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アメリカ合衆国の司法制度――最高裁判所の開示文書と,その後に条文・規則・判例が動いた部分(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 開示文書の特定と基準日

本記事は,最高裁判所に対する司法行政文書開示請求によって開示されたアメリカ合衆国の司法制度(全32頁)を対象とし,同文書が記述する制度のうち,どの部分が現在も条文どおりであり,どの部分が法律の制定,規則の改正又は判例の変更によって現行制度と食い違うに至ったかを整理するものである。開示文書はテキスト情報を含まない画像形式の文書であるため,生成AIを用いて全32頁を読み取った上で,記載された条文番号,数値及び判示内容を合衆国法典,連邦規則の現行版,連邦最高裁判所の判決原本その他の原資料と照合して構成した。

開示文書自体には作成年月日の記載がないが,本文の記述から基準時点を特定することができる。7頁は「連邦控訴裁判所の裁判官の定員は179人,連邦地方裁判所は677人である(平成27年2月現在)」と明示し,26頁は「死刑制度は,2015年2月11日現在,連邦と32州で存続している」と記載する。脚注1は丸山英二『入門アメリカ法(第3版)』(弘文堂,2013年)53頁以下に依拠する旨を述べており,引用されている統計も2013年度から2014年度のものである。したがって,本記事は開示文書の基準日を平成27年(2015年)2月として扱い,同月から令和8年(2026年)8月までの11年半の変化を検討の対象とする。

2 令和元年5月以降の最新版が存在しないこと

この開示文書がいつの時点の制度を示すものかは,その後の不開示決定によって確定している。最高裁判所事務総長は,令和6年10月9日付け司法行政文書不開示通知書(最高裁秘書第2739号)により,「諸外国(米英独仏豪加)及び我が国の司法制度の概要(対照表)」及び各国の司法制度に関する文書について,「以下の文書の,令和元年5月以降の最新版」を開示しないこととし,その理由を「1の文書は,作成又は取得していない。」と記載した。すなわち,最高裁判所は,令和元年5月以降にこれらの文書の改訂版を作成しておらず,保有もしていない。

この点は開示文書の資料としての性格を左右する。開示文書は,条文番号と出典が付された精度の高い内部資料であるが,制度の変動を追跡して更新される種類の文書ではない。後述するとおり,陪審の評決の全員一致,ディスカバリーの範囲,死刑存置州の数といった中核部分については,開示文書の記述をそのまま引用すると現在では誤りとなる。開示文書の一覧及び不開示通知書は,諸外国の司法制度の記事から確認することができ,同じ開示手続によって得られた資料に基づく他国の検討としてはフランス共和国の司法制度――最高裁判所の開示文書とその後の主な改正がある。司法行政文書の開示手続そのものについては,裁判所の情報公開――通達・司法行政文書の開示手続と判決情報の公開及び開示文書の利用目的は一切問われないこと等を参照されたい。

3 開示文書の構成と本記事の射程

開示文書は,第1「裁判所・裁判官」,第2「検察官・司法省」,第3「弁護士・弁護士会」,第4「法曹養成制度」,第5「裁判手続」,第6「裁判外紛争処理(ADR)」の6章から成り,末尾に「アメリカ合衆国(連邦)の裁判所審級図」1葉が付されている。第5章は民事事件,刑事事件,家事事件及び少年非行事件に分かれており,全体で116個の脚注が付されている。脚注は,合衆国法典の条文番号,連邦民事訴訟規則及び連邦刑事訴訟規則の規則番号,連邦裁判所ウェブサイトの統計表,アメリカ法曹協会の統計並びに日本語及び英語の文献に及ぶ。同時に開示された諸外国(米英独仏豪加)及び我が国の司法制度の概要(対照表)は7か国を1枚表で比較したものであり,アメリカの欄には「アメリカについては主に連邦の場合を記載した」との注記が付されている。本記事が対象とする32頁の文書は,この対照表のアメリカ欄を展開した位置付けの資料である。裁判官の任用方式に関する日本国内の議論については,法曹一元を参照されたい。

本記事は,開示文書の記述順序に沿って現行制度との異同を検討した上で,開示文書の枠組みでは項目自体が立っていない4つの変化を第8で扱う。連邦の制度を対象とし,州ごとの制度は,全米の状況を示す限度又は開示文書が言及している限度で取り上げる。

第2 連邦裁判所の組織――11年間で条文が動いていない部分

1 連邦と州の二元構造及び連邦裁判所の管轄

開示文書は,冒頭で「連邦及び州が二重に主権を有しており(dual sovereignty),連邦の司法制度と各州の司法制度とが併存している」と述べ,連邦は合衆国憲法によって定められた範囲内でのみ権限を有し,連邦に独占されていない分野については州の一般的権限が及ぶと説明する。その上で,連邦裁判所が第一審管轄権を有する類型として,連邦問題事件,連邦刑事法に関する事件,大使その他の外交使節及び領事が関係する事件,海法事件及び海事裁判権に属する事件,合衆国が当事者である争訟,州が当事者である争訟並びに州籍相違事件を挙げ,州籍相違事件を「相異なる州の市民間の争訟で,係争価額75,000ドルを超えるもの」と記載する。

