(AI作成)裁判官人事をデータで読み解く ― 西川伸一『裁判官幹部人事の研究』の手法を山中弁護士ブログの裁判官データベースで機械再現する

◯本ブログ記事は,令和8年6月3日時点のデータを基準として,専らAIで作成したものです。

目次

  • 第1 本稿の目的と背景
    • 1 本稿が試みること
    • 2 西川伸一『増補改訂版 裁判官幹部人事の研究』の概要
      • (1) 著作と問題意識
      • (2) 経歴的資源という分析概念
      • (3) 本書が当ブログのデータベースに言及していること
    • 3 なぜデータベースとSQLで再現するのか
      • (1) 1名ずつ閲覧することと全件を集計することの違い
      • (2) サーバ側でSQLを実行するという発想
    • 4 先行研究の中での位置
      • (1) 潮見俊隆の二極分化論
      • (2) 計量分析と司法の独立をめぐる議論
  • 第2 前提となる法制度の整理
    • 1 裁判官の独立(憲法76条3項)
    • 2 裁判官の任命と再任
      • (1) 最高裁判所裁判官(憲法79条)
      • (2) 下級裁判所裁判官(憲法80条1項)
      • (3) 定年(裁判所法50条)
    • 3 司法行政と最高裁判所事務総局
      • (1) 司法行政事務の意義(裁判所法80条)
      • (2) 事務総局の組織(裁判所法13条)
      • (3) 官房系と事件系
    • 4 本稿が対象とする幹部ポスト
    • 5 裁判官の関心事と人事を握る機関
  • 第3 データ基盤の構築
    • 1 元になるデータベース
    • 2 経歴本文の構造
      • (1) 記載書式の規則性
      • (2) 元号から西暦への変換
    • 3 正規化テーブルへの変換
      • (1) パーサの設計
      • (2) 役職の語彙と分類
      • (3) エッジケースの処理
    • 4 構築の結果
      • (1) 組織種別の分布
      • (2) 役職の分布
  • 第4 級組分類 ― 経歴的資源によるコード化
    • 1 西川の級組
    • 2 機械的コード化の方法
    • 3 全裁判官の級組分布
    • 4 二極分化の確認
  • 第5 経歴的資源と幹部到達の関係
    • 1 分析の枠組み
    • 2 級組別の到達率
    • 3 現職の取扱いと最終到達率
    • 4 読み取れること
  • 第6 最高裁判所裁判官人事
    • 1 分析の対象と方法
    • 2 級組構成
      • (1) 分布
      • (2) 司法官僚の支配
    • 3 給源
      • (1) 直前ポストの分布
      • (2) 職業裁判官の枠
      • (3) 他の枠との関係
    • 4 経歴的資源の累積
    • 5 二つの典型的な経路
      • (1) 法務省を主たる舞台とした経路
      • (2) 事務総局を主たる舞台とした経路
      • (3) 経路の含意
    • 6 出身大学と国民審査
  • 第7 高裁長官人事
    • 1 級組構成
    • 2 庁別の序列
      • (1) 東京と高松
      • (2) 二層構造
    • 3 高裁長官への給源
      • (1) 東京高裁部総括という最大の供給源
      • (2) 大都市地裁所長
      • (3) 事務総長・首席調査官との連鎖
    • 4 エスカレーター
    • 5 主要な高裁の性格
      • (1) 東京高裁
      • (2) 大阪高裁
      • (3) 地方の各高裁
    • 6 高裁長官の二面性
    • 7 高裁事務局長
  • 第8 最高裁判所事務総局幹部人事
    • 1 事務総局の構造
    • 2 出世ラダーの各段
      • (1) 局付という入口
      • (2) 課長と局長
      • (3) 事務次長と事務総長
    • 3 官房系と事件系の序列
      • (1) 局長間の序列
      • (2) 官房局付と官房課長の希少性
    • 4 磨いて現場に戻す回転
    • 5 選別の起点と確定システム
      • (1) 選別は修習生時代から始まる
      • (2) 確定システムと傾向システム
    • 6 三冠王ポストとその他の幹部ポスト
  • 第9 高裁部総括人事
    • 1 高裁部総括の位置づけ
    • 2 所長経験と上位到達 ― 9割が所長を経験
    • 3 級組構成
    • 4 庁別の集中
    • 5 前後のポスト
      • (1) 直前のポスト
      • (2) 直後のポスト
    • 6 就任前の地家裁所長経験 ― 西川別稿との照合
    • 7 地家裁部総括との対比と分岐点
  • 第10 地家裁所長人事
    • 1 級組構成
    • 2 庁別の序列
      • (1) 東京高裁管内の中規模地裁
      • (2) 所長止まりの庁
      • (3) 管内別の傾向
    • 3 所長への給源
      • (1) 高裁判事と高裁部総括
      • (2) 事務総局局長からの所長
    • 4 大規模地裁所長という特別な位置
    • 5 所長の在任とローテーション
  • 第11 行政官庁への出向と経歴的資源
    • 1 行政官庁等への出向裁判官
    • 2 法務省への出向が突出していること
    • 3 法務省民事局長の人事
      • (1) 出身大学の偏り
      • (2) その後の経歴
    • 4 内閣法制局参事官
      • (1) 意見事務と審査事務
      • (2) 将来の幹部候補という位置づけ
      • (3) 弁護士資格の特例
  • 第12 補論 ― A2区分の難しさと一つの発見
    • 1 大都市勤務の長さをどう測るか
    • 2 予想外の結果
    • 3 効く資源は何か
    • 4 多段階の選別構造という全体像
  • 第13 本稿の留保と限界
    • 1 母集団の違い
    • 2 定義の柔らかさ
    • 3 データの網羅性
    • 4 相関と因果についての留保
  • 第14 むすび
    • 1 数値の一致という成果
    • 2 人事の傾向と裁判の独立の峻別
    • 3 情報公開と社会科学

第1 本稿の目的と背景

1 本稿が試みること

本稿は,日本の裁判官人事に関する一冊の学術書の分析手法を,当ブログが公開している裁判官データベースの上で,機械的に再現する試みの記録である。対象とする学術書は,政治学者である西川伸一による『裁判官幹部人事の研究 ―「経歴的資源」を手がかりとして』(増補改訂版,五月書房新社,2020年)である。

本稿の特徴は,2点ある。第1に,著者が手作業で行った経歴の集計と分類を,データベースと構造化問合せ言語(SQL),及び大規模言語モデルを併用して,全件に対して自動的に適用した点である。第2に,その分析結果が,書籍の手作業の結論とどの程度一致するかを照合し,手法の妥当性を相互に検証した点である。結論を先に述べる。主要な数値は,書籍の記述とよく一致した。

本稿で扱う数値は,すべて当ブログのデータベースを集計したものである。書籍の集計対象とは母集団が異なるため,割合の絶対値が完全に一致するわけではない。もっとも,順序や構造といった定性的な特徴は,明瞭に一致した。手作業による緻密な研究と,全件を対象とする機械集計とが,同じ構造を描き出す。これが本稿の到達点である。

なお,本稿は,個々の裁判官の判断の当否を論じるものではない。本稿が扱うのは,人事という組織の側面であり,裁判の内容ではない。両者は別の次元の問題である。この区別は,本稿の全体を貫く前提である。冒頭にこれを明記しておく。

2 西川伸一『増補改訂版 裁判官幹部人事の研究』の概要

(1) 著作と問題意識

同書は,最高裁判所の発足した1947年8月から2019年9月末までの間に,一定の幹部ポストに就いた裁判官1,758人の経歴を集計し,日本の裁判所に内在する官僚制的な秩序を実証的に描き出した研究である。著者は,これを現代国家の社会科学的な実体分析の一環として位置づける。

ここでいう官僚制的秩序とは,裁判の独立とは別の次元の問題である。個々の裁判官が事件の審理において独立して職権を行うことと,裁判官の人事や昇進が組織的に管理されることとは,理論上は両立し得る。同書が照らすのは,後者の人事の側面である。本稿も,この区別を前提とする。

(2) 経歴的資源という分析概念

同書の鍵となる概念が,経歴的資源である。著者はこれを,将来のステップアップに有用と期待される経歴や過去の地位,と暫定的に定義する。たとえば,あるポストAの歴代就任者の多くが,その後により上位のポストBに就いているとする。この場合,ポストAは,ポストBに到達するための経歴的資源として有用である,と判定できる。

この発想は,個人の資質や能力ではなく,蓄積された経歴の有無を昇進の手がかりとする点に特徴がある。資質は外から観察しにくいが,経歴は記録に残る。記録に残るものを手がかりとすることで,分析は再現可能となる。著者は,潮見俊隆が提示した司法官僚と実務裁判官の二極分化という古典的な仮説を,この経歴的資源の観点から精緻化していく。

(3) 本書が当ブログのデータベースに言及していること

特筆すべきは,同書が当ブログを名指しで取り上げている点である。同書の序章(14頁)で,著者は次の趣旨を述べる。

最高裁判所に司法行政文書の開示申出を継続的に提出することで情報秘匿の壁をこじ開けたのが大阪弁護士会所属の山中理司弁護士であり,開示された膨大な司法行政文書を掲載した同弁護士のブログは,司法行政文書のデータベースをなしており,その徹底性は驚嘆の一語に尽きる,各裁判官の経歴が即座に詳細にわかる,と。

つまり,本稿の試みは,書籍が研究資源として高く評価したデータベースを用い,その書籍自身の分析手法を再現するという,一種の循環をなしている。書籍に引用されたデータベースが,書籍の方法を動かす研究基盤として機能する。引用された素材が,引用した方法を逆に支える。この往復が,本稿の構造である。

3 なぜデータベースとSQLで再現するのか

(1) 1名ずつ閲覧することと全件を集計することの違い

当ブログの公開ページは,裁判官を1名ずつ閲覧する設計である。氏名で検索し,個別の経歴を読む。これは利用者にとって自然な使い方である。1人の裁判官の歩みを丁寧にたどることができる。

しかし,西川の分析は,これとは性質が異なる。同書が行うのは,全裁判官を母集団とした集合的な集計である。どの経歴が,どのポスト到達と結びつくか。これを,全件を横断して数える作業である。1名ずつの閲覧を何千回繰り返しても,この集計には届かない。個を見る視点と,全体の分布を見る視点とは,異なる道具を要する。

(2) サーバ側でSQLを実行するという発想

ここで本質的なのは,端末を使うかどうかではなく,サーバ側でSQLを実行できるかどうかである。結合,集計,順位付けといった演算を実行するのは,データベース管理システムである。それを起動する入口は,対話的な端末であってもよいし,外部から呼び出す仕組みであってもよい。同じSQLが,異なる入口から同じ結果を返す。

本稿の作業は,この発想に立つ。すなわち,公開ページの1名ずつの閲覧を,全件横断の集合演算へと拡張する。そのために,まず経歴の本文を構造化されたデータへと変換する。これが第3で述べるデータ基盤の構築である。本文という人間向けの文章を,集計可能な表へと組み替える。ここに作業の中核がある。

4 先行研究の中での位置

裁判官人事の実証研究には,厚い蓄積がある。本稿の理解する限りで,要点を述べる。

(1) 潮見俊隆の二極分化論

潮見俊隆は,当時の全判事(1,219人)の経歴調査から,裁判官の二極分化を析出した。すなわち,現場を離れ最高裁判所事務総局で司法行政に携わる裁判官と,全国の裁判所を異動して裁判実務に従事する裁判官という,2つの集団の存在である。前者を司法官僚,後者を実務裁判官と呼ぶ。

