訴訟能力,訴状等の受送達者,審判前の保全処分及び特別代理人


目次
第1 訴訟能力
1 総論
2 未成年者
3 成年被後見人等
第2 訴状等の受送達者
1 総論
2 未成年者
3 成年被後見人
4 被保佐人
5 被補助人
6 意思無能力者
7 任意後見人
第3 審判前の保全処分が出た場合の取扱い
1 総論
2 後見命令が出た場合の取扱い
3 保佐命令が出た場合の取扱い
第4 訴訟係属後に当事者が訴訟能力を喪失した場合の取扱い
第5 特別代理人
1 総論
2 原告側の特別代理人
3 離婚訴訟等における特別代理人
4 強制執行開始前に債務者が死亡して相続人がいない場合における特別代理人
5 相続放棄の申述における特別代理人
6 その他
第6 関連記事その他

第1 訴訟能力
1 総論
(1) 訴訟能力とは,その者の名において(自ら又は自ら選任した代理人によって)訴訟行為を有効に行い,又は(裁判所又は相手方の)訴訟行為を有効に受けることができる一般的な能力を意味し,民訴法上特別の定め(民訴法31条以下)がある場合を除いて,民法の行為能力を基準にして決定されます(民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)27頁)。
(2) 制限行為能力者としては,未成年者,成年被後見人,被保佐人及び被補助人がいます(民法13条1項10号)。
    そして,民事訴訟手続の場合,未成年者は原則として訴訟無能力者であり,成年被後見人は常に訴訟無能力者であり,被保佐人及び被補助人は制限訴訟能力者です。
2 未成年者
(1)ア 未成年者は,独立して法律行為をすることができる場合を除いて,訴訟無能力者となります(民訴法31条)。
イ 例えば,法定代理人の同意を得て労働契約を締結した未成年者は,その労働契約又は賃金に関しては,独立して法律行為をすることができます(労働基準法59条)から,その限りで訴訟能力を有します。
(2) 未成年者は,人事訴訟では,意思能力がある限り完全な訴訟能力が認められます(最高裁昭和43年8月27日判決(判例秘書に掲載))。
3 成年被後見人等
(1) 成年被後見人は,人事訴訟の場合も含めて常に訴訟無能力者となります(民訴法31条本文及び人事訴訟法14条1項本文)。
(2)ア 被保佐人は,民事訴訟において一定の場合に訴訟能力が認められますから,制限訴訟能力者となります。
イ 被保佐人は,人事訴訟では完全な訴訟能力を認められます(人事訴訟法13条1項)。
(3)ア 訴訟行為(民法13条1項4号)が要同意事項とされた被補助人は,一定の場合に訴訟能力が認められますから,制限訴訟能力者となります。
イ 被補助人は,人事訴訟では完全な訴訟能力を認められます(人事訴訟法13条1項)。

第2 訴状等の受送達者
1 総論

    訴訟無能力者に対する送達は,その法定代理人に対して行う必要があります(民事訴訟法102条1項)。
2 未成年者

(1) 未成年者が訴訟当事者である場合,法定代理人である両親(民法818条3項及び824条本文)が受送達者となりますところ,両親のいずれかに送達すれば足ります(民事訴訟法102条2項)。
(2) 未成年者が訴訟当事者となる場合,未成年者の戸籍謄本を提出する必要があります。
3 成年被後見人
(1) 成年被後見人が訴訟当事者である場合,法定代理人である成年後見人(民法859条1項)が受送達者となります。
(2) 成年後見人が法人である場合(民法843条4項参照),受送達者は法人の代表者となります。
(3) 成年被後見人が訴訟当事者となる場合,成年被後見人の登記事項証明書(後見登記等に関する法律10条)を提出する必要があります。
4 被保佐人
(1) 訴訟提起された場合
ア 相手方の提起した訴え等について受動的訴訟行為(応訴)する場合,保佐人の同意は不要です(民訴法32条1項)。
イ 応訴には送達受領行為も含め相手方の提起した訴えに対するすべての訴訟行為が含まれますから,受送達者は被保佐人となります。
ウ 保佐人に対して訴訟行為についての代理権(民法13条1項4号・876条の4)が付与されている場合,保佐人も受送達者となります。
