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米国の国際刑事裁判所(ICC)関係制裁(31 C.F.R. Part 528)による生活・事業上の不利益―資産凍結,カード停止,送金拒否,デジタルサービス遮断とOFAC 50%ルール

第1 この記事の対象と結論

1 資産凍結だけでなく日常生活全体に影響する

米国の国際刑事裁判所(ICC)関係制裁(31 C.F.R. Part 528)は,指定対象者の米国内にある財産及び米国人の占有又は支配下にある財産上の利益を凍結し,移転,支払,輸出,引出しその他の取引を禁止する規則である。

しかし,実際の不利益は,米国内の銀行口座が凍結されることだけにとどまらない。

銀行,クレジットカード,送金,保険,クラウド,電子メール,通販,宿泊予約及び配車等の日常生活に必要なサービスには,米国企業,米国金融機関又は米国の決済システムが組み込まれていることが多い。

そのため,米国外で生活し,米国外の銀行が発行したカードを使い,米ドル以外で支払おうとする場合でも,取引経路に米国との接点があれば,決済,送金又はサービスが停止されることがある。

さらに,制裁違反を恐れる米国外の企業が,米国法上必要な範囲を超えて契約や口座を終了する場合もある。

本記事は,2026年8月20日現在のPart 528,大統領令14203号,OFACの公式資料,連邦裁判所の文書,企業の公式声明及び公開調査報告に基づき,制裁対象となった場合に生活及び事業へどのような不利益が生じるかを説明する。

制裁対象者の指定状況,ICCの管轄権,米国連邦訴訟及び国際法上の争点は,国際刑事裁判所(ICC)関係者に対する米国制裁の仕組みと法的争点で扱っている。

2 最初に押さえるべき結論

指定対象者について生じ得る主な不利益は,①銀行口座の凍結・閉鎖及び新規口座開設の拒否,②クレジットカード及びデビットカードの停止,③給与・家賃・医療費等の送金の拒否,④ホテル・航空券・公共交通・配車の利用困難,⑤電子メール・クラウド・通販・アプリ等の停止,⑥健康保険給付の拒否,⑦住宅の売却又はローン返済に関する支障,⑧家族,友人,勤務先及び取引先への波及である。

もっとも,これらのすべてが指定と同時に必ず発生するわけではない。

個別の不利益については,Part 528が直接要求する凍結,決済経路上の米国接点による停止,契約上の解除及び制裁リスクを避けるための過剰遵守を区別する必要がある。

また,裁判所提出訴状に記載された被害は当事者の主張であり,裁判所の意見に引用された宣誓供述も,本案確定判決によってすべて認定された事実とは限らない。

第2 生活上の不利益が米国外にも波及する仕組み

1 「財産」は銀行預金に限られない

§528.314の「property and property interests」は,金銭,預金,債権,証券,保険契約,土地,知的財産,契約及びサービス等を広く含む。

§528.310の「interest」は,直接又は間接を問わず,性質を問わない利益である。

このため,銀行預金だけでなく,カード決済,売掛金,給与送金,保険金請求,予約契約,ライセンス及び継続的なオンラインサービスも検討対象となり得る。

凍結は没収とは異なり,所有権を米国政府へ移すものではない。

もっとも,指定対象者は,許可がない限り,凍結財産を引き出し,送金し,売却し,相殺し,又は別の用途へ振り向けることができないため,生活上は利用不能となる。

2 米国人には企業及び米国内にいる者も含まれる

§528.318は,U.S. personを,①米国市民,②永住者,③米国法又は米国内の法域に基づき設立されたentity,及び④合法的に米国内にいる者と定義する。

同条は③について「including a foreign branch, subsidiary, or employee of such entity」と記載しているため,仮訳すれば,そのentityの外国支店,子会社又は従業員を含むことになる。

この括弧書きは一般的なOFAC制裁で用いられる米国人の定義より広いが,外国子会社及び従業員をどの範囲まで直接の規制主体に含めるかについて,Part 528固有の追加定義,OFAC FAQ又は公刊判例は確認できない。

したがって,契約相手が米国企業の欧州子会社であることだけを理由に一律の結論を出すことはできず,組織関係,雇用関係,取引への関与及び米国との接点を個別に確認する必要がある。

3 カードシステム運営者及び保険会社も米国金融機関に含まれる

§528.319は,U.S. financial institutionに,銀行及び送金業者だけでなく,クレジットカードシステム運営者,保険会社,証券会社,清算機関その他の金融関係者を含めている。

