恩赦

皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定)

皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定・同月9日官報掲載)

(趣旨)
一 皇太子徳仁親王の活婚の儀が行われるに当たり、内閣は、この基準により特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を行うこととする。

(対象)
二 この基準による特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権、平成五年六月九日(以下「基準日」という。)の前日までに有罪の裁判が確定している者に対し行う。ただし、第四項第2号、第五項第2号及び第七項第2号に掲げる者については、それぞれ、その定めるところによる。

(出願又は上申)
三1 この基準による特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権は、本人の出願を待って行うものとし、本人は、基準日から平成五年九月八日までに刑務所(少年刑務所及び拘置所を含む。以下同じ。)若しくは保護観察所の長又は検察官に対して出願をするものとする。
2 刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官は、前号の出願があった場合には、平成五年十二月八日までに中央更生保護審査会に対し上申をするものとする。
3 第四項第2号の規定による特赦、第五項第2号の規定による減刑又は第七項第2号の規定による復権の場合は、前二号の定めにかかわらず、それぞれ、第1号の出願は平成五年十二月八日までに、前号の上申は平成六年三月八日までにすることができる。
4 第1号及び第2号の規定は、この基準による特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権について、刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官が必要があると認める場合に職権により上申をすることを妨げるものではない。この場合においては、上申をする期限は、前二号に定めるところによる。

(特赦の基準)
四1 特赦は、基準日の前日までに刑に処せられた次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に赦免することが相当であると認められる者について行う。
(一) 少年のとき犯した罪により刑に処せられ、基準日の前日までにその執行を終わり又は執行の免除を得た者
(二) 基準日において七十歳以上の者であって、有期の懲役又は禁錮に処せられ、基準日の前日までにその執行すべき刑期の二分の一以上につきその執行を受けた者
(三) 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日までに五年以上を経過した者であって、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
(四) 有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までに猶予の期間の二分の一以上を経過した者であって、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
(五) 有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法(明治四十年法律第四十五号)の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)であって、社会のために貢献するところがあり、かつ、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
(六) 罰金に処せられ、その執行を猶予されている者又は基準日の前日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者であって、その刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者
2 前号に掲げる者のほか、基準日の前日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成五年九月八日までにその裁判に係る罪について有罪の裁判が確定した者のうち、次の(一)又は(二)に掲げる者については、前号の例により、この基準による特赦を行うことができる。
(一) 有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)であって、社会のために貢献するところがあり、かつ、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
(二) 罰金に処せられ、その執行を猶予されている者又は平成五年九月八日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者であって、その刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者

(特別減刑の基準)
五1 減刑は、基準日の前日までに懲役又は禁錮に処せられた次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に減刑することが相当であると認められる者について行う。
(一) 少年のとき犯した罪により有期の懲役又は禁錮に処せられた者であって、次に掲げる者
(1) 法定刑の短期が一年以上に当たる罪を犯した場合は、基準日の前日までに執行すべき刑期の二分の一以上につきその執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、言い渡された刑の短期のうち執行すべき部分の二分の一以上につきその執行を受けた者)
(2) (1)以外の場合は、基準日の前日までに執行すべき刑期の三分の一以上につきその執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、言い渡された刑の短期のうち執行すべき部分の三分の一以上につきその執行を受けた者)
(二) 少年のとき犯した罪により有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の三分の一以上を経過した者
(三)基準日において七十歳以上の者であって、次に掲げる者
(1) 有期の懲役又は禁錮に処せられ、基準日の前日までに執行すべき刑期の三分の一以上につきその執行を受けた者
(2) 無期の懲役又は禁錮に処せられ、基準日の前日までに十年以上の執行を受けた者
(四) 有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までに猶予の期間の三分の一以上を経過した者であって、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
(五) 有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)であって、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
2 前号に掲げる者のほか、基準日の前日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の判決の宣告を受け、平成五年九月八日までにその裁判に係る罪について有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)のうち近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者については、前号の例により、この基準による減刑を行うことができる。
3 減刑は、次の例による。
(一) 無期懲役は十五年の懲役とし、無期禁錮は十五年の禁錮とする。
(二) 有期の懲役又は禁錮は、次の例により言渡しを受けた刑期を変更する。
(1) 基準日において七十歳以上の者については、刑期の三分の一を超えない範囲でその刑を減ずる。
(2) (1)以外の者については、刑期の四分の一を超えない範囲でその刑を減ずる。
(三) 不定期刑は、その短期及び長期について、それぞれ、言渡しを受けた刑期の四分の一を超えない範囲でその刑を減ずる。
(四) 懲役又は禁錮について言い渡された執行猶予の期間は、その四分を一を超えない範囲で短縮する。

(刑の執行の免除の基準)
六 刑の執行の免除は、基準日の前日までに刑に処せられた次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に刑の執行の免除をすることが相当であると認められる者について行う。
1 懲役、禁錮又は罰金に処せられ、病気その他の事由により基準日までに長期にわたり刑の執行が停止されている者であって、なお長期にわたりその執行に耐えられないと認められる者
2 懲役又は禁錮に処せられ、基準日において七十歳以上の者であって、仮出獄を許されてから基準日の前日までに二十年以上を経過した者

(特別復権の基準)
七1 復権は、一個又は二個以上の裁判により罰金以上の刑に処せられ、基準日の前日までに刑の全部につきその執行を終わり又は執行の免除を得た次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に復権することが相当であると認められる者について行う。
(一) 基準日において七十歳以上の者
(二) 禁錮以上の刑又は罰金及び禁錮以上の刑に処せられ、禁錮以上の刑の全部につきその執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日まで三年以上を経過した者であって、刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者
(三) 禁錮以上の刑又は罰金及び禁錮以上の刑に処せられた者であって、社会のために貢献するところがあり、かつ、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、刑に処せられたことが障害となっている者
(四) 罰金に処せられた者であって、刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者
2 前号に掲げる者のほか、基準日の前日までに一個又は二個以上の略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成五年九月八日までにその裁判に係る罪の一部又は全部について罰金に処せられ、同日までにその全部につき執行を終わり又は執行の免除を得た者のうち、刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者については、前号の例により、この基準による復権を行うことができる。

(その他)
八 この基準に当たらない者であっても、特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権を行うことが相当であるものには、常時恩赦を行うことを考慮するものとする。



* 以下の資料も参照してください。
① 特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成5年6月9日法務省令第25号)
② 平成5年6月8日付の閣議書(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準)
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
④ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別基準恩赦の事務処理について(法務省保護局恩赦課長の通知)
⑤ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)






即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)

即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定・同月12日官報掲載)

(趣旨)
一 即位の礼が行われるに当たり、内閣は、特別に、この基準により特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を行うこととする。

(対象)
二 この基準による特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権は、平成二年十一月十二日(以下「基準日」という。)の前日までに有罪の裁判が確定している者に対して行う。ただし、第五項及び第七項に掲げる者については、それぞれ、その定めるところによる。

(出願又は上申)
三1 この基準による特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権は、本人の出願を待って、行うものとし、本人は、基準日から平成三年二月十二日までに、恩赦法施行規則(昭和二十二年司法省令第七十八号)の定めるところにより、刑務所(少年刑務所及び拘置所を含む。以下同じ。)若しくは保護観察所の長又は検察官に対して出願をするものとする。
2 刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官は、前号の出願があった場合には、平成三年五月十三日までに中央更生保護審査会に対して上申をするものとする。
3 第五項の規定による特赦又は第七項の規定による減刑の場合にあっては、前二号の定めにかかわらず、それぞれ、第1号の出願は平成三年五月十三日までに、前号の上申は同年八月十二日までにすることができる。
4 第1号及び第2号の規定は、この基準による特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権について、刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官が必要があると認める場合に職権により上申をすることを妨げるものではない。この場合においては、上申をする期限は、前二号に定めるところによる。

(特赦)
四 特赦は、第二項本文に定める者であって、次の各号のいずれかに該当するものについて、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ特に相当であると認められる場合に行う。
1 少年のとき罪を犯した者であって、基準日の前日までにその罪による刑の執行を終わり又は執行の免除を得たもの
2 基準日において七十歳以上の者であって、有期の懲役又は禁錮に処せられ、基準日の前日までにその執行すべき刑の期間の二分の一以上につきその執行を受けたもの
3 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日までに五年以上を経過した者であって、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの
4 有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までに猶予の期間の二分の一以上を経過している者であって、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの。
5 有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法(明治四十年法律第四十五号)の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。であって、社会のために貢献するところがあり、かつ、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの
6 罰金に処せられ、その執行を猶予されている者又は基準日の前日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者であって、その刑に処せられたことが現に社会生活上の障害となっているもの
五1 前項第5号に掲げる者については、基準日の前日までに有罪、無罪又は免訴の判決の宣告を受け、平成三年二月十二日までにその裁判に係る罪について有罪の裁判が確定した場合にも、同項の例によりこの基準による特赦を行うことができる。
2 罰金に処せられ、そのことが現に社会生活上の障害となっている者については、基準日の前日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成三年二月十二日までにその裁判に係る罪について有罪の裁判が確定した場合であって、その執行の猶予の期間中であるとき又は同日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得たときも、前号と同様とする。

(減刑)
六 減刑は、第二項本文に定める者のうち、懲役又は禁錮に処せられた者(その執行を終わり又は執行の免除を得た者を除く。)であって、次の各号のいずれかに該当するものについて、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ特に相当であると認められる場合に行う。
1 少年のとき犯した罪により、有期の懲役又は禁錮に処せられた者であって、次の(一)又は(二)に掲げる場合に応じ、それぞれ、(一)又は(二)に定めるもの
(一) その犯した罪につき定められた懲役又は禁錮の法定刑の短期が一年以上である場合にあっては、基準日の前日までに執行すべき刑の期間の二分の一以上につきその執行を受げた者(不定期刑に処せられたときにあっては、言い渡された刑の短期のうち執行すべき部分の二分の一以上につきその執行を受けた者)
(二) (一)以外の場合にあっては、基準日の前日までに執行すべき刑の期間の三分の一以上につきその執行を受けた者(不定期刑に処せられたときにあっては、言い渡された刑の短期のうち執行すべき部分の三分の一以上につきその執行を受けた者)
2 少年のとき犯した罪により、有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予されている者であって、基準日の前日までにその猶予の期間の三分の一以上を経過したもの
3 基準日において七十歳以上の者であって、次のいずれかに該当するもの
(一) 有期の懲役又は禁錮に処せられ、基準日の前日までに執行すべき刑の期間の三分の一以上につきその執行を受けた者
(二) 無期の懲役又は禁錮に処せられ、基準日の前日までに十年以上その執行を受けた者
4 有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までに猶予の期間の三分の一以上を経過している者であって、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの
5 有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。であって、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの

七 前項第5号に掲げる者(当該懲役又は禁錮の執行を終わり又は執行の免除を得た者を除く。)については、基準日の前日までに有罪、無罪又は免訴の判決の宣告を受け、平成三年二月十二日までにその裁判に係る罪について有罪の裁判が確定した場合にも、同項の例によりこの基準による減刑を行うことができる。

八 減刑は、次による。
1 無期懲役は十五年の懲役とし、無期禁掴は十五年の禁錮とする。
2 有期の懲役又は禁錮は、次により刑の期間を変更する。
(一) 基準日において七十歳以上の者については、刑の期間の三分の一を超えない範囲でその刑を減ずる。
(二) (一)以外の者については、刑の期間の四分の一を超えない範囲でその刑を減ずる。
3 不定期刑は、その短期及び長期について、それぞれ、刑の期間の四分の一を超えない範囲でその刑を減ずる。
4 刑の執行猶予の期間を短縮する場合にあっては、その四分の一を超えない範囲とする。

(刑の執行の免除)
九 刑の執行の免除は、第二項本文に定める者であって、懲役又は禁錮に処せられ、かつ、次の各号のいずれかに該当するものについて、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ特に相当であると認められる場合に行う。
1 病気その他の事由により基準日までに長期にわたり刑の執行が停止され、なお長期にわたりそり執行に耐えられないと認められる者
2 基準日において七十歳以上の者で、仮出獄を許されてから基準日の前日までに二十年以上を経過したもの

(復権)
十 復権は、第二項本文に定める者のうち、一個若しくは二個以上の裁判により禁錮以上の刑に処せられ又は一個若しくは二個以上の裁判により罰金及び禁錮以上の刑に処せられて基準日の前日までに刑の全部につきその執行を終わり又は執行の免除を得た者であって、次の各号のいずれかに該当するものについて、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ特に相当であると認められる場合に行う。
1 基準日において七十歳以上の者
2 禁錮以上の刑の全部につきその執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日までに三年以上を経過した者であって、刑に処せられたことが現に社会生活上の障害となっているもの
3 社会のために貢献するところがあり、かつ、刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者

(通常の恩赦)
十一 この基準に該当しない者であっても、特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権を行うことが相当である場合には、常時の個別の恩赦を行うことを考慮するものとする。

*1 平成2年11月12日,今の上皇について,即位礼正殿の儀が実施されました。
*2 令和元年10月22日,今の天皇について,即位礼正殿の儀が実施されました。
*3 「特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成2年11月12日法務省令第39号)」も参照してください。
*4 平成2年11月9日付の閣議書(即位の礼に当たり行う特別恩赦基準)を掲載しています。
*5 衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書(平成12年10月3日付)には以下の記載があります。
   戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮出獄中の者を除く。)は八十六人である。なお、無期懲役が確定した後、昭和三十五年以降に個別恩赦により減刑された者はいない。
   また、戦後、無期懲役が確定した後、政令恩赦により減刑された者については、十分な資料がないため、総数は不明である。なお、最後に政令恩赦により減刑が行われたのは、昭和二十七年四月の日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)の発効に際してである。


恩赦法施行規則(昭和22年10月1日司法省令第78号)

恩赦法施行規則(昭和22年10月1日司法省令第78号)は以下のとおりです。

恩赦法施行規則

恩赦法施行規則を次のように制定する。

第一条 恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)第十二条の規定による中央更生保護審査会の申出は、刑事施設(少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第五十六条第三項の規定により少年院において刑を執行する場合における当該少年院を含む。以下第一条の二、第六条、第八条及び第十一条第三項において同じ。)若しくは保護観察所の長又は検察官の上申があった者に対してこれを行うものとする。

第一条の二 次に掲げる者は、職権で、中央更生保護審査会に特赦、特定の者に対する減刑又は刑の執行の免除の上申をすることができる。
一 刑事施設に収容され、又は労役場若しくは監置場に留置されている者については、その刑事施設の長
二 保護観察に付されている者については、その保護観察をつかさどる保護観察所の長
三 その他の者については、有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官
○2 前項各号に掲げる刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官は、本人から特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願があったときは、意見を付して中央更生保護審査会にその上申をしなければならない。

第二条 特赦、減刑又は刑の執行の免除の上申書には、次の書類を添付しなければならない。
一 判決の謄本又は抄本
二 刑期計算書
三 犯罪の情状、本人の性行、受刑中の行状、将来の生計その他参考となるべき事項に関する調査書類
○2 本人の出願により上申をする場合には、前項の書類のほか、その願書を添付しなければならない。
○3 判決原本の滅失又は破損によって判決の謄本又は抄本を添付することができないときは、検察官が自己の調査に基づき作成した書面で判決の主文、罪となるべき事実及びこれに対する法令の適用並びに判決原本が滅失し又は破損したこと及びその理由を示すものをもって、これに代えることができる。

第三条 次に掲げる者は、職権で、中央更生保護審査会に復権の上申をすることができる。
一 保護観察に付されたことのある者については、最後にその保護観察をつかさどった保護観察所の長
二 その他の者については、最後に有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官
○2 前項各号に掲げる保護観察所の長又は検察官は、本人から復権の出願があったときは、意見を付して中央更生保護審査会にその上申をしなければならない。

