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後見監督人とは――選任基準,職務,責任及び令和8年改正による制度再編(AI作成)

第1 後見監督人とは何か

1 この記事が扱う範囲と時点

後見監督人とは,家庭裁判所が後見人(成年後見人又は未成年後見人)の事務を監督させるために選任する者であり,民法849条から852条までにその選任,欠格事由,職務及び準用規定が定められている。同様の仕組みは,保佐人を監督する保佐監督人(民法876条の3),補助人を監督する補助監督人(民法876条の8),任意後見人を監督する任意後見監督人(任意後見契約に関する法律4条以下)にも及んでおり,これらを合わせて広い意味での「後見監督人等」と呼ぶことがある。本記事は,令和8年8月9日現在で施行されている民法,任意後見契約に関する法律及び家事事件手続法の条文,裁判所ウェブサイト及び判例秘書で内容を確認した裁判例,最高裁判所事務総局家庭局が公表する統計,国立国会図書館国会会議録検索システムで確認した国会答弁並びに法務省が公表した新旧対照条文を,生成AIを用いて収集及び照合した上で構成するものである。

後見監督人が家庭裁判所によって現に選任されるのは,全体の一部の事案にとどまる。この記事は,成年後見監督人を中心に,保佐監督人,補助監督人及び任意後見監督人の異同,選任される事案の傾向,職務と権限の内容,監督人自身が負う責任,そして令和8年に成立した民法等改正(令和8年法律第45号)がこの制度をどのように作り替えようとしているかを整理する。個別の後見開始手続や後見人の選び方については別稿に譲り,本記事は監督人の制度に対象を絞る。

2 後見監督人,保佐監督人,補助監督人及び任意後見監督人の関係

現行の成年後見制度は,事理弁識能力の程度に応じて後見,保佐,補助の3類型に分かれ,これに本人の判断能力が十分なうちに将来の後見人を自ら選んでおく任意後見契約が加わる4本立ての構造になっている。後見監督人は後見人(未成年後見人を含む)を,保佐監督人は保佐人を,補助監督人は補助人を,任意後見監督人は任意後見人を,それぞれ監督する。保佐監督人及び補助監督人は,平成11年の民法改正(禁治産及び準禁治産の制度を廃止し補助及び保佐の制度を新設した改正で,平成12年4月1日に施行された)によって新設された制度であり,それ以前は監督機関としての監督人は後見監督人しか存在しなかった。

4種類の監督人は,選任の要件,準用される条文の範囲及び利益相反行為における権限の内容においていずれも共通する部分と異なる部分を持つ。共通する部分は第3章で,異なる部分は第6章及び第7章で扱う。

第2 選任の基準と実務の運用

1 条文上の選任基準

民法849条は,「家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被後見人,その親族若しくは後見人の請求により又は職権で,後見監督人を選任することができる」と定める。すなわち後見監督人は,後見開始の審判に伴って必ず置かれる機関ではなく,家庭裁判所が個別の事案ごとに必要性を判断して選任するかどうかを決める任意的な機関である。保佐監督人(民法876条の3第1項)及び補助監督人(民法876条の8第1項)の選任要件も同じ文言で規定されている。

後見監督人となる者には欠格事由があり,後見人の配偶者,直系血族及び兄弟姉妹は後見監督人となることができない(民法850条)。これは,後見人と近親関係にある者を監督人に選んでも実効的な監督が期待できないという趣旨に基づく。

2 選任される事案の実情

家庭裁判所が後見監督人の選任を必要と判断する典型的な場面について,大阪弁護士会が編集した実務書は,管理する財産が多額かつ複雑である事案,遺産分割協議や不動産売買など後見事務が複雑になる法律行為が予定されている事案,及び財産管理を巡って親族間に紛争がある又は生ずるおそれがある事案を挙げている。大阪家庭裁判所の運用では,財産管理の終了まで専門職監督人が付き続ける「継続管理型」と,特定の課題の解決のためだけに短期間で監督人を付す「スポット型」という2つの類型が実務上使い分けられてきたとされ,これに加えて令和4年2月からは,親族後見人の候補者がいる事案のうち本人の流動資産がおおむね500万円以上であるものを対象に,専門職監督人が選任後9か月間,親族後見人への支援と監督を一体的に行う「総合支援型後見監督人」という運用が大阪家庭裁判所で開始されている。