また,§528.504は,凍結対象者が利害を有する支払又は信用移転が米国金融機関の占有又は支配に入った場合,その金融機関の帳簿上の口座で凍結しなければならないとしている。

したがって,カードの発行銀行が米国外にあり,利用場所及び決済通貨も米国外のものであっても,米国のカードシステム運営者,清算機関,コルレス銀行その他の米国金融機関が処理に関与すれば,取引が止まる可能性がある。

ただし,海外発行カードがすべて当然に停止されるという意味ではなく,発行銀行,カード網,加盟店管理会社,決済通貨及び資金経路を個別に確認する必要がある。

4 直接規制と過剰遵守は区別する必要がある

独立した米国外企業が,米国人,米国金融機関及び米国内財産との接点を全く持たない取引まで,Part 528によって一律に禁止されるわけではない。

他方,大統領令14203号は,指定対象者へ重要な援助,資金,物品又はサービスを提供した者等を追加指定できる仕組みを設けている。

企業は,民事制裁金,刑事責任,調査費用,米国市場へのアクセス及び評判上のリスクを避けるため,法的に必要な範囲より広く口座又はサービスを停止することがある。

このような過剰遵守又はデリスキングが生じると,米国との接点が明確でない現地通貨口座,欧州域内送金又は米国外の契約まで終了されることがある。

第3 銀行口座,カード及び送金に関する不利益

1 銀行口座の凍結,閉鎖及び開設拒否

米国内にある指定対象者の銀行預金は,原則として凍結対象となる。

米国外の銀行口座については,その存在だけで米国法上当然に凍結されるわけではないが,米国のコルレス銀行,米ドル決済又は米国企業グループとの関係があれば,資金移動が止まることがある。

また,銀行自身が制裁リスクを避けるため,米国接点の有無を個別に調べることなく口座を閉鎖し,又は新規口座の開設を拒否する場合がある。

コロンビア特別区連邦地方裁判所2026年5月13日意見は,別の指定対象者について,米国の共同口座から外され,欧州の複数銀行からも口座開設を拒否され,銀行を通じた支払及び受領ができない状態にあるとの宣誓供述を記載している。

同意見は仮差止め段階の裁判所文書であり,本文に引用された個々の事情のすべてについて本案の最終判断をしたものではない。

2 海外発行カードでも利用できなくなることがある

2026年6月24日にニューヨーク南部地区連邦地方裁判所へ提出された訴状132項~134項には,指定対象となったICC裁判官らについて,米国銀行発行カードだけでなく,米国外銀行発行カードも利用できなくなったとの主張が記載されている。

カードが停止されると,店舗で商品を買えないだけでは済まない。

ホテルの予約保証,航空券,鉄道・地下鉄等のタッチ決済,配車アプリ,オンライン通販,携帯アプリの継続課金及び各種サブスクリプションにも同じカードが使われているため,一つのカード停止が複数の生活サービスへ連鎖する。

現金で支払う意思があっても,予約時のカード登録,オンライン本人確認又はアプリ内決済が必須であれば,サービス自体を利用できないことがある。

3 米ドル以外の送金及び欧州域内送金も止まり得る

前記訴状132項には,欧州域内で請求書を支払うための単純な送金でも,資金が拒絶又は凍結されたとの主張が記載されている。

送金通貨がユーロ等であっても,中継銀行,受取銀行,決済事業者又は制裁スクリーニングの過程に米国接点があれば,処理が停止されることがある。

他方,SWIFTはベルギーの組織であり,SWIFTを利用することだけで米国法上当然に凍結されるわけではない。

送金拒絶の原因を判断するには,送金通貨,送金銀行,中継銀行,受取銀行,決済メッセージ及び拒絶通知を確認する必要がある。

4 給与,家賃,医療費及び家族送金へ連鎖する

口座又はカードの停止は,給与の受領,家賃・住宅ローン・公共料金・保険料の支払,医療費の精算及び家族への送金にも影響する。

支払義務自体が消滅するわけではないため,決済手段を失ったまま支払期日だけが到来し,遅延損害金,契約解除又は信用上の不利益が生じる可能性がある。

もっとも,ICC関係者について,携帯電話,電気,水道,ガス又は公的年金そのものが停止されたことを示す公開実例は確認できない。

確認されているのは,カード・銀行・送金の停止によって,これらの料金支払にも間接的な危険が生じるという構造である。

第4 買物,旅行及び移動に関する不利益

1 オンライン通販及び日用品購入

前記訴状には,米国企業が提供する通販及びオンラインサービスのアカウントが制限又は終了され,オンライン注文が困難になったとの主張が記載されている。

Coalition for the International Criminal Courtの2026年報告書40頁~43頁は,聞取り調査に基づき,通販,決済,動画配信及び宿泊予約等のアカウント停止が生じたと報告している。

