労働関係

「労働者性」の判断基準

目次
1 労働基準法における「労働者性」の判断基準
2 労働組合法における「労働者性」の判断基準等
3 労災保険法における「労働者性」の判断事例
4 在宅勤務者が雇用保険の被保険者となる場合
5 関連記事その他

1 労働基準法における「労働者性」の判断基準
(1) 労働基準法における「労働者性」の判断基準の概要は以下のとおりです(業務委託契約書の達人HP「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)とは」参照)。
ア 「使用従属性」に関する判断基準
① 「指揮監督下の労働」であること
a. 仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
b. 業務遂行上の指揮監督の有無
c. 拘束性の有無
d. 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
② 「報酬の労務対償性」があること
イ 「労働者性」の判断を補強する要素
① 事業者性の有無
② 専属性の程度
(2)ア  最高裁平成8年11月28日判決は,車の持込み運転手が労働基準法及び労災保険法上の労働者に当たらないとされた事例であり,最高裁平成19年6月28日判決は,作業場を持たずに1人で工務店の大工仕事に従事する形態で稼働していた大工が労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当たらないとされた事例です。
イ 最高裁平成17年6月3日判決関西医科大学事件)は,臨床研修として病院において研修プログラムに従い臨床研修指導医の指導の下に医療行為等に従事する医師は,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り労働基準法上の労働者に当たるとされた事例です。
(3)ア 一人親方建設業共済会HPに載ってある「労働基準法研究会労働契約等法制部会 労働者性検討専門部会報告 」(平成8年3月)には,建設業手間請け従事者及び芸能関係者について,労働者性の判断基準が書いてあります。
イ 社会保険労務士法人大野事務所HP「労働基準法における「労働者性」の判断基準」では,「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日)」(略称は「フリーランスガイドライン」です。)で示された考え方が図解されています。
(4) 未払い残業代請求の法律相談(2022年9月20日付)261頁には「労蟇法上の労働者に該当すると判断されるリスクが相当程度あると考えられる場合には,業務従事者の労働時間の長さを確認又は推知することができる資料を収集,確保しておくことが必要となります。」と書いてあります。


2 労働組合法における「労働者性」の判断基準等
(1) 厚生労働省HPの「「労使関係法研究会報告書」について~労働組合法上の労働者性の判断基準を初めて提示~」(平成23年7月25日付)では,労働組合法上の労働者に該当するかどうかについては,以下の判断要素を用いて綜合的に判断すべきものとしています。
(1)基本的判断要素
  1 事業組織への組み入れ
   労務供給者が相手方の業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか。
  2 契約内容の一方的・定型的決定
   契約の締結の態様から、労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか。
  3 報酬の労務対価性
   労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するか。
(2)補充的判断要素
  4 業務の依頼に応ずべき関係
   労務供給者が相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあるか。
  5 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
   労務供給者が、相手方の指揮監督の下に労務の供給を行っていると広い意味で解することができるか、労務の提供にあたり日時や場所について一定の拘
  束を受けているか。
(3)消極的判断要素
  6 顕著な事業者性
   労務供給者が、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者と見られるか。
(2) 労働組合法上の労働者であると判断した最高裁判例としては以下のものがあります。
① 最高裁昭和51年5月6日判決(CBC管弦楽団労組事件)
・ 民間放送会社の放送管弦楽団員が労働組合法上の労働者と認められた事例です。
② 最高裁平成7年2月28日判決朝日放送事件)
・ 雇用主との間の請負契約により労働者の派遣を受けている事業主が労働組合法七条にいう「使用者」に当たるとされた事例です。
③ 最高裁平成23年4月12日判決新国立劇場運営財団事件)
・  年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員が,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例です。
④ 最高裁平成23年4月12日判決(INAXメンテナンス事件)
・  住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する受託者が,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例です。
・ Wikipediaの「INAX」には「INAX(イナックス)は、LIXILが展開する衛生陶器・住宅設備機器・建材のブランド名である。また、株式会社INAX(英: INAX Corporation)は、2011年3月までこれらの事業を展開していた企業で、現在のLIXILの前身の一つである。」と書いてあります。
⑤ 最高裁平成24年2月21日判決(ビクターサービスエンジニアリング事件)
・ 音響製品等の設置,修理等を業とする会社と業務委託契約を締結して顧客宅等での出張修理業務に従事する受託者につき,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(3)ア 人事・労働・労務相談ALG「労働組合法上の労働者性|労働基準法との違い」には以下の記載があります。
労働基準法上では、「労働者」は専用従属性を中心として判断されます。それとは異なり、労働組合法上の「労働者」は経済的従属性を中心として判断されることから、労働基準法上の労働者性よりも緩やかに認められるという点に特徴があります。
イ NHKの受託業務従事者(いわゆる地域スタッフ)は,労働基準法及び労働契約法上の労働者ではない(大阪高裁平成28年7月29日判決参照)ものの,労働組合法上の労働者ではあります(東京高裁令和元年5月15日判決参照)。
ウ vnnn’s blogの「NHK集金人には法人委託と地域スタッフの2種類います」には以下の記載があります。
あなたの部屋に何度もやってくるNHK集金人には、法人委託の集金人と地域スタッフの集金人の2種類います。法人委託の集金人は会社員でNHKが委託(仕事を頼んでいる)法人に所属している会社員です。それに対して、地域スタッフは個人事業主で個人でNHK業務委託契約を結んで、個人事業主として集金人をやっています。
(4)ア  使用者が誠実に団体交渉に応ずべき義務に違反する不当労働行為をした場合には,当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても,労働委員会は,使用者に対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずることを内容とする救済命令を発することができます(山形大学不当労働行為救済命令取消請求事件に関する最高裁令和4年3月18日判決)。
イ 東京都労働委員会は,令和4年11月25日,ウーバーイーツ配達員は労働組合法上の労働者であると判断しました(東京都労働委員会HPの「Uber Japan事件命令書交付について」参照)。 


3 労災保険法における「労働者性」の判断事例
・ 平成30年(労)第219号に関する労働保険審査会の裁決は,会社及びグループの代表者である一方、実質上のトップから業務全般の指示を受けていた者は労働者ではないと判断した事例でありますところ,一般論として以下の判断をしています。
労災保険法は、労働者について定義規定を置いていないが、同法制定の経緯等からみて、同法にいう労働者とは、労働基準法(昭和22年法律第49号)にいう労働者と同義であると解される。そして、昭和60年の労働基準法研究会報告書では、労働者性の判断基準が示され、仕事の依頼・業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、報酬の労務対償性の有無などの「使用従属性」に関する判断基準と「労働者性の判断を補強する要素」の諸要素を勘案して総合的に判断する必要があるとされているところであり、上記報告書の判断枠組みは当審査会としても合理性を有するものと考えるので、本件における労働者性の判断に当たっては、その判断枠組みを基準にして、判断の諸要素を総合的に検討すべきものと考える。

4 在宅勤務者が雇用保険の被保険者となる場合
・ 雇用保険に関する業務取扱要領20351(1)「労働者性の判断を要する場合」には「ル 在宅勤務者」として以下の記載があります(リンク先21頁及び22頁)。
    在宅勤務者(労働日の全部又はその大部分について事業所への出勤を免除され、かつ、自己の住所又は居所において勤務することを常とする者をいう。)については、事業所勤務労働者との同一性が確認できれば原則として被保険者となりうる。
    この事業所勤務労働者との同一性とは、所属事業所において勤務する他の労働者と同一の就業規則等の諸規定(その性質上在宅勤務者に適用できない条項を除く。)が適用されること(在宅勤務者に関する特別の就業規則等(労働条件、福利厚生が他の労働者とおおむね同等以上であるものに限る。)が適用される場合を含む。)をいう。
    なお、この事業所勤務労働者との同一性を判断するにあたっては、次の点に留意した上で総合的に判断することとする。
(イ) 指揮監督系統の明確性
    在宅勤務者の業務遂行状況を直接的に管理することが可能な特定の事業所が、当該在宅勤務者の所属事業所として指定されていること
(ロ) 拘束時間等の明確性
所定労働日及び休日が就業規則、勤務計画表等により予め特定されていること
各労働日の始業及び終業時刻、休憩時間等が就業規則等に明示されていること
(ハ) 勤務管理の明確性
    各日の始業、終業時刻等の勤務実績が、事業主により把握されていること
(ニ) 報酬の労働対償性の明確性
    報酬中に月給、日給、時間給等勤務した期間又は時間を基礎として算定される部分があること
(ホ) 請負・委任的色彩の不存在
a 機械、器具、原材料等の購入、賃借、保守整備、損傷(労働者の故意・過失によるものを除く。)、事業主や顧客等との通信費用等について本人の金銭的負担がないこと又は事業主の全額負担であることが、雇用契約書、就業規則等に明示されていること
b 他の事業主の業務への従事禁止について、雇用契約書、就業規則等に明示されていること


5 関連記事その他
(1)ア 厚生労働省HPに載ってある「「労働者」について」には,労働基準法上の労働者性に関する裁判例及び労働組合法上の労働者性に関する裁判例等が載っています。
イ 労働政策研究・研修機構HPに「労働政策研究報告書 No.206 労働者性に係る監督復命書等の内容分析」(2021年2月10日付)が載っています。
(2) 労働安全衛生法の労働者は労働基準法の労働者と同じであり(同法2条2号),最低賃金法の労働者も労働基準法の労働者と同じです(同法2条1号)。
(3) インターンシップにおける学生は,以下のような実態がある場合,労働者に該当します(長野労働局HPの「インターンシップ受入れにあたって」参照)。
① 見学や体験的な要素が少ない。
② 使用者から業務に関わる指揮命令をうけている。
③ 学生が直接の生産活動に従事し、それによる利益・効果が当該事業所に帰属する。
④ 学生に対して、実態として何らかの報酬が支払われている
(4) 東京高裁令和4年5月18日判決(判例タイムズ1511号(2023年10月号)153頁以下)は,「組合規約上,「組合費及び機関で決定したその他の賦課金を納める義務」と定められているのみで,賦課金納付の条件や額についての定めがない場合には,賦課金納付義務の具体的な内容が特定されているとはいえず,また,上記規定と一体となる賦課金規程等も存在せず,機関で具体的な納付義務の内容が決定されたともいえないという事実関係の下では,上記規定に基づき,控訴人の組合員が労働争議の解決時に使用者から支払われた解決金の20%に相当する賦課金を控訴人に支払う義務を負うとは認められないとされた事例」です。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

