第1 この記事が扱う対象
1 開示文書の特定と基準日
本記事は,最高裁判所に対する司法行政文書開示請求によって開示されたオーストラリア連邦の司法制度(全31頁)を対象とし,同文書が記述する制度のうち,どの部分が現在も維持され,どの部分がその後の法改正によって現行制度と食い違うに至ったかを整理するものである。開示文書はテキスト情報を含まない画像形式の文書であるため,生成AIを用いて全31頁を読み取った上で,記載された裁判所の名称,条文番号及び数値を,オーストラリア連邦立法登録簿(Federal Register of Legislation)の現行編集版,各州・準州の立法登録簿の現行版その他の原資料と照合して構成した。
開示文書自体に作成年月日の記載はないが,本文に現れる数値から基準時点を特定することができる。5頁は連邦裁判所について「2015年5月現在において,47人の裁判官が所属している」と明示し,12頁は連邦検察庁について「2014年6月末日現在における職員総数は496名である」と記載し,15頁は弁護士人口を「2014年6月末日現在」の数値で示す。脚注が典拠として繰り返し引用するのは,オーストラリア政府生産性委員会(Productivity Commission)が刊行する Report on Government Services 2015 であり,そこで用いられているのは2013年7月から2014年6月までの事件数である。したがって,本記事では,開示文書の内容は平成26年(2014年)から平成27年(2015年)ころまでの資料に基づいて作成されたものと整理する。
開示を受けた時期についても手掛かりがある。情報公開請求により入手した原本の文書情報は,作成ソフトを PFU ScanSnap Manager 6.5.40 #iX500,作成日時を2016年12月25日19時28分05秒と記録しており,紙で交付された文書をスキャンして作成されたものであることが分かる。同じ日の18時51分47秒に作成されたフランス共和国の司法制度及び19時31分に作成されたイギリス連合王国(イングランド及びウェールズ)の司法制度の開示文書に挟まれた時刻であり,米英独仏豪加の各国分が同一の情報公開請求に基づいて同日にまとめてスキャンされたことがうかがわれる。全31頁の用紙寸法はいずれも約593ポイントから約594ポイント×約840ポイントから約844ポイントであり,A4に適合している。
2 令和6年10月9日付け不開示通知書
この開示文書がいつの時点の制度を示すものかは,その後の不開示決定によって確定している。最高裁判所事務総長は,令和6年10月9日付け司法行政文書不開示通知書(最高裁秘書第2739号)により,「以下の文書の,令和元年5月以降の最新版」として①諸外国(米英独仏豪加)及び我が国の司法制度の概要(対照表),②アメリカ合衆国の司法制度,③イギリス連邦(イングランド及びウェールズ)の司法制度,④ドイツ連邦共和国の司法制度,⑤フランス共和国の司法制度,⑥オーストラリア連邦の司法制度,⑦カナダの司法制度の7件を掲げた上,「1の文書は,作成又は取得していない。」との理由でこれを開示しないこととした。
この通知書は文書の不存在を理由とするものであるから,最高裁判所が令和元年5月以降にこれらの司法制度資料を改訂していないことを意味する。開示文書の記述は作成時点の制度を前提とするものであって,その後の法改正を反映していないから,現在のオーストラリアの司法制度を知る目的でそのまま用いることはできない。開示文書の一覧及び不開示通知書は,諸外国の司法制度の記事から確認することができる。司法行政文書の開示手続そのものについては,裁判所の情報公開――通達・司法行政文書の開示手続と判決情報の公開及び開示文書の利用目的は一切問われないこと等を参照されたい。同じ請求により開示されたフランス分については,フランス共和国の司法制度――最高裁判所の開示文書とその後の主な改正で整理している。
3 開示文書の構成と対照表における位置付け
開示文書は,第1「裁判所・裁判官」,第2「検察庁・検察官」,第3「弁護士・弁護士会」,第4「法曹養成制度」,第5「裁判手続」,第6「裁判外紛争処理(ADR)」の6章から成り,末尾に「オーストラリア連邦の裁判所審級図」1葉が付されている。第5章は民事事件,刑事事件,家事事件,成年後見事件及び少年事件に分かれており,本文には61個の脚注が付されている。脚注は,連邦法及び州法の法律名と条文番号,Report on Government Services の表番号,各裁判所及び弁護士会のウェブサイト並びに日本語及び英語の文献に及んでおり,記述の典拠をたどることができる資料になっている。
同時に開示された諸外国(米英独仏豪加)及び我が国の司法制度の概要(対照表)は,7か国の司法制度を,裁判所の基本的組織,憲法裁判所及び行政裁判所の有無,裁判官の任用,陪審制・参審制,弁護士資格,法曹養成制度並びに民事・刑事の手続の特徴という項目で比較した1枚表である。オーストラリアの欄は,基本的組織として連邦最高裁判所,連邦裁判所,家庭裁判所,連邦巡回裁判所,州上級裁判所,州中間裁判所及び州下級裁判所を挙げ,憲法裁判所及び行政裁判所はいずれも「なし」とし,裁判官の任用を「法曹一元」,陪審制の採用を「主に刑事。民事では名誉毀損等一部の種類の事件でのみ利用されている。」,弁護士資格を法廷弁護士と事務弁護士の二元とし,法曹養成制度を「司法試験はなく,法学士又は法務博士号取得後,実務研修課程又は実務修習を経て,州最高裁から資格の承認を得る必要がある。」と整理している。本記事が対象とする31頁の文書は,この対照表のオーストラリア欄を展開した位置付けの資料である。裁判官の任用方式に関する日本国内の議論については,法曹一元を参照されたい。
第2 開示文書の記述のうち現在も維持されている部分
1 連邦制と二つの裁判所体系
開示文書は,オーストラリアが6つの州と2つの準州から成る連邦国家であり,連邦裁判所体系と州(準州)裁判所体系とが併存し,いずれの体系も最終審は連邦最高裁判所となること,州法に関する事件は州裁判所の管轄,連邦法に関する事件は連邦裁判所の管轄となるのが一般であるが,連邦の委任に基づき州裁判所が連邦裁判所として機能することもあることを説明する。この骨格は現在も維持されている。州裁判所への連邦裁判権の付与は Judiciary Act 1903 第39条第2項によるものであり,同項は,各州の裁判所が,土地管轄,事物管轄その他の管轄の限度内において,同法第38条が定める例外及び同項各号の条件・制限に服しつつ,連邦最高裁判所が第一審管轄権を有し又はこれを付与され得る全ての事項について連邦裁判権を付与される旨を定める。