第四条 復権の上申書には、次の書類を添付しなければならない。
一 判決の謄本又は抄本
二 刑の執行を終わり又は執行の免除のあったことを証する書類
三 刑の免除の言渡しのあった後又は刑の執行を終わり若しくは執行の免除のあった後における本人の行状、現在及び将来の生計その他参考となるべき事項に関する調査書類
○2 第二条第二項の規定は、前項の場合にこれを準用する。
○3 第二条第三項の規定は、第一項第一号の書類についてこれを準用する。

第五条 恩赦法第十条第二項による復権の上申書には、回復すべき資格の種類を明記しなければならない。

第六条 特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願は、刑の言渡し後次の期間を経過した後でなければ、これをすることができない。ただし、中央更生保護審査会は、本人の願いにより、期間の短縮を許可することができる。
一 拘留又は科料については、六箇月
二 罰金については、一年
三 有期の懲役又は禁錮については、その刑期の三分の一に相当する期間。(短期と長期とを定めて言い渡した刑については、その刑の短期の三分の一に相当する期間。)ただし、その期間が一年に満たないときは、一年とする。
四 無期の懲役又は禁錮については、十年
○2 拘禁されない日数は、刑の執行を終わり又は刑の執行の免除を受けた後の日数及び仮釈放中又は刑の執行停止中の日数を除くほか、前項第三号及び第四号の期間にこれを算入しない。
○3 前項の規定は、刑の執行を猶予されている場合には、これを適用しない。
○4 第一項ただし書の願いをするには、願書をその願いに係る特赦、減刑又は刑の執行の免除について上申をすることができる刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官に提出しなければならない。
○5 第一条の二第二項の規定は、第一項ただし書の願いがあった場合にこれを準用する。

第七条 復権の出願は、刑の執行を終わり又は執行の免除のあった後でなければ、これをすることができない。

第八条 刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官が本人の出願によりした特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権の上申が理由のないときは、その出願の日から一年を経過した後でなければ、更に出願をすることができない。

第九条 特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権の願書には、次の事項を記載し、かつ、戸籍の謄本又は抄本(法人であるときは登記事項証明書)を添付しなければならない。
一 出願者の氏名、出生年月日、職業、本籍及び住居(法人であるときはその名称、主たる事務所の所在地及び代表者の氏名)
二 有罪の言渡しをした裁判所及び年月日
三 罪名、犯数、刑名及び刑期又は金額
四 刑執行の状況
五 上申を求める恩赦の種類
六 出願の理由
○2 前項の規定は、第六条第一項ただし書の許可を受ける場合にこれを準用する。

第十条 中央更生保護審査会は、特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権の上申が理由のないときは、上申をした者にその旨を通知しなければならない。
○2 前項の通知を受けた者は、出願者にその旨を通知しなければならない。

第十一条 特赦、特定の者に対する減刑、刑の執行の免除又は特定の者に対する復権があったときは、法務大臣は、中央更生保護審査会をして、有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官に特赦状、減刑状、刑の執行の免除状又は復権状(以下「恩赦状」という。)を送付させる。
○2 恩赦状の送付を受けた検察官は、自ら上申をしたものであるときは、直ちにこれを本人に交付し、その他の場合においては、速やかにこれを上申をした者に送付し、上申をした者は、直ちにこれを本人に交付しなければならない。
○3 上申をした者は、仮釈放中の者に恩赦状を交付したときは、その旨を刑事施設の長に通知しなければならない。
○4 第二項に規定する恩赦状の交付及び前項の通知は、これを本人の住居のある地を管轄する保護観察所の長、本人の住居のある地を管轄する裁判所に対応する検察庁の検察官又は本人が収容されている刑事施設(本人が労役場又は監置場に留置されている場合における当該刑事施設を含む。)若しくは少年院の長に嘱託することができる。

第十二条 恩赦状を本人に交付した者は、速やかにその旨を法務大臣に報告しなければならない。

第十三条 恩赦法第十四条の規定により判決の原本に付記をなすべき検察官は、有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官とする。

第十四条 検察官は、恩赦法第十四条の規定により判決の原本に付記をした場合において、訴訟記録が他の検察庁に在るときは、その検察庁の検察官にその旨を通知しなければならない。
○2 前項の通知書は、これを訴訟記録に添付しなければならない。

第十五条 有罪の言渡しを受けた者で大赦により赦免を得たものは、有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官に申し出て、その旨の証明を受けることができる。政令により復権を得た者も、同様である。

附 則
第十六条
この省令は、公布の日から、これを施行する。

第十七条 朝鮮若しくは台湾又は関東州、南洋群島その他日本国外の地域において有罪の言渡しを受けた者については、当分の間、第一条の二第一項の規定にかかわらず、内地(沖縄県及び樺太を除く。以下同じ。)におけるその者の本籍又は住居のある地を管轄する地方裁判所に対応する検察庁の検察官は、職権で、中央更生保護審査会に特赦、減刑又は刑の執行の免除の上申をすることができる。
○2 前項に規定する検察官は、前項に規定する者から特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願があったときは、当分の間、第一条の二第二項の規定にかかわらず、意見を付して中央更生保護審査会にその上申をしなければならない。

第十八条 前条第一項に規定する者については、当分の間、第三条第一項の規定にかかわらず、内地におけるその者の本籍又は住居のある地を管轄する地方裁判所に対応する検察庁の検察官は、職権で、中央更生保護審査会に復権の上申をすることができる。
○2 前項に規定する検察官は、前条第一項に規定する者から復権の出願があったときは、当分の間、第三条第二項の規定にかかわらず、意見を付して中央更生保護審査会にその上申をしなければならない。

第十九条 大正元年司法省令第三号恩赦令施行規則は、これを廃止する。

附 則 (昭和二四年七月一日法務府令第二九号)
1 この府令は、昭和二十四年七月一日から施行する。
2 この府令施行前になされた特赦、特定の者に対する減刑、刑の執行の免除又は特定の者に対する復権の申出でこの府令施行の際まだ特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権の決定のないものは、従前の第十条の規定により理由のない旨の通知の発せられたものを除いては、第一条の二又は第三条の規定による上申とみなす。

附 則 (昭和二七年八月一日法務省令第七号)
1 この省令は、公布の日から施行する。
2 この省令施行前に、この省令による改正前の恩赦法施行規則の規定によってした上申、出願その他の手続は、この省令による改正後の恩赦法施行規則の規定によってしたものとみなす。

附 則 (昭和三四年四月一〇日法務省令第二一号)
この省令は、公布の日から施行する。

附 則 (平成一三年三月三〇日法務省令第四二号)
この省令は、平成十三年四月一日から施行する。

附 則 (平成一七年二月二四日法務省令第一九号) 抄
(施行期日)
第一条 この省令は、平成十七年三月七日から施行する。

附 則 (平成一八年五月二三日法務省令第五九号)
この省令は、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律(平成十七年法律第五十号)の施行の日から施行する。

恩赦法(昭和22年3月28日法律第20号)

恩赦法(昭和22年3月28日法律第20号)は以下のとおりです。

恩赦法

第一条 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権については、この法律の定めるところによる。

第二条 大赦は、政令で罪の種類を定めてこれを行う。

第三条 大赦は、前条の政令に特別の定のある場合を除いては、大赦のあつた罪について、左の効力を有する。
一 有罪の言渡を受けた者については、その言渡は、効力を失う。
二 まだ有罪の言渡を受けない者については、公訴権は、消滅する。

第四条 特赦は、有罪の言渡を受けた特定の者に対してこれを行う。

第五条 特赦は、有罪の言渡の効力を失わせる。

第六条 減刑は、刑の言渡を受けた者に対して政令で罪若しくは刑の種類を定めてこれを行い、又は刑の言渡を受けた特定の者に対してこれを行う。

第七条 政令による減刑は、その政令に特別の定めのある場合を除いては、刑を減軽する。
○2 特定の者に対する減刑は、刑を減軽し、又は刑の執行を減軽する。
○3 刑の全部の執行猶予の言渡しを受けてまだ猶予の期間を経過しない者に対しては、前項の規定にかかわらず、刑を減軽する減刑のみを行うものとし、また、これとともに猶予の期間を短縮することができる。
○4 刑の一部の執行猶予の言渡しを受けてまだ猶予の期間を経過しない者に対しては、第二項の規定にかかわらず、刑を減軽する減刑又はその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間の執行を減軽する減刑のみを行うものとし、また、刑を減軽するとともに猶予の期間を短縮することができる。

第八条 刑の執行の免除は、刑の言渡しを受けた特定の者に対してこれを行う。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者又は刑の一部の執行猶予の言渡しを受けてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間の執行を終わつた者であつて、まだ猶予の期間を経過しないものに対しては、その刑の執行の免除は、これを行わない。

第九条 復権は、有罪の言渡を受けたため法令の定めるところにより資格を喪失し、又は停止された者に対して政令で要件を定めてこれを行い、又は特定の者に対してこれを行う。但し、刑の執行を終らない者又は執行の免除を得ない者に対しては、これを行わない。

第十条 復権は、資格を回復する。
○2 復権は、特定の資格についてこれを行うことができる。

第十一条 有罪の言渡に基く既成の効果は、大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権によつて変更されることはない。

第十二条 特赦、特定の者に対する減刑、刑の執行の免除及び特定の者に対する復権は、中央更生保護審査会の申出があつた者に対してこれを行うものとする。

第十三条 特赦、特定の者に対する減刑、刑の執行の免除又は特定の者に対する復権があつたときは、法務大臣は、特赦状、減刑状、刑の執行の免除状又は復権状を本人に下付しなければならない。

第十四条 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権があつたときは、検察官は、判決の原本にその旨を附記しなければならない。

第十五条 この法律の施行に関し必要な事項は、法務省令でこれを定める。

附 則 抄
○1 この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。

附 則 (昭和二二年一二月一七日法律第一九五号) 抄
第十七条 この法律は、公布の後六十日を経過した日から、これを施行する。

附 則 (昭和二四年五月三一日法律第一四三号)
この法律は、犯罪者予防更生法(昭和二十四年法律第百四十二号)施行の日(昭和二十四年七月一日)から施行する。

附 則 (昭和二七年七月三一日法律第二六八号) 抄
1 この法律は、昭和二十七年八月一日から施行する。

附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 第九百九十五条(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律附則の改正規定に係る部分に限る。)、第千三百五条、第千三百六条、第千三百二十四条第二項、第千三百二十六条第二項及び第千三百四十四条の規定 公布の日

附 則 (平成二五年六月一九日法律第四九号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成元年2月13日法務省令第4号)

特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成元年2月13日法務省令第4号)

第一条 基準日の前日までに刑に処せられた次に掲げる者は、恩赦法施行規則(昭和二十二年司法省令第七十八号。以下「規則」という。)第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成元年五月二十三日までは、同条の定める期間を経過する前においても、特赦の出願をすることができる。
一 大赦令(平成元年政令第二十七号)第一条に掲げる罪を犯した者で、同令第二条により赦免を得ないもの。ただし、他の罪の罪質が軽微である場合に限る。
二 大赦令第一条に掲げる罪と他の罪との併合罪につき併合して一個の刑に処せられた者で、他の罪が同条に掲げる罪に付随して犯され、その罪質が軽微であるもの
三 少年のとき犯した罪により刑に処せられ、昭和六十四年一月七日(以下「基準日」という。)の前日までにその執行を終わり又は執行の免除を得た者
四 基準日において七十歳以上の者で、有期刑に処せられ、基準日の前日までに刑期の二分の一以上その執行を受けたもの
五 有期刑に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の二分の一以上を経過した者のうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
六 有期刑に処せられた者(刑法(明治四十年法律第四十五号)の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の刑を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)のうち、社会のために貢献するところがあり、かつ、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
七 罰金に処せられ、その執行を猶予された者又は基準日の前日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者のうち、その刑に処せられたことが現に社会生活上の障害となっている者

第二条 基準日の前日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成元年五月二十三日までにその裁判に係る罪について刑に処せられた次に掲げる者は、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成元年八月二十三日までは、同条の定める期間を経過する前においても、特赦の出願をすることができる。
一 有期刑に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の刑を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)のうち、社会のために貢献するところがあり、かつ、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
二 罰金に処せられ、その執行を猶予された者又は平成元年五月二十三日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者のうち、その刑に処せられたことが現に社会生活上の障害となっている者

第三条 基準日の前日までに懲役又は禁錮に処せられた次に掲げる者は、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成元年五月二十三日までは、同条の定める期間を経過する前においても、減刑の出願をすることができる。
一 少年のとき犯した罪により有期刑に処せられ、その執行を終わっていない者又は執行の免除を得ていない者(執行猶予中の者を除く。)で次に掲げるもの
1 法定刑の短期が一年以上に当たる罪を犯した場合は、基準日の前日までに刑期の二分の一以上その執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、短期の二分の一以上その執行を受けた者)
2 その他の場合は、基準日の前日までに刑期の三分の一以上その執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、短期の三分の一以上その執行を受けた者)
二 少年のとき犯した罪により有期刑に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の三分の一以上を経過した者
三 基準日において七十歳以上の者で、有期刑に処せられ、基準日の前日までに刑期の三分の一以上その執行を受けたもの。ただし、刑の執行を終わっていない者又は執行の免除を得ていない者(執行猶予中の者を除く。)に限る。
四 有期刑に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の三分の一以上を経過した者のうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
五 有期刑に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の刑を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)で、その執行を終わっていないもの又は執行の免除を得ていないもののうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの

第四条 基準日の前日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成元年五月二十三日までにその裁判に係る罪について有期刑に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の刑を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)で、その執行を終わっていないもの又は執行の免除を得ていないもののうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているものは、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成元年八月二十三日までは、同条の定める期間を経過する前においても、減刑の出願をすることができる。

第五条 基準日の前日までに懲役又は禁錮に処せられ、病気その他の事由により基準日までに長期にわたりその刑の執行を停止されている者で、なお長期にわたりその執行に耐えられないと認められるものは、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成元年五月二十三日までは、同条の定める期間を経過する前においても、刑の執行の免除の出願をすることができる。

附 則
この省令は、平成元年二月二十四日から施行する。

* 「昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)」も参照してください。

昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)

昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定・同日13日官報掲載)

(趣旨)
昭和天皇の崩御に際会し、内閣は、この基準により特赦、特別減刑、刑の執行の免除及び特別復権を行うこととする。

(対象)

この基準による特赦、特別減刑、刑の執行の免除又は特別復権は、昭和六十四年一月七日(以下「基準日」という。)の前日までに有罪の裁判が確定している者に対して行う。ただし、第四項及び第五項においてそれぞれただし書をもって定める場合は、その定めによるものとする。

(出願又は上申の手続)
1 この基準による特赦、特別減刑、刑の執行の免除又は特別復権については、本人の出願を待って行うものとし、本人は、平成元年二月二十四日から同年五月二十三日までに刑務所(少年刑務所及び拘置所を含む。以下同じ。)若しくは保護観察所の長又は検察官に対して出願をし、刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官は、同年八月二十三日までに中央更生保護審査会に対して上申をするものとする。ただし、前項ただし書に係る場合については、同日までに出願をし、同年十一月二十四日までに上申をすることができるものとする。

2 前号の定めは、この基準による特赦、特別減刑、刑の執行の免除又は特別復権について、刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官の職権による上申を妨げるものではない。この場合の上申期限は、同号に定めるところによる。