公益通報制度に関するメモ書き

目次
1 総論
2 令和4年6月1日施行の改正公益通者保護法の概要
3 消費者庁の指針に関するパブコメへの意見
4 消費者庁の指針及びその解説
5 消費者庁が指針に関して内閣法制局に説明していた内容
6 公益通報制度に関する弁護士会の懲戒事例
7 関連記事その他

1 総論
(1) 公益通報者保護法(平成16年6月18日法律第122号)は平成18年4月1日に施行されました。
(2) 公益通報者保護制度は,国民生活の安心や安全を脅かすことになる事業者の法令違反の発生と被害の防止を図る観点から,公益のために事業者の法令違反行為を通報した事業者内部の労働者に対する解雇等の不利益な取扱いを禁止するものです(厚生労働省HPの「公益通報者の保護」参照)。
(3) 消費者庁消費者制度課が令和2年2月及び3月に内閣法制局に提出した,公益通報者保護法の一部を改正する法律案に関する説明資料及び用例集を掲載しています。


2 令和4年6月1日施行の改正公益通者保護法の概要
(1) 令和4年6月1日に改正公益通報者保護法が施行された結果,例えば,以下のとおり取扱いが変わりました(消費者庁HPの「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)」参照)。
① 常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は,内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設置,調査,是正措置等)を義務付けられることになりました(法11条1項及び2項)。
② 公益通報対応業務従事者は,通報者を特定させる情報について刑事罰(30万円以下の罰金)を伴う守秘義務を負うことになりました(法12条及び21条)。
③ 退職後1年以内の労働者のほか,役員も公益通報者として保護されることになりました(法2条1項1号及び4号参照)。
④ 公益通報に伴う損害賠償責任が免除されることになりました(法7条)。
・ 通報先が事業者内部(法律事務所等を含む。)である場合,通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると思料する場合であれば,損害賠償責任が免除されます。
・ 通報先が行政機関又はその他の事業者外部(例えば,報道機関及び消費者団体)の場合,一定の保護要件を満たす必要があります。
(2) 東弁リブラ2022年10月号「どう変わった?公益通報者保護法-改正による実務への影響-」には,公益通報対応業務従事者の守秘義務を履行する上での留意点等が書いてあります。

3 消費者庁の指針に関するパブコメへの意見
(1) E-GOVパブリック・コメントの「「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)」等に関する意見募集の結果について」「寄せられた意見の概要」
18頁ないし24頁記載の意見は,公益通報制度の問題点を詳しく記載したものになっています。
(2) 上記のパブコメに寄せられたコメントは196件でありますところ,項目別の件数としては,①従事者として定めなければならない者の範囲が23件,②公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置が21件,③公益通報対応業務の実施に関する措置が20件,④労働者及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置が20件,⑤内部公益通報受付窓口の設置等が18件,⑥範囲外共有等の防止に関する措置が12件となっています(デロイトトーマツHPの「第1回 11条指針の公表~パブリックコメントに見る社会の関心事~」参照)。

4 消費者庁の指針及びその解説
(1) 法11条4項に基づく文書として,消費者庁HPの「公益通報者保護法と制度の概要」には以下の文書が掲載されています。
① 公益通報者保護法に基づく指針
② 公益通報者保護法に基づく指針の解説
(2) 知識連鎖ブログ「指針の法的拘束力」には「第25回研究会(7/26)における指摘事項」からの引用として以下の記載があります(「菅野座長」は,労働法を専門分野とする菅野和夫(すげのかずお)東大名誉教授です。)。
○  厚生労働省から出版する法律の解説と、法律に根拠をもって出されている指針は異なるが、指針は法律ではない。指針の性格はなかなか難しい。(内田先生)
○  法律に書けないものを、努力すべきこととして指針に書くなどの振り分けができれば、指針は法的拘束力がないと言えるだろう。しかし、例えば整理解雇について裁判例を整理して指針を書くとすれば、法的拘束力はないとすることは誤解を招くのではないか。指針において法律に定められていることを再び書いている場合がある。指針そのものに法的拘束力がないことと、そこに書かれていることに法的拘束力がないこととは異なる。そのことを明らかにした方がよいのではないか。(西村先生)
○  指針に書いてあることにより法的拘束力があるわけではない。(菅野座長)

5 消費者庁が指針に関して内閣法制局に説明していた内容
・ 公益通報者保護法の一部を改正する法律案 説明資料(令和2年3月の消費者庁消費者制度課の文書)72頁及び73頁には,「内閣総理大臣が策定する指針に定める事項としては、現時点において、以下のものを想定している。」として以下の記載があります。
① 公益通報対応業務従事者の配置及び教育訓練の実施
・ 公益通報対応業務従事者として、事業者の実情に応じ、社外取締役、監査役、コンブライアンス部門、総務部門、人事部門、社外法律事務所等から適任者を選び、公益通報対応業務に従事させること。
・ 公益通報対応業務従事者が、公益通報対応業務を適切に実施することができるよう、必要な知識やスキルの向上を図るための教育訓練を実施すること。
② 公益通報を受け付ける窓口の設定及び制度の周知
・ 当該窓口における業務の実施要領に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 当該窓口を含む制度の周知の実施に関する内規を定め、これに従い周知を実施すること。
③ 公益通報に基づく調査及び是正措置等
・ 公益通報を受けた場合は、特段の事情がない限り31、必要な調査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、その行為者の懲戒その他適当な措置並びに再発防止及び是正のために必要と認める措置(国及び地方公共団体の場合には国家公務員法、地方公務員法(昭和25年法律第261号)等の規定に基づく措置その他適当な措置。以下「公務員法に基づく措置」という。)をとることに関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 公益通報を受けて実施した調査及び是正措置又はこれらを実施しない理由について、公益通報者に通知するよう努めることに関する内規を定め、これに従い通知すること。
・ 上記の調査及び是正措置等の進捗を管理し、内規に基づき実施されていないことが確認された場合には監督指導(国及び地方公共団体の場合には公務員法に基づく措置)することに関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
④ 公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止及び公益通報者に閨する情報漏えいの防止並びに事後の措置
・ 公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止、当該禁止に違反した者の懲戒その他適当な措置並びに当該不利益取扱いの再発防止及び是正に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 公益通報者に関する情報の共有範囲を最小限(窓口担当者、調査担当者等公益通報に対応する担当者並びにそれらの管理責任者)にとどめ、その範囲から漏らした者の懲戒その他適当な措置(国及び地方公共団体の場合には公務員法に基づく措置)、漏えい拡大防止及び再発防止に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 上記の不利益取扱い及び情報の漏えいが発生した旨の申出の受付、事実関係の調査並びに進捗管理及び監督指導については、上記②及び③に準じること。

6 公益通報制度に関する弁護士会の懲戒事例
(1) 令和4年9月6日発効の第二東京弁護士会の懲戒処分の公告(戒告)には「処分の理由の要旨」として以下の記載があります(自由と正義2023年1月号95頁)
    被懲戒者は、同じ事務所に所属するA弁護士が、B法人から、B法人の設置したハラスメント相談窓口の担当者の代行を受任し、2017年7月5日及び同年9月1日にA弁護士が懲戒請求者から事情聴取したことを知りつつ、A弁護士が聴取した事実関係と同一の事実を含む事実関係に基づき懲戒請求者がB法人を被告として提起した地位確認等請求訴訟において、A弁護士と共にB法人の訴訟代理人として、懲戒請求者の主張を争った。
    被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第5条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
(2) 上記懲戒処分は,令和5年10月30日付の日弁連の裁決により取り消されました(自由と正義2023年12月号64頁及び65頁)。


7 関連記事その他
(1) 裁判手続内で是正されることが予定されている裁判事務にかかわる行為は,裁判所の公益通報及び準公益通報の対象とはなりません(裁判所HPの「裁判所における公益通報について」参照)。
(2) 福岡地裁令和3年10月22日判決(裁判長は47期の松葉佐隆之)は,郵便局の内規違反を内部通報したことに対し,郵便局長でつくる団体の役員3人からパワーハラスメントを受けたとして,団体所属の郵便局長7人が総額2950万円の損害賠償を求めた訴訟で,約200万円の賠償を命じました(朝日新聞HPの「内部通報者捜しの違法性認定 郵便局長団体の幹部らに賠償命令」(2021年10月22日付)参照)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

男女雇用機会均等法に関するメモ書き

目次
1 総論
2 昭和61年3月31日以前の女性保護
3 募集・採用,配置・昇進についての差別解消
4 深夜業の解禁
5 坑内労働の解禁
6 セクハラ等の防止
7 セクハラ等に関する判例
8 妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いの禁止
9 女性労働者に対する積極的差別解消措置
10 国際婦人年
11 女子差別撤廃条約
12 関連記事その他

