会社法の改正史は,平成17年法律第86号の成立,平成26年法律第90号及び令和元年法律第70号による二度の大改正だけでは完結しない。
信託法,非訟事件手続法,民法,民事執行法,民事訴訟法,譲渡担保法制及び成年後見制度の改正も,会社法の実体規律又は会社関係事件の手続を順次変更しているからである。
AIで作成した本記事は,会社法本文の実質的な変更を網羅した上で,直接改正ではあるものの用語又は引用条項の整理にとどまる改正も完全沿革表に収録し,公布済み未施行改正及び現在の法制審議会における検討を区別して説明する。
第1 会社法改正史の読み方
1 「改正」を三つの層に分ける
会社法の沿革を正確に理解するためには,①会社の組織,株主,役員,資金調達又は組織再編の権利義務を変える実体改正,②会社関係事件の審理,送達,閲覧又は強制執行を変える手続改正,③他法の名称,刑名,欠格条項又は電子公告調査機関に関する引用を置き換える技術的整備を区別する必要がある。
平成26年改正及び令和元年改正は第一の層を広範に変更した大改正である。
これに対し,平成29年の債権法改正整備法,令和7年の譲渡担保法制整備法及び令和8年の成年後見制度整備法は,他法改正でありながら会社法上の権利義務を実質的に変えるため,省略できない。
他方,会社法943条の引用追加だけを行う法律等は,会社法の直接改正ではあるものの,通常の株式会社の内部規律を変えるものではない。
本記事では,この区別を維持したまま全てを掲載する。
2 会社法の発展を三期に分ける
第一期は,商法第二編,有限会社法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律等を統合し,平成17年法律第86号として独立法典を制定した時期である。
第二期は,平成26年法律第90号が,企業統治,親子会社,キャッシュ・アウト及び組織再編の規律を補強した時期である。
第三期は,令和元年法律第70号が,株主総会のデジタル化,取締役報酬,会社補償,D&O保険,社外取締役,社債及び株式交付を整備し,その後の裁判手続デジタル化等が会社法に接続した時期である。
この三期の間にも,信託,非訟,税徴収共助,債権法及び民事執行の各改正が会社法本文を更新している。
3 実務では行為時点の法令を確定する
会社法改正は,公布日に直ちに全面施行されるとは限らない。
平成17年会社法では本体が平成18年5月1日に施行された一方,合併等対価の柔軟化は平成19年5月1日まで施行が延期された。
令和元年改正でも,本体は令和3年3月1日,株主総会資料の電子提供制度及び支店所在地登記の廃止は令和4年9月1日に施行された。
さらに,令和8年7月16日現在のe-Gov掲載会社法には,令和7年法律第57号,令和5年法律第53号及び令和8年法律第46号による未施行改正が将来法として表示される。
したがって,契約締結日だけでなく,募集,株主総会招集,組織再編契約,効力発生日,訴え又は申立ての時点を特定し,改正法附則の経過措置を確認する必要がある。
第2 平成17年会社法の制定
1 独立法典化までの経緯
旧会社法制は,商法第二編,有限会社法,商法特例法その他の法律に分散し,片仮名文語体の条文と累次改正が併存していた。
法制審議会会社法(現代化関係)部会は平成14年9月に審議を開始し,平成15年10月に要綱試案を公表し,平成16年12月に要綱案を決定した。
法制審議会は平成17年2月9日,「会社法制の現代化に関する要綱」を法務大臣に答申し,政府は同年3月22日に会社法案及び整備法案を第162回国会へ提出した。[文献1,3頁~5頁]
国会審議では,代表訴訟の提訴制限案の一部,利益供与に関与した取締役等の責任及び自己株式の市場売却等が修正され,同年6月29日に両法が成立した。[文献1,5頁~7頁]
この制定は,既存法の平仮名口語体化及び再編成にとどまらず,会社法制全体の実質改正であった。
2 制定時の実質的変更
(1) 会社類型及び設立法制
株式会社制度と有限会社制度は株式会社へ統合され,会社法施行時に存在した有限会社は,整備法により株式会社である特例有限会社として存続することになった。[法令2]
新たな有限会社の設立はできなくなり,持分会社については合名会社及び合資会社に加えて合同会社が創設された。
株式会社の最低資本金制度は廃止され,資本金1円でも設立できる法制となった。
発起設立と募集設立の規律は整理され,設立時役員,現物出資,払込金保管証明等の規律も見直された。
(2) 定款自治,資金調達及び剰余金分配