(2) 訴訟提起する場合
ア 被保佐人は,訴訟行為をすることについて保佐人の同意(民法13条1項4号)又はこの同意に代わる家庭裁判所の許可(民法13条3項)があれば,訴訟の提起を含む訴訟行為ができます。
イ 保佐人の同意に代わる許可の申立てを却下する審判に対しては即時抗告できます(家事事件手続法132条1項5号)。
ウ 保佐人の同意書がある場合(民事訴訟規則15条),受送達者は被保佐人となります。
エ 訴えの提起に当たり特段の留保を付けずに保佐人の同意が与えられた場合,準禁治産者(現在の被保佐人に相当するもの)は,さらにその同意を受けなくても当該訴訟について控訴又は上告をすることができました(最高裁昭和43年11月19日判決(判例秘書に掲載))。
オ 保佐人に対して訴訟行為についての代理権(民法13条1項4号・876条の4)が付与されている場合,保佐人が訴訟行為をします。
5 被補助人
(1) 訴訟提起された場合
ア 相手方の提起した訴え等について受動的訴訟行為(応訴)する場合,補助人の同意は不要です(民訴法32条1項)。
イ 応訴には送達受領行為も含め相手方の提起した訴えに対するすべての訴訟行為が含まれますから,受送達者は被補助人となります。
ウ 補助人に対して訴訟行為についての代理権(民法17条1項・13条1項4号・876条の9)が付与されている場合,補助人も受送達者となります。
(2) 訴訟提起する場合
ア 訴訟行為(民法13条1項4号)が要同意事項とされた被補助人は,補助人の同意又はこの同意に代わる家庭裁判所の許可(民法17条3項)があれば,訴訟の提起を含む訴訟行為ができます。
イ 補助人の同意に代わる許可の申立てを却下する審判に対しては即時抗告できます(家事事件手続法141条1項4号)。
ウ 補助人の同意書がある場合(民事訴訟規則15条),受送達者は被補助人となります。
エ 補助人に対して訴訟行為についての代理権(民法17条1項・13条1項4号・876条の9)が付与されている場合,補助人が訴訟行為をします。
 意思無能力者
(1) 精神上の障害などのために意思能力を欠く者も訴訟無能力者ですから,この者に対する送達も法定代理人を受送達者とするのが原則です。
    ただし,この場合,成年被後見人等と異なり,個々の送達の受領時点における意思能力の有無を具体的に判断する必要があるのであって,意思能力が欠けていた場合,その送達は無効になります。
(2) 送達実施前に,受送達者が意思無能力であることが訴状等により裁判所に明らかになっている場合,被告について後見開始の審判の申立て(民法7条)をするか,特別代理人選任の申立て(民事訴訟法35条)をした上で,後見人又は特別代理人を受送達者として送達を行うことになります。
    ただし,後者の申立ては,後見開始の審判の確定を待っていては損害を受けるおそれがあることを疎明できる必要があります。
(3) 同居人等からの申出により訴状等の送達後に受送達者が意思無能力者であることが判明した場合,訴訟能力の有無の判断は職権探知事項ですから,裁判所は,診断書又は医師に対する照会等により意思能力の有無を調査する必要があるのであって,その結果として,送達受領時点で既に意思能力がなかった場合,その送達は無効です(大審院明治44年3月13日判決及び大審院大正2年3月18日判決(いずれも判例秘書に掲載))。
    ただし,後見人又は特別代理人が選任された場合において,これらの者を受送達者として再送達するか,これらの者が追認をすれば瑕疵が治癒されると解されています(民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)32頁)。
 任意後見人
    任意被後見人の場合,任意後見契約の内容として,あらかじめ任意後見人に訴訟代理権を授与しておくことができると解されています。
    そのため,任意後見監督人が選任されて任意後見契約が効力を発生している場合(任意後見契約に関する法律2条1号参照),任意後見人が受送達者となりますところ,この場合は訴訟代理人であって,法定後見等による法定後見人ではありません(民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)30頁)。