1 総論
(1) 男女雇用機会均等法は,勤労婦人福祉法(昭和47年7月1日法律第113号)の一部改正により成立しました(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律(昭和60年6月1日法律第45号)参照)。
(2) 男女雇用機会均等法制定後の大きな改正法は以下のとおりです。
① 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律(平成9年6月18日法律第92号)
→ 原則として平成11年4月1日施行でした。
② 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律(平成18年6月21日法律第82号)
→ 原則として平成19年4月1日施行でした。
(3) 男女雇用機会均等法の制定当初の名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」でしたが,平成11年4月1日以降は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」となっています。
(4) ①勤労婦人福祉法が施行された昭和47年7月1日以降は「勤労婦人」という表現であり,②男女雇用機会均等法が施行された昭和61年4月1日以降は「女子労働者」という表現であり,③改正男女雇用機会均等法が施行された平成11年4月1日以降は「女性労働者」という表現になっています。

2 昭和61年3月31日以前の女性保護
(1) 男女雇用機会均等法は昭和61年4月1日に施行されましたところ,それ以前の女性保護は以下のとおりでした(厚生労働省HPの「男女雇用機会均等法の変遷」参照)。
① 残業:原則として1日2時間,週6時間,1年150時間まで
② 深夜業(夜10時から昼5時まで):原則禁止。一部の業務のみOK
③ 危険有害業務:ボイラー,クレーン等の取扱い,5メートル以上の高所作業,深さ5メートル以上の穴の中の作業その他の禁止
④ 帰郷旅費支給の義務付け
⑤ 母性保護
(2) 日本看護協会HP「看護職の夜間勤務に関連する社会と行政の動き」が載っています。

3 募集・採用,配置・昇進についての差別解消
(1) 昭和61年4月1日以降,募集・採用,配置・昇進についての均等な取扱いについては事業主の努力義務となりました。
(2)ア 平成11年4月1日以降,募集・採用,配置・昇進について,女性であることを理由とする差別的取扱いが禁止されることとなりました。
イ 労務安全情報センターHP「「改正男女雇用機会均等法・改正労基法」解説とQ&A」には以下の記載があります。
① 現行法では、「事業主は、労働者の募集及び採用について、女子に対して男子と均等な機会を与えるように努めなければならない」(事業主の努力義務)こととなっており、均等な機会が確保されていない場合には、改善の努力が求められます。
    平成11年4月の改正法施行後は、「事業主は、労働者の募集及び採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならない」と女性に対する差別を禁止する規定となります。この改正によって、事業主は法違反状態がある場合には、直ちに是正を求められることとなります。
② 配置・昇進については、現行法では、「事業主は、労働者の配置及び昇進について、女子労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをするように努めなければならない」(事業主の努力義務)こととなっていますが、平成11年4月の改正法施行後は、「事業主は、労働者の配置、昇進及び教育訓練について、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない」と女性に対する差別を禁止する規定となります。
    また、教育訓練について、現行法においては労働省令で差別が禁止される対象範囲を限定していますが、平成11年4月の改正法施行後は、この限定がなくなります。
(3)ア 平成19年4月1日以降,募集・採用,配置・昇進等について,男女双方に対し,性別を理由とする差別的取扱いが禁止されることとなりましたし,差別的取扱いの禁止の対象に,降格,職種の変更,雇用形態の変更,退職勧奨及び労働契約の更新が追加されました。
イ 栃木労働局HPに「平成19年4月1日から改正男女雇用機会均等法が施行されました」が載っています。

4 深夜業等の解禁
(1) 昭和61年4月1日以降,女性の深夜業可能な業務が拡大されました。
(2)ア 平成11年4月1日以降,改正労働基準法に基づき,女性労働者にかかる時間外労働,休日労働及び深夜業の規制が解消され,母性保護以外の女性保護規定が廃止されました。
イ 厚生労働省HPに「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針」(平成10年3月13日付の労働省女性局長の文書)が載っています。
ウ 厚生労働省HPの「働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について」に,①男女雇用機会均等法における母性健康管理の措置及び②労働基準法における母性保護規定が載っています。
(3)ア 事業主は,妊産婦が請求した場合,深夜業をさせてはなりません(労働基準法66条3項)。
イ 事業の正常な運営を妨げる場合を除き,家族的責任を有する労働者の深夜業は原則として禁止されています(育児介護休業法19条)。

5 坑内労働の解禁
(1)ア 坑内労働としては,鉱山におけるものと,ずい道工事その他鉱山以外におけるものがありますところ,厚生労働省HPの「女性の坑内労働に係る専門家会合報告書(案)」には以下の記載があります。
最近のずい道工事等を用途別に見ると、道路41%、鉄道24%、水路21%、洞道管路6%、地下街等1%、その他7%であり、道路、鉄道及び水路で全体の8割以上を占めている。近年の傾向としては、ずい道工事等全体は請負額、工区数ともにやや減少しているが、その中で道路の割合はやや増加している。
イ ①隧道(ずいどう)とは,トンネルのことであり,②洞道(とうどう)とは,通信ケーブル,送電線,ガス管等のインフラ用として,地下に設けられたトンネルのうち,人間が入れるものをいい,③管路(かんろ)とは,洞道から分岐して人間が入れない管をいいます。
(2) 昭和61年4月1日以降,臨時の必要のため坑内で行われる業務については,女性の坑内労働が解禁されました。
(3) 平成19年4月1日以降,妊産婦でない18歳以上の女性は坑内労働に従事できることになりました。

6 セクハラ等の防止
(1) 平成11年4月1日以降,事業主は,職場におけるセクシュアルハラスメント(いわゆる「セクハラ」です。)を防止するため,雇用管理上必要な配慮をしなければならなくなりました。
(2)ア 平成19年4月1日以降,セクハラの保護対象が男性にも広がるとともに,事業主の配慮義務が措置義務になりました。
イ 大阪労働局HPに「男女雇用機会均等法におけるセクシュアルハラスメント対策について」が載っています。
(3)ア 平成29年1月1日以降,事業主は,妊娠・出産等に関するハラスメント(いわゆる「マタニティ・ハラスメント」(略称は「マタハラ」です。)です。)の防止措置義務を負うことになりましたから,事業主としては,例えば,セクハラに関する相談窓口を設置する必要があります。
イ THE STAR社会保険労務士法人HP「平成29年1月男女雇用機会均等法改正!マタハラ防止対策が義務化」(2016年9月16日付)が載っています。
(4)ア 令和2年6月1日以降,パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)に基づき,パワハラ防止について事業主の責任が強化されましたから,事業主としては,例えば,パワハラに関する相談窓口を設置する必要があります。
イ ツギノジダイHP「パワハラ防止法への具体的対応とは 中小企業は2022年4月から義務化」が載っています。

7 セクハラ等に関する判例
(1) 最高裁平成27年2月26日判決は, 職場における性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分が懲戒権を濫用したものとはいえず有効であるとされた事例です。
(2) 最高裁令和4年6月14日判決は,地方公共団体の職員が暴行等を理由とする懲戒処分の停職期間中に同僚等に対して行った同処分に関する働き掛けを理由とする停職6月の懲戒処分が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(3)  最高裁令和4年9月13日判決は,部下への暴行等を繰り返す行為をした地方公共団体の職員が地方公務員法28条1項3号に該当するとしてされた分限免職処分が違法であるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。


8 妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いの禁止 
(1) 昭和61年4月1日以降,婚姻・妊娠・出産を理由として女性労働者を解雇することができなくなりました。
(2)ア 平成19年4月1日以降,婚姻・妊娠・出産を理由として女性労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをすることができなくなりました。
イ  最高裁平成26年10月23日判決は,女性労働者につき妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置の,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」9条3項の禁止する取扱いの該当性について判断した事例です。
(3) 女性にやさしい職場づくりナビ「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」が載っています。


9 女性労働者に対する積極的差別解消措置
(1) 平成11月4月1日以降,「事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」という定めが追加されました(現在の男女雇用機会均等法8条(女性労働者についての措置に関する特例)です。)。
(2) 労務安全情報センターHP「「改正男女雇用機会均等法・改正労基法」解説とQ&A」には以下の記載があります。
    女性は細かい作業に向いている、女性特有の感性があるなどの先入観に基づき、一定の職務・職種について女性のみを募集・採用することは、かえって、女性の職域を限定したり、女性と男性の仕事を分離してしまうという弊害をもたらすものです。
    このように、一定の職種・職務について女性のみを募集、配置する等、女性のみを対象として又は女性を有利に取り扱うものとして実施される措置の中には、女性の職域の固定化や男女の職務分離をもたらすという弊害が認められるものがあります。
    そのー方で、「女性のみ」又は「女性優遇」の措置の中には、女性の能力発揮を促進し、男女の均等な機会及び待遇を実質的に確保するために望ましい措置もあります。
    今回の改正においては、「女性のみ」又は「女性優遇」の措置は、男女の均等な機会及び待遇を実質的に確保することを目的とした措置については、法に違反しない旨を明記するとともに、それ以外の措置については、女性に対する差別として禁止することとしました。
(3) 女性労働者の募集及び採用に関する優遇措置のうち,以下の取扱いは男女雇用機会均等法5条及び6条に違反しません(厚生労働省HPの「男女雇用機会均等法のあらまし」(令和4年10月)24頁及び25頁参照)。
女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない雇用管理区分*1における募集又は採用や、女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない*2役職についての募集又は採用に当たって、情報の提供について女性に有利な取扱いをすること、採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用することその他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること。
*1 「雇用管理区分」とは職種、資格、雇用形態、就業形態等の労働者についての区分であって、当該区分に属している労働者と他の区分に属している労働者と異なる雇用管理を行うことを予定しているものをいいます。
(中略)

*2 「相当程度少ない」とは、日本の全労働者に占める女性労働者の割合を考慮して、4割を下回っていることをいいます。4割を下回っているかについては、雇用管理区分ごとに判断するものです。


