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遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言の取扱い及び公証人の補助参加

第1 遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言の取扱い

1 公証人の証言の信用性
(1) 「遺言無効確認請求事件の研究(上)」(筆者は56期の石田明彦裁判官他9名)には記載があります(判例タイムズ1194号(2006年1月15日号)55頁)。
オ 公正証書の作成状況を認定するに当たっての証拠方法
  収集した裁判例においては,口授等の作成状況を認定するに当たり,いずれも作成に立ち会った者の証言が用いられている。
  裁判例のうち5件(裁判例4,5,30,33,37)は,公証人を証人として採用し,その証言に基づいて作成状況を認定している。
  公証人の証言の信用性について特段の検討をせずに事実を認定している裁判例がほとんどであったが,裁判例37は,遺言書作成時に遺言者が公証人に対して言葉を発することはなかったとの立会証人の証言と比較し,公証人は職務遂行上遺言の方式や遺言能力に留意し,遺言能力を確認するためにも遺言内容を遺言者が自ら話すよう手続を進めたことが認められ,その証言は非常に信用性が高いのに対し,立会証人は法律に対する専門的知識を有しているのではなく,遺言作成の手順については特段の留意を払っていなかったものであり,立会証人の証言は公証人の証言よりも信用性は低いと判断している。
  裁判例のうち3件(裁判例8,15,29)では,公証人を証人として採用しておらず,立会証人の証言により事実を認定している。
  裁判例29は,遺言能力の判断において,立会証人は社団法人家庭問題情報センターに所属する元家庭裁判所調査官であり,公証人から派遣要請を受けた同センターから派遣された者であって,当事者と何らの利害関係も持たないことを指摘し,同立会証人の証言を遺言作成時の事実認定の際の証拠として摘示している。
(2) 「遺言無効確認請求事件の研究(上)」は,平成7年以降大阪地裁民事部が受理した63件の遺言無効確認請求事件(うち1件は遺言有効確認請求事件)を検索し,判決に至った合計40件の裁判例を検討したものであります(判例タイムズ1194号(2006年1月15日号)44頁)ところ,当該論文で検討対象となった裁判例は平成17年までと思います。
2 公証人の証言拒絶権
(1) 公証人又は公証人の職にあった者は,職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合,証言を拒むことができます(民事訴訟法197条1項2号)ところ,民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事実のうち,弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいいます(最高裁平成16年11月26日決定)。
(2) 東京高裁平成4年6月19日決定(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
  遺言者が死亡した後に、公正証書遺言によってされた財産の帰属に関する遺言者の意思表示の効力を巡って紛争が生じ、この点に関する事情について、当該公正証書を作成した公証人の証言を得るほかこれに代替し得る適切な証拠方法がない場合、右紛争について実体に即した公正な裁判を実現するために、右紛争の争点に対する判断に必要な限度で遺言者の秘密に属する事実が開示されることになっても止むを得ない。
(3) 公証人法4条は「公証人ハ法律ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外其ノ取扱ヒタル事件ヲ漏泄スルコトヲ得ス但シ嘱託人ノ同意ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス」と定めています。
3 問題なく作成された公正証書遺言の作成状況を公証人が覚えていないことは特に問題とならないこと
(1) 東京高裁平成29年6月26日判決(判例秘書に掲載。裁判長は35期の安浪亮介)は,13期の山本和敏公証人が入院中の88歳の女性の依頼に基づいて作成した遺言公正証書(以下の文中の「第2遺言」のことです。)について,以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
① 第2遺言作成に当たった山本公証人は,Eの親族の遺言公正証書を作成した記憶はあるものの,Aのことを記憶していないとしている(乙12)が,仮に,Aが山本公証人とのやりとりにおいて,不穏な言動をしたり,ちぐはぐな対応をしたりするなどした場合には,公証人として,遺言公正証書の作成を進めるべきか中断すべきか検討することになるであろうし,そうであれば,かえって記憶に残ると考えられるのであり,山本公証人の記憶に残っていないということは,むしろ第2遺言作成が問題なく行われたことに整合するものと考えられる。
② 被控訴人は,Aが遺言の趣旨を公証人に口授したものとはいえず,第2遺言には民法969条2号の方式違背があることは明らかであると主張する。
 しかし,平成13年12月28日頃の看護経過記録(甲4)からうかがわれるAの言動からすれば,Aは,入院中,他者と不自由なく会話をすることができており,第2遺言作成時においても,言葉を交わすことにより,山本公証人からの遺言書の案についての問い掛けに応対できたものと認められる上,証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば,第2遺言は,山本公証人が遺言公正証書を作成する際の通常の手順と方法により作成されたものと認められるから,Aにおいて山本公証人とのやりとりを通じて第2遺言の内容を了承する旨述べたことを容易に推認することができる。
 したがって,第2遺言は,Aの口授によるものということができ,被控訴人主張の方式違背があるとはいえない。
(2) なかた法律事務所HP「公正証書遺言の無効[相続問題]」には以下の記載があるものの,公証人が無理に具体的な遺言作成の状況を説明する必要はないと思います。
公正証書遺言といえば、公証人が証人として出てくることが多々あります。
公証人が具体的な遺言作成の状況は覚えていないと証言することが多いのではないでしょうか。
多ければ年間何百件も作成しますからね。
しかし、私の担当した訴訟でも公証人が出てきましたが、十数年前の遺言の具体的な状況を覚えていると証言をしました。
しかし、俄かに信じることができませんよね。証言の信用性をかなり争いました。