株式譲渡制限会社を中心に定款自治が拡大され,株式,新株予約権及び社債の発行・管理に関する規律が再編された。
会社に対する金銭債権を現物出資する場合の検査役調査の例外等が整備され,資金調達手続の機動性が高められた。
旧商法上の利益配当,中間配当,資本・準備金の減少に伴う払戻し及び自己株式取得等は,統一的な剰余金分配規制へ再構成された。
剰余金配当の回数制限は撤廃され,一定の機関設計及び定款の定めを備える会社では,取締役会が剰余金配当等を決定できることになった。[文献1,3頁~4頁]
(3) 機関設計,責任及び会計
公開会社か否か,大会社か否か及び取締役会を置くか否かを軸として,株主総会,取締役,取締役会,監査役,監査役会,会計監査人及び委員会設置会社を組み合わせる機関設計が体系化された。
会計参与制度が創設され,会計監査人を任意に設置できる会社の範囲も拡大された。
大会社には,取締役の職務執行が法令及び定款に適合すること等を確保する体制,すなわち内部統制システムの基本方針決定が義務付けられた。
取締役等の会社に対する責任,責任の一部免除及び責任限定契約の規律が整理され,株主代表訴訟については,株式交換等によって株主資格を失った原告の訴訟追行,不提訴理由の通知及び制度趣旨に反する訴えの制限等が整備された。[文献1,3頁~4頁]
(4) 組織再編及び特別清算
合併,会社分割,株式交換及び株式移転の規律が会社法に統合され,簡易組織再編の要件が緩和され,支配関係のある会社間の略式組織再編が創設された。
合併等の対価を存続会社等の株式に限定しない対価の柔軟化が導入され,外国会社の株式又は金銭を用いる組織再編の法的基盤が整備された。
事業譲渡及び組織変更の規律も会社類型の再編に合わせて整理された。
特別清算では,親子会社等の管轄特例,協定の可決要件,特別清算開始の効力を受ける債権の範囲及び清算株式会社の行為制限が見直された。[文献1,4頁]
3 成立,公布及び段階施行
会社法は平成17年6月29日に成立し,同年7月26日に平成17年法律第86号として公布された。
同日に,旧商法その他326法律の調整,有限会社法及び商法特例法の廃止,特例有限会社その他の経過措置を定める会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号)も公布された。[法令2]
会社法及び整備法は,平成18年5月1日に施行された。[文献6]
ただし,合併等対価の柔軟化に関する規定は,国内企業への影響等を考慮して1年間施行が延期され,平成19年5月1日に施行された。[文献1,264頁~266頁]
第3 平成26年改正
1 立法経緯,法律番号及び施行日
平成17年会社法は機動的な企業活動を可能にした一方,社外取締役の位置付け,企業集団の統制,親会社株主及び子会社少数株主の保護並びにキャッシュ・アウト手続等に課題を残した。
法制審議会会社法制部会の審議を経た会社法改正案は平成25年11月29日に国会へ提出され,平成26年6月20日に成立し,同月27日に平成26年法律第90号として公布された。[法令3][文献7]
同日,関係法律を調整する平成26年法律第91号も公布された。[法令4]
両法の主要部分は平成27年5月1日に施行された。
2 企業統治の改正
監査役会設置会社及び指名委員会等設置会社に加え,三人以上の取締役から成る監査等委員会が取締役の職務執行を監査する監査等委員会設置会社が創設された。
監査等委員である取締役は他の取締役と区別して株主総会で選任され,任期,解任決議,報酬及び選任議案に関する意見陳述権等により独立性が確保された。
監査等委員会設置会社では,取締役の過半数が社外取締役である場合又は定款の定めがある場合に,重要な業務執行の決定を取締役へ大幅に委任できるため,取締役会を監督中心に構成する選択肢が設けられた。
当時は上場会社等への社外取締役選任義務化までは行われず,事業年度末に社外取締役を置かない一定の会社について,定時株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明する義務が設けられた。
社外取締役及び社外監査役の要件には,親会社等の関係者,兄弟会社の業務執行者及び取締役等の近親者を排除する要件が追加される一方,過去要件は原則10年間に限定された。
責任限定契約を締結できる者の範囲は,社外役員か否かではなく,業務執行取締役等でないことを基準とする形に改められた。
監査役又は監査役会が,会計監査人の選任,解任及び不再任に関する株主総会議案の内容を決定することになった。[文献2,16頁~137頁]