第3 審判前の保全処分が出た場合の取扱い
1 総論
(1) 後見,保佐及び補助における審判前の保全処分に共通する事項
ア 審判前の保全処分としては,①財産管理者の選任の審判,②事件関係人に対する指示の審判及び③後見命令・保佐命令・補助命令(以下「後見命令等」といいます。)がありますところ,本人が即時抗告できるのは③だけです。
イ 財産管理者の選任の審判が出ただけでは,本人の管理処分権は失われません。
ウ 事件関係人に対する指示の審判は勧告的効力しかなく,強制力はありません。
エ 後見命令等は仮の地位を定める仮処分と同じようなものですから,仮の地位を定める仮処分について原則として債務者の審尋が必要となる(民事保全法23条4項)のと同じように,原則として本人の陳述聴取が必要となります(家事事件手続法107条)。
オ 審判前の保全処分の場合,即時抗告できるものも含めて,告知があった時点で効力が発生します(家事事件手続法109条2項が同法74条2項ただし書の適用を除外しています。)。
カ 大阪家裁後見センターだより第18回は,「後見等開始に係る保全処分,後見センターの分室化」について説明していますところ,後見命令等の必要性に関しては以下の記載があります。
    現在の本人の生活状況から見て,本人が財産をすぐに浪費するおそれがあるとか,悪質な第三者が本人に近づき,言葉巧みに本人をだまして不要かつ高額な商品を売りつけようとしているような場合には,後見命令等についての保全の必要性が認められると思われます(片岡武,金井繁昌,草部康司,川畑晃一「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務(第2版)」・132頁)。
キ 大阪府社会福祉協議会HPに載ってある「成年後見制度 市町村長申立ての手引き」(平成26年3月)末尾26頁ないし29頁に,審判前の保全処分の主文例が載っています。
(2) 後見開始の申立てにおける,審判前の保全処分

ア 家庭裁判所は,後見開始の申立てがあった場合において,成年被後見人となるべき者(以下「本人」といいます。)の生活,療養看護又は財産の管理のため必要があるときは,申立てにより又は職権で,担保を立てさせないで,後見開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間,①財産の管理者を選任し,又は②事件の関係人に対し,本人の生活,療養看護若しくは財産の管理に関する事項を指示することができます(家事事件手続法126条1項)。
イ 家庭裁判所は,後見開始の申立てがあった場合において,成年被後見人となるべき者の財産の保全のため特に必要があるときは,当該申立てをした者の申立てにより,後見開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間,成年被後見人となるべき者の財産上の行為につき,財産の管理者の後見を受けることを命ずることができます(後見命令の審判。家事事件手続法126条2項)。
ウ ①成年被後見人となるべき者については,心身の障害によりその者の陳述を聴取できないときは,陳述聴取が省略されますし(家事事件手続法126条3項),②本人の陳述を聴く手続を経ることにより保全処分の目的を達することができない事情があるときも,本人の陳述聴取を要しません(家事事件手続法107条ただし書)。
(3) 保佐開始等の申立てにおける,審判前の保全処分
ア 家庭裁判所は,保佐開始又は補助開始(以下「保佐開始等」といいます。)の申立てがあった場合において,被保佐人又は被補助人となるべき者(以下「本人」といいます。)の生活,療養看護又は財産の管理のため必要があるときは,申立てにより又は職権で,担保を立てさせないで,保佐開始等の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間,①財産の管理者を選任し,又は②事件の関係人に対し,本人の生活,療養看護若しくは財産の管理に関する事項を指示することができます(家事事件手続法134条1項又は143条1項・126条1項)。
