第1 令和元年版の養育費算定表の位置付け
1 現在用いられている算定表
家庭裁判所の調停・審判で現在参照されているのは,令和元年12月23日に公表された改定標準算定方式・算定表(令和元年版)である。裁判所は,養育費の調停・審判では,父母双方の収入,子の人数・年齢その他一切の事情を考慮し,標準額の目安として算定表を参照することが一般的であると説明している。
算定表は法令ではなく,東京・大阪の家庭裁判所に所属していた裁判官を研究員とする司法研究の成果である。このため,父母は算定表と異なる額を合意でき,裁判所も個別事情を考慮して異なる額を定めることがある。他方で,通常の事情は表の幅に織り込まれているため,調停・審判の見通しを考える際には事実上の出発点となる。
婚姻中の夫婦間で分担する婚姻費用については,配偶者本人の生活費を含むため,養育費表1~9ではなく婚姻費用表10~19を用いる。詳しくは,婚姻費用算定表の見方,計算方法と特別事情(AI作成)を参照されたい。
2 令和8年の改正後も算定表は置き換わっていないこと
令和8年4月1日に法定養育費及び養育費債権の先取特権に関する規定が施行されたが,令和元年版の算定表が廃止又は改定されたわけではない。裁判所の現行Q&Aも,同表を「現在用いられている『算定表』」として案内している。後記第6のとおり,子1人当たり月額2万円の法定養育費は暫定的・補充的な制度であり,月額8万円は先取特権により優先的に回収できる範囲を画する額であるから,いずれも算定表による標準額を示す数字ではない。
第2 算定表の選び方及び読み方
1 子の人数及び年齢に対応する表を選ぶこと
養育費の算定表は,子の人数が1人から3人までである場合について,0歳~14歳と15歳以上の年齢区分を組み合わせた次の9種類である。年齢は計算時の年齢で区分し,複数の子がいる表の金額は子全員分の合計月額である。
| 表 | 子の人数及び年齢 |
|---|---|
| 表1 | 子1人,0歳~14歳 |
| 表2 | 子1人,15歳以上 |
| 表3 | 子2人,いずれも0歳~14歳 |
| 表4 | 子2人,第1子が15歳以上,第2子が0歳~14歳 |
| 表5 | 子2人,いずれも15歳以上 |
| 表6 | 子3人,いずれも0歳~14歳 |
| 表7 | 子3人,第1子が15歳以上,第2子及び第3子が0歳~14歳 |
| 表8 | 子3人,第1子及び第2子が15歳以上,第3子が0歳~14歳 |
| 表9 | 子3人,いずれも15歳以上 |
各表は,裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」から取得できる。子が4人以上である場合,父母がそれぞれ別の子を監護する場合その他9種類の表に直接当てはまらない場合は,後記第3の標準算定方式を用いた個別計算を検討することになる。
2 縦軸,横軸及び金額帯を読むこと
縦軸は支払う側である義務者の年収,横軸は受ける側である権利者の年収を示す。給与所得者は「給与」の目盛り,自営業者は「自営」の目盛りを選び,義務者の年収から右へ延ばした線と権利者の年収から上へ延ばした線が交差する欄を読む。その欄に記載された1万円又は2万円の幅が,子全員分の標準的な月額である。
年収が目盛りと一致しない場合,裁判所の算定表説明は近い目盛りを基準とする使用例を示している。もっとも,金額帯の上限又は下限を機械的に選ぶ規則は示されていない。表の幅を超える額が必要となるのは,算定表を用いると著しく不公平となるような特別の事情がある場合に限られると説明されている。
3 裁判所の使用例
裁判所の説明では,権利者が7歳と10歳の子を監護し,権利者の給与収入が202万8000円,義務者の給与収入が715万2000円である例を挙げている。①表3を選び,②権利者の年収は近い目盛りの200万円,③義務者の年収は近い目盛りの725万円を基準にすると,交差欄は月額10万円~12万円となる。これは2人分の合計額であり,仮に合計月額を10万円とすると,両児の生活費指数が同じであるため各5万円となる。