(特赦の基準)
特赦は、基準日の前日までに刑に処せられた次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格、行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に赦免することが相当であると認められる者について行う。ただし、第7号及び第8号に掲げる者については、同日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成元年五月二十三日までにその裁判に係る罪について有罪の裁判が確定した者に対しても、特にこの基準による特赦を行うことができるものとする。
1 大赦令(平成元年政令第二十七号)第一条に掲げる罪を犯した者で、同令第二条により赦免を得ないもの。ただし、他の罪の罪質が軽微である場合に限る。
2 大赦令第一条に掲げる罪と他の罪との併合罪につき併合して一個の刑に処せられた者で、他の罪が同条に掲げる罪に付随して犯され、その罪質が軽微であるもの
3 少年のとき犯した罪により刑に処せられ、基準日の前日までにその執行を終わり又は執行の免除を得た者
4 基準日において七十歳以上の者で、有期刑に処せられ、基準日の前日までに刑期の二分の一以上その執行を受けたもの
5 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日までに五年以上を経過した者のうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
6 有期刑に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の二分の一以上を経過した者のうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
7 有期刑に処せられた者(刑法(明治四十年法律第四十五号)の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の刑を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)のうち、社会のために貢献するところがあり、かつ、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者

8 罰金に処せられ、その執行を猶予された者又は基準日の前日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者のうち、その刑に処せられたことが現に社会生活上の障害となっている者

(特別減刑の基準)
1 特別減刑は、基準日の前日までに懲役又は禁錮に処せられた次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格、行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に減刑することが相当であると認められる者について行う。ただし、(五)に掲げる者については、同日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成元年五月二十三日までにその裁判に係る罪について有罪の裁判が確定した者に対しても、特にこの基準による減刑を行うことができるものとする。
(一)少年のとき犯した罪により有期刑に処せられ、その執行を終わっていない者又は執行の免除を得ていない者(執行猶予中の者を除く。)で次に掲げるもの
(1) 法定刑の短期が一年以上に当たる罪を犯した場合は、基準日の前日までに刑期の二分の一以上その執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、短期の二分の一以上その執行を受けた者)
(2) その他の場合は、基準日の前日までに刑期の三分の一以上その執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、短期の三分の一以上その執行を受けた者)
(二)少年のとき犯した罪により有期刑に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の三分の一以上を経過した者
(三)基準日において七十歳以上の者のうち、刑の執行を終わっていない者又は執行の免除を得ていない者(執行猶予中の者を除く。)で次に掲げるもの
(1) 有期刑に処せられ、基準日の前日までに刑期の三分の一以上その執行を受けた者
(2) 無期刑に処せられ、基準日の前日までに十年以上その執行を受けた者
(四)有期刑に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の三分の一以上を経過した者のうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
(五)有期刑に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の刑を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)で、その執行を終わっていないもの又は執行の免除を得ていないもののうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの
2 減刑は、次の例による。
(一)無期懲役は、十五年の有期懲役とし、無期禁錮は、十五年の有期禁錮とする。
(二)有期の懲役又は禁錮については、次の例により刑期を変更する。
(1) 基準日において七十歳以上の者の場合にあっては、刑期の三分の一を超えない範囲で、その刑を減ずる。
(2) その他の者の場合にあっては、刑期の四分の一を超えない範囲で、その刑を減ずる。
(三) 不定期刑については、短期及び長期について(二)の(2)の例による。

(四) 懲役又は禁錮について言い渡された執行猶予の期間は、その四分の一を超えない範囲で短縮する。

(刑の執行の免除の基準)
刑の執行の免除は、基準日の前日までに懲役又は禁錮に処せられた次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格、行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に刑の執行の免除をすることが相当であると認められる者について行う。
1 病気その他の事由により基準日までに長期にわたりその刑の執行を停止されている者で、なお長期にわたりその執行に耐えられないと認められるもの

2 基準日において七十歳以上の者で、仮出獄を許されてから基準日の前日までに二十年以上を経過したもの

(特別復権の基準)
特別復権は、基準日の前日までに、一個若しくは二個以上の裁判により禁錮以上の刑に処せられ又は一個若しくは二個以上の裁判により罰金及び禁錮以上の刑に処せられて禁錮以上の刑につきその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格、行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に復権することが相当であると認められる者について行う。
1 禁錮以上の刑につきその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日までに三年以上を経過し、刑に処せられたことが現に社会生活上の障害となっている者
2 社会のために貢献するところがあり、かつ、刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者

3 基準日において七十歳以上の者

(その他)

この基準に当たらない者であっても、特赦、特別減刑、刑の執行の免除又は特別復権を行うことが相当であると認められるものについては、常時恩赦の対象として考慮するものとする。

(実施の時期)

この基準による特赦、特別減刑、刑の執行の免除及び特別復権は、平成元年二月二十四日から行うものとする。

*1 平成2年11月12日,今の上皇について,即位礼正殿の儀が実施されました。
*2 令和元年10月22日,今の天皇について,即位礼正殿の儀が実施されました。
*3 「特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成元年2月13日法務省令第4号)」,及び「昭和天皇御大喪恩赦について」も参照してください。
*4 平成元年2月8日付の閣議書(昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準)を掲載しています。
*5 衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書(平成12年10月3日付)には以下の記載があります。
   戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮出獄中の者を除く。)は八十六人である。なお、無期懲役が確定した後、昭和三十五年以降に個別恩赦により減刑された者はいない。
   また、戦後、無期懲役が確定した後、政令恩赦により減刑された者については、十分な資料がないため、総数は不明である。なお、最後に政令恩赦により減刑が行われたのは、昭和二十七年四月の日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)の発効に際してである。


復権令(平成元年2月13日政令第28号)

復権令(平成元年2月13日政令第28号)

   内閣は、恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)第九条の規定に基づき、この政令を制定する。

第一条 一個又は二個以上の裁判により罰金に処せられた者で、昭和六十四年一月七日(以下「基準日」という。)の前日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得たものは、この政令の施行の日において、その罰金に処せられたため法令の定めるところにより喪失し又は停止されている資格を回復する。
2 基準日の前日までに一個又は二個以上の略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成元年五月二十三日までにその裁判に係る罪の一部又は全部について罰金に処せられた者で、基準日から平成元年五月二十三日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得たものは、基準日からこの政令の施行の日の前日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た場合にあってはこの政令の施行の日において、この政令の施行の日から平成元年五月二十三日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た場合にあってはその執行を終わり又は執行の免除を得た日の翌日において、それぞれその罰金に処せられたため法令の定めるところにより喪失し又は停止されている資格を回復する。ただし、他に罰金に処せられているときは、この限りでない。

第二条 一個又は二個以上の裁判により禁錮以上の刑に処せられた者で、その全部の刑の執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日までに五年以上を経過したものは、この政令の施行の日において、その禁錮以上の刑に処せられたため法令の定めるところにより喪失し又は停止されている資格を回復する。

第三条 一個又は二個以上の裁判により罰金及び禁錮以上の刑に処せられた者は、罰金については第一条の、禁錮以上の刑については前条の、いずれの要件にも該当する場合に限り、復権する。

附 則

この政令は、平成元年二月二十四日から施行する。

*1 竹下登内閣総理大臣は,平成元年2月13日の衆議院本会議において以下の答弁をしています。
   政令恩赦と公職選挙違反関係者の復権についてであります。
 今回の恩赦は、御在位六十二年の長きにわたって世界の平和と国民の幸福をひたすら祈念された昭和天皇の崩御に際会して行うものであります。政府としては、恩赦制度の趣旨や恩赦の先例等を慎重に検討した上で、復権令につきましては、特定の罪名に処せられた者に限定するとかこれを除外するというようなことなく幅広く行うことが相当である、このように考えたからでございます。
*2 罰金刑に限り基準日を延長し,施行日後3ヶ月が経過した平成元年5月23日までに罰金を完納した事例についても復権を認める内容になっています。
*3 前科登録と犯歴事務(五訂版)191頁に以下の記載があります。
   今回の復権令では,①罰金刑に処せられた者については, その罪名を限定せず,全ての者を復権の対象とし,②罰金刑に処せられた者について,刑の執行を終わった日又は執行の免除を得た日からの経過期間を要せず,基準日までに刑の執行を終わり又は執行の免除を得た者を一律に復権させることとし,③基準日以後に,裁判が確定した者又は刑の執行を終わり若しくは執行の免除を得た者をも一定の条件の下に復権させることとしているほか,④禁鋼以上の刑に処せられている者についても,その刑の執行を終わり又は執行の免除を得た日から5年以上を経過していれば復権させることとしているなど,極めて広い範囲の者を復権の対象としており,罰金刑に係る復権該当者は約1082万人,禁鋼以上の刑に係る復権該当者は約14万4000人にのぼることになる。なお,通常復権令は,大赦令の場合と同様,基準日と政令施行の日が一致していることが多いが,今回はその日が異なっており,復権の効力は特に定めのある場合を除き政令施行の日に生ずることとされた。

大赦令(平成元年2月13日政令第27号)

大赦令
内閣は、恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)第二条及び第三条の規定に基づき、この政令を制定する。
第一条 昭和六十四年一月七日前に次に掲げる罪を犯した者は、赦免する。
一 食糧管理法(昭和十七年法律第四十号)第三十二条第一項第一号の罪(第三条第一項の規定に違反する行為に係るものに限る。)、第三十二条第一項第三号(これに相当する旧規定を含む。)の罪及び第三十三条の罪並びにこれらに関する第三十七条の罪
二 食糧緊急措置令(昭和二十一年勅令第八十六号)に違反する罪
三 物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)に違反する罪
四 地代家賃統制令(昭和二十一年勅令第四百四十三号)に違反する罪
五 外国人登録法(昭和二十七年法律第百二十五号)第十八条の二(これに相当する旧規定を含む。)の罪並びに外国人登録法の一部を改正する法律(昭和五十七年法律第七十五号)及び外国人登録法の一部を改正する法律(昭和六十二年法律第百二号。以下「改正法」という。)による各改正前の外国人登録法第十八条第一項第八号の罪(改正法施行後に行われたとしたならば罪とならない行為に係るものに限る。)
六 未成年者喫煙禁止法(明治三十三年法律第三十三号)第三条の罪
七 鉄道営業法(明治三十三年法律第六十五号)第三十四条の罪、第三十五条の罪、第三十七条の罪及び第四十条の罪
八 未成年者飲酒禁止法(大正十一年法律第二十号)に違反する罪
九 軽犯罪法(昭和二十三年法律第三十九号)に違反する罪
十 興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第十条の罪及びこれに関する第十一条の罪
十一 旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第十二条の罪
十二 公衆浴場法(昭和二十三年法律第百三十九号)第十条の罪及びこれに関する第十一条の罪
十三 古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)第三十二条の罪
十四 郵便物運送委託法(昭和二十四年法律第二百八十四号)第二十三条の罪及びこれに関する第二十四条の罪
十五 質屋営業法(昭和二十五年法律第百五十八号)第三十四条の罪
十六 狂犬病予防法(昭和二十五年法律第二百四十七号)第二十八条の罪

十七 酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律(昭和三十六年法律第百三号)第四条の罪

第二条 前条に掲げる罪に当たる行為が、同時に他の罪名に触れるとき、又は他の罪名に触れる行為の手段若しくは結果であるときは、赦免をしない。

附 則

この政令は、平成元年二月二十四日から施行する。

恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放

目次
1 恩赦の件数
2 無期刑受刑者の仮釈放
3 無期刑受刑者の仮釈放に関する国会答弁
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1 恩赦の件数
(1)   法務省が毎年,発行している犯罪白書によれば,恩赦の人数の推移は以下のとおりです(平成18年版以降の犯罪白書では,「第2編 犯罪者の処遇」→「第5章 更生保護」→「第4節 恩赦」に,前年の実績が載っています。)。
(平成時代)
平成30年:             刑の執行の免除が 3人,復権が16人
平成29年:             刑の執行の免除が 1人,復権が22人
平成28年:             刑の執行の免除が 5人,復権が24人
平成27年:             刑の執行の免除が 6人,復権が24人
平成26年:             刑の執行の免除が 2人,復権が34人
平成25年:             刑の執行の免除が 5人,復権が29人
平成24年:             刑の執行の免除が 5人,復権が19人
平成23年:             刑の執行の免除が 2人,復権が52人
平成22年:             刑の執行の免除が 2人,復権が46人
平成21年:             刑の執行の免除が 6人,復権が35人
平成20年:             刑の執行の免除が 4人,復権が77人
平成19年:             刑の執行の免除が 6人,復権が63人
平成18年:             刑の執行の免除が 7人,復権が47人
平成17年:             刑の執行の免除が 8人,復権が73人
平成16年:             刑の執行の免除が18人,復権が64人
平成15年:             刑の執行の免除が16人,復権が64人
平成14年:             刑の執行の免除が21人,復権が75人
平成13年:             刑の執行の免除が16人,復権が92人
平成12年:             刑の執行の免除が14人,復権が77人
平成11年:             刑の執行の免除が14人,復権が84人
平成10年:             刑の執行の免除が14人,復権が88人
平成 9年:             刑の執行の免除が11人,復権が81人
平成 8年:       減刑が1人,刑の執行の免除が 5人,復権が82人
平成 7年:       減刑が2人,刑の執行の免除が11人,復権が70人
平成 6年:       減刑が4人,刑の執行の免除が10人,復権が55人
平成 5年:特赦が 2人,減刑が1人,刑の執行の免除が 9人,復権が45人
平成 4年:特赦が20人,減刑が3人,刑の執行の免除が20人,復権が53人
平成 3年:             刑の執行の免除が 2人,復権が28人
平成 2年:特赦が 1人,減刑が5人,刑の執行の免除が 8人,復権が62人
平成 1年:特赦が 6人,減刑が3人,刑の執行の免除が20人,復権が52人
(昭和時代)
昭和63年:                刑の執行の免除が 14人,復権が 97人
昭和62年:特赦が 1人,         刑の執行の免除が 22人,復権が 73人
昭和61年:特赦が 1人,         刑の執行の免除が 47人,復権が151人
昭和60年:        減刑が  1人,刑の執行の免除が 45人,復権が141人
昭和59年:                刑の執行の免除が 38人,復権が197人
昭和58年:        減刑が  1人,刑の執行の免除が 59人,復権が158人
昭和57年:特赦が  2人,        刑の執行の免除が 43人,復権が158人
昭和56年:                刑の執行の免除が 29人,復権が 91人
昭和55年:特赦が  2人,減刑が  2人,刑の執行の免除が 30人,復権が160人
昭和54年:        減刑が  4人,刑の執行の免除が 28人,復権が143人
昭和53年:特赦が  5人,減刑が  7人,刑の執行の免除が 47人,復権が187人
昭和52年:        減刑が  9人,刑の執行の免除が 30人,復権が165人
昭和51年:特赦が  4人,減刑が 19人,刑の執行の免除が 45人,復権が155人
昭和50年:特赦が 16人,減刑が 43人,刑の執行の免除が 58人,復権が139人
昭和49年:特赦が 26人,減刑が 35人,刑の執行の免除が 55人,復権が 86人
昭和48年:特赦が105人,減刑が 47人,刑の執行の免除が 97人,復権が165人
昭和47年:特赦が133人,減刑が 19人,刑の執行の免除が 46人,復権が116人
昭和46年:特赦が 33人,減刑が 29人,刑の執行の免除が 54人,復権が109人
昭和45年:特赦が 35人,減刑が 45人,刑の執行の免除が 36人,復権が 55人
昭和44年:特赦が410人,減刑が170人,刑の執行の免除が106人,復権が166人
昭和43年:特赦が  6人,減刑が 28人,刑の執行の免除が 20人,復権が 32人
(2) 平成9年以降の常時恩赦において,特赦及び減刑が認められたことはなく,刑の執行の免除及び復権が認められているだけです。
   そして,刑の執行の免除は,主として無期刑仮釈放者について行われています。
   また,復権は,主として罰金刑受刑者に対する法令上の資格制限を取り除くために行われています。例えば,赤切符による罰金前科のある,医師国家試験合格者が欠格事由としての罰金前科(医師法4条3号)を抹消するために行われています(平成18年4月6日の参議院法務委員会における杉浦正健法務大臣の答弁参照)。
   そのため,このような場合に該当しない限り,常時恩赦が認められることはありません。
(3)ア 平成17年版犯罪白書の「第5節 恩赦」には以下の記載があります(「仮出獄」は現在,「仮釈放」といいます。)(改行を追加しました。)。
   刑の執行の免除は,主として無期刑仮出獄者が更生したと認められる場合に,保護観察を終了させる措置として行われており,復権は,更生したと認められる者が前科により資格を喪失し又は停止されていることが社会的活動の障害となっている場合に,その資格を回復させるものである。
いずれも,これらの者の社会復帰を促進する刑事政策的役割を果たしている。

