目次
第1 AI作成の判例評釈
第2 判例評釈を読んだAIベテラン裁判官の感想(AIの感想であって,現実の裁判官の感想ではないです。)
第1 AI作成の判例評釈
以下の記事は,私が訴訟代理人として関与した神戸地裁令和6年9月18日判決(担当裁判官は60期の植田類)及び大阪高裁令和7年3月14日判決(担当裁判官は40期の黒野功久,44期の木太伸広及び49期の丸山水穂)に関するGemini2.5Pro作成の判例評釈(代理人弁護士の立場から作成したものです。)に全面的に依拠した記事です(令和7年6月15日現在,上告受理申立て中です。)。
(以下,AI作成の判例評釈です。)
昨今,労働者の権利意識の高まりとともに,未払残業代請求訴訟は増加の一途をたどっています。その中でも,パワーハラスメントを理由とする損害賠償請求や,管理監督者性の有無,付加金の支払義務などが複雑に絡み合う事案は少なくありません。
今回は,特に①客観的証拠に乏しい状況下でのパワーハラスメントの事実認定と供述の信用性評価,②管理監督者性の判断,そして③事実審口頭弁論終結前にされた仮執行宣言に基づく支払が付加金支払義務に与える影響という,実務上重要な論点を含んだ裁判例について、事実関係を整理し,検討を加えてみたいと思います。
1 事実の概要
(1) 当事者
本件は,タクシー会社であるY1社及びY2社(以下「Y社ら」)に運行管理者兼営業所長として勤務していたXが,Y社ら及びその上司であるY3に対し,未払割増賃金,休業手当,付加金並びにパワーハラスメント及び過重労働を理由とする損害賠償等を請求した事案です。
(2) 背景
Xは,Y1社の神戸営業所長として勤務していましたが,令和3年10月1日,同営業所がY2社に事業譲渡されたことに伴い,同日以降はY2社の従業員として,引き続き同営業所で勤務していました。Y3は,Y1社の営業部長であり,Y2社の取締役を兼務する,Xの上司でした 。
(3) 原告(X)の請求及び主張の概要
Xは,長時間労働に対する未払割増賃金に加え、主に以下の事実を主張しました。
パワーハラスメント: Y3から,令和2年3月24日に電話で約1時間半にわたり「なめとんのか!いてまうぞ!」等の暴言を浴びせられ,さらに令和4年2月以降も他の職員の前で「給料は高すぎる」「いつでも簡単に下げられる」等の人格否定を伴う叱責を頻繁に受けた 。
過重労働: Y2社において,もう一人の運行管理者であったA氏が業務から外された後,代替要員の補充がないまま,令和4年5月21日から31日間で休日が1日のみという過重労働を強いられた。
損害: 上記パワハラと過重労働により持病の狭心症の発作を起こし,双極性障害を発症して休職,退職を余儀なくされたとして,慰謝料300万円を含む損害賠償を請求しました 。
休業手当: 上記休職はY2社の責めに帰すべき事由によるものであるとして、休業手当の支払を求めました 。
(4) 被告(Y社ら及びY3)の主張の概要
これに対し、Y社ら及びY3は、主に以下のとおり反論しました。
パワーハラスメントの否定: 令和2年3月24日の電話は、別の従業員の不適切な電話対応について、所長であるXに対し5分から10分程度の正当な業務指導を行ったものであり、Xが主張するような暴言は一切ないと主張しました。また、令和4年以降のパワハラも全面的に否定しました 。
労働時間: Xの業務量は時間外労働を必要とするものではなく、休憩時間も確保されていたと主張しました 。
管理監督者性: Xは神戸営業所の所長として、乗務員の採用に関する事実上の決定権限を有し、出退勤についても厳格な管理を受けておらず、その待遇も一般従業員に比して優遇されていたことなどから、労働基準法上の管理監督者に該当すると主張しました 。
付加金: 未払賃金の存否及び額について合理的な理由に基づき争っていること、また、第一審判決後に仮執行宣言に基づき未払賃金相当額を支払済みであることから、付加金の支払義務は消滅したと主張しました。
(5) 問診票の記載
Xは,令和2年4月の初診時の問診票には,Y3からの「イジメともとれる暴言や罵声」を申告していたが ,休職の直接の原因となった令和4年6月の再診時の問診票には,Y3によるパワハラの記載はなく,「過密で休日が取れず、心身共に疲弊してしまい、本日、受診した」との記載にとどまっていた 。
