第1 mintsで提出する三つのファイル
1 音声・動画を証拠とする場合の基本形
本記事は,令和8年8月20日現在の民事訴訟法,民事訴訟規則,最高裁判所の細則及び裁判所公表資料に基づき,録音音声又は動画そのものを民事裁判の証拠としてmintsから提出する方法を扱う。基本形は,①音声又は動画の電磁的記録の複製,②電子証拠説明書,③必要に応じた反訳書の三つを準備する方法である。
音声又は動画の電磁的記録の複製は,mintsの「証拠」から提出する。電子証拠説明書は「証拠説明書」からPDFで提出する。反訳書を独立の書証として申し出る場合は,音声・動画とは別の証拠番号を付けて「証拠」から提出する。
2 音声・動画自体を証拠にする方法と反訳書だけを出す方法
音声・動画自体を証拠にする方法は,民事訴訟法231条の2に基づく電磁的記録の証拠調べである。訴訟代理人は,証拠調べの申出時までに,電磁的記録の複製及び電子証拠説明書を裁判所へ提出し,相手方へ直送する必要がある。
これとは別に,録音又は録画を文字にした反訳書だけを書証として申し出る方法もある。この場合,反訳書が証拠調べの対象となる文書であり,元の音声・動画が当然に証拠となるわけではない。相手方が録音・録画データの提供又は媒体の複製物の交付を求めたときは,民事訴訟規則144条によりこれに応じる必要がある。声色,間,語気,映像又は周囲音自体が重要であれば,反訳書だけでなく音声・動画自体も証拠として申し出るのが明確である。
第2 提出できるファイル形式と容量
1 音声はMP3,動画はMP4とする
最高裁判所の細則及び準備の手引によれば,証拠調べの準備のために提出する電磁的記録の複製について利用できる形式は,PDF,JPEG,PNG,MP4及びMP3である。したがって,音声はMP3,動画はMP4がmintsでの公式の提出形式となる。
| 元ファイルの例 | mintsへ出す準備用複製 | 元ファイルの取扱い |
|---|---|---|
| MP3 | MP3 | 同じビット列の複製を作り,元ファイルも保存する。 |
| MP4 | MP4 | 同じビット列の複製を作り,元ファイルも保存する。 |
| M4A,WAV,AAC,FLAC | MP3 | 変換後のMP3だけでなく,変換前の元音声を保存する。 |
| MOV,AVI,WMV,WebM,MKV | MP4 | 変換後のMP4だけでなく,変換前の元動画を保存する。 |
2 拡張子の変更と形式変換を混同しない
元ファイルがM4A,WAV又はMOV等である場合,ファイル名の末尾だけを.mp3又は.mp4へ変更しても形式は変わらない。変換ソフトで実際にMP3又はMP4へ変換する必要がある。
もっとも,変換又は再エンコードをすれば,音質,画質,メタデータ及びバイナリデータが変わり得る。変換後ファイルを元データと説明せず,変換前の元ファイルを保存し,提出用複製との関係を証拠説明書の備考欄又は別紙で明らかにする必要がある。
3 MP4の内部形式は公式要件として指定されていない
MP4は映像と音声等を格納するコンテナ形式であり,映像コーデックの名称ではない。同じ.mp4でも内部の映像及び音声の形式が異なることがある。
H.264/AVCの映像とAACの音声は,再生互換性を確保するための実務上の候補である。しかし,現行の細則,準備の手引及びmints操作マニュアルは,コーデック,解像度,フレームレート又はビットレートを公式要件として指定していない。提出前には,mints上で冒頭,立証に用いる部分及び末尾を再生し,正常に表示・再生できるかを確認するのが安全である。
4 200MB,100文字及びパスワードの制限
mints操作マニュアル当事者ユーザ編2.3版によれば,1回のアップロードで選択できる全ファイルの合計容量は200MBまでである。これは1ファイルごとの上限を200MBと説明したものではなく,1回の選択合計に対する制限である。
ファイル名は拡張子を含めて100文字以内であり,全角・半角を問わず1文字として数える。パスワードを設定したファイルはアップロードできない。動画が制限内に収まらない場合は,無断で過度に圧縮又は分割するのではなく,元データを保存した上で,提出方法を事件担当部と事前に調整する必要がある。
第3 元データの保存と変換履歴
1 最初に元データを保全する
提出用の変換や切出しを始める前に,スマートフォン,ICレコーダー,ドライブレコーダー又は防犯カメラ等から取得した元データを保存する。取得元機器,取得者,取得日時,取得方法,元のファイル名及び保存先を記録し,元ファイルを上書きしない。