連邦裁判所体系で処理される事件が州裁判所に比べて少ないという開示文書の指摘も,後記第11のとおり現在の統計で確認することができる。もっとも,連邦の裁判所を4種類として説明する開示文書の前提は,後記第3のとおり現在は妥当しない。
2 連邦最高裁判所
連邦最高裁判所については,連邦憲法71条に基づく最高裁判所であること,かつて認められていたイギリス枢密院への上訴が1986年に完全に廃止されたこと,長官を含めた7人で構成されること,主要な機能が連邦憲法の解釈にあること,連邦憲法75条及び76条に基づく9類型の第一審管轄権を有するがその大部分を職権で他の裁判所に移送できること,上訴には特別許可(Special leave)を要し上訴が権利ではないこと,1981年以来キャンベラに置かれていることを記述する。これらはいずれも現在も維持されている。
裁判官の員数については,High Court of Australia Act 1979 第5条が「連邦最高裁判所は上級記録裁判所であり,長官及び総督が任命する他の6名の裁判官により構成される」と定めており,開示文書作成後に変更はない。任命に際して連邦司法長官が州司法長官に諮問する義務(同法第6条),裁判官の資格を連邦・州・準州の裁判所の裁判官の経験又は5年以上の法曹登録とする要件(同法第7条),在任中の報酬減額の禁止及び定年を70歳とする連邦憲法72条も同様である。日本の最高裁判所裁判官の任命及び定年については,最高裁判所裁判官とは|現職15人の一覧・任命・定年・国民審査及び裁判官及び検察官の定年が定められた経緯で整理している。
3 弁護士資格の二元制及び司法試験の不存在
開示文書は,オーストラリアの弁護士がソリシター(事務弁護士)とバリスター(法廷弁護士)に分類されること,ほとんどの州(準州)では両資格が融合していること,各州(準州)で活動するには弁護士会への登録が必要でありバリスターにはさらに法廷実務訓練等が要求されること,日本やアメリカのような司法試験が存在せず,大学の法学部又はロースクールの卒業と実務修習を経て各州(準州)の最高裁判所の承認を受けることで資格を取得すること,全ての州・準州が統一許可規則(Uniform Admission Rules)を採用し,連邦法である Mutual Recognition Act 1994 の下で他州で取得した資格が承認されることを記述する。この骨格に変更は確認できない。
もっとも,弁護士規制の統一に関しては動きがある。開示文書が触れていない Legal Profession Uniform Law は,2015年7月にニューサウスウェールズ州及びヴィクトリア州で施行された後,西オーストラリア州法律実務委員会(Legal Practice Board of Western Australia)が公表するとおり,同州が2022年7月1日に参加し,現在の参加法域はこの3州である。経験と実績のあるバリスターに与えられる称号についても変化がある。開示文書はこれをクイーンズ・カウンセル(QC)又はシニア・カウンセル(SC)と記述するが,2022年9月のエリザベス2世女王の逝去に伴い,QCの称号を維持していた州ではキングス・カウンセル(KC)に切り替わった。連邦法上は,Acts Interpretation Act 1901 第16条が「法律における,当該法律の制定時に在位していた君主又は王冠への言及は,その時々の君主への言及として解釈される」と定めるため,この点について法令の改正は要しない。
第3 連邦裁判所体系の再編――家庭裁判所と巡回裁判所の統合
1 統合の内容と根拠法
開示文書は,連邦の裁判所として連邦最高裁判所,連邦裁判所(Federal Court),連邦家庭裁判所(Family Court)及び連邦巡回裁判所(Federal Circuit Court)の4種類があると記述し,末尾の審級図も家庭裁判所27庁,連邦裁判所8庁,連邦巡回裁判所13庁(巡回区34庁)という庁数を前提として作図されている。この記述は現行制度と一致しない。
連邦家庭裁判所と連邦巡回裁判所は,Federal Circuit and Family Court of Australia Act 2021(2021年法律第12号)により統合され,2021年9月1日から Federal Circuit and Family Court of Australia(FCFCOA)という単一の裁判所の2つの部門となった。同法第8条第1項は「施行日の直前に Family Court of Australia として知られていた連邦裁判所は,Federal Circuit and Family Court of Australia (Division 1) として存続する」と定め,同条第2項は連邦巡回裁判所が Division 2 として存続すると定める。同法第9条は,Division 1 を上級記録裁判所(superior court of record)かつ法と衡平の裁判所とし,長官(Chief Justice),副長官(Deputy Chief Justice)及び上級裁判官(Senior Judges)その他の裁判官で構成するとした上,第3項で「少なくとも25人の裁判官が本法に基づき在職するものとする」と法定の最低人数を置き,第4項でこの人数に西オーストラリア州家庭裁判所の裁判官を兼ねる者を算入しないものとしている。同法第10条は,Division 2 を記録裁判所とし,長官(Chief Judge),2名の副長官(Deputy Chief Judges)その他の裁判官で構成するとしている。関連する多数の連邦法の改正及び経過措置は,同時に成立した Federal Circuit and Family Court of Australia (Consequential Amendments and Transitional Provisions) Act 2021(2021年法律第13号)による。
裁判官の任命要件にも,開示文書にない要素が加わっている。同法第11条第2項は,5年以上の法曹登録等に加えて,「知識,技能,経験及び適性に照らして,家庭内暴力を含む家族法事件を扱うのに適した者であること」を Division 1 の裁判官の要件とする。連邦裁判所の裁判官についても,Federal Court of Australia Act 1976 第6条第2項が「当該裁判所に係属し得る種類の事件を扱うのに適切な知識,技能及び経験を有すること」を要件に加えている。
