第1 この記事が扱う対象
1 改正の特定と施行日
令和7年10月1日から,公正証書の作成等について公証人が受ける手数料の額が改定された。改定の根拠となった政令は「公証人手数料令の一部を改正する政令」という独立の政令ではなく,「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令」(令和7年政令第263号)の第1条である。同政令は令和7年7月18日に公布され,改正の対象は公証人手数料令(平成5年政令第224号)であって,公証人法の改正による公正証書作成手続のデジタル化に伴う条文整理と,手数料額そのものの改定とが,一つの政令の中で一体的に行われている。改正政令の名称に「公証人手数料令」の語が現れないため,政令名で検索しても改正の内容に到達しにくい構造になっている。
この記事は,e-Gov法令検索の法令データについて施行日前日(令和7年9月30日)時点の条文と施行日(令和7年10月1日)時点の条文とを取得し,条文及び別表を一件ずつ対照して,何がどれだけ変わったかを整理するものである。作成にはAIを用いているが,条文,公示された政令案,意見公募手続の結果及び日本公証人連合会の公表資料は,いずれも原資料に当たって確認した。個々の事案における具体的な見積りではなく,改正の内容と適用関係を確認することを目的とする。遺言公正証書に絞った現行額と計算例については公正証書遺言の作成手数料-現行額と計算例を,手続そのもののデジタル化については公正証書作成手続のデジタル化を参照されたい。
2 委任の構造
公証人の手数料は,公証人法(明治41年法律第53号)7条1項により,嘱託人から受けるものとされている。同条2項は,公証人がこれ以外の名目によって取扱事件に関し報酬を受けることを禁じており,同条3項は,手数料,送達に要する料金,登記手数料,日当及び旅費に関する規程を政令で定める旨を規定する。公証人手数料令はこの委任に基づく政令であり,意見公募手続の結果公示においても,本件政令の根拠法令条項の筆頭として公証人法7条3項(同法9条において準用する場合を含む。)が掲げられている。公証人は国から給与を受けず手数料等の収入によって役場の経費を賄う立場にあるため,物価や人件費の変動を手数料以外の方法で吸収する仕組みが制度上存在しない点が,改定の必要性と直結している。
なお,令和7年10月1日の改正では,公証人法7条1項が引用する登記の条数が「第五十七条ノ三」から「第五十一条」へ改められているが,これは公証人法自体の条文移動に伴う整理であって,手数料の額とは関係しない。同日の改正では公証人法の条文番号が広い範囲で移動しているため,改正前に書かれた文献が引用する条数をそのまま用いると現行条文と食い違うことがある。公証人手数料令の側でも,8条・34条2項・35条の2第2項・38条・40条・41条及び41条の2から41条の4までが,改正後の公証人法の条数を引用する形に改められている。
第2 改正の全体像
今回の改正は,一律の引上げではない。目的の価額が200万円を超える公正証書及び類型的に公証人の負担が重い法律行為に係る公正証書は引き上げられ,目的の価額が50万円以下の公正証書並びに養育費及び死後事務委任に係る公正証書は引き下げられ,その中間の区分並びに認証及び定款認証の基本額は据え置かれた,という三層の構造になっている。したがって,改定によって費用が上がるか下がるかは,作成しようとする公正証書の種類と目的の価額によって分かれる。
| 方向 | 主な対象 |
|---|---|
| 引上げ | 目的の価額200万円超の法律行為に係る公正証書,承認等,委任状,事実実験,秘密証書遺言の方式に関する記載,企業担保権,区分所有規約,枚数加算,執行文の付与,送達,登記の嘱託,書面の交付,閲覧 |
| 引下げ | 目的の価額50万円以下の法律行為に係る公正証書,養育費の定めに係る公正証書,死後事務委任に係る公正証書 |
| 据置き | 目的の価額50万円超200万円以下の法律行為に係る公正証書,私署証書及び電磁的記録の認証の基本額,定款認証,確定日付の付与,日付情報の付与,電磁的記録の保存及び証明,日当及び旅費 |
| 新設 | 死後事務委任に関する規定,信託に関する加算規定,電磁的記録の提供に関する規定 |
第3 法律行為に係る公正証書の作成手数料
法律行為に係る公正証書の作成手数料は,公証人手数料令9条により,別表の中欄に掲げる法律行為の目的の価額の区分に応じて定まる。この別表が今回の改正で全面的に組み替えられ,区分は10から11に増えた。