録音・録画の一部だけを提出用に切り出す場合も,切出し前の全体ファイルを保存する。抜粋ファイルについては,元データのどの開始時刻から終了時刻までを切り出したのかを記録する。音量調整,ノイズ除去,画質補正又は字幕追加をした場合も,加工内容を記録し,加工前データを残す必要がある。
2 変換記録とハッシュ値の役割
元ファイルと提出用複製が異なるときは,①元ファイル名・形式,②提出用ファイル名・形式,③変換日,④使用ソフト,⑤主な変換条件,⑥切出しの有無と範囲,⑦元データの保管状況を記録する。証拠説明書の備考欄だけで収まらなければ,対応表を別紙にする方法がある。
重要なデータでは,取得時及び提出用複製作成時にSHA-256等のハッシュ値を計算し,別に保存することも考えられる。ただし,ハッシュ値が示すのは特定のビット列が変化していないことにすぎない。録音された出来事が真実であること,録音開始前に編集がなかったこと又は録音者の説明が正しいことまで証明するものではない。
3 圧縮・変換を説明しなかった場合の裁判例
大阪地裁令和8年6月4日判決(令和7年(ワ)第11139号)は,当初提出された圧縮動画と後に提出された非圧縮動画について,バイナリデータ,インフォハッシュ,ファイルのプロパティ時刻及び提出経過を検討した。同判決は,当初の動画が圧縮済みで元データと一致しないことを説明しなかった点を問題としつつ,再提出動画の証拠価値を直ちに否定しなかった。
同判決から,提出用の圧縮・変換それ自体が常に許されないとはいえない一方,元データとの相違及び提出経過を隠さず説明することが重要であると分かる。変換後のMP3又はMP4だけを残し,元データを廃棄する運用は避けるべきである。
第4 反訳書を作成して提出する方法
1 反訳書は全国一律に常時必須ではない
民事訴訟規則149条は,録音又は録画の証拠調べについて,裁判所又は相手方の求めがあるときに,録音又は録画された内容を説明する書面を提出すべきものとしている。この規定は同規則149条の4により,電磁的記録に記録された録音・録画情報の証拠調べにも準用される。
したがって,音声又は動画を出す全事件で,同時に全文反訳書を提出することを全国一律に義務付けた条文はない。もっとも,裁判所ごとの案内又は事件担当部の指示により反訳書を求められることがあり,大津地方裁判所民事部の公開案内は,会話を録音した電子データ等を書証として提出する場合に反訳書を提出するよう求めている。また,争点部分を迅速に把握できるようにするため,重要な会話については求めを待たずにタイムコード付き反訳書を提出するのが通常は合理的である。
2 反訳書に記載する事項
反訳書には,少なくとも,①対応する音声・動画の証拠番号及びファイル名,②録音・録画の全長,③反訳対象の開始時刻及び終了時刻,④各発言のタイムコード,⑤話者名又は話者記号,⑥聴取不能・不明瞭・同時発話・物音等の表示,⑦全部反訳か抜粋反訳か,⑧反訳者及び反訳日を記載するのが分かりやすい。
聞き取れない箇所を推測で補わず,「[聴取不能]」又は「[不明瞭]」と表示する。話者の特定に確信がない場合も断定せず,話者記号を用いるなどして不確実性を示す必要がある。
3 全部反訳と抜粋反訳
民事訴訟規則149条は,常に録音・録画の全文を反訳するとは定めていない。争点が短い区間に限られるときは,開始・終了タイムコードを明示した抜粋反訳とし,前後関係を確認できるよう音声・動画全体を提出する方法が考えられる。
もっとも,発言の文脈,誘導,沈黙又は前後のやり取りが争われる場合,抜粋だけでは証明力が低下し,全文反訳又は追加反訳を求められ得る。省略箇所を明示せずに文章を接続すると会話の意味を変えるおそれがあるため,抜粋であることと省略範囲を表示する必要がある。
4 AIによる反訳は人が元データと照合する
音声認識を下書きに利用する場合でも,固有名詞,否定表現,数字,金額,日付及び話者分離は誤りやすい。提出前に人が音声・動画と逐語で照合し,未確認の自動反訳をそのまま提出しない。
AI利用の開示方法を全国一律に定める最高裁判所の公開資料は確認できない。少なくとも,反訳書の正確性を誰がどのように確認したかを記録し,争いが生じた場合に作成過程を説明できるようにするのが安全である。
5 反訳書をアップロードする区分
反訳書を独立の書証として証拠申出する場合は,音声・動画とは別の証拠番号を付け,PDFにしてmintsの「証拠」から提出する。例えば,音声データを甲012,その反訳書を甲013とする方法である。