この係争価額は,合衆国法典第28編1332条(a)が「the matter in controversy exceeds the sum or value of $75,000, exclusive of interest and costs」と定めるものであり,同条の改正沿革欄は,1996年に5万ドルから7万5000ドルへ引き上げた改正(Pub. L. 104-317)で止まっている。開示文書の記述は現在も条文どおりであるが,この金額が30年間据え置かれ,物価の上昇に応じた調整規定も置かれていないことは,連邦裁判所が州法上の請求を吸い上げる範囲が立法の不作為によって拡大し続けていることを意味する。連邦問題管轄は同編1331条,付加的管轄は同編1367条,州裁判所から連邦裁判所への除去は同編1441条及び1453条,多地区訴訟の移送は同編1407条にそれぞれ根拠がある。

2 裁判所の種類,裁判官の任期及び定足数

開示文書は,連邦最高裁判所,連邦控訴裁判所,連邦地方裁判所及び国際通商裁判所を合衆国憲法第3条に基づく裁判所とし,連邦請求裁判所,租税裁判所及び破産裁判所を同条に基づかない裁判所として区別する。この区別及び各裁判所の構成は,条文レベルで現在も変わっていない。合衆国法典第28編1条は「The Supreme Court of the United States shall consist of a Chief Justice of the United States and eight associate justices, any six of whom shall constitute a quorum」と定め,同編251条(a)は国際通商裁判所を9人の裁判官で構成される憲法第3条に基づく裁判所とし,同編171条(a)は連邦請求裁判所を16人の裁判官で構成される憲法第1条に基づく裁判所と明示する。

裁判官の任期についても同様である。破産裁判所の裁判官の任期は同編152条(a)(1)により14年,常勤のマジストレイトジャッジの任期は同編631条(e)により8年(非常勤は4年)であり,開示文書の記載と一致する。もっとも,この2種類の裁判官については,任命権者が大統領でも司法長官でもないという点を押さえておく必要がある。破産裁判所の裁判官は当該地区が属する巡回区の連邦控訴裁判所が任命し,マジストレイトジャッジは当該地区の連邦地方裁判所が任命するのであって,いずれも上院の承認を要しない。連邦司法部の事件処理の相当部分をこの層が担っていることは,後記第5の5で述べる統計からも確認することができる。

3 裁判官の定員と2024年の増員法案

開示文書7頁が記載する「連邦控訴裁判所179人,連邦地方裁判所677人」という定員も,現在まで1人も増えていない。連邦裁判所行政局が公表する2026会計年度の司法部概観(Overview of the Judiciary)は,全米の連邦控訴裁判所の憲法第3条に基づく裁判官の定員を167人とし,これとは別に連邦巡回区連邦控訴裁判所の定員を12人とするから,合計は179人となる。連邦地方裁判所の定員は677人である。

定員が動かなかった経緯自体が,アメリカの司法制度の構造をよく示している。第118議会は,10年をかけて63の常設判事職と3の臨時判事職の合計66の判事職を新設する法案(JUDGES Act of 2024,上院法案4199号)を可決した。同法案は,新設する判事職の発効日を2025年1月21日から2035年1月21日まで2年ごとの6段階に割り付け,どの政権が任命するかを平準化する構造を採っていた。臨時判事職はオクラホマ州東部地区に2,同州北部地区に1を置き,任命された裁判官の承認から5年以上経過した後に生じた最初の欠員は補充しない旨を定めていた。立法経過は,2024年4月19日に上院へ提出され,同年12月12日に下院が賛成236・反対173で可決し,同月20日に大統領へ送付されたが,同月23日に拒否権が行使され,翌2025年1月3日に拒否権メッセージが上院で受領された後,再議決はされていない。連邦裁判所の判事職が法律事項であること(同編1条・44条・133条)は,この経緯によってかえって明確になった。

第3 連邦検察官及び連邦検察局

1 94の司法地区と93の連邦検察局

開示文書10頁は,連邦検察局が93庁あり,各庁に1人ずつ連邦検察官が配置されると記載する。この数は現在も維持されている。司法省が公表する連邦検察官一覧(2026年7月30日更新)は,冒頭で「Below is a listing of current leadership for all 94 districts」と述べる一方,一覧の行数は93である。グアム及び北マリアナ諸島が「Guam & Northern Mariana Islands」として1行にまとめられているためであり,94の司法地区を93庁の連邦検察局が担当するという構造は開示文書の当時と同じである。