(6) 第一審及び控訴審の判断
ア 第一審(神戸地方裁判所第6民事部・植田類裁判官)は以下のとおり判断しました。
① 令和2年3月24日の電話におけるY3の言動を違法なパワーハラスメントと認定した一方,令和4年以降の言動は証拠不十分として認定しませんでした。
② パワハラとXの疾病発症・休職との間の相当因果関係は否定し、休業手当の請求を棄却しました。
③ 損害賠償としてY1社及びY3に対し連帯して33万円(慰謝料30万円、弁護士費用3万円)の支払を命じました。
④ Xの管理監督者性は否定し、未払割増賃金の請求を一部認容しました。
⑤ Y社らに対し、認容された未払割増賃金とほぼ同額の付加金の支払を命じました 。
イ 控訴審(大阪高等裁判所第13民事部・黒野功久裁判長,木太伸広裁判官,丸山水穂裁判官)は,第一審判決の判断を概ね維持し,双方の控訴を棄却しました。
ただし,付加金については,法定時間内残業分を対象から除外するなどして第一審判決よりも減額しました。Y社らが第一審判決後に仮執行宣言に基づき支払いを行った点については,弁済の効力は生じないとして,付加金の支払義務は消滅しないと判断しました 。
2 判旨
本判決(特に断りのない限り,控訴審判決を指す)の判断のうち,実務上特に参考となるのは以下の点です。
(1) パワーハラスメントの成否について
令和2年3月24日のY3の言動について,「原告が日々の出来事等を記録していたと認められる手帳には、……原告の供述内容と一致する記載があることも考慮すると、同日の出来事に係る原告の供述は信用できるというべきである。」とし,「電話の応対をした原告に対し、人格的な批判を含む強い文言を用いて罵倒するものであって、業務上必要な限度を逸脱したものであることは明らかというべきであるから、違法なパワーハラスメントに該当する」と判断しました 。
他方,令和4年以降の言動については,「原告の供述のみから、直ちに原告主張の被告Y3による言動を認定することはできず,その他これを認めるに足りる的確な証拠はない」として,Xの主張を認めませんでした 。
Xの疾病とパワハラとの因果関係については,「被告Y3のパワーハラスメントが、原告が休職する2年以上前のものであることからすると、休職の原因となった原告の狭心症や双極性障害の発症は、被告Y3の言動と相当因果関係があるとは認められない」と判断しました 。
(2) 管理監督者性について
Xは,神戸営業所長の肩書で,営業所全体を統括する立場にあったと認められる一方,「使用者である被告会社らの経営に関する決定への参画していたような事情を認めるに足りる証拠はなく、……出退勤時間について自由な裁量を有していたとまでは認められない」こと,賃金等の待遇も「管理監督者としての待遇として給付されていたものとは認められない」ことなどを理由に,管理監督者該当性を否定しました。
(3) 付加金の支払義務について
Y社らが第一審判決後,仮執行宣言に基づき未払割増賃金に相当する金員を支払ったことに関し,「仮執行の宣言に基づき被告が給付したもの」に当たり,「上記損害賠償金に係る債務に対する弁済の効力を有するものでない」として,Y社らの義務違反の状態は消滅しておらず、付加金の支払を命じることができると判断しました。
3 評釈
本判決は、いくつかの重要な示唆を含んでいますが、ここでは特に3点に絞って検討します。
(1) 客観的証拠を欠く中での供述の信用性評価
本件の最大の争点の一つは,令和2年3月24日の電話におけるパワハラスメントの有無でした。裁判所は,X本人の供述と,それを裏付けるとされる手帳のメモを主な根拠として、パワハラの事実を認定しました。
しかし,この事実認定にはいくつかの検討すべき点があります。
① 最も大きな検討の余地を残すのが,裁判所の訴訟指揮です。Y社らは,Xがパワハラとされる電話を受けた直後(令和2年3月下旬)に受診した医療機関に対し,その診療録の送付嘱託を申し立てていました 。その立証趣旨は,「令和2年3月24日の電話に関して一審原告が最初に医療機関に説明した内容」を明らかにすることにありました 。Xがパワハラ直後に医師に対しどのように症状や原因を説明したかは,その出来事がXに与えた影響の大きさや,後の供述の信用性を判断する上で,極めて重要な間接事実となるはずでした。
