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公正証書遺言に関する遺言無効確認請求訴訟の要件事実――請求原因,抗弁及び再抗弁の分配(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 検討の対象と時点

遺言無効確認請求訴訟は,遺言の効力それ自体を訴訟物とする確認訴訟であるが,その実質は,遺言により被告が承継するとされる財産について原告が所有権又は共有持分権を有しないことの確認を求める消極的確認訴訟である。この性質から主張立証責任の分配が通常の給付訴訟と入れ替わり,遺言が方式に従って成立したという事実は,原告が崩すべき事実ではなく,被告が主張立証すべき抗弁事実となる。

本記事は,令和8年8月7日現在の法令を前提として,公正証書遺言を対象とする遺言無効確認請求訴訟の要件事実を,請求原因,抗弁及び再抗弁の三層に整理する。生成AIを用いて要件事実の体系書及び実務書を通読した上で,条文はe-Gov法令検索の現行条文で,裁判例は裁判所ウェブサイトの個別ページで,それぞれ内容を確認して構成した。

2 主張立証責任の三層構造

遺言無効確認請求訴訟の攻撃防御は,次の三層に整理することができる。請求原因に権利の発生要件事実が現れないという点が,この訴訟類型の最大の特徴である。

内容主張立証責任
請求原因訴訟物の特定及び確認の利益を基礎付ける事実原告
抗弁当該遺言が法定の方式に従って成立したこと被告
再抗弁遺言能力の欠如その他の無効事由原告

この分配は,遺言が無効であることを原告が正面から立証しなければならないという直感とは逆の構造になっている。原告が訴状で「遺言は方式に違反している」と書いても,それは被告が負担する抗弁事実を先取りして否認しているにすぎず,原告に法律上の立証責任が生ずるわけではない。

これに対し,遺言能力の欠如は権利の発生を障害する事実であるから,原告が立証責任を負う再抗弁事実である。無効原因ごとに責任の所在が異なるという点を押さえることが,主張の書き分けと証拠計画の出発点になる。

第2 請求原因は訴訟要件を基礎付ける事実である

1 訴訟物と請求の趣旨

訴訟物は当該遺言の効力である。公正証書遺言は公証人ごとに毎年通し番号が付されるから,請求の趣旨では,作成した公証人の所属法務局又は地方法務局,公証人の氏名,作成年月日及び証書番号によって対象を特定する。

確認の利益については,遺言の無効を確定することによって現在の特定の法律関係についての紛争を解決することができる場合に限り訴えが適法になるとされており,遺言無効確認の訴えは,その遺言が有効であるとすればそれから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で,原告がその確認を求める法律上の利益を有するときに適法である(最高裁判所第三小法廷昭和47年2月15日判決)。遺贈義務の履行として既に受遺者への所有権移転登記がされている場合のように,給付の訴えの方がより適切な解決方法である場合には,確認の利益が否定され,受遺者に対する抹消登記手続請求によることになる(最高裁判所第二小法廷昭和51年7月19日判決)。

手続面では,家庭に関する事件であるから調停前置主義が適用され(家事事件手続法257条1項,244条),管轄は被告の住所地(民事訴訟法4条1項)のほか相続開始時における被相続人の住所地(同法5条14号)にも認められる。

2 請求原因の4つの要件事実

請求原因は,次の4つの事実からなる。いずれも権利の発生要件事実ではなく,訴訟物の特定と確認の利益を基礎付ける事実である。

  • ① 当該遺言が存在すると被告が主張していること
  • ② 遺言者が死亡したこと
  • ③ 遺言者が,死亡時に当該遺言の目的である財産を所有していたこと
  • ④ 原告が遺言者の相続人又はその承継者であることを基礎付ける遺言者との身分関係

①は被告適格と訴えの利益に関わる部分であり,被告が当該遺言による財産の承継を主張していない場合には,そもそも確認の利益を欠くことになる。③は,遺言の目的である財産が遺言者の死亡時になお遺言者に帰属していたことを示すものであり,生前に処分済みであれば当該部分について確認の利益が失われる。管轄を被相続人の最後の住所地で取る場合には,②に死亡時の住所を併せて記載することになる。

当事者適格については,遺言執行者を被告とすることの可否,受遺者の被告適格,共同訴訟の形態などの論点があり,これらの裁判例は遺言無効確認請求訴訟に関するメモ書きに整理している。

