行政機関等への出向裁判官


目次
1 最高裁判所作成の資料
2 判検交流に関する内閣答弁書の記載及び国会答弁
3 役所HP等の記載
4 質問主意書
5 判事新任のタイミング
6 最高裁判所に存在しない文書
7 衆議院法務委員会の付帯決議
7の2 福岡高裁判事妻ストーカー事件に関する調査報告書の記載
8 平成13年の中央省庁再編によって総務省が誕生した理由
9 消極的権限争い
10 関連記事その他

1 最高裁判所作成の資料
(1)   最高裁判所が作成した,「行政機関等への出向裁判官数(機関別)」(平成28年まで)→「行政省庁等に勤務する者のうち,裁判官出身者の官職一覧表」(平成29年以降)を以下のとおり掲載しています。
・ 令和 5年12月1日時点のもの
・ 令和 4年12月1日時点のもの
・ 令和 3年12月1日時点のもの
・ 令和 2年12月1日時点のもの
・ 令和 元年12月1日時点のもの
・ 平成30年12月1日時点のもの
・ 平成29年12月1日時点のもの
・ 平成28年12月1日時点のもの
・ 平成27年12月1日時点のもの
・ 平成26年12月1日時点のもの
* 「行政省庁等に勤務する者のうち,裁判官出身者の官職一覧表(令和5年12月1日現在)」といったファイル名です。
(2) 裁判官と検察官の人事交流の数字を記載した資料を以下の通り掲載しています。
平成20年分から平成29年分平成23年度から令和2年度まで平成25年度から令和4年度まで