これに対し,開示文書11頁が記載する「2013年3月における連邦検察官及び連邦検察官補の数は5812人」という人数については,これに対応する現在の数値を司法省の公表資料から確認することができなかった。同省の一覧は各庁の長の氏名を掲げるにとどまり,職員数を公表していない。

2 任期4年,連邦検察官補及び裁判所による任命

開示文書が記載する連邦検察官の任期及び連邦検察官補の任命方法は,条文が制定当時のまま維持されている。合衆国法典第28編541条(b)は「Each United States attorney shall be appointed for a term of four years」と定め,任期満了後も後任が任命され資格を得るまで職務を行うとし,同条(c)は大統領による罷免を定める。同編542条(a)は「The Attorney General may appoint one or more assistant United States attorneys in any district when the public interest so requires」と定める。いずれも1966年の制定(Pub. L. 89-554)以後の改正沿革の記載がない。

これに対し,同編543条は2010年に改正されている。同条(a)は,司法長官が連邦検察官を補助する弁護士を任命することができるとした上で,「including the appointment of qualified tribal prosecutors and other qualified attorneys to assist in prosecuting Federal offenses committed in Indian country」という文言を含む。これは2010年部族法秩序法(Pub. L. 111-211)による追加であり,後記第8の4で述べる部族裁判所の刑事管轄の拡張と対応する動きである。

なお,開示文書は触れていないが,同編546条は,連邦検察官が欠けた場合に司法長官が任命する暫定連邦検察官の在任期間を120日に限り,その期間の経過後は当該地区の連邦地方裁判所が連邦検察官を任命することができると定める。裁判所が検察官を任命するという構造は日本法にはないものであり,アメリカの検察制度を検討する際には確認しておくべき条文である。日本の検察制度の成り立ちについては検察制度の沿革を参照されたい。

第4 弁護士,弁護士会及び法曹養成制度

1 法曹人口とロー・スクール

開示文書は,法曹有資格者の総数を2012年12月31日時点で約126万8011人とし,年間平均約2万人の割合で増加していると記載する。アメリカ法曹協会が2025年に公表した法曹プロフィールによれば,2025年の弁護士数は約137万人であり,前年の約135万5000人から増加した。同協会は,この増加を2020年以来はじめてのものと説明しており,2020年から2024年までは増加が停滞していたから,「年間平均約2万人の割合で増加している」という開示文書の記述は,現在の推移を説明するものではない。

ロー・スクールについては,開示文書が2014年時点でアメリカ法曹協会の認可校を205校,2014年度の1年次入学者を3万7924人と記載する。同協会が2025年12月15日に公表した統計によれば,学位授与の認可を受けたロー・スクールは仮認可2校を含めて196校であり,2025年秋の1年次入学者は4万2817人(前年比7.9%増),法務博士課程の在籍者総数は12万39人(同4%増)である。認可校が9校減少する一方で入学者が約5000人増加しており,2010年代後半の閉校及び認可取消しと2020年代半ばの志願者増加という二つの動きが重なっている。法科大学院をめぐる日本の状況については日弁連「法科大学院を中核とする法曹養成制度の20年」の誤記及び法科大学院に対する裁判官派遣に関する取決め書の解説を参照されたい。

2 非弁護士による法律事務所の所有

開示文書は,弁護士報酬及び弁護士倫理について,アメリカ法曹協会の模範規則を前提に記述している。しかし,弁護士業の事業形態そのものを規律する規則を撤廃した州が現れている。アリゾナ州は,2020年8月27日の州最高裁判所命令(R-20-0034)により,非弁護士との報酬分配及び共同経営を禁ずる倫理規則5.4を廃止し,2021年1月1日から,非弁護士が経済的利益又は意思決定権限を有する事業体による法律サービスの提供を認めた。同州の司法行政法典7-209条は,こうした事業体を「alternative business structure」と定義し,経済的利益が全体の10パーセント以上である者等を審査及び開示の対象としている。

ユタ州も2020年から規制の実験的緩和(いわゆるサンドボックス)を実施しているが,多数の州は従来の規制を維持しており,この点についてアメリカの制度は分裂した状態にある。非弁護士による法律事務所の所有は,弁護士法72条及び弁護士職務基本規程を前提とする日本の制度と正面から異なる仕組みであるから,リーガルテック関連の議論で参照される際には,全米の制度ではなく特定の州の制度であることを確認する必要がある。

3 司法試験によらない資格取得

開示文書18頁は,弁護士資格を取得するには「通常,ロー・スクール卒業に加え,各州が実施する司法試験(Bar Examination)に合格する必要がある」と記載する。この「通常」という留保に当たる例外が,現に制度として稼働している。オレゴン州は,監督弁護士の下で実務を行い,その成果物を提出することによって司法試験を経ずに資格を得る制度(Supervised Practice Portfolio Examination)を導入した。同州弁護士会の規則6.1は,制度の要件として,①学習計画の作成,②割り当てられた法律業務の遂行,③8点以上の書面成果物の作成,④2件以上の初回依頼者面談又は依頼者相談の主宰,⑤2件以上の交渉技能を示す活動の主宰,⑥指定された15時間の実務概観研修の修了,⑦職業責任に関する能力の証明,⑧多様性等に関する10時間以上の活動,⑨業務時間の記録,⑩ポートフォリオの編成,⑪675時間以上の業務の完了及び⑫期間制限の遵守を掲げる。