東京家庭裁判所の後見センターが公表する実務案内は,後見人ではなく後見監督人として専門職を選任する判断要素として,賃料収入等の事業収入がある場合,本人の流動資産が多い場合(流動資産が数千万円を超える事例では専門職後見監督人の選任が多くなる傾向があるとする),後見人候補者が財産運用を考えている場合,財産状況が不明確な場合,後見人候補者と本人との間で家計の混同がある場合及び後見人候補者が後見事務を行えないリスクがある場合を列挙している。

3 選任率の低さという構造的な課題

最高裁判所事務総局家庭局が公表する「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」(令和8年3月公表)によれば,同年に認容で終局した後見開始,保佐開始及び補助開始事件(合計3万9860件)のうち,成年後見監督人,保佐監督人又は補助監督人(同資料は「成年後見監督人等」と総称する)が選任されたのは1375件であり,全体のわずか約3.4パーセントにとどまる(前年も約3.4パーセントで大きな変動はない)。内訳は,弁護士が726件(52.8パーセント),司法書士が474件(34.5パーセント),社会福祉士が8件(0.6パーセント),社会福祉協議会が121件(8.8パーセント),税理士が0件,その他が46件(3.3パーセント)である。

この選任率の低さは,制度創設当初からの課題である。平成11年の民法改正(保佐監督人及び補助監督人を新設した改正)の国会審議において,細川清法務省民事局長は,従来は監督人の制度としては後見監督人しか存在しなかったところ,改正案では成年後見監督人に加えて保佐監督人及び補助監督人の制度を新設したこと,従来は監督人に報酬を付与することができるという規定がなかったためこれが適切な人を得ることを難しくしていたと指摘されていたことを答弁している(平成11年11月18日参議院法務委員会)。同じ日の審議で,安倍嘉人最高裁判所事務総局家庭局長は,小川敏夫委員の質問に対し,「後見監督人を選任する事案は従来は比較的少なかった」,その理由の一つとして「現行制度のもとにおきましては後見監督人に報酬が支払えないということになっていることから,なかなか人を得がたいという問題があった」と答弁している。改正によって報酬を付与できる規定が整った後も,選任率が約3.4パーセントにとどまっている現状は,制度創設時に指摘された課題が形を変えて残り続けていることを示している。

第3 後見監督人の職務と権限

1 後見人の事務の監督及び後任選任の請求

後見監督人の職務は,民法851条に列挙されている。第1に後見人の事務を監督すること,第2に後見人が欠けた場合に遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求することである。後見監督人及び家庭裁判所は,いつでも後見人に対して後見事務の報告若しくは財産目録の提出を求め,又は後見事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができ(民法863条1項),家庭裁判所は,後見監督人の請求により又は職権で,被後見人の財産管理その他後見事務について必要な処分を命ずることができる(同条2項)。後見人が財産の調査及び目録の作成を行う際には,後見監督人があるときはその立会いをもってしなければ効力を生じない(民法853条2項)。

2 同意権とこれを欠く行為の取消し

後見人が被後見人に代わって営業をし,又は民法13条1項各号に掲げる行為(不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為,訴訟行為,贈与,和解又は仲裁合意,相続の承認若しくは放棄又は遺産分割,贈与の申込みの拒絶や遺贈の放棄など)をするには,後見監督人があるときはその同意を得なければならない(民法864条本文)。ただし,元本の領収については同意を要しない(同条ただし書)。後見人がこの同意を得ずに行った行為,又は後見監督人が同意を与えた行為であっても,被後見人又は後見人はこれを取り消すことができる(民法865条1項)。

後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲り受けた場合には,被後見人はこれを取り消すことができる(民法866条1項)。最高裁判所は,被後見人の財産等を後見人が譲り受ける行為について後見監督人が被後見人を代理した場合又は親族会の同意があった場合でも,被後見人はこの取消権を失わないと判示している(最高裁判所昭和38年10月10日判決,昭和35年(オ)第1086号,集民68号317頁)。後見監督人による代理や関与があったからといって取消権が失われるわけではないという点は,現行法の下でも変わらない。