3 遺言者の生存中は訴えを提起できない

要件事実②が遺言者の死亡である以上,遺言者の生存中は,確認を求めるべき遺言の効力が発生していないから,訴えを提起することができない(最高裁判所第一小法廷昭和31年10月4日判決)。この結論は,遺言者が心神喪失の常況にあり,遺言者自身による遺言の取消し又は変更の可能性が事実上ないと認められる場合であっても変わらない(最高裁判所第二小法廷平成11年6月11日判決)。

遺言の効力は遺言者の死亡の時から生ずるとされており(民法985条1項),受遺者の生前の地位は将来遺贈財産を取得し得るという事実上の期待にとどまるからである。したがって,遺言者が存命である段階での相談に対しては,遺言無効確認の訴えではなく,成年後見等の別の手続を検討することになる。

第3 抗弁は遺言の成立要件である

1 立証責任が遺言の有効を主張する側にある

遺言証書の成立要件については,遺言の有効性を主張する側に主張立証責任があるとされており(最高裁判所第一小法廷昭和62年10月8日判決),遺言無効確認請求訴訟では被告の抗弁に回る。もっとも,公正証書は,その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべき文書であるから,真正に成立した公文書と推定される(民事訴訟法228条2項)。

そのため,抗弁事実の立証責任が被告にあるといっても,実際の審理では,公正証書に定型的に記載された口授及び読み聞かせの文言をどのように崩すかという形で進行し,原告側が公証人及び証人の尋問等によって事実上の反証を積む負担を負うことが多い。この点は,成立要件の立証責任が被告にあるという命題と矛盾するものではないが,主張の建て方と立証計画を分けて考える必要がある。

2 令和7年9月30日以前に作成された公正証書遺言

現に係属している事件の多くは,改正前の民法969条が適用される遺言を対象とする。この場合の抗弁事実は,次の5つである。

  • ① 証人2人以上の立会いがあったこと
  • ② 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授したこと
  • ③ 公証人が,遺言者の口述を筆記し,これを遺言者及び証人に読み聞かせ,又は閲覧させたこと
  • ④ 遺言者及び証人が,筆記の正確なことを承認した後,各自これに署名押印したこと(遺言者が署名することができない場合は,公証人がその事由を付記したこと)
  • ⑤ 公証人が,①から④までの方式に従って作成したものである旨を付記して,これに署名押印したこと

3 令和7年10月1日以後に作成された公正証書遺言

民法969条は,民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号)により改正され,令和7年10月1日から施行されている。現行の同条1項は,①証人2人以上の立会いがあること及び②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授することの2号のみを掲げ,同条2項が「前項の公正証書は,公証人法の定めるところにより作成するものとする。」と定める。

改正前の3号から5号までに相当する筆記,読み聞かせ又は閲覧,承認及び署名押印は,公証人法37条から40条までに整理されており,特に同法40条1項が公証人は作成した公正証書を列席者に読み聞かせ又は閲覧させて記載又は記録の正確なことの承認を得なければならないと定め,同条4項及び5項が公証人及び列席者の措置を定めている。

したがって,令和7年10月1日以後に作成された公正証書遺言については,抗弁事実の③以下を「公証人法の定めるところにより公正証書が作成されたこと」として構成し,電磁的記録による作成の場合には署名押印に代わる措置まで主張することになる。証人の欠格については,現行民法969条3項が公証人法35条3項の適用を除外しているため,引き続き民法974条が適用される。

改正法は,第45条で民法969条を改正する一方,第46条では民法98条2項(公示による意思表示)についてのみ経過措置を定めており,969条の改正については経過措置を置いていない。したがって,公正証書遺言が法定の方式に従って成立したかどうかは,その遺言が作成された当時に効力を有していた条文によって判断されることになり,施行日前に作成された遺言については改正前の同条によって抗弁事実を構成することになる。

デジタル化後の作成手続の具体的な流れは,公正証書作成手続のデジタル化に整理している。

4 証人の立会い

証人は,作成手続に終始立ち会う必要がある。遺言者が署名押印をする場面にも立ち会うことを要し,遺言者が印章を所持していなかったために約1時間後に証人1名のみの立会いで押印が行われた事案では,作成の方式に瑕疵があるとされた(最高裁判所第二小法廷平成10年3月13日判決)。

もっとも,同判決は,他方の証人がその直後に完成した遺言公正証書を示されて押印の事実を確認しており,この間に遺言者が従前の考えを翻したなどの事情がうかがわれないという事実関係の下では,その効力を否定するほかはないとまではいえないとしている。方式の瑕疵の存在と遺言の無効とが直結しない場合があるという点で,主張の組立てに影響する判断である。

