第1 この記事の対象と結論
1 「米国接点がない」という仮定の範囲
本記事は,2026年8月20日現在の公開資料に基づき,米国制裁の対象となった国際刑事裁判所(ICC)関係者を,米国外にいる外国人が支援する場面を扱う。ここでいう「米国接点がない」とは,①行為者が大統領令14203号及び31 C.F.R. §528.318のU.S. personに当たらない,②支援行為が米国外で完結する,③米国人,米国内財産,米国金融機関,米国の決済網又は米国から提供されるサービスを利用しない,④米国人に禁止取引を行わせない,という仮定である。
制裁制度の全体像,指定対象者及びICCの管轄権・国際法上の争点は,国際刑事裁判所(ICC)関係者に対する米国制裁の総論で扱っている。また,資産凍結,クレジットカード,銀行,Microsoftその他のクラウド及びOFAC 50%ルールによる生活・事業上の影響は,米国のICC関係制裁による生活・事業上の不利益とOFAC 50%ルールで扱っている。本記事は,これらを繰り返さず,米国接点のない外国支援者自身の米国法上の位置付けに対象を絞る。
2 直接違反と追加指定は別の問題である
右の仮定が厳密に成り立つ限り,外国人が制裁対象者を支援したという事実だけで,その支援行為が当然に31 C.F.R. Part 528の直接違反となり,民事制裁金の対象になるとはいえない。他方,大統領令14203号1条(a)(ii)(B)は,外国人が一定のICC活動又は既に資産凍結を受ける者を支援したと米国政府が判断した場合,その外国人自身を新たに指定できると定める。米国接点がなくても,この追加指定の対象となる可能性は残る。
したがって,結論は「米国接点がなければ自由」でも「支援すれば直ちに違反」でもない。①既存の禁止に直接違反するか,②外国支援者自身を指定する基準に当たるか,③米国人の違反を生じさせ,又は制裁を迂回したかを分けて検討する必要がある。
第2 外国支援者に生じ得る三つの法的効果
1 Part 528の直接禁止
31 C.F.R. §528.201は,大統領令14203号により禁止されるすべての取引をPart 528上も禁止する。大統領令1条(a)が凍結するのは,指定対象者の財産及び財産上の利益のうち,米国内にあるもの,今後米国内に入るもの,又は米国人の占有・管理下にあるものである。同令3条は,この禁止に,指定対象者による,指定対象者への,又は指定対象者の利益のための資金,物品若しくはサービスの提供と,指定対象者からの受領が含まれることを明示する。
この直接禁止は,米国人又は米国管轄に入る財産・取引を捕捉する。他方,外国人と指定対象者との間で米国外だけで完結し,米国人又は米国管轄に入る財産を介在させない取引を,支援であるという理由だけで一律に禁止する条項ではない。もっとも,この説明は追加指定及び違反惹起の問題を除外したものではない。
2 外国支援者自身の追加指定
大統領令1条(a)(ii)(B)は,国務長官が財務長官及び司法長官と協議して,外国人が①保護対象者の国籍国の同意なくICCが行う捜査,逮捕,拘禁若しくは訴追の活動,又は②同令に基づく資産凍結対象者を,実質的に援助し,後援し,若しくは金融的・物的・技術的に支援し,又はこれらに物品若しくはサービスを提供したと判断した場合を,追加指定の対象とする。
追加指定は,支援取引の実行と同時に自動発生するものではなく,米国政府による判断を要する。したがって,指定基準に触れ得る支援をしたことと,その支援行為自体についてPart 528違反の民事制裁金を科されることは同じではない。ただし,指定が行われれば,その時点から当該外国人の米国管轄内の財産等が凍結される。この仕組みは,米国接点を要しない者に制裁指定の危険を及ぼす点で二次制裁に似た効果を持つが,Part 528がすべての外国取引を自動的に違法化しているという意味ではない。
3 違反惹起,迂回及び共謀
大統領令6条は,禁止を回避し,回避を目的とし,違反を生じさせ,又は違反を試みる取引と,共謀を禁止する。OFAC FAQ 11も,非米国人であっても,米国人に制裁違反をさせる行為,その共謀及び制裁回避は禁止されると説明する。