| 目的の価額 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 50万円以下 | (区分なし。100万円以下として5,000円) | 3,000円(新設) |
| 50万円超100万円以下 | 5,000円 | 5,000円 |
| 100万円超200万円以下 | 7,000円 | 7,000円 |
| 200万円超500万円以下 | 11,000円 | 13,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 17,000円 | 20,000円 |
| 1,000万円超3,000万円以下 | 23,000円 | 26,000円 |
| 3,000万円超5,000万円以下 | 29,000円 | 33,000円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 43,000円 | 49,000円 |
| 1億円超3億円以下 | 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額 | 49,000円に超過額5,000万円までごとに15,000円を加算した額 |
| 3億円超10億円以下 | 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額 | 109,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額 |
| 10億円超 | 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 | 291,000円に超過額5,000万円までごとに9,000円を加算した額 |
改正前の最低区分は「100万円以下5,000円」であったが,改正後は「50万円以下3,000円」の区分が新設され,少額の契約について公正証書を作成する場合の負担が下がった。他方で50万円超100万円以下は5,000円のまま,100万円超200万円以下は7,000円のままであり,この帯は改正の前後で変わらない。200万円を超える区分の引上げ幅を新旧の額から計算すると,200万円超500万円以下がおよそ18パーセント,5,000万円超1億円以下がおよそ14パーセント,10億円超の基礎額がおよそ17パーセントであり,区分による差はあるものの,おおむね13パーセントから18パーセントの範囲に収まる。
なお,法律行為の目的の価額を算定することができないときは500万円とみなされる(公証人手数料令16条)。改正前はこの場合の手数料が11,000円であったのに対し,改正後は同じ計算により13,000円となる。
第4 新設された3か条
1 死後事務委任に関する公正証書(18条の2)
委任のうち委任者の死後に委任事務が処理されるものに限り,公正証書の作成手数料を9条の規定による額の10分の5とする規定が新設された。改正前は委任について特別の定めがなく,9条の原則どおり目的の価額に応じて算定されていた。報酬の定めがない死後事務委任契約は目的の価額を算定することができない場合に当たるため,16条により500万円とみなされて別表の13,000円が算出され,その10分の5である6,500円となる。日本公証人連合会が公表する手数料表も,報酬の定めがない場合を6,500円とし,報酬の定めがある場合は報酬の2倍の額に対応する手数料の2分の1とする取扱いを示している。
この引下げの背景として法務省及び日本公証人連合会が挙げるのは,身寄りのない高齢者が死後事務を行う者を欠くために賃貸借契約の締結を敬遠され住宅の確保が困難になるという事態であり,死後事務を生前に第三者へ委任する契約を普及させることが住宅確保に資するという判断である。契約の内容そのものについては死後事務委任契約の効力,内容及び作成時の注意点を参照されたい。
2 信託に関する公正証書(22条の2)
信託の公正証書の作成について,9条の規定による額に13,000円を加算する規定が新設された。ただし信託財産の価額が1億円を超えるときは加算しない。この構造は,遺言の公正証書について9条の額に13,000円を加算し,遺言の目的の価額が1億円を超えるときは加算しないとする19条1項と同じである。
同条は「第十九条第一項の規定の適用を受けるものを除く」との括弧書を置いており,遺言によって信託をする場合には遺言加算のみが適用され,遺言加算と信託加算とが重ねて適用されることはない。加算の理由として説明されているのは,遺言加算が置かれた理由,すなわち嘱託人が高齢で遺言能力の確認が問題となることが多く,内容も様々で公正証書の作成に特別の負担があるという事情が,家族信託の形態での利用が増え遺言の代替手段として位置付けられるようになった信託にも同様に当てはまる,という点である。信託自体の設計上の難点については家族信託(民事信託)が難しい4つの理由,遺言による信託については遺言信託を参照されたい。