イ 仮釈放された無期刑受刑者は,社会内処遇ということで,刑の執行の免除がない限り,一生,保護観察を受け続けることになります(更生保護法40条及び48条3号)。
(4) 受刑中の者については,刑の執行停止又は仮釈放で対応すれば足りますから,昭和54年から昭和63年までの間に,常時恩赦の対象となった人はいません(法律のひろば1989年4月号28頁参照)。
(5) e-Stat HP(「保護統計」,「恩赦」等での検索結果)に,平成18年以降の,恩赦に関するエクセルの統計資料が載っています。

2 無期刑受刑者の仮釈放
(1) 平成20年11月,「無期刑受刑者の仮釈放に係る勉強会」の報告書が法務大臣に提出されました。
(2)ア 法務省HPの「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について」に掲載されている「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」(令和元年11月)等によれば,平成20年以降の無期刑仮釈放者の人数の推移は以下のとおりです。
平成20年: 5人,平成21年: 6人,平成22年: 9人
平成23年: 8人,平成24年: 8人,平成25年:10人
平成26年: 7人,平成27年:11人,平成28年: 9人
平成29年:11人,平成30年:10人
イ 平成21年以降に死亡した無期刑受刑者数の推移は以下のとおりです。
平成20年: 7人,平成21年:14人,平成22年:21人
平成23年:21人,平成24年:14人,平成25年:14人
平成26年:23人,平成27年:22人,平成28年:27人
平成29年:30人,平成30年:24人
(3) 法務省HPに載ってある「平成30年版 犯罪白書」の「第1節 仮釈放と生活環境の調整」に,無期刑仮釈放許可人員の推移が載っています(無期刑の仮釈放が取り消された後,再度仮釈放を許された人を除いた数字です。)。
(4)ア 無期懲役が確定し,矯正施設において服役している者の数は,平成12年8月1日現在,904人です(平成12年10月3日付の「衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書」参照)。
イ 平成29年末時点で刑事施設に在所中の無期刑受刑者(年末在所無期刑者)は,1795人です(法務省HPの「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について」に掲載されている,「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」(平成30年11月)参照)。
(5)ア 刑法28条からすれば,無期刑受刑者は10年を経過した時点で仮釈放される可能性があるものの,平成29年の無期刑仮釈放者の平均受刑在所期間は33年2月です。
イ 「量刑制度を考える超党派の会の刑法等の一部を改正する法律案(終身刑導入関係)」に対する日弁連意見書(2008年11月18日付)3頁には以下の記載があります。
(山中注:無期刑)仮釈放者の平均在所期間も,1989年から1994年までは18~19年(ただし,1990年は20年3月)であったものが,1995年以降は20年を常時超え,漸増を続け,2004年には25年を超え,2007年には31年10月にまで至っている(矯正統計年報)。平均在所期間が25年間から31年間に達しているということを考えると,仮釈放までの25年から30年をはるかに超える者が多数いることが容易に推定できる。
ウ 日弁連HPの「無期刑受刑者に対する仮釈放制度の改善を求める意見書」(平成22年12月17日付)には以下の記載があります。
   近年、無期刑受刑者の数が著しく増加する中、無期刑受刑者の仮釈放件数は逆に減少の一途をたどり、無期刑の事実上の終身刑化が進行している。こうした中、安全な社会復帰が見込める状態となり、本来であれば仮釈放の対象となるべき受刑者までもが仮釈放とされず、ひいては刑事施設内で生涯を終える事態が生じている。
(6)ア 犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務規程(平成20年4月23日付の法務大臣訓令)1/32/3及び3/3を掲載しています。
イ 犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務の運用について(平成20年5月9日付の法務省矯正局長及び保護局長の依命通達)1/32/3及び3/3を掲載しています。
ウ 長期刑受刑者に対する仮釈放の審理及び仮釈放者に対する処遇等の充実について(平成20年5月9日付の法務省保護局長通達)を掲載しています。
(7) 法務省HPの「無期刑及び仮釈放制度の概要について」には,「仮釈放の判断基準」として以下の記載があります。
ア 法律上の規定
   刑法第28条注2によれば,このような無期刑受刑者について仮釈放が許されるためには,刑の執行開始後10年が経過することと,当該受刑者に「改悛の状」があることの2つの要件を満たすことが必要とされています。
イ 省令上の規定
   どのような場合に「改悛の状」があると言えるのかについては,社会内処遇規則第28条に基準があり,具体的には,「(仮釈放を許す処分は,)悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがなく,かつ,保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし,社会の感情がこれを是認すると認められないときは,この限りでない。」と定められています。
ウ さらに詳細な規定
   「悔悟の情」や「改善更生の意欲」,「再び犯罪をするおそれ」,「保護観察に付することが改善更生のために相当」,「社会の感情」については,それぞれ,次のような事項を考慮して判断すべき旨が通達により定められています。

   例えば,「悔悟の情」については,受刑者自身の発言や文章のみで判断しないこととされており,「改善更生の意欲」については,被害者等に対する慰謝の措置の有無やその内容,その措置の計画や準備の有無,刑事施設における処遇への取組の状況,反則行為等の有無や内容,その他の刑事施設での生活態度,釈放後の生活の計画の有無や内容などから判断することとされています。
   また,「再び犯罪をするおそれ」は,性格や年齢,犯罪の罪質や動機,態様,社会に与えた影響,釈放後の生活環境などから判断することとされ,「保護観察に付することが改善更生のために相当」については,悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがないと認められる者について,総合的かつ最終的に相当であるかどうかを判断することとされています。
   そして,「社会の感情」については,被害者等の感情,収容期間,検察官等から表明されている意見などから,判断することとされています。
(8) 衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書(平成12年10月3日付)には以下の記載があります。
   戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮出獄中の者を除く。)は八十六人である。なお、無期懲役が確定した後、昭和三十五年以降に個別恩赦により減刑された者はいない。
   また、戦後、無期懲役が確定した後、政令恩赦により減刑された者については、十分な資料がないため、総数は不明である。なお、最後に政令恩赦により減刑が行われたのは、昭和二十七年四月の日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)の発効に際してである。

3 無期刑受刑者の仮釈放に関する国会答弁
(1) 今福章二法務省保護局長は,平成31年3月20日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 仮釈放制度は、出所者の実社会への適応を促して社会へのソフトランディングを図るという刑事政策上極めて重要な意義を有しております。そして、出所後に保護観察官や保護司が指導監督や補導援護を行うことで再犯を防止するという効果があるとも認識をしております。この点、無期刑受刑者につきましても違いはなく、同様の意義や効果を有していると認識しております。
   しかしながら、無期刑受刑者につきましては、重大な犯罪をしたことにより、終身にわたって刑事施設に収容され得ることを踏まえ、その仮釈放の判断は、地方更生保護委員会が仮釈放の許可基準に照らして、個別の事案ごとに特に慎重かつ適正に判断しているものと認識しております。
② ただいま委員が御紹介いただきましたとおり、平成二十九年末における無期刑在所者数は千七百九十五人のところ、同年中に仮釈放された無期刑受刑者は八人、その平均受刑在所期間は約三十三年二月となっております。
   無期刑受刑者と有期刑受刑者の仮釈放制度の運用状況を一概に比較することは困難ではございますけれども、参考までに申し上げますと、平成二十九年末における有期刑在所者数は四万四千九百七人のところ、同年中に仮釈放された有期刑受刑者は一万二千七百四十九人でございます。
③ この比較(山中注:有期刑と無期刑の比較)が難しゅうございまして、有期刑の方につきましては必ず刑期の終期というものがございます。その終期が来たときに、刑務所を出る仕方に仮釈放と満期釈放の両者しかないものですから、全体の中の仮釈放は幾らかというふうな計算が成り立つわけであります。それが現在、先ほど申し上げたものでいきますと五八%ほどとなるんですが、無期刑受刑者につきましては終期が刑法上ありませんから、そういう計算が成り立たないということで、単純な比較が難しいところでございます。
④ まず、受刑者の仮釈放を許すか否かにつきましては、地方更生保護委員会の専権に属しておりまして、個別の事案ごとに、三人の委員から成る合議体におきまして、御指摘の法の規定も含めた仮釈放の許可基準に照らしまして、この許可基準と申しますのは、悔悟の情、改善更生の意欲、再び犯罪をするおそれ、保護観察に付することが改善更生のために相当であるか、そして社会の感情が仮釈放を是認するかということでございますが、これらを考慮して判断しているところでございます。
   無期刑受刑者につきましては、重大な犯罪をしたことにより終身にわたって刑事施設に収容され得ることを踏まえまして、その仮釈放の判断は、この仮釈放の許可基準に照らしまして、先ほども申し上げましたが、個別の事案ごとに特に慎重かつ適正に行われております。
   お尋ねの無期刑仮釈放者の平均在所期間は、地方更生保護委員会による個々の事案についての判断の積み重ねの結果であると承知しております。
(2) 小山太士法務省刑事局長は,平成31年3月20日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 刑法二十八条におきましては、「懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、」「無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。」とされているところでございます。
   この規定の十年となりました制定経緯をひもとかせていただきますと、明治十三年制定の旧刑法におきましては、仮出獄が可能となりますのは、当時存在しました無期徒刑という刑について十五年経過後とされておりましたところ、明治四十年に現行刑法を制定した際に、無期の懲役又は禁錮の刑につき、これを十年としたものでございます。
   その理由でございますが、当時の政府提出案の理由書によれば、改悛の状がある囚人であるならば長期間在監させる必要がない、在監期間を長くすると囚人を自暴自棄に陥らせる弊害があるなどとされているものと承知しております。この規定が現在も維持されているところでございます。
② 御指摘の通達(山中注:最高検マル特無期通達のこと。)でございますが、これは、無期懲役の判決を受けた者の仮釈放の適否につきまして、矯正施設の長や地方更生保護委員会から意見照会を求められた場合における検察官の対応等を定めたものと承知しております。
   御指摘の通達では、特に犯情が悪質な者については、従来の慣行等にとらわれることなく、相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべきであると指摘しているところでございます。
   もっとも、一般に犯情とは、例えば犯罪の動機、手段、方法、被害の大小等の犯罪事実そのものの内容、あるいはこれと密接な関連を持つ情状を指すものとされているところでございますが、こうした犯情につきましては個々の事件ごとに様々でございまして、その内容を一概に申し上げることは困難でございます。
   また、御指摘ございます刑法二十八条で無期懲役刑につきましては十年を経過した後に仮釈放することができるとされておりますところ、お尋ねの通達における相当長期間にわたり服役させる場合とは、時期経過後、比較的早期に仮釈放を許すべきではない場合との趣旨で用いられておりますものの、これにつきましても個々の事件ごとに犯情が異なりますので、これを一概に申し上げることは困難でございます。

4 関連記事
① 恩赦の効果
② 恩赦に関する記事の一覧
③ 仮釈放
④ 仮釈放に関する公式の許可基準
⑤ マル特無期事件
⑥ 保護観察制度
 前科抹消があった場合の取扱い

恩赦の手続

目次
第1 総論

1 恩赦の種類
2 政令恩赦
3 個別恩赦
4 弁護士が代理人として恩赦の出願ができること
5 その他
第2 恩赦の出願
1 恩赦の出願先
2 恩赦の出願ができるようになる時期
3 恩赦願書の記載事項及び添付書類
第3 刑事施設の長等が行う上申
1 上申権者
2 恩赦上申書及び調査書の記載例
第4 中央更生保護審査会等が行う手続
1 中央更生保護審査会の位置づけ
2 中央更生保護審査会の審査基準
3 恩赦を実施しない場合の手続
4 恩赦を実施する場合の手続
第5 特別恩赦基準における「かんがみ事項」等
1 特別基準恩赦における「かんがみ事項」
2 常時恩赦における調査事項
3 仮釈放を許可する基準
第6 恩赦に関する法令及び訓令・通達
1 恩赦に関する法令
2 恩赦に関する訓令・通達
3 平成時代の特別恩赦基準に関する法務省の通達等
4 選挙事務の取扱いに関する自治省及び総務省の通達
第7 恩赦の実績
1 常時恩赦の実績
2 特別基準恩赦の実績
第8 令和元年の御即位恩赦の申請の弁護士費用及び依頼方法(令和元年10月29日追加)
1 令和元年の御即位恩赦の申請の弁護士費用
2 令和元年の御即位恩赦の申請の依頼方法
第9 関連記事
   
第1 総論

1 恩赦の種類
   恩赦を実施方法で分けた場合,政令恩赦及び個別恩赦の二種類があります(憲法7条6号,73条7号)。
2 政令恩赦
(1) 政令で罪の種類,基準日等を定め,該当する者に対して一律に行うものであり,大赦,減刑及び復権がこの方法で行われます。
   具体的には,大赦令,減刑令及び復権令は政令恩赦です。
(2) 復権令は要件を定めて行えば足り(恩赦法9条),大赦令(恩赦法2条)及び減刑令(恩赦法6条)と異なり,罪又は刑の種類を定める必要はありません。
(3) 政令恩赦を実施するに当たり,意見公募手続(「パブリックコメント」又は「パブコメ」ともいいます。)(行政手続法39条)を実施する必要はありません(行政手続法3条2項2号)。
(4) 令和元年10月22日の御即位恩赦における政令恩赦は,復権令(令和元年10月22日政令第131号)だけでした。
3 個別恩赦
(1) 特定の人に対して個別的に中央更生保護審査会の審査を経た上で行われるものであり,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権がこの方法で行われます。
(2) 個別恩赦には以下の二種類があります。
① 常時恩赦
   普段から随時,個別的に行われる恩赦です。
② 特別基準恩赦
   国家的慶弔などの際に,内閣が閣議決定で定める基準により,一定の期間に限り個別的に行われる恩赦です。
(3) 特別基準恩赦は内閣が閣議決定で定める基準に基づいて行われますから,政令恩赦に近い性格を帯びるものの,個別恩赦の一種です。
(4) 上申権者に対して恩赦申請(恩赦願書の提出)をした場合,相当又は不相当の意見を付した上申権者の上申に基づき,個別恩赦を実施するかどうかについて,中央更生保護審査会の審査が開始します。