西川の級組は,この潮見仮説を出発点とし,これを7区分へと精緻化したものである。本稿の級組分布が,司法官僚と実務裁判官という2つの系統を数値で示したこと(第4参照)は,この二極分化論の系譜の上にある。古典的な2分類を,より細かい7区分へと展開し,それを全件に当てはめる。これが本稿の方法上の位置づけである。

(2) 計量分析と司法の独立をめぐる議論

裁判官のキャリアを計量的に分析する試みは,国内外にある。日本法を研究する海外の学者による一連の研究は,人事記録や統計解析を通じて,最高裁判所事務総局による人事運営が裁判官の判断に及ぼす影響を論じてきた。その評価は,論者によって分かれる。人事を通じた一種の管理と見る立場もあれば,逆に外部からの圧力を予防し司法権の独立を守る仕組みと見る立場もある。

本稿は,この評価の対立そのものには立ち入らない。本稿が示すのは,評価以前の事実,すなわち人事の構造そのものである。構造を正確に把握することが,評価の前提となる。評価が分かれるからこそ,土台となる構造は,できるだけ客観的な手続きで描かれる必要がある。本稿は,その土台の部分を担う。

第2 前提となる法制度の整理

分析に入る前に,裁判官の人事に関わる法制度を整理する。条文番号を明示し,論理の前提を明らかにしておく。法令の構造を正確に押さえることは,後の集計を誤解なく読むための条件である。

1 裁判官の独立(憲法76条3項)

日本国憲法76条3項は,すべて裁判官は,その良心に従い独立してその職権を行い,この憲法及び法律にのみ拘束される,と定める。これが裁判官の独立の中核規定である。事件の審理と裁判において,裁判官は外部の指揮命令に服さない。

もっとも,この独立は,裁判の職権行使に関するものである。ここで2つの平面を区別しておく必要がある。

ア 職権行使の独立

第1の平面は,事件の審理と裁判における職権行使の独立である。これは憲法76条3項が保障する中核であり,何人も個々の裁判の内容に介入できない。

イ 人事という別平面

第2の平面は,裁判官の任地,補職,昇給といった人事である。これは,別の規定群によって規律される。西川が照らすのは,この人事の領域に内在する秩序である。職権の独立と,人事の管理とは,憲法上も別の平面に置かれている。本稿は,後者の平面を扱う。

2 裁判官の任命と再任

(1) 最高裁判所裁判官(憲法79条)

最高裁判所は,長官1人とその他の裁判官14人の合計15人で構成される(裁判所法5条1項・3項)。長官は内閣の指名に基づき天皇が任命し,その他の裁判官は内閣が任命する(憲法6条2項,79条1項)。

最高裁判所裁判官は,任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に,国民の審査に付される(憲法79条2項)。これは,下級裁判所の裁判官にはない制度である。最高裁判所裁判官のみが負う,直接の民主的な統制である。人事の入口における選任と,出口における国民審査とが,最高裁判所裁判官をめぐる手続の両端をなす。

(2) 下級裁判所裁判官(憲法80条1項)

下級裁判所の裁判官は,最高裁判所の指名した者の名簿によって,内閣が任命する(憲法80条1項前段)。その任期は10年であり,再任されることができる(同項後段)。

この,最高裁判所の指名した者の名簿という仕組みが,下級裁判所裁判官の人事に対する最高裁判所の関与の法的な基礎となる。指名の名簿を作る段階で,どの裁判官をどの任地に充てるかが実質的に定まる。本稿が分析する人事の構造は,この名簿作成の実務を背後に持つ。

(3) 定年(裁判所法50条)

裁判所法50条は,裁判官の定年を定める。最高裁判所の裁判官及び簡易裁判所の判事は年齢70年,高等裁判所,地方裁判所又は家庭裁判所の裁判官は年齢65年に達した時に退官する。

本稿のデータ基盤では,現職裁判官の在任期間を計算する際に,この定年の存在を念頭に置く。定年が一律であることは,行政官僚のような早期退職の慣行が乏しいことを意味する。この点は,後に述べる確定システムの議論(第8参照)にも関わる。定年まで在職する者が多いと,人事に余裕が生じにくいからである。

3 司法行政と最高裁判所事務総局

(1) 司法行政事務の意義(裁判所法80条)

裁判所は,裁判のみを行うわけではない。裁判の実務を円滑に運ぶための事務,すなわち人事,経理,施設管理などの事務がある。これを司法行政事務という。裁判所法80条は,司法行政の監督権について定める。最高裁判所は,最高裁判所の職員並びに下級裁判所及びその職員を監督する。

司法権は,裁判権と司法行政権から成り立つ。そして,裁判官の人事管理は,司法行政の重要な一部をなす。司法行政は,ほとんど人事が中心です,と述べた元最高裁判所長官もいる。人事こそが司法行政の核心であるという認識が,関係者の証言にも表れている。

(2) 事務総局の組織(裁判所法13条)

裁判所法13条は,最高裁判所に,その庶務を掌らせるため,事務総局を置くと定める。事務総局は,司法行政事務を実際に担う中枢機関である。

事務総局には,秘書課,広報課,情報政策課,総務局,人事局,経理局,民事局,刑事局,行政局,家庭局が置かれる。その長として事務総長があり,必要に応じて事務次長が置かれる。各局には局長があり,各課には課長がある。局長や課長に直属する若手裁判官を,局付と呼ぶ。

慣例として,秘書課長と広報課長は兼務され,民事局長と行政局長も兼務される。したがって,実際の幹部としては,おおむね2人の課長と6人の局長が置かれることになる。3つの課と7つの局という建前の組織が,運用上は,このように束ねられている。

(3) 官房系と事件系

事務総局の各部局は,性格によって2系統に分けられる。

ア 官房系

第1が官房系であり,秘書課,広報課,デジタル審議官(実質的前身は情報政策課),総務局,人事局,経理局がこれに当たる。組織の管理そのものを担う部局である。

イ 事件系

第2が事件系であり,民事局,刑事局,行政局,家庭局がこれに当たる。個別の事件処理に関わる通達や細則を扱う部局である。

西川の分析では,この官房系か事件系かの違いが,経歴的資源としての重みを左右する。本稿のデータ基盤も,この区別を機械的に判定する。同じ局付や課長でも,官房系か事件系かによって,その後の到達が異なる。この点は,第8で数値とともに確認する。

4 本稿が対象とする幹部ポスト

西川が対象とした幹部ポストは,職業裁判官出身の最高裁判所裁判官,高裁長官・知財高裁所長,高裁事務局長,最高裁事務総長,最高裁事務次長,最高裁事務総局各局長,司法研修所長,最高裁首席調査官,裁判所職員総合研修所長,地家裁所長,法務省民事局長,及び裁判官出身の内閣法制局参事官である。これらの歴代就任者は,合計1,758人に上る。本稿も,これらに対応する役職を分析の単位とする。

これらのポストは,いずれも司法行政上の要職である。裁判の現場における役職(部総括や判事)と,司法行政における役職(局長や所長)とが,重なり合いながら,幹部への階段を構成している。本稿は,この階段の各段を,順に分析していく。

5 裁判官の関心事と人事を握る機関

裁判官の関心事は,俸給と地位と任地であるといわれる。同期に俸給で遅れたくない,部総括や所長に進みたい,遠隔の支部には勤務したくない。この3つは,いずれも人事と直結する。だからこそ,人事は裁判官の大きな関心事となり得る。

そして,下級裁判所裁判官の人事を実際に扱うのは,最高裁判所事務総局人事局と,各高等裁判所の事務局である。ある元最高裁判所長官の証言によれば,まず各高等裁判所が任地の原案を立て,それを事務総局が全体として調整する。1人を動かせば次々に玉突きが生じるため,人事の調整は最も大変な作業であるという。

本稿が事務総局人事局の局長を序列の頂点に見出したこと(第8・3参照)は,この証言と整合する。人事を扱う部局の長が,最も上に進む。これは,組織として自然な現象である。人事の根幹を握る経験が,組織の頂点に立つための資源となる。

第3 データ基盤の構築

1 元になるデータベース

当ブログの集計テーブルには,弁護士・学者・期外の最高裁判事15人を除き,現職と元職を合わせて6,739人の裁判官が登録されている。内訳は,現職が2,987人,元裁判官が3,752人である。各裁判官には,修習期,出身大学,勤務地,生年月日のほか,任地の一覧が紐づけられている。

もっとも,この任地一覧は,庁名を区切り記号で並べた文字列にすぎない。役職や在任期間の情報を含まない。西川の分析には,これだけでは不足する。各任地について,いつからいつまで,どの庁で,どの役職に就いたか,という三つ組が必要となる。この三つ組を,本文から取り出す作業が,データ基盤の構築である。

2 経歴本文の構造

(1) 記載書式の規則性

幸いなことに,当ブログの各裁判官の記事本文には,経歴が極めて規則的な書式で記載されている。1行が,1つの任地に対応する。書式は,開始年月日,区切り記号,終了年月日,空白,庁名(必要に応じて部の番号),役職,という順序である。行は新しい順に並ぶ。

たとえば,ある元最高裁判所長官の経歴の末尾付近には,1974年4月12日から1977年6月30日まで東京地方裁判所判事補,という趣旨の行がある。冒頭付近には,2014年4月1日から2018年1月8日まで最高裁判所長官,という記載がある。人間が読むための文章でありながら,機械でも解析できる規則性を備えている。この規則性が,全件の自動処理を可能にする。

(2) 元号から西暦への変換

年月日は,元号で記載されている。本稿のパーサは,これを西暦に変換する。昭和は1925を,平成は1988を,令和は2018を,それぞれ元号の年に加える。たとえば,昭和49年は1974年に,平成30年は2018年に,令和4年は2022年に変換される。

この変換の正確性は,独立に検証できる。ある元最高裁判所長官の経歴末尾の,平成30年1月9日定年退官という記載は,集計テーブルが別途保持する退官日と一致した。別の元長官の令和4年6月の記載も,同様に一致した。年月日の解釈に誤りがないことが,こうして相互に確認される。独立な2つの情報源が一致することは,変換の信頼性を支える。

3 正規化テーブルへの変換

(1) パーサの設計

本稿では,記事本文を解析し,1行を1件のスティント,すなわち任地の一区間として取り出す処理を作成した。各行を正規表現で照合し,開始年月日,終了年月日,及び残りの文字列に分解する。終了年月日が存在しない行は,現職として継続中であると解釈し,終了日を空とする。

元号と数字の境界,全角数字と半角数字の混在,区切り記号の字体の揺れといった細部にも対処した。本文に含まれる生年月日や定年退官予定日などの行は,この日付範囲の書式に合致しないため,自然に除外される。1行が確実に1件のスティントへ分解されるよう,書式を調整した。

(2) 役職の語彙と分類

残りの文字列の末尾から役職を判定する。役職の語彙は,長いものから順に照合する。すなわち,検事総長,次長検事,事務次官,事務局長,一等書記官,首席調査官,部総括,支部長,副部長,参事官,調査官,検事長,検事正,書記官,教官,局付,課長,局長,所長,長官,部長,判事補,判事,検事などである。長い語から照合するのは,短い語が長い語の一部に含まれる場合の誤判定を避けるためである。

