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早期事業再生法の概要―対象債権,4分の3決議及び裁判所認可(AI作成)

第1 この記事が扱う制度と基準時

1 早期事業再生法とは

早期事業再生法は,経済的に窮境に陥るおそれのある事業者について,金融機関等が有する貸付債権等を多数決で調整し,早い段階での事業再生を図る制度である。

法律の正式名称は「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律」(令和7年法律第67号)であり,令和7年6月13日に公布された。

施行日は「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律の施行期日を定める政令」(令和8年政令第190号)により令和8年12月11日とされたため,令和8年8月20日現在は公布済み・未施行である。

したがって,現時点では,本法による権利変更決議の認可事件や中止命令事件の実務運用はまだ始まっていない。

2 制度の位置付け

従来の事業再生では,事業再生ADR等の私的整理は事業価値を守りやすい反面,原則として対象債権者全員の同意が必要であり,民事再生等の法的整理は多数決で反対債権者を拘束できる反面,手続が公になることによる信用・事業価値の毀損が問題となり得た。

早期事業再生法は,非公開で金融債権を調整する私的整理の特徴を残しながら,議決権総額の4分の3以上の多数決と裁判所の認可により,反対する対象債権者にも権利変更の効果を及ぼすものである。

この意味で,本法は,私的整理と法的整理の中間に位置する第三の事業再生手続である。

第2 既存の事業再生手続との違い

1 制度の比較

主な相違点は次のとおりである。

項目早期事業再生法事業再生ADR民事再生
公開性原則として非公開原則として非公開原則として公開
主な調整対象金融機関等の貸付債権等主に金融債権再生債権全般
可決要件議決権総額の4分の3以上原則として全員同意法定多数決
反対債権者の拘束裁判所の認可により可能原則として不可認可決定により可能
担保権担保で保全される部分は権利変更・議決権の対象外個別調整別除権として原則手続外
手続機関指定確認調査機関と裁判所認証紛争解決事業者裁判所

なお,どの制度を選ぶかは,多数決の得票見込みだけでなく,対象債権の範囲,担保価値,清算価値,スポンサーの有無,商取引債権者への影響及び不成立時の移行先を同時に検討して決める必要がある。

2 想定される利用者

本法は,株式会社や合同会社に限らず,事業を行う法人及び個人を対象とし,業種又は企業規模による一律の利用制限を置いていない。

もっとも,国会審議では,主な利用者として大企業・中堅企業が想定されているとの政府説明がされている。

中小企業については,金融債権者が少数であれば全員同意型の私的整理で解決できる場合も多く,制度の複雑性や費用との比較が特に重要となる。

第3 利用要件と対象債権

1 利用開始の要件

事業者は,経済的に窮境に陥るおそれがあり,金融機関等に対する債務の全部をその内容どおりに弁済すれば事業の継続に著しい支障を来すおそれがある場合に,指定確認調査機関へ確認を申請する。

法令は「2年以内に支払不能となること」のような一律の数値基準を設けていない。

経済産業省のQ&Aは,2年以内に支払不能となる可能性が高い場合や,赤字が継続して手元資金が減少している場合等を例示するが,これは個別事情を判断するための例であり,固定的な入口基準ではない。

確認時には,手続中の資金繰り,計画策定の意思,一時停止が対象債権者の一般の利益に反しないこと及び決議成立の見込み等が調査される。

また,1又は2以上の対象債権者であって,その議決権額が総議決権額の5分の1以上となる者が,一時停止要請に異議を述べていないことが必要である。

2 対象となる債権者と債権

対象債権者は,銀行,信用金庫,信用組合,保険会社,貸金業者,政策金融機関,地方公共団体及び一定の債権回収会社等の「金融機関等」である。

対象債権は,これらの金融機関等が事業者に対して有する貸付債権その他法令で定める金融債権である。

通常の売掛金,請負代金,労働債権及び租税債権は対象外であり,原則として従来どおり弁済される。

金融債権者の一部だけを恣意的に手続外とすることは許されず,対象となる債権者は全て手続に取り込む必要がある。

3 担保付債権の扱い

担保権で保全される貸付債権については,担保価値に相当する部分が権利変更及び議決権の対象外となり,担保で保全されない部分だけが多数決の対象となる。

もっとも,一時停止要請は担保付債権者を含む全対象債権者に対して行われるため,手続中の担保実行は重要な調整事項となる。

担保価値の評価は,議決権額,清算価値及び再生計画の可決可能性を左右するため,本法の実務上の主要な争点になると考えられる。

第4 手続の流れ

1 確認申請と一時停止

事業者から確認申請を受けた指定確認調査機関は,法令所定の要件を確認した後,全対象債権者に対し,回収,相殺,担保権実行及び倒産手続申立て等を控えるよう一時停止を要請する。