3 募集株式等及び支配権異動の改正
公開会社が募集株式又は募集新株予約権を第三者に割り当て,特定引受人が議決権の過半数を取得することになる場合には,会社は株主へ通知又は公告を行い,一定割合の株主が反対したときは,原則として株主総会の承認を得る制度が設けられた。
これにより,著しく不公正な発行の差止めだけに依存せず,支配株主の異動を伴う第三者割当てを株主が事前に統制する仕組みが導入された。
出資の履行を仮装した募集株式又は募集新株予約権について,引受人の支払義務,仮装に関与した取締役等の責任及び株主権行使の制限が明文化された。
新株予約権無償割当てについては,割当通知を行使期間初日の2週間前までに行うこととされ,権利行使の実効性が確保された。[文献2,139頁~167頁]
4 企業集団法制の改正
最終完全親会社等の一定割合以上の株式を保有する株主が,完全子会社の取締役等の責任を追及する特定責任追及の訴え,いわゆる多重代表訴訟が創設された。
株主代表訴訟の係属中に株式交換等が行われた場合に,旧株主が訴訟を追行できる範囲も拡張された。
取締役会が決定すべき内部統制システムには,株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保する体制が法律上明記され,会社法施行規則及び事業報告の開示も連動して整備された。
親会社が重要な子会社株式又は持分の全部又は一部を譲渡し,譲渡後に議決権の過半数を失う場合には,一定の重要性基準の下で親会社株主総会の承認を要することになった。
もっとも,子会社取締役等に対する親会社の直接的な指揮監督義務又は子会社少数株主の一般的な損害賠償請求権は創設されなかったため,平成26年改正は企業集団法制の全面的な法典化ではなく,個別の制度的空白を補う改正と位置付けるべきである。[文献2,174頁~247頁]
5 キャッシュ・アウト及び組織再編の改正
総株主の議決権の90%以上を直接又は一定の関係法人と合算して保有する特別支配株主が,対象会社の承認を得て,少数株主の株式及び新株予約権の全部を取得できる株式等売渡請求制度が創設された。
同制度は対象会社の株主総会決議を要しないため,公開買付け後に90%以上を取得した場合の二段階買収や,非公開会社の事業承継におけるキャッシュ・アウトに定着した。[文献11]
少数株主保護のため,対象会社の承認,事前通知,差止請求,売買価格決定申立て及び無効の訴えが整備された。
全部取得条項付種類株式の取得及び株式併合については,事前・事後開示,価格決定申立期間,通知及び差止め等が整備され,株式併合によるキャッシュ・アウトにも反対株主の株式買取請求が設けられた。
組織再編における株式買取請求については,振替株式の買取口座,買取りの効力発生時,会社による価格決定前の仮払制度,簡易又は略式組織再編における請求権の範囲等が見直された。
略式組織再編に限られていた差止制度は,法令又は定款違反によって株主が不利益を受けるおそれがある組織再編一般へ拡張された。
承継会社が残存債権者を害することを知って行われた詐害的会社分割について,残存債権者が承継会社に承継財産の価額を限度として履行を請求できる制度が新設された。[文献2,250頁~357頁]
6 その他の改正
非公開会社が公開会社へ移行する場合の発行可能株式総数,株式併合時の発行可能株式総数,新設組織再編時の設立会社の発行可能株式総数が整備された。
株主名簿の閲覧・謄写請求の拒絶事由から,請求者が会社と実質的な競争関係にあることだけを理由とする拒絶が削除された。
総数引受契約による募集株式の割当て,吸収分割会社が承継会社株式を株主へ交付する場合,株式移転無効の訴えの原告適格等が整備された。
監査役の監査範囲を会計に限定する旨の定款の定めは登記事項となり,従前からその定めがあるとみなされる会社にも経過措置が設けられた。[文献2,358頁~389頁]
第4 令和元年改正
1 立法経緯,法律番号及び段階施行
平成26年法律第90号附則25条は,施行後2年を経過した場合に,社外取締役の選任状況等を踏まえて企業統治制度を検討するよう政府に求めた。
これに加え,コーポレートガバナンス・コード,スチュワードシップ・コード,株主総会資料の電子化,濫用的な株主提案及び取締役への適切なインセンティブ付与が改正の背景となった。[文献4,2頁~7頁]
法務大臣は平成29年2月9日に法制審議会へ諮問し,同審議会は平成31年2月14日に要綱を答申した。