4 弁護士が代理人として恩赦の出願ができること
(1)  「恩赦上申事務規程解説」の第12条関係4に「恩赦の出願は本人自身が行うことが望ましいが,代理人によっても可能である。この場合には,代理権限を証する書面を徴し, これを恩赦上申書に添付する必要がある。」と書いてあります。
(2)ア 自力で恩赦出願をした後に中央更生保護審査会において恩赦不相当とされた場合,これを争う手段は一切ありません。
   そのため,①罰金前科が2個以上あるとか,②過失運転致傷罪その他被害者のいる犯罪による罰金前科であるとか,③免許取消又は免許停止の処分を受けたことがあるなど,情状面で不利な事情がある場合,最初から恩赦実務に精通した弁護士に恩赦願書及び身上関係書並びに疎明資料を代理人として準備してもらう方が安全です。
イ 過去5年間の交通違反,免許停止又は免許取消しの年月日については,自動車安全運転センターの都道府県事務所において,運転記録証明書を取得することで確認できます(自動車安全運転センターHP「運転経歴に係る証明書」参照)。
ウ TAXI JOB「タクシー会社に提出が求められる?運転記録証明書について」には,「運転記録証明書は、申し込みをしてから3日後に自動車安全運転センターにて、受け取ることができます。郵送を選択した場合には、1週間から10日ほどで自宅などに届きます。」と書いてあります。
5 その他
(1) 恩赦は,刑事政策的には仮釈放及び保護観察制度と基本的思想において共通するものです(法律のひろば1989年4月号29頁参照)。
(2) 恩赦は,ある政治上又は社会政策上の必要から司法権行使の作用又は効果を,行政権で制限するものです(プラカード事件に関する最高裁大法廷昭和23年5月26日判決)。
(3) 大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権の効果については,「恩赦の効果」を参照してください。

皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)からの抜粋
   
第2 恩赦の出願
1 恩赦の出願先
(1) 特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願をする場合

ア 被収容者は刑事施設の長,保護観察中の者は保護観察所の長,その他の者は有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官(「有罪裁判対応検察官」といいます。)に対し,特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願を行えます(恩赦法施行規則1条の2)。
イ 例えば,保護観察が付いていない執行猶予中の人が,刑期及び執行猶予期間の両方を短縮して欲しいという減刑の出願をする場合,それが大阪地裁の有罪判決に基づくものであった場合,大阪地検の検察官が有罪裁判対応検察官となりますところ,後述するとおり上申権者は検察庁の長ですから,大阪地検検事正に対して減刑の出願を行うこととなります。
(2) 復権の出願をする場合
ア 保護観察に付されたことのある者は保護観察所の長,その他の者は有罪裁判対応検察官に対し,復権の出願を行えます(恩赦法施行規則3条)。
イ 例えば,刑務所から仮釈放された後に刑期を満了した人の場合,必ず保護観察に付されています(更生保護法40条)から,保護観察所の長に復権の出願を行うこととなります。
   これに対して罰金を支払った人の場合,それが大阪地裁の有罪判決に基づくものであった場合,大阪地検の検察官が有罪裁判対応検察官となりますところ,後述するとおり上申権者は検察庁の長ですから,大阪地検検事正に対して復権の出願を行うこととなります。
ウ 令和元年の御即位恩赦の場合,罰金復権しかありませんから,有罪裁判対応検察官が復権の出願先となります(ただし,罰金刑の保護観察付執行猶予の言渡しを受け,その後,執行猶予取消になり,罰金刑の執行を終了した場合,復権の出願先は保護観察所となります。)(法務省HPの「よくある御質問」参照)。
(3) 有罪裁判対応検察官の意義
ア 有罪裁判対応検察官とは,有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官をいいますところ,「有罪の言渡し」とは,有罪の言渡しをして確定したことをいいます。
   そのため,「有罪の言渡しをした裁判所」とは,実質的裁判をした裁判所をいうのであって,控訴棄却の言渡しをした控訴裁判所及び上告棄却の言渡しをした上告裁判所をいうわけではありません。
イ 例えば,大阪地裁の無罪判決に対して大阪高検で逆転有罪判決を受けた場合,有罪裁判対応検察官は大阪高検の検察官となります。
(4) 支部又は支所が事件を担当していた場合の出願先
ア   恩赦の上申は,刑務所の長,保護観察所の長又は検察庁の長(検事総長,検事長,検事正(区検察庁へ出願されたものを含む。)が行うこととされています。
   刑務支所又は拘置支所に収容されている者,保護観察所支部が現に保護観察を担当し若しくはかつて担当した者,又は検察庁支部若しくは区検察庁に対応する裁判所支部若しくは簡易裁判所において有罪の裁判があった者に係る恩赦願書は,支所又は支部若しくは区検察庁に提出して差し支えないものの,この場合においても,恩赦願書の宛先は支所又は支部の長等ではなく,刑務所の長,保護観察所の長又は検察庁の長(区検察庁にあっては検事正)とする必要があります(法律のひろば1993年8月号51頁参照)。
イ 上申権者が検察庁の長である場合,有罪の裁判が地方裁判所支部又は簡易裁判所でなされた案件に係る恩赦の出願の受理はもちろん,一般的な恩赦に関する照会又は相談の応接は,地方検察庁支部又は区検察庁においても行っています(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)6頁参照)。
ウ 大阪地検管内の区検察庁のうち,本庁及び支部とは別に存在しているのは,羽曳野区検察庁(富田林区検察庁の事務も取り扱っています。)だけです(大阪地検HPの「管内検察庁の所在地・交通アクセス」参照)。
2 恩赦の出願ができるようになる時期
(1) 特別基準恩赦の場合
ア 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)の場合,罰金刑に処せられた者は令和元年10月21日即位礼正殿の儀の前日)までに有罪判決(例えば,略式命令)を受け,令和2年1月21日までに有罪判決が確定していれば,直ちに個別恩赦の出願書を提出することができました。ただし,3ヶ月間の基準日の延長措置が適用される場合を除き,提出期限も令和2年1月21日でした。
イ 
即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)の場合,懲役又は禁錮の受刑者平成2年11月11日(即位礼正殿の儀の前日)までに有罪判決を受け,平成3年2月12日までに有罪判決が確定していれば,直ちに個別恩赦の出願書を提出することができました。ただし,3ヶ月間の基準日の延長措置が適用される場合を除き,提出期限も平成3年2月12日でした。
(2) 常時恩赦の場合
ア 懲役又は禁錮の受刑者の場合,特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願は,刑法28条所定の期間(有期刑の場合,刑期の3分の1であり,無期刑の場合,10年)が経過するまではすることができません(恩赦法施行規則6条1項3号及び4号参照)。
イ 復権の出願は,刑の執行を終わり又は執行の免除のあった後でなければできません(恩赦法施行規則7条)。
ウ 刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官が本人の出願によりした特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権の上申が理由のないときは,その出願の日から1年を経過した後でなければ,更に出願をすることができません(恩赦法施行規則8条)。
3 恩赦願書の記載事項及び添付書類
(1) 恩赦願書の記載事項
ア 
恩赦の出願書(書類の表題は「恩赦願書」です。)には以下の事項を記載し,かつ,戸籍の謄抄本を添付しなければなりません(恩赦法施行規則9条)。
① 出願者の氏名,出生年月日,職業,本籍及び住居
② 有罪の言渡しをした裁判所及び年月日
③ 罪名,犯数,刑名及び刑期又は金額
④ 刑執行の状況
⑤ 上申を求める恩赦の種類
⑥ 出願の理由
イ 恩赦の願書は,できる限り所定の様式によることが望ましい(恩赦上申事務規程12条1項)ものの,この様式によらないものでも,恩赦法施行規則9条1項の要件を具備しているものは,適法な願書として受理してもらえます(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)7頁及び8頁参照)。
(2) 恩赦願書の添付書類
ア 戸籍の謄本又は抄本は必須の添付書類です恩赦法施行規則9条)
イ 添付することが望ましい書類としては,以下のものがあります(恩赦上申事務規程12条2項参照)。
① 身上関係書
→ 法務省HPの「よくある御質問」に書式が載っています。
② 恩赦事由に該当することを証する資料
(3) 恩赦願書の記載例
① 無期刑仮釈放者の刑の執行の免除の例
② 対象刑が2刑ある有期刑仮釈放者の復権の例

恩赦願書の記載例(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書からの抜粋)



身上関係書の記載例(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
からの抜粋)
   

第3 刑事施設の長等が行う上申
1 上申権者
(1) 特赦,減刑又は刑の執行の免除の上申

ア 本人から出願を受けた刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官は,意見を付して中央更生保護審査会更生保護法4条)
にその上申をしなければなりません(恩赦法施行規則1条の2第2項)。
イ 刑事施設の長等が行う,特赦,減刑又は刑の執行の免除の上申に当たっては,出願書に添えて,以下の書類を提出しなければなりません(恩赦法施行規則2条1項及び2項)。
① 判決の謄本又は抄本
② 刑期計算書
③ 犯罪の情状,本人の性行,受刑中の行状,将来の生計その他参考となるべき事項に関する調査書類
④ 恩赦願書の謄本
(2) 復権の上申
ア 本人から出願を受けた刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官は,意見を付して中央更生保護審査会にその上申をしなければなりません(恩赦法施行規則3条2項)。
イ 刑事施設の長等が行う,復権の上申に当たっては,出願書に添えて,以下の書類を提出しなければなりません(恩赦法施行規則4条1項,4条2項・2条2項)。
① 判決の謄本又は抄本
② 刑の執行を終わり又は執行の免除のあったことを証する書類
③ 刑の免除の言渡しのあった後又は刑の執行を終わり若しくは執行の免除のあった後における本人の行状、現在及び将来の生計その他参考となるべき事項に関する調査書類
④ 恩赦願書の謄本
(3) 刑務所長又は保護観察所の長が上申権者となっている理由
ア 受刑者については,その者の性行及び行状をよく知っている関係から,収容先の刑務所長が上申権者となっています。
イ 保護観察中の者については,その保護観察をつかさどる者がよく本人の性行及びその後の事情等について詳しく知っている関係から,保護観察所の長が上申権者となっています。
(4) 検察官が行う上申における上申権者
   検察官の上申は,恩赦上申事務の重要性に鑑み,最高検察庁の検察官がすべきものについては検事総長,高等検察庁の検察官がすべきものについては検事長,地方検察庁の検察官又は区検察庁の検察官がすべきものについては検事正が行うものとされています(恩赦上申事務規程の運用について(昭和58年12月23日付の法務省刑事局長・矯正局長・保護局長依命通達)1の(1))。
(5) 複数の罰金刑がある場合における上申事務
   2個以上の裁判により複数の罰金に処せられた者で, その有罪裁判対応検察官を異にするものについての特別復権の上申は, 出願を受けた有罪裁判対応検察官が他の有罪裁判対応検察官の意見を聴取し, これを書面上明らかにした上で一括して行います(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)第3の2の
(3))参照)。
2 恩赦上申書及び調査書の記載例
(1)ア 恩赦上申書の記載例を以下のとおり掲載しています。
① 職権で刑の執行の免除の上申をする場合
② 出願を受けて復権の上申をする場合
③ 出願を受けて特赦又は復権の上申をする場合
④ 出願を受けて減刑の上申をする場合
イ 恩赦上申書(甲)は職権で上申をする場合の書式であり,恩赦上申書(乙)は出願を受けて上申をする場合の書式です。
(2) 調査書の記載例を以下のとおり掲載しています。
① 罰金刑に処せられた者の特赦又は復権の例
② 無期刑受刑者の減刑の例
③ 無期刑仮釈放者の刑の執行の免除の例
④ 有期刑仮釈放事件の復権の例


第4 中央更生保護審査会等が行う手続
1 中央更生保護審査会の位置づけ
(1) 中央更生保護審査会(略称は「中更審」です。)は,更生保護法4条に基づき法務省に設置されており,国家行政組織法上は,いわゆる8条機関です。
(2) 個別恩赦は,中央更生保護審査会の審査の結果,相当と認めた者に対してのみ実施されます(更生保護法4条2項1号参照)。
(3) 中央更生保護審査会は,上申を待たずに職権で個別恩赦の当否を審査することは許されず,すべて上申権者の上申を待って,その当否を決定する仕組みになっています恩赦法施行規則1条参照)
2 中央更生保護審査会の審査基準
(1) 中央更生保護審査会は,恩赦を実施すべきである旨の申出を法務大臣に対してする場合,あらかじめ,申出の対象となるべき者の性格,行状,違法な行為をするおそれの有無,その者に対する社会の感情その他の事項について、必要な調査を行う必要があります(更生保護法90条1項)。
(2) 中央更生保護審査会は,刑事施設若しくは少年院に収容されている者又は労役場に留置されている者について,特赦,減刑又は刑の執行の免除の申出をする場合,その者が,社会の安全及び秩序を脅かすことなく釈放されるに適するかどうかを考慮しなければなりません(更生保護法90条2項)。
(3) 令和元年9月20日付の法務省保護局総務課恩赦係からの手紙によれば,中央更生保護委員会がする,特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権の実施についての申出に関する内規は存在しません。
3 恩赦を実施しない場合の手続
(1)   中央更生保護審査会は,特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権の上申が理由のないときは,上申をした者(=刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官)にその旨を通知しなければならず,この通知を受けた者は,出願者にその旨を通知しなければなりません(恩赦法施行規則10条)。
(2) 恩赦に係る保有個人情報については個人情報開示請求の対象ではありません(行政機関個人情報保護法45条1項)から,個人情報開示請求によって,自分の恩赦申請に関する処理の状況を知ることはできません。
(3) 中央更生保護審査会による恩赦不相当の議決に対する救済手段は設けられていません(「恩赦制度の概要」6頁及び7頁)。
4 恩赦を実施する場合の手続
(1)ア 中央更生保護審査会は,審査の結果,恩赦相当という結論に達した場合,「法務大臣に対し恩赦の申出をする」旨の議決をし,法務大臣に対し,その申出をします(更生保護法4条2項1号)。
イ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)9頁には以下の記載があります。
   審査会による恩赦上申の受理から恩赦の決定までの所要期間は通常おおむね3か月程度と見込まれるが,今次特別基準恩赦においては,罰金に処せられた者の出願により審査件数の増加が見込まれる上,諸般の事情から,特に迅速な処理が要請されると考えられるので,恩赦の上申に当たり,選挙期日の切迫等緊急を要する場合には弾力的運用を図り,いやしくも事務の遅滞により恩赦決定が本人の必要とする期日を徒過することのないよう上申手続を執る必要がある。このような案件については,緊急を要する理由を付せん等で明示すべきである。
(2) 中央更生保護審査会から恩赦の申出を受けた法務大臣は,恩赦の実施について閣議を請議し(内閣法4条3項),これを受けた内閣は,恩赦相当である場合はその旨を決定し(憲法73条7号),直ちに天皇の認証を受け(憲法7条6号),ここにおいて恩赦の効力が発生します。
5 恩赦の効力が発生した後の手続
(1) 特赦,特定の者に対する減刑,刑の執行の免除又は特定の者に対する復権があったときは,法務大臣は中央更生保護審査会をして,有罪裁判対応検察官に特赦状,減刑状,刑の執行の免除状又は復権状(いわゆる「恩赦状」です。)を送付させます(恩赦法施行規則11条1項)。
(2)ア 恩赦状の送付を受けた検察官は,自ら上申をしたものであるときは(「自庁上申」の場合です。),直ちにこれを本人に交付し,その他の場合(「刑務所上申」又は「観察所上申」の場合です。)においては,速やかにこれを上申をした者に送付し,上申をした者は,直ちにこれを本人に交付しなければなりません(恩赦法施行規則11条2項)。
イ 検察官,刑事施設の長又は保護観察所の長が本人に恩赦状を交付するに当たっては,恩赦法の趣旨,恩赦の行われた意義その他必要と認める事項を説示することとなっています(恩赦上申事務規程の運用について(昭和58年12月23日付の法務省刑事局長・矯正局長・保護局長依命通達)2の(2))。
(3) 恩赦状を本人に交付した者は,速やかにその旨を法務大臣に報告しなければなりません(恩赦法施行規則12条)。
(4)ア 恩赦状の送付を受けた検察官は,裁判書原本に恩赦事項を付記します(恩赦法14条,恩赦法施行規則13条)。
イ 恩赦事項を付記すべき裁判書原本が複数あり, その有罪裁判対応検察官を異にするときは,復権状の送付を受けた検察官は,他の有罪裁判対応検察官にその写しを送付します(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)第9の8)。
(5) 恩赦があった場合,地方検察庁の本庁の犯歴担当事務官は,本籍市区町村長に対し,恩赦事項通知書を送付して恩赦に関し必要な事項を通知します(犯歴事務規程4条及び8条)。