一時停止は,まず対象債権者に任意の協力を求めるものであるが,必要な場合には,裁判所による個別の強制執行等の中止命令や倒産手続申立ての中止命令を利用できる。

この要請は,対象債権者全体の回収可能額を高めるための時間を確保する点に意義がある。

2 一時停止と破産法上の支払停止

経済産業省のQ&Aは,一時停止要請が合理的な再生計画の策定を前提とし,資金繰りの確保やスポンサー支援等により支払能力が維持されている通常の場合,それだけで直ちに破産法上の「支払の停止」になるものではないと説明する。

ただし,名称ではなく,事業者が支払能力を欠き,一般的かつ継続的に債務を支払えない状態を外部に表示したかという具体的事情により判断される。

最高裁平成24年10月19日第二小法廷判決(平成23年(受)第462号・裁判集民事241号199頁)は,債務整理開始通知が具体的事情の下で支払停止に当たるとした判例であり,本法の利用前にも通知内容と資金繰りを精査する必要がある。

3 計画・資産評定と手続期間

確認事業者は,確認後6か月以内に,権利変更議案,早期事業再生計画及び資産評定を提出する。

やむを得ない事情がある場合の延長は最大6か月であり,非公開手続であることを理由に長期間棚上げする制度ではない。

資産評定では,継続企業価値だけでなく,破産による清算を前提とした回収見込額や担保財産の価額を検討する。

施行規則上,計画は,原則として権利変更の効力発生から3年以内に債務超過を解消し,経常利益を黒字化する内容であること等が求められる。

4 債権者集会と4分の3決議

手続では,第1回対象債権者集会,第2回対象債権者集会及び議決のための対象債権者集会が開かれる。

全員同意の見込みがあっても,議決のための集会自体は省略できない。

権利変更議案の可決には,議決権総額の4分の3以上の同意が必要であり,棄権又は不投票も分母に含まれる。

単独の対象債権者が議決権総額の4分の3以上を保有する場合には,その者だけで可決できないよう,出席議決権者の頭数の過半数の同意も必要となる。

5 裁判所の認可

全議決権者が同意した場合,権利変更決議は裁判所の認可を経ずに効力を生ずる。

反対者がいる場合には,裁判所の認可が必要である。

裁判所は,補正できない又は重大な手続・内容の法令違反,計画を履行できる見込みがないことが明らかであること,不正な方法による決議成立,対象債権者の一般の利益に反することという法定の不認可事由を審査する。

認可決定に対する即時抗告には当然の執行停止効がないが,裁判所は必要に応じて停止を命ずることができる。

第5 多数決を支える債権者保護

1 清算価値保障と平等原則

本法が反対債権者を拘束できるのは,単に4分の3の賛成があるからではない。

指定確認調査機関による独立した調査,対象債権者間の平等,計画の履行可能性及び対象債権者の一般の利益という保護が組み合わされている。

「一般の利益」は,少なくとも,権利変更による回収見込額が破産手続による配当見込額を下回らないという清算価値保障を含む。

したがって,反対債権者にとっては,事業者の説明だけでなく,資産評定,担保評価,事業計画の前提,スポンサー選定及び清算価値との比較を検証することが重要である。

2 権利変更の効力と保証

認可決定又は全員同意によって決議が効力を生ずると,全対象債権者の権利は,反対者を含めて決議どおりに変更される。

他方,保証人,共同債務者及び第三者担保提供者の責任は原則として影響を受けない。

保証人が弁済して取得する求償権と権利変更後の原債権との調整について,経済産業省Q&AのQ41は,最高裁平成7年1月20日第二小法廷判決(平成3年(オ)第491号・民集49巻1号1頁)を参照している。

また,債権の株式化であるデット・エクイティ・スワップを債権者の意思に反して強制することはできず,増資等について会社法上の手続も別に必要となる。

第6 労働者・株主・取引先への影響

1 労働者との関係

権利変更決議が直接変更するのは対象金融債権であり,労働契約,賃金又は労働協約を決議だけで変更することはできない。

計画に,合併,会社分割,事業譲渡,事業の縮小又は事業所の閉鎖等に伴う従業員数の減少若しくは賃金低下が含まれる場合,事業者は,計画提出の少なくとも2週間前に過半数労働組合又は過半数代表者へ通知し,協議と理解・協力の獲得に努め,その経過を計画に記載する必要がある。

もっとも,解雇,労働条件変更又は事業譲渡に伴う労働契約の扱いは,それぞれの労働法上の要件を別に満たさなければならない。

2 株主・経営者との関係

本法の多数決が直接変更するのは対象金融債権であり,株主の権利を決議だけで縮減するものではない。

しかし,減資,増資,株式の取得,組織再編又は事業譲渡を計画に組み込む場合には,会社法上の取締役会・株主総会決議,債権者保護手続その他の要件を別に満たす必要がある。