10 国際婦人年
・ 1975年6月から7月にメキシコシティで国連が開催した国際婦人年世界会議では,国際婦人年の目標達成のためにその後10年にわたり国内,国際両面における行動への指針を与える「世界行動計画」が採択されました(内閣府男女共同参画局HPの「第2章 国際婦人年(昭和50年)から平成元年まで」参照)。

11 女子差別撤廃条約
・ 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(略称は「女子差別撤廃条約」です。)は1979年12月18日に国連総会で採択され,1981年9月3日に発効し,1985年7月25日に我が国について発効しました(内閣府男女共同参画局HPの「女子差別撤廃条約」参照)。

12 関連記事その他
(1) おかんの給湯室HP「男女雇用機会均等法とは?差別となる取り扱いや措置について解説」(2022年7月14日付)に「男女雇用機会均等法の改正の流れ」等が載っています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

労働保険に関するメモ書き

目次
1 総論
2 労働保険料の納付
3 労働保険の成立手続
4 労災保険の利用と事業主との関係
5 労災保険に関するメモ書き
6 事業主側の雇用保険に関するメモ書き
7 雇用保険資格喪失手続に関するメモ書き
8 労働者側の雇用保険に関するメモ書き
8の2 失業保険の受給期間の延長
9 労働保険事務組合
10 雇用調整助成金
11 自由と正義2022年9月号の「労働事件と雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金保険」,及びその訂正記事
12 労働保険料の計算サイト
13 関連記事その他

1 総論
(1) 労働保険は労働者災害補償保険(労災保険)及び雇用保険とを総称した言葉です。
(2) 保険給付は労災保険と雇用保険で別個に行われているものの,保険料の納付等については一体のものとして取り扱われています。
(3) 被災労働者に100%の過失がある場合であっても,重過失がない限り,労災保険を利用することができます(労災保険法12条の2の2参照)。
(4) 労働災害に該当する場合,健康保険を使用できません(厚生労働省HPの「「労災かくし」は犯罪です。」参照)。

2 労働保険料の納付
(1) 労働保険の保険料は,年度当初に概算で申告・納付し翌年度の当初に確定申告の上精算することになっており,事業主としては,毎年6月1日から7月10日までの間に,前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を併せて申告・納付することになっていますところ,これを「労働保険の年度更新」といいます(厚生労働省HPの「労働保険料の申告・納付」参照)。
(2) 概算保険料額が40万円以上の場合,又は労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合,原則として労働保険料の納付を3回に分割することができます(厚生労働省HPの「労働保険料の申告・納付」参照)。
(3) 労働保険料等の口座振替納付とは,事業主が,労働保険料や石綿健康被害救済法に基づく一般拠出金の納付について,口座を開設している金融機関に口座振替納付の申込みをすることで,届出のあった口座から金融機関が労働保険料及び一般拠出金を引き落とし,国庫へ振り替えることにより,納付するものです(厚生労働省HPの「労働保険料等の口座振替納付」参照)。
(4) 労働保険料に関する勘定科目としては,法定福利費,預り金及び前払費用がありますところ,労働保険料について当初から法定福利費として計上した場合,預り金勘定を使う必要はありません(マネーフォワードクラウド給与の「労働保険料の仕訳の仕方」参照)。

3 労働保険の成立手続
(1) 一元適用事業の場合,以下のとおり労働保険の成立手続を行う必要があります(厚生労働省HPの「労働保険の成立手続」参照)。
① 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内に,所轄の労働基準監督署に保険関係成立届を提出する。
② 保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内に,所轄の労働基準監督署,都道府県労働局又は日本銀行の一般代理店若しくは歳入代理店に概算保険料申告書を提出する。
③ 雇用保険適用事業所設置の日の翌日から起算して10日以内に,所轄の公共職業安定所に雇用保険適用事業所設置届を提出する。
④ 雇用保険の資格取得の事実があった日(従業員の採用日)の翌月10日までに,所轄の公共職業安定所に雇用保険被保険者資格取得届を提出する。
(2) ①の手続を行った後又は同時に,②の手続を行うこととなっていますし,①の手続を行った後に③及び④の手続を行うことになっています。
(3) 農林漁業・建設業等は二元適用事業であり,それ以外の事業が一元適用事業となります。
(4) 厚生労働省HPの「労働保険適用事業場検索」を使えれば,事業主が労働保険の保険関係成立手続をしているかどうかを調査できます。

4 労災保険の利用と事業主との関係
(1)ア 労災保険を利用する場合,①負傷又は発病の年月日,②災害の原因及び発生状況等について事業主の証明を受ける必要があります(労災保険法施行規則12条1項3号及び4号・同条2項等)。
イ   勤務先が事業主の証明をしてくれない場合であっても,労災保険を利用できることがあります(日本法令HP「会社が「事業主証明」を拒否した場合の労災保険給付請求書の取扱い」参照)から,この場合,労基署に相談して下さい。
(2) 事業主は,被災労働者が労災保険を利用するのに助力する必要がある(労災保険法施行規則23条)反面,労基署長に対し,業務災害又は通勤災害に該当するかどうかについて意見を申し出ることができます(労災保険法施行規則23条の2)。
(3) 交通事故が業務災害に該当する場合,事業主は,所轄の労基署に対し,労災申請とは別に,労働者死傷病報告書(労働安全衛生規則97条)を提出する必要があります(外部HPの「労働者死傷病報告書」参照)。
(4)ア 厚生労働省HPの「労災保険のメリット制について(概要)」には以下の記載があります。
 事業の種類ごとに災害率等に応じて定められている労災保険率を個別事業に適用する際、事業の種類が同一であっても作業工程、機械設備あるいは作業環境の良否、事業主の災害防止努力の如何等により事業ごとの災害率に差があるため、事業主負担の公平性の観点から、さらに、事業主の災害防止努力をより一層促進する観点から、当該事業の災害の多寡に応じ、労災保険率又は労災保険料を上げ下げするものである。
イ 20人未満の労働者しかいない場合,労災保険のメリット制(労働保険徴収法12条3項)は適用されませんし,通勤災害によって労災保険料率が上がることはないです。
(5) 厚生労働省HPの「労働保険徴収法第 12条第3項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会報告書」(令和4年12月)で言及されている東京高裁令和4年11月29日判決(判例秘書に掲載)を取り消した最高裁令和6年7月4日判決の裁判要旨は「 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(令和2年法律第14号による改正前のもの)12条3項所定の事業の事業主は、当該事業についてされた業務災害に関する保険給付の支給決定の取消訴訟の原告適格を有しない」というものです。


5 労災保険に関するメモ書き
(1)ア 労災保険は,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害又は死亡に対して労働者やその遺族のために,必要な保険給付を行う制度です。
イ 労働者(パートタイマー及びアルバイトを含む)を一人でも雇用していれば,業種・規模の如何を問わず労働保険の適用事業となり,事業主は成立(加入)手続を行い,労働保険料を納付しなければなりません(農林水産の一部の事業は除きます。)(厚生労働省HPの「労働保険とはこのような制度です」参照)。
(2)ア 労災保険料は,「全従業員の年度内の賃金総額」に「労災保険料率」を掛けて算出されますところ,賃金総額には,基本給及び賞与の他,非課税の通勤手当も含まれます(厚生労働省HPの「労働保険対象賃金の範囲」参照)。
イ 労災保険料は事業主だけが負担します。
(3) 「94 その他の各種事業」に含まれる法律事務所の労災保険料率は0.3%です(厚生労働省HPの「令和4年度の労災保険率について ~令和3年度から変更ありません~」参照)。
(4) 労災の請求書類は,原則として,被災者本人(死亡事故の場合は遺族)が作成して提出します(企業法務の法律相談サービスHP「労災の必要書類とは?書き方や提出先についてわかりやすく解説」参照)。
(5)ア 労働災害があった場合,事業主は被災者に対する助力義務を負う(労災保険法施行規則23条)ものの,労災保険給付の請求について意見を申し出ることができます(労災保険法施行規則23条の2)。
イ 企業法務の法律相談サービスHP「会社の対応はどうする?労災申請があった場合の注意点について」には以下の記載があります。
自社としては労災ではないと考えている場合も、従業員からの労災申請については、自社を通じて手続をすることを認めることがベターです。
自社を通じて手続が行われることで、会社としても労災申請書の内容を把握することができ、それを踏まえて、自社の見解を労働基準監督署に伝えていくことができるメリットがあります。
(6) CREA BIZの「No215.労災保険の遺族補償給付」に,受給資格者の優先順位が載っています。
(7) 厚生労働省HPの「労災保険未手続事業主に対する費用徴収制度の強化について」には,平成17年11月1日以降の運用に関して以下の記載があります。
(8)  労働者災害補償保険法による保険給付の受給者は,同法に基く行政機関の保険給付の決定以前に,保険金の支払を請求することはできません(最高裁昭和29年11月26日判決)。

  • 加入手続について行政機関からの指導等を受けたにもかかわらず、事業主がこれを行わない期間中に労災事故が発生した場合、現行の取扱いでは「故意又は重大な過失により手続を行わないもの」と認定して保険給付額の40%を徴収しているが、これを改め「故意に手続を行わないもの」と認定して保険給付額の100%を徴収する。
  •  加入手続について行政機関からの指導等を受けていないが、事業主が事業開始の日から1年を経過してなお加入手続を行わない期間中に労災事故が発生した場合、「重大な過失により手続を行わないもの」と認定して、新たに費用徴収の対象とし保険給付額の40%を徴収する。


