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安倍元首相暗殺事件に関するメモ書き

◯本記事は,最高裁判所裁判官及び事務総局の各局課長が襲撃の対象となるおそれが高いとした大阪地裁判決等から,安倍元首相暗殺事件の救命・医学資料に関する記載を分割したものです。首相等の暗殺史については,暗殺された日本の首相又は元首相7人,及び暗殺されたアメリカの現職大統領4人に掲載しています。
◯本記事の医学的説明は公開資料に基づく一般的な説明であり,個別の診断又は治療経過を公開資料の範囲を超えて断定するものではありません。

目次
1 銃撃直後の救命措置の状況
2 心肺停止及びAED
3 救急救命士
4 死の三徴候及び法的脳死判定
5 銃創及び血胸
6 安倍元首相の死因等
7 その他

1 銃撃直後の救命措置の状況

(1) 「【映像】演説中に安倍元総理が銃撃される 2発の発砲音と銃撃男の取り押さえ(2022年7月8日)」と題するYouTube動画では,10秒時点で1発目の銃撃があり,13秒時点で2発目の銃撃があり,56秒時点,遅くとも1分28秒時点で心臓マッサージ(胸骨圧迫)をしているように見えます。
(2) 応急手当で必要なのは,①119番通報とAEDの要請,②心臓マッサージ(胸骨圧迫)及び③AEDによる電気ショックです。そして,AEDについては右胸の上部(鎖骨の下)及び左胸の下部(脇の下5~8cm)に,皮膚に密着するように電極パッドを貼ります(日本心臓財団HPの「AEDを使った救命の仕方」参照)。
(3)ア 心停止というのは心臓が停止することであり,肺停止というのは呼吸が停止することでありますところ,いずれかが発生した場合,すぐに残りも発生して心肺停止となります。
イ 心肺停止(CPA)というのは,心臓及び呼吸が停止していることであり,胸骨圧迫及び人工呼吸による心肺蘇生法(CPR)は脳への酸素供給を維持するために行いますところ,日本循環器学会HPの「心肺蘇生法の手順について」には以下の記載があります。
① 心臓マッサージには外科的に開胸して、止まっている心臓を直接手で圧縮する方法もありますが、一般に蘇生時に行うのは胸の上からの間接的な圧迫法ですのでこのような呼び方が最近では頻用されています。胸骨とは胸の真ん中にある骨で、この部分を強く押すことで、止まってしまった心臓の代わりに血液を全身にまわすことができます。
② 突然の心停止の多くに対して、胸骨圧迫のみの蘇生法に、人工呼吸を行う場合と同様の効果があることが分かってきたからです。
③ しっかりとした胸骨圧迫を継続するために、疲れる前に胸骨圧迫を交代する事を推奨しています。
④ (山中注:胸骨圧迫で)折れることはありますが、それを恐れて胸骨圧迫をしなかったり、力を加減したりすると、結局その人を助けることはできません。しっかりと胸骨圧迫を行い、救命を最優先にして下さい。
(4) 総務省消防庁の令和7年版救急・救助の現況によれば,令和6年中に一般市民が目撃した心原性心肺機能停止傷病者2万7769人のうち,一般市民が心肺蘇生を実施した1万6728人の1か月後生存率は15.3%であり,実施しなかった場合の7.9%より高い結果でした。また,一般市民がAEDによる電気ショックを実施した1449人の1か月後生存率は53.6%でした。ただし,これらは一般市民が目撃した心原性心停止の全国集計であり,外傷性心停止又は個別の傷病者に同じ割合をそのまま当てはめることはできません。
(5) 平成14年11月21日,47歳の高円宮憲仁親王が心室細動による心不全を起こして死亡したこともあって,平成15年から救急救命士が医師の指示なしで使用できるようになり,平成16年7月から非医療従事者である民間人も使用できるようになりました。
    なお,心房細動ナビの「解説② 心房細動と他の不整脈との違い」には「心室細動は、心臓が原因で起こる突然死の原因のうち約8割を占めているといわれています。」と書いてあります。
(6) MSDマニュアル・プロフェッショナル版の「成人における心肺蘇生(CPR)」には「ほとんどの外傷性心停止の患者には,失血による重度の循環血液量減少(この場合胸骨圧迫は効果的でない可能性がある)または生存不可能な脳損傷がある。」と書いてあります。
(7) 医学用語としてのショックというのは,血液の循環が悪くなり、全身の組織や臓器に血液が十分運ばれない状態をいいますところ,その原因としては,①出血や脱水による血液量の減少(例えば,出血性ショック),及び②心臓のポンプ機能(血液拍出機能)の低下があります。
    そして,全身の血液量は体重の約8%であり,全血液量の約20%(体重の約1.6%)以上の血液がなくなるとショック症状が現れるようになりますところ,その症状は,①皮膚が青白くなる,②冷や汗が出る,③脈が弱く早くなる,④虚脱及び⑤呼吸不全があり,早期に治療が行われないと多臓器不全を起こして死に至ることがあります。
    出血性ショックの場合,出血量を推定して輸液及び輸血が行われると同時に,出血部位に対する治療が必要となります日本血液製剤協会HP「アルブミンの低下 出血性ショック」参照)。
(8) 岐阜県HPの「応急処置」には,「一般に体内の血液の20%が急速に失われると出血性ショックという重い状態になり、30%を失えば生命に危険を及ぼすといわれています。」と書いてあります。
(9) NHKの「未解決事件 File.07 警察庁長官狙撃事件 【前編】」には,平成7年3月30日発生の警察庁長官狙撃事件に関して,「自宅から出て来た國松孝次警察庁長官は、20メートル離れた地点で待ち伏せしていた犯人に、背後を狙われた。犯人は、崩れ落ちる國松長官に正確に狙いを定め、2発、3発と続けざまに、銃弾を撃ち込んだ。背中には直径1センチを超える銃痕。心臓が6回も停止、出血性ショックで瀕死の状態に陥ったが、奇跡的に一命を取り留めた。」と書いてあります。