政府は令和元年10月18日に法案を提出し,衆議院修正により株主提案の目的による拒絶規定を削除した上で,同年12月4日に成立し,同月11日に会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)及び整備法(令和元年法律第71号)が公布された。[法令5][法令6][文献4,5頁~7頁]
改正の主要部分は令和3年3月1日に施行された。
株主総会資料の電子提供制度及び支店所在地登記の廃止は,システム及び実務の準備期間を置き,令和4年9月1日に施行された。
2 株主総会の改正
取締役は,定款の定めに基づき,株主総会参考書類,議決権行使書面,計算書類及び事業報告等をウェブサイトに掲載する電子提供措置をとり,株主にはアクセス方法等を記載した招集通知を送付できることになった。
振替株式を発行する上場会社等では電子提供措置が義務付けられ,定款にその旨の定めがあるものとみなされる一方,株主には電子提供事項を記載した書面の交付請求権が認められた。
電子提供措置の開始時期,継続期間,中断時の救済,登記及び有価証券報告書による代替も整備された。[文献3,12頁~50頁][文献12]
株主が同一の株主総会について提出できる議案の数は原則10に制限され,議案の数え方及び例外が定められた。
当初案にあった,専ら人の名誉を侵害し,又は人を侮辱する目的等による提案を拒絶できる規定は,目的認定の困難さ等を理由とする国会修正で削除された。[文献5,1頁~10頁][文献13]
3 取締役等の報酬,補償及び保険
上場会社等では,取締役会が取締役の個人別報酬等の内容についての決定方針を定めることが義務付けられ,株主総会における報酬議案の説明及び事業報告の開示も拡充された。
株式又は新株予約権による報酬について株主総会決議事項が明確化され,上場会社では取締役の報酬として払込みを要しない株式又は新株予約権を交付できる制度が設けられた。
会社が役員等の職務執行に関して生じた防御費用又は損害賠償金等を補償する会社補償契約について,決定機関,補償できない範囲,利益相反及び開示を定める430条の2が新設された。
役員等賠償責任保険契約についても,決定機関,利益相反規制の適用除外及び開示を定める430条の3が新設された。[文献3,75頁~146頁]
4 社外取締役の活用
監査役会設置会社であって公開会社かつ大会社であり,有価証券報告書提出会社である上場会社等には,社外取締役を置くことが義務付けられた。
これは平成26年改正の「置くことが相当でない理由」の説明義務から,法的な設置義務への転換である。
会社と取締役の利益が相反する状況その他取締役が会社の業務を執行すると株主の利益を損なうおそれがある状況では,取締役会が社外取締役へその業務執行を委託しても,当該行為だけでは社外性を失わない旨が明文化された。[文献3,147頁~160頁]
5 社債及び株式交付
担保付社債等を除き社債管理者を置く義務がない場合に,社債権者のため破産手続参加,債権届出その他の限定された管理を行う社債管理補助者制度が創設された。
社債権者集会では,元本減免等に関する権限の明確化及び全員同意による決議省略が整備された。
株式会社が他の株式会社を子会社とするため,その株主から株式を譲り受け,自社株式を対価として交付する株式交付制度が創設された。
株式交換が完全子会社化を目的とする制度であるのに対し,株式交付は完全子会社化に至らない買収にも利用できるが,外国会社又は持分会社を子会社とする場面には適用できない。
株式交付計画,申込み・割当て,親会社側の株主総会,簡易手続,債権者保護,事前・事後開示及び無効の訴えが一体として整備された。[文献3,163頁~222頁]
6 訴訟,閲覧,登記及び資格に関する改正
取締役等の責任追及等の訴えにおいて会社が和解する場合には,監査役等の同意を要することになった。
議決権行使書面及び代理権を証明する書面等の閲覧・謄写請求には拒絶事由が設けられ,請求権の濫用への対応が図られた。
全部取得条項付種類株式の取得及び株式併合における事前開示事項が拡充され,新株予約権の登記事項も見直された。
会社の支店所在地における登記制度は廃止された。
成年被後見人及び被保佐人を取締役等の欠格事由とする規定は削除され,就任承諾,法定代理人の同意及び職務行為の責任等に関する特則が設けられた。
この成年被後見人等に関する特則は,後述する令和8年成年後見制度改正に伴い,将来再改正される。[文献3,223頁~271頁]
第5 他法改正による実質的な会社法改正
1 信託法制による改正