この制度で資格を得た者の資格は,現時点では他州へ移転しない。ワシントン州も代替ルートを承認しており,複数の州が検討していると報じられているが,全米の標準となっているわけではない。

4 NextGen統一司法試験の初回実施

開示文書18頁は,司法試験について多肢選択式試験(MBE),模範小論文試験(MEE),模範実務試験(MPT)等が利用されること,及び試験が原則として2月と7月の年2回実施されることを記載する。全米司法試験委員会は,新しい統一司法試験(NextGen UBE)の第1回試験を2026年7月に実施した。同委員会の2026年7月31日付け公表によれば,コネチカット,グアム,アイダホ,メリーランド,ミズーリ,北マリアナ諸島,オレゴン,パラオ,米領ヴァージン諸島及びワシントンの10法域,16会場,131室で実施され,2640人が受験を完了した。

初回実施では複数の会場で障害が生じている。同委員会の別の公表によれば,ワシントン州では約700人が受験を予定していたところ,会場固有のインフラ上の問題により大半の受験者が受験を開始することができず,同州弁護士会は,問題が完全に解消したと確信することができないとして,影響を受けた受験者について7月の試験を中止した。同州弁護士会は,2026年9月1日及び2日を予定する追試験,2027年2月の試験への振替え又は受験料の返還という選択肢を示している。このほか,ミズーリ州では開始の遅延により初日の全科目を終えられなかった受験者があり,メリーランド州の1会場では45分の遅延が生じた。同委員会は,会場ごとの原因を確定する前に断定することは適切でないとして,検証の継続を表明している。

なお,開示文書は統一司法試験(UBE)に言及していないが,同試験は2011年から存在し,開示文書の基準日である2015年2月の時点で既に相当数の州が採用していた。この点は基準日の問題ではなく,開示文書の記述自体の欠落であると考えられる。

第5 民事手続――開示文書の記述と現行規則の相違

1 送達期間の短縮

開示文書19頁は「1938年に制定された連邦民事訴訟規則」を前提に民事訴訟の過程を説明するが,開示文書の基準日から10か月後の2015年12月1日に,同規則の大規模な改正が施行されている。まず,訴状の送達期間は120日から90日に短縮された。現行の4条(m)は,訴状の提出後「90 days」を経過しても送達がされない場合には,裁判所が申立て又は職権によって当該被告に対する訴えを却下し,又は期間を定めて送達を命じなければならないと定める。

2 ディスカバリーの範囲に加わった比例性の要件

開示文書20頁は,開示(discovery)について,当事者双方が紛争の具体的内容とこれに関する証拠を把握することができ,不意打ちの防止が可能になると説明し,その範囲の制約には触れていない。しかし,2015年12月1日施行の改正により,26条(b)(1)は,開示の範囲を,請求又は抗弁に関連し,かつ「proportional to the needs of the case」(事件の必要性に比例する)ものに限定し,比例性の判断要素として,争点の重要性,係争額,情報への当事者の相対的なアクセス可能性,当事者の資力,争点の解決における開示の重要性及び負担又は費用が期待される利益を上回るか否かを列挙した。あわせて,長年引用されてきた「reasonably calculated to lead to the discovery of admissible evidence」(証拠能力ある証拠の発見に至る可能性がある)という文言が削除された。

アメリカのディスカバリーを説明する際に最も誤りやすいのはこの部分である。開示文書の記述のみに依拠すると,範囲の制約が存在しない制度であるかのような説明になる。

3 電子情報の保存義務違反に対する制裁

同じ2015年12月1日の改正により,37条(e)が全面的に改められ,「FAILURE TO PRESERVE ELECTRONICALLY STORED INFORMATION」という表題の下に,訴訟の予期又は追行に際して保存されるべきであった電子的に保存された情報が,当事者が合理的な措置を講じなかったために失われ,追加の開示によって復元又は代替することができない場合の処理が定められた。裁判所は,他の当事者に生じた不利益を治癒するのに必要な限度でのみ措置を採ることができ,情報の使用を妨げる意図があったと認定した場合に限って,推定,不利益な陪審説示,訴えの却下等の重い制裁を採ることができる。

開示文書にはこれに対応する記述が全くない。日本企業が米国の訴訟に関与する場合における証拠保全(いわゆるリティゲーション・ホールド)の直接の根拠規定であるから,企業法務の観点からは開示文書の記述より重要度が高い。