3 利益相反行為における被後見人の代表

後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為については,後見監督人があるときは,後見監督人が被後見人を代表する(民法851条4号)。後見監督人がない場合には,後見人は特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならないが(民法860条本文,826条),後見監督人が選任されている場合にはこの特別代理人選任の手続を経る必要がない(同条ただし書)。遺産分割協議において後見人自身も相続人であるため被後見人との間に利益相反が生ずる場面が,この規定が実際に働く典型例である。

4 急迫の事情がある場合の処分

後見人が病気や一時的な不在などの理由で後見事務を行うことができず,被害を防ぐために緊急の措置(時効の中断,差押え,倒壊のおそれがある家屋の修繕,被後見人に不利益な契約についての取消権の行使など)を要する場合には,後見監督人が必要な処分をすることができる(民法851条3号)。急迫の事情がないのに,又は必要の限度を超えて後見監督人が処分をした場合の法的評価については,無権代理行為と解し本人の追認がない限り後見監督人が相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負うとする見解と,第三者との関係では有効とした上で判断の誤りが善管注意義務違反にあたるときに限り本人に対して賠償責任を負うとする見解とが対立しており,実務上確立した到達点があるとまではいえない。

第4 報酬,辞任及び解任

1 報酬

家庭裁判所は,後見人及び被後見人の資力その他の事情によって,被後見人の財産の中から相当な報酬を後見人に与えることができ(民法862条),この規定は852条により後見監督人にも準用される。大阪家庭裁判所が公表する「成年後見人等の報酬額のめやす」(令和7年4月改訂)は,成年後見監督人の基本報酬について,管理財産額が5000万円以下の場合は月額1万円から2万円,5000万円を超える場合は月額2万5000円から3万円をめやすとし,保佐監督人,補助監督人及び任意後見監督人についても同様であるとしている。ただし,同資料は,前記の大阪家庭裁判所独自の「総合支援型後見監督人」の報酬についてはこのめやすの限りではないと注記している。報酬の算定基準の詳細及び最高裁判所が示す平均額については,別稿「成年後見人等の報酬額の目安」で扱っているので参照されたい。

2 辞任

後見監督人は,正当な事由があるときは,家庭裁判所の許可を得てその任務を辞することができる(民法844条,852条)。専門職が後見監督人に選任された事案において関与の必要性が消滅したと判断される場合には,辞任許可の申立てがされる運用があり,後見監督人が辞任すると,それまで監督を受けていた親族後見人は,以後は家庭裁判所による直接の監督に服することになる。

3 解任

後見監督人に不正な行為,著しい不行跡その他任務に適しない事由があるときは,家庭裁判所は,被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で,これを解任することができる(民法846条,852条)。財産の調査及び目録の作成に立ち会うべき職務上の権限を持つ後見監督人が,後見人から立会いを要求されたにもかかわらずこれに応じない場合は,解任事由の一つになり得ると解されているが,後見人自身には後見監督人に対する解任請求権がないというのが実務の到達点である。広島高等裁判所岡山支部は,後見監督人解任の審判に対する即時抗告事件において,「後見人は,後見監督人に対する解任請求権を有しない」と判示している(広島高等裁判所岡山支部第二部昭和36年7月14日決定,昭和36年(ラ)第13号,高裁判例集14巻5号327頁)。

なお,後見監督人選任の申立てを却下する審判に対する不服申立ての可否についても最高裁判所の先例がある。旧家事審判法の下での事案であるが,最高裁判所は,後見監督人選任申立却下の審判に対して不服申立ての途を認めない当時の家事審判法及び家事審判規則の規定は憲法32条に違反しないと判示している(最高裁判所昭和32年10月23日決定,昭和32年(ク)第215号,原審・大阪高等裁判所昭和32年7月4日決定)。現行の家事事件手続法123条も,成年後見監督人の解任審判及びその却下審判に対する即時抗告は定めているものの,成年後見監督人選任の申立てを却下する審判に対する即時抗告は定めておらず,この先例が示した枠組みは現行法の構造にも引き継がれている。