同報告書はNGOによる二次資料であり,各サービス事業者側の取引記録によってすべて独立検証されたものではない。

2 ホテル,航空券及び配車

カード又は予約アカウントが停止されると,ホテルの宿泊料金を現金で用意できても,予約時のカード保証ができないため予約を完了できないことがある。

前記訴状は,ホテル予約,国際交通及びタクシー手配が困難又は不能になったとの主張を記載している。

前記CICC報告書は,欧州域内のホテル予約についても,予約事業者から米国制裁への対応を理由として取り消された例を掲載している。

このように,制裁対象者が米国へ渡航しない場合でも,米国企業が提供する予約・決済基盤を使う限り,米国外の旅行が妨げられることがある。

3 公共交通及び現金生活の限界

前記訴状は,公共交通の利用及びタクシーの手配が困難になり,地域によっては現金取引に限られるようになったとの主張を記載している。

キャッシュレス決済だけを受け付ける公共交通,アプリ決済を前提とする配車及びオンライン発券を前提とする鉄道・航空券では,現金を持っていても利用できないことがある。

また,多額の現金を持ち歩く生活には,盗難,紛失,両替及び国境を越える現金申告等の別の負担が伴う。

第5 電子メール,クラウド及びデジタルサービスに関する不利益

1 Microsoftが公式に認めた範囲

Microsoftの2025年5月28日公式声明は,ICCとの協議を経て「制裁対象となった職員」をMicrosoftサービスから切断したことを認めている。

他方,同社は,ICCという組織へのサービスを停止又は中断したことはないと明示している。

したがって,「MicrosoftがICC全体を遮断した」と記載するのは正確でない。

同声明は,対象職員の氏名,停止された具体的サービス及び保存データの状態までは明らかにしていない。

2 アカウント停止が他のサービスにも連鎖する

電子メールが利用できなくなると,単にメールを送受信できないだけでなく,他のサービスのパスワード再設定,多要素認証,取引通知及び本人確認にも支障が生じる。

クラウド又は端末アカウントが停止されると,保存写真,購入済み電子書籍,アプリの更新,連絡先及び業務資料へアクセスできなくなる可能性がある。

前記CICC報告書41頁~42頁は,聞取り調査に基づき,Apple ID,iCloud,Amazon,Kindle,Audible,PayPal,Uber,Netflix,Airbnb及びBooking.com等へのアクセス障害又はアカウント停止を報告している。

これらは同報告書による二次資料上の記載であり,各社が個別の法的理由及び停止範囲を公式に確認したものではない。

3 アクセス停止とデータ削除は別である

アカウントへログインできないこと,サービス提供が停止されたこと及び保存データ自体が削除されたことは,それぞれ別の事実である。

ICC関係者のOneDrive,SharePoint,Teams又はAzure上のデータが削除されたことを示す企業公式資料又は裁判記録は確認できない。

したがって,公開資料から確認できる範囲では,「デジタルサービス又はデータへのアクセスが失われ得る」と説明するにとどめ,「保存データが消去された」と断定すべきではない。

4 指定対象者以外のアカウントにも波及し得る

前記CICC報告書は,指定対象者へ贈物を送った友人の通販・電子書籍等のアカウントが一時停止されたとの聞取り結果も掲載している。

指定対象者本人でない者の財産が,関係があるというだけで自動的に凍結されるわけではない。

もっとも,配送先,受取人,共同利用者又は支払先に指定対象者が含まれると,事業者の自動スクリーニング又は過剰遵守によって第三者の取引まで停止される可能性がある。

第6 医療,健康保険,住宅及び仕事に関する不利益

1 健康保険給付の拒否

前記ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所提出訴状132項~134項には,保険料又は会費を支払っていたにもかかわらず医療費請求が支払われず,代替保険も確保できなかったとの主張が記載されている。

前記コロンビア特別区連邦地方裁判所意見も,指定対象者について,配偶者の勤務先が提供する健康保険が医療費の支払を拒否したとの宣誓供述を記載している。

Part 528には緊急かつ予定外の医療サービス等に関する一般許可があるが,既存の健康保険契約の維持,通常診療の予約又は保険金請求の処理を包括的に保証するものではない。