信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第109号)は,平成19年9月30日に施行された。[法令7]
同法は,株式,新株予約権及び社債について信託財産である旨を株主名簿,新株予約権原簿又は社債原簿に記載・記録しなければ第三者に対抗できない規律を,会社法154条の2,272条の2及び695条の2として設けた。
また,株式併合,株式分割その他の場合の株主名簿記載事項等を整備した。
これは通常の会社組織そのものの改正ではないが,信託を利用した株式等の管理及び権利帰属に直接影響する実体改正である。
2 非訟事件手続及び特別清算による改正
非訟事件手続法及び家事事件手続法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成23年法律第53号)は,平成25年1月1日に施行された。[法令8]
会社法上の非訟事件について,陳述聴取,審問,記録閲覧,抗告及び裁判の告知等を新非訟事件手続法に適合させるため,会社法233条,291条,699条,868条以下等が改正され,870条の2及び872条の2等が新設された。
租税特別措置法等の一部を改正する法律(平成24年法律第16号)のうち会社法改正部分は平成25年7月1日に施行され,外国租税徴収共助に対応して,特別清算の中止命令,換価,協定及び清算手続と共助対象租税債権の関係が整備された。[法令9]
3 平成29年民法改正整備法による改正
民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号)は,債権法改正と同時に令和2年4月1日に施行された。[法令10]
事業譲渡時の商号続用責任等について悪意要件及び責任期間が見直され,会社法23条の2の期間は20年から10年へ変更された。
募集株式及び新株予約権の申込み又は引受けに関する無効・取消しの規律が,意思表示法制の改正に合わせて調整された。
反対株主の株式買取請求,持分払戻し及び組織再編等に伴う価格支払について,年6分の固定利率は法定利率へ変更された。
持分会社の社員の責任,退社,利益相反取引及び業務執行社員の義務は,保証,委任,消滅時効その他の民法改正に合わせて変更された。
社債の消滅時効及び時効完成猶予・更新の規律も改められた。
詐害的な事業譲渡,会社分割その他の組織再編については,民法上の詐害行為取消権との関係及び相手方保護を含む規律が改正された。
したがって,平成29年法律第45号は単なる引用条文の置換ではなく,会社法上の請求権の存続期間,利息,責任及び取消しを広く変更した実体改正である。[文献10,2頁~3頁]
4 民事執行及び裁判手続のデジタル化による改正
民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施法の一部を改正する法律(令和元年法律第2号)は,令和2年4月1日,特別清算における中止命令の対象へ第三者からの情報取得手続を加えた。[法令11]
民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)は,令和8年5月21日施行の段階で,会社法883条の公示送達等を民事訴訟手続のデジタル化に接続した。[法令12]
民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号)は,会社法上の特別清算事件等について,電子申立て,電子裁判書,ファイル記録事項の閲覧・複写,電磁的記録による証明及び電子送達を本格的に整備する。[法令13]
会社法改正の主要部分は令和10年6月13日に施行される予定であり,令和8年7月16日現在は未施行である。
5 譲渡担保法制による未施行改正
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和7年法律第57号)は,令和9年12月5日に施行される予定である。[法令14]
特別清算における担保権実行の中止命令について,債権質権の実行禁止を明記し,担保権者に不当な損害を及ぼさないための条件付命令を認める。
中止命令中の時効完成を防ぐ規律,命令を知る第三債務者の質権者への弁済の効力,第三債務者による供託及び事後的な担保権者の陳述聴取も設けられる。
改正対象は会社法516条,516条の2及び891条であり,企業担保及び倒産実務に実質的な影響を持つ。
6 成年後見制度による未施行改正
民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和8年法律第46号)は,令和8年6月24日に公布され,会社法の主要改正部分は令和10年12月23日に施行される予定である。[法令15]