第2 遺言無効確認請求訴訟における公証人の補助参加

1 訴訟の結果について利害関係を有する第三者は,当事者の一方を補助するため,その訴訟に参加することができます(民事訴訟法42条)。
 そして,当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合,法律上の利害関係を有するといえますから,第三者が補助参加できます(最高裁平成13年1月30日決定)。
2(1) 公証人は国家賠償法上の「公務員」に該当します(法務省HPの「公証制度について」参照)から,「口授」の欠缺を理由とする遺言無効確認請求訴訟において請求認容判決が出た場合,公正証書遺言が無効とされて損害を受けた嘱託人及びその相続人としては,公証人の職務義務違反を理由として国家賠償請求訴訟を提起できますところ,仮に当該訴訟において国が敗訴し,かつ,職務義務違反について公証人に故意又は重過失があると判断された場合,公証人は国から求償権を行使されます(国家賠償法1条2項)。
  そのため,遺言無効確認請求訴訟の判決は,公正証書遺言を作成した公証人の私法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすといえますから,公証人としては,公正証書遺言の関係者を補助するため,遺言無効確認請求訴訟に補助参加できると思います。
(2) 横浜ロード法律事務所HP「補助参加」には「民事訴訟法において、補助参加の申出があった場合、当事者の異議がない限り、裁判所は補助参加を許すか否かの判断をすることがないため(44条1項)、(山中注:補助参加の要件は)実務的にはあまり問題になりません。」と書いてあります。
3(1) 身元保証金は,公証人が将来負担することのあるべき一定の債務を担保するために国に納付する金銭又は国債証券であります(公証人法19条,公証人身元保証金令2条)ところ,新訂 公証人法43頁には「公証人の故意過失によって嘱託人等の関係人に損害を与えた場合には、国がその賠償の責に任じ、公証人に故意又は重過失がある場合には、上記賠償額につき国は公証人に対して求償権を取得するから(国家賠償法1条2項)、国は身元保証金からこの求償権の弁済を受け得るものと解される。」と書いてあります。
(2) 東京23区又は大阪市に公証役場を設ける場合の身元保証金は3万円です(公証人身元保証金令1条)。
4 福岡高裁平成30年3月19日判決は,「明文の規定もない以上,控訴審における独立当事者参加に被参加人の同意を要すると解することはできず,これも採用することはできない。」と判示しています(リンク先のPDF18頁)。

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