証人の資格及び立会いの態様については,公正証書遺言の証人及び立会人で詳しく取り上げている。

5 口授

口授の要件は,厳格に解する見解と緩和して解する見解に分かれるが,最高裁判決においては,遺言者が何らかの文言を発したことが必要とされている。遺言者が公証人の質問に対して言語をもって陳述することなく単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないときは,民法969条2号にいう口授があったとはいえず,このことは遺言事項が子の認知に関するものであっても異ならない(最高裁判所第二小法廷昭和51年1月16日判決)。

公証人があらかじめ筆記した遺言内容を読み聞かせたのに対して遺言者が単にうなずくのみであり,立会証人の1人が遺言者の真意を十分に確認することができなかったという事案でも,同号にいう口授があったとはいえないとされた(最高裁判所第三小法廷昭和52年6月14日判決)。

他方,公証人があらかじめ他人が作成したメモにより公正証書作成の準備として筆記したものに基づいて遺言者の陳述を聴き,その筆記を原本として公正証書を作成した事案では,口授の要件を欠くとはいえないとされている(最高裁判所第一小法廷昭和54年7月5日判決)。これらを対比すると,事前に案文が用意されていたこと自体は口授を否定する事情ではなく,遺言の際の前後の状況や場所を考慮した上で,遺言者の口述から遺言の骨子を捕捉できるかどうかが分水嶺になると整理することができる。

下級審にも,口授を否定して公正証書遺言を無効とした裁判例がある。大阪高等裁判所平成26年11月28日判決は,公証人があらかじめ作成した遺言公正証書の案を,病室で横になっていた遺言者の顔前にかざすようにして見せながら項目ごとにその要旨を説明して確認を求めたのに対し,遺言者はうなずいたり「はい」と返事をしたのみで遺言の内容に関することは一言も発していないこと,遺言の内容が評価額合計数億円に及ぶ多数かつ多様な資産を推定相続人全員に分けて相続させるものであること,遺言者に多発性脳梗塞等の既往症があり認知症と診断されたこともあったことなどを挙げて,口授があったということはできないとした。

東京高等裁判所平成27年8月27日判決は,遺言者が公証人及び証人に対して遺言内容を具体的に語ることをしなかったとして口授の要件を備えていなかったとし,東京地方裁判所平成20年11月13日判決は,弁護士が関与して作成された公正証書遺言について,遺言能力がなく口授の要件も満たさないとして無効とした。これらの裁判例は,公証人が案文を読み聞かせて確認を求めるという公証実務の一般的な進行そのものを否定するものではなく,遺言者側からの発語の有無が,遺言内容の複雑さ及び遺言者の判断能力の低下と併せて評価されている。

なお,口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には,公証人及び証人の前で通訳人の通訳により申述し,又は自書することによって口授に代えることになる(民法969条の2第1項)。

6 筆記,読み聞かせ及び署名押印

改正前の民法969条3号は口授の後に筆記することを想定した文言になっていたが,実際の公証実務では事前に案文を準備することが通例である。あらかじめ聴取した内容を筆記し,これを持参して遺言者及び証人の前で読み聞かせたところ,遺言者が同内容を口授して承認し,自ら署名押印した場合には,口授と筆記の順序が条文の文言と逆になっていても方式に違反しないとされている(最高裁判所第二小法廷昭和43年12月20日判決)。

署名についても,戸籍上の氏名と完全に同一である必要はなく,それによって遺言者の署名であることが明らかになる記載であれば足りると解されている。したがって,方式違反を無効原因として構成する場合には,形式的な不一致を指摘するだけでは足りず,遺言者の真意の確保という要件の趣旨に照らしてどの点が損なわれたのかを具体的に主張する必要がある。

第4 再抗弁は遺言の無効事由である

1 遺言能力の欠如

遺言者は遺言をする時においてその能力を有しなければならず(民法963条),遺言能力を欠く遺言は無効である。従来の通説は意思能力があれば遺言能力もあると解してきたが,近時の有力説及び多くの裁判例は,一般的な意思能力や事理弁識能力以上の,当該遺言を理解する能力を要求している。

考慮要素としては,遺言の内容が重大又は高額であることの理解の有無,遺言作成の依頼に至る経緯,遺言作成時の状況,他者による不当な干渉の有無などが挙げられ,公正証書遺言であっても遺言能力が否定されることがある。

この再抗弁は原告が立証責任を負うから,方式違反の主張とは異なり,診療記録,介護記録,認知機能検査の結果その他の資料を原告側で積極的に収集する必要がある。遺言能力の判断枠組みについては,遺言能力の判断・立証実務で詳しく検討している。