6 事業主側の雇用保険に関するメモ書き
(1)ア 個人事業主が雇用保険適用事業所設置届を提出する場合,以下の添付書類が必要です(大阪ハローワークHPの「雇用保険新規加入の手続きについて」参照)。
① 事業主の世帯全員の住民票の写し(個人番号省略で3か月以内に発行されたもの)
② 事業実態が確認できる書類
③ 事業所の所在地が住民票の記載と異なる場合,公共料金の請求書,賃貸借契約書といった事業所の所在地が明記されている書類
イ 私の場合,令和4年9月に提出した雇用保険適用事業所設置届の添付書類として,②の書類として大阪弁護士会発行の印鑑登録証明書の写しを提出し,③の書類として個人事業税の納税通知書の写しを提出しました。
(2)ア 社員が入社した場合,翌月10日までに雇用保険の資格取得手続をする必要がありますところ,管轄のハローワークに雇用保険被保険者資格取得届に以下の書類を提出する必要があります(大阪ハローワークHPの「雇用保険新規加入の手続きについて」参照)。
① 労働者名簿
② 入社時から直近までの出勤簿又はタイムカード
③ 入社時から直近までの賃金台帳又は給料明細書
④ 労働条件通知書
イ 厚生労働省HPの「雇用保険の被保険者について」に,雇用保険の「被保険者となる者」及び「被保険者とならない者」の具体例が載っています。
(2) 東京労働局HPの「様式集 (必要な様式をダウンロードしてご使用下さい。)」に,労働者名簿,賃金台帳,労働条件通知書,時間外労働・休日労働に関する協定届 等の書式が載っています。
(3) 一般の事業の場合,令和3年度以降の雇用保険料は以下のとおりです(厚生労働省HPの,「令和3年度の雇用保険料率について~令和2年度から変更ありません~」及び「令和4年度雇用保険料率のご案内」参照)。
令和3年4月1日~令和4年3月31日
労働者負担は0.3%であり,事業主負担は0.6%であり,雇用保険料率は0.9%
令和4年4月1日~同年9月30日
労働者負担は0.3%であり,事業主負担は0.65%であり,雇用保険料率は0.95%
令和4年10月1日~令和5年3月31日
労働者負担は0.5%であり,事業主負担は0.85%であり,雇用保険料率は1.35%


7 雇用保険資格喪失手続に関するメモ書き
(1)ア 社員が退社した場合,離職日の翌々日から10日以内に雇用保険資格喪失手続をする必要があります。
    具体的には,①「雇用保険被保険者資格喪失届」及び②給付額等の決定に必要な「離職証明書」(3枚複写式の書類であり,そのうちの1枚が退職者に渡す離職票2になり,残り2枚は事業主控え及びハローワーク提出用となります。)をハローワークに提出する必要があります(厚生労働省HPの「事業主の行う雇用保険の手続き」参照)し,添付書類として,①出勤簿又はタイムカード,②賃金台帳及び③労働者名簿並びに④就業規則,雇用契約書若しくは労働条件通知書(写し),退職届その他離職理由が確認できる資料が必要になります(カオナビ人事用語集「離職証明書とは?【いつもらえる?】書き方・記入例、添付書類」参照)。
イ 雇用保険被保険者資格喪失届には従業員のマイナンバーも記載する必要があります(厚生労働省HPのマイナンバー制度(雇用保険関係),及び「雇用保険の届出にマイナンバーの記載が必要です。」参照)。
ウ 離職証明書の「⑧被保険者期間算定対象期間」は,従業員が被保険者であった期間を離職日から1ヶ月ずつ遡り,上から下に12ヶ月分記載し,「⑨賃金支払基礎日数」は,被保険者期間算定対象期間のうち,賃金が発生した日数を記載し,「⑩賃金支払対象期間」は,賃金支払い対象期間(賃金の締切日の翌日から、翌月の締切日まで)を離職日から1ヶ月ずつ遡り,上から下に6ヶ月分記載します(ジンジャーブログの「項目別の離職証明書の書き方や注意点を解説」参照)。
(2) 離職票1はハローワークが作成する雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)であり,事業主は,離職者に対し,離職票1及び離職票2を離職者に送付することになります(雇用保険法施行規則17条1項参照)。
(3) 郵送で資格喪失届及び離職証明書をハローワークに提出する場合において,郵送による返送を希望するときは,切手を貼付した返信用封筒を添付する必要があります(ハローワーク仙台の「4月中の雇用保険に係る届出について」参照)。
(4) 雇用保険法施行規則7条(被保険者でなくなったことの届出)は以下のとおりです。
① 事業主は、法第七条の規定により、その雇用する労働者が当該事業主の行う適用事業に係る被保険者でなくなつたことについて、当該事実のあつた日の翌日から起算して十日以内に、雇用保険被保険者資格喪失届(様式第四号又は様式第四号の二。以下「資格喪失届」という。)に労働契約に係る契約書、労働者名簿、賃金台帳、登記事項証明書その他の当該適用事業に係る被保険者でなくなつたことの事実及びその事実のあつた年月日を証明することができる書類を添えてその事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出しなければならない。この場合において、当該適用事業に係る被保険者でなくなつたことの原因が離職であるときは、当該資格喪失届に、次の各号に掲げる者の区分に応じ、当該各号に定める書類を添えなければならない。
一 次号に該当する者以外の者 雇用保険被保険者離職証明書(様式第五号。以下「離職証明書」という。)及び賃金台帳その他の離職の日前の賃金の額を証明することができる書類
二 第三十五条各号に掲げる者又は第三十六条各号に掲げる理由により離職した者 前号に定める書類及び第三十五条各号に掲げる者であること又は第三十六条各号に掲げる理由により離職したことを証明することができる書類
② 前項の規定によりその事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出する資格喪失届は、年金事務所を経由して提出することができる。
③ 事業主は、第一項の規定により当該資格喪失届を提出する際に当該被保険者が雇用保険被保険者離職票(様式第六号。以下「離職票」という。)の交付を希望しないときは、同項後段の規定にかかわらず、離職証明書を添えないことができる。ただし、離職の日において五十九歳以上である被保険者については、この限りでない。
(4項以下は省略)
(5)ア 厚生労働省HPに「雇用保険被保険者離職証明書についての注意」が載っています。
イ 北海道ハローワークHPの「雇用保険被保険者離職証明書」に,記載例として,その1(通常)その2(離職前に休職期間がある場合)その3(離職証明書が1枚で書ききれない場合)及びその4(短期特例被保険者~季節雇用の場合)が載っています。
ウ 高知ハローワークHPの「◎ 資格喪失届(様式4号)被保険者が退職した場合」によれば,出勤簿・タイムカード及び賃金台帳については離職前2年分が必要と書いてあります。
エ 雇用保険に関する業務取扱要領(令和4年10月1日以降)21451-21500は,離職証明書に関する記載です。


8 労働者側の雇用保険に関するメモ書き
(1) 被保険者資格取得時に関するメモ書き
ア 雇用保険法施行規則10条(被保険者証の交付)1項及び2項は以下のとおりです。
① 公共職業安定所長は、法第九条の規定により被保険者となつたことの確認をしたときは、その確認に係る者に雇用保険被保険者証(様式第七号)を交付しなければならない。
② 前項の規定による被保険者証の交付は、当該被保険者を雇用する事業主を通じて行うことができる。
イ リクナビNEXT「「雇用保険被保険者証」とは?【社労士監修】」には以下の記載があります。
    実は平成15年5月以降、ハローワークは「雇用保険被保険者証は労働者に対してハローワークから交付するものであり、事業主が保管すべきものではない」という通知を出しています。
    そのため、本来は入社後すぐに雇用保険被保険者証はもらえるはずなのですが、従来どおりの運用のように会社が保管している場合もあるため、もし手元にない場合は会社に確認してください。
(2) 離職票に関するメモ書き
ア ハローワークインターネットサービス「雇用保険の具体的な手続き」に,雇用保険被保険者証のほか,雇用保険被保険者離職票1及び雇用保険被保険者離職票2の記入例が載っています。
イ 事業主と離職者との間で特定受給資格者又は特定理由離職者に該当するかどうかの争いがある場合,離職者の住居所を管轄しているハローワークが,事業所を管轄しているハローワークの判断を参考として認定を行います(雇用保険に関する業務取扱要領(令和4年10月1日以降)の「一般被保険者の求職者給付」の「第4 所定給付日数」の「50306(6) 特定理由離職者及び特定受給資格者の決定手続」(リンク先の末尾98頁及び99頁)参照)。
ウ 事業主がその者について資格喪失届を提出しないため離職者が確認の請求をして被保険者資格の喪失の確認がなされ,又は職権で被保険者資格の喪失の確認がなされた場合にも,離職者が離職票の交付を請求することができます(雇用保険法施行規則17条1項及び3項のほか,雇用保険に関する業務取扱要領21551(1)参照)
エ 離職票交付の請求は,原則として離職証明書を添えて行うものですが,事業主の所在不明その他やむを得ない理由があるため事業主から離職証明書の交付を受けられない場合は,これを添えずに請求することができます(雇用保険法施行規則17条3項のほか,雇用保険に関する業務取扱要領21551(2)参照)。
(3) 失業保険の受給に関するメモ書き
ア 失業保険を受給するためには,雇用保険被保険者離職票等を持参して住居を管轄するハローワークに行って受給資格の決定を受けて,雇用保険受給者初回説明会に参加し,原則として4週間に1度,失業の認定(失業状態にあることの確認)を受ける必要があります。
イ 失業保険を受給するためには,被保険者期間として,「離職の日以前の2年間で,被保険者期間が通算で12ヶ月以上あること」とされているものの,以下の人は離職日以前1年間に被保険者期間が通算で6ヶ月以上あれば受給可能です。
特定受給資格者:会社の倒産など、会社都合で失業した人
特定理由離職者:結婚に伴う転居や事業所の移転などによる通勤困難などの理由で失業した人
ウ てつづきの美学ブログ「失業手当の初回っていつもらえるの?退職してから振込までの日数を確認」には以下の記載があります。
自己都合で離職した人の場合は、2ヶ月間(※)の給付制限がありますので、初回の失業手当が支給されるのは、ハローワークで手続きをした日(受給資格決定日)から約3ヶ月後(実際に口座に入金されるのは数日後)となります。
(※離職日が2020年9月30日までの方は、給付制限は3ヶ月のため、支給まで期間は受給資格決定日から約4ヶ月後の入金となります。)
(4) 失業保険の受給期間延長に関するメモ書き
ア 失業保険の受給期間延長の申請期限は平成29年4月1日に変更されています(厚生労働省HPの「平成29年4月1日から、雇用保険の基本手当について受給期間延長の申請期限を変更します」参照)ところ,てつづきの美学ブログ「受給期間延長申請書はどこでもらえるの?ハローワークに聞いてみた!」に受給期間延長申請書の画像データが載っています。
イ 東京労働局HPの「求職者給付に関するQ&A」には「(山中注:受給期間延長の)申請期間については、受給資格に係る離職の日の翌日から起算して4年を経過する日までの間(延長後の受給期間が4年に満たない場合は当該期間の最後の日までの間)です」と書いてあります。