第3 算定表に用いる収入及び計算方法
1 給与所得者の総収入
給与所得者については,手取り額や給与所得控除後の金額ではなく,源泉徴収票の「支払金額」を用いる。給与明細しかない場合,特定月の額には歩合給の変動,賞与及び一時金が反映されないことがあるため,年額を推計できる資料を確認する必要がある。確定申告をしていない副収入がある場合は,その収入を支払金額に加算して給与所得として計算するのが裁判所の説明である。
2 自営業者及び複数の所得がある者の総収入
自営業者については,確定申告書の「課税される所得金額」を出発点とし,基礎控除,青色申告特別控除,実際には支払われていない専従者給与など,現実の支出を伴わない控除額を加算する。税務上の所得をそのまま当てはめるものではなく,減価償却費,事業と家計の混在及び同族会社からの収入が争点となる場合には,申告書,決算書,勘定科目内訳及び実際の資金移動を個別に確認する必要がある。
給与所得と事業所得が併存する場合は,一方の目盛りへ単純に別々に当てはめることができない。換算又は標準算定方式による計算が必要となり得るため,詳細は個人事業主の離婚と婚姻費用及び養育費で説明している。なお,児童扶養手当及び児童手当は子のための社会保障給付であるため,権利者の年収には含めない。
3 基礎収入及び生活費指数
標準算定方式では,父母の総収入から公租公課,職業費及び特別経費を統計的に控除した「基礎収入」を求める。令和元年版の基礎収入割合は,給与所得者が総収入の54%~38%,自営業者が61%~48%であり,総収入が高くなるにつれて割合はおおむね低くなる。生活費指数は親を100とし,0歳~14歳の子を62,15歳以上の子を85とする。
義務者の基礎収入を BIo,権利者の基礎収入を BIr,対象となる子の生活費指数の合計を C とすると,標準算定方式の骨格は次のとおりである。
①子の生活費年額 = BIo × C ÷ (100 + C)
②義務者の分担年額 = 子の生活費年額 × BIo ÷ (BIo + BIr)
③義務者の分担月額 = 義務者の分担年額 ÷ 12
複数の子ごとの額が必要な場合は,合計月額を各子の指数で按分する。例えば,10歳の子と15歳の子の合計月額が5万円であれば,62対85で按分し,裁判所の説明例ではそれぞれ2万円と3万円となる。算定表は,この計算を日常的な事案で簡易迅速に行うための早見表である。
第4 算定表だけでは決まらない場合
1 収入をそのまま認定できない場合
直近1年の収入が臨時的に増減した場合,歩合給が大きく変動する場合,退職・転職・休業があった場合又は収入資料が提出されない場合には,どの期間及び資料から将来の稼働収入を認定するかが先に問題となる。申告書上の数字が低いという理由だけで収入を0円と扱うわけではなく,他方で,過去の高い収入や資格だけから常に同額を得られると推定できるわけでもない。給与明細,源泉徴収票,課税証明書,確定申告書及び事業資料のうち,通常作成されている低負担の資料から確認するのが出発点となる。
父母の収入が算定表の上限を超える場合,又は生活保護水準に近い低所得の場合には,表の端の数字を自動的に採用するのではなく,標準算定方式,実際の生活状況及び扶養する者の範囲を個別に検討する必要がある。高額所得者については,貯蓄・資産形成に回る部分をどう評価するかを含め,単一の計算方法に確立しているとはいえない。
2 教育費,医療費及び住居費
算定表の生活費指数には標準的な学校教育費が織り込まれているため,通常の教育費をそのまま全額加算すると二重計上となり得る。私立学校の授業料,大学の学費,留学費用その他標準額を超える教育費については,進学についての父母の合意,従前の生活状況,父母の収入・学歴及び費用の相当性を踏まえて,算定表に含まれる標準部分との差額をどのように分担するかを検討する。
継続的で高額な治療費その他の特別な医療費も,通常の医療費として算定表に含まれる部分と区別する必要がある。義務者が住宅ローン,家賃,学費又は医療費を直接支払っている場合は,その支払を養育費とは別の負担とみるか,養育費の一部の履行とみるかを整理し,重複請求又は重複控除を避けなければならない。
