裁判官の昇給


目次
1 総論
2 裁判官の昇給等に関する公式説明
3 裁判官昇給候補者名簿の相当部分は不開示情報であること
4 昇給差別は最高裁の段階でなされているのかもしれないこと
5 判事4号で終わった元裁判官の経験談
6 関連記事その他

1 総論
   判事3号以上への昇給及び簡易裁判所判事3号以上への昇給の決定は最高裁判所裁判官会議の議決による事項であるのに対し,それ以外の報酬の決定は,最高裁判所長官の決裁による事項です(「裁判所の人事行政事務の実情について」(平成27年5月26日の最高裁判所事務総局会議資料)2頁参照)。

2  裁判官の昇給等に関する公式説明
   平成14年7月16日付の裁判官の人事評価の在り方に関する研究会報告書における「第2 裁判官の人事評価の現状と関連する裁判官人事の概況」には,以下の記載があります。
(1) 裁判官の給与体系
   裁判官の給与体系については,裁判官の報酬等に関する法律に定められており,報酬については,判事補は12号から1号までの12の,また,判事は8号から1号及びいわゆる特号まで9の刻みとなっている。簡易裁判所判事については,17号から1号及び特号までの18の刻みとなっている。
   現在の報酬制度については,号の刻みが細かすぎて,裁判官の職務にふさわしくないのではないかという議論が従来からあるが,裁判官といえども次第に経験を積んでよ り責任の重いポストに就いていくという面があり,判事の場合であれば,10年から30数年までの経験差とそれに応じた職務の差があるので,相当数の段階は設けざるを得ないという考え方に基づくものである。また,社会全般に年功序列型賃金が行われてきた中で,一般公務員の給与体系の上に,これと連動した形で報酬額を定めることによって,報酬のレベルが確保されるとともに,社会的実情に則した報酬体系となっていたともいえる。この点については,審議会意見において,「裁判官の報酬の進級制(昇給制)について,現在の報酬の段階の簡素化を含め,その在り方について検討すべきである。」と指摘されており,今後検討すべき課題となっている。
   裁判官の報酬は,一般公務員のそれよりも高い水準にあるが,それは,裁判官の地位,職責の重要性や,超過勤務手当が支給されず,その分が報酬に組み入れられていることなどによる。
(2)  昇給の実情
   以上のように細かい刻みで昇給していくことが,裁判官の独立に影響してはならないことはいうまでもないことであり,任官後,判事4号まで(法曹資格取得 後約20年間)は,長期病休等の特別な事情がない限り,昇給ペースに差を設けていない。判事3号から上への昇給は,ポスト,評価,勤務状態等を考慮し,各高等裁判所の意見を聞いた上,最高裁判所裁判官会議において決定されている。

3 裁判官昇給候補者名簿の相当部分は不開示情報であること
   最高裁判所裁判官会議の配付資料として保管されている裁判官昇給候補者名簿のうち,昇給号報,官職名,氏名,期別及び備考は不開示情報であるとした,平成28年度(最情)答申第13号(平成28年6月3日答申)には以下の記載があります。
(1) 本件対象文書(山中注:平成27年9月16日の最高裁判所裁判官会議の議事録に添付された平成27年10月1日付けの裁判官昇給候補者名簿で,最高裁判所事務総局人事局が作成したものであり,表紙のほか3枚からなるもの)を見分したところ,本件不開示部分には,具体的な昇給候補者の氏名,期別,昇給号報,官職名等が記載されていることが認められるところ,これらの情報は,昇給候補者ごとに個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものであると認められるから,これらの情報は,法5条1号に規定する不開示情報に相当する情報であり,同号ただし書イ,ロ及びハのいずれにも相当せず,取扱要綱記第3の2による部分開示も相当でない。
(2) また,本件対象文書を見分したところ,本件不開示部分に記載されている情報には,具体的に昇給する者の期別や昇給号報,その人数等の情報が含まれていることが認められるところ,そのような情報は,最高裁判所事務総長が説明するとおり,人事事務担当者等の一部の関係職員以外には知られることのない性質のものであると推測される。そうすると,これらが公になると,当該情報を知った者から不当な働き掛けがされたり,裁判官の職務遂行に無用の影響を与えたりすることがあり,今後の人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるとする最高裁判所事務総長の説明も,十分首肯できるものである。したがって,これらの情報については,法5条6号ニに規定する不開示情報に相当すると認められる。
    苦情申出人は,様々な主張をするが,いずれも上記判断を左右するものではない。
(3) したがって,本件不開示部分につき,取扱要綱記第2の2に基づき不開示としたことは,妥当である。