2 上訴を担当する裁判体の変更
開示文書は,連邦家庭裁判所が単独法廷と合議法廷の2つに分かれ,原則として前者が第一審管轄事件を,後者が上訴事件を扱うと記述する。現行法の構造はこれと異なる。Federal Circuit and Family Court of Australia Act 2021 第32条第1項は,Division 1 の上訴管轄について,Division 2 及び西オーストラリア州治安判事裁判所の判決に対する上訴は,原則として単独裁判官が行使し,長官が合議法廷(Full Court)による行使が相当と認めた場合に限り合議法廷が行使すると定め,その他の裁判所の判決に対する上訴のみを合議法廷の専管としている。連邦裁判所についても,Federal Court of Australia Act 1976 第25条第1AA項が,Division 2 の判決に対する上訴は単独裁判官が行使し,裁判官が相当と認めたときに合議法廷が行使すると定める。
家事事件の大半は Division 2 で処理されるため,この改正により,家事事件の上訴の相当部分が合議法廷ではなく単独裁判官によって審理される構造となった。統合の当否をめぐる議論において,専門的な上訴部門の実質的な解体が懸念として指摘されてきたのは,この点である。
3 法定のレビューとその結果の公表
統合法自体が,運用の検証を義務付けている。同法第284条は,大臣が同法の施行から3年を経過した後6か月以内に同法の運用に関するレビューを行わせなければならないものとし,レビューを行った者が大臣に書面の報告書を提出すること,及び大臣が報告書の提出を受けた後,各議院の開会日で15日以内に報告書を両院に提出しなければならないことを定める。オーストラリア連邦司法省(Attorney-General’s Department)が公表するReview of the Federal Circuit and Family Court of Australia Act 2021によれば,このレビューは2024年9月2日から2025年3月1日まで,司法長官が任命した Hon Linda Dessau AC CVO 及び Professor Helen Rhoades OAM によって行われ,報告書は2025年8月7日に国会に提出された。司法長官の報道発表は,レビューの対象となった多くの領域が良好に機能していることが確認されたとし,政府は報告書及びその勧告を検討すると述べている。報告書の全文は同省のウェブサイトで公開されており,統合の評価を検討する際の一次資料となる。
第4 連邦の裁判所に関するその他の変更
1 クロスヴェスティング法による上訴の移送先
開示文書は,5頁で「Jurisdiction of Courts Act1987 section7(5)」を引用し,州上級裁判所の単独法廷における事件の上訴のうち,判断すべき問題が破産法,連邦選挙法,著作権法,意匠法,家族法,健康保険法,特許法,国民投票法,商標法などの連邦法に関わるものであるときは,その上訴は連邦裁判所の合議法廷又は連邦家庭裁判所に係属することとなる,と説明する。
この法律の正式名称は Jurisdiction of Courts (Cross-vesting) Act 1987 であり,現在も存続しているが,上訴の受け皿は改められている。現行の同法第7条第5項は,当該手続は「連邦裁判所の合議法廷又は Federal Circuit and Family Court of Australia (Division 1) の合議法廷(事案に応じて),又は連邦最高裁判所の特別許可を得て連邦最高裁判所においてのみ提起され,判断されるものとする」と定めており,「連邦家庭裁判所」に当たる部分が Division 1 に置き換わっている。同法第7条第1項,第2項,第7項,第8項,第8条及び第14条も同様である。
対象となる連邦法を列挙する同法の附表は,現在,Advance Australia Logo Protection Act 1984,Bankruptcy Act 1966,Commonwealth Electoral Act 1918,Copyright Act 1968,Dental Benefits Act 2008,Designs Act 2003,Family Law Act 1975,Health Insurance Act 1973,Liquid Fuel Emergency Act 1984,Patents Act 1990,Referendum (Machinery Provisions) Act 1984,Shipping Registration Act 1981 及び Trade Marks Act 1955 の13本を掲げている。開示文書の列挙はこのうちの一部であり,誤りではないが網羅的ではない。
2 産業関係裁判所の廃止
開示文書は連邦の裁判所として4種類を挙げるが,このほかに,1993年に設置された産業関係裁判所(Industrial Relations Court of Australia)が存続していた。同裁判所は,Workplace Relations and Other Legislation Amendment Act 1996 の別表16項目84に基づいて総督が発した Workplace Relations and Other Legislation Amendment (Abolishment of Industrial Relations Court) Proclamation 2020(2020年12月10日制定,同月18日施行)第4条により,2021年3月1日をもって廃止された。連邦の裁判所の一覧を作成する際には,統合と廃止がいずれも同じ時期に生じていることに注意を要する。
3 特別許可の申立てに対する決定方法
開示文書は,連邦最高裁判所への上訴が特別許可を要し権利ではないと記述するにとどまるが,特別許可の申立ての処理方法は規則で変更されている。High Court Rules 2004 規則41.08.1は「合議法廷は,申立てを期日に指定することなく,申立てを決定する命令をすることができる」と定めており,口頭弁論を経ない書面決定を許容する。この権限自体は2016年の規則改正で導入されたものであるが,2023年11月13日に制定された High Court Amendment (2023 Measures No. 1) Rules 2023 により,規則41.08.1Aとして「合議法廷は,規則41.08.1に基づく命令をすることができ,公開法廷以外の場所で決定理由を公表することができる」との規定が加えられ,上訴許可に関する規則26.07にも同旨の規定が置かれた。口頭弁論が指定された場合の持ち時間が申立人20分,相手方20分,申立人の反論5分であること(規則41.08.3)は従前どおりである。
