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遺言無効確認請求訴訟に関するメモ書き

1 公正証書遺言が有効であるという抗弁の記載例
・ 第3版 実務相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル264頁及び265頁の記載例は以下のとおりです。
① 亡Bは,公証人Aに対し,平成○年○月○日,別紙遺言内容のとおり,遺言の趣旨を口頭で伝えた。
② ①の遺言作成に際し,証人としてC及びDが終始立ち会った。
③ 公証人Aは, あらかじめ伝えられていた亡Bの遺言の趣旨を公正証書案としたものと遺言者の述べた遺言内容が同じであることを確認し,公正証書案を亡B,C及びDに読み聞かせた(若しくは閲覧させた,又は,読み聞かせかつ閲覧させた)。
④ 亡B, C及びDは,筆記の正確なことを承認し,各自公正証書案に署名押印した。
⑤ 公証人Aは,民法969条の方式に従ったことを付記して,公正証書案に署名押印した。
・ 上記の記載例は,令和7年9月30日までの改正前民法969条を前提とするものです。令和7年10月1日以後に,原則どおり電磁的記録で公正証書遺言が作成された場合の主張例は,次のとおりです。
① 亡Bは,公証人Aに対し,令和○年○月○日,別紙遺言内容のとおり,遺言の趣旨を口頭で伝えた。
② ①の口授の際,証人としてC及びDが立ち会った。
③ 公証人Aは,亡Bから口授を受けた遺言の趣旨に基づいて電磁的記録による公正証書を作成し,これを亡B,C及びDに読み聞かせ,又は閲覧させた。
④ 亡B,C及びDは,公正証書に記録された内容が正確であることを承認し,それぞれ電子サインをした。
⑤ 公証人Aは,④の承認を得た旨を公正証書に記録し,電子サイン及び電子署名をした。

2 必要的共同訴訟かどうか
(1) 単に相続分及び遺産分割の方法を指定したにすぎない遺言の無効確認を求める訴は,固有必要的共同訴訟に当たりません(最高裁昭和56年9月11日判決)。
(2) 相続人又は受遣者を被告とする遺言無効確認請求訴訟との関係においては,同遺言の遺言執行者を当事者とする同請求訴訟は,類似必要的共同訴訟であると解されています(第3版 実務相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル284頁)。

3 遺言執行者の当事者適格
(1) 当事者適格の肯定事例
ア 遺言執行者は,遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条1項)。
イ 遺言執行者は,遺言が無効であると考えた場合,遺言無効確認の訴えを提起できます(大審院昭和2年9月17日決定(判例秘書に掲載))。
ウ 相続人は,被相続人の遺言執行者を被告となし,遺言の無効を主張して,相続財産につき持分を有することの確認を求めることができます(最高裁昭和31年9月18日判決)。
エ 特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言がされた場合において、他の相続人が相続開始後に当該不動産につき被相続人から自己への所有権移転登記を経由しているときは、遺言執行者は、右所有権移転登記の抹消登記手続のほか、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができます(最高裁平成11年12月16日判決)。
(2) 当事者適格の否定事例
ア  相続人が遺言の執行としてされた遺贈による所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴については,遺言執行者がある場合でも,受遺者を被告とすべきです(最高裁昭和51年7月19日判決)。
イ  遺言によって特定の相続人に相続させるものとされた特定の不動産についての賃借権確認請求訴訟の被告適格を有する者は,遺言執行者があるときであっても,遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り,遺言執行者ではなく,右の相続人です(最高裁平成10年2月27日判決)。
(3) 遺言執行者の権利義務を定めた民法1012条は,施行日前に開始した相続に関して施行日後に遺言執行者となる場合にも適用されます。