米国政府の外国企業向けTri-Seal Compliance Note3頁は,外国人が制裁対象者又は制裁国の関与を取引書類から隠すこと,米国人を誤導すること,又は米国金融システムを通じて禁止取引を処理させることを,執行対象となり得る例として挙げる。名義や送金理由を隠して米国銀行へ処理させた場合には,「米国接点がない」という前提そのものが崩れ,追加指定だけでなく違反惹起等の執行リスクが問題となる。
第3 米国接点がないと判断するための確認事項
1 行為者がU.S. personに当たらないこと
大統領令8条(c)及び31 C.F.R. §528.318は,U.S. personを,米国市民,永住外国人,米国法に基づき設立された組織及び適法に米国内にいる者と定義する。その括弧書きは,米国法人の外国支店,子会社又は従業員を含むとしているため,外国法人又は米国外の従業員であるという事実だけで非米国人と決めることはできない。
この「subsidiary」及び「employee」の具体的射程について,ICC制裁に固有のOFAC FAQ又は公刊裁判例は確認できない。米国企業グループとの資本関係,雇用関係,出向関係及び誰の業務として支援するのかを個別に確認する必要がある。
2 決済,サービス及び人員に米国が介在しないこと
米国外の当事者間取引でも,実際の処理経路に米国が入ることがある。米ドル建てという表示だけで直ちに米国管轄が確定するわけではないが,米国内のコルレス銀行又は米国金融機関を通過すれば,米国人による禁止取引の処理が生じ得る。クレジットカード,クラウド又はソフトウェアについても,ブランド名だけでなく,契約主体,決済主体,サービス提供主体,サーバー,技術支援及び関与する従業員を確認する必要がある。
| 接点 | 確認する事実 | 米国法上の意味 |
|---|---|---|
| 銀行・送金 | 通貨,送金銀行,中継銀行,コルレス口座 | 米国金融機関が指定対象者の利益を処理すれば,凍結又は違反惹起が問題となる |
| カード・電子決済 | カード網,加盟店管理会社,決済代行会社,売上金の経路 | 米国の決済運営者又は米国銀行が介在する可能性がある |
| クラウド・通信 | 契約法人,請求先,技術支援者,データ処理の場所 | 米国人によるサービス提供又は米国内財産との接点が生じ得る |
| 企業内の人員 | 国籍,在留地,雇用主,承認者,実作業者 | 米国人従業員に禁止行為をさせる場合は,外国法人だけの行為とはいえない |
| 製品・技術 | 原産地,再輸出規制,輸出管理分類 | OFAC制裁とは別に,米国輸出管理法が国外で適用される場合がある |
3 50%所有及び代理関係を確認すること
31 C.F.R. §528.406によれば,一人又は複数の凍結対象者が直接又は間接に合計50%以上を所有する組織は,SDN Listに名称がなくても自動的に凍結対象となる。その組織との取引は,単に「指定対象者を支援する外国法人の取引」ではなく,凍結対象者との取引として検討しなければならない。
50%未満の所有又は事実上の支配は,§528.406による自動凍結と同じではない。しかし,大統領令1条(a)(ii)(C)は,凍結対象者に所有若しくは支配され,又はその者のために直接若しくは間接に行動した外国人を別途指定できると定める。所有割合だけでなく,契約,署名権,資金負担,指図及び実際の受益者を確認する必要がある。
第4 追加指定の対象となり得る「支援」の範囲
1 二つの支援先が規定されている
大統領令1条(a)(ii)(B)の支援先は,既に指定された者だけではない。第一は,同条(a)(ii)(A)所定のICCによる捜査,逮捕,拘禁又は訴追の活動であり,第二は,同令に基づく資産凍結対象者である。したがって,受領者が指定対象者本人でない場合でも,対象となるICC活動を支援すれば第一の類型が問題となる一方,指定対象者への支援は,支援目的がICCの個別事件と直接結び付かないという一事だけでは第二の類型から外れない。
2 金銭と物品に限られない
31 C.F.R. §528.306は,金融的・物的・技術的支援を,有形・無形の財産,通貨,金融商品,価値移転,通信機器,コンピュータ,電子機器,技術,宿泊施設,車両,輸送手段及び物品等を含むものと定義する。技術には,製品の開発,生産又は使用に必要な具体的情報,設計図,計画,図表,模型,数式,工学上の設計・仕様,マニュアル及び記録された指示が含まれる。