イ 家庭裁判所は,保佐開始等の申立てがあった場合において,本人の財産の保全のため特に必要があるときは,当該申立てをした者の申立てにより,保佐開始等の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間,本人の財産上の行為(民法13条1項に規定する行為に限ります。)につき,財産の管理者の保佐又は補助を受けることを命ずることができます(保佐命令の審判。家事事件手続法134条2項又は143条2項)。
ウ 被保佐人又は被補助人となるべき者の陳述を聴く手続を経ることにより保全処分の目的を達することができない事情があるときは,本人の陳述聴取を要しません(家事事件手続法107条ただし書)。
2 後見命令が出た場合の取扱い

(1) 財産管理者は成年後見人と同じ立場に立つわけではないのであって,身上監護はできませんし,財産管理の権限は原則として保存・管理行為の範囲内に限られ,財産管理の範囲を超えた権限外の行為については家庭裁判所の許可が必要です(家事事件手続法126条8項・民法28条)。
(2)ア 後見命令の審判が出た本人は,日常生活に関する行為を除く財産上の行為(民法9条)について後見を受け,本人及び財産管理者は,本人が財産管理者の同意を得ないでした財産上の行為を取り消すことができます(家事事件手続法126条7項,民法9条)。
イ 後見命令の審判は,財産管理者への告知によりその効力が生じます(家事事件手続法126条4項)ところ,本人が2週間以内に即時抗告できます(家事事件手続法110条2項・123条1項1号)。
ウ 一問一答・家事事件手続法20頁には以下の記載があります。
    告知は裁判の内容を知らせることを意味します(第74条第1項から第3項まで、第122条第2項等)。これに対して、通知は、裁判の内容以外の事実を知らせることを意味します。
    なお、後見開始の審判および後見命令は、成年被後見人となるべき者に「通知」することとしています(第122条第1項、第126条第5項)。この場合、成年被後見人となるべき者は、審判を受ける者であり、知らせる内容は裁判ですから、本来は告知すべきであるとも思われますが、告知の場合には、告知の対象となる者に告知を受ける能力が必要であるという観点を加味して、ここでは通知をするものとしているのです。
(3) 民法830条に基づく財産管理者は法定代理人として受送達者となります(民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)32頁)から,これと同様に考えた場合,意思能力を有する本人について後見命令が出た場合,受送達者は財産管理者となると思います。
(4) 後見命令の審判は職権で後見登記されます(後見登記等に関する法律4条2項)から,本人の登記事項証明書でも確認できます。
3 保佐命令又は補助命令が出た場合の取扱い
(1) 財産管理者は保佐人又は補助人と同じ立場に立つわけではないのであって,身上監護はできませんし,財産管理の権限は原則として保存・管理行為の範囲内に限られ,財産管理の範囲を超えた権限外の行為については家庭裁判所の許可が必要です(家事事件手続法136条6項及び143条6項・民法28条)。
(2)ア 保佐命令等の審判が出た本人は,民法13条1項各号の行為について保佐を受け,本人及び財産管理者は,本人が財産管理者の同意を得ないでした財産上の行為を取り消すことができます(家事事件手続法134条5項・143条5項)。
イ 保佐命令等の審判は,財産管理者及び本人の両方に告知され(家事事件手続法134条3項・143条3項),本人への告知によりその効力が生じます(家事事件手続法109条2項・74条2項)ところ,本人が2週間以内に即時抗告できます(家事事件手続法110条2項・132条1項1号及び141条1項1号)。
ウ 民法13条3項類推適用に基づき,保佐人の同意に代わる許可を求めることができ,却下審判に対しては家事事件手続法132条1項5号に基づき即時抗告ができるかもしれません。