役職の手前にある庁名や局名から,組織の種別を判定する。最高裁判所事務総局の局のうち,総務局,人事局,経理局を官房系,民事局,刑事局,行政局,家庭局を事件系と分類する。秘書課,広報課,デジタル審議官も官房系である。この判定が,後の級組分類の鍵となる。法務省,内閣法制局,在外公館,検察庁などへの勤務は,出向として判定する。

(3) エッジケースの処理

実際の本文には,例外的な記載がある。書式の規則性は高いものの,例外を一つずつ潰すことが,集計の精度を決める。本稿では,次の4類型に対処した。

ア 括弧書きの退避

第1に,部総括の後に部の名称などの括弧書きが付く行がある。この括弧書きを退避してから役職を判定する。

イ 表記揺れの正規化

第2に,同じ庁の表記が揺れる場合がある。これを正規化して統一する。

ウ 光学文字認識に由来する誤記の補正

第3に,光学文字認識に由来すると思われる誤記がある。これも補正する。

エ 日付逆転の処理

第4に,終了日が開始日より前になる明らかな誤記は,終了日を空とする。

以上のエッジケースを一つずつ潰すことで,集計の精度を高めた。地道な前処理が,後の集計の信頼性を支える。

4 構築の結果

(1) 組織種別の分布

以上の処理によって,6,739人の裁判官について,合計65,722件のスティントが得られた。1人当たり平均で約10件である。弁護士・学者・期外の最高裁判事15人は,標準的な書式の経歴を持たないため,スティントが得られなかった。全体の0.2パーセントにすぎない。

得られたスティントを組織種別で集計すると,次のとおりである。地方裁判所系が47,804件と最も多く,高等裁判所系が6,854件,家庭裁判所系が2,630件と続く。最高裁判所事務総局は2,355件である。出向に当たるものは,法務省が1,219件,法務局が855件,検察が704件,その他の省庁が851件,在外公館が86件,内閣法制局が50件などで,合計約4,100件であった。最高裁判所裁判官としての在任は78件である。

この件数の分布は,それ自体が漏斗の形を予告している。地方裁判所系のスティントが約4万8千件あるのに対し,最高裁判所裁判官としての在任は78件にすぎない。裾野の広さと頂点の狭さとの比は,極めて大きい。多数の裁判官が地方裁判所で実務を担い,そのうちのごく一部が,幾多の段階を経て頂点に至る。役職別の件数を見るだけでも,幹部人事の漏斗構造の輪郭が,あらかじめ示されている。

(2) 役職の分布

役職で集計すると,次のとおりである。

役職件数
判事補24,026
判事21,495
部総括7,228
所長2,350
支部長2,009
局付1,537
教官809
課長754
検事(判検交流)631
調査官501
事務総長18
事務次長10

判事補と判事が大宗を占める。これに部総括,所長,支部長などが続く。事務総長は18件,事務次長は10件にとどまる。本稿の分析は,これらの構造化された役職を単位として行う。

この正規化テーブルが,以下のすべての分析の土台となる。役職と在任期間が構造化されたことで,西川の手作業の集計を,SQLの問合せに置き換えることができる。本文という人間向けの文章が,集計可能な表へと姿を変えた。ここに,本稿の作業の核心がある。

第4 級組分類 ― 経歴的資源によるコード化

1 西川の級組

西川は,裁判官を経歴的資源の有無によって,S級からB級までに分類する。これを級組という。本稿の理解では,次のとおりである。

ア S級(司法官僚の系統)

S級は,司法官僚の系統である。S1は,官房系の局付と官房系の課長を,いずれも経験した者である。S2は,官房と事件を問わず,局付と課長をいずれも経験した者である。S3は,局付か課長のどちらかを経験した者である。いずれも,最高裁判所事務総局における経験を指す。

イ A級・B級(実務裁判官の系統)

A級とB級は,実務裁判官の系統である。A1は,最高裁判所調査官,司法研修所教官,又は行政官庁等への出向のいずれかを経験した者である。A2は,それ以外で,大都市の地方裁判所や高等裁判所での勤務が長い者である。B1は,それ以外で地家裁の部総括を経験した者であり,B2はそれ以外である。経歴的資源を全く持たない層が,B2に当たる。

2 機械的コード化の方法

本稿では,各裁判官のスティント群を走査し,上記の条件を順に判定して級組を割り当てた。スティントとは,後述する任地の一区間をいう。判定はSQLの条件分岐で表現される。たとえば,事務総局かつ局付かつ官房系のスティントを持ち,かつ事務総局かつ課長かつ官房系のスティントを持つ者をS1とする,という具合である。課長の判定では,第一課長・第二課長のほか,任用課長・総務課長・主計課長といった名称付きの課長も漏れなく拾うようにした。

この方法の利点は,再現性と監査可能性にある。誰がどの級組に分類され,その理由は何かを,行単位でさかのぼることができる。西川が紙の基礎資料から手作業で行った分類が,決定論的な問合せに置き換わる。同じデータと同じ条件であれば,何度実行しても同じ分類が得られる。第三者による検証も可能となる。

3 全裁判官の級組分布

全6,739人の級組分布は,次のとおりであった。

級組人数割合
S1(官房局付+官房課長)560.8%
S2(局付+課長)1241.8%
S3(局付又は課長)79111.8%
A1(調査官・教官・出向)1,67425.0%
A2(大都市勤務が長い)1,95129.1%
B1(地家裁部総括)71910.7%
B2(その他)1,38520.7%
合計6,700100%

S級の合計は971人であり,全体の約14.5パーセントである。これに対し,実務裁判官の系統(A1,A2,B1,B2の合計)は5,729人であり,約85.5パーセントである。

なお,このS級の971人という数値は,独立に検算できる。局付の経験者は923人,課長の経験者は228人であり,両方を経験した者が180人である。したがって,局付か課長の少なくとも一方を経験した者は,923足す228引く180で,971人となる。集合の包除原理による検算である。集計の整合性が,この一致によって裏づけられる。

4 二極分化の確認

司法官僚が約14パーセント,実務裁判官が約86パーセントという比率は,潮見が提示し西川が精緻化した二極分化の構図を,母集団全体において数値で示すものである。少数の司法官僚と,多数の実務裁判官という,2つの層が確かに存在する。

特に,最も深い司法官僚であるS1は56人にすぎない。全体の0.8パーセントである。官房系の局付と官房系の課長を両方経験するという経歴は,それほどまでに狭い針の穴である。S1とS2を合わせても188人,約2.7パーセントにとどまる。事務総局の中枢を両刀で通る者は,全裁判官のごく一部である。この希少性こそが,後に見る頂点の確実性(第8参照)の裏返しである。

第5 経歴的資源と幹部到達の関係

1 分析の枠組み

西川の中心的な仮説は,幹部ポストへの到達が,蓄積された経歴的資源によって規定される,というものである。到達を結果,経歴的資源を原因の候補と見る。記号で書けば,到達は経歴的資源の関数である。

本稿では,各級組について,最高裁判所裁判官,高裁長官,地家裁所長のそれぞれに到達した者の割合を集計した。級組が経歴的資源の要約であり,到達割合が結果である。両者の対応を見れば,仮説の当否が分かる。級組が上位であるほど到達率が高ければ,仮説は支持される。

2 級組別の到達率

職業裁判官全6,700人を対象とした集計では,最高裁判所裁判官への到達率は,S1が17.9パーセント,S2が11.3パーセントであった。これに対し,S3は1.3パーセント,A1は0.5パーセント(例えば,26期の寺田逸郎),B2は0.1パーセント(28期の岡部喜代子だけ)であった。最深の司法官僚であるS1とS2が,他を大きく引き離す。

級組最高裁判所裁判官への到達率
S117.9%
S211.3%
S31.3%
A10.5%
A20.0%
B10.0%
B20.1%

高裁長官への到達率は,S1が32.0パーセント,S2が36.1パーセントであり,他の級組を一桁以上引き離した。地家裁所長への到達率は,S2が65.5パーセント,A1が32.6パーセント,B1が29.9パーセントなどと,より広く分布した。所長への道は,最高裁判所への道よりも,広い層に開かれている。

ここで注目すべきは,経歴的資源を持たないB2である。B2は28期の岡部喜代子を除き,高裁長官にすら到達せず,地家裁所長への到達率もごくわずかにとどまった。資源がなければ幹部にほぼ到達しない。これは,幹部到達には経歴的資源を要するという含意の,最下層からの裏づけである。上からも下からも,同じ構造が確認される。

3 現職の取扱いと最終到達率

ここで一つの注意が必要である。現職裁判官は,キャリアがまだ完結していない。したがって,まだ到達していないと数えられ,到達率を全体に押し下げる。これを右側打ち切りという。現職を分母に含めると,到達率は実態より低く出る。

そこで,元職,すなわちキャリアが完結した者に限定して,最終到達率を集計し直した。すると数値は上昇した。S1の最高裁判所裁判官への到達率は25.0パーセント,高裁長官への到達率は46.9パーセントとなった。S2も,それぞれ16.0パーセント,49.3パーセントとなった。

級組(元職限定)最高裁判所裁判官高裁長官
S125.0%46.9%
S216.0%49.3%

すなわち,事務総局を両刀で通った司法官僚(S1,S2)は,その半数近くが最終的に高裁長官に到達している。経歴的資源と幹部到達の結びつきは,キャリアの完結者を見ると一層鮮明になる。打ち切りを補正すると,仮説はより強く支持される。

4 読み取れること

第1に,最高裁判所裁判官と高裁長官は,事務総局を経た司法官僚がほぼ独占している。第2に,地家裁所長への到達は,より広い層に開かれているが,経歴的資源を全く持たない層は除外される。第3に,到達率という確率の面でも,実数の面でも,事務総局を経た司法官僚(S級)が他を上回る。

最後の点を補足する。生え抜きの職業裁判官に限ると,最高裁判所裁判官に到達した者の実数は,S2が14人,S1が10人で,両者の合計は24人である。これに対し,A1は8人にとどまる。すなわち,外部枠を除いた生え抜きでは,確率だけでなく実数でも,S級が他を上回る。かつて全裁判官を母数とした集計でA1が最多に見えたのは,検察・行政等から就任し,出向経験ゆえに機械的にA1へ分類される者が,実数を押し上げていたためである。これらの外部枠を除けば,最高裁判所裁判官の供給源としても,事務総局を経た司法官僚が中心であることが,確率と実数の両面で確認される。

第6 最高裁判所裁判官人事

1 分析の対象と方法

本章は,職業裁判官出身で最高裁判所裁判官(長官又は判事)に到達した者を対象とする。ただし,当データベースは,最高裁判所裁判官への就任を,おおむね1984年以降しか収録していない。外交・行政・検察の枠と,弁護士・学識の枠を除くと,当データベースで職業裁判官出身として把握できるのは41人である。これは,西川が集計した職業裁判官出身の最高裁判所裁判官67人(1947年8月から2019年9月末までの歴代)のうち,1984年2月就任の第32番以降に当たる36人と,西川の集計後に就任した5人とを合わせた数である。すなわち,西川の第1番から第31番(1947年から1983年まで)は,当データベースの収録範囲の外にある。本章は,西川の全期間の集計を再現するものではなく,当データベースが収録する1984年以降の職業裁判官出身最高裁判所裁判官を対象として,その級組構成を見るものである。