4 昇給差別は最高裁の段階でなされているのかもしれないこと
・ 14期の安倍晴彦裁判官が著した「犬になれなかった裁判官―司法官僚統制に抗して36年 」(平成13年5月1日出版)220頁及び221頁には以下の記載があります。
    所長を経験した、ある裁判官に聞いたところによると、昇給のシステムは、次のようになっているようである。
    まず、地・家裁所長が、それまでの号俸において一定年限がたった管内の裁判官に順番をつけて、昇給候補者のリストを作成する。次に高裁長官が管内の地・家裁から上がってきたリストを総合して順番をつけて最高裁に提出する。それを最高裁が全国分を総合して順番をつけ、順次昇給させる、ということである。普通、高裁までは極端な差別をつけることはなく、極端に問題になる差別処遇は、最高裁の段階でなされるのだそうである。場合によっては、現場の意見も無視することもある、最高裁の人事政策なので、言ってみれば、「高度の政治的判断」である。そう思わざるを得ない例が、いくつもある。宮本再任拒否についても理由を一切いわない最高裁のこと、そのような状態で、完全に「ほしいままに」給与の差別がなされてきたのである。

5 判事4号で終わった元裁判官の経験談
(1) 元裁判官である森脇淳一弁護士ブログ「裁判官の身分保障について(2)」(2018年12月31日付)には以下の記載があります。
① たしか、上野支部に着任した年であるから、多分、世間で言われているように任官18年目に判事4号俸を頂くようになってから、任官約35年半後に退官するまでずっと4号俸のままであったが、その給与額は、一番多かった時期で、月額額面90万6000円だったから(ご承知のように、裁判官の俸給額もいったん減額され、私が退官した時点では81万8000円。注1)、経営責任や、部下の不祥事について責任を負う必要がある管理職でもない(注2)、単なる「サラリーマン」としては破格の高給取りといえるであろう。
② 裁判官同士で、特に互いの俸給について話題になることはなかったし、司法修習の期(以下、「期」とはその趣旨)が下の者が部総括指名を受けたりして、私より先に3号俸になったとわかったり、同期や、期の下の者が所長や高裁の裁判長になって、2号俸や1号俸になったことがわかっても(同期同士だと、尋ねて教えてもらうこともあった)、その交友関係に何ら差は生じなかった(期が下の者からは、やはり丁寧語を使われた。私の傍若無人な性格のなせる業かもしれないが)。
(2) スローニュース旧公式サイトの「不思議な裁判官人事 第4回「出る杭」として処分を受けた人 」(2022年8月10日付)には,45期の寺西和史 元裁判官の発言として「一般企業に勤めたことはないですが、裁判所は絶対に良い職場だと思います。給料もそう。部総括になると、『判事3号』となって少し違いが出ますが、それまでの『判事4号』までは、上がり方もだいたい平等なんです。私でも4号になれた。民間企業は、そこまで平等ではないですよね」と書いてあります。

6 関連記事その他

(1) 最高裁の裁判官会議議事録を見る限り,毎年1月1日,4月1日,7月1日及び10月1日に裁判官の昇給が実施されています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所裁判官会議の議事録
・ 裁判官の号別在職状況
・ 裁判官の年収及び退職手当(推定計算)


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