2 判検交流に関する内閣答弁書の記載及び国会答弁
(1)ア 衆議院議員鈴木宗男君提出裁判官と検察官の人事交流に関する質問に対する答弁書(平成21年6月16日付)には以下の記載があります。
① 裁判官の職にあった者からの検察官への任命及び検察官の職にあった者からの裁判官への任命を始めとする法曹間の人材の相互交流は、国民の期待と信頼にこたえ得る多様で豊かな知識、経験等を備えた法曹を育成、確保するため、意義あるものと考えている。
 なお、このような法曹間の人材の相互交流が開始された経緯は、資料等が存在せず不明である。
② 平成二十年に、裁判官の職にあった者から検察官に任命された者は五十六人、検察官の職にあった者から裁判官に任命された者は五十五人である。
③ 法曹は、裁判官、検察官、弁護士のいずれの立場に置かれても、その立場に応じて職責を全うするところに特色があり、一元的な法曹養成制度や弁護士の職にあった者からの裁判官及び検察官への任命等もこのことを前提にしている。したがって、法曹間の人材の相互交流により、裁判の公正、中立性が害され、「裁かれる者にとって不利な状況」が生まれるといった弊害が生じるとは考えていない。
イ 衆議院議員鈴木宗男君提出裁判官と検察官の人事交流に関する再質問に対する答弁書(平成21年6月30日付)には以下の記載があります。
① 裁判官の職にあった者からの検察官への任命及び検察官の職にあった者からの裁判官への任命を始めとする法曹間の人材の相互交流は、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)、検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)等に基づき、相当以前から行われていたものと推察され、その開始された経緯についての資料等は、前回答弁書(平成二十一年六月十六日内閣衆質一七一第五〇五号。以下「前回答弁書」という。)一についてで述べたとおり、存在しない。
② 平成二十年に裁判官の職にあった者から検察官に任命された者及び同年に検察官の職にあった者から裁判官に任命された者が今後検察官又は裁判官の職にある期間等は、任期を定めて任命されているものではなく、お答えすることは困難である。
③ 弁護士の職にあった者からの裁判官及び検察官への任命は、裁判所法、検察庁法等に基づき行われる。
  弁護士の職にあった者から裁判官又は検察官に任命された者のうちで離職した者が離職後に弁護士登録をしたか否かについては、承知していない。
ウ 衆議院議員浅野貴博君提出いわゆる判検交流に関する質問に対する答弁書(平成22年12月7日付)には以下の記載があります。
① 裁判官の職にあった者から検察官に任命された者は、平成二十一年において四十七人、平成二十二年(同年十二月一日まで)において五十六人であり、検察官の職にあった者から裁判官に任命された者は、平成二十一年において五十人、平成二十二年(同年十二月一日まで)において五十三人である。
② 裁判官の職にあった者からの検察官への任命及び検察官の職にあった者からの裁判官への任命を始めとする法曹間の人材の相互交流については、御指摘の衆議院議員鈴木宗男君提出裁判官と検察官の人事交流に関する質問に対する答弁書(平成二十一年六月十六日内閣衆質一七一第五〇五号)一について及び三についてで述べたとおり、裁判の公正、中立性を害するものではなく、国民の期待と信頼に応え得る多様で豊かな知識、経験等を備えた法曹を育成、確保するため、意義あるものと考えている。
エ 衆議院議員浅野貴博君提出いわゆる判検交流の存続に対する政府の認識等に関する質問に対する答弁書(平成24年5月11日付)には以下の記載があります。
  裁判官の職にあった者からの検察官への任命及び検察官の職にあった者からの裁判官への任命を始めとする法曹間の人材の相互交流については、先の答弁書(平成二十二年十二月七日内閣衆質一七六第二一〇号)二及び三についてで述べたとおり、裁判の公正、中立性を害するものではなく、国民の期待と信頼に応え得る多様で豊かな知識、経験等を備えた法曹を育成、確保するため、意義あるものと考えているが、国の利害に関係のある争訟において国の代理人として活動する検察官の数に占める裁判官の職にあった者の数の割合があまり多くなるのは問題ではないかとの指摘がなされたことなどから、この割合を次第に少なくする見直しを行うこととしたほか、裁判官の職にあった者を検察官に任命し検察庁において捜査・公判を担当させる交流及び検察官の職にあった者を裁判官に任命し裁判所において裁判を担当させる交流は行わないこととし、平成二十四年四月一日、これらの交流を解消するための人事異動を行った。
 この人事異動については、同日、報道機関に対し公表した。
(2)ア 高輪1期の矢口洪一最高裁判所人事局長は,昭和50年11月6日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① ここの新聞(山中注:「最高裁と法務省は、判事、検事の人事交流を図るための折衝を進めてきたが、二十八日までに基本的な合意」、これは三月二十八日という意味だろうと思いますが、「に達し、四十九年度から実施することになった。」、一つとして、「交流した判・検事は、三年をメドに元の判・検事の身分に戻ることができるようにする」、「とりあえず四月一日に大阪地裁勤務二人、東京地裁勤務一人、計三人の判事補を東京地検検事に転出させる」というような趣旨の合意ができたと報道した,昭和49年3月29日付の読売新聞)で取り上げておられるように、このとき、こういうような話し合いがいままでなかったものが、改めてできたといったものではございません。これまでも大体法務省と交流をいたします際には、大体三年前後をめどにいたしまして帰ってくる。ただ、そういうふうにいたしておりましても、行きっきりになってしまわれる方も、相当数ございましたし、十年近くあるいは二十年近く法務省におられる方もございました。大体、法務省に出られるときには数年たったらまた戻ってくるということでやっております。そういったことをどういう観点からお取り上げになったのか。交流をさらにやるということにつきましては、私ども結構なことだと思っておったわけでございますので、まあそういうことを特にここでお取り上げになったんじゃないかと思いますが、条件等についてここで改めてどうこうしたというものではございません。
② これは、実はこれまでも法務省に相当数の方が行っておられまして、行かれるとなかなか戻ってこられないというようなことが現実にあったわけでございます。で、できるだけ三年のめどを守ってほしいと。何も三年とは言わないけれども、余り長くなるのは困るということは、これは春の交流をやりますときにはその都度申し上げておったわけでございまして、このときも、できるだけそういうことを守るようにしていただきたい、ただ、いろんな事情があって守れないということがあれば、それは是が非でもという趣旨ではないけれども、できるだけ交流を円滑にするためにはそれをお守りいただきたいということはお話ししたことはございます。
③ 法務省との交流でございますが、確かにここ数年、数の上でかなり大量の交流が行われておりますが、ただ、それは四十六年以降特にふえたということではございませんで、その以前、たとえば三十三年、四十年というようなところをとってみましても、相当数の交流をいたしております。ただ、いまも申し上げましたように、行かれた方がどうも一たん行かれるとなかなか戻ってこられない。これは法務省の方もなれてこられるとなかなか帰しにくいというような事情もおありであったようでございますが、そういうことで、行かれた方が帰ってこられなければ、こちらからまた出さないということでございますので、ある程度数が少ない時期がございましたけれども、交流そのものといたしましては、特にこの数年多くしたという趣旨のものではございません。
イ 40期の舘内比佐志法務省訟務局長は,平成30年3月30日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 御指摘の方針につきましてですけれども、これは、平成二十四年五月十一日、質問主意書に対する政府の答弁書という形で出されておりますけれども、その中に、「国の利害に関係のある争訟において国の代理人として活動する検察官の数に占める裁判官の職にあった者の数の割合があまり多くなるのは問題ではないかとの指摘がなされたことなどから、この割合を次第に少なくする見直しを行うこととした」というふうに述べられております。
 その上で、平成二十七年四月に訟務局が設置されまして、予防司法支援や国際訴訟等への対応など新たな業務が加わり、原則としてこれらの業務に従事するために配置された訟務検事につきましては、その人数が増加したとしても、この方針とは矛盾するものではないというふうに考えております。
 いずれにいたしましても、裁判官出身者を訟務検事に任命するということにつきましては、こういった御指摘を踏まえながら、このように訟務検事の担当する業務が変化したことなどを踏まえまして、その必要性に応じ、今後とも適切に行ってまいりたいというふうに考えております。
② 国の指定代理人になることが予定されておらない予防司法業務や国際訴訟等への対応などの業務を担当している者、これをカウントしているということが今の先生の御指摘のところでございますけれども、国の利害に関係のある訴訟につきましては、量的にも質的にも複雑困難化しているなどの状況のもとで、各訟務検事の知識経験等を踏まえまして、適材適所の観点から事件を担当させるということが必要でございます。
 そのため、裁判官出身者の訟務検事のうち国の指定代理人として活動する者ではないというものにつきましても、個別の事案に応じて、例外的にではありますが、指定代理人となって活動させることがあり得るところでありまして、この点についてはどうか御理解いただきたいと思っております。