そのため,「緊急医療が一般許可されているから医療上の不利益は生じない」ということはできない。

2 住宅の売却及び住宅ローン

前記コロンビア特別区連邦地方裁判所意見は,米国内住宅の売却がいったん阻止され,その後の個別ライセンスも,売却代金を利息付凍結口座へ入れることを条件としていたと記載している。

売却自体が許可されても,代金を自由に受領又は使用できない場合,住宅の経済的価値を現実に利用することはできない。

前記CICC報告書43頁は,聞取り調査に基づき,米国外の銀行が住宅ローンを終了し,残額の一括返済を要求した例を報告している。

このローンの例は裁判所の認定ではなくNGO報告上の記載であるが,銀行の過剰遵守が既存の長期契約へ及び得ることを示している。

3 仕事,講演及び専門活動

前記訴状は,米国での講演,大学との交流及びNGOとの協力が中止又は制限されたとの主張を記載している。

前記コロンビア特別区連邦地方裁判所意見は,指定対象者の配偶者について,米国への入国制限及び制裁による外部圧力のため,勤務先での職務停止及び将来の職業上の制約が生じたとの宣誓供述を記載している。

指定対象者への講演謝金,旅費,技術支援又は共同研究が「指定対象者の利益のための資金,物品又はサービス」に当たることを恐れ,大学,企業又はNGOが関係自体を終了する場合もある。

第7 家族,友人及び関係組織への波及

1 家族の財産が当然にすべて凍結されるわけではない

大統領令14203号4条による米国入国停止は,指定対象者本人に加えて,原則としてその配偶者及び子にも及ぶ。

他方,配偶者又は子の財産が,家族であるという理由だけで当然に凍結されるわけではない。

もっとも,共同口座,共有不動産,指定対象者への送金又は指定対象者のための支払のように,指定対象者の財産上の利益が含まれる場合には,取引全体が凍結又は拒絶の対象となり得る。

2 通常の家族生活にも法的な不安が生じる

前記コロンビア特別区連邦地方裁判所意見では,米国市民である未成年の子が母である指定対象者へ贈物又は日常的援助を提供する場合にも,制裁規則との関係を判断しなければならない状態が問題とされた。

OFACが親子関係に通常必要な一定の取引を個別に許可しても,家族生活上のあらゆる支払,贈物及び共同活動が自動的に許可されるとは限らない。

このように,家族は,日常的な行為ごとに「これは指定対象者の利益のための資金又はサービスに当たるか」を検討する負担を負うことがある。

3 指定対象者が所有する組織への50%ルール

指定対象者が,直接又は間接に,単独又は複数の指定対象者との合算で50%以上を所有するentityは,その名称がSDNリストに掲載されていなくても凍結対象となる。

§528.305のentityは会社だけでなく,組合,社団,信託,ジョイントベンチャー,集団その他の組織を含む。

したがって,「本人の氏名をSDNリストで検索して一致しなければ取引できる」という確認方法では足りず,組織の直接株主,上位所有者及び複数の指定対象者による持分合算を確認する必要がある。

第8 OFAC 50%ルールの具体的な計算

1 直接所有,間接所有及び合算

OFAC FAQ 401及び2014年8月13日付50%ルール改訂ガイダンスが示す代表的な計算は,次のとおりである。

所有関係50%ルールの結果理由
指定対象者XがAを50%所有し,AがBを50%所有するA及びBが凍結対象となるAはXに50%所有され,Bは凍結対象となったAに50%所有される
XがAを50%,Bを10%所有し,AがBを40%所有するA及びBが凍結対象となるBについてXの直接10%とAを通じた間接40%を合算すると50%になる
XがAとBを各25%所有し,AとBがCを各50%所有するA,B及びCはXの所有だけでは自動凍結されないAとB自体がXに50%以上所有されておらず,XのCに対する間接所有として計上されない