4 多地区訴訟と2025年12月1日新設の規則16.1

さらに,2025年12月1日から,多地区訴訟(MDL)に関する規則16.1が新設された。同条(a)は,多地区訴訟司法panelが事件を移送した後,移送先裁判所が公判前の手続を秩序立てて進めるための初期計画を策定するため,初期管理協議を開催すべきであると定め,同条(b)以下は,協議前に当事者が検討すべき事項として,事件の規模及び複雑性,リーダーシップ弁護士の選任の要否及びその権限,直接提訴された事件の取扱い,他の裁判所に係属する関連事件との調整等を列挙する。あわせて16条及び26条も同日改正された。

この改正の背景には,連邦民事事件における多地区訴訟の比重がある。多地区訴訟司法panelが公表する2026年7月1日現在の統計によれば,係属中の多地区訴訟は162件,これに係属する訴訟の数は71万2125件であり,移送先となっている地区は51,移送先裁判官は140人である。1000件以上を抱える40件の多地区訴訟だけで70万331件(全体の98.34パーセント)を占め,最大のものはニュージャージー地区に係属するタルク製品に関する多地区訴訟の6万8435件である。後記5のとおり,連邦地方裁判所の民事事件の年間新受件数は約30万件であるから,多地区訴訟に係属する訴訟の数は,年間新受件数の2倍を超えている。開示文書が説明する訴答から開示,公判前手続,事実審理及び執行へ進む単線的な過程は,この領域を説明するものではない。

5 連邦司法部の事件処理統計

開示文書が引用する統計は2013年度から2014年度のものであるから,現在の数値に置き換える必要がある。連邦裁判所行政局の年次報告によれば,2025年9月30日に終了した会計年度において,連邦控訴裁判所の新受件数は4万1824件(前年比5パーセント増)であり,そのうち本人訴訟が50パーセント(2万878件)を占める。連邦地方裁判所の新受件数は民事及び刑事被告人の合計で38万2692件(同6パーセント増)であり,その内訳は民事30万3563件(同4パーセント増),刑事被告人7万9129件(同13パーセント増)である。民事の内訳は連邦問題事件が15万7421件(同12パーセント増),州籍相違事件が9万6548件(同7パーセント減)である。破産事件の新受件数は55万7376件(同11パーセント増)であり,90庁の破産裁判所のうち83庁で増加した。開示文書の審級図が記載する破産裁判所90庁という数は現在も維持されている。

第6 刑事手続

1 陪審の評決の全員一致とその遡及効

開示文書25頁は「連邦及び大部分の州においては,刑事事件における陪審員の評決は全員一致でなければならない」と記載する。この「大部分の州」という留保は,2020年以降は成り立たない。連邦最高裁判所は,2020年4月20日に言い渡した Ramos v. Louisiana 事件判決(事件番号18-5924)において,第14修正を通じて州に適用される第6修正の陪審審理を受ける権利は,重大な犯罪について被告人を有罪とするために全員一致の評決を要求すると判示した。これにより,非全員一致の評決による有罪認定を認めていたルイジアナ州及びオレゴン州の制度は違憲となり,現在は全州において重罪の有罪評決に全員一致が必要である。

もっとも,この判決が過去の確定判決に及ぶわけではない。連邦最高裁判所は,2021年5月17日に言い渡した Edwards v. Vannoy 事件判決(事件番号19-5807)において,Ramos 判決の全員一致の準則は連邦の付随的救済手続において遡及して適用されないと判示した。開示文書の記述を引用する際は,現在の準則としては「全州」と改めた上で,過去の有罪判決が一律にやり直されたわけではないことを併せて示すのが正確である。

2 リモート・アクセス令状

開示文書21頁は,捜査機関が強制手続を行う場合には原則として裁判官による令状の発付が必要であると記載する。この原則自体は変わらないが,2016年12月1日施行の連邦刑事訴訟規則41条(b)(6)により,管轄の範囲について重要な例外が加えられた。同号は,①電子的記憶媒体又は情報の所在地が技術的手段によって秘匿されている場合,又は②合衆国法典第18編1030条(a)(5)違反の捜査において,権限なく損壊された保護対象コンピュータが5以上の地区に所在する場合に,当該地区の外に所在する電子的記憶媒体へのリモート・アクセスによる捜索及び電子的に保存された情報の差押え又は複写を許可する令状を発付する権限を,マジストレイトジャッジに認める。匿名化技術によって所在地が判明しない場合に,管轄外の端末に対しても令状の効力が及ぶという点で,開示文書の記述には現れない仕組みである。

3 量刑――First Step Act及び無罪となった行為の除外

開示文書26頁は量刑基準(sentencing guidelines)を説明する。その後,2018年12月21日に成立した First Step Act of 2018(Pub. L. 115-391)により,善時(good time)の算定方法の変更,薬物事犯の累犯加重に係る必要的最低刑の引下げ,リスク及びニーズの評価に基づく期間算入制度の創設等が行われた。