令和元年改正後の会社法331条の2は,成年被後見人又は被保佐人の取締役就任について法定代理人の関与を定めている。
令和8年改正は,成年後見制度の類型及び効果の見直しに合わせ,特定補助人を付する処分がある者の就任承諾及び代理・同意の規律へ置き換える。
持分会社社員の法定退社事由を定める会社法607条も,後見開始又は保佐開始から,新制度上の処分に対応する規律へ変更される。
第6 会社法改正の完全沿革表
1 表の見方
次の表は,e-Govの会社法沿革に掲げられる改正法及び会社法大改正の施行整備法を基準とする。
「実体」は会社又は関係者の権利義務を変更するもの,「手続」は会社関係事件の裁判手続等を変更するもの,「技術」は名称,引用条項,刑名又は電子公告関係の調整を主とするもの,「整備」は大改正の施行に伴う関係法及び経過措置である。
複数段階で施行された法律は,会社法に主要な影響を与えた施行日を記載する。
2 平成18年から平成27年まで
| 公布日 | 法律番号 | 会社法関係の主な施行日 | 会社法への影響 | 分類 |
|---|---|---|---|---|
| 平成18年6月2日 | 平成18年法律第50号 | 平成20年12月1日 | 一般社団・財団法人法制に伴う欠格条項及び電子公告関係の整理 | 技術 |
| 平成18年6月14日 | 平成18年法律第66号 | 平成19年9月30日 | 証券取引法から金融商品取引法への移行,欠格条項,報告及び電子公告関係の整理 | 技術 |
| 平成18年12月15日 | 平成18年法律第109号 | 平成19年9月30日 | 株式,新株予約権及び社債が信託財産であることの対抗要件等 | 実体 |
| 平成19年5月16日 | 平成19年法律第47号 | 平成20年4月1日 | 消費生活協同組合法に係る電子公告調査機関の罰則引用追加 | 技術 |
| 平成19年6月27日 | 平成19年法律第99号 | 平成20年4月1日 | 公認会計士法改正に伴う電子公告関係等の整理 | 技術 |
| 平成20年6月13日 | 平成20年法律第65号 | 平成20年12月12日 | 金融商品取引法の条項及び欠格事由の引用整理 | 技術 |
| 平成21年4月30日 | 平成21年法律第29号 | 平成21年6月22日 | 産業活力再生法改正に伴う電子公告関係の整理 | 技術 |
| 平成21年6月24日 | 平成21年法律第58号 | 平成22年4月1日 | 金融商品取引法改正に伴う電子公告関係の整理 | 技術 |
| 平成21年7月10日 | 平成21年法律第74号 | 平成23年1月1日 | 商品取引所法から商品先物取引法への名称・引用整理 | 技術 |
| 平成23年5月25日 | 平成23年法律第53号 | 平成25年1月1日 | 新非訟事件手続法に合わせた会社非訟事件の審理,閲覧,抗告等 | 手続 |
| 平成23年6月24日 | 平成23年法律第74号 | 平成23年7月14日 | 情報処理高度化対応の刑法等改正に伴う罰則・整備法関係の調整 | 技術 |
| 平成24年3月31日 | 平成24年法律第16号 | 平成25年7月1日 | 外国租税徴収共助と特別清算の中止,換価及び協定の調整 | 実体・手続 |
| 平成25年6月19日 | 平成25年法律第45号 | 平成26年4月1日 | 金融商品取引法上の罰則追加に伴う取締役等の欠格条項整理 | 技術 |
| 平成26年5月30日 | 平成26年法律第42号 | 平成28年4月1日 | 地方自治法改正に伴う会社法21条の引用・文言整理 | 技術 |
| 平成26年6月27日 | 平成26年法律第90号 | 平成27年5月1日 | 監査等委員会,社外性,第三者割当て,多重代表訴訟,キャッシュ・アウト,組織再編等 | 実体 |
| 平成26年6月27日 | 平成26年法律第91号 | 平成27年5月1日 | 平成26年改正に伴う商業登記法等の改正及び経過措置 | 整備 |
| 平成27年9月4日 | 平成27年法律第63号 | 平成28年4月1日 | 農業協同組合法改正に伴う電子公告関係の整理 | 技術 |
3 平成28年から令和6年まで
| 公布日 | 法律番号 | 会社法関係の主な施行日 | 会社法への影響 | 分類 |
|---|---|---|---|---|
