残業代請求訴訟における仮執行宣言に基づく仮払い後の取扱い


目次

第1 仮払い日以降の遅延損害金は発生しないこと
1 「解除条件付きの弁済」という考え方
2 請求異議訴訟における取扱い
第2 源泉徴収のタイミングは「仮払い日」であること
1 所得の認識時期に関する最高裁の考え方
2 民事上の効力発生日との関係
3 従業員の逆転敗訴が確定した場合の処理
第3 源泉徴収の対象
1 総論
2 残業代の元本(給与所得)
3 遅延損害金(雑所得)
4 付加金(一時所得)
第4 未払残業代を「賞与」として源泉徴収することについて
1 原則的な取扱い
2 実務上許容される取扱い
3 従業員との関係で留意点
4 源泉徴収税額に関する合意が成立しなかった場合の対応
第5 賞与としての源泉徴収の方法
1 計算の前提
2 具体的な計算ステップ(前月の給与支払がない場合)
3 具体的な計算例
第6 その他

* 本ブログ記事はAIの出力内容をベースとしたものです。

第1 仮払い日以降の遅延損害金は発生しないこと

結論として、仮執行宣言付判決に基づく支払(以下「仮払い」という。)が元本に充当される以降、その充当された元本に対する仮払い日以降の遅延損害金は発生しないと解される。

1 「解除条件付きの弁済」という考え方

(1) 仮払いの法的性質を説明する伝統的な考え方に、「解除条件付きの弁済」という考え方が存在する。これは、大審院大正15年4月21日判決にもみられる考え方であり、仮執行宣言付判決に基づく給付は、後日、その本案判決又は仮執行宣言が取り消されることを「解除条件」とするものの、支払われた時点では条件付きながらも有効な弁済の効力を持つと解釈するものである。
この「解除条件付きの弁済」という考え方は、最高裁昭和53年2月24日判決及び最高裁平成24年4月6日判決によっても踏襲されている。

最高裁昭和53年2月24日判決は、「仮執行宣言に基づく金員の給付は解除条件付のものというべきであり、これにより債権者は確定的に金員の取得をするものとはいえないが、債権者は、未確定とはいえ請求権があると判断され執行力を付与された判決に基づき有効に金員を取得し、これを自己の所有として自由に処分することができるのであつて、右金員の取得によりすでに所得が実現されたものとみるのが相当である」と判示している。
また、最高裁平成24年4月6日判決は、「上記の給付がされた事実を控訴審が考慮しなかった結果第1審判決が確定したとしても,上記の給付がされたことにより生じた実体法上の効果は,仮執行宣言が効力を失わないことを条件とするものであり,当該確定判決に基づく強制執行の手続において考慮されるべきことであるから,上記の給付をした者の権利が害されるとはいえない。」と判示している。

つまり、仮払いがなされた時点で、その効果は確定的なものではないものの、実体法上は元本債務の履行遅滞が解消され、それ以降の遅延損害金はもはや生じないという効果が生じるのである。
ただし、この実体法上の効果はあくまで「解除条件付き」のものであるため、控訴審は、仮執行によって給付がされた事実を考慮することなく、請求の当否を判断すべきである。そして、控訴審が給付の事実を考慮しなかった結果として第一審判決が確定した場合、給付によって生じた実体法上の効果は、当該確定判決に基づく強制執行の手続において考慮されるべきことになる。
具体的には、既に仮払いされている分について重ねて強制執行をすることは許されず、仮に執行が申し立てられたとしても、債務者は「請求異議の訴え」(民事執行法35条)を提起することによってその執行を阻止できる、という形で法的調整が図られる。

(2) このように、仮払いは、本案判決又は仮執行宣言が上級審で取り消されることを解除条件とする、条件付きの弁済としての性質を有する。そして、その条件が成就しない限り(すなわち第一審判決が確定する限り)、遅延損害金の発生を止める実体法上の効果が維持されるのである。逆に条件が成就すれば(第一審判決が覆れば)、給付した金員の返還を求めることが可能となる(民事訴訟法260条2項)。