第5 行政不服審査を担う機関の全面的な置換え
対照表がオーストラリアについて「行政裁判所の有無」を「なし」とする点は,現在も正確である。連邦には大陸法型の行政裁判所は存在せず,行政処分に対する実体判断の見直しは,裁判所ではない審判所が担い,法律問題に関する不服は連邦裁判所が扱うという構造が採られているからである。
もっとも,その審判所は全面的に置き換わった。1975年に設置された行政不服審判所(Administrative Appeals Tribunal)は廃止され,Administrative Review Tribunal Act 2024(2024年法律第40号)により設立された行政審査審判所(Administrative Review Tribunal)が,2024年10月14日からこれに代わっている。新法は,総裁,副総裁,上級構成員及び一般構成員から成る組織を定めるとともに,事件を管轄領域及びリストに振り分ける仕組み(第196条)を設けている。特徴的なのは,指針・上訴部会(guidance and appeals panel)が新設され,総裁が「行政上の意思決定にとって重要性のある争点を提起する」と認める申立てを同部会に付託することができ(第122条),また審判所の決定を同部会に付託することができる(第128条)ことであり,同部会の一定の決定は審判所指針決定(Tribunal guidance decision)として将来の手続で考慮しなければならないものとされている。あわせて,行政法制の調査審議を担う行政審査評議会(Administrative Review Council)が第9部第246条により再設置され,構成員の任命について大臣が評価パネルを設置しなければならないものとされた(第209条)。
開示文書はこの層に触れていないが,オーストラリアの行政事件を調べる際に行政不服審判所を前提とする資料を用いると,機関の名称も手続も現行制度と対応しないことになる。
第6 州・準州の裁判所――民事管轄額,呼称及び定年
1 三層構造と民事の管轄額
州(準州)裁判所を上級裁判所,中間裁判所及び下級裁判所に大別し,タスマニア州,北部準州及び首都特別地域には中間裁判所が存在しないとする開示文書の記述は,現在も維持されている。他方,上級裁判所が原則として扱う請求額をニューサウスウェールズ州,クイーンズランド州及び西オーストラリア州で75万ドル以上,首都特別地域で25万ドル以上,ヴィクトリア州で20万ドル以上,タスマニア州で5万ドル以上とする7頁の記述については,その後に管轄額を改めた州がある。
ニューサウスウェールズ州の中間裁判所である District Court の管轄限度額は,District Court Act 1973 第4条が「裁判所の管轄限度額とは125万ドルをいう」と定めており,75万ドルではない。同州の下級裁判所については,Local Court Act 2007 第29条が,一般部門の管轄限度額を10万ドル,少額部門の管轄限度額を2万ドルとし,一般部門における人身損害又は死亡に係る損害賠償請求については6万ドルとしている。クイーンズランド州の District Court は,District Court of Queensland Act 1967 第68条第2項が「金額の限度とは75万ドルをいう」と定めており,開示文書の記述と一致する。ヴィクトリア州については,County Court Act 1958 第37条第1項が,同法その他の法律により管轄から除外されない限り,救済の種類及び対象事項を問わず一切の民事手続を扱うと定めており,中間裁判所の管轄額に上限がない。同州の Magistrates’ Court の民事の管轄限度額は,Magistrates’ Court Act 1989 第3条により10万ドルである。
クイーンズランド州については,2026年3月に提出された法律案により District Court の管轄限度額を150万ドルに引き上げることが提案されているが,2026年4月28日現在の同法の現行編集版には反映されておらず,本記事の作成時点で成立の有無を確認できていない。
2 下級裁判所の裁判官の呼称
開示文書は,州の下級裁判所を「州治安判事裁判所」,その裁判官を「治安判事」と訳出している。ニューサウスウェールズ州については,この訳語が現行の呼称と対応しない。同州の Local Court and Bail Legislation Amendment Act 2025 により,Local Court の Magistrate は Judge に,Chief Magistrate は Chief Judge に改称され,Local Court Act 2007 第12条は,同裁判所が州総督の任命する Chief Judge 及び州総督が随時任命するその他の Judge によって構成される旨を定めている。同州の刑事手続法においても,委託手続を行う主体は Judge と表記されている。
3 裁判官の定年
連邦の裁判官の定年が連邦憲法72条により70歳とされている点に変更はない。他方,州には引上げの例がある。ニューサウスウェールズ州では,District Court Act 1973 に付された注記が示すとおり,Judicial Officers Act 1986 第44条の定年は Justice Legislation Amendment Act (No 3) 2018 により72歳から75歳に引き上げられた。ただし,改正法の施行前に任命された裁判官については,同州の Constitution Act 1902 第55条第2項の要請により,本人が同意した場合に限り新しい定年が適用され,同意しない裁判官には72歳の定年が適用され続ける。
第7 刑事手続――陪審審理付託手続の実質的な廃止
1 ニューサウスウェールズ州