(5) 解雇の効力等を争いながら失業保険を受給するための条件
ア 解雇の効力等を争いながら失業保険を受給するための条件は以下のとおりです(雇用保険に関する業務取扱要領(令和4年10月1日付)の「53251(1)確認」(リンク先9頁)参照)。
① 解雇された被保険者が、解雇を不当とする主張を行う場合において、離職証明書び離職票-2の欄外に「労働委員会、裁判所又は労働基準監督機関に申立て、提訴(仮処分の申請を含む。)又は申告中であるが、 基本手当の支給を受けたいので、資格喪失の確認を請求する。」旨を記載し、署名押印又は自筆署名をすること。
② 本人又は事業主が、事業主の行った解雇あるいはこれを正当又は不当とする労働委員会、裁判所、労働基準監督機関の命令、判決又は判定に不服で、これら裁決機関に申立て、提訴(仮処分の申請を含む。)又は申告(上訴の場合を含む。)を行っており、いまだ当該命令、判決又は判定が行われていないこと。
イ リーガレットHPに「失業保険の仮給付を受給するために最低限おさえておくべき8つのポイント」が載っています。
(6) その他

ア ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」が載っています。
イ リーガルライフラボ「特定受給資格者と特定理由離職者の違いは?失業手当との関係はある?」が載っています。
ウ ハローワークインターネットサービス「求人情報検索・一覧」を使えば,全国のハローワークで受理した求人を検索できます。
エ 厚生労働省HPに「失業等給付の受給資格を得るために必要な「被保険者期間」の算定方法が変わります~対象者:離職日が令和2年8月1日以降の方~」及び「2022(令和4)年7月1日から 離職後に事業を開始等した方は雇用保険受給期間の特例を申請できます」が載っています。
オ 社労士黄金旅程ブログに「【記載例】通知書の内容が間違えてる!雇用保険資格取得届の訂正方法は?」が載っていて,雇用保険に関する業務処理要領61頁に「資格取得の確認が誤った事実に基づく届出により行われた旨の申出が事業主からあった場合、事業主が以下の様式の訂正・取消願を提出することにより、訂正・取消を行う。」と書いてあります。


8の2 失業保険の受給期間の延長
(1) ハタラクティブHP「失業保険は延長できる!必要書類や手続きのやり方を詳しく解説」には以下の記載があります。
・ 失業保険の受給期間内(原則離職日の翌日から1年間)であれば、延長は可能です。
    また、この期間中にやむを得ない理由で働けない状態が30日以上続いた場合、ハローワークへの申請によって、最長退職日の翌日から4年以内まで受給期間の延長ができます。
    通常の基本手当の受給期間と合わせて3年分の猶予が与えられるので、求職活動を始める際に生活を支援する支給が受けられるのは、非常にメリットが高いといえるでしょう。
・ 失業保険の受給期間延長を申請する際に注意しておきたいのは、「基本手当がもらえる期間が延びる」のではなく、「働ける状態になるまで基本手当の受給を保留しておくもの」であるということ。
(2) 東京労働局HPの「求職者給付に関するQ&A」には,「Q6 病気のためすぐに働くことができません。どのような手続きが必要ですか?」への回答として以下の記載があります。
A6 離職日の翌日から原則として、1年間である受給期間内に働くことができない状態が30日以上続いた場合は、「受給期間延長」の手続きを行うことで、働くことができない日数を受給期間に加算することができます。
  ◆受給期間の延長ができる理由
  (1)妊娠・出産・育児(3歳未満に限る)などにより働くことができない
  (2)病気やけがで働くことができない(健康保険の傷病手当、労災保険の休業補償を受給中の場合を含む)
  (3)親族等の介護のため働くことができない。(6親等内の血族、配偶者及び3親等以内の姻族)
  (4)事業主の命により海外勤務をする配偶者に同行
  (5)青年海外協力隊等公的機関が行う海外技術指導による海外派遣
  (6)60歳以上の定年等(60歳以上の定年後の継続雇用制度を利用し、被保険者として雇用され、その制度の終了により離職した方を含む)により離職し、しばらくの間休養する(船員であった方は年齢要件が異なります)
  ◆受給期間延長手続きを行う時期
  (1)受給期間の延長理由が(1)から(5)の方…
    離職の日(働くことができなくなった日)の翌日から30日過ぎてから早期に申請
   ※申請期間については、受給資格に係る離職の日の翌日から起算して4年を経過する日までの間(延長後の受給期間が4年に満たない場合は当該期間の最後の日までの間)ですが、受給期間延長の申請が遅い場合は、受給期間延長を行っても基本手当の所定給付日数の全てを受給できない可能性がありますので、30日以上職業に就くことができなくなった場合には、できるだけ早期に延長の申請をお願いします。
  (2)受給期間の延長理由が(6)の方…
    離職の日の翌日から2か月以内
 ※在職中に受給期間延長の申請手続きはできません。 
(3) てつづきの美学ブログ「失業手当の初回っていつもらえるの?退職してから振込までの日数を確認」には以下の記載があります。
自己都合で離職した人の場合は、2ヶ月間(※)の給付制限がありますので、初回の失業手当が支給されるのは、ハローワークで手続きをした日(受給資格決定日)から約3ヶ月後(実際に口座に入金されるのは数日後)となります。
(※離職日が2020年9月30日までの方は、給付制限は3ヶ月のため、支給まで期間は受給資格決定日から約4ヶ月後の入金となります。)
(4) 失業保険の受給期間延長の申請期限は平成29年4月1日に変更されています(厚生労働省HPの「平成29年4月1日から、雇用保険の基本手当について受給期間延長の申請期限を変更します」参照)ところ,てつづきの美学ブログ「受給期間延長申請書はどこでもらえるの?ハローワークに聞いてみた!」に受給期間延長申請書の画像データが載っています。
(5) 厚生労働省HPに「2022(令和4)年7月1日から 離職後に事業を開始等した方は雇用保険受給期間の特例を申請できます」が載っています。



 労働保険事務組合
(1) 中小事業主が労災保険に特別加入する場合,労災保険事務組合に加入する必要があります(労災保険法33条1項1号)。
(2) 労働保険事務組合は,事業主の委託を受けて,事業主が行うべき労働保険の事務を処理することについて,厚生労働大臣の認可を受けた中小事業主等の団体をいいます(労働保険の保険料の徴収等に関する法律33条参照)。
(3) 大阪府にある労働保険事務組合については,大阪労働局HPの「大阪労働局管轄 事務組合名簿」に載っています。
    例えば,大阪弁護士会所属の弁護士の場合,大阪弁護士協同組合(天満労基署の管轄です。)の労働保険事務組合事業を利用することができます(大阪弁護士協同組合HPの「保険事業」参照)。
(4) 厚生労働省HPの「労災保険事務組合制度」には,労働保険事務組合に委託できる業務として以下の記載があります((1)ないし(5)を①ないし⑤に変えています。)。
① 概算保険料、確定保険料などの申告及び納付に関する事務
② 保険関係成立届、任意加入の申請、雇用保険の事業所設置届の提出等に関する事務
③ 労災保険の特別加入の申請等に関する事務
④ 雇用保険の被保険者に関する届出等の事務
⑤ その他労働保険についての申請、届出、報告に関する事務
 なお、印紙保険料に関する事務並びに労災保険及び雇用保険の保険給付に関する請求等の事務は、労働保険事務組合が行うことのできる事務から除かれています

10 雇用調整助成金
(1) 雇用調整助成金は,雇用保険法62条1項1号,並びに雇用保険法施行規則102条の2及び102条の3に基づく制度です。
(2)ア 令和2年4月1日から令和4年11月30日までの間については,緊急対応期間中ということで,雇用調整助成金の特例措置(コロナ特例)が採られていました。
イ 厚生労働省HPの「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」には「【事業主の皆さまに、雇用調整助成金を活用し雇用維持に努めて頂けるよう、令和4年11月30日まで特例措置を実施しています】」と書いてあります。
(3) 雇用調整助成金は雇用保険被保険者に対する休業手当を助成するのに対し,緊急雇用安定助成金は雇用保険被保険者以外に対する休業手当を助成するものです。
(4) コロナで休んだ従業員が勤務先から休業手当をもらえなかった場合,新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の対象となることがあります。
(5) 京都府HPに「<労働者向け>新型コロナウイルス感染症に関する支援制度について」が載っています。