3 役所HP等の記載
(1) 法務省幹部の氏名については,法務省HPの「法務省幹部一覧」に掲載されています。
(2) 金融庁幹部の氏名については,金融庁HPの「人事異動」に掲載されています。
(3) 平成15年6月9日開催の下級裁判所裁判官指名諮問委員会(第1回)には,平成15年4月15日現在の出向先別人数一覧表が載っています。
   これによれば,内閣が19人,総務省が2人,法務省が105人,外務省が10人,財務省が1人,厚生労働省が1人,農林水産省が1人,経済産業省が2人,国土交通省が3人,金融庁が2人,公正取引委員会が5人,公害等調整委員会が1人,国税不服審判所が1人,裁判官弾劾裁判所が4人,裁判官訴追委員会が1人,預金保険機構が1人,JICA派遣(ベトナム)が1人であり,合計160人です。
(4) 司法試験・法科大学院(ロースクール)情報HP「裁判官の国会職員への出向について」によれば,平成25年3月当時,衆議院法制局に2人,裁判官訴追委員会に1人,出向している裁判官がいます。
(5) 法務省設置法(平成11年7月16日法律第93号)付則3項(職員の特例)は,「当分の間、特に必要があるときは、法務省の職員(検察庁の職員を除く。)のうち、百三十三人は、検事をもってこれに充てることができる。」と定めています。
(6)ア 内閣官房への出向については,2012年1月30日発行の「特技懇」誌第264号「内閣官房副長官補室に出向して」が参考になります。
イ 「特技懇」誌は,特許庁技術懇話会が年数回発行する会報であり,昭和25年10月1日に第1号が発刊されました(2010年11月24日発行の「特技懇」誌第259号「「特技懇」誌,60年を振り返る」参照)。
(7) 令和元年7月5日開催の下級裁判所裁判官指名諮問委員会(第89回)議事要旨3頁には以下の記載がありますから,出向先から復帰するたびに再任審査を受けていると思います。
・  令和元年7月期及び8月期の出向からの復帰候補者について
 裁判官から出向している指名候補者3人について,候補者の略歴,出向先から得た候補者の執務状況等に基づき,裁判官に任命されるべき者として指名することの適否について審議され,審議の結果,いずれの者についても指名することが適当であると最高裁判所に答申することとされた。