開示文書は,21頁から22頁にかけて,正式起訴犯罪については州治安判事裁判所において陪審審理付託手続(Committal Hearing)が行われ,治安判事が証拠を検討して被疑者の嫌疑が十分か否かを判断し,陪審が有罪の評決をする合理的見込みがあると認められる場合(Prima Facie Case)に陪審裁判により審理するよう付託する,と記述する。この手続は,主要な州では既に姿を変えている。
ニューサウスウェールズ州では,Justice Legislation Amendment (Committals and Guilty Pleas) Act 2017(同州2017年法律第55号)により,Criminal Procedure Act 1986 第3章第2部が全部差し替えられた。現行の同法第55条は,委託手続の流れを,①出廷通知書の発付及び提出により手続が開始されること,②検察官が証拠概要書(brief of evidence)を送達すること,③手続を進める犯罪を特定する起訴内容確定証明書(charge certificate)を検察官が Local Court に提出し被告人に送達すること,④被告人に代理人が付いている場合には検察官と弁護人が1回以上の事件協議(case conference)を行うこと,⑤事件協議証明書を提出すること,⑥被告人が各訴因について答弁し,裁判官が公判又は量刑のために委託すること,と定める。証拠の十分性を審理して付託の可否を決するという段階は存在しない。
2 ヴィクトリア州
ヴィクトリア州では,Justice Legislation Amendment (Committals) Act 2025(同州2025年法律第5号)第3条により,Criminal Procedure Act 2009 第97条第b号が削除された。削除されたのは,委託手続の目的として「有罪判決を支えるに足る重みのある証拠があるか否かを判断すること」を掲げていた規定であり,いわゆる committal test の根拠規定である。現行の同条に残るのは,①略式処理の適否の判断,②答弁の予定の確認,③公正な公判の確保(供述調書の形での検察側立証の適切な開示,被告人が証拠を聴読し検察側証人を反対尋問できるようにすること,防御の準備,争点の明確化)である。同法による改正は,証人の反対尋問の要件を含め,委託手続の全般に及んでいる。
3 陪審の理由なき忌避
開示文書は,被告人及び検察がそれぞれ一定数の陪審員候補者を理由を示さずに忌避することができると記述するが,その数を示していない。現行法では州により異なる。ニューサウスウェールズ州は,Jury Act 1977 第42条により被告人及び検察が各3(陪審員が12人を超える場合は各1を追加),民事事件は同法第42A条により陪審員数の半数である。ヴィクトリア州は,Juries Act 2000 第39条第1項により,刑事事件では被告人が1名のときは3,2名以上のときは各2であり,民事事件は同法第35条第1項により各2である。クイーンズランド州は,Jury Act 1995 第42条により刑事事件で検察及び弁護が各8,民事事件で各2であり,同法の現行編集版は「2017年3月30日現在」のものであるから,開示文書の作成後に改正されていない。
第8 家事事件――親責任の推定の廃止と財産分与規定の再編
1 2023年改正
開示文書は,24頁から25頁にかけて,2006年の家族法改正により Less Adversarial Trial が導入されたこと,子の監護についての事件は緊急を要する場合を除き申立て前に Family Dispute Resolution を経ることとなったことを記述する。前者を含む審理方式及び後者の強制的な家族紛争解決手続は現在も維持されているが,実体規定は大きく変わった。
Family Law Amendment Act 2023(2023年法律第87号)の附則1は,2024年5月6日に施行された。この改正により,2006年改正で導入された対等な共同親責任の推定を定める旧第61DA条と,対等な時間又は実質的かつ重要な時間の検討を義務付ける旧第65DAA条は,いずれも削除された。現行の家族法には第61DA条及び第65DAA条は存在せず,第61CA条が,安全である場合であって裁判所の命令に反しない限り,18歳未満の子の親は重要な長期的事項について互いに協議し,その際に子の最善の利益を最優先の考慮事項とすることが奨励される旨を定めるにとどまる。推定ではなく奨励である。
子の最善の利益の判断枠組みも再編された。現行第60CC条第2項は,裁判所が考慮しなければならない事項として,①子及び子を養育する者の安全(家庭内暴力,虐待,ネグレクトその他の害を受け又はこれに曝されることからの安全を含む)を促進する取決め,②子が表明した意見,③子の発達的,心理的,情緒的及び文化的必要,④親責任を有し又は有することが予定される者がそれらの必要に応える能力,⑤安全である場合に親その他子にとって重要な者との関係を持つことができることの利益,⑥その他当該子の個別事情に関連する一切の事項の6項目を掲げ,同条第2A項は,①の判断に際して家庭内暴力,虐待又はネグレクトの経歴及び家庭内暴力命令を必ず考慮するものとし,同条第3項はアボリジニ及びトレス海峡諸島民の子について文化を享受する権利に関する追加の考慮事項を定める。第60B条も,第7編の目的を子の安全の確保を含む最善の利益の実現と児童の権利条約の実施の2点に簡素化された。
このほか,確定した養育命令の再考について,第65DAAA条が新設され,裁判所は,事情の重大な変更があったか否かを検討し,かつ再考が子の最善の利益にかなうと認めるのでなければ,当事者全員の同意がある場合を除き確定した養育命令を再考してはならないものとされた。また,第102QAC条が新設され,裁判所は,相手方に対して更に手続を提起することが害を及ぼす合理的根拠があると認めるときは,裁判所の許可を得ないで手続を提起することを禁ずる命令をすることができるものとされた。
2 2024年改正
Family Law Amendment Act 2024(2024年法律第118号)の主要部分は,2025年6月10日に施行された。財産分与の基本規定である第79条は,この改正により構造そのものが組み替えられている。現行の同条第3項は,裁判所が①当事者の既存の法律上及び衡平法上の権利利益並びに負債を特定し,②第4項の寄与に関する考慮事項と第5項の現在及び将来の事情に関する考慮事項を考慮する,という順序を明文で定める。