さらに,大統領令は「goods or services」を支援の選択肢として別に列挙する。無償の翻訳,調査,データ分析,広報,法律,IT又は事務サービスであっても,サービスの提供でないとはいえない。ただし,条文上の候補に含まれることと,国務長官が実際に追加指定することは別であり,あらゆる接触又は協力が自動的に指定へ結び付くわけではない。
3 少額・無償・単発の安全港は公表されていない
大統領令は「materially assisted, sponsored, or provided financial, material, or technological support for, or goods or services」と規定するが,金額,期間,回数又は最少基準を定めていない。ICC制裁について,少額,無償,単発又は家族による支援を一律に除外するOFACの公表基準も確認できない。したがって,「少額だからmaterialではない」との一事情だけで指定可能性を否定することはできない。
50 U.S.C. §1702(b)及び31 C.F.R. §528.205は,価値移転を伴わない個人的通信,情報・情報資料の輸出入及び旅行に通常付随する一定の取引等を,直接の禁止から除外する。また,§528.506は米国制裁への対応その他の一定の法律サービスを一般許可する。ただし,これらは直接禁止に対する除外又は許可であり,外国人の追加指定基準との関係を包括的に定めたICC固有の安全港ではない。
類似の支援文言を持つロシア制裁について,OFAC FAQ 980は,米国人が個別許可なく行える取引であれば,非米国人も一般に追加指定の危険を負わないと説明する。これは反対方向の重要な公表資料であるが,別の大統領令と制裁プログラムに関する説明である。31 C.F.R. §528.101も,外交・安全保障上の事情の違いにより,類似する文言が制裁プログラム間で異なって解釈され得ると明記しているため,FAQ 980をPart 528の安全港としてそのまま適用することはできない。
第5 行為類型ごとに変わる主要な論点
| 行為類型 | 条文上の主な論点 | 追加確認事項 |
|---|---|---|
| 寄附,貸付け,報酬,立替払い又は暗号資産の移転 | 金融的支援又は価値移転 | 金額だけでなく,受益者,反復性,資金経路及び米国銀行の介在を確認する |
| 宿泊,事務所,車両,通信機器又は移動手段の提供 | §528.306が列挙する物的支援 | 無償か有償かに加え,利用者,期間,目的及び所有者を確認する |
| 個人的通信又は情報・情報資料の流通 | IEEPAの法定除外 | 価値移転,個別業務,共同作業又は報酬が付随していないかを確認する |
| 米国制裁への助言又は米国での代理 | §§528.506及び528.507の一般許可 | 許可される業務範囲,報酬の資金源及び別の凍結対象者の利益を確認する |
| 第三者名義,分割送金又は関係者名の非表示 | 違反惹起,迂回,未遂又は共謀 | 米国人又は米国システムを誤導していないかを確認する |
この表は,指定当局が用いる公表済みの点数表ではない。ICC制裁について,支援の目的,規模,継続性,指定対象者との関係又は米国政策への影響をどのような比重で評価するかは公表されていないため,取引を構成する事実を漏れなく整理するための確認表として用いるべきである。
第6 外国支援者自身が指定された場合
1 指定後に生じる法的効果
追加指定には国務長官の判断が必要であるが,大統領令9条は,資産移転を防ぐため,指定又は決定について事前通知を要しないとする。指定されれば,当該外国人の財産のうち,米国内にあるもの,今後米国内に入るもの又は米国人の占有・管理下に入るものが凍結され,米国人との取引が原則として禁止される。また,同令4条により,本人並びに一定の配偶者及び子の米国入国も原則として停止される。
もっとも,指定は,外国支援者の全世界の財産を米国が当然に没収する制度ではない。米国法上の凍結対象は大統領令1条(a)の接点を持つ財産等であり,没収ではなく移転・取扱いを止める措置である。他方,指定対象者が合計50%以上所有する組織は§528.406により自動的に凍結対象となるため,指定の影響は本人名義の財産だけに限られない。
2 民間サービスの停止と救済手段は別に検討する