恩赦事項通知書(甲)(犯歴事務規程様式第4号)→電算処理の対象となる犯歴で使用するもの

恩赦事項通知書(乙)(犯歴事務規程様式第22号)→電算処理の対象とならない犯歴で使用するもの
   
第5 特別恩赦基準における「かんがみ事項」等
1 特別基準恩赦における「かんがみ事項」
(1) 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」は,恩赦を行うに当たっての一般的な判断基準であって,「かんがみ事項」といいます。
(2)ア 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)9頁及び10頁によれば,それぞれの考慮要素の具体的内容は以下のとおりです。
① 「犯情」とは,犯罪の軽重を含む犯罪の情状をいいます。
② 「本人の性格」とは,性質,素行,知能程度,精神的疾患の有無を含む健康状態,遺伝,常習性の有無等をいいます。
   事案にもよりますが,凶悪重大事犯やいわゆる傾向犯の対象者については, この調査はかなり重要な要素を占め, この認定に資する資料はできる限り添付する必要があります。
   受刑者については,刑務所における分類調査の結果が重要な資料となりますし,出願に当たって提出される「身上関係書」の性格の記載内容も参考とされます。
③ 「行状」とは, 当該犯罪行為以外の一般的な生活態度をいい,刑の言渡し以前のものをも含みます。
④ 「犯罪後の状況」とは,改しゅんの情及び再犯のおそれの有無のほか,服役中の行状,保護観察中の行状,保護観察終了後恩赦出願までの行状を含むものの,必ずしも両者は明確に区別できるものではありません。
⑤ 「社会の感情」とは,第一義的には犯行及び恩赦に対する地域社会(犯罪地,本人の居住地及び在監者の帰住予定地)の感情を指すこととなるものの, さらにこれを踏まえて,広い視野からの良識ある社会人の法感情に基づく評価をも考慮すべきであります。
   また,応報感情の融和が刑罰の機能の一つであることにかんがみ,社会一般及び被害者(遺族)の応報感情が融和されているか否かについても重視しなければなりません。
⑥ 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況.社会の感情等」には,共犯者との均衡,近親者の状況等が含まれます。
イ 「犯情」は,判決書に記載されているものです。
2 常時恩赦における調査事項
(1) 常時恩赦における調査事項を定める更生保護法90条は以下のとおりです。
① 審査会は、前条の申出をする場合には、あらかじめ、申出の対象となるべき者の性格、行状、違法な行為をするおそれの有無、その者に対する社会の感情その他の事項について、必要な調査を行わなければならない。
② 審査会は、刑事施設若しくは少年院に収容されている者又は労役場に留置されている者について、特赦、減刑又は刑の執行の免除の申出をする場合には、その者が、社会の安全及び秩序を脅かすことなく釈放されるに適するかどうかを考慮しなければならない。
(2) 法務省HPの「第1回更生保護の犯罪被害者等施策の在り方を考える検討会(令和元年5月16日)」「配布資料1 更生保護制度の概要」2頁には以下の記載があります。
   保護観察所長による中央更生保護審査会に対する常時恩赦の上申に先立って,保護観察所が行う被害者等の感情などの調査が行われている。
   実際には,被害者等の居住地を管轄する保護観察所の保護観察官が,文書で調査を受けるか否か等の意向を確認のうえ,被害者等のもとを訪問し,被害者等から,加害者の恩赦についての考えや気持ちを聴取する方法で,行われることが通例。
3 仮釈放を許可する条件
(1) 仮釈放について定める刑法28条は以下のとおりです(刑法28条の「行政官庁」は,地方更生保護委員会です。)。
    懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。
(2)ア 犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(略称は「社会内処遇規則」です。)28条は以下のとおりです。
   法第三十九条第一項に規定する仮釈放を許す処分は、懲役又は禁錮の刑の執行のため刑事施設又は少年院に収容されている者について、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない。
イ 社会内処遇規則28条は,仮釈放を許可する条件は以下の4つであると定めています。
① 悔悟の情及び改善更生の意欲があること
② 再び犯罪をするおそれがないこと
③ 保護観察に付することが改善更生のために相当であること
④ 社会の感情が仮釈放を是認すること
ウ  「仮釈放に関する公式の許可基準」も参照してください。
   

第6 恩赦に関する法令及び訓令・通達
1 恩赦に関する法令
(1) 根拠法令は以下のとおりです。

① 恩赦法(昭和22年3月28日法律第20号)
② 恩赦法施行規則(昭和22年10月1日司法省令第78号)
③ 更生保護法(平成19年6月15日法律第88号)
・ 犯罪者予防更生法及び執行猶予者保護観察法を整理・統合した法律であり,平成20年6月1日に施行されました。
④ 更生保護法施行令(平成20年4月23日政令第145号)
(2) 恩赦法に関する政令はありません(
法務省保護局HP「関係法令」参照)。
   また,更生保護事業法(平成7年5月8日法律第86号)に恩赦に関する定めはありません。
2 恩赦に関する訓令・通達
 恩赦上申事務規程(昭和58年12月23日付の法務大臣訓令)
・ 様式第8号が恩赦願書となっています。
② 恩赦上申事務規程の運用について(昭和58年12月23日付の法務省刑事局長・矯正局長・保護局長依命通達)
・ いわゆる「運用通達」です。
③ 
恩赦上申事務規程の解説の送付について(平成28年3月31日付の法務省保護局総務課長の通知)
・ 恩赦上申事務に関する一通りのことが書いてあります。
④ 恩赦事務処理要領の制定について(平成7年3月13日付の法務省保護局長の通達)
・ 保護観察所における恩赦に関する事務を定めています。
3 平成時代の特別恩赦基準に関する法務省の通達等
(1) 平成元年の昭和天皇御大葬恩赦
① 恩赦の実施について(平成元年2月6日付の法務事務次官の依命通達)
(2) 平成2年の御即位恩赦
① 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成2年11月12日付の法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
② 即位の礼に当たり行う特別基準恩赦の事務処理について(平成2年11月12日付の法務省保護局恩赦課長の通知)
③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成2年11月14日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
(3) 平成5年の皇太子御結婚恩赦
① 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
② 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別基準恩赦の事務処理について(法務省保護局恩赦課長の通知)
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
4 選挙事務の取扱いに関する自治省及び総務省の通達
① 昭和天皇の崩御に際会して行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成元年2月13日付の自治省選挙部長の通知)
② 即位の礼に当たり行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成2年11月12日付の自治省選挙部長の通知)
③ 御結婚恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成5年6月8日付の自治省選挙部長の通知)
④ 即位の礼に当たり行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(令和元年10月22日付の総務省自治行政局選挙部長の通知)
第7 恩赦の実績
1 常時恩赦の実績
(1) 平成9年以降の常時恩赦において,特赦及び減刑が認められたことはなく,刑の執行の免除及び復権が認められているだけです。
   そして,刑の執行の免除は,主として無期刑仮釈放者について行われています。
   また,復権は,主として罰金刑受刑者に対する法令上の資格制限を取り除くために行われています。例えば,赤切符による罰金前科のある,医師国家試験合格者が欠格事由としての罰金前科(医師法4条3号)を抹消するために行われています(平成18年4月6日の参議院法務委員会における杉浦正健法務大臣の答弁参照)。
   そのため,このような場合に該当しない限り,常時恩赦が認められることはありません。
(2) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)28頁には,「常時恩赦の復権において,刑に処せられたことが,本人の就職・就業,結婚に限らず,子女の養育等広く日常の社会生活を営む上で本人の障害となっていれば復権が認められる運用とされている」と書いてあります。
(3) 「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」も参照してください。
2 特別基準恩赦の実績
(1) 平成時代,以下の3つの特別恩赦基準に基づく特別基準恩赦が実施されました(「戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦」参照)。
① 昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定)
(2) 恩赦相当率(恩赦相当件数/総受理件数)は以下の通りでした。
① 昭和天皇の崩御に際会して行う特別基準恩赦の場合,58.3%
② 即位の礼に当たり行う特別基準恩赦の場合,56.7%
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別基準恩赦の場合,75.2%(ただし,罰金刑の復権を除くと44.9%であり,罰金刑の復権に限ると91.3%
(3) 衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書(平成12年10月3日付)には以下の記載があります。
   戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮出獄中の者を除く。)は八十六人である。なお、無期懲役が確定した後、昭和三十五年以降に個別恩赦により減刑された者はいない。
   また、戦後、無期懲役が確定した後、政令恩赦により減刑された者については、十分な資料がないため、総数は不明である。なお、最後に政令恩赦により減刑が行われたのは、昭和二十七年四月の日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)の発効に際してである。




第8 令和元年の御即位恩赦の申請の弁護士費用及び依頼方法
1 令和元年の御即位恩赦の申請の弁護士費用
(1) 令和元年の御即位恩赦(締切は令和2年1月21日です。)の申請を私に依頼される場合の弁護士費用は税込みで以下のとおりです(カッコ内の罰金前科は前科抹消されていない罰金前科のことです。)。
① 法律相談料
・ 30分3000円
② 着手金
・ 11万円    (罰金前科1個の場合)
・ 16万5000円(罰金前科2個の場合)
・ 22万円    (罰金前科3個以上の場合)
③ 成功報酬金
・ 16万5000円(罰金前科1個の場合)
・ 24万7500円(罰金前科2個の場合)
・ 33万円    (罰金前科3個以上の場合)
④ 出張日当(大阪地検本庁は除く。)
・ 1万1000円~2万2000円
⑤ 切手代・レターパック代を除く実費
→ 記録閲覧を要する可能性がある場合,事件終了時に精算する予定の概算実費として2万円以上を頂きます。
(2) 恩赦申請をする実益がある人の例は以下のとおりです。
① 公職選挙法違反の罰金刑で公民権を停止されている人(「選挙違反者にとっての平成時代の恩赦」参照

② 罰金刑を受けたことが,医師,歯科医師,保健師,助産師,看護師,理学療法士,作業療法士,栄養士,調理師等の免許を申請する際の相対的欠格事由となっている人
③ 海外の公的機関(例えば,大使館,移民局)に対し,犯罪経歴証明書を提出する必要がある人(「前科抹消があった場合の取扱い」参照)
(3) ご依頼が多い場合,将来,弁護士費用を値上げをする可能性があります。

恩赦願書の書式(法務省HPの「よくある御質問」に掲載されていたもの)

身上関係書の書式1/2(法務省HPの「よくある御質問」に掲載されていたもの)
身上関係書の書式2/2(法務省HPの「よくある御質問」に掲載されていたもの)
   
2 令和元年の御即位恩赦の申請の依頼方法
(1) 私に法律相談をしたい場合,以下の記事を参照してください。
 私の略歴,取扱事件等
② 弁護士費用
③ 事件ご依頼までの流れ
④ 受任できない事件,事件処理の方針等
(2) 相談予約の電話番号は06-6364-8525です。
(3) メールでのお問い合わせは「お問い合わせ」をご利用ください。
(4) 私の法律相談を受けた後に依頼するかどうかを決めてもらえばいいです。
復権通知書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)

復権証明書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)

   
第9 関連記事
① 恩赦の効果
② 戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦
③ 恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放
④ 昭和時代の恩赦に関する国会答弁
⑤ 死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑
⑥ 選挙違反者にとっての平成時代の恩赦
⑦ 令和元年の御即位恩赦における罰金復権の基準
⑧ 恩赦申請時に作成される調査書
⑨ 前科抹消があった場合の取扱い
⑩ 恩赦に関する記事の一覧
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戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦

目次
1 戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦の実例
2 戦前の恩赦は天皇の大権事項であって,天皇の恩恵的行為であったこと
3 明治憲法時代の恩赦の効力に関する最高裁判決の判示内容
4 関連記事その他

1 戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦の実例
・ 法律のひろば1989年4月号39頁ないし43頁によれば,戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦の実例は以下のとおりです(昭和時代につき平成元年版犯罪白書「5 恩赦」も同旨)。
(1) 明治時代の恩赦
① 明治 元年 1月15日の恩赦
・ 明治天皇の御元服及び御即位に伴い,大赦令及び特別基準恩赦が実施されました。
② 明治 元年 9月 8日の恩赦
・ 明治改元に伴い,減刑令が実施されました。
③ 明治22年 2月11日の恩赦
・ 大日本帝国憲法発布に伴い,大赦令が実施されました(西南戦争を起こした西郷隆盛はこのときの恩赦に赦されました。)。
④ 明治30年 1月30日の恩赦
・ 英照皇太后(孝明天皇の女御)の御大喪に伴い,大赦令(台湾住民が対象)及び減刑令が実施されました。
⑤ 明治43年 8月29日の恩赦
・ 日韓併合に伴い,大赦令(旧韓国法令の罪を犯した者が対象)が実施されました。
(2) 大正時代の恩赦
① 大正 元年 9月26日の恩赦
・ 明治天皇の御大喪に伴い,大赦令及び特別基準恩赦が実施されました。
② 大正 3年 5月24日の恩赦
・ 昭憲皇太后(明治天皇の皇后)の御大喪に伴い,減刑令が実施されました。
③ 大正 4年11月10日の恩赦
・ 大正天皇の御即位に伴い,減刑令及び特別基準恩赦が実施されました。
④ 大正 8年 5月18日の恩赦
・ 皇太子殿下(裕仁親王)の成年式に伴い,特別基準恩赦が実施されました。
⑤ 大正 9年 4月28日の恩赦
・ 王世子 李垠(イ・ウン)(大韓帝国最後の皇太子)のご結婚に伴い,減刑令(朝鮮人が対象)が実施されました。
⑥ 大正13年 1月26日の恩赦
・ 皇太子殿下(裕仁親王)のご結婚に伴い,減刑令及び特別基準恩赦が実施されました。
⑦ 大正14年 5月 8日の恩赦
・ 25歳以上の男子による普通選挙を導入した衆議院議員選挙法の公布に伴い,特別基準恩赦が実施されました。
(3) 昭和時代・戦前の恩赦
① 昭和 2年 2月 7日の恩赦
・ 大正天皇の御大喪に伴い,大赦令,減刑令及び復権令並びに特別基準恩赦が実施されました。
② 昭和 3年11月10日の恩赦
・ 昭和天皇の御大礼に伴い,減刑令及び復権令並びに特別基準恩赦が実施されました。
③ 昭和 9年 2月11日の恩赦
・ 皇太子殿下(明仁親王)ご誕生に伴い,減刑令及び復権令が実施されました。
④ 昭和13年 2月11日の恩赦
・ 憲法発布50周年祝典に伴い,減刑令及び復権令並びに特別基準恩赦が実施されました。
⑤ 昭和15年 2月11日の恩赦
・ 紀元2600年式典に伴い,減刑令及び復権令並びに特別基準恩赦が実施されました。
⑥ 昭和17年 2月18日の恩赦
・ 第一次戦捷祝賀に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。