家庭内暴力は,双方の考慮事項に書き込まれた。第4項第ca号は「一方の当事者が他方に加え,又は曝させた家庭内暴力が,他方の当事者が第a号から第c号までの寄与を行う能力に及ぼした影響」を寄与の考慮事項として掲げ,第5項第a号は「一方の当事者が他方に加え,又は曝させた家庭内暴力が,他方の当事者の現在及び将来の事情に及ぼす影響」を筆頭の考慮事項として掲げる。同項第d号は,一方の当事者が故意又は無謀に財産又は資力を浪費したことも考慮事項とする。
同改正はまた,コンパニオンアニマルに関する規定を新設した。第4条第1項は,コンパニオンアニマルを「婚姻の当事者若しくはその一方又は事実婚関係の当事者若しくはその一方が,主として伴侶とする目的で飼育する動物」と定義し,第79条第6項は,財産分与の対象がコンパニオンアニマルである場合に裁判所ができる命令を,①当事者の一方又は手続に参加した第三者に所有権を帰属させる命令,②移転に同意した他の者への移転命令,③売却命令の3類型に限り,「裁判所は,本条に基づき,当該コンパニオンアニマルの所有権に関してこれら以外の種類の命令をすることができない」と定める。共同で飼育することを命ずることはできない。同条第7項は,取得の経緯,所有又は占有の状況,世話及び維持費の負担の程度,当該動物に対する現実の又は威嚇としての虐待の経歴,当事者又は子の愛着,将来にわたり他方の関与なしに飼育する能力等を考慮事項として列挙する。
なお,開示文書が「西オーストラリア州だけは州独自の家庭裁判所を設けている」と記述する点は現在も維持されている。Federal Circuit and Family Court of Australia Act 2021 第9条第4項が同州家庭裁判所の裁判官を兼ねる者を Division 1 の最低人数から除外していることは,同裁判所が統合の対象外であることを前提とする規定である。
第9 少年事件――最低刑事責任年齢の分岐
開示文書は,少年事件について,保護・福祉監護に関する事件では一般に18歳未満(ヴィクトリア州では17歳未満)の者を少年とし,非行事件では州により非行時17歳未満又は18歳未満とすると記述するが,何歳から刑事責任を問い得るかという最低刑事責任年齢には触れていない。この点は,開示文書の作成後に法域間で正面から分岐した。
首都特別地域は,Criminal Code 2002 第25条第1項が「14歳未満の子は,犯罪について刑事責任を負わない」と定め,同条第2項が,12歳以上14歳未満の子については附表1所定の犯罪に限り,かつ自己の行為が悪いことを知っていた場合に限り責任を負うと定める。同法第26条により,これを知っていたことの立証責任は検察にある。ヴィクトリア州は,Youth Justice Act 2024 第10条が「12歳未満の子が犯罪を犯し得ないことは,確定的に推定される」と定め,同法第11条が12歳又は13歳の子について無能力の推定を置き,検察が合理的な疑いを超えて立証した場合に限り推定が覆るものとしている。
他の7法域は10歳である。連邦は Criminal Code Act 1995 第7.1条及び第7.2条,ニューサウスウェールズ州は Children (Criminal Proceedings) Act 1987 第5条第1項,クイーンズランド州は Criminal Code 第29条,西オーストラリア州は Criminal Code 第29条,南オーストラリア州は Young Offenders Act 1993 第5条,タスマニア州は Criminal Code Act 1924 第18条,北部準州は Criminal Code 第43AP条が,それぞれ10歳未満の者の刑事責任を否定し,多くはこれに加えて14歳未満の者について「行為が悪いことを知っていた」ことの立証を要求する規定を置いている。
ニューサウスウェールズ州は,年齢を動かさずに,この推定の運用を法律で定める方向を採った。Children (Criminal Proceedings) and Young Offenders Legislation Amendment Act 2025(同州2025年法律第83号)により,Children (Criminal Proceedings) Act 1987 第5条は全部差し替えられ,10歳から13歳までの子について無能力を推定した上で(第2項),検察が「子が自己の行為が重大に悪いことを知っていた」ことを合理的な疑いを超えて立証した場合に限り推定が覆るものとし(第3項),裁判所が考慮すべき事項として犯罪を構成する行為,犯行の周辺事情,子の知的及び道徳的な発達並びに教育,子が育てられた環境を列挙する(第5項)。さらに,第7項は,裁判所が犯罪を構成する行為及び犯行の周辺事情の証拠に基づいて推定が覆されたと判断することができるものとし,その証拠が第3項の要件を満たすに足りると認めるときは,子の知的及び道徳的な発達に関する他の証拠がなくても,又はこれに反しても,その判断をすることができるものとする。他方,第8項は,Young Offenders Act 1997 に基づく警告,少年司法協議への参加及びその過程における供述を考慮してはならないと定める。同改正法の附則は,施行から18か月を経過した後速やかに司法長官が改正の政策目的の妥当性を検証し,その後12か月以内に両院に報告することを義務付けている。
第10 州の審判所と連邦裁判権に関する判例
開示文書は,成年後見事件が州(準州)の審判所(Tribunal 又は Board)で取り扱われ,弁護士を付けなくても容易に手続ができるという特徴があると記述する。州の審判所が州内の紛争を簡易に処理する機関であるという理解は,オーストラリアの連邦制の下では一定の留保を要する。
連邦最高裁判所は,Burns v Corbett; Burns v Gaynor; Attorney General for New South Wales v Burns; New South Wales v Burns [2018] HCA 15(2018年4月18日)において,州議会は,連邦憲法75条及び76条が掲げる事項について,州の裁判所に当たらない審判所に司法権を付与する立法権限を有しないと判断した。この事件は,ニューサウスウェールズ州の反差別法に基づく申立てが同州の民事行政審判所で審理されたものであり,申立人と相手方が異なる州の住民であったことから,連邦憲法75条第4号が掲げる異なる州の住民の間の事項に当たることが問題となった。連邦最高裁判所は,New South Wales v Wojciechowska [2025] HCA 27(2025年8月6日)においても,タスマニア州の住民がニューサウスウェールズ州警察の決定について同州の民事行政審判所に不服を申し立て,同審判所が損害賠償の支払を命じた事案について,同審判所が連邦憲法77条第2号及び第3号にいう州の裁判所に当たらないことを前提として同様の枠組みを適用し,連邦憲法75条第4号にいう州と他州の住民との間の事項に該当するかどうかを検討している。