最高裁判所裁判官は,憲法上,特別の地位にある。長官は内閣の指名に基づき天皇が任命し,その他の裁判官は内閣が任命する(憲法6条2項,79条1項)。定員は長官1人と判事14人の合計15人である(裁判所法5条1項・3項)。そのうち,職業裁判官の出身者は,慣行上おおむね6人とされる。本章は,この職業裁判官の枠に焦点を当てる。

2 級組構成

(1) 分布

職業裁判官出身の最高裁判所裁判官の級組を,西川の分類によって見る。西川は,事務総局の局付と課長を経験した者をS級とし(官房・事件を問わない),最も深いS1から順にS1・S2・S3に分ける。これに対し,最高裁判所調査官・司法研修所教官・行政官庁への出向は経たが,事務総局の局付・課長を経ていない者を,A1とする。級組が確定しているのは,西川が分類した1984年から2019年までの36人である。

級組人数割合
S1822.2%
S21438.9%
S3719.4%
A1719.4%
合計36100%

事務総局の局付・課長を経たS級は,合計29人であり,全体の80.6パーセントを占める。これに対し,調査官・教官・出向は経たが事務総局の局付・課長を経ていないA1は,7人,19.4パーセントにとどまる。最高裁判所裁判官の席は,事務総局を経た司法官僚によって,大きく占められている。

なお,部総括どまり又はそれ以下の実務裁判官からの到達は,皆無である。西川も,職業裁判官出身の最高裁判所裁判官にはA級2組以下が皆無であると述べている。最高裁判所は,経歴的資源を持つ者だけが到達する地位である。

(2) 司法官僚の支配

ここから読み取れる第1の特徴は,最高裁判所裁判官の席が,事務総局を経た司法官僚(S級80.6パーセント)によって,大きく占められている,ということである。調査官・教官・出向のみのA1は,19.4パーセントにとどまる。最高裁判所への道は,事務総局を歩むことと,強く結びついている。

S級29人の内訳は,S1が8人,S2が14人,S3が7人である。事務総局の局付と課長を深く重ねた者ほど,最高裁判所裁判官の中核に近い。A1の7人は,最高裁判所調査官・司法研修所教官・行政官庁への出向は経たが,事務総局の局付・課長を経ていない者である。最高裁判所は,事務総局の生え抜きを中心としつつ,調査官・教官・出向の実務エリートからも,2割弱を採っている。

3 給源

(1) 直前ポストの分布

41人のほぼ全員が,高裁長官を経て最高裁判所裁判官に就いている。後述のとおり,高裁長官の経験者は40人,41人中の97.6パーセントに達する。中でも,東京高裁長官と大阪高裁長官が,中心的な給源である。

(2) 職業裁判官の枠

職業裁判官出身の最高裁判所裁判官は,主として二大都市の高裁長官から供給される。第7で見るように,東京高裁長官と大阪高裁長官は,高裁長官の中でも最高裁判所への到達率が突出して高い。最高裁判所への道は,この二大都市の高裁長官を経由する。地方の高裁長官からの到達は,これに比べて少ない。

(3) 他の枠との関係

最高裁判所裁判官15人の構成は,職業裁判官のほか,検察・行政・弁護士・学識の各枠から成る。本章が対象とする職業裁判官の枠は,慣行上おおむね6人である。検察・行政・弁護士・学識の枠から就任した者は,本章の41人には含めていない。これらの枠の存在は,最高裁判所が単一の経歴の者で占められるのを防ぐ。15人の合議体に多様な背景が組み込まれることで,視野の幅が確保される。最高裁判所の多様性は,枠の間の多様性と,職業裁判官内部の級組という,二重の構造を持つ。

4 経歴的資源の累積

職業裁判官出身の最高裁判所裁判官41人が,どのような経歴的資源を蓄積していたかを見る。複数の経歴を重複して持つ者がいるため,以下の数値は重複を含む。

経歴経験者数割合
高裁長官4097.6%
部総括4097.6%
事務総局勤務3687.8%
最高裁判所調査官1946.3%
司法研修所・書記官研修所教官1639.0%
事務総長1434.1%
法務省・法務局614.6%
内閣法制局37.3%

ここから,最高裁判所裁判官の典型像が浮かぶ。すなわち,ほぼ全員が高裁長官と部総括を経験し,9割近くが事務総局を経ている。さらに半数近くが調査官を,4割近くが教官を経ている。経歴的資源を幾重にも累積した者が,最高裁判所に到達する。これらの経歴は相互に排他的ではなく,1人の裁判官が複数を兼ね備える。事務総局を経て高裁長官となり,その間に調査官や教官も務める,という累積が典型である。

特に注目すべきは事務総長である。事務総長の経験者は14人であり,41人の34.1パーセントを占める。第8で見るように,事務総長を務めた18人のうち14人,すなわち77.8パーセントが最高裁判所裁判官に到達している。事務総長は,最高裁判所への最も確実な経路の一つである。

5 二つの典型的な経路

最高裁判所裁判官に至る職業裁判官の経路は,一様ではない。経歴が公開されている2人の元最高裁判所長官を例に,2つの典型を示す。いずれも公知の事実に基づく,事実の記述である。なお,本稿は人事の構造を論じるものであり,個人を論評するものではないため,氏名は挙げず,第1の人物,第2の人物と記す。

(1) 法務省を主たる舞台とした経路

第1の人物である26期の寺田逸郎は,1974年に東京地方裁判所判事補として任官した。その後,法務省民事局付,在外公館の一等書記官を経て,法務省民事局の各課長,大臣官房秘書課長,司法法制部長,民事局長を歴任した。続いて,東京高等裁判所の部総括,さいたま地方裁判所長,広島高等裁判所長官を経て,2010年に最高裁判所判事,2014年に最高裁判所長官に就いた。

法務省における司法行政の蓄積が,経歴的資源として機能した経路である。法務省民事局長は,西川も独立に分析した出向ポストであり,裁判官出身者が就く慣例がある(第11参照)。

(2) 事務総局を主たる舞台とした経路

第2の人物である29期の大谷直人は,1977年に東京地方裁判所判事補として任官した。その後,最高裁判所刑事局付,書記官研修所教官,最高裁判所調査官,司法研修所の刑裁教官を経て,刑事局の課長,秘書課長,刑事局長,人事局長を歴任した。さらに,静岡地方裁判所長,最高裁判所事務総長,大阪高等裁判所長官を経て,2015年に最高裁判所判事,2018年に最高裁判所長官に就いた。

事務総局の中枢を回遊し,調査官と教官という重要な経歴的資源も押さえた,典型的な司法官僚の経路である。

(3) 経路の含意

2人は,最高裁判所長官という同じ頂点に至る。しかし,主たる舞台は異なる。第1の人物は法務省を,第2の人物は最高裁判所事務総局を経た。西川の級組では,第2の人物は,秘書課長や人事局長といった事務総局の枢要なポストを歩んだ者として,S級に位置づけられる。これに対し,第1の人物は,その局付や課長が法務省でのものであり,行政官庁への出向を主たる経歴とする者として,A1に位置づけられる。同じ頂点に至りながら,級組の上では対照的な2つの経路である。

頂点に至る道は一本ではない。しかし,いずれも司法行政の中枢を経ている点は共通する。この共通性こそが,経歴的資源論の核心である。舞台は違っても,司法行政の経験を厚く積むという点で,2つの経路は重なり合う。

6 出身大学と国民審査

西川は,経歴的資源の一つとして出身大学を挙げ,東京大学又は京都大学の出身が幹部到達に有利に働くことを指摘する。とりわけ,東京地裁所長はほぼ東大出身者で固められるという。当データベースの出身大学の情報は充足率が低く,全体の約16パーセントにとどまる。このため,この点を全件で検証することはできない。もっとも,充足分の限りでは,幹部候補に東大・京大出身者が多い傾向は看取される。出身大学は,本稿の級組には組み込んでいないが,経歴的資源の重要な一要素である。

最高裁判所裁判官には,固有の制度がある。国民審査である(憲法79条2項)。最高裁判所裁判官は,任命後初めての衆議院議員総選挙の際に,国民の審査に付される。これは下級裁判所裁判官にはない制度であり,最高裁判所裁判官のみが負う直接の民主的な統制である。

本稿の人事構造の分析は,この国民審査という出口の制度と併せて理解されるべきである。人事の入口における経歴的資源の累積と,出口における国民審査とは,最高裁判所裁判官をめぐる統制の両端をなす。入口は組織内部の手続であり,出口は国民による手続である。

第7 高裁長官人事

1 級組構成

高裁長官(知財高裁所長を含む。以下同じ。)を経験した者の級組構成は,次のとおりであった。

級組人数
S118
S242
S347
A164
A213
B12
B21
合計187

司法官僚の系統(S級)は合計107人であり,全体の57.2パーセントを占める。実務エリート(A1)は64人,34.2パーセントである。A2とB1とB2を合わせても16人,8.6パーセントにすぎない(B1は22期の林醇及び29期の安藤裕子,B2は2期の野田愛子)。

ここから読み取れるのは,高裁長官の地位が,事務総局を経た司法官僚に大きく傾いている,ということである。職業裁判官出身の最高裁判所裁判官ではS級が80.6パーセントであったが,これは収録範囲が1984年以降に限られるためであり,全期間を含む高裁長官のS級57.2パーセントとは母集団が異なる。もっとも,いずれの地位も,事務総局を経た司法官僚が中核を成す点は共通する。高裁長官は,職業裁判官のみで構成される地位である。これに対し,最高裁判所裁判官には,検察・行政・弁護士の枠が加わる。職業裁判官の本流は,高裁長官の段階でいったん純化され,最高裁判所の段階で他の系統と混じる。

2 庁別の序列

(1) 東京と高松

高裁長官には,名目上は同格であっても,事実上の序列がある。これを,各高裁の長官経験者が,その後に最高裁判所裁判官へ到達した割合によって測る。

結果は次のとおりである。

高裁最高裁判所への到達率
東京63.3%
大阪48.3%
福岡17.2%
広島14.7%
仙台13.8%
名古屋12.9%
札幌7.4%
高松0.0%

西川は同書21頁で,東京高裁長官の歴代就任者の3分の2近くが最高裁判所裁判官になっていること,逆に高松高裁長官から最高裁判所裁判官への就任者は皆無であることを指摘する。本稿の集計は,東京が63.3パーセント,高松が0.0パーセントであり,この指摘とよく一致した。手作業の研究と機械集計とが,同じ数値に着地したことになる。

(2) 二層構造

全体を俯瞰すると,明瞭な二層構造が現れる。東京と大阪という二大都市の高裁長官が,到達率48パーセントから63パーセントと突出する。これに対し,福岡から名古屋までの地方の4高裁長官は,到達率13パーセントから17パーセントの帯に収まる。札幌と高松はさらに低い。

すなわち,同じ高裁長官という地位であっても,二大都市のそれは最高裁判所への経歴的資源として有用であり,地方のそれは資源としての価値が乏しい。高裁長官は,到達点であると同時に,次なる到達のための資源でもある。その資源価値は,庁によって大きく異なる。名目の同格と,実質の序列とが,ここで分かれる。