これに対し,反訳書を民事訴訟規則149条の内容説明書面としてだけ提出する場合,現行の公開公式資料には専用の「反訳書」タブも,全国一律の提出区分も示されていない。「その他」等の区分が候補となるが,事件担当部の指示を確認する必要がある。独立の書証なのか,音声・動画の説明書面なのかを曖昧にしないことが重要である。
第5 電子証拠説明書の記載方法
1 法定の記載事項
電子証拠説明書には,電磁的記録の標目,作成者及び立証趣旨を記載する。録音・録画情報については,さらに,録音・録画の対象,日時及び場所を明らかにしなければならない。
日時又は場所が分からないときは推測で埋めず,「令和8年6月頃」又は「場所不詳」等,判明している限界を示す。立証趣旨は「会話内容」だけで終えず,どの発言又は場面によって,どの事実を立証するのかを具体的に記載する。
2 音声データと反訳書の記載例
| 符号・番号 | 標目 | 作成者 | 作成年月日 | 立証趣旨 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 甲012 | 令和8年6月1日の会話録音データ | 原告 | 令和8年6月1日 | 被告が同日午後3時12分頃に代金支払義務を認めた事実 | 対象:原告と被告の会話。場所:大阪市○区○○。元データM4Aから提出用MP3を作成し,元データを保管。該当箇所12:35~13:48。 |
| 甲013 | 甲012反訳書 | 原告代理人 | 令和8年8月20日 | 甲012の12:35~13:48における発言内容 | 抜粋反訳。元データ及び提出用MP3と逐語照合。 |
この例は,反訳書を独立の書証として申し出る場合を想定する。録音者とファイル作成者が異なる場合又は作成者の意味に争いがある場合は,証拠説明書の欄だけで無理に単純化せず,録音・取得・保存・変換の経過を備考又は別紙で説明する必要がある。
3 証拠番号とファイル名を一致させる
裁判所の準備の手引は,書証と電磁的記録を区別せず,証拠番号を通し番号で付けるものとしている。ファイル名は「甲012 会話録音データ.mp3」「甲013 甲012反訳書.pdf」のように,証拠番号と標目を対応させる。
証拠番号,ファイル名,電子証拠説明書の各欄及び書証・電磁的記録の区別は,mints後の証拠説明書で整理している。
第6 mintsへアップロードして提出する手順
1 提出前のファイルをそろえる
最初に,音声又は動画自体を証拠にするか,反訳書だけを書証にするか,両方を証拠にするかを決める。音声・動画自体を証拠にする場合は,①MP3又はMP4の提出用複製,②PDFの電子証拠説明書,③必要に応じてPDFの反訳書をそろえる。
提出前には,証拠番号,ファイル名,証拠説明書の標目,作成者,作成年月日,立証趣旨及び備考を横断して照合する。録音・録画の対象,日時,場所,該当タイムコード及び変換履歴が必要な範囲で記載されているかも確認する。
2 「証拠」と「証拠説明書」から提出する
音声又は動画の電磁的記録の複製は,「証拠」からファイルを追加し,証拠番号を入力する。電子証拠説明書は,「証拠説明書」からPDFを追加する。提出期限は事件ごとの裁判所の指定に従い,アップロードしただけでなく,所定の「提出」操作まで完了させる必要がある。
mintsの「記録外」へアップロードした資料は正式な提出にならない。受付外形式の元データを確認用に記録外へ置く必要がある場合でも,記録一覧側の証拠及び証拠説明書を正式に提出し,元データの確認方法を裁判所書記官と調整する必要がある。
3 提出前後に内容を再生して確認する
一度アップロードしたファイルは,当事者が自由に消去できない。秘匿情報,別事件の資料,無関係な私生活情報及び不要な位置情報等が含まれていないかを,提出操作の前に確認する。
提出後は,記録一覧に表示された証拠番号及びファイル名を確認する。プレビュー又は再生が可能であれば,冒頭,立証に用いる部分及び末尾を再生する。拡張子が受け付けられたことだけでは,内部の映像・音声を正常に再生できることまで確認したことにならない。
4 標準形式・容量で提出しにくい場合
細則5条2項ただし書は,所定の形式又は容量による電磁的記録の複製を作成することが困難である場合に,実際の形式及びサイズによることを認めている。大容量の防犯カメラ映像,専用ソフトでしか再生できないデータ又は長時間録画等では,記録媒体による提出を含めて事前協議が必要となり得る。
この場合も,mintsの記録外へ置くだけで正式提出を済ませたと扱うことはできない。どのファイルを正式な証拠とし,どの元データを確認用に提示するのか,証拠説明書と提出経路を含めて事件担当部へ確認する必要がある。