2 戦前の恩赦は天皇の大権事項であって,天皇の恩恵的行為であったこと
・ 平成2年5月24日の参議院内閣委員会において以下の質疑応答がありました(田渕哲也は民社党参議院議員であり,佐藤勲平は法務省保護局長です。)。
○田渕哲也君 昭和天皇が亡くなられたときにも恩赦が行われましたけれども、天皇崩御という出来事と罪を犯した者が許されるということの関係は一般国民にとっては必ずしも理解できるものではないと思うんです。やはり国民主権の平和憲法のもとでは恩赦制度の性格は昔とは変わってきておるのではないかと思うんです。恩赦は皇室に慶弔があれば必ず実施しなければならないものかどうか、この点はどうですか。
○政府委員(佐藤勲平君) 申し上げます。
   委員申されましたとおりに、恩赦は戦前は天皇の大権事項でありまして、天皇の恩恵的行為というふうに考えられたわけでございますけれども、現行憲法下におきましてはいわゆる刑事政策的配慮というものが強く要求されておるというところがございまして、そのような観点から法的安定性というものを具体的妥当性という理念で修正するというような性格があるものと承知しております。
   ところで、御質問の皇室の慶弔があれば実施しなければならないものかどうかという点につきましては、特に必ず実施するとかしないとか、そういうような定めはございません。ただ、必ず実施しなければならないというわけではございません。

3 明治憲法時代の恩赦の効力に関する最高裁判決の判示内容

(1) 昭和21年5月19日の飯米獲得人民大会(「食糧メーデー」とか「米よこせメーデー」ともいいます。)において,昭和天皇を揶揄する文言を含むプラカードを掲げたことが不敬罪に該当するとして立件されたプラカード事件に関する最高裁大法廷昭和23年5月26日判決は以下のとおり判示しています。
① そもそも恩赦は、ある政治上又は社会政策上の必要から司法権行使の作用又は効果を、行政権で制限するものであつて、旧憲法下でいうならば、天皇の大権に基いて、行政の作用として、既に刑の言渡を受けたものに対して、判決の効力に変更を加え、まだ、刑の言渡を受けないものに対しては、刑事の訴追を阻止して、司法権の作用、効果を制限するものであることは、大正元年勅令第二〇号恩赦令の規定に徴し明瞭である。であるから、どの判決の効力に変更を加え、又は、どの公訴について、その訴追を阻止するかは、専ら、行政作用の定むるところに従うべきである。
② 大赦の効力に関しては、前示恩赦令は、大赦は、大赦ありたる罪につき、未だ刑の言渡を受けないものについては、公訴権は消滅する旨(恩赦令第三条)を定めている。即ち、本件のごとく公訴繋属中の事件に対しては、大赦令施行の時以後、公訴権消滅の効果を生ずるのである。
③ 裁判所が公訴につき、実体的審理をして、刑罰権の存否及び範囲を確定する権能をもつのは、検事の当該事件に対する具体的公訴権が発生し、かつ、存続することを要件とするのであつて、公訴権が消滅した場合、裁判所は、その事件につき、実体上の審理をすゝめ、検事の公訴にかゝる事実が果して真実に行われたかどうか、真実に行われたとして、その事実は犯罪を構成するかどうか、犯罪を構成するとせばいかなる刑罰を科すべきやを確定することはできなくなる。これは不告不理の原則を採るわが刑事訴訟法の当然の帰結である。
(2) 大正元年勅令第23号恩赦令第3条の条文は以下のとおりでした。
   大赦ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外大赦アリタル罪ニ付左ノ効力ヲ有ス。
一 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ニ付テハ其ノ言渡ハ将来ニ向テ効力ヲ失フ。
二 未ダ刑ノ言渡ヲ受ケザル者ニ付テハ公訴権ヲ消滅ス

4 関連記事その他
(1) 昭和時代の戦前の恩赦では,昭和17年2月18日の恩赦を除き,減刑令が実施されていました。
(2) 戦後の恩赦では,昭和27年4月28日の恩赦を最後に,減刑令は実施されていません。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦
・ 仮釈放
・ 仮釈放に関する公式の許可基準
・ 恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放
・ 死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑
・ 恩赦制度の存在理由

死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑

目次
第1 死刑囚再審特例法案を成立させる代わりに実施された,死刑囚に対する個別恩赦による減刑
1 死刑囚再審特例法案等に関する国会での発言
2 死刑囚に対する個別恩赦による減刑
3 昭和天皇の御大葬恩赦では,死刑は対象外とされたこと
4 死刑囚に対する恩赦に否定的な政府見解
第2 無期刑の受刑者に対する政令恩赦又は個別恩赦による減刑
1 昭和34年以前の減刑の実例
2 昭和35年以降に減刑された人はいないこと
3 マル特無期事件
第3 関連記事その他

第1 死刑囚再審特例法案を成立させる代わりに実施された,死刑囚に対する個別恩赦による減刑
1 死刑囚再審特例法案等に関する国会での発言
(1) 西郷吉之助法務大臣は,昭和44年7月8日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行をしています。)。
① およそ刑の確定者につきましては、刑政の本義にのっとり、寛厳よろしきを得た執行がなさるべきことは言をまたないところでございます。
    また、犯情、行状並びに犯罪後の状況等にかんがみまして、特に恩赦を行なうことが相当であると認められるものにつきましては、これを行なうべきこともまた当然でございます。
    今般この再審特例法案が提案されましたことを契機といたしまして、この法案の対象となるもののような死刑確定者に対しましては、この際、さらに右の観点から十分の検討を遂げ、恩赦の積極的運用について努力いたしたいと考えておる次第でございます。
② 再審特例法案の対象者は、全国で七名でございます。
    その現在地を地方別に申し上げますと、大阪府二名、福岡県三人、宮城県二名と相なっております。
(2) 再審特例法案については,昭和45年4月15日の衆議院法務委員会において,畑和衆議院議員(社会党)が以下の説明をしています(ナンバリング及び改行をしています。)。
① われわれ社会党のほうで、この前の六十一国会におきまして、俗にいう死刑囚再審特例法でありますが、正確に申しますと死刑の確定判決を受けた者に対する再審の臨時特例に関する法律案、全文十三条からなっております法案を提出いたしました。
    この法案の意味するものは、進駐軍がおりました当時の裁判の結果、死刑を宣告されて、それが確定をして、しかもその死刑の執行をされないで今日までおります七名ほどの人たちのことについて、特にいままでの再審の法規と違って、若干特例を設けて、その人たちに関する限り再審の門を広くしよう、こういうことで提案をいたしました。
    すなわち、従来の再審の法規によりますと、いままでの判決の結果をくつがえすに足りる新たな、「明らかな証拠」がなければならぬということでありますけれども、それを「相当な証拠」というふうに変えて、そして相当の証拠がありさえすれば再審が開始できるということにして入り口を広げてやって、進駐軍がおりました当時、そうした進駐軍の干渉等があったような状況等において行なわれた、しかも死刑、この判決をもう一度再検討してもらいたい、こういうための法案であったのであります。
② この法案について、六十一国会で一、二回は質疑応答がなされたのでありますが、その後与野党の理事の問でいろいろ話をいたしました。特に与党の理事諸君の中にも、われわれの説に耳を傾ける方が相当多うございました。
     非常に熱心なわれわれの先輩の主張するところでもございますし、きわめて人道主義に基づく処置であるということで、何とかしなければならぬというような御気分であられたのでありますけれども、一方また裁判所あるいは法務省等の、いわゆる法の安定というかそういった観点から、そうかりそめに再審の門戸を広げることもどうかといったような意見等もあったようでありまして、その辺与党の理事の方方も、その処置をどうするかでいろいろ考えあぐんでおられた模様でありました。
    その結果、御承知でもあろうと思いますけれども、去年の七月八日の法務委員会におきまして、大臣の答弁という形でこれに終止符を打つことになりました、こういう御相談がございましたので、われわれも大きな立場からその点を了承いたしまして、われわれの案を引っ込めて、そのかわり大臣の答弁によって別の道を選ぶということになったとわれわれは記憶いたしておるわけです。
2 死刑囚に対する個別恩赦による減刑
(1) 昭和43年11月30日から昭和45年1月14日まで法務大臣をしていた西郷吉之助(西郷隆盛の孫です。)は,以下の6事件7人の死刑囚について恩赦の検討を開始した結果,②の死刑囚について昭和45年7月17日,③の死刑囚について昭和44年9月2日,⑤の死刑囚の1人について昭和50年6月17日,無期懲役に減刑しました(Wikipediaの「再審特例法案」参照)。
① 帝銀事件(昭和23年1月26日発生)
→ 帝国銀行(帝銀)は,後の三井銀行です。
② 市川賭博仲間殺人事件(昭和23年5月17日発生)
③ 菅野村(すがのむら)強盗殺人・放火事件(昭和24年6月10日発生)
→ 戦後初の女性死刑囚でした。
④ 財田川事件(昭和25年2月28日発生)
⑤ 福岡ヤミ商人殺人事件(昭和22年5月20日発生)
→ 死刑囚は2人でした。
⑥ 免田事件(昭和23年12月30日発生)
(2) ①の死刑囚は昭和62年5月10日に獄死し,⑤の死刑囚のもう1人は,昭和50年6月17日に死刑を執行されました。
(3)ア ④財田川事件(さいたがわじけん)については昭和59年3月12日に再審無罪となり,⑥免田事件については昭和58年7月15日に再審無罪となりました。
イ ④財田川事件及び⑥免田事件のほか,松山事件(昭和30年10月18日発生)及び島田事件(昭和29年3月10日発生)の4つの事件は,四大死刑冤罪事件です。
(4) ⑤福岡ヤミ商人殺人事件の死刑囚に対する恩赦が現在,死刑囚に対する最後の恩赦事例となっています。
3 昭和天皇の御大葬恩赦では,死刑は対象外とされたこと
・ 昭和天皇御大喪の際の特別基準恩赦では,「無期懲役は、十五年の有期懲役とし、無期禁錮は、十五年の有期禁錮とする。」という特別減刑が定められていました。
   しかし,Wikipediaの夕張保険金殺人事件にあるとおり,死刑囚に対する特別減刑は定められませんでした(「昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)」参照)。
4 死刑囚に対する恩赦に否定的な政府見解
   衆議院議員保坂展人君提出拷問等禁止委員会最終見解のうち、刑事司法・刑事拘禁と入管手続などに関する質問に対する答弁書(平成19年6月15日付)には以下の記載があります。
① 裁判所は、犯罪事実の認定についてはもとより、被告人に有利な情状についても、慎重な審理を尽くした上で死刑判決を言い渡しているものと承知しており、最終的に確定した裁判について速やかにその実現を図ることは、死刑の執行の任に当たる法務大臣の重要な職責であると考えている。仮に再審の請求や恩赦の出願を死刑執行の停止事由とした場合には、死刑確定者が再審の請求や恩赦の出願を繰り返す限り、死刑の執行をなし得ず、刑事裁判を実現することは不可能になり、相当ではないと考えられる。
② 裁判所は、犯罪事実の認定についてはもとより、被告人に有利な情状についても、慎重な審理を尽くした上で死刑判決を言い渡しているものと承知しており、最終的に確定した裁判について速やかにその実現を図ることが重要であると考えており、御指摘のような制度改正(山中注:立法措置等による死刑執行の停止,恩赦制度の実効化を含めた減刑のための制度の改革を含めた制度改正)は相当でないと考えている。

第2 無期刑の受刑者に対する政令恩赦又は個別恩赦による減刑
1 昭和34年以前の減刑の実例
(1) 昭和20年8月24日発生の松江騒擾事件(青年グループ「皇国義勇軍」数十人が武装蜂起し,島根県庁を全焼させるなどした事件)の首謀者は,大審院昭和22年5月2日判決により無期懲役判決が確定したものの,日本国憲法発布恩赦及び講和条約発効恩赦により2回の減刑を受けた後,昭和27年に仮出獄しました。
(2) 昭和21年1月27日発生の和歌山一家8人殺害事件の犯人は死刑判決を受けたものの,罪名が殺人罪だけであったために講和条約発効恩赦により無期懲役に減刑となり,昭和43年春,仮出獄しました。
(3) 昭和24年9月14日発生の小田原一家5人殺害事件の犯人は死刑判決を受けたものの,罪名が殺人罪だけであったために講和条約発効恩赦により無期懲役に減刑となり,昭和45年に仮出獄し,昭和59年7月8日に殺人未遂事件を起こして仮出獄が取り消されたため,平成21年10月27日に獄死しました。
2 昭和35年以降に減刑された人はいないこと
(1) 平成12年10月3日付の「衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書」には以下の記述があります。
①   戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮出獄中の者を除く。)は八十六人である。なお、無期懲役が確定した後、昭和三十五年以降に個別恩赦により減刑された者はいない。
    また、戦後、無期懲役が確定した後、政令恩赦により減刑された者については、十分な資料がないため、総数は不明である。なお、最後に政令恩赦により減刑が行われたのは、昭和二十七年四月の日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)の発効に際してである。
② 加害者の無期懲役が確定した事件の被害者等の感情については、平成八年及び平成十年に、いずれも法務総合研究所が調査を実施している。平成八年の調査においては、刑事確定訴訟記録に基づき、死亡被害者が発生した事件のうち加害者の無期懲役が確定した事件について、遺族の被害感情等に関する調査を行った。平成十年の調査においては、保護観察所を通じて面接を行うことにより、加害者が無期懲役を含む長期の刑の執行を受けている事件について、被害者等の意識に関する調査を行った。

    平成八年の調査の結果によれば、判決確定前の時点において、遺族のうち、七十三・三パーセントの者が加害者を死刑に処することを、十二・三パーセントの者が無期懲役に処することを希望すると述べており、また、八十四・〇パーセントの者が加害者の社会復帰に絶対に反対すると述べている。
   平成十年の調査の結果によれば、事件後平均十九年余りを経過した時点においても、加害者が無期懲役に処せられた事件の被害者等のうち、三十八・二パーセントの者が加害者に対して「憎い」との感情を持ち続けていると答えており、五十五・九パーセントの者が加害者の社会復帰に絶対反対と答えている。
(2) 最高裁大法廷昭和48年4月4日判決は,尊属殺の罪に関する刑法200条(法定刑は死刑又は無期懲役だけでした。)が憲法14条1項に違反すると判示したため,職権上申による個別恩赦まで検討されました(昭和48年5月8日の参議院法務委員会における横山精一郎法務省保護局恩赦課長の答弁参照)ものの,無期懲役から減刑された事例はなかったこととなります。
3 マル特無期事件
(1) 東洋経済オンラインの「新元号「令和」下で実施の「恩赦」はどうなるか 93年の皇太子ご成婚以来、26年ぶり」には以下の記載があります。
   『犯罪白書』によると、17年の死刑確定数は2件。近年、最も多かった07年は23件に上る。無期懲役の確定数も17年は18件だが、05年は134件、06年は135件もあったのだ。こうした量刑の歪みを正す必要があると、石塚氏は指摘する。
   「いまの相場からすると、量刑が重過ぎる人がたくさんいることになります。無期懲役の受刑者が仮釈放になるまで35年くらいかかります。1審死刑判決から2審で無期懲役に減刑されたようなケースは“マル特無期”といって、一生刑務所から出られない。仮釈放しないのが慣行になっているのです。無期懲役の受刑者は全国の刑務所に約1800人いると思われますが、どんどん高齢化しています。職員や他の受刑者が介護しながら、刑務作業をさせていることも少なくないのが現状です」
(2) 「マル特無期事件」に指定された受刑者の場合,終身又はそれに近い期間,服役させられることとなる点で,事実上の終身刑となっています特に犯情悪質等の無期懲役刑確定者に対する刑の執行指揮及びそれらの者の仮出獄に対する検察官の意見をより適正にする方策について(平成10年6月18日付の最高検察庁の次長検事依命通達)」(「最高検マル特無期通達」などといいます。)参照)