3 高裁長官への給源

高裁長官に就く直前のポストの分布は,次のとおりであった。

直前ポスト件数
東京高裁部総括48
東京地裁所長21
最高裁事務総長16
司法研修所長15
東京家裁所長15
横浜地裁所長15
大阪地裁所長12
最高裁首席調査官10

(1) 東京高裁部総括という最大の供給源

最大の供給源は,東京高裁部総括である。48人がここから高裁長官に就いている。東京高裁の部総括は,高裁長官への最も太い経路である。この点は,第9及び第10で見る高裁部総括の重みと符合する。東京高裁という庁が,部総括の段階から本流に位置していることが分かる。

(2) 大都市地裁所長

次に多いのが,大都市の地裁・家裁の所長である。東京地裁所長21人,東京家裁所長15人,横浜地裁所長15人,大阪地裁所長12人などである。大都市の所長は,高裁長官への踏み石となる。地方の小規模な所長とは,性格を異にする。

(3) 事務総長・首席調査官との連鎖

最高裁事務総長16人,最高裁首席調査官10人も,高裁長官への直前ポストとして現れる。事務総局の頂点を経た者が高裁長官に回る経路である。また,仙台・広島・福岡・高松・札幌の各高裁長官が,東京・大阪等の高裁長官の直前ポストとして現れる。これは,次のエスカレーターを示す。

4 エスカレーター

同一人が複数の高裁長官を歴任する場合,その前後の関係には方向性がある。広島から大阪,仙台から名古屋,名古屋から東京というように,地方の高裁長官から大都市の高裁長官への上りが明瞭である。東京は終着点であり,多くの経路が東京へ向かう。高松は出発点としてのみ現れ,到着点としては現れない。

具体的な歴任の流れを見ると,広島高裁長官から大阪高裁長官への異動が5件,仙台高裁長官から名古屋高裁長官への異動が5件,名古屋高裁長官から東京高裁長官への異動が4件,高松高裁長官から広島高裁長官への異動が4件などがある。地方の高裁長官から,より上位の大都市の高裁長官へと移る流れが,繰り返し現れる。

すなわち,高裁長官の世界には,地方から大都市へ,そして東京へと至るエスカレーターが存在する。高松高裁長官から最高裁判所への到達が皆無であったのは,高松が,このエスカレーターの最下段に位置するからである。高松の長官は,大阪や広島の長官へと上る出発点ではあっても,それ自体が終着ではない。逆に,東京高裁長官は到着点としてのみ現れ,そこからさらに別の高裁長官へ移ることはない。東京は,高裁長官のエスカレーターの最上段であり,その次は最高裁判所判事である。

5 主要な高裁の性格

(1) 東京高裁

東京高裁長官は,到達率63.3パーセントと全高裁中で最高である。その部総括は,高裁長官への最大の供給源(48人)でもあった。すなわち,東京高裁は,部総括の段階でも,長官の段階でも,幹部への本流に位置する。なお,知的財産高等裁判所は,東京高裁の特別の支部として置かれており,その所長も本章の高裁長官に準じて扱われる。

(2) 大阪高裁

大阪高裁長官は,到達率48.3パーセントと,東京に次ぐ第2位である。西日本における幹部の中心であり,広島・福岡・高松等の長官からの上りを受ける到達点ともなる。東京と大阪の二大都市の高裁長官で,最高裁判所裁判官の職業裁判官枠の中核が供給される。

(3) 地方の各高裁

名古屋,広島,福岡,仙台,札幌,高松の各高裁長官は,到達率が0パーセントから17パーセントの帯にある。福岡17.2パーセント,広島14.7パーセント,仙台13.8パーセント,名古屋12.9パーセント,札幌7.4パーセント,高松0.0パーセントである。これらの高裁長官は,東京・大阪へ上る通過点となる場合と,それ自体が終着となる場合とがある。とりわけ高松は,到達率0パーセントであり,序列の最下段に位置する。

6 高裁長官の二面性

高裁長官は,到達点であると同時に,経歴的資源でもある。この二面性が,高裁長官人事を理解する鍵である。

実務裁判官にとって,高裁長官は,多くの場合キャリアの到達点である。A1やA2の高裁長官(合計80人)の多くは,高裁長官で職業裁判官としてのキャリアを全うする。これに対し,司法官僚にとって,高裁長官,とりわけ東京・大阪のそれは,最高裁判所への通過点である。S級の高裁長官は,最高裁判所への到達率が高い。

このように,同じ高裁長官でも,その者の級組によって意味が異なる。実務エリートにとっては栄誉の到達点であり,司法官僚にとっては最高裁判所への一里塚である。高裁長官の地位は,この2つの意味を同時に担っている。第6で見たとおり,職業裁判官出身の最高裁判所裁判官41人のうち40人(97.6パーセント)が高裁長官を経験していた。高裁長官は,最高裁判所への最大の前段なのである。

7 高裁事務局長

西川は,高裁長官と並んで,高裁事務局長の人事にも着目した。高等裁判所には,その司法行政事務を担う事務局が置かれ,その長が高裁事務局長である。これは,最高裁判所事務総局の高裁版ともいうべきポストであり,司法官僚の系統に連なる。

本稿の正規化テーブルでは,高裁事務局長は事務局長の役職として把握される。高裁事務局長は,事務総局の局付・課長を経た司法官僚が,高裁の段階で司法行政を担うポストである。高裁長官や最高裁判所への経歴的資源の一つとして位置づけられる。

高裁という単位においても,裁判を担う部総括・判事の系統と並んで,司法行政を担う事務局長の系統が存在する。両者が幹部への経歴的資源として機能している。高裁長官人事を理解する上で,その背後にある高裁事務局長という司法行政ポストの存在を念頭に置く必要がある。

第8 最高裁判所事務総局幹部人事

1 事務総局の構造

最高裁判所事務総局は,司法行政事務を担う中枢機関である(裁判所法13条)。秘書課,広報課,情報政策課の3課と,総務局,人事局,経理局,民事局,刑事局,行政局,家庭局の7局が置かれる。その長として事務総長があり,必要に応じて事務次長が置かれる。各局には局長が,各課には課長があり,局長や課長に直属する若手裁判官を局付という。

各部局は,性格によって2系統に分かれる。総務局,人事局,経理局と3課が官房系であり,組織の管理そのものを担う。民事局,刑事局,行政局,家庭局が事件系であり,個別の事件処理に関わる通達や細則を扱う。この官房系と事件系の区別が,後に見る序列の鍵となる。

2 出世ラダーの各段

事務総局の幹部経験者の人数は,次のとおりであった。局付の経験者は900人,課長の経験者は186人,局長の経験者は85人,事務次長の経験者は10人,事務総長の経験者は18人である。下の段ほど人数が多く,上の段ほど少ない。明瞭な漏斗の形をなす。各段から次の段への到達率は,次のとおりであった。

経験者数次の段への到達率
局付 → 事務総局課長92319.5%
課長 → 局長22830.3%
局長 → 事務次長8511.8%
事務次長 → 事務総長1090.0%
事務総長 → 最高裁判所裁判官1877.8%

(1) 局付という入口

局付の経験者923人のうち,事務総局の課長に到達した者は19.5パーセントである。司法官僚としてのキャリアは,局付になることから始まる。しかし,局付になった者のうち,課長に上がるのは5人に1人にすぎない。入口は広いが,そこから先は選抜的である。
局付923人のうち,官房系の局付は266人である。課長228人のうち,官房系の課長は114人である。

(2) 課長と局長

課長の経験者228人のうち,局長に到達した者は30.3パーセントである。局付から課長への関門(19.5パーセント)より広いが,それでも3人に1人である。局長の経験者85人のうち,事務次長に到達した者は11.8パーセントである。この段は,ラダーの中でも特に狭い。局長になっても,その上の事務次長に進むのは10人に1人余りである。

(3) 事務次長と事務総長

ラダーの上段に至ると,到達率は急激に高まる。事務次長の経験者10人のうち,事務総長に到達した者は90.0パーセントである。事務総長の経験者18人のうち,最高裁判所裁判官に到達した者は77.8パーセントである。
すなわち,入口は選抜的であるが,頂点はほぼ自動である。局付から課長への関門は2割弱と狭い。しかし,事務次長まで達すれば,事務総長への昇進は9割が約束され,事務総長まで達すれば,最高裁判所裁判官への到達は約8割が約束される。経歴的資源が漏斗状に絞られ,頂点では到達がほぼ保証される。これが,確定システムの数量的な姿である。

3 官房系と事件系の序列

(1) 局長間の序列

事務総局の各局の局長について,その後に事務次長又は事務総長へ到達した割合を測ると,序列が現れる。

系統事務次長・事務総長への到達率
総務局官房系23.5%
人事局官房系69.2%
経理局官房系35.7%
民事局事件系15.8%
刑事局事件系11.8%
家庭局事件系0.0%

官房系の3局が上位を占め,事件系の3局がこれを下回る。両者の間には,明瞭な断層がある。人事局長の69.2パーセントと家庭局長の0.0パーセントとの差は,同じ局長という地位の内部に,経歴的資源としての大きな格差が存在することを示す。

人事局長が頂点に立つのは,偶然ではない。人事局は,裁判官の人事という組織の根幹を扱う。経理局は予算を,総務局は組織全体の調整を扱う。いずれも組織の管理そのものに関わる。組織を動かす経験を積んだ者が,組織の頂点に立つ。どうしても無視できないのは人事局と経理局です,という元最高裁判所長官の証言が,到達率という別の尺度で裏づけられた。

(2) 官房局付と官房課長の希少性

官房系の重みは,局付・課長の段階から現れる。前述のとおり,官房系の局付は266人,官房系の課長は114人である。官房系を早くから踏み,かつ局付と課長の双方を官房系で経験した者が,最深の司法官僚(S1)となる。S1が56人であったのは,この二重の絞り込みの結果である。希少な経歴は,希少な選別を経て作られる。

4 磨いて現場に戻す回転

事務総局の人事には,特徴的な回転がある。局付の直後のポストを見ると,東京地裁判事補が164件,東京地裁判事が92件と,圧倒的に現場の地方裁判所への復帰である。これは,若手裁判官を一度事務総局に置いて司法行政を学ばせ,その後いったん裁判の現場に戻すという,人事の回転を裏づける。いったん磨いて現場に戻し,再び引き上げる。そういう循環である。

課長の直後のポストを見ると,最高裁判所の課長が106件と最も多い。これは,別の課の課長への異動であり,事務総局の中枢を回遊する様子を示す。次いで,東京地裁判事や東京高裁判事への復帰が続く。事務総局の幹部候補は,現場と中枢を往復しながら,経歴的資源を累積していく。現場の経験と中枢の経験とが,交互に積み重ねられる。

5 選別の起点と確定システム

(1) 選別は修習生時代から始まる

西川が描くところによれば,司法官僚としての選別は,局付になるよりも前,司法修習生の時代に既に始まっている。司法研修所の裁判官教官が,成績のよい,若い修習生に任官を勧める。任官した者の初任地は,東京地裁など大都市の地裁である。初任地で,所属する部の部総括から,2回目の選別を受ける。そこで高く評価された者が,初任明けの異動で局付となる。