2 民法総則の規定による無効及び取消し

遺言にも,公序良俗違反による無効(民法90条),錯誤による取消し(同法95条)及び詐欺又は強迫による取消し(同法96条)の規定が適用される。他方,行為能力の制限による取消しの規定は遺言には適用されない(同法962条)。

公序良俗違反については,妻子のある男性が半同棲の関係にある女性に遺産の3分の1を包括遺贈した事案において,妻との婚姻の実体がある程度失われた状態で関係が約6年間継続した後に,不倫な関係の維持継続を目的とせず専ら女性の生活を保全するためにされたものであり,妻子も遺産の各3分の1を取得するものとされていて遺贈により相続人の生活の基盤が脅かされるとはいえないなどの事情があるときは,公序良俗に反しないとされている(最高裁判所第一小法廷昭和61年11月20日判決)。公序良俗違反は規範的要件であるから,評価根拠事実が再抗弁となり,評価障害事実が再々抗弁となる。

3 受遺者の先死並びに相続欠格及び受遺欠格

遺贈は,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときはその効力を生じない(民法994条1項)。この規律は「相続させる」旨の遺言にも及び,遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割方法の指定をした遺言は,当該推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,遺言者が当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り,その効力を生じない(最高裁判所第三小法廷平成23年2月22日判決)。

したがって,受益相続人が先に死亡した事案では,代襲相続を当然の前提とせず,遺言書の他の記載及び作成当時の事情から特段の事情の有無を検討することになる。

相続欠格事由に該当する者は相続人となることができず(同法891条),この規定は受遺者にも準用される(同法965条)から,欠格事由の存在も再抗弁事実となる。

4 証人又は立会人の欠格

遺言の証人又は立会人となることができないのは,①未成年者,②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族,③公証人の配偶者,四親等内の親族,書記及び使用人である(民法974条)。

これらの者が証人として立ち会った場合には方式違反となるが,資格を有する証人2人が立ち会っていれば,そのほかに欠格事由のある者が同席していたとしても,その者によって遺言の内容が左右されたり遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなどの特段の事情がない限り,遺言は無効とならない(最高裁判所第三小法廷平成13年3月27日判決)。同席の事実を指摘するだけでは足りず,同席者が遺言内容の形成に関与した具体的な経緯を主張することが必要になる。

5 撤回及び撤回擬制

遺言者は,いつでも遺言の方式に従って遺言の全部又は一部を撤回することができる(民法1022条)。また,前の遺言が後の遺言と抵触するとき,遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触するとき,遺言者が故意に遺言書を破棄したとき及び遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときは,抵触部分又は破棄部分について遺言を撤回したものとみなされる(同法1023条,1024条)。

自筆証書である遺言書の文面全体に赤色ボールペンで左上から右下にかけて故意に斜線を引く行為は,斜線を引いた後になお元の文字が判読できる場合であっても,同法1024条前段の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するとされている(最高裁判所第二小法廷平成27年11月20日判決)。撤回された遺言は,撤回の行為が更に撤回されても原則として効力を回復しないが(同法1025条本文),遺言者の意思が最初の遺言の復活を希望するものであることが遺言書の記載に照らして明らかなときは,最初の遺言の効力が復活する(最高裁判所第一小法廷平成9年11月13日判決)。

複数の遺言が存在する事案では,後の遺言の遺言能力を争うよりも,撤回擬制によって前の遺言が失効していないかを先に確認する方が筋がよいことがある。

6 共同遺言及び被後見人の遺言の制限

遺言は2人以上の者が同一の証書ですることができず(民法975条),これに違反する遺言は無効である。もっとも,切り離せば2通の別々の遺言書となり得る単純共同遺言については,有効とするのが通説である。

また,被後見人が後見の計算の終了前に後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときはその遺言は無効となるが,直系血族,配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には適用されない(同法966条)。遺言者が成年被後見人であった場合には,事理を弁識する能力を一時回復した時に医師2人以上の立会いの下で遺言がされたこと(同法973条)が問題となり,遺言者が成年被後見人であることを原告が主張したときは,この要件の充足が被告側の主張事項となる。

第5 この分配が実務に及ぼす帰結

1 訴状に無効原因を書くことの意味

請求原因の4つの要件事実のみを記載した訴状では,原告が主張する無効原因が現れず,予想される争点が明らかにならない。そこで,訴状には,項を改めて予想される争点及び訴訟に至る経緯を記載することが適当である。