実際、最高裁平成24年4月6日判決の調査官解説では、「大審院及び最高裁の各先例を踏まえると,仮執行による給付であっても実体法上の効果が生ずるのであり,ただ当該効果は確定的なものではなくて解除条件付きであることから,控訴審は訴訟手続上その事実を考慮することができないというものにすぎない。」と明記されている。

(3) 控訴審判決後,仮執行宣言に基づき損害賠償金を供託した東京電力ホールディングスが提起した請求異議訴訟に関する東京地裁令和3年8月30日判決(判例秘書掲載)の判例評釈である「債務の存在を争いつつ行った弁済の受領の催告について、債務の本旨に従った弁済の提供と認められた事例」には「判例と通説は、(山中注:判決確定時に初めて弁済の効力を発生させる)弁済効力否定説を採り」と書いてあるものの,そこでいうところの「判例」が何であるかは不明である。

2 請求異議訴訟における取扱い

前述の通り、控訴審では仮払いの事実は考慮されないため、控訴審判決の主文上は、既に支払われた部分も含めて支払を命じる内容となることがある。しかし、だからといって二重払いを強いられるわけではない。
この実体法上の弁済の効果は、判決確定後の強制執行手続の段階で主張することになる。具体的には、債権者が既に仮払いを受けた部分について重ねて強制執行をしてきた場合、債務者は請求異議の訴え(民事執行法35条)を提起し、その強制執行を排除することができる。
仮払いの事実は口頭弁論終結前の事由であるが、その効果が確定的になるのは判決確定後であり、かつ、訴訟手続上はその事実を主張することができなかったため、請求異議事由として主張することが認められている。

実際、最高裁平成24年4月6日判決の調査官解説では、「仮執行による給付の効果はあくまでも解除条件付きのものにすぎず,これが確定的になるのは当該判決の確定という口頭弁論終結時後のことであって,実体法上の効果が確定的に生ずるまでは当該訴訟手続上は考慮することができなかったのであるから,その後の請求異議手続においては異議事由になると解することができる。」と明記されている。

第2 源泉徴収のタイミングは「仮払い日」であること

次に、源泉徴収をいつ行うべきかという点について述べる。結論として、源泉徴収は「仮執行宣言に基づき支払を受けた日(仮払い日)」に行うべきと思われる。この見解は、最高裁判所の判例(最高裁昭和53年2月24日判決)に沿った考え方である。

1 所得の認識時期に関する最高裁の考え方

税務上の所得は、原則としてその収入を得る権利が確定した時点(権利確定主義)で認識される。
しかし、第4・2で詳述するとおり、最高裁昭和53年2月24日判決は、仮執行宣言に基づく支払のように、将来その返還を求められる可能性があったとしても、「現実の利得」に着目し、「現実に金員を受領して自由に費消できる状態」になったのであれば、その受領した時点で所得は実現したものとみなすべき、と判断した。

これは、たとえ民事上は「解除条件付き」の給付であっても、受領者がその金銭を現実に支配・管理し、利得しているという実態を重視する、実質的な所得概念に基づく考え方である。

したがって、会社(支払者)は、従業員に仮払いを行うその時点で、給与所得として所得税を源泉徴収する義務を負うといえる。そして、従業員(受給者)にとっては、その支払を受けた日の属する年分の給与所得となる。

2 民事上の効力発生日との関係

結果として、民事上の弁済の効力が生じて遅延損害金の発生が止まる日と、税務上の所得が実現して源泉徴収義務が生じる日は、いずれも「仮払い日」となり、両者に矛盾は生じない。
これは、それぞれの法分野の論理に基づいた結論が、一致したものである。

3 従業員の逆転敗訴が確定した場合の処理

万が一、上級審で判決が覆り、従業員の敗訴が確定した場合は、事後的に調整が行われる。
具体的には、まず従業員は会社に対し、受け取った金銭(源泉徴収される前の総額)を不当利得として返還した上で、従業員は税務署に対し「更正の請求」という手続きを行い、仮払いを受けた年分について納め過ぎた税金の還付を受けることになる(最高裁昭和53年2月24日判決参照)。