第3 関連記事その他
(1) 自由権規約6条4項は「死刑を言い渡されたいかなる者も、特赦又は減刑を求める権利を有する。死刑に対する大赦、特赦又は減刑はすべての場合に与えることができる。」と定めています。
(2) 以下の記事も参照して下さい。
・ 死刑執行に反対する日弁連の会長声明等
・ マル特無期事件
・ 恩赦に関する記事の一覧
・ 戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦
・ 仮釈放

戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦

目次
第1 総論

第2 戦後の政令恩赦(大赦令,減刑令及び復権令)の実例
1 戦後の大赦令の実例
2 戦後の減刑令の実例
3 戦後の復権令の実例
第3 平成元年以降の特別基準恩赦の実例
第4 特別基準恩赦の補足説明
第5 昭和33年4月に参議院を通過した,恩赦法の一部を改正する法律案(廃案)の内容
第6 関連記事その他
   
第1 総論
1 平成9年版犯罪白書「第6節 恩赦」によれば,戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦の骨子は以下のとおりです。
(1) 昭和20年10月17日の恩赦
→ 太平洋戦争終結に伴い,大赦令,減刑令及び復権令,並びに特別基準恩赦が実施されました。
(2) 昭和21年11月 3日の恩赦
→ 日本国憲法公布に伴い,大赦令,減刑令及び復権令,並びに特別基準恩赦が実施されました。
(3) 昭和22年11月 3日の恩赦
→ 太平洋戦争終結の恩赦及び日本国憲法公布の恩赦における減刑令の修正です。
(4) 昭和27年 4月28日の恩赦
→ 対日平和条約発効に伴い,大赦令,減刑令及び復権令並びに特別基準恩赦が実施されました。
(5) 昭和27年11月10日の恩赦
→ 皇太子殿下(明仁親王)立太子礼に伴い,特別基準恩赦が実施されました。
(6) 昭和31年12月19日の恩赦
→ 国際連合加盟に伴い,大赦令及び特別基準恩赦が実施されました。
(7) 昭和34年 4月10日の恩赦
→ 皇太子殿下(明仁親王)ご結婚に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
(8) 昭和43年11月 1日の恩赦
→ 明治百年記念に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
(9) 昭和47年 5月15日の恩赦
→ 沖縄復帰に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
(10) 平成 元年 2月24日の恩赦
→ 昭和天皇の大喪の礼に伴い,大赦令及び復権令,並びに特別基準恩赦が実施されました。
(11) 平成 2年11月12日の恩赦
→ 現在の上皇の即位の礼に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
(12) 平成 5年 6月 9日の恩赦
→ 皇太子殿下(徳仁親王)ご結婚に伴い,特別基準恩赦が実施されました。
(13) 令和 元年10月22日の恩赦
→ 現在の天皇の即位の礼に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
2 大正天皇の即位恩赦,昭和天皇の即位恩赦及び今の上皇の即位恩赦の場合,大赦令は出されませんでした。
3 イギリスの場合,1930年代以降,例えばエリザベス 2 世女王の即位やチャールズ皇太子の結婚,フォークランド紛争終結など国家の慶事に際しても恩赦は実施されていません(「恩赦制度の概要」9頁)。


第2 戦後の政令恩赦(大赦令,減刑令及び復権令)の実例
1 戦後の大赦令の実例
① 大赦令(昭和20年10月17日勅令第579号。同日施行)
・ 昭和20年9月2日までに犯された①陸軍刑法,海軍刑法違反等の罪の一部(例えば,敵前逃亡の罪),②治安維持法違反等の罪が大赦となりました。
・ 対象人員は26万4403人でした。
・ 治安維持法は,昭和20年10月15日 「治安維持法廃止等ノ 件」と題する昭和20年勅令第575号が公布・施行されたことにより 同日,廃止されました。
ただし,同日以前に治安維持法が実質的に廃止されたかどうかについて,裁判所の明確な判断はありません(東京高裁平成17年3月10日決定参照)。
② 大赦令(昭和21年11月 3日勅令第511号。同日施行)
・ 昭和21年11月3日までに犯された①陸軍刑法,海軍刑法違反等の罪の一部(例えば,敵前逃亡の罪),②治安維持法違反等の罪が大赦となりました。
・ 対象人員は 4万4623人でした。
③ 大赦令(昭和27年 4月28日政令第117号。同日施行)
・ 昭和27年4月28日までに犯された占領目的阻害行為処罰令違反等の罪の一部,公職選挙法違反,最高裁判所裁判官国民審査法違反等の罪が大赦となりました。
・ 対象人員は44万4208人でした。
④ 大赦令(昭和31年12月19日政令第355号。同日施行)
・ 昭和31年12月19日までに犯された公職選挙法違反,政治資金規正法違反,最高裁判所裁判官国民審査法違反等の罪が大赦となりました。
・ 対象人員は 6万9627人でした。
⑤ 大赦令(平成 元年 2月13日政令第27号。平成元年2月24日施行)
・ 昭和64年1月7日までに犯された未成年者喫煙禁止法,未成年者飲酒禁止法,軽犯罪法違反等の罪が大赦となりました。
   ただし,公職選挙法違反,政治資金規正法違反,最高裁判所裁判官国民審査法違反等の罪は大赦の対象になりませんでした。
・ 対象人員は約2万8600人でした。
   
2 戦後の減刑令の実例
① 減刑令(昭和20年10月17日勅令第580号)
・ 昭和20年9月2日までに犯した罪について,死刑は無期懲役となり(2条),無期懲役は20年の有期懲役となり,無期禁錮は20年の有期禁錮となり(3条本文),有期の懲役又は禁錮については,原則として刑期が4分の3になりました(4条1項)。
   ただし,現住建造物等放火罪(刑法108条),強制わいせつ等致死傷罪(刑法181条),強盗罪(刑法236条),強盗致死傷罪(刑法240条),強盗強姦罪(現在の強盗・強制性交等罪)(刑法241条)等は対象外でした(5条)。
・ 対象人員は 5万  19人でした。
② 減刑令(昭和21年11月 3日勅令第512号)
・ 昭和21年11月3日までに犯した罪について,死刑は無期懲役となり(2条),無期懲役は20年の有期懲役となり,無期禁錮は20年の有期禁錮となり(3条本文),有期の懲役又は禁錮については,原則として刑期が4分の3になりました(4条1項)。
   ただし,現住建造物等放火罪(刑法108条),強制わいせつ等致死傷罪(刑法181条),強盗罪(刑法236条),強盗致死傷罪(刑法240条),強盗強姦罪(現在の強盗・強制性交等罪)(刑法241条)等は対象外でした(5条)。
・ 対象人員は 8万4776人でした。
③ 減刑令(昭和22年11月 3日政令第233号)
・ ①及び②の減刑令を修正したものです。
④ 減刑令(昭和27年 4月28日政令第118号)
・ 死刑は無期懲役となり(2条),無期懲役は20年の有期懲役となり,無期禁錮は20年の有期禁錮となり(3条本文),有期の懲役又は禁錮については,原則として刑期が4分の3になりました(4条1項)。
   ただし,現住建造物等放火罪(刑法108条),汽車転覆等致死罪(刑法126条),強制わいせつ等致死傷罪(刑法181条),強盗罪(刑法236条),強盗致死傷罪(刑法240条),強盗強姦罪(現在の強盗・強制性交等罪)(刑法241条)等は対象外でした(7条1項)。
・ 対象人員は27万7814人でした。
   
3 戦後の復権令の実例
① 復権令(昭和20年10月17日勅令第581号)
・ 対象人員は10万9374人でした。
② 復権令(昭和21年11月 3日勅令第513号)
・ 対象人員は 3万8855人でした。
③ 復権令(昭和27年 4月28日政令第119号)
・ 対象人員は28万2470人でした。
④ 復権令(昭和34年 4月10日政令第113号)
・ 対象人員は 4万5797人でした。
⑤ 復権令(昭和43年11月 1日政令第315号)
・ 対象人員は14万8732人でした。
⑥ 復権令(昭和47年 5月15日政令第196号)
・ 対象人員は 3万2329人でした。
⑦ 復権令(平成 元年 2月13日政令第 28号)
・ 対象人員は約1014万人でした。
⑧ 復権令(平成 2年11月12日政令第328号)
・ 対象人員は約 250万人でした。
⑨ 復権令(令和元年10月22日政令第131号)
・ 対象人員は約  55万人でした。

第3 平成元年以降の特別基準恩赦の実例
① 昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)
・ 対象人員は,特赦566人,減刑142人,刑の執行の免除56人,復権 25人でした。
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)
・ 対象人員は,特赦267人,減刑 77人,刑の執行の免除10人,復権 44人でした。
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定)
・ 対象人員は,特赦 90人,減刑246人,刑の執行の免除10人,復権931人でした。
④ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)
・ 対象人員は,特赦0人,減刑0人,刑の執行の免除8人及び復権20人でした。


第4 特別基準恩赦の補足説明
1 特別基準恩赦は,政令恩赦が行われる際,同恩赦の要件から漏れた者などを対象として,内閣の定める基準により,一定の期間を限って行われる場合が多いです。
   ただし,政令恩赦と関係なく特別基準恩赦が単独で行われる場合がありますところ,その実例は以下の2例です(平成9年版犯罪白書「第6節 恩赦」参照)。
① 昭和27年11月10日の皇太子殿下(明仁親王)立太子礼に際し,同日付の閣議決定に基づく特別基準恩赦
② 平成5年6月9日の皇太子殿下(徳仁親王)ご結婚に際し,同日付の閣議決定に基づく特別基準恩赦
2 戦後の特別基準恩赦は,昭和時代に8回,平成時代に3回,令和時代に1回行われました。
   また,特別基準恩赦を伴わない恩赦は昭和22年11月3日施行の減刑令だけです。
3 明治憲法下において実施された特別基準恩赦はすべて上申権者の職権に係らしめ,現行憲法下においても昭和31年の国際連合加盟恩赦までは先例を踏襲して職権にかからしめており,基準が公表されることもありませんでした。
   しかし,昭和34年4月の皇太子御結婚特別基準恩赦の実施に当たり,従来の特別基準の在り方について抜本的な検討がなされ,その結果,同特別恩赦基準においては一部の基準については職権に係らしめたものの,本人からの出願による上申を原則とするとともに,基準の内容をより明確にした上でこれを公表することとなりました。そして,これらが明治百年記念特別基準恩赦(昭和43年11月1日実施)及び沖縄復帰特別基準恩赦(昭和47年5月15日実施)に引き継がれ(法律のひろば1989年4月号37頁参照),さらに,平成時代の三つの特別基準恩赦に引き継がれました。
 衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書(平成12年10月3日付)には以下の記載があります。
   戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮出獄中の者を除く。)は八十六人である。なお、無期懲役が確定した後、昭和三十五年以降に個別恩赦により減刑された者はいない。
   また、戦後、無期懲役が確定した後、政令恩赦により減刑された者については、十分な資料がないため、総数は不明である。なお、最後に政令恩赦により減刑が行われたのは、昭和二十七年四月の日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)の発効に際してである。
   
第5 昭和33年4月に参議院を通過した,恩赦法の一部を改正する法律案(廃案)の内容
1 高瀬荘太郎参議院議員(緑風会)は,昭和32年4月16日の参議院法務委員会において以下のとおり提案理由を説明しています。
   ただいま議題となりました恩赦法の一部を改正する法律案の提案理由を御説明いたします。
   恩赦は、沿革的には、君主の恩惠をその出発点としておりますが、今日におきましては、恩赦は、むしろ法の画一性に基く欠陥の矯正及び有罪の言い渡しを受けた者に対する刑事政策的な裁判の変更等にその重点がおかれており、憲法がその恩赦決定の権限を行政権の主体たる内閣に属せしめておりますことは、皆様もよく御存じのところであります。
   この恩赦には、政令により罪もしくは刑の種類を限りあるいは一定の条件を定めて一般的に行ういわゆる政令恩赦と、個々の者を対象として行ういわゆる個別的恩赦とがあり、そのうち政令恩赦は、個別的恩赦とは異なり、国家の慶事、社会事情の変化等があった場合に行われるものであります。従いましてこの政令恩赦を決定するに当りましては、個別的恩赦に比して一そう慎重であり、かつ、適正であるとともに、国民主権下の今日におきましては、常に公正な世論を基礎としていなければならないのであります。
   本法律案は、右の主旨に基き、内閣に諮問機関として恩赦審議会を設け、内閣は、大赦または政令による減刑もしくは復権の決定をすることの可否及びこれらの恩赦の内容に関する事項をあらかじめ恩赦審議会に諮問しなければならないといたしたのであります。
   恩赦審議会の構成につきましては、政令恩赦が社会一般に及ぼす影響の重大性にかんがみまして、国民全体の立場から代表的地位にある者のうち、恩赦に関係ある国家機関の最高の地位にある者として両院議長、法務大臣、最高裁判所長官、検事総長と国民の人権を擁護する地位の代表者として日本弁護士連合会会長及び世論を反映する良識ある者として日本学術会議会長の七人の委員をもって組織することにいたしました。
   以上が本法律案の要旨であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。
2 高瀬荘太郎参議院議員(緑風会)は,昭和33年4月24日の参議院本会議において以下のとおり提案理由を説明しています。
   恩赦法の一部を改正する法律案につきまして、法務委員会における審議の経過並びに結果につき御報告いたします。
   本法律案は、第二十六回国会に、本院議員高瀬莊太郎君外四名から発議されたものでありまして、その提案の趣旨は、政令恩赦の公正妥当を期するため、内閣に諮問機関として恩赦審議会を設け、その委員には、衆議院議長、参議院議長、法務大臣、最高裁判所長官、検事総長、日本学術会議会長、日本弁護士連合会会長を充てることとし、内閣は、政令恩赦の決定については、あらかじめこの恩赦審議会に諮問しなければならないとするものであります。
   当委員会におきましては、第二十六回国会において発議者から提案理由を聴取し、以来、継続して審議を重ねましたが、今国会においても慎重に審議を尽し、多くの委員から熱心な質議がなされました。特に、恩赦審議会の委員の顔ぶれと民意の反映との関係、恩赦制度の根本的あり方、日本弁護士連合会会長の任命上の問題等が論議の中心となったのでありますが、その詳細につきましては、会議録に譲りたいと存じます。
   かくして、四月二十三日質疑を打ち切り、討論に入りましたところ、大川、亀田、後藤の各委員から、それぞれ賛成の討論がなされ、かくて採決の結果、全会一致をもって、これを可決すべきものと決定いたしました。
   なお、亀田得治君から、本法律案につき、「恩赦制度の精神にかんがみ、政府は、恩赦法の運用に慎重を期すべきはもちろん、審議会委員の構成等については、民意を十分反映させ得るように検討すべきである。」旨の付帯決議案が提出され、これまた全会一致を、もって可決されました。
   以上、御報告申し上げます。(拍手)
3 恩赦法の一部を改正する法律案は,昭和33年4月24日に参議院本会議で可決されたものの,翌日,衆議院が解散されたために廃案となりました。

第6 関連記事その他
1 再審公判において,実体審理をせずに直ちに免訴の判決をすべきであるとしても,名誉回復や刑事補償等との関連では,再審を行う実益があることから,大赦により赦免されたときでも,有罪確定判決につき無罪を主張して再審を請求することが許されます(横浜事件に関する東京高裁平成17年3月10日決定)。
2 以下の記事も参照してください。
・ 仮釈放
・ 仮釈放に関する公式の許可基準
・ 恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放
・ 死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑
・ 恩赦制度の存在理由
・ 戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