このとき,方式違反や偽造の主張は,被告が負担する抗弁事実を先取りして争う先行積極否認という位置付けになり,原告に法律上の主張立証責任が生ずるわけではない。他方,遺言能力の欠如を主張する場合は再抗弁を先出ししていることになるから,主張の性質が異なることを意識して書き分けることになる。

2 主張立証の重心の置き方

無効原因ごとに責任の所在が異なることは,証拠計画の優先順位に直結する。方式違反及び証人の欠格は被告が方式適合を立証すべき事項であるから,原告としては公正証書の記載と客観的資料との食い違いを指摘すれば足りる場面が多いのに対し,遺言能力の欠如は原告が評価根拠事実を積み上げなければならないため,医療記録の取得と分析に相応の負担がかかる。

したがって,受任直後は,公証人及び証人の特定と公正証書の取得という低負担の作業を先行させ,方式面で争える余地があるかを確認した上で,遺言能力を主戦場とするかどうかを判断するのが合理的である。

証拠収集の具体的な順序については公正証書遺言の効果的な無効主張方法を,自筆証書遺言に固有の争い方については自筆証書遺言特有の無効主張方法を参照されたい。なお,方式違反によって遺言が無効となる場合であっても,死因贈与として効力を維持する余地があるかは別途検討を要する論点であり,これについては形式不備の遺言は死因贈与として有効かで扱っている。

出典・参考資料

1 法令

民法(明治29年法律第89号)90条,95条,96条,891条,962条,963条,965条,966条,969条,969条の2,973条,974条,975条,985条,994条,1022条から1025条まで(e-Gov法令検索)
公証人法(明治41年法律第53号)35条,37条から40条まで(e-Gov法令検索)
民事訴訟法(平成8年法律第109号)4条1項,5条14号,228条2項(e-Gov法令検索)
家事事件手続法(平成23年法律第52号)244条,257条(e-Gov法令検索)
民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号)45条,46条及び附則(衆議院・制定法律)

2 裁判例

最高裁判所第一小法廷昭和31年10月4日判決(昭和30年(オ)第95号,民集10巻10号1229頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷昭和43年12月20日判決(昭和43年(オ)第298号,民集22巻13号3017頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷昭和47年2月15日判決(昭和43年(オ)第627号,民集26巻1号30頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷昭和51年1月16日判決(昭和50年(オ)第859号,集民117号1頁,家庭裁判月報28巻7号25頁,金融法務事情781号28頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷昭和51年7月19日判決(昭和51年(オ)第17号,民集30巻7号706頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷昭和52年6月14日判決(昭和52年(オ)第185号,集民121号1頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷昭和54年7月5日判決(昭和54年(オ)第20号,集民127号161頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷昭和61年11月20日判決(昭和61年(オ)第946号,民集40巻7号1167頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷昭和62年10月8日判決(昭和58年(オ)第733号,民集41巻7号1471頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷平成9年11月13日判決(平成7年(オ)第1866号,民集51巻10号4144頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷平成10年3月13日判決(平成9年(オ)第218号,集民187号429頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷平成11年6月11日判決(平成7年(オ)第1631号,集民193号369頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷平成13年3月27日判決(平成10年(オ)第1037号,集民201号653頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷平成23年2月22日判決(平成21年(受)第1260号,民集65巻2号699頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷平成27年11月20日判決(平成26年(受)第1458号,民集69巻7号2021頁,裁判所ウェブサイト)
⑯東京地方裁判所平成20年11月13日判決(平成19年(ワ)第15630号,判例時報2032号87頁。裁判所HP未掲載。判例秘書により全文確認)
⑰大阪高等裁判所平成26年11月28日判決(平成26年(ネ)第1105号,平成26年(ネ)第1895号,判例タイムズ1411号92頁,金融・商事判例1467号16頁。裁判所HP未掲載。判例秘書により全文確認)
⑱東京高等裁判所平成27年8月27日判決(平成27年(ネ)第882号,判例時報2352号61頁。裁判所HP未掲載。判例秘書により全文確認)

3 文献

①岡口基一『要件事実マニュアル 第6版 第5巻 家事事件・人事訴訟』(ぎょうせい,2020年)669頁~682頁
②岡口基一『要件事実マニュアル 第6版 第2巻 民法2』(ぎょうせい,2020年)653頁~655頁
③田村洋三=小圷眞史編著『第3版 実務相続関係訴訟-遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル-』(日本加除出版,2020年)255頁~260頁及び274頁~287頁