統合前の連邦巡回裁判所に関しても,判断が示されている。連邦最高裁判所は,Queensland v Mr Stradford (a pseudonym); Commonwealth of Australia v Mr Stradford (a pseudonym); His Honour Judge Vasta v Mr Stradford (a pseudonym) [2025] HCA 3(2025年2月12日)において,連邦巡回裁判所の裁判官が権限なく法廷侮辱の宣言をして収監を命じ,その命令に基づいて現に収監が行われた事案について,裁判官の民事責任からの免責の範囲及び当該命令に依拠して収監を実施した者の責任を扱った。開示文書が記述する連邦巡回裁判所は,現在の Division 2 として存続しているから,この判断は現行の制度についても意味を持つ。
第11 開示文書に現れる数値の現在値
1 弁護士人口
開示文書は,15頁で「2014年6月末日現在におけるオーストラリアの弁護士人口総数は,7万0907人である。このうち,バリスターが5863人,ソリシターが6万9528人であり」と記述する。もっとも,記載された内訳を合計すると7万5391人となり,同じ文が示す総数と一致しないから,この数値を引用する際には内訳と総数のいずれを用いるのかを明示する必要がある。
ソリシターの人口については,オーストラリア各州・準州の法律協会及び規制機関が提供する登録データに基づき,Urbis がニューサウスウェールズ州法律協会の委託を受けて作成する2024 National Profile of Solicitors(2025年6月公表)が,全国の統計を示している。同報告によれば,2024年10月現在で実務に従事するソリシターは9万7500人であり,2014年の6万6211人から10年間で47パーセント増加した。所属はニューサウスウェールズ州が42パーセント,ヴィクトリア州が25パーセント,クイーンズランド州が16パーセントである。男女比については,女性が56パーセント,男性が44パーセントであり,女性が男性を上回る状態は2018年に初めて生じ,2016年に男女が同数になった後の傾向が続いている。バリスターについては,これに対応する全国統一の集計を確認できなかった。
2 事件数及び裁判官の数
開示文書は,脚注1で,2013年7月1日から2014年6月30日までのオーストラリアの裁判所全体の民事事件新受数(連邦家庭裁判所,連邦巡回裁判所,検死法廷及び検認裁判所を除く)が合計約46万3200件であり,そのうち連邦裁判所の新受数は約5000件にすぎず,民事・家事の双方を扱う連邦巡回裁判所の新受数が約9万2000件あると記述する。典拠は Report on Government Services 2015 である。
同じ統計のReport on Government Services 2026により,2024年から2025年の会計年度の数値に置き換えると,州・準州の民事事件新受数(連邦裁判所,FCFCOAの両部門,西オーストラリア州家庭裁判所及び検死法廷を除く)は40万4652件であり,連邦裁判所の民事事件新受数は5515件(上訴707件,非上訴4808件)である。家事事件は,連邦において10万1511件,西オーストラリア州家庭裁判所において1万4136件が新たに係属し,Division 2 が扱う家族法以外の連邦法事件は1万1369件である。連邦裁判所体系で処理される非家事の民事事件が州裁判所に比べて格段に少ないという開示文書の指摘は現在も妥当する一方,連邦裁判所体系の事件処理の中心が家事事件にあることが数値から確認できる。
裁判官等の数についても同じ統計から把握することができる。同報告の表7A.28によれば,2024年から2025年の会計年度において民事事件を担当する裁判官等は,常勤換算で連邦裁判所が54.7人であり,開示文書が記す2015年5月現在の47人から増加している。家族法事件については連邦の両部門で92.6人,西オーストラリア州家庭裁判所で18.8人であり,Division 2 が扱う家族法以外の事件については27.4人である。
第12 開示文書を利用する際の留意点
以上を整理すると,開示文書の記述のうち,現在の制度として引用すると誤りになるのは,主として次の3つの層である。第1に,裁判所の名称と体系である。連邦家庭裁判所及び連邦巡回裁判所という名称の裁判所は存在せず,末尾の審級図もそのまま用いることができない。ニューサウスウェールズ州については,下級裁判所の裁判官を「治安判事」と訳すことも現行の呼称と対応しない。第2に,手続の骨格である。陪審審理付託手続における嫌疑の十分性の審査は主要な州で廃止され,家事事件における対等な共同親責任の推定と対等な時間の検討義務は削除され,財産分与の考慮事項は再編された。第3に,数値である。管轄額,弁護士人口及び事件数は,いずれも開示文書の記載とは異なる。
他方,連邦制の下で二つの裁判所体系が併存し最終審が連邦最高裁判所となるという骨格,連邦最高裁判所の構成と管轄,弁護士資格の二元性と司法試験の不存在,敗訴者負担及び当事者対抗主義を基調とする民事手続,裁判所付属型ADRの位置付けといった記述は,現在も維持されている。開示文書は,条文番号と典拠を付した61個の脚注を伴っており,作成時点のオーストラリアの司法制度を日本語で概観できる資料として,なお価値を持つ。最高裁判所が令和元年5月以降にこれを改訂していないことが不開示決定によって確定している以上,利用に当たっては基準時点を明示し,制度の現状については本記事が掲げる一次資料に当たることが必要である。
出典・参考資料
1 法令(オーストラリア連邦)