3 電磁的記録の提供(40条の2)
公正証書が電磁的記録によって作成されることになったことに伴い,嘱託人等が電子正本又は電子謄本の提供を受ける場合の手数料が新設された。公正証書に係るものは1件2,500円,認証に係るものは1件2,000円である。従来からある書面の交付は40条1項により1枚300円であるから,2,500円を300円で除すると8.33となり,出力すると9枚以上になる公正証書では電磁的記録による提供の方が安く,8枚以下であれば書面の交付の方が安いという関係になる。原本,正本及び謄本の関係については公正証書遺言の原本,正本等及び謄本等で整理している。
第5 養育費に関する定期給付の上限
定期の給付を目的とする法律行為の価額は全期間の給付の価額の総額とするのが原則であるが,公証人手数料令13条1項ただし書は上限を設けており,改正前は動産の賃貸借及び雇用について5年間,その他の法律行為について10年間とされていた。改正により,このただし書に「子の監護に要する費用の分担についての定め」が加えられ,養育費についても5年分が上限となった。目的の価額が半分になるため,別表の区分をまたぐ場合には手数料が大きく下がる。
条文が対象とするのは「子の監護に要する費用の分担についての定め」であり,婚姻費用の分担についての定めはこれに含まれない。したがって離婚給付等契約公正証書において養育費と婚姻費用の双方を定める場合には,上限期間が5年と10年に分かれることになる。養育費の履行確保をめぐる近時の制度改正については法定養育費と養育費債権の先取特権で扱っている。
第6 個別の手数料額の改定
1 公正証書の作成に関するもの
| 条 | 対象 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|---|
| 17条 | 承認,許可若しくは同意又は当事者の双方が履行していない契約の解除 | 11,000円 | 13,000円 |
| 18条 | 委任状 | 7,000円 | 8,000円 |
| 19条1項 | 遺言加算 | 11,000円 | 13,000円 |
| 19条2項 | 遺言の全部又は一部の取消し | 11,000円 | 13,000円 |
| 21条1項・2項 | 企業担保権の設定・変更 | 110,000円・45,000円 | 127,000円・52,000円 |
| 22条1項 | 区分所有規約の設定(専有部分10個以下) | 23,000円 | 26,000円 |
| 23条3項 | 企業担保権の設定を被担保債権と併せて作成する場合の加算 | 55,000円 | 63,000円 |
| 25条1項 | 枚数加算(1枚につき) | 250円 | 300円 |
| 26条 | 事実実験(1時間までごと) | 11,000円 | 13,000円 |
| 27条 | 受取書又は拒絶証書 | 7,000円 | 8,000円 |
| 28条 | 秘密証書遺言の方式に関する記載 | 11,000円 | 13,000円 |
| 29条 | 関連する2以上の事実(1時間までごと) | 11,000円 | 13,000円 |
区分所有規約に関する22条は改定の項目数が多く,専有部分が10個を超える場合の10個ごとの加算が11,000円から13,000円へ,50個を超える場合の基礎額が67,000円から78,000円へ及び加算が9,000円から10,000円へ,100個を超える場合の基礎額が112,000円から128,000円へ及び20個ごとの加算が6,000円から7,000円へ,それぞれ改められた。棟数を基準とする2項も同様に23,000円が26,000円へ,5棟ごとの加算が11,000円から13,000円へ改められている。
2 執行文,送達,交付及び閲覧に関するもの
| 条 | 対象 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|---|
| 38条 | 執行文の付与(条件成就又は承継の場合は同額を加算) | 1,700円 | 2,000円 |
| 39条1項 | 送達 | 1,400円 | 1,600円 |
| 39条3項 | 送達に関する証明 | 250円 | 300円 |
| 39条の2 | 登記の嘱託 | 1,400円 | 1,600円 |
| 40条1項 | 公正証書に関する書面の交付(1枚につき) | 250円 | 300円 |