11 自由と正義2022年9月号の「労働事件と雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金保険」,及びその訂正記事
(1) 自由と正義2022年9月号の「労働事件と雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金保険」には,「第2版 弁護士・社労士・税理士が書いた Q&A 労働事件と労働保険・社会保険・税金~加入・離職・解雇・未払賃金・労災・非正規雇用・高齢者・障がい者・外国人に関する231問と和解条項例~」に従い,以下の事項が説明されています。
① 離職の場面(退職・解雇・雇止め・破産)
② 傷病・精神疾患による休職(労働災害・私傷病)
③ 出産・育児・介護による休職
④ 非正規労働者の場合の特別な考慮(有期・短時間・派遣労働)
⑤ 高齢者・障害者・外国人の場合の特別な考慮
⑥ 兼業・副業と労災保険・雇用保険・社会保険
⑦ 今後の課題-業務委託・フリーランス労働者への保障
(2) 自由と正義2022年11月号88頁には,自由と正義2022年9月号39頁~40頁の内容を以下のとおり訂正しています。
【訂正前】「雇用保険の基本手当は、離職日の翌日から1年以内(受給期間)の失業している日について、所定給付日数を限度として支給され、離職日翌日から1年が経過してしまうと受給できなくなる。したがって、労務不能状態が継続するようであれば、受給期間の延長の措置を受ける必要がある。」
【訂正後】「雇用保険の基本手当は、離職日の翌日から1年以内(受給期間)の失業している日について、所定給付日数を限度として支給され、離職日翌日から1年が経過してしまうと受給できなくなるのが原則である。ただし、職業に就けない期間(最長3年、60歳以上の定年等により離職ししばらく休養する間は最長1年)について、申請により受給期間の延長措置を受けられる。申請期間は受給期間延長の最終日までだが、受給期間内に所定給付日数が収まるように早めの申請をしていただきたい。」

12 労働保険料の計算サイト
(1) 一般社団法人 全国労働保険事務組合連合会 東京支部HPに「労働保険料計算シミュレーション」が載っています。
(2) 生活や実務に役立つ計算サイトHP「雇用保険料の計算」が載っています。


13 関連記事その他
(1) 大阪労働局HPの「パンフレット・リーフレット等」に「雇用保険のしおり」等が載っています。
(2)ア 社会保険等の手続きをすでに完了していた採用者が入社しなかった場合,事実上の使用関係がないため,入社したとはみなされず,社会保険及び雇用保険の資格取得手続は取り消す必要があります(社会保険労務士法人大野事務所相談室Q&Aの「社会保険関係」参照)。
イ 東京ハローワークHPの「雇用保険関係」雇用保険被保険者資格取得・喪失等届訂正・取消願が載っています。
(3) 日本の人事部HPの「営業譲渡(事業譲渡)に伴う人事担当者手続き確認の件」に,事業譲渡に伴う労働保険及び社会保険の切り替え手続に関する回答が載っています。
(4)ア 最高裁平成11年10月12日判決は,長年にわたり粉じん作業に従事しじん肺及びこれに合併する肺結核にり患した労働者の原発性肺がんによる死亡が労働者災害補償保険法にいう業務上の死亡に当たるとはいえないとされた事例です。
イ 最高裁平成28年7月8日判決は,労働者が,業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後,当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に,研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことが,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項の業務上の事由による災害に当たるとされた事例です。
(5)ア 以下の業務は税理士の付随業務ではないため,税理士が行うことはできません(ちからいし社会保険労務士事務所HP「業際について」参照)。
① 労働保険の年度更新ならびにその他の保険料の申告および納付の業務
② 社会保険の算定基礎届および月額変更届に関する業務
③ 雇用保険及び社会保険の被保険者資格の取得および喪失ならびに社会保険の被扶養者の届出に関する業務
④ 労働保険および社会保険の保険給付に関する業務
⑤ 雇用保険の2事業の給付金・助成金等に関する業務
⑥ 就業規則の作成・改正等に関する業務
イ 社会保険労務士による労働争議への介入については,社会保険労務士の業務について(平成28年3月11日付の厚生労働省労働基準局監督課長の通達)に以下の記載があります(1及び2を(ア)及び(イ)に変えています。)。
(ア) 労働争議時において,当事者の一方の行う争議行為の対策の検討,決定等に参与するような相談・指導の業務については,社会保険労務士法第2条第1項第3号の業務に該当することから,社会保険労務士の業務として行うことができること。
(イ) 社会保険労務士が,労働争議時の団体交渉において,①当事者の一方の代理人となって相手方との折衝にあたること,②当事者の間に立って交渉の妥結のためにあっせん等の関与をなすことはできないこと。
(6) 以下の記事も参照してください。
・ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き
・ 社会保険に関するメモ書き

労働基準法に関するメモ書き

目次
1 労働条件通知書
2 賃金の減額
3 労働者の賃金請求権の消滅時効期間の延長
4 法定4帳簿
5 賃金支払の5原則
6 解雇
7 解約権留保付雇用契約
8 働き方改革
9 最高裁判所の平成25年度労働実務研究会の結果概要
10 関連記事その他

1 労働条件通知書
(1)ア 使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(労働基準法15条1項)ところ,厚生労働省HPに「労働条件通知書」が載っています。
イ 労働条件通知書の絶対的記載事項及び相対的記載事項は労働基準法施行規則5条1項で定められています。
(2)ア 平成31年4月1日,労働者の希望があるような場合,FAX,電子メール又はSNSメッセージにより労働条件を通知できるようになりました(労働基準法施行規則5条4項のほか,厚生労働省HPの「平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります」参照)。
イ 令和6年4月1日,以下の事項が労働条件明示事項に追加されます(厚生労働省HPの「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」参照)。
① 就業場所・業務の変更の範囲
② 更新上限(通算契約期間又は更新回数の上限)の有無と内容
③ 無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件
(3) NTTコムオンライン「給与明細の電子化 労働条件通知書の電子化で業務効率アップ」には以下の記載があります。
    時間や手間をなるべくかけないように工夫し、「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成する企業もあります。基本は労働条件通知書で作成し、書類の項目の1つに「そのほか」を設けるのです。「そのほか」の項目には、「社会保険の加入状況」「雇用保険の適用の有無」、そのほかに必要な事項の記載を加えます。さらに、日付や住所、名前などの署名欄スペースも作成して、雇用契約書としての役割も兼ねる書類にします。
(4) 労働政策研究・研修機構HP「福利厚生と労働法上の諸問題」には以下の記載があります。
    労働契約の締結にあたり, 使用者が労働者に対して明示を義務づけられる労働条件については福利厚生を含めない限定的な取扱いがなされている (同法 15 条, 同法施行規則 (労基則) 5 条)
(中略)
    就業規則その他で支給条件等が定められた福利厚生については, 明示事項のどれかに該当すれば (例えば, 研修補助は 「職業訓練に関する事項」,永年勤続表彰金は 「表彰及び制裁に関する事項」) ,これに含めて明示されるべきことになろう。 また,後述のとおり福利厚生 (給付) でも支給基準が明確で賃金として扱われるもののうち, 住宅手当や家族手当等のように毎月 1 回以上一定期日に支払われる手当 (労基法 24 条 2 項本文参照) は賃金に含めて書面で明示すべき取扱いがされている (平成 11・3・31 基発 168 号) 。 しかし, それ以外の福利厚生については明示の必要はなく, 明示された場合でも明示の内容と事実とが異なっていても,労基法 15 条 2 項による労働契約の即時解除はできないと解される (昭和 23・11・27 基収 3514 号) 。


2 賃金の減額
(1) 就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されます(山梨県民信用組合事件に関する最高裁平成28年2月19日判決。なお,先例として,最高裁昭和48年1月19日判決及び最高裁平成2年11月26日判決等参照)。
イ 弁護士による労働問題総合サイト「労働条件の不利益な変更(賃金が減額の場合など)について」が載っています。
(2) 第四銀行事件に関する最高裁平成9年2月28日判決は,55歳から60歳への定年延長に伴い従前の58歳までの定年後在職制度の下で期待することができた賃金等の労働条件に実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更が有効とされた事例です。


3 労働者の賃金請求権の消滅時効期間の延長
(1) 令和2年4月1日以降に支払期日が到来するすべての労働者の賃金請求権の消滅時効期間は3年となりました(労働基準法附則143条3項)ところ,消滅時効期間延長の対象となる具体的な請求権は以下のとおりです。
・ 金品の返還(労働基準法23条。賃金の請求に限る。)
・ 賃金の支払(労働基準法24条)
・ 非常時払(労働基準法25条)
・ 休業手当(労働基準法26条)
・ 出来高払制の保障給(労働基準法27条)
・ 年次有給休暇中の賃金(労働基準法39条9項)
・ 未成年者の賃金(労働基準法59条)
(2) 退職手当の消滅時効期間は5年であり,災害補償請求権及び年次有給休暇請求権の消滅時効期間は2年のままです。
(3) 未払い残業代請求の法律相談(2022年9月20日付)60頁ないし63頁に詳しい説明が載っています。


4 法定4帳簿
(1) 労働基準法令に基づく法定4帳簿は以下のとおりです。
① 労働者名簿(労基法107条)
・ 労働者の死亡・退職・解雇の日から3年間保存する必要があります。
② 賃金台帳(労基法108条)
・ 労働者の最後の賃金について記入した日から3年間保存する必要があります。
③ 出勤簿等(労基法109条)
・ 労働者の最後の出勤日から3年間保存する必要があります。
④ 年次有給休暇管理簿(労基法施行規則24条の7)
・ 平成31年4月1日以降に法定帳簿となりました。
(2)ア 使用者は,労働者名簿,賃金台帳及び雇入れ,解雇,災害補償,賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければなりません(労働基準法109条・143条1項)。
イ 使用者は,年次有給休暇管理簿を,有給休暇を与えた期間の満了後3年間保存する必要があります(労働基準法施行規則24条の7・72条)。
(3) 社労士・行政書士はまぐち総合法務事務所HP「年次有給休暇管理簿【法定帳簿】」に,年次有給休暇管理簿の書式が載っています。