(3)ア 民法830条に基づく財産管理者は法定代理人として受送達者となります(民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)32頁)から,これと同様に考えた場合,意思能力を有する本人について保佐命令等が出た場合,受送達者は財産管理者となると思います。
イ 保佐人又は補助人に代理権を付与する旨の審判の場合,本人の同意が必要である(民法876条の4第2項・876条の9第2項)ものの,保佐命令等の場合,本人の陳述を聴く手続を経ることにより保全処分の目的を達することができない事情があるときは本人の陳述聴取を要しません(家事事件手続法107条ただし書)。
(4) 保佐命令等の審判は職権で後見登記されます(後見登記等に関する法律4条2項)から,本人の登記事項証明書でも確認できます。
(5) 保佐開始の審判事件を本案とする保全処分の事件において選任された財産の管理者が家庭裁判所に提出した財産目録及び財産の状況についての報告書は、上記保全処分の事件の記録には当たりません(最高裁令和4年6月20日決定)。

第4 訴訟係属後に当事者が訴訟能力を喪失した場合の取扱い
1 民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)31頁には,「訴訟係属後に受送達者が事理を弁識する能力を欠く常況になった場合」として以下の記載があります。
    この場合は,後見開始の審判の申立て(民7)又は特別代理人の選任の申立て(法35)をさせ,後見人又は特別代理人を受送達者とする。
    当事者が後見開始の審判を受けた場合,訴訟手続は中断し(法124Ⅰ③,法定代理人である成年後見人が訴訟手続を受継することになる(訴訟代理人が付いていれば中断しない(同Ⅱ))。受継後は,成年後見人を受送達者とする。
2 当事者より上告提起の特別委任を受けた訴訟代理人がある場合,第二審判決の送達後上告提起の期間内にその当事者が死亡しても訴訟手続は中断しません(最高裁昭和23年12月24日判決)。

第5 特別代理人
1 総論
(1)ア 民事訴訟法35条1項は「法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。」と定めていて,当該条文は,民事訴訟法37条1項に基づき法人の代表者について準用されています。
イ 家事事件手続法19条1項は民事訴訟法35条1項と同趣旨の条文です。
(2) 特別代理人は,特定の訴訟に関して法定代理人と同一の権限を有します。
(3) 基本法コンメンタール民事訴訟法Ⅰ(1条~132条)(第三版追補版)105頁によれば,特別代理人は,特別の授権なく上訴を提起できる(東京高裁昭和26年11月27日判決(判例秘書に掲載))ものの,請求の認諾又は和解をするためには特別の授権が必要であるとのことです。
2 原告側の特別代理人
(1)ア 株式会社が代表取締役を欠くに至った場合において,会社を代表して訴を提起するため仮代表取締役の選任の方法によったのでは遅滞のため損害を受けるおそれがあるときは,利害関係人は,民訴法58条及び56条(現在の民事訴訟法37条及び35条)の規定を類推して特別代理人の選任を申請することができます(最高裁昭和41年7月28日判決。なお,先例として大審院昭和9年1月23日判決参照)。
イ 仮代表取締役の正式名称は,代表取締役の一時職務執行者(会社法351条2項)でありますところ,大阪地裁HPに「一時取締役・監査役職務代行者(仮役員)選任申立ての方法等(会社非訟事件)」が載っています。
(2) 自動車事故による傷害のため精神障害を生じ判断能力を欠く状況にある者が,原告として右事故に基づく損害賠償請求の訴を提起するに際し,原告の長男が申請人となって同人を特別代理人に選任するよう申立てたのに対し,同人は利害関係者であるとして,民訴法56条(現在の民訴法35条)を準用して右申立てを認めた事例として京都地裁昭和57年9月7日決定(判例秘書に掲載)があります。
3 離婚訴訟等における特別代理人