このような「更正の請求」という事後的な救済手続きが用意されていることからも、一度は有効に所得として認識・課税された後、事後的にその所得の根拠が消滅した、という状況を税法が想定していることがわかる。これは、課税のタイミングが仮払い日であることを前提とする考え方と整合する。

第3 源泉徴収の対象
1 総論
労働審判や労働訴訟を経て未払残業代が支払われる場合、会社が支払う金銭には、①残業代の元本及び②遅延損害金のほか、③付加金が含まれることがある。これらのうち、所得税の源泉徴収義務の対象となるのは、①残業代の元本部分のみである。

2 残業代の元本(給与所得)

残業代の元本部分は、時間外労働という労務提供の対価そのものであり、所得税法上の「給与所得」(所得税法28条1項)に明確に該当する。したがって、支払者である会社は、これを支払う際に所得税を源泉徴収する義務を負う(所得税法204条1項)。

本来であれば、残業代が発生した各月の給与として所得計算を行い、年末調整も遡ってやり直すのが税法上の厳密な原則となる。しかし、その事務負担の煩雑さから、実務上は後述する第4・2で詳述するように、支払う年の「賞与」として一括で処理する方法も採用されている。

3 遅延損害金(雑所得)

遅延損害金は、残業代の支払が遅れたことによって生じた損害を賠償する性質の金銭であり、労働の対価ではないから、給与所得には該当しないし、所得税法上の非課税所得にもあたらない。

これは遅延しているという継続的行為に起因した利息に相当するものであり、他の所得のいずれにも該当しないことから、実務上「雑所得」(所得税法35条)として扱われるのが一般的である(国税不服審判所平成22年4月22日裁決参照)。

雑所得は給与所得とは異なり、支払者による源泉徴収の対象とはなっていないから、会社は遅延損害金の支払時に源泉徴収を行う必要はない。この所得については、支払を受けた従業員本人が、翌年の確定申告で自ら申告する必要がある点に注意が必要である。

4 付加金(一時所得)

付加金は、労働基準法114条に基づき、裁判所が悪質な法違反を犯した使用者に対し、未払残業代元本と同額を上限として追加で支払を命じる一種の制裁金であり、判決確定時に発生するものである。これも労働の対価ではないため、給与所得にはあたらない。

この付加金については、所得税基本通達34-1(3)において「一時所得」に該当するものと明確にされている。一時所得も源泉徴収の対象外であるため、会社は源泉徴収をする必要はなく、遅延損害金と同様に、従業員自身が確定申告で処理することになる。

第4 未払残業代を「賞与」として源泉徴収することについて

次に、未払残業代の元本部分を、仮執行宣言に基づき支払う際に「賞与」として源泉徴収することの可否について論じる。結論として、これは税法上の厳密な定義とは異なる場合があるものの、所得税基本通達にも整合しうる、実務上も許容される合理的な取扱いである。
なお、 強制執行により給与等の回収を受ける場合であっても源泉徴収義務を負う(最高裁平成23年3月22日判決)ことからすれば、源泉徴収をしないという選択肢は取り得ない。

1 原則的な取扱い

未払残業代は本来支払われるべきであった各月の給与の一部であるから、所得税法上、その性質は当然に「給与所得」に該当するのであって,退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与としての退職手当等(所得税基本通達30-1)に該当する余地はない。
したがって、課税時期も本来の給与支払日と考えるのが税法上の原則となる。

2 実務上許容される取扱い

(1) 仮執行宣言に基づく仮払い時に一括で所得認識することの合理性
過去数年分にわたる未払残業代を一括で支払う場合、税務上の厳密な原則、すなわち本来の帰属年月(各給与支払日)に遡って所得税の再計算及び年末調整のやり直しを行うこと(所得税基本通達36-9(1)のほか,国税庁HP「過去に遡及して残業手当を支払った場合」参照)は、使用者及び従業員の双方にとって手続きが極めて煩雑であり、現実的ではない。
また、所得税基本通達は上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎないから、一般の国民が直接これに拘束されるわけでもない(最高裁昭和43年12月24日判決のほか,財産評価基本通達に関する最高裁令和4年4月19日判決参照)。