2 心肺停止及びAED

(1) IZAの「AED使用も救命かなわず 安倍氏銃撃」には以下の記載があります。
「顔面蒼白(そうはく)で、まぶたの裏も真っ白。貧血状態だったのはすぐに分かった」。背中側の路面に血だまりができていたことを後に知った。
心臓に血液を供給するため関係者が安倍氏の足を持ち上げ、中岡院長と看護師らが心臓マッサージを行った。だが、呼吸は止まり、脈動も確認できない。「一刻も早く救急車を」。そう願いながらAEDを手に取った。
(2) 広島県医師会HPの「救急小冊子」には「救急蘇生法には、心肺蘇生法と止血法が含まれます。心肺蘇生法には、(1)観察、(2)気遣の確保、(3)人工呼吸、(4)心臓マッサージが、止血法に は、(1)直接圧迫法、(2)止血帯法、(3)間接圧迫法があります。」と書いてあります。
(3) 心停止時の心電図波形は,①心室細動(VF),②無脈性心室頻拍(pVT),③無脈性電気活動(PEA)及び④心静止(Asystole)に大別されます。AEDによる電気ショックの適応となるのはVF及びpVTであり,PEA及び心静止は電気ショック非適応です。AEDが「電気ショックは不要です」と判断して充電しないことは,AEDの故障を意味せず,また,心静止であったことを当然に意味するものでもありません。音声指示に従って直ちに胸骨圧迫を再開し,救急隊に引き継ぐまで心肺蘇生を継続します。医療従事者は,PEA又は心静止に対して質の高い心肺蘇生,適応に応じたアドレナリン投与及び可逆的原因の検索・治療を行います(JRC蘇生ガイドライン2025参照)。
(4) 外傷診療では,循環血液量に対する推定出血量の割合,脈拍,血圧,呼吸数,尿量及び意識状態等を総合して出血性ショックの重症度を評価します。推定出血量30~40%をクラスIII,40%を超えるものをクラスIVとする分類はありますが,これは初期評価の目安です。年齢,基礎疾患,服薬,受傷後の時間及び輸液等によって所見は変わるため,「30%で必ず意識混迷」,「40%で必ず昏睡」,「50%で必ず心停止」と個人に機械的に当てはめたり,単一の所見から出血量を逆算したりすることはできません。
(5) 日本AED財団HPの「胸骨圧迫とAEDの効果」には「胸骨圧迫をするのとしないので救命率は約2倍違います。AEDを用いて電気ショックが行われれば、約6倍の人の命が救えます。」と書いてあります。
(6)ア 1960年は,それまでに開発されたが忘れ去られていた人工呼吸法(口対口呼吸),循環確保法(胸骨圧迫心臓マッサージ法)及び電気的除細動と3つが揃って統合された年であるそうです(心肺蘇生法HP「4.心肺蘇生法の再発見と確立」参照)。
イ 1922年7月7日発生の小野訓導水難事故では,溺死した小野さつき訓導に対し,人工呼吸が実施されたそうです(ただし,蘇生はしませんでした。)。