第7 無断録音と証拠能力
1 無断録音であるだけで一律に排除されるわけではない
民事訴訟では,無断録音であるという一事だけで,録音及び反訳書が常に証拠から排除されるわけではない。他方,録音の目的・態様,侵害される秘密又は人格的利益,録音者が会話の当事者か,録音範囲が包括的・探索的か,証拠としての重要性等により,訴訟上の信義則に反するとして排除されることがある。
したがって,mintsがファイルを受け付けたことは,その証拠能力又は証明力が認められたことを意味しない。提出前に,録音の取得経緯,対象者,場所,期間及び目的を確認する必要がある。
2 非公開委員会の録音を排除した東京高裁判決
東京高裁平成28年5月19日判決(平成28年(ネ)第399号,判例秘書L07120857,裁判所HP未掲載)は,大学の非公開のハラスメント防止委員会を第三者が無断録音した録音体について,委員が守秘義務を負う審議の秘密の要保護性が高く,録音体の証拠価値が乏しいこと等を踏まえ,提出者自身が録音に関与していない場合も含め,証拠として提出することは訴訟上の信義則に反するとして排除した。
同じ判決は,提出者自身が参加した面談の無断録音については,面談内容の秘密性が高くなく,保護される秘密が主として提出者自身に関わること等から,証拠能力を否定しなかった。一つの判決内でも録音の対象と態様を区別しているため,「無断録音は常に有効」又は「無断録音は常に無効」と一般化することはできない。
第8 関連記事
mintsの画面操作及び操作マニュアルの案内は,mints操作マニュアル~当事者ユーザ編~の解説を参照されたい。mintsの利用場面ごとの質問は,mintsに関する弁護士向けQ&Aで整理している。
従来の証拠説明書に関する一般的な説明は,証拠説明書の書き方を参照されたい。
出典・参考資料
1 法令・最高裁判所規則
①e-Gov法令検索「民事訴訟法」231条の2
②最高裁判所「民事訴訟規則」144条,148条,149条及び149条の2~149条の4
③最高裁判所「民事訴訟法第百三十二条の十第一項の規定による電子情報処理組織を使用して行う民事訴訟等に関する手続等に必要な事項を定める細則」4条及び5条
2 裁判所公表資料
①最高裁判所「民事訴訟手続デジタル化に向けた準備の手引(フェーズ3)」令和7年10月31日,25頁~29頁
②最高裁判所「mints操作マニュアル当事者ユーザ編」バージョン2.3,令和8年7月15日改訂,2頁,63頁~69頁及び80頁
③最高裁判所「証拠説明書の記載要領・記載例」1頁
④大津地方裁判所民事部「証拠説明書について」令和6年
3 裁判例
①大阪地裁令和8年6月4日判決,令和7年(ワ)第11139号,15頁~16頁
②東京高裁平成28年5月19日判決,平成28年(ネ)第399号,判例秘書L07120857,判例秘書で全文確認,裁判所HP未掲載
4 文献
①最高裁判所事務総局民事局監修『条解民事訴訟規則(デジタル化関係等)』司法協会,令和7年4月,426頁~427頁及び431頁~442頁
②脇村真治編著『一問一答 新しい民事訴訟制度』商事法務,令和6年3月,125頁~137頁
③日下部真治「民事訴訟手続のデジタル化のこれから 第8回 弁護士の視点から(2)」ジュリスト1621号,令和8年4月,66頁~72頁
④工藤敏隆「民事訴訟手続のデジタル化のこれから 第10回 研究者の視点から」ジュリスト1624号,令和8年6月,74頁以下
⑤高橋郁夫ほか編『第2版 デジタル証拠の法律実務Q&A』日本加除出版,令和5年9月,42頁,147頁~152頁,174頁~178頁,314頁及び346頁
5 デジタル証拠の技術資料
①National Institute of Standards and Technology, NISTIR 8387, Digital Evidence Preservation: Considerations for Evidence Handlers, 2022
②Scientific Working Group on Digital Evidence, Best Practices for Digital Audio Authentication, 15-A-001
③Scientific Working Group on Digital Evidence, Best Practices for Digital Video Authentication, 23-V-001
④Library of Congress, MPEG-4 File Format, Version 2