| 平成28年6月3日 | 平成28年法律第62号 | 平成29年4月1日 | 銀行法等改正に伴う電子公告関係の整理 | 技術 |
| 平成29年6月2日 | 平成29年法律第45号 | 令和2年4月1日 | 商号続用責任,意思表示,法定利率,持分会社,社債時効及び詐害的組織再編等 | 実体 |
| 平成30年12月14日 | 平成30年法律第95号 | 令和2年12月1日 | 漁業法改正に伴う電子公告関係の整理 | 技術 |
| 令和元年5月17日 | 令和元年法律第2号 | 令和2年4月1日 | 特別清算の中止命令の対象へ第三者からの情報取得手続を追加 | 手続 |
| 令和元年12月11日 | 令和元年法律第70号 | 令和3年3月1日・令和4年9月1日 | 電子提供,株主提案,報酬,補償,D&O保険,社外取締役,社債管理補助者,株式交付等 | 実体 |
| 令和元年12月11日 | 令和元年法律第71号 | 令和3年3月1日・令和4年9月1日 | 令和元年改正に伴う商業登記法等90法律の改正及び経過措置 | 整備 |
| 令和2年5月29日 | 令和2年法律第33号 | 令和2年8月29日・令和4年11月1日 | 外国法事務弁護士法人等の制度変更に伴う会社法上の法人範囲及び電子公告関係の整理 | 技術 |
| 令和2年12月11日 | 令和2年法律第78号 | 令和4年10月1日 | 労働者協同組合法制定に伴う電子公告関係の整理 | 技術 |
| 令和4年5月25日 | 令和4年法律第48号 | 令和8年5月21日 | 会社関係事件の公示送達等を民事訴訟手続のデジタル化へ接続 | 手続 |
| 令和4年6月10日 | 令和4年法律第61号 | 令和5年6月1日 | 資金決済法制改正に伴う電子公告関係の整理 | 技術 |
| 令和4年6月17日 | 令和4年法律第68号 | 令和7年6月1日 | 懲役・禁錮から拘禁刑への移行に伴う欠格条項及び罰則文言の整理 | 技術 |
| 令和5年6月14日 | 令和5年法律第53号 | 公布日・令和7年10月1日に一部施行,主要部分は未施行 | 特別清算等の全面的デジタル化 | 手続 |
| 令和6年5月22日 | 令和6年法律第32号 | 令和6年5月22日から令和8年5月1日まで段階施行 | 金融商品取引法の罰則再編に伴う欠格条項の引用整理 | 技術 |
4 公布済み未施行改正
| 公布日 | 法律番号 | 施行予定日 | 会社法への影響 | 分類 |
|---|---|---|---|---|
| 令和7年6月6日 | 令和7年法律第57号 | 令和9年12月5日 | 特別清算における債権質権の実行禁止,時効,第三債務者の弁済及び供託 | 実体・手続 |
| 令和5年6月14日 | 令和5年法律第53号 | 令和10年6月13日 | 電子申立て,電子裁判書,ファイル記録の閲覧・複写及び電子送達 | 手続 |
| 令和8年6月24日 | 令和8年法律第46号 | 令和10年12月23日 | 特定補助人を付する処分と取締役就任,持分会社社員の法定退社事由 | 実体 |
以上のとおり,会社法の大規模な実体改正は平成26年及び令和元年の二法であるが,実質的な会社法改正は信託,非訟,租税徴収共助,債権法,民事執行,裁判手続,譲渡担保及び成年後見にも及ぶ。
第7 実務上の到達点と今後の改正
1 改正法適用の確認手順
実務では,第一に問題となる会社の類型,公開・非公開,大会社該当性,機関設計及び上場・有価証券報告書提出の有無を確認する。
第二に,株主総会招集,募集事項の決定,取締役会決議,組織再編契約,効力発生又は裁判申立てという基準時を特定する。
第三に,e-Govの現行条文だけでなく,当該基準時の過去時点版,改正法附則,施行期日政令及び整備法の経過措置を確認する。
第四に,会社法施行規則,会社計算規則,商業登記規則,振替法及び金融商品取引法等の関連法令を重ねる。
特に,電子提供,株式等売渡請求,株式交付,取締役報酬及び組織再編では,会社法本文だけで手続が完結しない。
2 改正史を貫く三つの方向
第一の方向は,平成17年制定の中心であった定款自治,資金調達及び組織再編の機動化である。
第二の方向は,平成26年改正及び令和元年改正の中心であった企業統治,少数株主保護,企業集団及び役員利益相反の統制である。
第三の方向は,電子提供措置及び裁判手続IT化に現れるデジタル化である。
会社法改正史は規制緩和から規制強化へ一方向に進んだのではなく,企業活動の機動性を拡大するたびに,開示,手続保障,社外監督及び救済を組み合わせて均衡を取り直してきた歴史である。