このように,事務総局の入口である局付に至るまでに,既に複数の選別がある。本稿のデータが示す局付900人という数字は,この複数の選別を通過した者の総数である。局付から先の絞り込みは,この入口の選別の上に,さらに重ねられる絞り込みなのである。選別は一度きりではなく,段階を追って繰り返される。

(2) 確定システムと傾向システム

ある元最高裁判所長官は,裁判官の人事には完全な確定システムは構築できないと述べる。行政官僚のような早期退職の慣行がなく,定年まで在職する者が多いため,人事に余裕がないからである。それでもなお,事務総局の上段には,事務次長から事務総長へ90パーセント,事務総長から最高裁判所へ78パーセントという,ほぼ確定的な経路が存在する。

西川は,完全な確定システムまでは言えないとしても,経歴的資源の観点から傾向システムは析出できる,とする。本稿のラダーの数値は,まさにこの傾向システムの姿である。下段は選抜的で傾向の幅が広く,上段は確定的で傾向が一本に収束する。この構造が,数値として現れている。

6 三冠王ポストとその他の幹部ポスト

最高裁判所調査官と司法研修所教官のほか,判検交流に基づく行政官庁等への出向は,重要な経歴的資源である。この3つのポストは,まとめて三冠王ポストと呼ばれることがある。第6で見たとおり,職業裁判官出身の最高裁判所裁判官41人のうち,調査官経験者は19人,教官経験者は16人であった。これらのポストは,事務総局の局付・課長とは別の系統でありながら,幹部到達に資する経歴的資源として機能する。本稿の級組では,調査官と教官の経験を,実務エリート(A1)の判定要素として用いている。

このほか,最高裁判所首席調査官は,最高裁判所調査官を統括するポストである。第7で見たとおり,高裁長官の直前ポストとして10人が首席調査官であった。また,司法研修所長や裁判所職員総合研修所長も,幹部ポストである。高裁長官の直前ポストとして司法研修所長が15人現れたことを想起されたい。これらは,事務総局の局長級と並ぶ司法行政上の要職であり,高裁長官・最高裁判所への経歴的資源として機能する。事務総局を中核とする司法行政の世界は,局付から最高裁判所まで,幾層もの段階で構成されている。

第9 高裁部総括人事

1 高裁部総括の位置づけ

高裁部総括とは,高等裁判所の各部の長を務める裁判官をいう。裁判所内部では部長とも呼ばれる。高等裁判所の審理は,原則として3人の裁判官による合議体で行われる。その合議体において裁判長を務めるのが,部総括である。すなわち,高裁部総括は,控訴審又は第一審の合議事件において,裁判長として審理を主宰する立場にある。裁判実務の最前線における,責任あるポストである。

部総括は,部の事務を統括するとともに,所属する陪席裁判官の指導にも当たる。したがって,高裁部総括を務めることは,裁判実務における一定の到達を意味すると同時に,後進を指導する立場に立つことを意味する。経歴的資源の観点からは,高裁部総括は,実務裁判官としての成熟と,幹部候補としての選抜の,双方を示す指標となる。西川は,高裁長官や地家裁所長と並んで,この高裁部総括の人事にも着目した。

2 所長経験と上位到達 ― 9割が所長を経験

高裁部総括の経験者は,当データベースで1,184人である。所長の経験と上位ポストへの到達を見ると,次のとおりである(地家裁所長は大半が就任前の経験であり,高裁長官と最高裁判所裁判官は就任後の到達である)。

到達先割合
地家裁所長89.4%
高裁長官12.3%
最高裁判所裁判官2.2%

ここから読み取れる最大の特徴は,高裁部総括の経験者が,ほぼ例外なく地家裁所長を経験している,ということである。高裁部総括を務めた者の約9割が,部総括就任の前後を通じて地家裁所長を経験している。その大半は,部総括就任の前に所長を経た者である。むしろ,高裁部総括に就く者の多くは,その手前で地家裁所長を経ている。第10で見るとおり,所長の直前ポストとして高裁部総括が多数現れるのは,この表裏の関係による。

他方,高裁部総括から高裁長官への到達は12.3パーセント,最高裁判所裁判官への到達は2.2パーセントにとどまる。地家裁所長の89.4パーセントという高い経験率と,高裁長官への12.3パーセントという低い到達率との落差が,高裁部総括の位置を物語る。所長の経験まではほぼ既定路線であるが,その先の高裁長官・最高裁判所への道は急に狭まる。高裁部総括は,幹部への入口ではあるが,幹部の頂点を約束するものではない。

3 級組構成

高裁部総括1,184人の級組構成は,次のとおりであった。

級組人数割合
S1201.7%
S2564.8%
S319316.4%
A144137.5%
A234129.0%
B112610.7%
B200.0%
合計1,177100%

経歴的資源を全く持たないB2が,1人もいないことは,重要である。これは,高裁部総括になる時点で,その者が例外なく,何らかの経歴的資源を備えていることを意味する。高裁部総括に就くこと自体が,一定の選抜を経た証である。司法官僚(S級)は合計269人,22.9パーセントを占め,実務エリート(A1)と大都市勤務の長い者(A2)が大半を構成する。高裁部総括は,司法官僚と実務エリートが交わる地点といえる。

4 庁別の集中

高裁部総括の経験者を庁別に見ると,東京高裁が445人と突出する。次いで,大阪高裁が291人,福岡高裁が130人,名古屋高裁が110人,仙台高裁が56人,札幌高裁が30人である。広島高裁と高松高裁は,各部合計でそれぞれ60人前後,20人前後である。

高裁部総括経験者数
東京高裁445
大阪高裁291
福岡高裁130
名古屋高裁110
仙台高裁56
札幌高裁30

高裁部総括が東京と大阪に集中するのは,両高裁の規模が大きく,部の数が多いためである。同時に,これは第7で見た知見と符合する。すなわち,東京高裁の部総括が高裁長官への最大の供給源であったことを思い起こせば,高裁部総括の中でも,東京高裁の部総括が特別の重みを持つことが分かる。庁別の集中は,単なる規模の反映にとどまらず,経歴的資源としての価値の差をも示唆する。

5 前後のポスト

(1) 直前のポスト

高裁部総括に就く直前のポストを見ると,2つの流れがある。

ア 高裁判事からの上り

第1は,高裁判事である。東京高裁判事が71件,大阪高裁判事が42件である。高裁の陪席判事を経て部総括に昇る,標準的な流れである。

イ 地家裁所長からの転入

第2は,地家裁所長である。和歌山地家裁所長28件,水戸地裁所長27件,静岡地裁所長24件,大津地家裁所長23件などである。これは,地家裁の所長を務めた者が,高裁部総括に転じる流れである。

この第2の流れは,注目に値する。地家裁所長と高裁部総括との間には,一方通行ではなく,双方向の異動がある。所長を経て高裁部総括となり,再び別の所長となる,という往復が見られる。両者は,幹部の一歩手前で循環する関係にある。

(2) 直後のポスト

高裁部総括の直後のポストを見ると,第1に,別の高裁部総括への異動がある。東京高裁部総括56件,大阪高裁部総括27件である。複数の部の部総括を歴任する者がいる。第2に,地家裁所長への異動が多い。横浜地裁所長25件,東京家裁所長18件,東京地裁所長16件,大阪家裁所長16件,名古屋地裁所長16件などである。これが,前述の到達率89.4パーセントの実体である。第3に,高裁支部長への異動もある。名古屋高裁金沢支部長17件,広島高裁岡山支部長15件などである。

直前と直後を併せて見ると,高裁部総括は,高裁判事から昇り,地家裁所長へ降りるという,上下動の中継点であることが分かる。また,地家裁所長との間で双方向の異動があることから,所長と高裁部総括は,幹部の一歩手前で互いに行き来する関係にあるといえる。

6 就任前の地家裁所長経験 ― 西川別稿との照合

西川は,別稿「高等裁判所部総括判事の人事をめぐる一考察」(法学研究93巻1号,2020年)で高裁部総括の人事を単独でも論じ,歴代の高裁部総括978人のうち788人,すなわち80.6パーセントが就任前に地家裁所長を経験していたとする。同論文が,この集計の資料源として当ブログを明記している点も特筆に値する。書籍に続き,この別稿もまた当ブログのデータの上に立っている。

当データベースで同じ集計を行うと,高裁部総括1,184人のうち854人,72.1パーセントが就任前に地家裁所長を経験していた。西川よりやや低いのは,当データベースが現在までの就任者を含み,母集団が大きいためである。高裁別に集計すると,次のとおりであった。2つの高裁で部総括を歴任した者は,各高裁に計上している。

高裁部総括(実数)所長経験率西川2020
東京46594.0%96.1%
大阪29295.5%95.8%
名古屋12966.7%75.2%
福岡15755.4%63.2%
仙台7561.3%60.7%
広島10038.0%46.3%
札幌7020.0%16.9%
高松6113.1%16.4%

東京・大阪は9割以上で就任にほぼ必須であり,札幌・高松は2割前後にとどまる。この序列と勾配は,西川の集計とよく一致する。さらに異動の向きを見ると,地家裁所長から直後に高裁部総括へ移った例が955件,逆向きが419件で,所長から部総括への上りが2倍を超える。地家裁所長は,高裁部総括へ進むための踏み石として機能しているのである。

7 地家裁部総括との対比と分岐点

部総括には,高裁の部総括と,地家裁の部総括とがある。本稿の正規化テーブルでは,部総括の役職を持つ在任区間は,全体で7,246件に上る。このうち,高等裁判所に属するものを高裁部総括として抽出したのが,本章の対象(経験者1,184人)である。

地家裁の部総括は,本稿の級組において,実務裁判官の系統を区分する指標として用いられる。すなわち,事務総局も調査官・教官・出向も経ない者のうち,部総括を経験した者をB1,経験しない者をB2とした。地家裁部総括は,実務裁判官のキャリアの一つの到達点である。これに対し,高裁部総括は,より上位に位置する。高裁の部の長を務めることは,地家裁の部総括よりも進んだ段階である。

高裁部総括の到達を,級組と重ね合わせると,分岐の構造が見える。高裁部総括の約9割は地家裁所長を経験するが,そこから先は分かれる。S級やA1の高裁部総括は,大規模地家裁所長を経て高裁長官・最高裁判所への道を残す。これに対し,A2やB1の高裁部総括は,部総括又は所長で全うすることが多い。すなわち,高裁部総括は,実務裁判官と司法官僚が交わり,幹部への道が分岐する地点である。
第6で見たとおり,職業裁判官出身の最高裁判所裁判官41人のうち40人(97.6パーセント)が部総括を経験していたことを想起すれば,部総括の経験が,幹部到達の広い前提となっていることが分かる。

第10 地家裁所長人事

1 級組構成

地方裁判所及び家庭裁判所の所長を経験した者の級組構成は,次のとおりであった。

級組人数割合
S1362.5%
S2765.2%
S322215.3%
A154037.1%
A236024.7%
B121614.8%
B250.3%
合計1,455100%

最も多いのはA1の540人(37.1パーセント)である。次いでA2が360人(24.7パーセント),S3が222人(15.3パーセント),B1が216人(14.8パーセント)と続く。地家裁所長は,最高裁判所裁判官や高裁長官と異なり,広い層から供給される。司法官僚(S級)は合計334人,22.96すなわち約23.0パーセントにとどまり,実務エリート(A1)が最大の供給源である。