また,後見監督人を選任する審判の効力発生時期についても最高裁判所の判断がある。最高裁判所は,後見監督人を選任する審判は告知によって効力を生じ,就職の届出によって効力を生ずるものではないと判示している(最高裁判所昭和38年11月28日判決,昭和36年(オ)第764号,原審・仙台高等裁判所昭和36年5月2日判決)。

第5 後見監督人自身の善管注意義務違反責任

1 大阪地方裁判所堺支部判決の事案と判断

後見監督人には,民法644条(852条により準用)の規定により,善良な管理者の注意をもって職務を行う義務(善管注意義務)が課される。この義務の違反を理由として後見監督人自身の損害賠償責任を認めた裁判例として,大阪地方裁判所堺支部の判決がある(平成25年3月14日判決,平成22年(ワ)第2795号・平成23年(ワ)第1836号,損害賠償請求事件(甲事件)・保険金請求事件(乙事件),訟務月報60巻4号738頁,金融・商事判例1417号22頁)。同判決は裁判所ウェブサイトには掲載されておらず,判例秘書(判例番号L06850130)で全文を確認した。

同判決の事案は,成年後見人らが成年被後見人の預貯金を着服横領したというものであり,これに対して選任されていた後見監督人(弁護士)が,選任後に一件記録の謄写をしたのみで,その後3年5か月弱にわたって成年後見人らによる財産管理の状況を把握していなかった。判決は,「後見監督人が,後見監督人に選任された後,一件記録の謄写をしただけで,成年後見人らによる成年被後見人の財産管理の状況を把握せず,その間に成年後見人らによって多額の金銭が横領されたと認められる判示の事実関係の下においては,後見監督人としての善管注意義務違反により,成年被後見人に生じた損害について賠償すべき責任を負う」と判示し,後見監督人であった被告に4094万1404円の支払を命じた。同判決はあわせて,この後見監督人が加入していた弁護士賠償責任保険の保険会社に対する保険金請求についても,保険会社の免責を認めず,保険金の支払を命じている。成年後見人による横領の民事及び刑事上の責任の枠組みについては,別稿「成年後見人による横領──親族後見人と第三者後見人の比較を中心に」で扱っており,本判決は後見監督人自身の責任という別の角度からこれを補うものである。

2 家庭裁判所の後見監督懈怠責任との違い

後見監督人自身の善管注意義務違反責任とは別に,後見人の選任及び監督に当たった家庭裁判所(家事審判官)自身の国家賠償責任が問題になった裁判例もある。広島高等裁判所は,知的障害のある親族後見人が被後見人の預金約3794万円余りを横領した事案において,家事審判官の選任及び後見監督が国家賠償法1条1項の適用上違法となるのは,「具体的事情の下において,家事審判官に与えられた権限を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合に限られる」との基準を示した上で,横領を認識しながら更なる横領を防止する適切な監督処分をしなかったことがこの基準に該当するとして,国に対し231万円の支払を命じた(広島高等裁判所第4部平成24年2月20日判決,平成22年(ネ)第450号,原審・広島地方裁判所福山支部平成21年(ワ)第252号)。同種の枠組みで家事審判官の職務執行の違法を判断した裁判例として,京都地方裁判所の判決もある(京都地方裁判所第3民事部平成30年1月10日判決,平成27年(ワ)第2090号,国家賠償請求事件)。

大阪地方裁判所堺支部の判決も,同じ事件の中で家事審判官の国家賠償責任について判断しており,「具体的事情の下において,家事審判官に与えられた権限が逸脱されて著しく合理性を欠くと認められる場合に限られる」という同種の基準を示した上で,本件では国家賠償責任を否定している。すなわち,後見監督人自身の善管注意義務違反責任は比較的認められやすいのに対し,これを選任し監督する家庭裁判所の国家賠償責任は,家事審判官の権限行使が「著しく合理性を欠く」と認められる場合に限って認められるという,二段階の異なる基準が下級審裁判例の到達点として観察される。