| 41条1項 | 公正証書又はその附属書類の閲覧(1回につき) | 200円 | 250円 |
40条及び41条は,いずれも改正により公正証書に関するものと認証に関するものとが項を分けて規律されることになり,認証に関するものは40条2項が1枚250円,41条2項が1回200円として従前の額が維持されている。したがって同じ「交付」「閲覧」でも,対象が公正証書か認証関係の書類かによって額が異なる。閲覧と謄本請求の手続については公正証書遺言の保存期間及び検索方法で扱っている。
3 デジタル化に伴う技術的な改正
電磁的記録によって作成された公正証書には「枚数」を観念できないため,25条2項が新設され,公正証書に記録されている事項の全部を出力した書面の枚数を枚数として扱い,かつ加算の起点を「3枚を超えるとき」と読み替えることとされた。書面によって作成された公正証書は縦書きであれば4枚を超えるときから加算されるので,同じ内容でも電磁的記録による原本の方が加算の始まる枚数が1枚早いことになる。
執行文の付与を定める38条は,対象として従来の債務名義の正本に加えて公証人法44条1項2号の書面を掲げるよう改められた。電磁的記録によって作成された公正証書では,債務名義となるものが書面を前提とする「正本」ではなく,公正証書に記録されている事項を記載し公証人が同一性を証明した書面となるためである。送達を定める39条1項も同様に,債務名義及び執行文に係る電磁的記録を送達の対象に加えている。
このほか,手数料等の計算書について「交付し,又は提供する」との文言が加えられ(4条2項),不払の場合に拒むことができる嘱託の列挙が改正後の公証人法の条文に沿って全面的に改められ(8条),病床加算の基礎となる「加算前の額」の対象に信託加算及び枚数加算の読替え適用が加えられた(32条)。あわせて条文中の「証書」の語が全体として「公正証書」に改められ,第2章の章名も「公正証書の作成の手数料」となった。
第7 据え置かれた手数料
1 据え置かれた項目
私署証書の認証は34条1項本文により11,000円で据え置かれ,外国語で記載されている場合の加算6,000円,私署証書の謄本の認証5,000円及び株主総会その他の集会の議事録の認証23,000円も改正されていない。電磁的記録の認証(35条の2)も11,000円のままである。定款の認証(35条)は,資本金の額等が100万円未満で発起人が3人以下の自然人であるなどの要件を満たす株式会社について15,000円,その他の100万円未満の場合について30,000円,100万円以上300万円未満について40,000円,それ以外について50,000円という区分が維持された。確定日付の付与及び日付情報の付与は各700円,電磁的記録の保存は300円,電磁的記録に記録された情報と同一であることの証明及び同一の情報の提供は各700円で,いずれも改正されていない。
出張に伴う日当及び旅費も改正の対象外である。43条は,日当を1日につき20,000円(4時間以内のときは10,000円),旅費を交通に要する実費の額等とする定めを維持している。病床での作成に係る5割の加算(32条)及び休日又は午後7時から翌日午前7時までの間に事実の実験がされた場合の5割の加算(30条)も,加算率自体は変わっていない。
2 私署証書の認証における派生的な変動
もっとも,私署証書の認証について「基本額が据え置かれた」ことと「実際に支払う額が変わらない」こととは同じではない。34条1項ただし書は,当該私署証書を公正証書として作成するとしたときの手数料の額の10分の5が11,000円を下回るときはその下回る額によるとしており,この10分の5の額は別表及び17条,18条の額から導かれる。別表等が改定された以上,ただし書が適用される領域では認証の額も連動して動く。
次の表のうち改正後の額は日本公証人連合会が公表するリーフレット記載の額であり,改正前の額は改正前の別表及び18条の額から34条1項ただし書により算出したものである。
| 私署証書の内容 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 委任状・受取書 | 3,500円 | 4,000円 |
| 目的の価額を算定することができない書類 | 5,500円 | 6,500円 |
| 目的の価額50万円まで | 2,500円 | 1,500円 |
| 目的の価額100万円まで | 2,500円 | 2,500円 |
| 目的の価額200万円まで | 3,500円 | 3,500円 |
| 目的の価額500万円まで | 5,500円 | 6,500円 |