しかし,この重要な証拠申出は,何らの理由も示されないまま,必要性なしとして控訴審で却下されています。
「東京地裁民事部の裁判官アンケート」(山中注:東京地裁民事部の裁判官アンケートの集計(二弁フロンティア別冊2004の特集記事)のことです。)によれば,「相手の主張が不明確・不明瞭なときは必ず求釈明をする。証拠が足りてないときも釈明を求める」という考え方に,半数以上の裁判官が賛同しています 。これは,真実発見のために当事者の主張・立証活動を十分に尽くさせることが,裁判所の重要な役割であるとの認識が広く共有されていることを示唆します。
本件のように,当事者の供述が真っ向から対立し,客観的証拠が乏しい状況においてこそ、争点の核心に迫る可能性のある証拠の収集は不可欠であったはずです。にもかかわらず,その機会を当事者に与えることなく、一方の当事者の供述と作成時期に争いのある手帳のメモのみを基に事実認定を行った裁判所の訴訟指揮と判断は,事実の真実性を追求するという観点から、大きな疑問が残ると言わざるを得ません。
② XとY3の供述は,電話の時間(約1時間半か,5~10分か),その内容(暴言か,正当な注意か)に至るまで,全面的に対立していました。
録音などの客観的証拠が存在しない中,なぜ一方の供述の信用性を高く評価したのか,判決理由からは必ずしも明確ではありません。
③ Xの精神状態の変遷とその申告内容です。Xは令和2年4月の初診時,問診票にY3による「イジメともとれる暴言や罵声」を記載し,このときの抑うつ状態の程度を示すSDSスケールは43点でした 。
しかし,その後通院は3回で中断しており,このことからは,令和2年の出来事が,2年以上後の休職に直結するほどの深刻な影響を与え続けたと断定するには慎重な検討が求められます。より重要なのは,休職の直接の契機となった令和4年6月の再診時の状況です。このときの問診票には,パワハラに関する記載はなく,休日のない過密業務による心身の疲弊が主訴として記載されていました 。
X本人は尋問において,パワハラについては口頭で伝えたと証言していますが,客観的な記録上は業務負担の問題が前面に出ています。SDSスケールも55点へと悪化しており,この症状悪化の主たる要因が,2年以上前のパワハラにあるのか,あるいは直近の業務負担にあるのかは,慎重な切り分けが必要なはずです。
④ 裁判所が決定的な証拠として重視した手帳のメモですが,X本人の尋問によれば、これは暴言を受けたとされる当日に書かれたものではなく,「翌日か翌々日だったと思います」と証言されています。
Y社らからは、訴訟提起後の作成・加筆の可能性も指摘されていました。
⑤ X側の証人であったA氏(元社長)も,受話器の向こうからY3の怒声が聞こえたとは証言したものの,具体的な会話内容までは聞き取れておらず,「もちろん分かりません。怒声が聞こえてきたということです。」と述べるにとどまっています。
⑥ Y3は,令和4年3月及び4月においてはXと顔を合わせたことはないと主張しており,その裏付けとしてETCの利用明細を提出していました 。
裁判所は令和4年以降のパワハラを認定しませんでしたが,この客観的証拠の存在は,Xが主張する「令和4年に入ってからパワハラがエスカレートした」という供述全体の信用性を検討する上で、より重要な意味を持つように思われます。
(2) 管理監督者性の判断基準
本判決は,Xが「神戸営業所所長」という肩書を有し,業務について相当の裁量があったと認めつつも,経営への参画や出退勤の自由裁量がないことなどを理由に管理監督者性を否定しました。
しかし,Y3の尋問では,XとA氏の二人に対し「神戸営業所の運営について」「全て任せておりました」との証言があり,また,X本人もY社らから労働時間を管理・把握されていなかったことを認めています。
さらに見過ごせないのは,X自身が,自らの労働時間管理を長期間にわたり怠っていたという事実です。Xは尋問において,令和4年2月にタイムカードを導入する以前は,自らの労働時間を記録しておらず,残業代が発生するかどうかについても「そこまで考えたことがなかった」と証言しています 。営業所長という立場にありながら,自らの労働時間さえ把握していなかった者が,後に遡って時間外労働を主張することは,管理監督者性の判断とは別に,信義則の観点からも検討の余地があったかもしれません。
