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相続させる遺言と特定財産承継遺言――違い,効力,登記及び遺言執行者の権限(AI作成)

第1 「相続させる」遺言と特定財産承継遺言の関係

1 結論――両者は重なるが,同じ意味ではない

「相続させる」遺言は,最高裁判例によって形成された呼称である。これに対し,特定財産承継遺言は,平成30年相続法改正により民法1014条2項に置かれた法定の名称であり,「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言」をいう。

したがって,例えば,「別紙不動産目録記載の土地を長男甲に相続させる」という条項は,通常,両方に当たる。他方,「全財産を甲に相続させる」,「甲の相続分を4分の3とする」又は「甲に全財産を包括遺贈する」という条項は,文言と遺言全体の構造により,相続分の指定,遺産分割方法の指定又は包括遺贈のいずれであるかを判定する必要があり,当然に特定財産承継遺言となるわけではない。

2 法定の成立要件

民法1014条2項の特定財産承継遺言に当たるには,①目的物が遺産に属する特定の財産であること,②受益者が相続開始時の共同相続人の一人又は数人であること,③遺産分割方法の指定として承継させる趣旨であることが必要である。受益者が相続人でなければ相続による承継はできないため,その者に財産を取得させるには,通常は遺贈として構成することになる。

目的財産は,第三者や金融機関が遺言書から対象を識別できる程度に特定する必要がある。不動産であれば所在,地番,家屋番号等を,預貯金であれば金融機関,支店,種別及び口座番号等を,株式であれば発行会社,種類及び数等を記載するのが安全であり,遺言作成後の建替え,合筆,口座移管又は商品変更にも耐える補充条項を検討する必要がある。

3 「相続させる」という語だけでは決まらない

遺言の法的性質は,特定の語を機械的に拾って決めるものではない。受益者,目的財産,残余財産条項,負担条項,遺言執行者の権限及び作成時の事情を総合して,遺言者が相続による直接承継を意図したのか,遺贈義務者による履行を予定したのかを解釈する。

この区別は名称の問題にとどまらない。権利が移る時期,放棄の方法,遺言執行者の権限,不動産登記の申請構造,第三者対抗要件及び受益者が先に死亡した場合の帰結が変わるからである。

第2 最高裁平成3年判決が確立した直接承継の仕組み

1 遺産分割方法の指定と解する原則

最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言について,遺贈であることが遺言書から明らかである場合又は遺贈と解すべき特段の事情がある場合を除き,遺産分割方法の指定と解した。この判決が,現在の特定財産承継遺言の出発点である。

「相続させる」という表現は,遺言者自身が当該財産の最終的な帰属を決める趣旨を通常含む。そのため,単に将来の遺産分割協議で考慮すべき希望を述べたものではなく,対象財産を受益相続人に単独で取得させる指定として扱われる。

2 相続開始時の直接承継

同判決は,承継を受益相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情がない限り,何らの行為を要せず,相続開始時に対象財産が受益相続人へ直接承継されるとした。受益相続人がいったん遺産共有の持分を取得し,その後の遺産分割によって単独取得するという二段階ではない。

したがって,対象財産について遺産分割協議又は遺産分割審判を経ることは,原則として取得の要件ではない。ただし,登記,登録又は債務者への通知等の対抗要件がなければ第三者に権利を主張できない場合があり,実体法上の取得と対外的な権利主張を分けて考える必要がある。

3 相続放棄及び遺言と異なる分配

特定財産承継遺言による取得は相続による取得であるため,特定遺贈だけを放棄する場合と同じには扱われない。相続人が相続放棄をすれば初めから相続人でなかったものとみなされるが,特定の取得財産だけを相続放棄によって選択的に返す仕組みではない。

共同相続人全員が遺言と異なる分配を望む場合でも,遺言の効力が当然に消えるわけではない。既に受益相続人へ承継された財産を他の相続人へ移すのであれば,その合意の法的性質,登記原因,贈与税その他の課税関係を個別に確認する必要がある。

第3 特定遺贈,相続分の指定及び包括遺贈との区別

1 特定遺贈との違い

特定遺贈は,遺言により特定の財産を無償で与える処分であり,受遺者は相続人でも相続人以外でもよい。受遺者は遺贈を放棄でき,遺贈の履行は原則として遺贈義務者又は遺言執行者によって行われる点で,相続開始時に相続により直接承継する特定財産承継遺言と異なる。