| 目的の価額1,000万円まで | 8,500円 | 10,000円 |
| 目的の価額1,000万円超 | 11,000円 | 11,000円 |
目的の価額が50万円までの私署証書の認証は下がり,500万円まで及び1,000万円までの認証は上がっており,1,000万円を超えると34条1項本文の11,000円が上限として働く。外国語の場合に6,000円を加算する点及び宣誓認証について34条2項によりただし書が適用されない点は,改正の前後で変わらない。
第8 法務省が示した改正の理由
意見公募手続に付された政令案の概要において,法務省は,公正証書の作成手続が全面的にデジタル化されることに伴い電磁的記録による内容の証明等に係る手数料を新たに定めるほか,条ずれや用語の変更を含む整備を行うとした上で,手数料額の改定については,デジタル化に伴うシステム構築等に合わせ,近時の物価上昇への対応,並びにひとり親家庭や身寄りのない高齢者等にとって作成のニーズが高いと考えられる一定の公正証書の作成の負担軽減を図る必要があることなどの事情を踏まえたものであると説明している。改定の方向として同概要が明示するのは,目的の価額が200万円を超える公正証書及び類型的に公証人の負担が特に重い法律行為に係る公正証書の引上げと,目的の価額が50万円以下の公正証書並びに養育費及び死後事務委任に係る公正証書の引下げである。
法務省民事局が公表する「公正証書に係る一連の手続のデジタル化について」も,改正公証人法の施行に合わせて整備する政省令の一つとして公証人手数料令を挙げ,その内容を「手数料の適正化を図るための見直し等」と位置付けている。同資料はあわせて,公証人法施行規則に新たな仕組みの具体的規律を整備し,指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令(平成13年法務省令第24号)を廃止して公証手続一般に関する技術的・細目的事項を公証人法施行規則に一本化したことを示している。
手数料の見直しがどのような場合に行われるかについては,平成29年5月16日の参議院法務委員会において法務省民事局長が,事務の内容及び当事者の受ける利益を基礎として物価の状況や一般公務員の給与事情なども考慮して政令で定めていること,並びに見直しが必要となる場合として法改正により事務の内容に変更が生じた場合のほか物価や一般公務員の給与事情に大きな変動が生じた場合が考えられることを答弁している。今回の改正が法改正に伴う整備と物価上昇への対応という二つの理由を併記していることは,この従前の説明の枠組みに沿うものといえる。
第9 意見公募手続の経過と婚姻費用の取扱い
本件政令案の意見公募手続は,案件番号300080323として法務省民事局総務課公証係が所管し,次の日程で行われた。
| 事項 | 日付等 |
|---|---|
| 案の公示日 | 令和7年6月10日 |
| 受付締切日時 | 令和7年7月10日23時59分 |
| 結果の公示日 | 令和7年7月18日 |
| 命令等の公布日 | 令和7年7月18日 |
| 提出意見数 | 1件 |
| 提出意見を踏まえた案の修正の有無 | 無 |
提出された意見は1件のみであり,その内容は,13条1項で養育費の定めについての手数料が引き下げられたのに婚姻費用の定めについては引き下げられていないこと,婚姻費用も養育費と同様に軽減の必要性が大きく養育費と異なる扱いをする理由がないこと,及び婚姻費用の支払期間が10年に達することは稀であることを理由に,婚姻費用の定めについても5年間の給付の価額の総額を限度とすべきであるというものであった。
これに対する法務省の考え方は,民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)に関する衆議院及び参議院の各法務委員会の附帯決議において養育費の履行確保のさらなる強化について検討を深めることが政府に求められていること,一部の地方公共団体による作成費用の補助にもかかわらず養育費の定めについての公正証書の作成割合が低調でひとり親家庭にとって作成費用が負担になっていると考えられること,及び養育費の支払は一般に婚姻費用の支払に比して長期間にわたると考えられることから,養育費についての引下げを内容とする原案が相当である,というものであった。同時に,寄せられた意見を今後の手数料額の見直しに当たっての参考とする旨も述べられている。