第6 保佐監督人及び補助監督人との異同

保佐監督人及び補助監督人は,選任の要件(「必要があると認めるとき」に家庭裁判所が請求又は職権で選任する)及び準用される主要な条文(644条,654条,655条,843条4項,844条,846条,847条,850条,851条,859条の2,859条の3,861条2項,862条)において,成年後見監督人とほぼ共通する規律に服する(民法876条の3,876条の8)。もっとも,次の2点で成年後見監督人とは異なる。

第1に,利益相反行為における権限の内容である。成年後見監督人は,利益相反行為について常に被後見人を「代表」するのに対し,保佐監督人及び補助監督人は,本人を「代表」する場合と,本人がその行為をすることに「同意」する場合の両方があり得る(民法851条4号にいう「被後見人を代表する」が,保佐監督人については「被保佐人を代表し,又は被保佐人がこれをすることに同意する」と読み替えられる。補助監督人についても同様)。これは,保佐人及び補助人の権限が,包括的な代理権を持つ成年後見人とは異なり,個別の審判によって付与された代理権又は同意権の範囲に限定されていることに対応する。保佐監督人及び補助監督人の権限は,保佐人又は補助人に付与された代理権又は同意権の範囲を超えては及ばないと解されている。

第2に,864条の同意権が保佐監督人及び補助監督人には準用されていない。成年後見人が民法13条1項各号の行為をするには成年後見監督人の同意を要するのに対し,保佐監督人及び補助監督人にはこれに相当する同意権の規定が置かれていない。

第7 任意後見監督人

任意後見契約は,本人の判断能力が十分なうちに,将来判断能力が不十分になった場合に備えて任意後見受任者との間で結んでおく委任契約であり,任意後見契約に関する法律2条により,任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずると定められている。すなわち任意後見監督人の選任は,単なる監督機関の付加ではなく,契約そのものの効力発生要件である。

任意後見監督人は,登記済みの任意後見契約について本人の事理弁識能力が不十分な状況にあるときに,本人,配偶者,四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により,家庭裁判所が選任する(同法4条1項)。本人以外の者の請求による場合には,原則として本人の同意が必要である(同条3項)。任意後見監督人の職務は,任意後見人の事務の監督,家庭裁判所への定期報告,急迫の事情がある場合の代理権の範囲内での必要な処分及び利益相反行為における本人の代表であり(同法7条1項),内容は後見監督人の職務とほぼ並行する。任意後見人に不正な行為,著しい不行跡その他任務に適しない事由があるときは,任意後見監督人,本人,その親族又は検察官の請求により,家庭裁判所が任意後見人を解任することができる(同法8条)。

任意後見監督人が選任された後にどの範囲まで代理権を行使できるかが争われた裁判例として,任意後見人が被後見人の長男に対して人格権に基づく妨害排除請求権を被保全権利とする面会禁止等の仮処分を申し立てた事案がある。名古屋高等裁判所は,任意後見契約の代理権目録に定められた代理権の範囲にこの申立てが含まれないとして,不適法却下した原決定を維持した(名古屋高等裁判所民事第3部平成26年2月7日決定,平成25年(ラ)第392号,原審・岐阜地方裁判所平成25年(ヨ)第45号)。また,任意後見人の解任事由として任意後見監督人選任前(任意後見受任者の段階)の事由を主張することの可否が争われた事案では,名古屋高等裁判所が,そのような主張は許されないとした原審の判断を維持している(名古屋高等裁判所民事第2部平成22年4月5日決定,平成22年(ラ)第32号,原審・名古屋家庭裁判所)。任意後見契約の類型及び濫用防止の仕組み全般については,別稿「移行型の任意後見契約──通常委任からの移行,濫用防止及び令和8年改正」で扱っている。

第8 令和8年民法等改正による制度の変容

1 成年後見監督人及び保佐監督人の消滅

令和8年6月24日に成立及び公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)は,法定後見制度を,現行の後見,保佐及び補助という3類型から「補助」制度への一元化に改める。この改正が後見監督人の制度に及ぼす構造上の影響は看過できない。法務省が公表した新旧対照条文を実際に照合したところ,民法849条から852条までを含む第2款の見出しは,現行の「後見監督人」から「未成年後見監督人」に改められ,条文本体も「成年被後見人」に相当する概念とともに全面的に置き換えられていた。すなわち,改正後は,成年後見監督人という概念そのものが民法から姿を消し,849条から852条までの規律は未成年後見監督人に純化される。これに伴い,保佐制度の廃止により,保佐監督人を定める876条の3も削除される。