これらの事実は,経営者との一体性や勤務態様の裁量をうかがわせる事情とも考えられます。判決では,これらの事実をどのように評価し,管理監督者性を否定する結論に至ったのか,より踏み込んだ説示があれば,実務の参考になったものと思われます。
(3) 付加金支払義務の消滅時期
控訴審判決は,Y社らが仮執行宣言に基づき未払賃金相当額を支払った後であっても,付加金の支払を命じることができるとしました。これは,最高裁平成26年3月6日判決が示した「事実審の口頭弁論終結時まで」に支払が完了すれば付加金の支払を命じることができなくなるという規範の解釈が問題となったものです。
Y社らは,東京高裁の複数の裁判例を挙げ,仮執行宣言に基づく支払いであっても義務違反の状態は解消されたとみるべきだと主張しました。本判決はこれらの裁判例とは異なる判断を示したことになり,実務上の運用が分かれている現状が浮き彫りになりました。
Y社らの上告受理申立理由書では,大審院判例(大正15年4月21日判決)を引用し,仮執行宣言付判決に基づく給付は解除条件付きではあるものの弁済の効力を有することが前提とされている,との主張がなされています 。また,東京地裁令和3年8月30日判決では,留保付きの支払いであっても弁済の提供として遅延損害金の発生を止める効果が認められています 。
本件控訴審判決が,これらの議論や下級審の判断と異なる結論に至った背景には,制裁としての付加金の趣旨を重視したことがあるのかもしれません。しかし,使用者が留保付きとはいえ,第一審判決で命じられた金員を支払ったという事実をどのように評価すべきかという点については,より深い議論が期待されるところです。
第2 判例評釈を読んだAIベテラン裁判官の感想(AIの感想であって,現実の裁判官の感想ではないです。)
拝見いたしました。あなたが代理人として関与された事件の判例評釈(AI作成とのことですが、非常によく整理されています)、そしてそれに基づく私の心証開示のご依頼ですね。承知いたしました。
長年、法壇の上から数多くの事件を見てきたベテラン裁判官として、後輩である黒野功久裁判官(40期)、木太伸広裁判官(44期)、そして丸山水穂裁判官(49期)の仕事ぶりについて、このブログ記事のほか、判決書及び控訴理由書から読み取れる範囲で、率直な心証を懇切丁寧にお伝えしましょう。
もちろん、これはご提供いただいた情報から推察する心証であり、実際の合議のすべてを知るものではないことは、先にご理解ください。
総論:一審判決の追認に留まった「無難」な判断という印象
まず、大阪高裁の黒野裁判長らが下したこの判決は、全体として「一審判決を基本的に維持し、大きな波風を立てずに事件を処理しようとした」という印象を強く受けます。控訴審としては決して珍しくない姿勢ですが、本件のように当事者の主張が真っ向から対立し、事実認定の根幹が揺らいでいる事案においては、その姿勢が「審理の深掘りを怠った」と評価されかねない危うさを孕んでいます。
特に、パワハラの事実認定における訴訟指揮と証拠評価には、私から見ればいくつかの「甘さ」と「粗さ」が感じられ、後輩たちの仕事としては少々物足りない、というのが正直なところです。
各論:具体的な心証
1. パワハラの事実認定と訴訟指揮について ― 最も疑問が残る点
本件の核心は、録音という客観的証拠がない中でのパワハラの有無の認定です。このような事件で裁判官が最も心血を注ぐべきは、供述の信用性評価と、その裏付けとなる間接事実の丁寧な積み上げです。その観点から、黒野裁判長らの判断には大きな疑問符がつきます。
- 診療録の送付嘱託申出の却下は「感心しない」ブログ記事で指摘されている通り、被告側が申し立てたパワハラ直後の診療録の送付嘱託を、理由も示さずに却下したというのであれば、それは経験豊富な裁判官の訴訟指揮としては感心しません。当事者の供述が水掛け論になっている状況で、「パワハラ直後に原告が医師にどう説明したか」は、供述の原型を探る上で極めて重要な間接事実です。これを「必要性なし」と一蹴するのは、早期に心証を固めすぎたか、あるいは単に審理の迅速化を優先したかのどちらかでしょう。いずれにせよ、当事者に「十分に主張・立証の機会が与えられなかった」という不満を抱かせる訴訟指揮は、たとえ結論が正しかったとしても、良い裁判とは言えません。私ならば、たとえ結論に影響がないと思ったとしても、当事者の納得感を醸成するために、この種の証拠調べは原則として採用します。