4 質問主意書
(1) 質問主意書に関する国会法の条文
第八章 質問
第七十四条 各議院の議員が、内閣に質問しようとするときは、議長の承認を要する。
2 質問は、簡明な主意書を作り、これを議長に提出しなければならない。
3 議長の承認しなかつた質問について、その議員から異議を申し立てたときは、議長は、討論を用いないで、議院に諮らなければならない。
4 議長又は議院の承認しなかつた質問について、その議員から要求があつたときは、議長は、その主意書を会議録に掲載する。
第七十五条 議長又は議院の承認した質問については、議長がその主意書を内閣に転送する。
2 内閣は、質問主意書を受け取つた日から七日以内に答弁をしなければならない。その期間内に答弁をすることができないときは、その理由及び答弁をすることができる期限を明示することを要する。
第七十六条 質問が、緊急を要するときは、議院の議決により口頭で質問することができる。
第七十七条及び第七十八条 削除


(2) 質問主意書に関する衆議院議院運営委員会における合意
ア 衆議院議院運営委員会の合意メモ(平成16年8月6日付)
 質問主意書制度は、議会の国政に関する調査・監督機能の一つとして、議員に与えられた質問権の一形態であり、極めて重要な制度である。他方、議員には、委員会、本会議等における質疑、資料要求等の制度が認められており、質問主意書の取り扱いについては、議会制度の本質を十分に踏まえた上で、その本旨に則り適切に行う必要がある。
 今後、資料要求など協議の必要のあるものは、担当理事間で協議し、さらに必要のあるものは、議運理事会で協議する。
 質問主意書の提出は、会議終了日の前日までとする。
イ 質問主意書の取扱いについて(平成18年6月15日付の衆議院議員運営委員会の文書)
1,答弁書提出後、内容において変更が生じた場合の内閣の対応について(中間報告)
 質問主意書に対し内閣が提出する答弁書は、下記2のとおり、閣議を経る重要なものであるので、その内容に重大な変更が生じた場合には、内閣は、本院に対し変更の内容について適切に説明すべきである。
 なお,内閣が対応すべき質問及び手続等については、今回、合意を得るに至らなかったので、引き続き協議を継続するものとする。
2,質問主意書全体のあり方について
 質問主意書の制度は、国会の国政に関する調査・監督機能の一つとして、議員に与えられた質問権の一形態であり、その答弁が閣議決定を経る非常に重要なものである。
 一方、国会法上、簡明な主意書により、閣議決定も含め7日以内に答弁すべきと規定されており、簡明かつ短時間で処理することが想定されている制度である。
 以上の点を踏まえ、提出者、議院運営委員会理事会、内閣がそれぞれの立場で、答弁の質を維持しつつ、より円滑な制度の運用に努めるものとする。
 また、会期末は会期終了日前日までに提出すべきものとされているが、議長の承認のために必要な手続に関する時間を考慮し、2日前までに提出すべきものとする。