平成26年改正後に株式等売渡請求が二段階買収の標準的手法となり,令和元年改正後に電子提供措置が上場会社の株主総会実務の基盤となったことは,制度改正が実務手順そのものを変えた代表例である。[文献11][文献12]
3 令和8年の法制審議会における検討
法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会は,令和8年3月18日,中間試案を取りまとめた。[文献8]
検討対象には,株式の無償交付の対象拡大,株式交付及び現物出資制度の見直し,バーチャルオンリー株主総会・社債権者集会の恒久法制,実質株主確認制度,株主総会のデジタル化及び会議体としての株主総会の合理化が含まれる。
同年5月22日にパブリックコメント期間が終了し,同年6月24日の第15回部会では寄せられた意見の概要等が扱われたが,令和8年7月16日現在,これらは中間試案段階であり,会社法改正法として成立していない。[文献9][文献14]
したがって,公布済み未施行の令和7年法律第57号,令和5年法律第53号及び令和8年法律第46号と,将来の立法案にすぎない中間試案を混同してはならない。
第8 出典
1 法令
① 法令1 会社法(平成17年法律第86号)・e-Gov法令検索
② 法令2 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号)・e-Gov法令検索
③ 法令3 会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)・e-Gov法令検索
④ 法令4 平成26年会社法改正整備法(平成26年法律第91号)・衆議院
⑤ 法令5 会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)・e-Gov法令検索
⑥ 法令6 令和元年会社法改正整備法(令和元年法律第71号)・衆議院
⑦ 法令7 信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第109号)・e-Gov法令検索
⑧ 法令8 非訟事件手続法及び家事事件手続法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成23年法律第53号)・e-Gov法令検索
⑨ 法令9 租税特別措置法等の一部を改正する法律(平成24年法律第16号)・衆議院
⑩ 法令10 民法改正整備法(平成29年法律第45号)・e-Gov法令検索
⑪ 法令11 民事執行法等の一部を改正する法律(令和元年法律第2号)・e-Gov法令検索
⑫ 法令12 民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)・e-Gov法令検索
⑬ 法令13 民事関係手続等IT化整備法(令和5年法律第53号)・e-Gov法令検索
⑭ 法令14 譲渡担保法制整備法(令和7年法律第57号)・衆議院
⑮ 法令15 民法等改正整備法(令和8年法律第46号)・法務省
2 裁判例
本記事は,個別の裁判例の判旨に依拠せず,法令,立法資料及び文献に基づいて改正経緯を整理したため,掲載する裁判例はない。
3 文献
① 相澤哲編著『一問一答 新・会社法〔改訂版〕』商事法務,2009年,3頁~7頁,264頁~266頁。
② 坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法〔第2版〕』商事法務,2015年,1頁~389頁。
③ 竹林俊憲編著『一問一答 令和元年改正会社法』商事法務,2020年,1頁~271頁。
④ 野村修也・奥山健志編著『令和元年 改正会社法―改正の経緯とポイント』有斐閣,2021年,2頁,5頁~7頁,215頁。
⑤ 安達敏男・吉川樹士・須田啓一郎・安藤啓一郎『企業法務はここを押さえる!令和元年会社法改正ガイドブック』日本加除出版,2020年,1頁~10頁。
⑧ 法務省「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」
⑨ 法務省「法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会」
⑩ 神田秀樹『会社法〔第20版〕』弘文堂,2018年,改正事項に関する各該当頁。
⑪ BUSINESS LAWYERS「株式等売渡請求とは?法改正や実務の動向を踏まえて解説」
⑫ BUSINESS LAWYERS「電子提供措置とは?アクセス通知などの実務を弁護士が解説」