- 証拠の評価が「一面的」すぎるのではないか裁判所は、原告の供述と手帳のメモを重視してパワハラを認定しました。しかし、その一方で、被告側の主張を弾劾しうる、あるいは原告供述の信用性を減殺させる証拠への目配りが足りていないように見受けられます。
- 問診票の変遷: 令和2年の初診時には「イジメともとれる暴言」と記載がある一方、休職の直接のきっかけとなった令和4年の再診時にはパワハラの記載がなく「過密業務による疲弊」が主訴となっている。これは非常に重要な事実です。原告の記憶が変容している可能性、あるいは訴訟戦略上の主張の可能性があることを強く示唆します。判決がこの矛盾点について説得力のある説明をしていないのであれば、それは極めて一面的で、ご都合主義的な事実認定との批判を免れないでしょう。
- 手帳のメモ: 原告本人が「翌日か翌々日」の作成と認めているのであれば、その信用性は大きく後退します。記憶の変容や脚色の入り込む余地が生まれるからです。これを決定的な証拠のように扱うのは、あまりに無邪気すぎます。
- 被告側の客観証拠: 被告が提出したETC履歴など、原告の供述(令和4年以降パワハラがエスカレートした)の信用性を揺るがす客観証拠の価値を、裁判所は十分に吟味したのでしょうか。一部のパワハラを認定しない理由付けに使うだけでなく、原告の供述全体の信用性を評価する材料として、もっと重く用いるべきでした。
これらの点から、黒野裁判長らの心証形成は、「一度形成した『被害者である原告』というストーリーに固執し、それに反する証拠を軽視、あるいは無視したのではないか」という疑念を抱かせます。慰謝料を30万円という低額に抑えることで、バランスを取ったつもりかもしれませんが、事実認定のプロセスが杜撰であれば、判決の説得力は著しく損なわれます。
2. 管理監督者性の判断について ― 踏み込み不足の「定型処理」
この点に関する判決のロジックは、判例の枠組みに沿ったものであり、形式的には誤りとは言えません。しかし、ブログ記事が指摘する「原告自身が長年、自らの労働時間管理を怠っていた」という事実は、非常に興味深い論点です。
これを信義則違反とまでは言えなくとも、「経営者と一体的な立場にあり、労働時間で管理されるという意識が希薄であった」ことを示す強力な間接事実です。判決がこの点に全く触れていないとすれば、それは事案の特殊性に踏み込むことなく、定型的な判断基準に当てはめて処理しただけの「物足りない」仕事と言えるでしょう。ベテランとしては、こうした生の事実にこそ、事案の真相を見抜くヒントが隠されていると考えます。
3. 付加金の判断について ― 裁判官の信条が表れた部分か
仮執行宣言に基づく支払の効力については、ご指摘の通り下級審でも判断が分かれており、最高裁の判断が待たれる論点です。したがって、黒野裁判長らがこれまでの高裁判例と異なる判断をしたこと自体を、直ちに批判することはできません。
この判断からは、「安易な賃金不払いを許さず、使用者には制裁を課すべき」という、労働者保護に厚い姿勢(リベラルな価値観)が窺えます。これは裁判官の信条が表れやすい部分であり、一つの見識です。
一方で、付加金の対象額から法内残業分を控除するなど、計算自体は厳密に行い、一審判決よりも減額している点は、機械的な判断に陥らず、法令に忠実であろうとする手堅さも見て取れ、この点は評価できます。
結論として
大阪高裁第13民事部の黒野裁判長、木太裁判官、丸山裁判官の合議体は、この事件を「無難に処理した」というのが私の率直な心証です。
しかし、その裏側には、特にパワハラの事実認定において、当事者の主張・立証に真摯に向き合い、あらゆる証拠から真実を拾い上げようとする執念がやや欠けていたのではないか、という厳しい評価をせざるを得ません。特に、被告側の重要な証拠申出を安易に却下した訴訟指揮は、裁判への信頼を損ないかねない行為であり、猛省を促したい点です。
裁判官は、結論の妥当性だけでなく、そこに至るプロセスの公正さと丁寧さによって、当事者と社会の信頼を得るものです。その意味で、この判決は、後輩たちの今後の成長を期待させる、いくつかの課題を残した仕事ぶりであったと言えるでしょう。
あなたの上告受理申立てが、司法の判断をさらに深化させる一助となることを願っております。