もっとも,相続人に対する特定遺贈も可能である。また,令和5年4月1日から,相続人である受遺者は遺贈による不動産の所有権移転登記を単独で申請できるため,登記申請が単独でできるかどうかだけでは両者を区別できない。法務局の相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へは,この改正後の申請手続を案内している。

2 相続分の指定との違い

相続分の指定は,「甲の相続分を4分の3,乙の相続分を4分の1とする」というように,共同相続人の遺産全体に対する割合を定める。これだけでは,どの具体的財産を誰が取得するかまでは決まらず,原則として遺産分割が必要になる。

これに対し,特定財産承継遺言は,どの財産を誰に承継させるかを直接定める。最高裁令和5年5月19日判決が示すとおり,遺言執行者の訴訟上の地位を考えるときも,相続分指定遺言と特定財産承継遺言を混同してはならない。

3 包括遺贈との違い

包括遺贈は,遺産の全部又は一定割合を包括的に受遺者へ与える処分であり,包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する。もっとも,包括受遺者は遺贈を放棄でき,その地位は相続人そのものではないため,特定財産承継遺言又は相続分の指定とは区別される。

最高裁令和5年5月19日第二小法廷判決(令和4年(受)第540号,民集77巻4号1007頁)は,旧法適用事案について,相続分指定遺言だけを根拠とする遺言執行者の妨害登記抹消請求の原告適格を否定する一方,包括遺贈については所定の範囲で原告適格を認めた。この判決を特定財産承継遺言一般の権限否定と読むのは誤りである。

第4 第三者対抗要件と相続登記

1 旧法下では登記なく第三者に対抗できた

最高裁平成14年6月10日第二小法廷判決(平成11年(受)第271号,集民206号445頁)は,旧法下において,「相続させる」趣旨の遺言による不動産の取得は登記なく第三者に対抗できるとした。受益相続人が相続開始時に直接取得するという平成3年判決の考え方を,第三者との関係にも及ぼしたものである。

しかし,この旧法判例を現行法の相続にそのまま用いることはできない。平成30年相続法改正は,取引安全と登記制度との整合を図るため,法定相続分を超える権利承継に対抗要件を要求したからである。

2 現行民法899条の2

民法899条の2は,相続による権利承継について,遺産分割によるかどうかにかかわらず,法定相続分を超える部分は,登記,登録その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないと定める。したがって,不動産を法定相続分を超えて承継した受益相続人は,第三者との優劣を確保するため,速やかに相続登記を申請する必要がある。

権利が債権である場合,法定相続分を超えて承継した共同相続人が,遺言の内容を明らかにして債務者へ承継を通知すれば,共同相続人全員が通知したものとみなされる。もっとも,債務者以外の第三者に対抗するために確定日付が必要となる場面は別途検討を要する。

3 相続登記申請義務と登録免許税

令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化され,相続又は遺贈により不動産を取得したことを知った相続人は,原則としてそのことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならない。施行日前に開始した相続で未登記のものにも適用され,原則として令和9年3月31日までに対応する必要がある。詳細は法務省の相続登記の申請義務化についてで確認できる。

相続による所有権移転登記の登録免許税は,原則として不動産の価額の1000分の4である。相続人に対する遺贈もこの区分に含まれるが,免税措置や土地と建物の違いがあるため,申請時点の国税庁の税額表と登記原因を確認すべきである。

第5 遺言執行者の権限は旧法と現行法で異なる

1 平穏な未登記事案を扱った最高裁平成7年判決

最高裁平成7年1月24日第三小法廷判決(平成3年(オ)第1057号,集民174号67頁)は,特定不動産が被相続人名義のままである旧法事案について,受益相続人は単独で相続登記を申請でき,遺言執行者は登記手続をする義務を負わないとした。相続開始によって目的が既に実現し,受益相続人自身で登記できることを理由とする。

この判決は,平成30年改正前の法令を前提とする。現行民法1014条2項は,特定財産承継遺言があるとき,遺言執行者が受益相続人の対抗要件具備に必要な行為をできることを明文化したため,改正法が適用される事案では結論の前提が変わっている。