(3) 明治大学HPに「質問主意書の答弁書作成過程」(2008年5月7日受付の論文)が載っています。
(4) 衆議院議員平野博文君提出閣僚等の答弁・説明義務及び「あたご」事故の調査等に関する質問に対する答弁書(平成20年4月4日付)には以下の記載があります。
 「国会議員が質問主意書により、国会審議に必要と考える資料を要求する権利」に関するお尋ねについては、議員の内閣に対する質問に係る国会法第七十四条第一項に規定する議長の承認に関する事項であり、政府としてお答えする立場にはないが、衆議院においては、「議員の質問は、国政に関して内閣に対し問いただすものであるから、資料を求めるための質問主意書は、これを受理しない」との先例があるものと承知している。また、内閣に転送された質問主意書に対しては、政府としては、同法の規定に従い、並びに平成十六年八月及び平成十八年六月の衆議院議院運営委員会理事会における質問主意書制度に関する合意等を踏まえ、答弁することとしており、例えば、質問事項につき調査を行うことが膨大な作業を要する場合に、お答えすることは困難である旨の答弁をしているところである。
 国会議員からの国会審議に必要な資料の要求は、議院の国政調査権を背景としたものであり、一私人としてのそれではなく、国会がその機能を発揮する上で重要なものであると認識しており、政府としてはこれに可能な限り協力をすべきものと考えている。しかしながら、要求された事項が、例えば、個人に関する情報に係るものである場合、所管外の事項である場合、他国との信頼関係が損なわれるおそれがある場合、捜査の具体的内容にかかわる事柄である場合等合理的な理由がある場合には要求に応じないことも許容されるものと考えている。


(5)ア 質問主意書関係事務の手引き~はじめて主意書を担当する方へ~(法務省)を掲載しています。
イ 参議院議員浜田聡君提出「質問主意書関係事務の手引き~はじめて主意書を担当する方へ~」に関する質問に対する答弁書(令和2年6月26日付)には以下の記載があります(ナンバリングを追加しています。)。
① 内閣が国会法(昭和二十二年法律第七十九号)第七十五条に基づき各議院の議長から質問主意書の転送を受けた場合、内閣官房がその質問の内容に関係する府省庁等に回付し、その回付を受けた府省庁等において答弁書の案文を作成しているところ、本質問主意書に対する答弁書については、法務省においてその答弁書の原案を作成するものとし、同省において関係府省庁との協議等を経て、成案を得た後、法務大臣が閣議請議を行ったものである。
② お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、御指摘の「手引き」は、法務省大臣官房において、質問主意書に関する事務として認識している内容を整理したものであり、同省においては、その内容に沿って、閣議請議等の手続に必要な資料について、必要な部数を関係機関に提供しているところである。また、お尋ねの「本主意書に対する・・・紙の枚数」については、各資料の枚数にその必要な部数を乗じたものであると認識しているが、正確な枚数をお答えすることは困難である。
ウ NHKから国民を守る党 浜田聡のブログ「「質問主意書関係事務の手引き~はじめて主意書を担当する方へ~」に関する質問主意書 ←浜田聡提出」(2020年7月18日付)が載っています。


5 判事新任のタイミング
(1) 行政機関等への出向経験者の場合
ア 任官時からずっと判事補のままだった裁判官の場合,判事補新任日から10年で任期が満了します。
   これに対して,行政機関等に出向したり(身分上は検事です。),弁護士職務経験をしたり(身分上は弁護士です。)した後に判事補に復帰した裁判官の場合,復帰したときから10年間が判事補の任期になりますから,判事補新任日から10年で任期が満了するわけではないです。
   しかし,判事補,検事及び弁護士の経験期間の合計が10年であっても判事就任資格があります(裁判所法42条2項)。
   そのため,判事になるタイミングは同じになります。
イ 衆議院法制局参事をしていた人の場合,同期と同じタイミングで判事になります(判事補の職権の特例等に関する法律3条の3・裁判所法42条2項)。
ウ 判事の任命資格について定める裁判所法42条2項は,「前項の規定の適用については、三年以上同項各号に掲げる職の一又は二以上に在つた者が裁判所事務官、法務事務官又は法務教官の職に在つたときは、その在職は、これを同項各号に掲げる職の在職とみなす。」と定めています。
(2) 在外公館又は預金保険機構への出向経験者の場合
ア 在外公館又は預金保険機構に出向している場合,検事の身分すらありません(在外公館への出向の場合,35期の今崎幸彦裁判官のように例外的に検事の身分を有することがあります。)から,出向期間の分だけ判事就任資格の獲得が遅れます。
    この場合,簡裁判事の身分に基づいて判事に任官した同期と同じ報酬をもらっていると思われるのであって,例えば,35期の今崎幸彦最高裁判所判事の場合,平成3年5月16日から平成6年3月31日までは京都簡裁判事を本官として京都地裁判事補を兼官としていましたし,同年4月1日から平成7年5月26日までは東京簡裁判事を本官として東京地裁判事補を兼官としていて,同年5月27日から東京地裁判事だけの身分を持つようになりました。
イ 裁判官が外務省に出向する際,どのような場合に検事兼外務事務官の身分を取得した上での出向扱いとなり,どのような場合に裁判官を依願退官して外務事務官の身分を取得した上での出向扱いとなるかが分かる文書は,外務省には存在しません(平成27年度(行情)答申第62号(平成27年5月21日答申))。
(3) 明治憲法時代の取扱い
・ 明治憲法時代,10年以上裁判官の経験があれば大審院判事の任命資格を取得しましたし(裁判所構成法70条),5年以上裁判官の経験があれば控訴院判事の任命資格を取得しました(裁判所構成法69条)。


