司法修習生の守秘義務違反が問題となった事例

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目次
1 ブログ記事の記載が守秘義務違反の疑いありとして報道されたこと
2 司法修習生の守秘義務違反の基準がよく分からないこと
3 司法修習生という立場は特別権力関係であるかもしれないこと
4 司法修習生の守秘義務に含まれるかもしれないこと
5 公益通報者保護法と守秘義務
6 その他

1 ブログ記事の記載が守秘義務違反の疑いありとして報道されたこと
(1) 平成20年6月20日付の「「前科43犯ぜひ45目指してほしい」司法修習生軽率ブログ閉鎖」によれば,同月12日に最高裁が長崎地裁に連絡して,同月14日に「司法修習生のなんとなく日記」と題するブログが閉鎖されたそうです。
   また,企業法務戦士の雑感ブログ「「法曹」「守秘義務」とは何ぞや?」(平成20年6月19日付)によれば,検察修習のほか,刑裁修習に関して,色々と感想を書いていたみたいです。
(2) 平成20年6月19日,「司法修習生のなんとなく日記」と題するブログに関して,取り調べや刑務所内の見学など修習内容をインターネット上のブログに掲載していたとして,長崎地裁が裁判所法に基づく守秘義務違反の疑いもあるとして調べていると報道されました(孫引きですが,外部ブログの「司法修習生。守秘義務違反」参照)。
   問題となったブログの記載の一部を引用すると以下のとおりであり,ブログを書いてから4ヶ月余り後に報道されたようです。

2008-02-15 | 修習
今日,はじめて取調べやりました。
相手は80歳のばあちゃん。
最初はいろいろ話を聞いてたけど,
途中から説教しまくり。おばあちゃん泣きまくり。
おばあちゃん,涙は出てなかったけど。
けど,なんで20代の若造が80歳のばあちゃんを説教してるのか。
それに対してなんで80歳のばあちゃんが泣いて謝ってるのか。
なんとなく,権力というか,自分の力じゃない力を背後に感じた。
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2 司法修習生の守秘義務違反の基準がよく分からないこと
(1) 56期高松修習の人が書いた「司法修習生日記」における「検察修習」とかについては,現在でもインターネット上に存在してますから,検察修習に関するこれらの記載は司法修習生の守秘義務には違反していなかったと思われます。
   しかし,新61期長崎修習の人が書いた「司法修習生のなんとなく日記」が守秘義務に違反するとして不祥事扱いになったのに対し,56期のブログが守秘義務に違反しないと判断する基準はよく分かりません。
(2)ア 新61期長崎修習の人は刑務所内の見学など司法修習の内容をブログに書いたことについても守秘義務違反の疑いがあるとされました。
   しかし,例えば,選択型実務修習における法務行政修習プログラムに関する文書は法務省による情報公開の対象となっています(「法務行政修習プログラム(選択型実務修習)」参照)。
イ 国家公務員法109条12号・100条1項にいう「秘密」とは,非公知の事実であって,実質的にもそれを秘密として保護するに値するものをいい,その判定は,司法判断に服します(最高裁昭和53年5月31日決定)。
   刑務所内の見学の感想は実質的に秘密として保護するに値するものではない気がしますが,司法修習生に課せられた守秘義務はそれだけ重いのかもしれません。

3 司法修習生という立場は特別権力関係であるかもしれないこと
(1)   実際,「やっぱり世界は**しい!」と題するブログ「守秘義務」によれば,司法研修所が動くこと自体が司法修習生にとっては大変な脅威であって,司法修習生という立場は,まさに現代の特別権力関係だそうです。
(2) 最高裁昭和32年5月10日判決は,公務員に対する懲戒処分は,特別権力関係に基づく行政監督権の作用であると判示していました。
(3) 憲法21条所定の言論,出版その他一切の表現の自由は,公共の福祉に反し得ないばかりでなく,自己の自由意思に基ずく特別な公法関係上又は私法関係上の義務によって制限を受けます(最高裁大法廷昭和26年4月4日決定)。
(4) 新61期長崎修習のブログについて守秘義務違反の可能性があると報道されたことから,それ以後,実務修習に関する詳しい記載がインターネット上に出てくることがなくなった気がします。

4 司法修習生の守秘義務に含まれるかもしれないこと
(1) 平成27年度(行情)答申第135号(平成27年6月17日答申)の12頁及び13頁によれば,検事の弁護士職務経験制度における派遣法律事務所の名称及び検事の外部派遣制度における検事の派遣先法人等の名称は,不開示情報に該当するとのことです。
   そのため,司法修習生が弁護修習先で弁護士職務経験をしている検事と出会った場合,当該検事が所属している法律事務所の名称をブログに記載することについても,慎重になった方がいいのかもしれません。
(2) 平成28年(行情)答申第365号(平成28年9月29日答申)の4頁によれば,検事の修習期については,法務省においてホームページ等で公表している等といった事実もなく,今後その予定もないとのことですし,答申の結論として,検事の修習期については検事総長の修習期も含めて不開示情報に該当するとのことです。
   そのため,司法修習生が指導係検事等の修習期をブログに記載することについても,慎重になった方がいいのかもしれません。
(3) 平成29年6月20日付の東京地検の行政文書開示決定通知書によれば,公判引継事項記載要領及び略式請求メモ(司法修習課控)記載要領の本文は全部,不開示情報に該当します。
   そのため,検察修習の体験談としてこれらの情報に言及した場合,守秘義務に触れるのかもしれません。
(4) 裁判所業務に必要なサイトをまとめたホワイトリストというものが裁判所にはあります(平成27年11月の全司法新聞2229号)ものの,情報公開請求では,その存在は明らかにされていません(平成28年度(最情)答申第7号(平成28年4月14日答申))。
   そのため,仮に裁判所職員が運営しているHPに記載されている情報であっても,司法修習生がブログに記載することについては慎重になった方がいいのかもしれません。

5 公益通報者保護法と守秘義務
   平成30年3月30日付の内閣答弁書には以下の記載があります。
   公益通報者保護法は、国家公務員法第百条第一項の規定により課される守秘義務を解除するものではないが、公益通報者保護法第二条第三項に規定する通報対象事実(以下「通報対象事実」という。)は、犯罪行為などの反社会性が明白な行為の事実であり、国家公務員法第百条第一項に規定する「秘密」として保護するに値しないと考えられるため、そもそも、通報対象事実について、一般職の国家公務員が公益通報をしたとしても、同項の規定に違反するものではないと考えられる。

6 その他
(1) ツイッター等のSNSを国家公務員が私的利用する際の注意点については,総務省人事・恩給局の「国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たっての留意点」(平成25年6月付)に書いてあります。
(2) 塚原朋一弁護士(元 知財高裁所長)は,昭和58年4月1日から昭和63年3月31日までの最高裁判所調査官時代の思い出として,自由と正義2013年6月号27頁ないし31頁において,最高裁昭和59年5月29日判決に関する審議の経過を詳細に記載しています。
(3) 前田恒彦 元検事によれば,捜査当局は捜査情報をマスコミにリークすることがあるみたいです。① なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(1)
② なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(2)
③ なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(3)
(4) 「司法修習生に関する規則第3条の「秘密」の具体的内容が書いてある文書」も参照してください。