注目すべきは,経歴的資源を全く持たないB2が,6人,0.4パーセントにすぎない点である。地家裁所長は実務裁判官にも開かれた地位であるが,それでも,部総括も事務総局も調査官・教官・出向も経験しない者が所長になることは,ほとんどない。所長になるには,少なくとも何らかの経歴的資源を要する。

なお,西川(前掲書)では,地家裁所長の級組はA2が最多であった。本稿でA1が最多となるのは,A2を「全在任日数の50パーセント以上が大都市勤務」という相対基準で判定し,書籍の定性的なA2より狭くとったためである(第12参照)。

2 庁別の序列

(1) 東京高裁管内の中規模地裁

地家裁所長にも,庁による序列がある。各庁の所長経験者が,その後に高裁長官へ到達した割合を見ると,差は歴然である。所長到達者の多い主要庁を抜き出すと,次のとおりである。

所長経験者数高裁長官への到達率最高裁判所への到達率
千葉地裁3268.8%9.4%
前橋地裁3256.3%12.5%
水戸地裁3447.1%17.6%
甲府地家裁3243.8%18.8%
静岡地裁3243.8%15.6%
長野地家裁3324.2%3.0%
札幌地裁3020.0%0.0%
鹿児島地家裁320.0%0.0%
宮崎地家裁300.0%0.0%
秋田地家裁300.0%0.0%

到達率の高い庁は,千葉,前橋,水戸,甲府,静岡である。これらはいずれも,東京高裁の管内に属する中規模の地裁である。同じ所長数(30人前後)でありながら,高裁長官への到達率は,千葉の68.8パーセントから鹿児島・宮崎・秋田の0.0パーセントまで,大きく開く。所長ポストの序列が,いかに庁によって異なるかが分かる。

(2) 所長止まりの庁

これに対し,高裁長官への到達率が0パーセント前後の庁も多い。鹿児島,宮崎,秋田などである。これらの庁の所長は,所長で実務裁判官としてのキャリアを全うすることが多い。同じ地家裁所長でも,幹部への通過点となる庁と,所長止まりの庁とがある。

(3) 管内別の傾向

庁別の序列を高裁の管内で束ねると,傾向が見える。東京高裁管内の地裁所長(千葉・前橋・水戸・甲府・静岡等)は,高裁長官への到達率が高い。これは,東京高裁が幹部への本流であり,その管内の所長が本流に近いためである。地方の高裁管内の地家裁所長は,相対的に到達率が低く,地理的な中央と地方の差が所長の序列にも投影されている。

3 所長への給源

地家裁所長に就く直前のポストの分布は,次のとおりであった。

直前ポスト件数
東京高裁判事212
東京高裁部総括110
東京地裁部総括86
大阪高裁部総括61
福岡高裁部総括60
最高裁局長59
横浜地裁部総括58
大阪地裁部総括50
司法研修所教官34

(1) 高裁判事と高裁部総括

最大の給源は,高裁の判事と部総括である。所長になる者の多くは,その直前に高裁の陪席判事又は部総括を務めている。高裁での勤務を経て,地家裁の所長に転じるのが標準的な経路である。とりわけ,部総括は所長への最も太い経路である。この点は,第9で見た高裁部総括の到達と表裏をなす。

(2) 事務総局局長からの所長

注目すべきは,最高裁局長が59件,所長の直前ポストとして現れる点である。事務総局の局長を務めた司法官僚が,地家裁の所長に回る経路である。これは,司法官僚が現場の所長を経験する回転であり,第8で見た,磨いて現場に戻す人事の,幹部段階での現れと見ることもできる。

4 大規模地裁所長という特別な位置

西川は,東京地裁所長の歴代就任者がほぼ東大出身者で固められると指摘した。大都市の地裁所長は,地方の地家裁所長とは性格を異にする。東京・大阪・名古屋といった大都市の地裁は,規模が大きく,その所長は司法行政上も重きをなす。これらの所長は,第7で見たとおり,高裁長官への直前ポストとしても多数現れた。東京地裁所長21人,横浜地裁所長15人,大阪地裁所長12人などが,高裁長官の直前ポストであった。

すなわち,大都市地裁所長は,地家裁所長の中でも,高裁長官への踏み石として特別の位置を占める。地方の小規模地家裁の所長が実務裁判官の到達点であるのに対し,大都市地裁所長は,さらに上への通過点となりやすい。

5 所長の在任とローテーション

地家裁所長は,多数のポストである。全国の地方裁判所と家庭裁判所に,それぞれ所長が置かれる。本稿のデータでは,所長経験者は1,472人に上り,幹部ポストの中で最も人数が多い。これは,地家裁所長が,幹部人事の裾野を広く支えるポストであることを示す。

所長の在任は,一般に数年であり,その後,別の庁の所長,高裁の部総括,あるいは退官へと向かう。所長を務めた庁の序列によって,その後の到達先が分かれる。所長というポストは,幹部への通過点と,実務裁判官の到達点という,2つの性格を併せ持つ。

第11 行政官庁への出向と経歴的資源

1 行政官庁等への出向裁判官

経歴的資源は,裁判所の中だけで蓄積されるものではない。裁判官は,行政官庁等へも出向する。西川は,この行政官庁への出向を,経歴的資源の一つとして独立に分析した。本稿のデータでも,その輪郭を確認できる。第3で述べたとおり,出向に当たるスティントは,法務省1,219件,法務局855件,検察704件,その他の省庁851件,在外公館86件,内閣法制局50件などで,合計約4,100件であった。これは,登録された全期間を通算した延べの件数である。

これに対し,ある時点での出向の状況を見るには,年ごとの断面が役立つ。次の表は,各年12月1日現在の,行政官庁等への出向裁判官の数を,機関別に示したものである。山中弁護士の開示文書アーカイブから判読し,確定した数値である。系統的な年次の開示が得られるのは平成24年(2012年)以降であり,平成25年(2013年)分は欠けている。それ以前の年は,このアーカイブに存在しないため,本表には含めない。確定した数値のみを示し,推測値は混ぜない。それ以前の年次については,西川の前掲書又はその基礎資料を参照されたい。

機関名201220142015201620172018201920202021202220232024
内閣官房141111222111
内閣法制局222222222222
再就職等監視委員会11111111
内閣府(公益認定等委員会)11
公正取引委員会222222222222
金融庁111111121313131313111111
消費者庁1
デジタル庁1112
総務省222333344433
公害等調整委員会333333333333
法務省9286909796101102102103100100101
外務省101111121211111111111111
財務省111111111111
文部科学省233333333333
文化庁11
厚生労働省111111111111
中央労働委員会222222222222
農林水産省111111222222
経済産業省222222222222
資源エネルギー庁1111111
特許庁111
国土交通省111112222222
国税庁(国税不服審判所)556666666666
衆議院法制局222222222222
裁判官訴追委員会1
国立国会図書館1111111
預金保険機構222333333333
日本司法支援センター111111111111
派遣222233442333
合計146144146157159167171172171168167168

各年とも,機関別の合計が,文書末尾の計と一致することを検算した。なお,2012年から2016年までの一部は,テキスト層を持たないスキャン画像の文書であったため,高解像度の画像に描画して目視で判読した。判読に当たっては,年次ごとの合計との照合によって,誤りの混入を防いだ。

2 法務省への出向が突出していること

表から,まず読み取れるのは,法務省への出向が突出していることである。法務省への出向裁判官は,2012年の92人から2021年の103人まで,毎年90人から103人で推移する(2014年のみ86人)。出向裁判官の合計が毎年144人から172人であることに照らすと,法務省だけで6割前後を占める。これは,法務省の訟務部門,すなわち国を当事者とする訴訟を担当する部門や,民事局・刑事局などに,多数の裁判官が判検交流等で出向しているためである。

法務省に次いで多いのが,金融庁(毎年11人から13人),外務省(毎年10人から12人。在外公館の書記官等を含む),国税不服審判所(毎年5人から6人)である。預金保険機構は2人から3人,公害等調整委員会は毎年3人である。内閣法制局への出向は,毎年2人で安定している。少人数ながら,内閣法制局参事官は,後述のとおり重要な経歴的資源となる。

近年は,出向先に変化も見られる。デジタル庁への出向が令和3年(2021年)に現れ,令和6年(2024年)には2人となった。裁判官が,司法行政の外の,幅広く,かつ移り変わる行政分野に,制度的に送り出されていることが分かる。

3 法務省民事局長の人事

法務省民事局長は,裁判官が出向して就くことが慣例化したポストである。西川は,これを独立の分析対象とした。同書の基礎資料は,法務省民事局長の歴代就任者の経歴的資源とその後の経歴を示す。以下に再現する。

区分人数割合
就任者総数19
出身大学:東大1473.7%
出身大学:京大421.1%
出身大学:一橋大15.3%
その後の経歴:地家裁所長1894.7%
その後の経歴:高裁長官1157.9%
その後の経歴:最高裁判事631.6%
性別:男19100%
性別:女00%

なお,その後の経歴は,キャリア途上の者があるため暫定値である。

(1) 出身大学の偏り

出身大学は,東京大学が73.7パーセント,京都大学が21.1パーセントであり,両者で94.8パーセントを占める。法務省民事局長は,二大学の出身者でほぼ固められている。西川が経歴的資源の一つとして出身大学を挙げ,東大・京大が幹部到達に有利に働くと論じた点が,このポストにも明瞭に現れている。

(2) その後の経歴

その後の経歴を見ると,地家裁所長への就任が94.7パーセントに達する。ほぼ全員が,その後に地家裁所長を経験する。さらに,高裁長官への到達が57.9パーセント,最高裁判所判事への到達が31.6パーセントである。法務省民事局長は,地家裁所長を経て高裁長官・最高裁判所へと至る,幹部への有力な経歴的資源である。第6で見たとおり,職業裁判官出身の最高裁判所裁判官の経歴に,法務省・法務局の勤務経験が約15パーセントの者に見られた。法務省民事局長は,その代表的なポストである。

なお,このポストを務めた裁判官は,本稿のデータの範囲では男性のみであった。幹部人事における性別の偏りは,このポストにも表れている。これは,本稿が分析する世代の構成を反映した事実であり,今後の世代では変化し得る点である。

4 内閣法制局参事官

内閣法制局は,法律案や政令案の審査,及び法律問題に関する意見の事務を担う機関である。その参事官には,各省庁から出向した本省課長クラスの職員が充てられる。裁判官も,参事官として出向する。本稿では,個人を論評する趣旨ではないため,個々の就任者の氏名は挙げず,ポストの構造と位置づけを述べる。

(1) 意見事務と審査事務

内閣法制局の第一部は意見事務を担当し,第二部から第四部までは審査事務を担当する。意見事務とは,法律問題に関する政府の見解を述べる事務であり,審査事務とは,各省庁が提出する法律案や政令案を審査する事務である。裁判官は,主として第一部と第二部に参事官として配置されてきた。

内閣法制局の各ポストは,各省のポストに対応づけることができる。すなわち,内閣法制局総務主幹は各省の官房長に,第一部から第四部までの部長は各省の局長に,内閣法制次長は各省の事務次官に,内閣法制局長官は各省の大臣に相当する。裁判官出身者の中には,参事官にとどまらず,部長,次長を経て,内閣法制局長官にまで上った例もある。