もっとも,法務省が援用する附帯決議は,衆議院法務委員会の第五項及び参議院法務委員会の第七項であり,そのうち養育費のみを名指しするのは「公的機関による養育費の立替払い制度など,養育費の履行確保のさらなる強化について検討を深めること」という末尾の一文である。同じ項の前段は,養育費と婚姻費用の双方について標準算定表を参照して取り決められる額が適正なものとなるための配慮を含めて検討を行うことを求めており,婚姻費用を養育費と並べて掲げている。附帯決議の全体を見る限り,婚姻費用が政策的関心の外に置かれていたわけではないと読むのが自然であり,この点は法務省自身が今後の見直しの参考とする旨を述べていることとあわせて,次回の改定に向けた論点として残されたものと整理できる。
第10 経過措置とその後の改正
1 「嘱託」を基準とする経過措置
令和7年政令第263号の附則第1項は,同政令をデジタル化整備法附則第2号に掲げる規定の施行の日である令和7年10月1日から施行するものとし,附則第2項は,改正後の公証人手数料令の規定を施行の日以後にされる嘱託に係る手数料について適用し,同日前にされた嘱託に係る手数料については「なお従前の例による」としている。適用の基準時は嘱託の時であって,公正証書が作成された時ではない。
この点は,法律行為の目的の価額の算定時期を「公証人が公正証書の作成に着手した時」と定める10条とは基準が異なる。令和7年9月中に嘱託がされ,同年10月に公正証書が作成された事案では,適用される手数料の額は改正前の額によりつつ,目的の価額は作成に着手した時のものによる,という組合せになる。改定の前後にまたがる案件では,嘱託の時期を確認しておく必要がある。
2 令和8年政令第38号による改正
公証人手数料令は,令和7年10月1日の改正の後,令和8年政令第38号によって更に改められている。同政令は民事訴訟法等の一部を改正する法律の施行の日である令和8年5月21日から施行され,39条1項の送達の対象に,債権者が提出した文書の謄本に加えて当該文書の電磁的記録に記録されている事項の全部を記録した電磁的記録を掲げる内容である。金額の改定は含まれていないため,令和8年5月21日以後も手数料の額は令和7年10月1日改正後のものが適用される。
第11 出典・参考資料
1 法令
①公証人手数料令(平成5年政令第224号)9条・10条・13条・16条・17条・18条・18条の2・19条・21条・22条・22条の2・23条・25条・26条・27条・28条・29条・30条・32条・34条・35条・35条の2・37条・38条・39条・39条の2・40条・40条の2・41条・43条・別表(e-Gov法令検索。令和7年9月30日時点の版及び令和7年10月1日時点の版)
②公証人法(明治41年法律第53号)7条・9条(e-Gov法令検索)
③民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律について(令和5年法律第53号。法務省)
2 公文書・公的資料
①「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令案」に関する意見募集の結果について(案件番号300080323。法務省民事局総務課。結果の公示日令和7年7月18日。e-Govパブリック・コメント)
②同政令案について(概要)1頁~2頁(法務省。e-Govパブリック・コメント)
③同政令案 新旧対照条文(法務省。e-Govパブリック・コメント)
④同意見募集の結果 別紙(法務省民事局総務課。e-Govパブリック・コメント)
⑤公正証書に係る一連の手続のデジタル化について1頁(令和7年12月。法務省民事局)
⑥衆議院法務委員会における民法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議1頁~2頁(法務省ウェブサイト掲載)
⑦参議院法務委員会における民法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議1頁~2頁(法務省ウェブサイト掲載)
⑧第193回国会参議院法務委員会会議録第12号(平成29年5月16日。法務省民事局長答弁。国立国会図書館国会会議録検索システム)
3 ウェブ資料
①公証人手数料令の改正について(2025年9月5日。日本公証人連合会)
②2025年10月1日から公正証書の手数料が変わります。(2025年9月8日。日本公証人連合会)
③公証人手数料(令和7年10月1日から)(日本公証人連合会)
④公正証書の手数料が変わります(リーフレット)1頁~2頁(2025年8月20日版。日本公証人連合会)
⑤Q1.手数料制度の概要(日本公証人連合会)
4 文献
①金子武志「公証人手数料の改訂」東京弁護士会「LIBRA」2026年4月号11頁~14頁(特集「公証人に訊く-公正証書のデジタル化・ウェブ会議(リモート方式)による作成など-」所収)