3 救急救命士

(1) NHKの「安倍元首相銃撃事件 ドクターヘリでの治療 医師が初めて語る」には以下の記載があります。
(山中注:安倍元首相を載せたドクターヘリに乗って搬送と治療にあたった)植山医師は「第一印象は救急隊からの情報どおり完全な心肺停止の状態で、まったく意識がなく、脈もなかった。点滴を行うために、静脈に針を刺そうとしたが、血圧が低すぎて針をうまく刺せなかったため、骨髄内に輸液する方法をとった」と振り返りました。
(2)ア 厚生労働省通知「救急救命処置の範囲等について」の別紙1では,心肺機能停止状態の患者に対する特定行為として,①乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保及び輸液,②食道閉鎖式エアウェイ,ラリンゲアルマスク又は気管内チューブによる気道確保,③エピネフリンの投与が掲げられています。また,所定の講習・認定を受けた救急救命士については,心肺機能停止前の重度傷病者に対する乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保及び輸液並びに低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与も掲げられています。これらは,いずれも医師の具体的な指示を受けて行う処置です。
「認定救急救命士」は法令上の一律の資格名称ではないため,実施できる処置を説明するときは,気管挿管,薬剤投与又は心肺機能停止前の処置について,それぞれ必要な追加講習及び認定を受けているかを区別して記載するのが正確です。
イ 東京医科大学八王子医療センターHPの「アドレナリン投与のタイミング」には「心電図波形がasystole(心静止)とPEA(無脈性電気活動)であれば早期にエピネフリンを投与するべき。しかし心電図波形がVT(心室頻拍)とVF(心室細動)の場合は、エビデンスが不十分なためエピネフリンをいつ投与するべきか、決まっていない」と書いてあります。
(3) 救急救命士による静脈路確保は,法令及び厚生労働省通知の範囲内で,輸液又は薬剤投与の経路を確保するために行われます。ただし,外傷性出血性ショックでは出血源の制御が最優先であり,静脈路を確保する目的,投与する輸液・薬剤及び搬送先での治療は,傷病者の状態,医師の具体的指示及び地域の救急医療体制に応じて判断されます(救急救命士法施行規則21条及び平成26年1月31日付厚生労働省医政局長通知参照)。
(4) 厚生労働省HPに載ってある「Ⅳ 心肺機能停止前の静脈路確保と輸液の実施」には,「実際に病院前診療を担うドクターヘリ,ドクターカーの医師はほとんどの症例において,静脈路の確保と輸液を実施しているのが実情である。それは循環血液量不足の補充という理由のみならず,あらゆる急変の場面に備えるならば,静脈路確保は何よりも基本の処置と心得ているためである。」と書いてあります。
(5) ショックは,組織への酸素供給が需要を満たさず,細胞・臓器機能が障害される状態です。低血圧は重要な所見ですが,初期には血圧が保たれることもあるため,血圧だけでショックを除外できません。出血性ショックでは,出血源の制御を最優先しつつ,循環動態,末梢灌流,意識,乳酸値等を反復評価し,状況に応じて血液製剤を含む蘇生を行います。晶質液を一律に大量投与するのではなく,病態と治療反応に応じて投与量を調整します(欧州外傷性大量出血ガイドライン第6版参照)。
(6)ア 看護のお仕事ハテナースHP「骨髄路からの輸液について知りたい」には,「骨髄路の確保は、患者さんが急変した場合や心停止時の蘇生中など、急速に薬剤投与経路を確保する必要があるときに行われ、基本的には静脈路が確保でき次第すぐに抜針を行う必要があります。」とか「骨髄路は骨内に細菌が侵入した場合は重症化しやすいこともあり、成人では蘇生行為中でしか行われていないことがほとんどです。」と書いてあります。
イ 本件で引用されている骨髄内輸液路(骨髄路)は,ドクターヘリの搭乗医師が確保したものです。厚生労働省の現行通知「救急救命処置の範囲等について」の別紙1には,救急救命士が行う救急救命処置として骨髄路の確保は掲げられていません。他方,同通知は看護師の業務範囲を定めるものではありませんから,「骨髄路を確保できるのは医師だけであり,看護師は行えない」と一律に断定することは避けるのが正確です。
(7) 日本救急医学会HPの「院外心肺停止」には「米国では一次性心停止に関して,目撃があり蘇生開始まで4分以内で初期心電図波形が心室細動のものは神経学的予後が良好で生存率も高いが,それに比較して初期心電図が無脈性電気活動(PEA)や心静止のものは生存率が低く,さらに,救急隊により心拍再開できなかった場合は,予後は非常に不良である,とされている。」と書いてあります。
(8) 一般財団法人救急振興財団HP「救急隊員が行う救急処置」には,救急救命士及び救急科修了者が行える措置が書いてあります。
(9) 厚生労働省HPに,これまでの経緯(救急救命士に関する平成23年度までの経緯を記載した文書)が載っていて,救急救命士法,救急救命士法施行規則及び「救急救命処置の範囲等について」の抜粋が載っています。

