だけの電話会議で離婚又は離縁を成立させることはできない。手続の詳細は裁判所の家事事件Q&Aに掲載されている。

ウェブ会議では,本人確認,同室者及び画面外の助言者の有無,録音・録画,接続場所の安全,資料の表示,通信途絶時の扱いを確認する。対面より情報が少ないことを前提に,疲労,理解不足又は第三者からの圧力がないかを確認し,必要なら対面又は別の方法へ切り替える。

第8 令和8年時点の実務課題

1 家族法改正と情報格差への対応

令和8年4月1日施行の改正により,家事事件手続法には,収入・財産に関する情報開示,親子交流の試行的実施及び扶養関係の情報開示に関する規定が整備された(同法152条の2,152条の3,184条の2)。制度全体は法務省「父母の離婚後等の子の養育に関する見直し」に掲載されている。

これらの制度は,情報を持たない当事者に推測だけで譲歩させる運営を避けるために利用できる。他方,開示又は試行を行えば常に解決するものではなく,必要性,安全,子への負担及び取得した情報の評価を委員会で検討する必要がある。

2 委員数と事件処理の現況

裁判所データブック2026によれば,令和8年4月1日現在の民事調停委員は7770人,家事調停委員は1万1742人で,両方に任命されている者は2976人である。令和7年の新受件数及び平均審理期間は,民事調停が3万440件・3.6か月,家事調停が12万9993件・7.2か月である。

これらは全国平均であり,個別事件の期日回数又は終了時期を予測する数字ではない。事件類型,証拠量,当事者の出頭状況,安全配慮,専門調査及び裁判所の繁忙度によって大きく異なる。調停委員の側では,期日ごとの到達目標及び次回までの課題を明確にし,合意可能性が失われた場合に出口を先送りしないことが長期化防止につながる。

3 迅速性,納得及び専門性の均衡

短時間で結論を示せば効率的に見えるが,事情聴取が不十分であれば当事者の納得と履行可能性を損なう。他方,感情面の聴取だけを繰り返せば,期日間隔と費用負担が増え,対立が固定化する。実務上の課題は,十分な聴取をした上で,争点,追加資料,法的見通し及び次の判断時期を明示することにある。

専門性についても,専門家委員へ任せ切ることと,専門知識を使わないことのいずれも適切ではない。委員の知見を質問と争点整理に用い,検証を要する判断は証拠・鑑定等へ戻すという境界管理が,迅速性と手続保障を両立させる。

第9 当事者及び代理人から見た調停委員会との協働

1 書面は争点と解決条件を分けて早めに提出すること

当事者又は代理人が提出する書面は,出来事を時系列で記載した上で,争いのない事実,争点,裏付け資料,法的評価,現実に求める利益,譲歩できる条件及び提案する条項を分けると,委員会が利用しやすい。専門的論点では,結論だけでなく,前提資料,計算過程,不確実性及び反対方向の見方を示す。

期日直前の大量提出は,委員会及び相手方が検討できず,その期日を資料確認だけで終わらせる原因となる。裁判所から期限を指定されたときはこれを守り,追加提出が避けられない場合には,重要箇所と理由を短く示すのが適切である。

2 委員の発言と委員会の見解を区別すること

調停委員の質問又は暫定的な発言を,直ちに裁判官の心証又は最終結論と受け取るべきではない。法的見通しが解決判断を左右する場合には,その説明が評議後の委員会見解であるか,前提事実は何か,追加資料によって変わり得るかを確認する。

別席で重要な情報を伝えるときは,相手方へ伝えてよい範囲も明確にする。委員会にだけ伝えた情報を理由に有利な提案がされることを期待すると,相手方が提案を検討できず,かえって合意形成を妨げることがある。

3 条項案と事件の出口を早めに検討すること

金額だけが合意できても,期限,分割,担保,登記,税,第三者の協力又は清算範囲が未確定であれば,調停は成立できない。代理人がいる事件では,条項案を早期に文章化し,履行及び執行の場面から逆算して検討することが有効である。

合意可能性がなくなった場合には,不成立,民事調停法17条の決定,調停に代わる審判,審判移行又は訴訟への復帰のどれが予定されるかを確認する。2週間の異議期間のように,終了後直ちに進行する期間もあるため,決定書又は審判書の受領日を記録し,次の手続を検討する必要がある。家事調停の事件類型及び終了後の分岐は,別稿「家事調停に関するメモ書き」も参照されたい。

第10 出典・参考資料

1 法令及び最高裁判所規則

民事調停法1条,5条~10条,14条,16条~18条,37条及び38条。

家事事件手続法16条,65条,152条の2,152条の3,184条の2,247条~268条,284条~286条,292条及び293条。

③ 最高裁判所「民事調停委員及び家事調停委員規則」1条~4条。

④ 最高裁判所「民事調停規則」9条,17条,19条及び20条。

⑤ 最高裁判所「家事事件手続規則」。

2 裁判所及び法務省の資料

① 裁判所「調停委員」。

② 裁判所「民事調停」及び「調停手続一般」。

③ 最高裁判所事務総局民事局『民事調停委員の手引』(平成31年3月)8頁~37頁,88頁~110頁。

④ 最高裁判所事務総局家庭局『家事調停の手引』(令和5年2月)12頁~41頁。

⑤ 裁判所「裁判所データブック2026」。

⑥ 法務省「父母の離婚後等の子の養育に関する見直し」。

3 裁判例

最高裁大法廷昭和35年7月6日決定・昭和26年(ク)第109号・民集14巻9号1657頁

名古屋高裁昭和29年12月28日判決・昭和28年(ネ)第364号

東京高裁昭和38年9月23日判決・昭和37年(ネ)第764号

大阪高裁昭和54年1月23日判決・昭和53年(ネ)第991号

4 文献

① 宇田川博史・長谷川裕「民事調停官の実務(上)」NBL1276号(2024年)27頁~33頁及び同「民事調停官の実務(下)」NBL1277号(2024年)27頁~35頁。

② 永井尚子「調停制度 更なる発展 現場での実践(家事調停)」判例タイムズ1499号(2022年)49頁~55頁。

③ 金子修編著『家事事件手続法コンメンタール』(日本評論社,2013年)428頁~430頁。

5 関連記事

① 「調停委員(AIリライト)」。

② 「家事調停に関するメモ書き」。

③ 「調停委員協議会の資料」。