3 再婚,養子縁組,新たな子及び監護形態
父母の一方が再婚しただけで養育費が当然に消滅するわけではない。他方で,監護親の再婚相手が子と養子縁組をした場合,義務者又は権利者に新たに扶養すべき子が生じた場合などは,扶養関係全体を反映した再計算が必要となり得る。再婚という一語では結論が決まらないため,養子縁組の有無,各家庭で監護する子,父母及び新たな配偶者の収入を区別して確認する必要がある。
父母が複数の子を分けて監護する場合,共同監護により子が双方の家庭で相当の日数を生活する場合又は対象となる子が4人以上の場合には,9種類の表をそのまま使えない。各家庭で現に負担している費用だけで直ちに相殺するのではなく,父母の基礎収入,すべての子の生活費指数及び監護状況を踏まえた個別計算が必要となる。
第5 取決めの内容及び事情変更
1 月額だけでなく始期,終期及び支払方法を定めること
養育費の取決めでは,①対象となる子,②子ごとの月額又は全員分の合計月額,③支払開始月,④支払終期,⑤毎月の支払日,⑥振込口座,⑦振込手数料の負担を具体的に記載する必要がある。教育費及び医療費の臨時負担を定める場合も,対象費用,事前協議の要否,資料の提示,負担割合及び支払時期を明確にする方が,後日の争いを減らしやすい。
令和4年4月1日から成年年齢は18歳であるため,「成年に達するまで」という文言は18歳までを意味する。20歳,大学卒業時又は特定の年度末までの支払を予定するのであれば,年齢,年月日又は卒業時の取扱いを具体的に定める必要がある。もっとも,法定養育費の終期と,父母の合意又は裁判所が定める通常の養育費の終期は同一の問題ではなく,18歳を超えた子についても養育費請求調停の対象となり得る。
父母間で合意できる場合も,法務省「離婚を考えている方へ」が案内するとおり,口約束ではなく書面に残すべきである。一定の条件を満たす執行証書としての公正証書,調停調書又は審判書を得ておけば,不払時の強制執行を進めやすい。令和8年改正による先取特権があっても,月額8万円に子の数を乗じた額を超える部分,臨時費用及び条件の特定には,明確な合意文書又は債務名義を作成する実益が残る。
2 収入,進学又は家族関係が変わった場合
いったん定めた養育費は,父母の収入の大幅な変動,子の進学,再婚・養子縁組その他の事情変更が生じても自動的に改定されるわけではない。父母が変更に合意できない場合は,家庭裁判所の養育費増額・減額の調停又は審判を利用することになる。変更を求める側は,当初の取決め又は判断の前提と,その後に生じた事情を区別し,収入資料,学費資料,戸籍資料その他変更内容に対応する資料を示す必要がある。
第6 法定養育費2万円及び先取特権8万円との違い
1 三つの数字が示すもの
令和8年4月1日以後の養育費については,令和元年版の算定表,法定養育費及び先取特権の範囲を区別する必要がある。
| 制度 | 目的 | 金額の意味 | 主な適用場面 |
|---|---|---|---|
| 令和元年版の算定表 | 標準的な養育費を簡易迅速に算定する | 父母の収入,子の人数及び年齢に応じた標準月額の目安 | 協議,調停及び審判で本来の養育費を定める場面 |
| 法定養育費 | 取決めがない期間の最低限の生活を暫定的・補充的に支える | 主として監護する子1人当たり月額2万円 | 令和8年4月1日以後に取決めなく離婚等をした場合から,本来の取決め等まで |
| 養育費債権の先取特権 | 養育費等の優先的な回収を可能にする | 子1人当たり月額8万円までが優先権の及ぶ範囲 | 合意,裁判所の判断又は法定養育費等で生じる定期金を担保権実行により回収する場面 |
2 2万円は標準額又は下限額ではないこと