2 補助監督人への一元化

これに対し,補助監督人の制度は存続する。新旧対照条文によれば,補助監督人に関する規定は876条の7以下に再配置された上で,現行のように851条を読み替えて準用するという技巧的な構造をやめ,独立した条文として職務の内容(後見人の事務の監督,選任請求,急迫時の処分,利益相反行為における代表又は同意)を直接書き下ろす形に整理される。改正後は,成年者の支援に関する監督機関は,実質的にこの補助監督人に一本化されることになる。改正の背景及び関係法律61本の整備の詳細については,別稿「令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備」を参照されたい。

3 施行時期と経過措置

成年後見制度に関する改正の施行日は,公布の日(令和8年6月24日)から2年6か月を超えない範囲で政令で定める日とされている。既に後見又は保佐の開始審判を受けている者及びその後見人等については,附則の経過措置により,基本的に現行法の内容のまま利用を継続することができるとされているが,既に選任されている後見監督人又は保佐監督人が施行後にどのような地位に置かれるかという細目までは,公表されている新旧対照条文及び概要資料からは確認できなかった。この点は,施行に向けた今後の運用の詳細が明らかになった段階で改めて取り上げることとしたい。

出典・参考資料

1 法令

民法(明治29年法律第89号)849条から853条まで,857条の2,859条の2,859条の3,861条から866条まで,868条,876条の3,876条の8(e-Gov法令検索)
任意後見契約に関する法律(平成11年法律第150号)2条,4条,7条,8条,9条,10条(e-Gov法令検索)
家事事件手続法(平成23年法律第52号)39条,120条,123条,127条(e-Gov法令検索)
後見登記等に関する法律(平成11年法律第152号)4条(e-Gov法令検索)
⑤民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)及び新旧対照条文(法務省)

2 裁判例

最高裁判所昭和32年10月23日決定(昭和32年(ク)第215号,家事審判法14条及び家事審判規則の合憲性,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所昭和38年10月10日判決(昭和35年(オ)第1086号,集民68号317頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所昭和38年11月28日判決(昭和36年(オ)第764号,裁判所ウェブサイト)
広島高等裁判所岡山支部第二部昭和36年7月14日決定(昭和36年(ラ)第13号,高裁判例集14巻5号327頁,裁判所ウェブサイト)
⑤大阪地方裁判所堺支部平成25年3月14日判決(平成22年(ワ)第2795号・平成23年(ワ)第1836号,訟務月報60巻4号738頁,金融・商事判例1417号22頁。裁判所ウェブサイト未掲載,判例秘書(L06850130)により全文確認)
広島高等裁判所第4部平成24年2月20日判決(平成22年(ネ)第450号,裁判所ウェブサイト)
京都地方裁判所第3民事部平成30年1月10日判決(平成27年(ワ)第2090号,裁判所ウェブサイト)
名古屋高等裁判所民事第2部平成22年4月5日決定(平成22年(ラ)第32号,裁判所ウェブサイト)
名古屋高等裁判所民事第3部平成26年2月7日決定(平成25年(ラ)第392号,裁判所ウェブサイト)

3 公的資料

最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」(令和8年3月,最高裁判所)
「民法等の一部を改正する法律」新旧対照条文(法務省)
「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について(法務省民事局)
大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」(令和7年4月)
第146回国会参議院法務委員会議録(平成11年11月18日,国立国会図書館国会会議録検索システム)

4 文献

①大阪弁護士会(編)『全訂版 成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合)201頁,202頁,205頁,206頁,207頁,208頁,209頁~210頁,216頁
②『後見の実務』別冊判例タイムズ第36号(判例タイムズ社)43頁~45頁
③於保不二雄・中川淳(編)『新版注釈民法(25) 親族(5)〔改訂版〕』(有斐閣,2004年)77頁,79頁,81頁,97頁,115頁,474頁
④我妻栄・有泉亨(著)『コンメンタール民法-総則・物権・債権-』第6版(日本評論社)81頁,95頁,100頁,114頁~115頁