そもそも、このように過去の未払分を訴訟等を経て一括で受け取る場合、いつの所得として課税されるのかという「収入の帰属時期」が根本的な問題となる。
所得税法では、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして右権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという所得税法における権利確定主義が採用されている(最高裁昭和49年3月8日判決)。
また、最高裁昭和53年2月24日判決は,「賃料増額請求が争われた場合における増額分の賃料は、原則として、その債権の存在を認める裁判が確定した日の属する年分の所得の計算上収入金額に算入されるべきである。」と判示している。なぜなら、「賃料増額の効力は賃料増額請求の意思表示が相手方に到達した時に客観的に相当な額において生ずるものであるが、貸借人がそれを争つた場合には、増額賃料債権の存在を認める裁判が確定するまでは、増額すべき事情があるかどうか、客観的に相当な賃料額がどれほどであるかを正確に判断することは困難であり、したがつて、賃貸人である納税者に増額賃料に関し確定申告及び納税を強いることは相当でなく、課税庁に独自の立場でその認定をさせることも相当ではない」からである。
未払残業代請求の場合、残業代は毎月の給料支払時に客観的に生ずるものであるが、使用者が残業代の金額を争った場合、未払残業代の金額を認定する裁判が確定するまでは、未払残業代がどれほどであるかを正確に判断することは困難である点で賃料増額請求の場合と類似するといえる。
それゆえ、過去の未払分を確定判決に基づいて一括で受け取る場合、敗訴判決が確定した年の一時金として一括で処理することも許容されるといえる。

また、最高裁昭和53年2月24日判決は、「賃料増額請求にかかる増額分の賃料の支払を命じた仮執行宣言付判決に基づき支払を受けた金員は、その受領の日の属する年分の所得の計算上収入金額に算入されるべきである。」と判示している。なぜなら,「仮執行宣言付判決は上級審において取消変更の可能性がないわけではなく、その意味において仮執行宣言に基づく金員の給付は解除条件付のものというべきであり、これにより債権者は確定的に金員の取得をするものとはいえないが、債権者は、未確定とはいえ請求権があると判断され執行力を付与された判決に基づき有効に金員を取得し、これを自己の所有として自由に処分することができるのであつて、右金員の取得によりすでに所得が実現されたものとみるのが相当である」からである。
未払残業代請求の場合、従業員は、未確定とはいえ未払残業代があると判断され執行力を付与された判決に基づき有効に金員を取得している点で賃料増額請求の場合と類似するといえる。
それゆえ、過去の未払分を仮執行宣言に基づいて一括で受け取る場合、支払われた年の一時金として一括で処理することも許容されるといえる。

(2) 賞与として税額計算することの合理性
この一時金から源泉徴収すべき税額の計算方法が問題となる。仮に、この一時金を支払月の「月々の給与」に単純に合算して税額を計算すると、所得税の累進税率が適用される結果、当該月のみに不相当に高い税率が適用され、従業員の税負担が一時的に過大なものとなりかねない。

そこで、この税負担の急増という問題を回避し、より実態に即した合理的な計算を行うため、「賞与」として処理する手法も採用されている。この点、所得税基本通達183-1の2は、賞与に該当しうるものとして「ロ あらかじめ支給額又は支給基準の定めのないもの」や「ハ あらかじめ支給期の定めのないもの」を例示している。訴訟等を経て事後的に金額及び支払時期が確定する未払残業代の一括払いは、まさにこの性質を有するものと解釈できる。したがって、毎月定額で支払われる定期給与とは性質を異にする臨時的・一時的な金銭という点で、賞与として取り扱うことには税法上も十分な合理性がある。

以上の理由から、支払時の所得として一括処理し、さらにそれを賞与に対する源泉徴収税額の算出方法で計算することが、課税の公平及び徴収手続の簡便性の観点から合理的な方法として許容されるといえる。