民法766条の3及び法務省令は,養育費の取決めをしないまま令和8年4月1日以後に離婚した場合,離婚時から引き続き子を主として監護する父母が,他方に対して子1人当たり月額2万円を請求できる法定養育費を定めた。これは本来の養育費が定まるまでの暫定的・補充的な給付であり,裁判所も,父母の協議等で定める養育費の基準又は標準ではないと明記している。したがって,算定表で月額6万円~8万円となる事案を,改正後は月額2万円に置き換えることはできない。
法定養育費の詳細な発生要件,終期,支払能力を欠く場合の抗弁及び経過措置は,法定養育費と養育費債権の先取特権で説明している。令和8年4月1日より前に離婚した場合には,法定養育費は発生しない。
3 8万円は養育費の上限ではないこと
民法308条の2及び法務省令による月額8万円×子の数という額は,子の監護費用に関する一般先取特権が及ぶ範囲である。養育費そのものを月額8万円以下に制限する上限でも,月額8万円を支払うべきであるとする標準額でもない。算定表又は個別計算による養育費が子1人当たり月額8万円を超える場合も,超過部分の債権が消滅するわけではないが,先取特権による優先回収の範囲とは区別される。
第7 確認手順及び家庭裁判所の手続
1 算定表を使う前に揃える資料
初期確認は,①対象となるすべての子の年齢及び監護状況,②父母それぞれが給与所得者か自営業者か,③直近の源泉徴収票,課税証明書又は確定申告書,④副収入及び収入の臨時的変動,⑤私立学校の授業料,継続的な医療費,直接支払中の住居費等の有無,⑥再婚,養子縁組及び新たに扶養する子の有無,という順に行うとよい。これらの前提が確定してから対応する表と目盛りを選ぶことで,誤った早見表又は収入区分を用いる危険を減らせる。
算定表の金額帯が分かった後は,通常事情として表に含まれるものと,標準額を超えて別途考慮すべき事情を分ける。特別事情を主張する側は,費用の発生及び金額だけでなく,標準部分との差額,継続期間,相手方の合意又は予見可能性及び父母の負担能力が分かる資料を確認する必要がある。資料を揃えても表の幅を超えるほど結論に影響しない場合は,通常の金額帯を基礎に取決めを進めることが合理的である。
2 協議が調わない場合
離婚後に養育費の協議が調わない場合又は協議できない場合は,子を監護する親から他方の親に対し,家庭裁判所へ養育費請求調停を申し立てることができる。申立先,費用,標準的な添付書類及び書式は,裁判所「養育費請求調停」に掲載されている。養育費調停が不成立になれば審判へ移行するが,離婚調停が不成立になった場合は養育費だけが当然に審判へ移行するわけではない。
裁判所の標準的な添付書類には,対象となる子の戸籍謄本,申立人の源泉徴収票・給与明細・確定申告書・非課税証明書等の収入資料,事情説明書及び進行に関する照会回答書が含まれる。相手方の収入資料その他相手方又は第三者だけが保有する資料を当然に取得できるとは限らないため,まず自分が通常入手できる課税・収入・支出資料を提出し,不足資料が結論に影響する場合に裁判所での追加提出や調査の必要性を検討することになる。
第8 出典・参考資料
1 法令
①民法(明治29年法律第89号)308条の2,766条,766条の3(e-Gov法令検索)
②民法第三百八条の二の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令(令和7年法務省令第56号)1条・2条(e-Gov法令検索)
2 裁判所及び法務省の資料
①裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(令和元年12月23日公表。研究報告の概要,改定標準算定表1~9及び算定表説明)
②平成30年度司法研究の研究員「養育費・婚姻費用算定表について」1頁~5頁(裁判所)
③裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」(養育費,算定表,法定養育費及び先取特権に関するQ&A)
⑤法務省「離婚を考えている方へ」及び法務省「りこんポータル」
3 文献
①秋武憲一『第4版 離婚調停』(日本加除出版,2021年,第4版第3刷2024年)236頁~273頁,298頁~325頁