6 最高裁判所に存在しない文書
(1) 平成29年9月26日付の司法行政文書不開示通知書によれば,以下の文書は存在しません。
① 最高裁判所と法務省民事局との間で実施された会合に関する文書(直近の分)
② 最高裁判所と法務省刑事局との間で実施された会合に関する文書(直近の分)
③ 最高裁判所と法務省訟務局との間で実施された会合に関する文書(直近の分)
(2) 平成29年10月23日付の最高裁判所事務総長の理由説明書によれば,平成29年8月3日時点で,最高裁判所と法務省民事局,法務省刑事局又は法務省訟務局との間の二者間で開かれる会議,協議会等は存在しません。


7 衆議院法務委員会の付帯決議
・ 平成29年3月31日の衆議院法務委員会の付帯決議は以下のとおりです。

裁判所職員定員法の一部を改正する法律案に対する附帯決議

    政府及び最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
一 民事訴訟事件の内容の複雑困難化及び専門化について、その実情を把握し、必要な対応を行うとともに、訴訟手続の審理期間及び合議率の目標を達成するため、審理の運用手法、制度の改善等を検討し、その上で、目標達成に必要な範囲で裁判官の定員管理を行うこと。
二 裁判所職員定員法の改正を行う場合には、引き続き、判事補から判事に任命されることが見込まれる者の概数と判事の欠員見込みの概数を明らかにすること。
三 平成二十五年三月二十六日の当委員会の附帯決議等を踏まえ、最高裁判所において、引き続き、判事補の定員の充足に努めるとともに、判事補の定員の在り方について、その削減等も含め検討していくこと。
四 技能労務職員の定員削減に当たっては、業務の円滑、適切な運営に配慮しつつ、業務の外部委託等の代替措置の状況を踏まえて適切に行うこと。
五 複雑・多様化している令状事件については、引き続き、実態を把握し、適切な処理が図れるよう体制整備に努めること。
六 司法制度に対する信頼確保のため、訟務分野において国の指定代理人として活動する裁判官出身の検事の数の縮小に関する政府答弁を引き続き遵守すること。


7の2 福岡高裁判事妻ストーカー事件に関する調査報告書の記載
・ 福岡高裁判事妻ストーカー事件に関する平成13年3月14日付の最高裁判所調査委員会の調査報告書27頁には以下の記載があります(改行を追加しています。)。
 本件の背景として,裁判所から検事に出向して仕事をするいわゆる判検交流の問題点が指摘されている。現在,司法制度の改革が論議される中で,裁判官が多様な経験を積む必要のあることが指摘され,他の法律職の経験を経ることが有益であり,笄護士や検察官の経験のある者が裁判官になること,あるいは,検察官も他の法律職の経験を積むことが好ましいといった意見が有力である。
 今後法曹が,互いに交流し,経験の多様化を図ることを目指すとするならば,その反面として,それぞれの職責の厳しさを認識し,その節度を厳格に守るという「けじめ」をこれまで以上に明確にし,国民からいささかも疑念を持たれることのないように努めなければならない。
 公正,廉潔は我が国司法の最も誇るべき伝統である。しかし,今回の事件により,我々は, これが伝統によって守られるものではなく,基本的には裁判官個人の自覚すなわち「倫理」の問題であることを改めて確認し,高い職業倫理を保持するため,意識の覚醒が必要であることを肝に銘じなければならない。