3 従業員との関係での留意点

この方法を採る際は、以下の点に留意すべきである。

① 従業員への説明:
従業員に対し、当該支払が本来は過去の各月の給与であるものの、現実的な税務処理の便宜上「賞与」として源泉徴収を行う旨を丁寧に説明しておくことは、後の誤解や紛争を避ける上で極めて重要である。

② 確定申告の案内:
賞与としての源泉徴収は、あくまで便宜的な源泉徴収の計算方法であり、必ずしも最終的な年税額と一致するわけではない。そのため、従業員本人が確定申告を行うことにより、より実態に即した年税額に精算・調整される可能性がある旨を案内することが望ましい。
また、確定申告には、支払後に交付する「給与所得の源泉徴収票」が必要となることも併せて伝えておくべきである。

4 源泉徴収税額に関する合意が成立しなかった場合の対応

この場合、不一致部分について強制執行を受ける可能性がある(最高裁平成4年2月18日判決)ことにかんがみ、従業員が同意する限度で源泉徴収税額を差し引いた金額を仮払いせざるを得ない。
そして、徴収をしていなかった源泉所得税に相当する金額、つまり、正しい源泉徴収税額との差額については、所得税法222条に基づき、源泉所得税を納付した後に従業員に請求することとなる(最高裁平成23年3月22日判決参照)。

第5 賞与としての源泉徴収の方法

前項で述べた通り、仮払いとして未払残業代一括で支払う場合は「賞与」とみなして源泉徴収を行うのが実務的である。ここでは、具体的な税額の計算手順と注意点を解説する。

1 計算の前提

源泉徴収税額の計算は、「給与所得者の扶養控除等申告書」(所得税法194条8項)が提出されているか否かで適用される税額表の欄(甲欄か乙欄か)が変わる(賞与以外の給与につき所得税法185条1項各号,賞与につき所得税法186条1項各号)。支払相手が既に退職している元従業員の場合、所得税法基本通達194・195-6により、退職時にこの申告書の効力は失われているとされるため、「その退職後その年中に当該支払者がその退職した者に給与等の追加払等をする場合」でない限り、税率が高い「乙欄」を適用して計算することになる。

また、社会保険料は在職中の被保険者に支払われる給与や賞与から控除される。一括で残業代を支払う時点で元従業員が既に退職している場合、社会保険の被保険者資格を喪失しているため、支払額から社会保険料を控除する必要はない。

したがって、課税対象額は支払額そのものとなる(なお、在職中の従業員に支払う場合は、社会保険料の控除が必要となる点に注意が必要である。)。

2 具体的な計算ステップ(前月の給与支払がない場合)

(1) 退職した元従業員のように前月の給与支払がない場合、所得税法186条1項2号ロ及び国税庁タックスアンサー2523「賞与に対する源泉徴収」に基づき、以下の3ステップで計算する。

ステップ1:支払額を「計算期間の月数」で割り、みなし月給を算出する
支払額(社会保険料控除前の金額)を、その算定基礎期間の月数で割る。このとき、計算の基礎となる期間が6ヶ月を超える場合は「12」で、6ヶ月以内の場合は「6」で割る。

ステップ2:みなし月給を「源泉徴収税額表(月額表)」の乙欄に当てはめ、1か月分の税額を求める
ステップ1で算出した金額を、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」の「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」に当てはめ、乙欄に記載された税額を求める。

ステップ3:ステップ2で求めた税額に「計算期間の月数」を掛けて、最終税額を算出する
ステップ2で求めた1ヶ月分の税額に、ステップ1で用いた月数(「6」または「12」)を掛ける。この金額が、源泉徴収すべき最終的な税額となる。

(2)ア 源泉徴収税額表につき,令和2年分から令和7年分までの間は同じ内容である(国税庁HPの「令和7年分 源泉徴収税額表」の「令和2年1月以後「税額」は改正されていません。 」参照)。
イ 国税庁の「令和7年版 源泉徴収のあらまし」「第2 給与所得の源泉徴収事務」97頁(PDF85頁)には「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出していない人に賞与を支払う場合、月額表の乙欄を使用すること以外は、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人の場合と同じであると記載されている。