量刑基準自体についても,開示文書の説明に対する重要な限定が加えられている。合衆国量刑委員会は,2024年の改正により量刑基準1B1.3条に(c)項を新設し,「Relevant conduct does not include conduct for which the defendant was criminally charged and acquitted in federal court, unless such conduct also establishes, in whole or in part, the instant offense of conviction」と定めた。すなわち,連邦裁判所において起訴され無罪となった行為は,量刑の基礎となる関連行為(relevant conduct)から除外される。ただし,除外されるのは連邦裁判所における無罪の場合に限られ,かつ,当該行為が有罪となった罪の成立を一部でも基礎付ける場合は除外されないから,「無罪となった事実は一切量刑に用いることができなくなった」という理解は正確ではない。

4 死刑存置州の数と連邦死刑の再開

開示文書26頁は「死刑制度は,2015年2月11日現在,連邦と32州で存続している」と記載する。現在の存置州は27州であり,ほかに知事による執行停止の措置が採られている州が4州(カリフォルニア,オハイオ,オレゴン及びペンシルヴェニア)ある。

存置州が減少した経緯を記載する際には,裁判所の判断によって死刑制度が失効した時点と,議会が条文を削除した時点を区別する必要がある。デラウェア州は2016年8月2日に州最高裁判所が死刑の量刑手続を違憲としたが,議会が法文から死刑を削除したのは2024年である。ワシントン州は2018年10月11日に州最高裁判所が違憲としたが,法文の削除は2023年である。これに対し,ニューハンプシャー州(2019年),コロラド州(2020年)及びヴァージニア州(2021年)は立法による廃止である。ヴァージニア州の現行法をみると,同州法典18.2-10条(a)は,最も重い類型である第1級重罪の刑を終身の拘禁刑及び10万ドル以下の罰金と定めており,死刑の定めは存在しない。

連邦のレベルでは,2021年7月1日の司法長官による執行停止の措置が,2025年1月20日の大統領令14164号(Restoring the Death Penalty and Protecting Public Safety。連邦官報2025年1月30日登載)によって撤回された。同令は,司法長官に対し,重大性が死刑を要求する全ての犯罪について死刑を求めること,法執行官の殺害及び不法に在留する外国人による死刑相当犯罪については連邦の管轄を追求して死刑を求めること,前大統領によって減刑された37人の収容場所及び処遇を評価すること等を指示するほか,第5条において,州及び連邦の死刑を科する権限を制限する連邦最高裁判所の判例を変更させるため適切な措置を採ることを司法長官に指示している。行政府が司法長官に対して最高裁判所の判例変更を求めるよう明文で指示した点は,死刑制度の当否とは別に,行政府と司法部との関係を示す資料である。

5 保釈及び少年事件

開示文書21頁から23頁までの起訴前手続の記述には,保釈(bail)に関する説明がない。この点は州法の領域であるが,イリノイ州が2023年9月18日から現金保釈を全事件について廃止し,資力ではなく危険性の評価に基づいて勾留の可否を判断する制度へ移行したこと,及びニューヨーク州が2019年から2020年にかけて保釈制度を改正したことは,アメリカの刑事手続の入口に関する近年の大きな変化である。日本の保釈制度については被告人の保釈を参照されたい。

少年非行事件について,開示文書27頁は,少年裁判所が扱う非行少年の対象年齢を18歳未満とする州が多いと記載する。その後,ニューヨーク州(2017年から2019年),ノースカロライナ州(2019年)及びミシガン州(2021年)等が対象年齢を引き上げ,ミズーリ州も同州法211.021条の「child」の定義を18歳未満とする規定を2021年1月1日から施行している。17歳の者を原則として成人として扱う州は,ジョージア州,テキサス州及びウィスコンシン州の3州であると報じられているが,本記事では,この3州の州法の条文自体を確認することができなかった。

第7 裁判外紛争処理――事前仲裁合意の限界

開示文書29頁は,裁判外紛争処理について,契約条項又は当事者の合意によって開始される場合と裁判所の決定によって開始される場合とを区別し,前者は拘束力を持つと記載するにとどまる。しかし,紛争が生ずる前に締結された仲裁合意(predispute arbitration agreement)の効力の限界は,この11年間のアメリカにおいて,民事司法制度の最大の分岐点となっている。