4 死の三徴候及び法的脳死判定

(1) 死の三徴候は,心臓停止,自発呼吸停止及び瞳孔散大(対光反射の消失)でありますところ,All Aboutの「心肺停止とは…心肺停止状態と死亡の違い」には,「心肺停止の状態で病院に運ばれるときには、心臓マッサージ、人工呼吸をしていますので、蘇生している間は死ではありません。これらの蘇生法を行った上で、蘇生できない時に死を医師が確認してはじめて「死」となります。」と書いてあります。
(2) 瞳孔の散大又は対光反射の消失は重要な神経学的所見ですが,薬剤,低体温,眼の外傷その他の影響を受けることがあり,その所見だけで脳全体の機能停止又は脳死を判断することはできません。特に心停止後の早い時点の瞳孔所見は,単独で確定的な予後判断に用いるべきではなく,他の脳幹反射,脳波,画像,経過等を併せて評価する必要があります(2023年の脳死判定コンセンサス・ガイドライン参照)。
(3) 法的脳死判定は,臓器の移植に関する法律に基づき,臓器提供の場面で行われる判定です。判定項目は,①深い昏睡,②両側瞳孔径4ミリメートル以上の瞳孔の固定,③対光反射,角膜反射,毛様脊髄反射,眼球頭反射,前庭反射,咽頭反射及び咳反射という脳幹反射の消失,④平坦な脳波,⑤自発呼吸の消失です。眼球損傷,鼓膜損傷,高位脊髄損傷等により②又は③を確認できない場合には,⑥脳血流の消失を確認します。これらを確認した後,原則として6時間以上を経過してから同じ項目を再確認し,6歳未満の者については24時間以上を経過してから再確認します。判定に先立って,原因が確実で治療を尽くしても回復可能性がないことを確認し,急性薬物中毒,低体温その他の除外条件も検討します(厚生労働省の臓器の移植に関する法律施行規則2条2項参照)。
(4) 脳死(全脳死)は,脳幹を含む脳全体の機能が不可逆的に停止した状態です。これに対し,植物状態では脳幹機能が保たれ,自発呼吸が認められることがあります。両者は医学的に異なる状態であり,心停止後の経過を「限界の前なら植物状態,限界を超えれば脳死」と一律に分けることはできません。また,脳死後に心停止に至るまでの期間には個人差があるため,「10日」と固定して説明しません(厚生労働省の臓器移植Q&A参照)。
(5)ア 厚生労働省HPの「第1章 救命治療、法的脳死判定等の状況の検証結果」には法的脳死判定の事例が書いてありますところ,そこには経過として以下の記載があります。
50代の男性。平成18年5月22日5:00頃、自宅アパートのトイレでドスンと音がしていびきが聞こえてきたため、隣人が見に行くと倒れているのを発見された。5:27の救急車到着時、意識レベルはJCS300で自発呼吸はなく、脈拍は触知されなかった。モニター装着後直後は無脈性電気活動(PEA)であったが、搬送中心静止となった。5:56に当該病院に到着、救急部当直医にて気管内挿管、心肺蘇生術が施行され、心拍が再開したが、救急外来での所見はJCS 300、GCS 3、両側瞳孔散大(径5.0mm)で、自発運動はまったく見られなかった。
イ 認定救急救命士が,医師の具体的指示のもとで気管挿管を実施できるようになったのは平成16年7月1日です(救急救命士の気管内チューブによる気道確保の実施について(平成16年3月23日付の厚生労働省医政局長通知)参照)。