(1)  離婚訴訟の場合,特別代理人を選任することはできません(最高裁昭和33年7月25日判決)から,後見開始の審判の申立てが常に必要となります(人事訴訟法14条1項本文参照)。
(2) 婚姻無効確認請求訴訟の場合,特別代理人を選任することができます(東京高裁昭和62年12月8日決定(判例秘書に掲載))。
4 強制執行開始前に債務者が死亡して相続人がいない場合における特別代理人
(1)ア 強制執行開始前に債務者が死亡し,債務者の相続財産管理人が選任された場合に相続財産管理人に対する承継執行文の付与を禁止する規定はありませんから,民事執行法上,相続財産法人に帰属する相続財産に対しても相続債権者が強制執行をしてその権利の実現を図ることができることが予定されています(東京高裁平成7年10月30日決定(判例秘書に掲載))。
    ただし,強制執行開始前に、所有者が死亡し、相続人不存在となっている場合につき,①相続財産管理人の選任を待っていたのでは,時効による消滅等により損害が生じる可能性がある場合,及び②物件がガソリンスタンドで速やかな処分が要求される場合,例外的に特別代理人の選任申立てができます(外部ブログの「所有者が死亡し、相続人が不存在となった場合の不動産競売(改訂)」参照)。
イ 強制執行における債務者側の特別代理人の根拠は民事執行法20条に基づく民事訴訟法35条の準用とされています(大審院昭和6年12月9日決定(判例秘書に掲載)のほか,関口法律事務所ブログの「訴える相手方が死亡し、相続人がいない場合の訴訟や強制執行手続について(相続財産管理人・特別代理人)」参照)ところ,理屈としては,相続財産法人について代表者である相続財産管理人がいない状態であるということだと思います。
(2)ア 競売手続における特別代理人に対する報酬は,手続費用として,配当時に償還を受けられるものの,特別代理人の選任申立て時には,それに相当する金額を債権者において予納する必要があります。
イ 不動産競売申立ての実務と記載例(2005年8月1日付)160頁には以下の記載があります。
予納金の額は,各庁により取扱いが異なる。東京地裁民事執行センターでは,現在,本人の事理弁識能力に疑いのある場合は10万円,それ以外の場合は5万円を予納額としている。ただし,特別代理人候補者の内諾があり,事前に報酬についての放棄書が提出される場合は,この予納は不要である。なお,事理弁識能力に疑いのある場合には,選任された特別代理人において,本人及び担当医師等と面接し,その結果を裁判所に対し報告してもらっている。面接の結果,本人に事理弁識能力があると認定されれば,特別代理人選任を取り消すこととなる。
(3) 民事執行法41条2項に基づく特別代理人は,強制執行開始後に債務者が死亡した場合に使える制度です。
5 相続放棄の申述における特別代理人
(1) 未成年者と法定代理人が共同相続人である場合に未成年者のみが申述する場合,利益相反行為に該当しますから,相続放棄の申述の前に民法826条1項に基づく特別代理人の選任が必要となります。
    ただし,熟慮期間があまりない場合,特別代理人選任申立書と特別代理人候補者からの相続放棄申述書が同時に提出されるときもあり,そのようなときに相続放棄申述書の受付をしている取扱いもあるようです(家事手続案内の研究71頁)。
(2)  共同相続人の一人が他の共同相続人の全部又は一部の者の後見をしている場合において,後見人が被後見人全員を代理してする相続の放棄は,後見人みずからが相続の放棄をしたのちにされたか,又はこれと同時にされたときは,民法860条・826条にいう利益相反行為に当たりません(最高裁昭和53年2月24日判決)。
6 その他
(1) 強制執行開始前に債務者である株式会社の代表取締役が死亡して代表取締役が不在となっている場合,民事執行法20条・民事訴訟法37条・35条に基づき,債務者について特別代理人の選任申立てができます。
    この場合,「遅滞のため損害を受けるおそれがあること」の疎明としては,以下のように記載すればいいです(不動産競売申立ての実務と記載例(2005年8月1日付)158頁参照)。
    債権者が直ちに本件競売の申立てをしなければ,債権回収の遅延による損害は拡大し,その損害は本件抵当権実行により填補されないものとなってしまうおそれがある。