連邦最高裁判所は,一貫して連邦仲裁法に基づく仲裁合意の強制を認めてきた。2018年5月21日の Epic Systems Corp. v. Lewis 事件判決(事件番号16-285)は,個別的手続によることを定める仲裁合意は強制されなければならず,連邦仲裁法の除外規定も全国労働関係法もこれと異なる帰結を示さないとした。2022年6月15日の Viking River Cruises, Inc. v. Moriana 事件判決(事件番号20-1573)は,仲裁合意による代表訴訟の個別的請求と非個別的請求への分割を妨げる州の準則が連邦仲裁法によって専占されるとした。2023年6月23日の Coinbase, Inc. v. Bielski 事件判決(事件番号22-105)は,仲裁適格に関する中間上訴の係属中は地方裁判所が手続を停止しなければならないとし,2024年5月16日の Smith v. Spizzirri 事件判決(事件番号22-1218)は,仲裁に付すべき紛争について当事者から手続の停止が求められた場合,裁判所は停止しなければならず訴えを却下する裁量を有しないとした。2024年4月12日の Bissonnette v. LePage Bakeries Park St., LLC 事件判決(事件番号23-51)は,連邦仲裁法1条の適用除外に当たる運輸業従事者は運輸業に従事している必要はないとし,適用除外の判断基準を業種ではなく職務内容に置いた。

これに対して例外を作ったのは議会である。2022年3月3日に成立した Ending Forced Arbitration of Sexual Assault and Sexual Harassment Act of 2021(Pub. L. 117-90)により,合衆国法典第9編に第4章が新設された。同編401条(1)は,事前仲裁合意を「any agreement to arbitrate a dispute that had not yet arisen at the time of the making of the agreement」と定義し,同編402条は,性的暴行又はセクシュアルハラスメントに関する紛争について,被害を主張する者の選択により,事前仲裁合意及び事前の集団訴訟放棄条項を無効とし,執行することができないものとした。仲裁合意は原則として強制され,例外は議会が個別の立法によって設けるという整理が,現在の到達点である。

第8 開示文書の枠組みでは捉えられない4つの変化

開示文書は「裁判所・裁判官」「検察官」「弁護士」「法曹養成」「裁判手続」「ADR」という6項目で構成されており,日本の司法制度を説明する枠組みをそのまま用いている。この枠組みには,2015年以降に最も大きく動いた次の4つの論点を収める場所がない。

1 行政庁の法解釈に対する敬譲の廃棄

連邦最高裁判所は,2024年6月28日に言い渡した Loper Bright Enterprises v. Raimondo 事件判決(事件番号22-451)において,連邦行政手続法は,行政庁が制定法上の権限の範囲内で行為したか否かを判断するに当たり裁判所が独立の判断を行うことを要求しており,制定法が多義的であることのみを理由として行政庁の法解釈に従うことは許されないとして,Chevron 法理を明示的に変更した。開示文書5頁は,コロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所について実質的に行政法分野での専門性を有する裁判所となっていると評価するが,その専門性が働く場面の判断基準自体が変更されたことになる。

2 行政庁による裁決と第7修正の陪審審理権

連邦最高裁判所は,2024年6月27日に言い渡した SEC v. Jarkesy 事件判決(事件番号22-859)において,証券取引委員会が証券詐欺を理由として民事制裁金を求める場合,第7修正により被告人は陪審による審理を受ける権利を有すると判示した。開示文書は,合衆国憲法第3条に基づかない裁判所を列挙することによって非Article III型の裁決機関を整理しているが,その境界線は,この11年間で二度動いている。2018年4月24日の Oil States Energy Services, LLC v. Greene’s Energy Group, LLC 事件判決(事件番号16-712)は,特許の当事者系レビューが「公権」に関する事項であるとして憲法第3条に違反しないとしたのに対し,Jarkesy 判決はコモン・ロー上の詐欺を再現する制裁について公権の例外を否定した。

行政庁の裁決機関を担当する者の地位についても判断が示されている。2018年6月21日の Lucia v. SEC 事件判決(事件番号17-130)は,証券取引委員会の行政法審判官が合衆国憲法第2編の任命条項にいう「合衆国の公務員」に当たるとし,2021年6月21日の United States v. Arthrex, Inc. 事件判決(事件番号19-1434)は,特許審判部の行政特許審判官が当事者系レビューにおいて行使する再審査を受けない権限が,商務長官による下級公務員としての任命と両立しないとした。行政庁の決定に対する司法審査の入口についても,2023年4月14日の Axon Enterprise, Inc. v. FTC 事件判決(事件番号21-86)が,証券取引委員会又は連邦取引委員会の構造又は存在自体を違憲として争う請求について,制定法上の審査手続が地方裁判所の連邦問題管轄を排除しないとし,2024年7月1日の Corner Post, Inc. v. Board of Governors of the Federal Reserve System 事件判決(事件番号22-1008)が,連邦行政手続法に基づく請求は原告が最終的な行政行為によって損害を受けるまで6年の出訴期間の起算点である「発生」に至らないとした。

3 全国的差止めの範囲と事件配てんの無作為化

連邦最高裁判所は,2025年6月27日の Trump v. CASA, Inc. 事件決定(事件番号24A884)において,全国的差止め(universal injunction)は議会が連邦裁判所に与えた衡平法上の権限を超える蓋然性が高いとし,原審の差止めについて,出訴資格を有する各原告に完全な救済を与えるために必要な範囲を超える限度で政府の一部執行停止の申立てを認めた。開示文書4頁は,連邦地方裁判所の差止めに関する権利上訴(合衆国法典第28編1253条)に触れるにとどまり,救済の地理的又は人的な範囲を論じていない。