5 銃創及び血胸

(1)ア 改訂第5版 外傷初期診療ガイドライン251頁には「4.銃創」として以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    わが国ではまれであるが,銃創の場合は,刺創よりさらに重症化しやすい。損傷臓器や重症度に関しては,銃器の種類,弾丸の種類.発射距離. 角度.射入部位などさまざまな要素により規定される。
    弾道に沿って紡錘形をした立体的な損傷ができるため.弾丸の通過部のみならず,体内では損傷の広がりが大きくなるとされる。
    さらに体内では弾丸の軌跡を変えたり.破裂して数片に分かれたりするために.その周辺をも巻き込んだ損傷が起こるとされている。
    したがって,単純に射入口と射出口を直線で結んだ軌跡に損傷が限定されていると推定してはならない。射出口をもたない場合や,思わぬところに射出口が存在することがあり.注意を要する。
イ 看護ルーの「血管のしくみとはたらき」に,全身の主な動脈と静脈が載っています。
(2) メディカルノートの「血胸(けっきょう)」には「血胸とは、肺が収納されている胸腔と呼ばれる空間内に、血液が蓄積している状態です。血胸は、主に交通外傷による胸への強打や、刃物で刺されるなどの怪我を原因として発症します。出血する原因は肺損傷などに伴うものであり、気胸を併発することもあります。」と書いてあります。
(3) PRタイムスの「医療現場における安全な胸腔ドレナージの実現を目指して」(2022年4月18日付)には,「体内に貯留した血液・膿・浸出液・気体などを体外に排出することを「ドレナージ」と言い、医療現場において一般的に行われている処置です。腹水に対する腹腔ドレナージや、気胸に対する胸腔ドレナージが代表的なものとして挙げられ、胸腔ドレナージでは、肺と胸壁の間の胸腔に‟胸腔ドレーン“と呼ばれるチューブを挿入し、溜まった液体や空気を取り除きます。」と書いてあります。