2 妨害登記を扱った最高裁平成11年判決

最高裁平成11年12月16日第一小法廷判決(平成10年(オ)第1499号・第1500号,民集53巻9号1989頁)は,他の相続人が遺言に反する所有権移転登記をした事案について,遺言執行者が妨害登記の抹消と受益相続人への真正な登記名義回復のための移転登記を求め得るとした。平成7年判決の平穏な未登記事案と,遺言の実現が妨害された事案を区別したものである。

したがって,平成7年判決と平成11年判決は矛盾しない。遺言執行者の権限を判断するときは,旧法か現行法かという時点に加え,被相続人名義のままか,妨害処分がされたか,どの遺言類型かを確認する必要がある。

3 現行民法1013条・1014条

民法1014条2項・3項により,遺言執行者は,特定財産承継遺言の受益相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。目的財産が預貯金債権である場合には,払戻請求に加え,当該預貯金債権の全部が遺言の目的であるときは解約の申入れもできる。

また,遺言執行者がある場合,民法1013条は相続人による相続財産の処分その他遺言執行を妨げる行為を制限する。違反行為は原則として無効であるが,善意の第三者には対抗できず,相続人の債権者による権利行使も妨げられないため,遺言執行者の選任だけで対抗要件の具備が不要になるわけではない。

遺言執行者の一般的な職務,費用及び報酬については,遺言執行者は信託銀行より弁護士に依頼する方が合理的かも参照されたい。

第6 財産の種類ごとに異なる実務

1 不動産

不動産では,実体法上の直接承継,第三者対抗要件としての登記,令和6年からの相続登記申請義務を一体として処理する必要がある。遺言書,戸籍,固定資産評価証明書その他の添付情報をそろえ,受益相続人又は権限を有する遺言執行者が申請する。

遺言書の表示と現在の登記記録が一致しない場合には,建替え,合筆,地番変更,区分建物化又は共有持分の変動を確認する。対象財産の同一性を遺言解釈だけで補えないときは,登記申請の前提として相続人間の協議又は訴訟が必要になることがある。

2 預貯金

預貯金では,民法899条の2第2項による債務者への通知と,民法1014条3項による遺言執行者の払戻し・解約権限を分けて考える。口座の一部だけを承継させる遺言では,遺言執行者に法定の払戻権限はあるものの,解約の申入れは当該預貯金債権の全部が目的である場合に限られる。

金融機関ごとに,遺言書,検認済証明書又は遺言書情報証明書,戸籍,印鑑証明書及び遺言執行者の資格を示す書類等の取扱いが異なる。条文上の権限があっても,どの口座をどの割合で承継させるかが不明確であれば払戻しは進まないため,口座の特定と残余金の扱いを遺言で明らかにしておくべきである。

3 株式,投資信託その他の金融商品

株式,投資信託及び社債等では,発行会社,振替機関,証券会社又は販売会社における名義変更その他の対抗要件を確認する必要がある。商品の呼称又は口座番号だけでなく,組織再編,株式分割,償還,再投資又は金融機関の統合後も対象が特定できる記載が望ましい。

民法1014条3項が払戻しと解約を明文で認めるのは預貯金債権であり,預貯金以外の金融商品について同一の一般的な換価・解約権限を置いてはいない。売却,解約及び換価金の交付まで遺言執行者に行わせるのであれば,目的と権限を遺言条項で具体化し,各商品の約款及び振替制度も確認する必要がある。

第7 受益相続人の先死亡,相続債務,遺留分及び特別受益

1 受益相続人が遺言者より先に死亡した場合

最高裁平成23年2月22日第三小法廷判決(平成21年(受)第1260号,民集65巻2号699頁)は,受益相続人が遺言者より先に死亡した場合,代襲者その他の者に承継させる意思を読み取れる特段の事情がない限り,その「相続させる」条項は効力を生じないとした。受益相続人の子が代襲相続人になるだけで,遺言上の取得者の地位まで当然に引き継ぐわけではない。

遺言作成時には,受益相続人の先死亡,同時死亡,相続欠格,廃除又は相続放棄を想定し,第二順位の取得者と財産の帰属方法を定める必要がある。第二順位の者が相続開始時に相続人となるか不確実であれば,「相続させる」と「遺贈する」を使い分けなければならない。詳しくは予備的遺言を参照されたい。

2 相続債務

全財産を一人に相続させる旨の遺言は,共同相続人の内部関係では相続債務の負担割合にも影響し得る。しかし,民法902条の2により,相続債権者は相続分の指定があっても原則として各共同相続人へ法定相続分に応じて請求でき,債権者が指定割合による承継を承認したときに限り例外となる。