外国銀行,カード会社,クラウド事業者その他の非米国企業が,契約又はリスク管理を理由に米国法の直接要求より広く取引を停止する場合がある。この波及は,法的な資産凍結と民間企業の過剰遵守を区別して検討する必要がある。具体的な生活・事業上の不利益は前掲の米国のICC関係制裁による生活・事業上の不利益とOFAC 50%ルールを参照されたい。
指定の再検討,個別ライセンス及び米国連邦訴訟は,ICC関係者が米国制裁を法的に争う方法で整理している。支援前の照会と,指定後の削除申立て・訴訟は目的が異なるため,指定後に初めて取引経路や契約資料を集めるのではなく,支援の主体,資金源,受益者,指図及び米国接点を事前に保存しておく必要がある。
第7 判断の順序と現在の未解決点
1 支援前に確認する順序
確認は,①行為者が§528.318のU.S. personに当たらないか,②支援先本人及びその50%以上所有組織が凍結対象でないか,③金銭,物品,技術又はサービスの誰が実際の受益者か,④銀行,決済,クラウド,人員又は米国原産品を通じた米国接点がないか,⑤直接禁止,追加指定及び違反惹起のいずれが問題となるか,⑥法定除外,一般許可又は個別許可が利用できるか,という順序で行うと整理しやすい。
低負担の初期確認で米国銀行,米国人従業員,指定対象者の50%所有又は名義隠しが判明した場合は,「米国接点のない外国人」という前提で評価を続けるべきではない。反対に,米国接点がなく,支援内容が独立した情報発信又は個人的通信に限られる場合も,追加指定についてICC固有の明確な安全港がない以上,支援の目的,依頼関係,対価及び実際の受益を確認した上で判断する必要がある。
2 公表資料で解決していない点
2026年8月20日現在,①大統領令1条(a)(ii)(B)の金額・期間・回数に関する基準,②少額,無償,単発又は家族支援の一般的な安全港,③Part 528のU.S. personに含まれる「subsidiary」及び「employee」の限界,④米国接点のない外国支援者に追加指定基準を適用した公刊裁判例,⑤IEEPAの情報・情報資料除外及びPart 528の一般許可が追加指定判断に及ぼす範囲について,ICC制裁に固有の公表された判断基準は確認できない。§528.101の注記は,Part 528が当面の指針を示す簡略形であり,OFACが追加の定義,解釈指針及び一般許可等を補充する予定であると説明している。
したがって,本件の結論は,直接違反の有無については取引経路と当事者を条文に当てはめ,追加指定については公表されていない裁量判断の余地を明示して示す必要がある。別の制裁プログラムのFAQ又は執行例は重要な参考資料であるが,ICC制裁の確定的な安全港として扱うことはできない。
第8 出典・参考資料
1 法令・大統領令
①International Emergency Economic Powers Act, 50 U.S.C. §§1701ないし1706
②Executive Order 14203, Imposing Sanctions on the International Criminal Court, 90 Fed. Reg. 9369(2025年2月6日署名,同月12日公表)
③International Criminal Court-Related Sanctions Regulations, 31 C.F.R. Part 528
2 OFAC・米国政府公表資料
①OFAC FAQ 11, Who must comply with OFAC sanctions?(2024年8月21日更新)
②OFAC FAQ 980, Do non-U.S. persons risk being sanctioned for engaging in activity with persons sanctioned pursuant to E.O. 14024?
③U.S. Department of Commerce, U.S. Department of the Treasury and U.S. Department of Justice, Tri-Seal Compliance Note: Obligations of foreign-based persons to comply with U.S. sanctions and export control laws(2024年3月6日)