株主価値を温存するために金融債権者だけへ不相当な負担を転嫁する計画は,一般の利益や権利変更の合理性の審査で問題となり得る。

3 商取引債権者との関係

通常の買掛金,外注費その他の商取引債権は対象外であるため,原則として平常どおり弁済される。

この限定は事業価値の毀損を避ける利点がある一方,取引先を手続外で全額弁済することが対象金融債権者全体の利益にかなうかについては,事業継続の必要性とともに説明できなければならない。

第7 税務・他手続への移行

1 令和8年度税制改正で設けられた措置

令和8年度税制改正では,本法の施行に合わせ,①一定の弁済猶予・分割弁済債権に関する貸倒引当金,②大法人等の欠損金繰越控除の限度,③仮装経理に基づく過大申告の更正に伴う法人税等の還付,④消費税の貸倒控除について,権利変更決議に対応する措置が設けられた。

貸倒引当金については,一定の場合に,決議効力発生日を含む事業年度終了日の翌日から5年以内に弁済される金額以外の部分が繰入限度額となる。

大法人等の欠損金繰越控除については,権利変更決議の効力発生日から原則7年の再建期間が,控除限度額を繰越控除前所得の全額とする対象期間に加えられた。

ただし,事業再生ADRで問題となる資産評価損益や期限切れ欠損金の優先利用が,本法の利用だけで当然に認められるとは確認できない。

税務処理は計画内容と法令上の要件によって異なるため,貸倒損失の計上基準も参照しつつ,税理士等による個別確認が必要である。

2 不成立時の移行とプレDIP融資

計画が可決されない場合や認可されない場合には,特定調停,民事再生,会社更生又は破産等への移行を検討する必要がある。

本法は,事業再生手続間の円滑な移行のための特例を置くほか,手続中の新規融資について指定確認調査機関の確認を得た場合,後続する民事再生又は会社更生で共益債権性等を判断する際に考慮する仕組みを設けている。

各倒産手続の基本的な相違については,倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理も参照されたい。

第8 施行前に確認すべき実務上の論点

1 準備すべき資料と判断事項

制度利用を検討する事業者は,少なくとも,①金融債権と担保の一覧,②対象外債権を含む資金繰り,③清算価値と担保価値,④5分の1の入口支持と4分の3の可決見込み,⑤3年間の事業計画,⑥労働者・取引先・スポンサーへの影響,⑦税務上の取扱い,⑧不成立時の移行先を早期に整理する必要がある。

特に,確認申請時には,直近3年分の貸借対照表・損益計算書,直近1年分の資金繰り実績及び今後6か月分の資金繰り見込み等が必要となるため,危機が顕在化してから着手するのでは遅い場合がある。

2 令和8年8月20日現在の未確定事項

経済産業省は,令和8年6月30日に施行規則,資産評定基準及び全178問のQ&Aを公表した。

もっとも,令和8年8月20日までに公表資料から確認できた範囲では,指定確認調査機関の具体的な指定先,本法固有の最高裁判所規則,認可申立ての実務書式,認可審理の運用及び本法固有の国税庁通達はなお確認できない。

また,本法は未施行であるため,本法を直接適用した裁判例は存在し得ず,実際の期間,費用,情報開示の範囲及び裁判所の審査密度も運用開始後の検証を要する。

第9 出典・参考資料

1 法令

円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律(令和7年法律第67号)

② 円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律施行規則(令和8年経済産業省令第58号。第2条~第5条,第8条,第11条~第17条,第22条~第27条及び第29条~第46条)

③ 円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律施行規則第15条第5項の資産評定に関する基準(令和8年経済産業省告示第79号)

④ 円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律の施行期日を定める政令(令和8年政令第190号)

②~④は,経済産業省「早期事業再生法の本年12月11日からの施行に向け,Q&A等を公表しました」の関連資料による。

2 裁判例

最高裁平成7年1月20日第二小法廷判決・平成3年(オ)第491号・民集49巻1号1頁(保証人の求償権と権利変更後の原債権との関係について,経済産業省Q&AのQ41が参照する裁判例)

最高裁平成24年10月19日第二小法廷判決・平成23年(受)第462号・裁判集民事241号199頁(破産法上の支払停止について,同Q&AのQ69が参照する裁判例)

3 公的資料

経済産業省「早期事業再生について」(法令,施行規則,告示及び関連資料の掲載ページ)

経済産業省「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律に関するQ&A」(令和8年6月30日,全178問,PDF12頁~84頁)

③ 経済産業省「事業再構築小委員会報告書―早期での事業再生の円滑化に向けて―」(令和7年2月18日,特に15頁~21頁)

④ 経済産業省「早期事業再生検討ワーキンググループ取りまとめ」(令和8年3月6日,PDF1頁~99頁)

衆議院経済産業委員会令和7年5月23日会議録及び同月28日会議録

衆議院経済産業委員会「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律案に対する附帯決議」(令和7年5月28日)

経済産業省「事業再生ADR制度」

財務省「令和8年度税制改正の解説・法人税法等の改正」482頁~493頁,502頁~503頁及び同・消費税法等の改正853頁