8 平成13年の中央省庁再編によって総務省が誕生した理由
・ 平成27年度3年目フォローアップ研修「公務員を演じ終えて」と題する講演(平成27年10月15日実施)において,吉崎正弘 元総務審議官(郵政省出身)は以下の発言をしています(リンク先のPDF10頁)。
    なぜ省庁再編になったかというと、やはり「業務の近いところ同士が一緒になったほうがいいじゃないか」ということだろうと思います。厚生省と労働省、あるいは建設省と運輸省、そういう中で、ちょっと残ってしまった役所があって、それが自治省と総務庁と郵政省でした。郵政省の場合には、運輸省といっしょになる案もありました。それは、交通と通信とは割と近そうだからです。そもそも両省は、もとをたどれば逓信省という一つの役所だったから当然です。先祖返りになっておかしいからだめだという議論などを経てできたのが今の総務省です。そういう意味では、他の官庁よりは、仕事の三つのばらばら感は否定できないことは事実です。例えば、制度的なものを守るほうが総務庁と自治省であり、どちらかというと荒田なものを作り出していくのが郵政省。それから、縦割りが自治省であり郵政省であり、横断的、全省庁的というのは総務庁。それから、霞が関中央の色合いが強いのが総務庁と郵政省で、地方の勤務がとても多いのが自治省です。


9 消極的権限争い
(1) 財務省広報誌ファイナンス2014年4月号の「「消極的権限争い」と 政治家の役割」には以下の記載があります。
     公務員の世界の中で、「権限争い」と言えば、かつては、「何でもかんでも私の仕事」式の「積極的権限争い」を指すことが多かったが、近年は、「それは自分の仕事ではない」という「消極的権限争い」が主流になっているという話をよく聞く。実際、徹底した行政改革が行われる中、公務員が権限をとってきて仕事を増やしても、その仕事を担当する職員の定員増や、独立行政法人の新設はほぼ不可能で、日々の忙しさは増すばかりだ。それなのに、公務員が声高に「権限獲得」にこだわれば、世間から「官僚が、何か別の意図を持っている」という目で見られかねない。「消極的権限争い」が日常化するのもむべなるかなという気もするが、公務として必要な仕事は、やはり誰かが担わなければならない。
(2)ア 平成21年度初任行政研修「事務次官講話」「国家がなすべきことと民間とのコラボレーション-裁判員制度からの示唆-」と題する講演(平成21年5月26日実施)において,小津博司法務事務次官は以下の発言をしています(PDF18頁)。
     これ(山中注:縦割り行政の弊害)も非常に重要なことで、最も強烈に思ったのがいつかというのは自信がありませんが、毎日のように感じておりまして、それは狭い法務省の中で、国会答弁が入ったときに、民事局が受けるのか、刑事局が受けるのかというふうなところから毎日すさまじいものがあります。
イ 平成24年度初任行政研修「事務次官講話」「明日の行政を担う皆さんへ」と題する講演(平成24年5月15日実施)において,西川克行法務事務次官は以下の発言をしています(リンク先のPDF14頁)。
     他部局・他省庁との関係というものを書かせていただきました。よく言われることですが、省あって国なし、局あって省なし、課あって局なし、これぐらい日本の役所の世界というのは縦割りがきつくて、タコ壺に入っているのだということを戒めるということです。国全体の方針があって省同士で対立していると、省があっても局の中で対立をしている。省全体のことはあまり考えないというようなことが、それをどんどん細かくしていけば全くそういうこともあるのかなと思います。