①Federal Circuit and Family Court of Australia Act 2021(2021年法律第12号)第8条・第9条・第10条・第11条・第32条・第284条(連邦立法登録簿),②Federal Circuit and Family Court of Australia (Consequential Amendments and Transitional Provisions) Act 2021(2021年法律第13号)(連邦立法登録簿),③Jurisdiction of Courts (Cross-vesting) Act 1987第7条及び附表(連邦立法登録簿),④Federal Court of Australia Act 1976第5条・第6条・第25条(連邦立法登録簿),⑤High Court of Australia Act 1979第5条・第6条・第7条(連邦立法登録簿),⑥High Court Rules 2004規則26.07・規則41.08(連邦立法登録簿),⑦High Court Amendment (2023 Measures No. 1) Rules 2023(連邦立法登録簿),⑧Judiciary Act 1903第39条(連邦立法登録簿),⑨Acts Interpretation Act 1901第16条(連邦立法登録簿),⑩Family Law Act 1975第4条・第60B条・第60CC条・第60I条・第61CA条・第65DAAA条・第79条・第102QAC条(連邦立法登録簿),⑪Family Law Amendment Act 2023(2023年法律第87号)(連邦立法登録簿),⑫Family Law Amendment Act 2024(2024年法律第118号)(連邦立法登録簿),⑬Administrative Review Tribunal Act 2024(2024年法律第40号)第122条・第128条・第196条・第209条・第246条(連邦立法登録簿),⑭Criminal Code Act 1995第7.1条・第7.2条(連邦立法登録簿),⑮Workplace Relations and Other Legislation Amendment (Abolishment of Industrial Relations Court) Proclamation 2020(連邦立法登録簿)
2 法令(州・準州)
①District Court Act 1973(ニューサウスウェールズ州)第4条(同州立法登録簿),②Local Court Act 2007(同州)第12条・第29条(同州立法登録簿),③Criminal Procedure Act 1986(同州)第55条以下(同州立法登録簿),④Jury Act 1977(同州)第42条・第42A条(同州立法登録簿),⑤Children (Criminal Proceedings) Act 1987(同州)第5条及び附則(同州立法登録簿),⑥District Court of Queensland Act 1967第68条(クイーンズランド州立法登録簿),⑦Jury Act 1995(同州)第42条(同州立法登録簿),⑧Criminal Code(同州)第29条(同州立法登録簿),⑨County Court Act 1958(ヴィクトリア州)第37条(同州立法登録簿),⑩Magistrates’ Court Act 1989(同州)第3条(同州立法登録簿),⑪Criminal Procedure Act 2009(同州)第97条(同州立法登録簿),⑫Juries Act 2000(同州)第35条・第39条(同州立法登録簿),⑬Youth Justice Act 2024(同州)第10条・第11条(同州立法登録簿),⑭Criminal Code 2002(首都特別地域)第25条・第26条(同地域立法登録簿),⑮Criminal Code Act 1983(北部準州)第43AP条・第43AQ条(同準州立法登録簿),⑯Criminal Code Act 1924(タスマニア州)第18条(同州立法登録簿),⑰Young Offenders Act 1993(南オーストラリア州)第5条(同州立法登録簿),⑱Criminal Code Act Compilation Act 1913(西オーストラリア州)第29条(同州立法登録簿)
3 裁判例
①オーストラリア連邦最高裁判所2018年4月18日判決 Burns v Corbett; Burns v Gaynor; Attorney General for New South Wales v Burns; New South Wales v Burns [2018] HCA 15(オーストラリア法情報機構(AustLII)収録の判決原文により全文確認),②オーストラリア連邦最高裁判所2025年8月6日判決 New South Wales v Wojciechowska [2025] HCA 27(同前),③オーストラリア連邦最高裁判所2025年2月12日判決 Queensland v Mr Stradford (a pseudonym); Commonwealth of Australia v Mr Stradford (a pseudonym); His Honour Judge Vasta v Mr Stradford (a pseudonym) [2025] HCA 3(同前)
4 公文書・開示文書
①最高裁判所開示文書オーストラリア連邦の司法制度(全31頁),②最高裁判所開示文書諸外国(米英独仏豪加)及び我が国の司法制度の概要(対照表),③最高裁判所事務総長令和6年10月9日付け司法行政文書不開示通知書(最高裁秘書第2739号),④オーストラリア連邦司法省Review of the Federal Circuit and Family Court of Australia Act 2021(レビューの実施期間,実施者及び国会提出日並びに報告書本体を掲載),⑤オーストラリア連邦司法長官Independent review of the Federal Circuit and Family Court of Australia Act 2021(2025年8月7日付け報道発表)
5 統計・データ
①オーストラリア政府生産性委員会Report on Government Services 2026 Part C Section 7 Courts 表7A.2・表7A.28(2024年から2025年の会計年度の民事事件新受数及び裁判官等の常勤換算数),②Urbis作成・ニューサウスウェールズ州法律協会委託2024 National Profile of Solicitors(2025年6月)
6 ウェブ資料
①西オーストラリア州法律実務委員会Uniform law(同州のLegal Profession Uniform Law参加時期及び参加法域)