3 具体的な計算例

① 支払額 50万円、対象期間 6ヶ月の場合

ステップ1:支払額を「計算期間の月数」で割り、みなし月給を算出する
対象期間が6ヶ月以内のため「6」で割る。
500,000円 ÷ 6 = 83,333円 (1円未満切捨て)

ステップ2:みなし月給を「源泉徴収税額表(月額表)」の乙欄に当てはめ、1か月分の税額を求める
「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」の乙欄で、83,333円が該当する「88,000円未満」の行を確認する。令和7年分の税額表では、この区分は「給与等の金額×3.063%」で計算される。
83,333円 × 3.063% = 2,552円 (1円未満切捨て)

ステップ3:ステップ2で求めた税額に「計算期間の月数」を掛けて、最終税額を算出する
ステップ1と同様、乗数も「6」を用いる。
2,552円 × 6 = 15,312円

以上の計算により、このケースでの源泉徴収税額は15,312円となる。

② 支払額 100万円、対象期間 12ヶ月の場合

ステップ1:支払額を「計算期間の月数」で割り、みなし月給を算出する
対象期間が6ヶ月を超えるため「12」で割る。
1,000,000円 ÷ 12 = 83,333円 (1円未満切捨て)

ステップ2:みなし月給を「源泉徴収税額表(月額表)」の乙欄に当てはめ、1か月分の税額を求める
「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」の乙欄で、83,333円が該当する「88,000円未満」の行を確認する。令和7年分の税額表では、この区分は「給与等の金額×3.063%」で計算される。
83,333円 × 3.063% = 2,552円 (1円未満切捨て)

ステップ3:ステップ2で求めた税額に「計算期間の月数」を掛けて、最終税額を算出する
2,552円 × 12 = 30,624円

以上の計算により、このケースでの源泉徴収税額は30,624円となる。

③ 支払額 400万円、対象期間 24ヶ月の場合

ステップ1:支払額を「計算期間の月数」で割り、みなし月給を算出する
対象期間が6ヶ月を超えるため、24ヶ月であっても法律の規定どおり「12」で割る。
4,000,000円 ÷ 12 = 333,333円 (1円未満切捨て)

ステップ2:みなし月給を「源泉徴収税額表(月額表)」の乙欄に当てはめ、1か月分の税額を求める
「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」の乙欄で、333,333円が該当する行を確認する。令和7年分の税額表では「332,000円以上335,000円未満」の行に該当し、税額は55,200円となる。

ステップ3:ステップ2で求めた税額に「計算期間の月数」を掛けて、最終税額を算出する
ステップ1と同様、乗数も「12」を用いる。
55,200円 × 12 = 662,400円

以上の計算により、このケースでの源泉徴収税額は662,400円となる。

④ 支払額1100万円、対象期間30ヶ月の場合(解雇無効訴訟で使用者側が敗訴したようなケースである。)

ステップ1:支払額を「計算期間の月数」で割り、みなし月給を算出する
対象期間が6ヶ月を超えるため、30ヶ月であっても法律の規定どおり「12」で割る。
11,000,000円 ÷ 12 = 916,666円 (1円未満切捨て)

ステップ2:みなし月給を「源泉徴収税額表(月額表)」の乙欄に当てはめ、1か月分の税額を求める
「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」の乙欄で、916,666円が該当する行を確認します。令和7年分の税額表では「915,000円以上920,000円未満」の行に該当し、税額は214,400円となる。

ステップ3:ステップ2で求めた税額に「計算期間の月数」を掛けて、最終税額を算出する
ステップ1と同様、乗数も「12」を用いる。
214,400円 × 12 = 2,572,800円

以上の計算により、このケースでの源泉徴収税額は2,572,800円となる。

第6 その他

未払い残業代を賞与として支払った場合、過去の社会保険料及び労働保険料の修正は不要であるし、法人税法との関係では支払った月の属する期の損金となる(みらいコンサルティンググループHP「未払い残業代の行政指導を受けて遡及払いを行う場合の税・社会保険料等の取り扱い」参照)。


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