10 関連記事その他
(1) 衆議院議員長妻昭君提出自民党国会対策委員会によるいわゆる事前審査制に関する再質問に対する答弁書(平成20年10月28日付)には以下の記載があります。
     国会議事堂本館内に所在する内閣総務官室では、参議院別館内に所在する各府省の国会連絡室への連絡を行う際に、国会連絡室用の館内放送により、各府省の国会連絡室の職員を参集させて、口頭で各種の連絡を行うことがある。その際、参議院別館内に国会連絡室を置いている最高裁判所事務総局や会計検査院も、それぞれ、国会における情報を得るための手段の一つとして、内閣総務官室から各府省に対する連絡がある際には、自らの判断により同席して傍聴することも多く、内閣総務官室においても、従来より慣例的にこれを認めてきたところである。
(2) 「言葉と経験」(筆者は56期の川尻恵理子弁護士)には,「法務省に出向中は、新規の法案立案を立て続けに担当したこともあり、人生で最も多忙な時期となりました。朝四時まで国会答弁を巡って外務省と喧嘩、朝五時にようやくソファーで仮眠に入ると、一時間後に厚労省からの電話で叩き起こされる、といった具合です。」と書いてあります(「日本女性法律家協会70周年のあゆみ~誕生から現在,そして未来へ~」(令和2年6月10日出版)225頁)。
(3)ア 経済産業省HPに「不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」(平成29年5月の次官・若手プロジェクトの文書)が載っています。
イ 現役官僚おおくぼやまとの日記ブログに「国会答弁の作り方1 〜大人も子供も、議員さんも〜」(2018年3月31日付)が載っています。
ウ 政府の行政改革HP「各府省の若手職員等に対するヒアリングの結果(概要)について」(平成13年2月23日付の内閣官房行政改革推進事務局 公務員制度等改革推進室の文書)が載っています。
(4) 48期の小原一人裁判官が「裁判官になるには」(2009年5月1日付)に寄稿した「裁判官は新人でも独立 一年生でも大きな判決 東京地方裁判所判事補 小原一人さん」(同書12頁ないし27頁)には,訟務検事に関して以下の記載があります
     行政庁だけに覚悟はしていましたが、決裁システムの煩わしさにも戸惑いました。一通の書面を裁判所に提出するだけでも、上司の決裁を仰がなければなりません。改めて痛感したのは、裁判所の権限の大きさです。裁判官は一人でも、国の施策に影響するような判断を下すことができる。裁判所にいるとなかなか気づきませんが、訴訟の当事者になるとよくわかりました。
(5) 東北大学HPの「裁判官の学びと職務」(講演者は47期の井上泰士)には以下の記載があります。
法務省の場合、課長及びそれと同格の官房参事官になって初めて法務大臣に直接お目見えする資格があることになります(江戸時代の旗本みたいですね。参事官以下は御家人に当たります。)。
(6)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 総務省行政文書取扱規則(平成23年4月1日総務省訓令第17号)
→ 総務省において決裁を要する文書の決裁事項及び決裁権者が書いてあります。
・ 令和元年度在外公館赴任前研修(第5部研修)参加者の推薦について(令和元年6月18日付の外務省大臣官房人事課長の文書)
・ 令和元年度在外公館赴任前研修(第5部研修)参加者の受け入れ決定について(令和元年8月15日付の外務省大臣官房人事課長の文書)
・ 令和2年度在外公館赴任前研修(第5部研修)参加者の推薦について(令和2年6月25日付の外務省大臣官房人事課長の文書)
・ 令和2年度在外公館赴任前研修(第5部研修)参加者の受け入れ決定について(令和2年8月21日付の外務省大臣官房人事課長の文書)
・ 国会関係用語集(国土交通省大臣官房総務課連絡調整係)
・ 参議院議員のしおり(令和4年版)
→ 参議院事務局情報公開審査会の答申(令和3年度答申第3号)に基づき,参議院議員のしおりは全部開示されるようになっています。
イ 以下の記事も参照してください。
・ 判検交流に関する内閣等の答弁
・ 行政官国内研究員制度(司法修習コース)
・ 裁判官の種類
→ 判事新任のタイミングについても説明しています。
・ 法務省の定員に関する訓令及び通達
・ 厚生労働省の内部組織に関する訓令及び細則
・ 閣議
・ 裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等
・ 裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等




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