財産の取得割合と債務の対外的負担割合は一致するとは限らない。遺言では債務,葬儀費用,遺言執行費用及び相続税の内部負担を定めつつ,債権者との関係では別の処理が必要になることを見込むべきである。

3 遺留分

民法1046条は,特定財産承継遺言により財産を承継した相続人を遺留分侵害額請求の相手方となる「受遺者」に含めている。したがって,対象財産が相続開始時に直接承継されても,その価額が他の相続人の遺留分を侵害すれば,受益相続人は金銭請求を受け得る。

遺留分は現在,原則として金銭債権であり,特定財産が当然に共有へ戻る制度ではない。もっとも,遺留分侵害額,受遺者間の負担順序,支払期限及び資金調達を見込まずに事業用不動産又は自社株を承継させると,取得財産の売却を迫られることがある。

4 特別受益との関係

特定財産承継遺言の目的財産が遺産分割の対象から外れることと,特別受益又は具体的相続分の計算上どのように扱われるかは別問題である。遺言の類型,遺言者の持戻免除の意思,遺産分割対象となる残余財産及び相続開始からの経過期間を確認する必要がある。

特別受益の主張立証には,贈与の時期,価額,趣旨及び証拠が必要となる。一般的な立証方法については,特別受益を効率よく主張・立証する方法で整理している。

第8 平成30年改正の経過措置と現在の制度変更

1 相続開始日で旧法と現行法を分ける

平成30年法律第72号は,原則として令和元年7月1日前に開始した相続を従前の例によるものとした。したがって,同日前に開始した相続については,最高裁平成14年判決の旧法上の対抗要件法理や,旧法下の遺言執行者の権限が問題となる。

令和元年7月1日以後に開始した相続では,民法899条の2により法定相続分を超える部分の対抗要件を確認する。古い遺言書であっても相続開始日が新法施行後であれば新法が適用されるのが原則であるが,遺言執行者の権限については次項の例外がある。

2 遺言作成日が問題となる例外

平成30年法律第72号附則8条2項は,民法1014条2項から4項までを,施行日前にされた特定の財産に関する遺言の執行には適用しない。したがって,遺言執行者の対抗要件具備権限又は預貯金の払戻権限を判断するときは,相続開始日だけでなく,遺言作成日も確認しなければならない。

実務では,①遺言作成日,②相続開始日,③遺言執行者の就任日,④第三者への処分又は差押えの日,⑤登記,登録又は通知の日を一枚の時系列表にする。この整理をしないまま旧判例又は現行条文だけを引用すると,適用法を誤るおそれがある。

3 令和5年・令和6年・令和8年の変更

令和5年4月1日には相続人に対する遺贈登記の単独申請が可能となり,令和6年4月1日には相続登記申請が義務化された。これらは,特定財産承継遺言と特定遺贈の手続差を理解する上で現在の重要な変更である。

令和8年法律第45号は,同年6月24日に公布され,自筆証書遺言の押印の任意化や保管証書遺言の創設等,遺言方式を段階的に見直す。他方,同改正は民法899条の2又は1014条を改正しておらず,特定財産承継遺言の法的性質,第三者対抗要件及び遺言執行者の権限という本記事の中核は変わらない。

第9 遺言作成,執行及び紛争対応のチェックポイント

1 遺言作成時

作成時には,①受益者が相続開始時の相続人となるか,②財産を客観的に特定できるか,③特定財産承継遺言,特定遺贈,相続分指定又は包括遺贈のどれを意図するか,④残余財産を誰に帰属させるか,⑤受益者の先死亡等に備える予備的条項,⑥債務,税及び費用の内部負担,⑦遺留分の資金手当て,⑧遺言執行者の権限を確認する。

預貯金以外の金融商品を換価して交付する予定であれば,単に「相続させる」と記載するだけでは足りないことがある。売却,解約,名義変更,換価金の受領及び交付のどこまでを誰に行わせるかを具体化し,それが財産承継条項と整合するかを確認する必要がある。

2 相続開始後

相続開始後は,①遺言書の方式及び最新性,②相続人と受益者の生存・資格,③目的財産の現存と同一性,④適用法の時点,⑤遺言執行者の就任と権限,⑥妨害処分,差押え又は二重譲渡,⑦登記,登録又は通知,⑧遺留分及び相続税の期限を順に確認する。