(2)ア ①民事訴訟の被告,②民事執行の債務者又は③家事事件の相手方となる自然人に相続人がいない場合,相続財産管理人又は特別代理人を利用することとなると思いますところ,東京地裁21民(執行部)の取扱いとしては,少なくとも民事執行の債務者については相続財産清算人(令和5年3月31日までの相続財産管理人)が原則となります。
イ 被告となる株式会社に代表取締役がいない場合,仮代表取締役又は特別代理人を利用することとなりますところ,不動産競売申立ての実務と記載例(2005年8月1日付)158頁参照)160頁によれば,東京地裁8民(商事部)としては,費用,手数料等々の関係上,特別代理人の選任申立てをした方がよいという指導を行っているそうです。


第6 関連記事その他
1 制限行為能力者であることを黙秘することは,制限行為能力者の他の言動などと相まって,相手方を誤信させ,又は誤信を強めたものと認められるときには,民法21条(改正前の民法20条)の「詐術」に当たるものの,黙秘することのみでは「詐術」に当たりません(最高裁昭和44年2月13日判決)。
2  無権代理人がした訴訟行為の追認は,ある審級における手続がすでに終了したのちにおいては,その審級における訴訟行為を一体として不可分的にすべきものであって,すでに終了した控訴審における訴訟行為のうち控訴提起行為のみを選択して追認することは許されません(最高裁昭和55年9月26日判決)。
3(1) 二弁フロンティア2022年4月号「【前編】交通事故訴訟の最新の運用と留意点~東京地裁民事第27部(交通部)インタビュー~」には以下の記載があります。
    当事者が未成年の場合には、法定代理人(共同親権の場合には父母両名)の記載が必要であり、代理権を証する戸籍謄本などの証明書の添付や法定代理人名義の委任状が必要となります。なお、未成年が成人した際には、改めて委任状を取り直して提出していただく必要があります。また、当部の取扱いとして、資格証明書については訴え提起前3か月以内のもの、訴訟委任状については訴え提起前6か月以内のものを提出していただいております。
(2) 令和4年4月1日,成年年齢が20歳から18歳に変わりました。
4 たとえ被相続人が所有財産を他に仮装売買したとしても,単にその推定相続人であるというだけでは,右売買の無効(売買契約より生じた法律関係の不存在)の確認を求めることはできませんし,被相続人の権利を代位行使することはできません(最高裁昭和30年12月26日判決)。
5 訴訟代理人がその権限に基づいて選任した訴訟復代理人は独立して当事者本人の訴訟代理人となるものですから,選任後継続して本人のために適法に訴訟行為をなし得るものであって,訴訟代理人の死亡によって当然にその代理資格を失なうものではありません(最高裁昭和36年11月9日判決)。
6 遺産分割の審判を本案とする審判前の保全処分は,同保全処分が本案の係属を要し,本案と密接に関連しているという,民事保全と異なる面を持つ特殊な保全処分であることから,その被保全権利は,既存の権利ではなく,本案の終局審判で形成される具体的権利となるため,審判前の保全処分においては,本案の終局審判で形成される具体的権利が認められる蓋然性,すなわち本案認容の蓋然性および保全の必要性を要し,この本案認容の蓋然性は,保全処分の対象である権利関係が,本案手続において具体的に形成される見込みがあることと解されます(東京高裁令和3年4月15日決定(判例秘書に掲載))。
7 以下の記事も参照してください。
・ 相続財産管理人,不在者財産管理人及び代位による相続登記
・ 相続事件に関するメモ書き
・ 離婚事件に関するメモ書き
・ 家事事件に関する審判書・判決書記載例集(最高裁判所が作成したもの)
 大阪家裁後見センターだより
 裁判所関係国賠事件
 後見人等不正事例についての実情調査結果(平成23年分以降)
 平成17年以降の,成年後見関係事件の概況(家裁管内別件数)


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