複数の指定対象者による所有も合算する。

例えば,指定対象者Xが対象組織を25%,指定対象者Yが同じ組織を25%所有すれば,合計50%となる。

2 所有と支配は同じではない

OFAC FAQ 398によれば,指定対象者の所有が合算50%未満である組織は,指定対象者が事実上支配していても,50%ルールだけでは自動凍結されない。

ただし,OFACがその組織を別途指定する可能性があるほか,指定対象者本人がその組織を代表して行う取引へ米国人が関与することも禁止され得る。

OFAC FAQ 400は,指定対象者が非凍結組織のために行動する場合でも,米国人は指定対象者本人との取引を行えないと説明している。

したがって,契約当事者の名称だけでなく,署名者,送金指図者,サービスの提供者及び受領者を確認する必要がある。

3 指定後に持分が50%未満となった場合

OFAC FAQ 402によれば,指定対象者が米国管轄外で実体ある持分譲渡を行い,合算持分が50%未満となった場合,その組織は将来の取引について50%ルールだけによる自動凍結組織ではなくなる。

ただし,名目的又は仮装的な譲渡は認められない。

また,50%以上所有されていた時点で米国内又は米国人の占有・支配下に入り,適法に凍結された財産は,その後の持分低下だけでは解除されない。

第9 法定除外,一般許可及び個別ライセンスの限界

1 IEEPAの法定除外

50 U.S.C. §1702(b)は,①価値移転を伴わない個人的通信,②一定の人道目的の寄附,③情報・情報資料の輸出入,及び④旅行に通常付随する取引を,大統領のIEEPA権限から除外する。

ただし,大統領令14203号2条は,人道目的の寄附が緊急事態への対処能力を重大に害すると判断し,当該寄附を禁止対象としている。

情報・情報資料の除外があることから,指定対象者に関係する研究,教育又は法律上の言論がすべて当然に禁止されるわけではない。

他方,指定対象者と協調して提供する有償又は実務的サービスは,独立した情報発信とは異なる評価を受け得る。

2 Part 528の主な一般許可

Part 528は,①通常の凍結口座維持手数料,②指定への異議,米国内の訴訟・行政手続及び米国法遵守に関する一定の法律サービス,③一定の米国外由来資金による弁護士報酬,④緊急かつ予定外の医療サービス,⑤米国政府の公務,及び⑥個人的・非商業的な食料,衣類,医薬品等の人道目的物品を許可する(§§528.505ないし528.510)。

しかし,一般消費者向けの銀行口座,カード,健康保険,電子メール,クラウド,通販,ホテル,配車又はデジタル購読を恒久的に継続させる包括的な一般許可は確認できない。

3 ライセンスは企業にサービス提供を強制しない

§528.502(c)によれば,OFACのライセンスは,その明示された範囲でPart 528上の禁止を解除するにとどまり,通常の法原則によって存在しない権利,義務,請求権又は利益を新たに生じさせるものではない。

そのため,OFAC上は許可された取引であっても,ライセンスだけを根拠として民間事業者にサービス提供,契約継続又はアカウント復旧を強制することはできない。

個別ライセンスを得た後も,別の事業者の契約判断,閉鎖された口座の復旧,代替決済手段及びデータへのアクセスを別途解決しなければならない場合がある。

4 General License 12は恒久的な免除ではない

OFAC General License 12は,2026年8月18日に指定された2人及び両人が50%以上所有するentityに関する取引の整理に通常必要な取引を,2026年9月17日午前0時1分(米国東部夏時間)まで許可する。

これは既存契約を通常どおり恒久的に継続できる免除ではなく,wind-downのための時限的許可である。

適用を検討する時点で,期限の経過,改訂,失効又は後続許可の有無をOFACの公表ページで確認する必要がある。

第10 証拠の読み方と確認できない事項

1 裁判所の意見と訴状は証拠価値が異なる

本記事が引用するコロンビア特別区連邦地方裁判所の意見は,裁判所が作成した文書であるが,仮差止め段階の判断である。

同意見が当事者の宣誓供述又は訴状を引用している部分については,確定判決で最終的に認定された事実と同一視すべきではない。

ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所提出訴状に記載されたカード,送金,健康保険及びサービス停止は,原告らが主張する被害であり,訴状本文の存在は確認できるものの,裁判所による最終認定ではない。