6 安倍元首相の死因等

(1) ヤフーニュースの「安倍元首相の死因は失血死、左右鎖骨下動脈の損傷で…奈良県警」(2022年7月9日付)には,「奈良県警は9日朝、安倍元首相の死因について左上腕部射創による左右鎖骨下動脈損傷の失血死と発表した。」と書いてあります。
(2) 鎖骨下動脈の損傷は,急速で重篤な出血を来し得る損傷であり,胸腔内に出血することもあります。他方,公表資料だけからは,AED装着時の心電図波形,出血の部位・総量又はその時点の脳機能は分かりません。AEDが電気ショックを行わなかったことから分かるのは,解析時の波形がショック適応ではなかったということにとどまり,PEAと心静止とを区別することはできません。また,顔面蒼白から大量血胸又は具体的な出血割合を逆算することも,瞳孔所見だけから脳幹機能の不可逆的停止を推測することもできません。したがって,本件については,奈良県警が公表した死因と,医療機関が公表した診療経過とを区別し,非公表の心電図波形,出血量又は神経学的所見を推測で補わないのが相当です(鎖骨下動脈損傷についてはSubclavian artery injuries参照)。
(3) 上記記事がいう「輸血100単位以上」は,投与された血液製剤の内訳を示していない報道上の表現です。輸血の「1単位」は一律の容量を意味するものではなく,赤血球液,新鮮凍結血漿及び血小板製剤では単位の成り立ちも製剤容量も異なります。赤血球液1単位は200mlの全血から調製された量を意味しますが,これを製剤内訳の分からない「100単位」全部に掛けて総輸血量を14リットルと計算することはできません。また,輸血量には循環を維持しながら出血源を制御するまでに投与された複数製剤が含まれ得るため,輸血量をそのまま出血量又は受傷前の全血液量の倍数とみなすこともできません。
(4)ア 日本輸血・細胞治療学会は,「輸血療法実践ガイド」を公表しました。これを受けて,厚生労働省は令和8年3月24日付けの通知により,従前の「血液製剤の使用指針」を廃止し,以後は同ガイドを参照するよう周知しました。したがって,平成17年版の数値基準を現在の一般的基準として引用するのではなく,現行ガイドに基づいて説明する必要があります。
イ 急性大量出血では,出血直後のHb値が失われた赤血球量を直ちに反映しないことがあるため,Hb値だけで輸血の要否を判断しません。出血速度,循環動態,組織灌流,凝固能,フィブリノゲン値,体温,酸塩基平衡及び治療反応を反復評価し,必要に応じて大量輸血プロトコルを早期に起動します。現行ガイドは,外傷性大量出血の早期には赤血球液,新鮮凍結血漿及び血小板をおおむね1対1対1の製剤容量となるように投与することを目標としていますが,日本の各製剤の1単位当たり容量は同じではないため,単位数をそのまま1対1対1にする趣旨ではありません。
(5)ア 東京高裁平成27年4月6日決定(判例秘書に掲載)は,死体の解剖結果報告書及び実況見分調書(死体(裸体)の外形を撮影した写真及び解剖した状態を撮影した写真を含むもの)について,民訴法92条1項1号に基づく閲覧等制限決定を出しました。
イ Wikipediaに「ケネディ大統領の検死」が載っています。

7 その他

(1) 銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)上の銃砲とは,①火薬を使用して金属性弾丸を発射する装薬銃砲,②圧縮した気体を使用して金属性弾丸を発射する空気銃及び③電磁石の磁力により金属性弾丸を発射する電磁石銃のうち,それぞれ内閣府令で定める方法により測定した弾丸の運動エネルギーが,人の生命に危険を及ぼし得るものとして定められた値以上となるものをいいます(銃刀法2条1項)。何人も,同法3条1項各号に掲げる場合を除き,銃砲を所持してはなりません。また,武器等製造法上の武器を試験的に製造する場合には,経済産業大臣の許可が必要です(武器等製造法4条ただし書)。
(2) 以下の資料を掲載しています。
・ 安倍晋三元首相銃撃事件(令和4年7月8日発生)に関する災害出動報告書,隊活動記録書,救急出場報告書
→ 発生現場に関するものと,ドクターヘリのランデブーポイント(平城宮跡)に関するものがあります。
・ 安倍晋三元首相の医療記録(令和4年7月8日の奈良県立医科大学附属病院の文書)
→ 中身は真っ黒ですが,患者診療記録製剤払出レポート輸血検査結果報告書検査結果報告書OPERATION REPORT及び画像検査が含まれています。