特に不動産では,直接承継したから登記を急がなくてよいという旧法上の理解を持ち込まないことが重要である。預貯金では,払戻しを受けられるかだけでなく,受領した金銭を誰にどのように交付するか,遺言執行費用をどこから控除するかまで記録する必要がある。

3 紛争になった場合

紛争では,遺言文言だけでなく,遺言全体,作成経緯,財産の変動,受益者の先死亡,登記・通知の先後及び遺言執行者の行為を時系列化する。請求の構成も,所有権確認,抹消登記,真正な登記名義の回復,遺言無効,遺留分侵害額請求又は遺産分割のいずれであるかを分ける必要がある。

「相続させる」と書かれているから遺産分割は不要である,又は遺言執行者がいるから全ての処分を排除できるという一文だけでは解決しない。遺言類型,適用時点,財産類型及び対抗要件を順に当てはめることが,本件テーマの実務上の到達点である。

第10 中核となる最高裁判例の流れ

1 最高裁平成3年4月19日判決

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言を原則として遺産分割方法の指定と解し,相続開始時の直接承継を確立した。現在の特定財産承継遺言を理解する基礎判例である。

2 最高裁平成7年1月24日判決

旧法下の平穏な未登記事案で,受益相続人が単独で相続登記を申請でき,遺言執行者に登記義務はないとした。現行民法1014条2項により,改正法適用事案では遺言執行者の権限が拡張されている。

3 最高裁平成11年12月16日判決

他の相続人による妨害登記がある事案で,遺言執行者に妨害排除のための抹消登記等を求める権限を認めた。平成7年判決との違いは,遺言の実現が妨害されている点にある。

4 最高裁平成14年6月10日判決

旧法下では「相続させる」遺言による不動産取得を登記なく第三者に対抗できるとした。現在は民法899条の2により,法定相続分を超える部分について対抗要件が必要である。

5 最高裁平成23年2月22日判決

受益相続人が先に死亡した場合,特段の事情がなければ条項は効力を生じないとした。代襲相続と遺言上の受益者の地位を区別し,予備的遺言の必要性を示した。

6 最高裁令和5年5月19日判決

旧法適用事案について,相続分指定遺言と包括遺贈における遺言執行者の原告適格を区別した。特定財産承継遺言,相続分指定遺言及び包括遺贈を,同じ「財産を取得させる遺言」として一括処理できないことを確認する判例である。

出典・参考資料

1 法令・立法資料

民法(明治29年法律第89号)899条の2,902条の2,908条,985条,1012条から1015条まで,1046条及び1047条(e-Gov法令検索)

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)本則及び附則2条,3条,8条(衆議院)

民法等の一部を改正する法律案・成立情報(令和8年法律第45号)(法務省)

2 裁判例

最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁,裁判所ウェブサイト)

最高裁平成7年1月24日第三小法廷判決(平成3年(オ)第1057号,集民174号67頁,裁判所ウェブサイト)

最高裁平成11年12月16日第一小法廷判決(平成10年(オ)第1499号・第1500号,民集53巻9号1989頁,裁判所ウェブサイト)

最高裁平成14年6月10日第二小法廷判決(平成11年(受)第271号,集民206号445頁,裁判所ウェブサイト)

最高裁平成23年2月22日第三小法廷判決(平成21年(受)第1260号,民集65巻2号699頁,裁判所ウェブサイト)

最高裁令和5年5月19日第二小法廷判決(令和4年(受)第540号,民集77巻4号1007頁,裁判所ウェブサイト)

⑦最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決(平成19年(受)第1548号,民集63巻3号427頁)

3 公的実務資料

相続登記の申請義務化について(法務省)

相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(法務局)

登録免許税の税額表(国税庁)

4 文献

①堂薗幹一郎・野口宣大編著『一問一答 新しい相続法』(商事法務,2019年)PDF実頁118頁~138頁,177頁~192頁及び212頁~224頁

②堂薗幹一郎ほか『逐条解説 改正相続法』(商事法務,2024年)PDF実頁26頁~43頁,89頁~91頁及び140頁~146頁

③日本公証人連合会編著『新版 証書の作成と文例 遺言編〔三訂版〕』(立花書房,2021年)PDF実頁38頁~60頁及び191頁~202頁