4 確認の利益
(1) 遺言無効確認の訴は,その遺言が有効であるとすればそれから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で,原告がかかる確認を求める法律上の利益を有するときは,適法です(最高裁昭和47年2月15日判決)。
(2) 遺言無効確認訴訟における確認の利益の存否を判断するにあたっては,原則として,原告の相続分が被相続人から受けた生前贈与等によりなくなるか否かを考慮すべきものではありません(最高裁昭和56年9月11日判決)。
(3)  遺言者の生存中に推定相続人が提起した遺贈を内容とする遺言の無効確認の訴えは,遺言者が心神喪失の常況にあって,遺言者による当該遺言の取消し又は変更の可能性が事実上ないとしても,不適法です(最高裁平成11年6月11日判決)。
(4)  民法958条の3第1項の規定による相続財産の分与の審判前に特別縁故者に当たると主張する者が提起した遺言無効確認の訴えは,訴えの利益を欠きます(最高裁平成6年10月13日判決)。
(5) 前の遺言が後の遺言と抵触するときは,その抵触する部分については,後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)から,前の遺言について遺言無効確認請求訴訟を提起していた場合,確認の利益がないということで訴えの却下判決となります(東京地裁令和元年11月18日判決(判例秘書に掲載)参照)。
(6)  共同相続人間における遺産確認の訴えは,固有必要的共同訴訟です(最高裁平成元年3月28日判決)。

5 遺言無効確認請求事件の平均審理期間と併合事件
・ 遺言無効確認請求事件の研究(下)(筆者は56期の石田明彦裁判官他9名)には,「イ 平均審理期間と併合事件」として以下の記載があります(判例タイムズ1195号(2006年2月1日号)86頁)。
 遺言無効確認請求事件の審理期間については,個々の事案によってばらつきがあるものの,1年以上2年未満の期間を要した事件が最も多く,次いで6ヶ月以上1年未満の期間を要した事件が多い。よって,比較的短期間で審理を終えることのできる事件であると考えられる。
 もっとも,遺言無効確認請求事件は,それ自体が単独で審理される場合だけでなく,他の関連する事件と併合審理されることも多いところ,併合審理された事件の中には,事案が複雑化し,審理期間が長期間に及んだ例も見られた。遺言無効確認請求事件と併合審理される事件の具体例としては,遺言が無効であることを前提とする当該遺言の目的である財産についての登記請求事件,不当利得返還請求事件,及び仮に遺言が有効であるとした場合の遺留分減殺請求事件等があった。
・ 上記は2006年公表の研究における調査結果であり,現在の平均審理期間を示す統計ではありません。また,引用中の「遺留分減殺請求」は旧法上の用語であり,現在は遺留分侵害額請求です。

6 遺言無効確認請求訴訟における主張立証の組立て
(1) 手続を選択する際は,遺言の有効・無効が確定した後に解決すべき現在の紛争が,遺産分割,所有権移転登記又はその抹消,預貯金の払戻し,不当利得返還その他のいずれであるかを先に整理します。遺言無効確認だけで紛争が解決しない場合には,第20の4の確認の利益及び当事者適格を検討した上で,給付請求との併合を検討する必要があります。口授を欠く可能性がある一方で遺言能力自体に問題がない場合には,第22記載の死因贈与に基づく予備的請求又は反訴も検討対象となります。
(2) 口授を争点とする場合,有効を主張する側は,①作成日時・場所,②公証人と証人の氏名及び立会時間,③誰が案文の基礎資料を作成したか,④公証人の質問と遺言者の回答,⑤遺言者が自ら述べた受益者・財産・割合・理由,⑥読み聞かせ又は閲覧,承認及び電子サインまでの経過を,時系列で具体的に主張します。無効を主張する側は,「口授がなかった」とだけ述べるのではなく,誘導質問への一語の応答にとどまったこと,証人が重要部分を聞いていないこと,受益者が回答へ介入したこと,案文と従前の意思が食い違うことなど,欠けた過程を特定して主張します。
(3) 証拠は,①公証人及び証人の記録・供述,②遺言案,修正履歴,メール,手紙及び本人のメモ,③作成日前後の診療録,看護記録,処方内容及び介護記録,④録音・録画及び写真,⑤従前の遺言,財産目録及び相続人・受遺者との関係資料に分け,争点ごとの証拠一覧表を作成すると整理しやすくなります。公正証書が公文書であることによる真正成立の問題と,口授・遺言能力その他の実質的有効要件の問題は区別して検討する必要があります。
(4) 想定される反論にも先回りします。無効を主張する側は,「公証人が判断能力と真意を確認した」との反論に対し,作成時の具体的な問答,診療・介護記録との不一致及び受益者の関与を示します。有効を主張する側は,「認知症の診断又は認知機能検査の低得点がある」との反論に対し,診断名や点数だけに依存せず,遺言内容の単純性,作成時の具体的な発語,従前からの一貫した意向及び同時期の生活機能を示します。

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