5 賃金支払の5原則
(1) 賃金支払の5原則は,①通貨で,②直接労働者に,③全額を,④毎月1回以上,⑤一定の期日を定めて支払わなければならないことをいいます(労働基準法24条)。
(2) 使用者は,労働者の同意を得た場合,労働者の預貯金口座に賃金を振り込むことができます(労働基準法施行規則7条の2第1項1号)。
(3) 労働基準法24条1項の趣旨に徴すれば,労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても,その支払についてはなお同項が適用され,使用者は直接労働者に対して賃金を支払わなければならず,その賃金債権の譲受人は,自ら使用者に対してその支払を求めることは許されません(最高裁令和5年2月20日決定。なお,先例として,最高裁昭和43年3月12日判決参照)。


6 解雇
(1) 総論
ア 解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合,その権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。
イ 退職に関する時効(解雇の事由を含む。)は就業規則の絶対的記載事項です(労働基準法89条3号)。
ウ 労働基準法20条所定の予告手当として30日分以上の平均賃金の支払がされないなど即時解雇としては効力を生じない場合であっても,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,通知後同条所定の30日の期間を経過したときなどには,解雇の効力を生じます(最高裁昭和35年3月11日判決参照)。
(2) 普通解雇
ア 最高裁判例
・ 就業規則所定の懲戒事由があることを理由に普通解雇をする場合,普通解雇の要件を備えていれば足り,懲戒解雇の要件を満たす必要はありません(最高裁昭和52年1月31日判決)。
 最高裁平成22年5月25日判決は,統括事業部長を兼務する取締役の地位にある従業員に対して会社がした普通解雇が,当該従業員に対する不法行為を構成するとはいえないとされた事例です。
イ 下級裁判所の裁判例
・ 東京地裁平成9年9月11日決定(判例体系に掲載)は,「使用者の行う普通解雇は、民法に規定する雇用契約の解約権の行使にほかならず、解雇理由には制限はない(但し、解雇権濫用の法理に服することはいうまでもない。)から、就業規則等に使用者が労働者に対して解雇理由を明示する旨を定めている場合を除き、解雇理由を明示しなかったとしても解雇の効力には何らの影響を及ぼさず、また、解雇当時に存在した事由であれば、使用者が当時認識していなかったとしても、使用者は、右事由を解雇理由として主張することができると解すべきである。」と判示しています。
・ 東京高裁平成22年1月21日判決(判例秘書に掲載)は,「普通解雇については,事後的に解雇事由を追加することができるものと解するのが相当である。被控訴人の援用する最高裁平成8年(オ)第752号同年9月26日第一小法廷判決・裁判集民事180号473頁は,懲戒解雇の事案に係るものであって,本件に適切でない。」と判示しています。
・ 東京高裁令和5年4月5日判決(判例タイムズ1516号)は,有期労働契約に設けられた試用期間中の解雇が有効と判断された事例です。
(3) 懲戒解雇
・ 最高裁平成6年12月20日判決は,私立学校の校内において教職員が組合活動として行ったビラの配布行為が無許可のビラ配布等を禁止する就業規則に違反しないとされた事例です。
・ 使用者が労働者に対して行う懲戒は,労働者の企業秩序違反行為を理由として,一種の秩序罰を課するものであるから,具体的な懲戒の適否は,その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものです。
そのため,懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は,特段の事情のない限り,当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかですから,その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできません(最高裁平成8年9月26日判決)。
・ 従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして,使用者が捜査機関による捜査の結果を待った上で上記事件から7年以上経過した後に諭旨退職処分を行った場合において,上記事件には目撃者が存在しており,捜査の結果を待たずとも使用者において処分を決めることが十分に可能であったこと,上記諭旨退職処分がされた時点で企業秩序維持の観点から重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況はなかったことなどといった事情の下では,上記諭旨退職処分は,権利の濫用として無効です(最高裁平成18年10月6日判決参照)。


7 解約権留保付雇用契約
(1)ア 試用契約における解約権の留保は,大学卒業者の新規採用にあたり,採否決定の当初においては,その者の資質,性格,能力その他いわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い,適切な判定資料
を十分に蒐集することができないため,後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解され,今日における雇用の実情にかんがみるときは,このような留保約款を設けることも,合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるが,他方,雇用契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき,留保解約権の行使は,右のような解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されます(最高裁昭和54年7月20日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)。
イ 企業の留保解約権に基づく大学卒業予定者の採用内定の取消事由は,採用内定当時知ることができず,また,知ることが期待できないような事実であつて,これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ,社会通念上相当として是認することができるものに限られます(最高裁昭和54年7月20日判決)。
(2) 試用期間付雇用契約により雇用された労働者が試用期間中でない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し,使用者の取扱いにも格段異なるところはなく,試用期間満了時に本採用に関する契約書作成の手続も採られていないような場合には,他に特段の事情が認められない限り,当該雇用契約は解約権留保付雇用契約です(最高裁平成2年6月5日判決)。

8 働き方改革
(1)ア 厚生労働省HPに「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法の施行について」(平成30年9月7日付の厚生労働省労働基準局長の通知)が載っています。
イ 厚生労働省HPに「労働基準法に関するQ&A」「「働き方」が変わります!!2019年4月1日から働き方改革関連法が順次施行されます」が載っています。
ウ 厚生労働省HPの「「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書を公表します」(令和5年10月20日付)新しい時代の働き方に関する研究会の報告書及び参考資料が載っています。
(2) 働き方改革の中身としては,年次有給休暇の時季指定時間外労働の上限規制及び同一労働同一賃金があります(厚生労働省の働き方改革特設サイト参照)。
(3) 働き方・休み方改善ポータルサイト「病気療養のための休暇」が載っています。
(4) 働き方改革研究所HP「労基法改正に向けて、今知っておきたい「フレックスタイム制」の基礎知識」が載っています。


9 最高裁判所の平成25年度労働実務研究会の結果概要
・ 最高裁判所の平成25年度労働実務研究会の結果概要を以下のとおり掲載しています。
①   「労働事件の一般的問題」結果概要
→ 時間外手当(実労働時間),時間外手当(審理運営),時間外手当(固定残業代),定年後の再雇用拒否,セクハラ・パワハラ,労働契約法18条,降格,就業規則の不利益変更,普通解雇及び懲戒解雇に関する裁判官の議論が載っています。
②   「労働事件を巡る実務上の諸問題」結果概要
→ 休職,使用者がとるべき対応,業務起因性,労働時間の認定方法,時間外手当,定年後の再雇用拒否,労働契約法20条,労働審判(セクハラ・パワハラ等の審理運営),労働審判(テレビ会議システム等)及び労働審判(適正な手続選択)に関する裁判官の議論が載っています。


10 関連記事その他
(1) 東京地裁の場合,11民,19民及び36民が労働専門部となっています(東京地裁HPの「労働審判手続の迅速・適正な進行へのご協力のお願い」参照)。
(2)ア 経営ハッカーHP「労働基準監督官が実施する「臨検(りんけん)」では、具体的に何が調査されるのか 」及び「労働基準監督官とは,どのような権力を持っている人物なのか」が載っています。
イ 労働基準監督署対策相談室HPが参考になります。
ウ ろーきしょ!ブログに労働基準監督官に関する様々な説明が載っています。
(3)ア 二弁フロンティア2023年7月号「裁判官から見た労働関係訴訟の主張立証のポイント」(講演者は36期の渡邉弘裁判官)が載っています。
イ 大阪府HPに「労働相談ポイント解説」が載っています。
(4)ア 東弁リブラ2012年11月号の「東京地裁書記官に訊く─ 労働部 編 ─ 」には以下の記載があります。
    労働債権の場合の義務履行地というのは,普通は会社から給料をもらうという発想から,営業所の所在地が義務履行地とされますが,退職金については,すでに会社を辞めているのだから,労働者の住所地が義務履行地になるという考え方になります。
イ 影山法律事務所HPの「賃金債権の義務履行地はどこか」には以下の記載があります。
    賃金債権も金銭債権の一種ですから、その義務履行地は債権者、すなわち労働者の現在の住所であることになりそうです。そうであれば、労働者の現在の住所を管轄する裁判所に提訴できる、ことになります。実際、賃金債権の一種である退職金債権について、この理を認めた裁判例があります(東高決S60.3.20東高民時報36巻3号40頁)。
ところが、古い裁判例には、この理を否定し、「給料債権」の義務履行地は使用者の営業所であるとしたものがあります(東高決S38.1.24下民集14巻1号58頁)。
(5) 最高裁平成9年3月27日判決は,一部の組合員の定年及び退職金支給基準率を不利益に変更する労働協約の規範的効力が認められた事例です。
(6)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 労働審判手続における当事者に対する住所・氏名等の秘匿制度に関する事務処理上の留意点について(令和4年12月22日付の最高裁行政局第二課長の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 年次有給休暇に関するメモ書き
・ 有期労働契約に関するメモ書き
・ 同一労働同一賃金
・ 高年齢者雇用安定法に関するメモ書き
・ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き
・ 社会保険に関するメモ書き
(労災保険関係)
・ 労働保険に関するメモ書き
・ 労災隠し
・ 損益相殺
・ 反社会的勢力排除条項に関するメモ書き
・ 労災保険の特別加入制度
・ 労災保険の給付内容
・ 労災保険に関する書類の開示請求方法
・ 労災保険の特別加入制度
・ 労災保険に関する審査請求及び再審査請求
・ 厚生労働省労働基準局の,労災保険に係る訴訟に関する対応の強化について