(2) 将来の幹部候補という位置づけ

国立公文書館の資料によれば,内閣法制局の法案審査を担当する参事官は,伝統的に他省庁から出向した,法律及び実務についての知識も経験も豊かな,おおむね在職10年から15年の本省課長クラスの職員で占められている。参事官に他省庁からの出向者を充てる制度は戦前から続くものであり,彼らは将来の幹部候補と見られている。したがって,内閣法制局への出向者に選ばれることは名誉であるとされる。

ある元内閣法制局長官の著書も,役所によっては内閣法制局参事官の経験者がその後に局長や長官,事務次官になる例が少なくないこと,裁判所もそのような官庁の一つであり,先々幹部になりそうな人材を法制局に出すのが慣例になっていることを指摘する。第11・1の表で内閣法制局への出向が毎年1人から2人と少ないことと,それが重要な経歴的資源であることとは,矛盾しない。少数の選抜だからこそ,名誉とされるのである。

内閣法制局は,第一部から第四部まで,それぞれ参事官が5人ないし6人配置され,部長や総務主幹も参事官を兼ねるため,参事官は全部で26人から27人ほどになる。組織は小さく,独自の採用はほとんど行わない。参事官の在任期間は,原則として5年以上になるという。長期にわたり専門性をもって従事するポストである。

(3) 弁護士資格の特例

内閣法制局参事官には,弁護士資格との関係で,一つの特例がある。司法試験に合格した後に5年間,内閣法制局参事官を務めれば,法務大臣が指定する研修の課程を終了した旨の認定を受けることで,弁護士登録ができる(弁護士法5条1号・5条の3)。弁護士資格に特例を認めた法の趣旨は,単に特殊な法律専門知識があることだけに着眼したものではなく,少なくとも司法修習生の修習を終えた者と同程度の一般的な法律的素養にも欠けるところがないことを予定しているものである(最高裁昭和43年11月15日判決)。

内閣法制局参事官は,裁判官にとって,行政官庁への出向の中でも,将来の幹部候補が選ばれる経歴的資源の一つである。法務省民事局長と並んで,司法行政の外で蓄積される経歴的資源の代表例であるといえる。本稿の級組では,これらの出向経験を,実務エリート(A1)の判定要素の一つとして用いている。

第12 補論 ― A2区分の難しさと一つの発見

1 大都市勤務の長さをどう測るか

級組のうち,A2の判定は最も難しい。西川自身が,大都市の地裁・高裁勤務の長い者と定性的に述べるにとどめており,明確な数値基準を示していないからである。長いとは,どのくらいか。これを機械的に判定するには,基準を数値で定める必要がある。

本稿では,2つの方法を試みた。

ア 絶対量による方法

第1は,大都市の地方裁判所(東京,大阪,名古屋,横浜,京都,神戸,福岡)と高等裁判所での累積在任日数が10年以上の者をA2とする方法である。

イ 相対比による方法

第2は,その累積在任日数が,裁判所での全在任日数の50パーセント以上を占める者をA2とする方法である。前者は絶対量で,後者は相対比で測る。

2 予想外の結果

いずれの方法でも,A2の人数は1,800人前後から2,000人近くと多くなった。さらに,相対指標による集計では,A2の地家裁所長への到達率が18.6パーセントとなり,B1の29.9パーセントを下回った。すなわち,A2がB1より下に位置するという,西川の素朴な順序とは逆の結果が現れた。順序が入れ替わったのである。

この逆転は,定義の誤りというよりも,実態を映した発見であると考えられる。大都市の裁判所は規模が大きく,さまざまな裁判官を多く抱える。必ずしも幹部に進まない裁判官も,そこには多く含まれる。したがって,大都市勤務が長いことは,必ずしも恵まれたことや,幹部に進むことを意味しない。勤務地が華やかであることと,経歴的資源が厚いこととは,別の事柄である。

3 効く資源は何か

A2を切り出したことで,かえって何が効く資源であるかが鮮明になった。地家裁所長への到達を強く予測するのは,大都市勤務の長さではなく,部総括の経験であった。最高裁判所裁判官や高裁長官への到達を予測するのは,依然として事務総局の経験であった。

整理すると,3層になる。第1に,最高裁判所裁判官と高裁長官は司法官僚が占める。第2に,地家裁所長は部総括の経験者が占める。第3に,単なる大都市勤務は,いずれの予測子としても弱い。経歴的資源の中でも,事務総局と部総括が決定的であり,勤務地の華やかさはそれほど効かない。これが,A2の分析から得られた一つの発見である。

この発見は,分析の方法論についても教訓を含む。すなわち,定義の柔らかい区分をあえて切り出してみることで,かえって何が頑健な予測子であるかが浮かび上がる,ということである。A2という曖昧な区分を導入し,それが弱い予測子であると判明したからこそ,事務総局と部総括という確かな資源の輪郭が,より鮮明になった。何が効かないかを知ることは,何が効くかを知ることと同じだけ重要である。否定的な結果も,一つの知見である。

4 多段階の選別構造という全体像

以上の各章を通覧すると,日本の裁判官人事には,経歴的資源による多段階の選別構造が貫かれていることが分かる。修習生時代の選別に始まり,局付・部総括という入口を経て,課長・局長・所長・高裁長官という各段で資源による絞り込みが重ねられ,事務総長・最高裁判所裁判官という頂点へ収束する。

高裁部総括,地家裁所長,高裁長官,最高裁判所裁判官は,それぞれ独立した地位ではない。一本の昇進の流れの中の各段である。高裁部総括の約9割が地家裁所長に流入し,地家裁所長の一部が高裁長官に流出し,高裁長官の一部が最高裁判所に到達する。各段で経歴的資源による選別を繰り返しながら,人事は頂点へと収束していく。各段の到達率と庁別の序列は,この構造を数量的に描き出す。西川が経歴的資源を手がかりとして描いた裁判官幹部人事の姿は,当データベースの全件集計によっても,明瞭に再現されたといえる。

第13 本稿の留保と限界

1 母集団の違い

本稿の集計対象は,当ブログに登録された全裁判官であり,現職と元職を合わせて6,739人である。これに対し,西川の集計対象は,幹部ポストに就いた1,758人である。両者は別の母集団である。したがって,割合の絶対値を直接に比較することはできない。

もっとも,これは弱点であると同時に,拡張でもある。本稿は,幹部だけでなく,全裁判官を同じ級組でコード化した。西川が,2,800人近くを2分類しかしないのは大まかにすぎる,と述べた粒度の問題に対し,本稿は7区分かつ全件で応えたことになる。母集団が違うからこそ,本稿は,西川とは別の角度から同じ構造を照らすことができた。

2 定義の柔らかさ

級組のうちA2は,前述のとおり,定義が柔らかい。本稿は,全在任日数の50パーセントという相対基準を採用したが,これは一つの選択にすぎない。基準を変えれば人数も変わる。本稿の結論のうち,A2に関わる部分は,この選択に依存することを明記しておく。

これに対し,S級の判定は,事務総局の局付と課長という明確な事実に基づく。序列や確定システムの分析も,役職と在任期間という客観的な記録に基づく。これらは,定義の選択にほとんど左右されない。本稿の中核的な結論は,柔らかい定義に依存する部分とは区別される。どの結論がどの程度の確かさを持つかを,読者は区別して受け取る必要がある。

3 データの網羅性

本稿のデータは,当ブログに登録された範囲に限られる。登録されていない裁判官は,集計に入らない。また,正規化の過程で,役職を判定できなかったスティントが約1.3パーセント存在する。これらは,海外への司法支援や歴史的な記載など,周辺的なものである。級組の判定に用いる主要な役職は,いずれも正しく取り出されている。

以上の留保を踏まえてもなお,本稿の主要な数値は,西川の記述とよく一致した。手法の妥当性は,相互の検証によって支えられている。データの網羅性に限界はあるが,その限界は,主要な結論を覆すほどのものではない。

4 相関と因果についての留保

本稿が示したのは,経歴的資源と幹部到達との間の相関である。相関は,因果関係そのものではない。事務総局を経た者が幹部に到達するのか。それとも,幹部に到達する素質のある者が事務総局に選ばれるのか。この2つは,相関だけでは区別できない。本稿は,どちらか一方を主張するものではない。選抜と昇進の両面が働いていると見るのが穏当であろう。

また,本稿の到達率は,過去から現在までを通算した平均である。時代による変化は,別途の分析を要する。本稿のデータは,年ごとのスナップショットを蓄積することで,将来この時系列の分析にも応用できる。情報公開が継続する限り,データは更新され,分析もまた更新される。本稿は,現時点での一断面を示したものであり,最終的な結論を述べるものではない。

第14 むすび

1 数値の一致という成果

本稿は,西川伸一『裁判官幹部人事の研究』の分析手法を,当ブログの裁判官データベースの上で機械的に再現する試みであった。級組分類,経歴的資源と幹部到達の関係,序列の析出,確定システムの数量化という,同書の主要な方法を,全6,739人の裁判官に適用した。

得られた数値は,書籍の記述とよく一致した。特に,東京高裁長官から最高裁判所裁判官への到達率が3分の2近くであること,高松高裁長官からの到達が皆無であることは,書籍の記述のとおりであった。人事局長が事務総局の頂点に立つこと,事務次長から事務総長への昇進がほぼ自動であることも,数値で確認された。手作業による研究と,機械による全件集計とが,同じ構造に着地した。これは,双方の妥当性を相互に支える結果である。

2 人事の傾向と裁判の独立の峻別

ここで一言の留保を加える。本稿が描いたのは,あくまで人事の構造である。それは,個々の裁判官が事件の審理において独立して職権を行うこと(憲法76条3項)を否定するものではない。人事の傾向と,裁判の独立とは,別の次元の問題である。本稿は,前者の傾向を実証的に示したにとどまる。

級組は,レッテルではない。経歴の要約にすぎない。ある裁判官がどの級組に属するかは,その裁判官の判断の当否とは無関係である。傾向を構造として理解することと,個人を裁断することとは,截然と区別されなければならない。本稿が個々の就任者の氏名を努めて挙げなかったのも,この区別を保つためである。本稿は,構造を論じるものであって,人を論じるものではない。

3 情報公開と社会科学

本稿の作業は,情報公開と社会科学の関係についても,一つの示唆を与える。最高裁判所事務総局は,長く情報の秘匿を旨としてきたといわれる。これに対し,司法行政文書の開示を継続的に求め,得られた文書を公開する営みが,年月をかけて積み重ねられてきた。その蓄積が,検証可能なデータベースとなった。そして本稿は,そのデータベースの上で,学術書の手法を再現できることを示した。

開示された情報は,読まれてはじめて意味を持つ。読まれ,集計され,検証されることで,情報公開は社会科学の素材へと姿を変える。本稿は,大規模言語モデルと構造化問合せ言語を組み合わせる方法の,一つの実例でもある。本文の経歴を解析し,正規化テーブルに変換し,級組を判定し,到達率や序列を集計する。この一連の工程は,いずれも再現可能な手続きとして記述できる。手続きが記述できれば,第三者による検証が可能となる。検証可能性こそが,社会科学の生命線である。

情報公開の蓄積が,検証可能な社会科学の素材となる。これが,本稿の示した一つの可能性である。公開されたデータと再現可能な手続きとによる司法研究の,ささやかな一例となれば幸いである。