2 CICC報告書は聞取りに基づく二次資料である

前記CICC報告書は,制裁対象者等への聞取り及び提供された画面資料等に基づいて,銀行,IT及び各種サービスへの影響をまとめたものである。

生活上の不利益を広く把握する資料として有用である一方,各事業者の内部記録,決済経路及び法的判断を独立に確認した監査報告ではない。

したがって,同報告書に基づく具体例は「報告されている」と記載し,企業公式声明又は裁判所の最終認定のように扱わない。

3 Microsoft公式声明から分かることと分からないこと

Microsoft公式声明から確認できるのは,制裁対象職員のMicrosoftサービスからの切断及びICC全体のサービス停止を同社が否定したことである。

対象職員の氏名,具体的なメールアカウント,クラウド上の各サービス,保存データの削除及び復旧可能性は,同声明からは確定できない。

4 公開資料から確認できない不利益

ICC関係者について,携帯電話回線,電気,水道,ガス,公的年金,学校又は公的医療そのものが停止された公開実例は確認できない。

また,Microsoftその他のクラウド事業者が保存データを削除した事実も確認できない。

これらについては,カード又は口座停止により料金を支払えなくなる間接的リスクと,サービス自体が制裁を理由に停止された事実を区別する必要がある。

第11 取引当事者が確認すべき事項,報告及び罰則

1 取引前の確認順序

取引前には,①当事者,署名者及び受益者をOFACリストと照合する,②直接株主及び上位所有者を確認する,③指定対象者の直接・間接持分を合算する,④指定対象者本人が契約,送金又はサービスに関与しないか確認する,⑤米国人,米国金融機関,カード網,米ドル決済又は米国内財産との接点を確認する,⑥法定除外,一般許可又は個別許可の有無を確認する,という順序で整理できる。

取引が停止された場合には,停止通知,送金メッセージ,銀行・カード会社とのやり取り,契約主体,請求書,支払通貨及び中継金融機関を保存する必要がある。

これらがなければ,Part 528による直接の凍結なのか,事業者の契約判断又は過剰遵守なのかを後から判定することが難しくなる。

2 凍結,拒絶及び記録保存

Part 528は,31 C.F.R. Part 501の報告・記録手続を取り込んでいる。

§501.603によれば,財産を凍結した者は原則として凍結から10営業日以内に初回報告を行い,毎年6月30日現在の凍結財産を同年9月30日までに年次報告する。

禁止取引を凍結せず拒絶した場合も,§501.604により原則として10営業日以内の報告が必要である。

§501.601により,取引記録は取引日から少なくとも10年間,凍結財産の記録は凍結中及び解除後少なくとも10年間保存する。

3 厳格責任と制裁金

50 U.S.C. §1705は,違反,違反未遂,共謀及び違反惹起を禁止する。

2026年8月20日現在,IEEPAの民事制裁金上限は,1違反当たり37万7700ドル又は違反の基礎となる取引額の2倍のいずれか大きい額である。

故意の刑事違反には100万ドル以下の罰金が科され,自然人には20年以下の拘禁刑が併科され得る。

OFACの民事執行は厳格責任であり,違反を知らなかったことだけで当然に責任を免れるわけではない。

他方,認識,故意又は無謀,制裁コンプライアンス体制,違反後の是正,自己申告及び調査協力は,執行措置の選択及び金額の加重・軽減要素となる。

第12 出典・参考資料

1 法令及び大統領令

① International Emergency Economic Powers Act, 50 U.S.C. §§1701ないし1706

② Executive Order 14203, Imposing Sanctions on the International Criminal Court, 90 Fed. Reg. 9369

③ International Criminal Court-Related Sanctions Regulations, 31 C.F.R. Part 528

④ Reporting, Procedures and Penalties Regulations, 31 C.F.R. Part 501

2 OFAC公表資料

① International Criminal Court-Related Sanctions Regulations, 90 Fed. Reg. 28012

② OFAC Revised Guidance on Entities Owned by Persons Whose Property and Interests in Property Are Blocked, August 13, 2014

③ OFAC FAQs 398ないし402(Entities Owned by Blocked Persons)

④ OFAC General License 12, Authorizing the Wind Down of Transactions Involving Certain Persons Blocked on August 18, 2026

⑤ OFAC Economic Sanctions Enforcement Guidelines, 31 C.F.R. Part 501 Appendix A

3 裁判資料及び企業公式声明

① ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所提出・2026年6月24日訴状,No. 1:26-cv-05305-JMF,132項~134項

② コロンビア特別区連邦地方裁判所2026年5月13日Memorandum Opinion,L.C. et al. v. Trump et al., No. 1:26-cv-00688-RJL, Document 48

③ Microsoft, Statement from Microsoft regarding the ICC, May 28, 2025

4 生活上の不利益に関する調査報告

① Coalition for the International Criminal Court, Criminalising Accountability: The US Lawfare Against the International Justice System, April 23, 2026,特に40頁~43頁

② 同報告書は,指定対象者等への聞取り及び提供資料を基礎とする二次資料であり,個別企業の全取引記録を独立に監査したものではない。