この論点の入口に当たるのが事件配てんである。連邦司法会議は2024年3月,州法の州全域における執行又は連邦法の全国的な執行を差し止め若しくは命ずることを求める民事訴訟について,地区全体を対象とする無作為の配てんによるべきものとする方針を承認した。同会議の発表は,全米94の連邦地方裁判所の多くで地区内の支部単位の配てんが行われており,単独の裁判官しか勤務していない支部では,当該支部に提訴することによって裁判官を事実上選択することが可能となっていたと説明する。もっとも,同じ発表は,州又は連邦の行為の差止め等を求めるものでない事件については単独裁判官支部への配てんを継続することができるとも述べており,この方針は各地区裁判所に対する勧告としての性質を持つにとどまる。「アメリカは裁判官の選択を制度的に封じた」と述べることはできない。

4 部族裁判所の刑事管轄

開示文書3頁は,インディアンの部族について,限定的にではあるが特別保留地内等における主権が残され,独自の部族裁判所を有するものもあり,管轄権が交錯すると述べるにとどまる。しかし,この領域は,立法と判例の双方によって書き換えられている。

立法面では,2022年の女性に対する暴力法再授権法により,合衆国法典第25編1304条が「特別部族刑事管轄」の規定へ全面的に改められた。同条(a)(5)は,対象犯罪を,部族司法関係者への暴行,児童に対する暴力,デート暴力,家庭内暴力,司法妨害,性暴力,性的人身取引,つきまとい及び保護命令違反の9類型と定義し,同条(b)(1)は,参加部族が全ての者に対して特別部族刑事管轄を行使する固有の権限を有することを承認及び確認し,同条(b)(2)は,その行使が合衆国又は州の管轄と並行するものであると定める。2013年の同法における対象が家庭内暴力,デート暴力及び保護命令違反の3類型であったことと比較すると,性暴力,人身取引,つきまとい,司法妨害等が新たに加えられたことになる。

判例面では,方向の異なる3件の判決が短期間に言い渡されている。2020年7月9日の McGirt v. Oklahoma 事件判決(事件番号18-9526)は,重大犯罪法の適用上,19世紀以来クリーク族のために留保された土地が現在も「インディアン・カントリー」であるとした。2021年6月1日の United States v. Cooley 事件判決(事件番号19-1414)は,部族警察官が保留地内を通る公道を通行する非インディアンを州法又は連邦法違反の疑いにより一時的に抑留し捜索する権限を有するとした。これに対し,2022年6月29日の Oklahoma v. Castro-Huerta 事件判決(事件番号21-429)は,インディアン・カントリーにおいて非インディアンがインディアンに対して行った犯罪について,連邦と州が並行する管轄を有するとした。部族の管轄を広く認める方向と州の管轄を認める方向とが並存しており,議会の立法がこれに重なっているから,この領域を一つの方向で説明することはできない。

第9 機械により生成された証拠に関する連邦証拠規則の改正提案

開示文書は連邦証拠規則を正面から扱っていないが,人工知能によって生成された証拠の取扱いは,現在のアメリカの司法制度において規則改正の対象となっている論点である。連邦司法会議の規則実務手続委員会は,2025年6月10日,証拠規則609条の改正案及び新設707条の提案を意見公募に付すことを承認し,意見公募は2025年8月15日から2026年2月16日まで行われた。新設707条の提案は,人間が作成した場合には専門家証言に当たる機械の出力について,証拠規則702条(a)から(d)までの要件を適用するものであり,単純な科学的計器の出力を明文で除外している。

その後の帰趨は,2026年6月3日及び4日に開催された同委員会の資料によって確定する。証拠規則諮問委員会が同委員会に提出した2026年5月17日付け報告は,609条の改正について最終承認を勧告し,902条(1)(部族の記録に関する自己認証)及び104条(a)(b)の改正案について意見公募を勧告する一方,707条については「The Committee does not recommend action on the proposed Rule 707 at this time. Instead, it has revised the proposed Rule and plans to conduct further study on it and another issue relating to artificial intelligence — the problems posed by “deepfakes” — at its next meeting.」と記載している。同委員会の議事日程においても,609条が最終承認に係る審議事項とされているのに対し,707条は情報提供事項として掲げられている。

なお,連邦裁判所ウェブサイトの改正案の一覧は,本記事の執筆時点においてもなお609条と707条とを2027年12月1日施行予定の欄に並べて掲載している。これは意見公募に付した時点の想定日程を掲げたものであり,同一覧のみを根拠として707条の施行時期を述べると,2026年6月の審議結果と食い違うことになる。日本における証拠の電子化の状況についてはmints後の証拠説明書及び民事裁判手続のIT化を参照されたい。

第10 日本の裁判所における米国の裁判及び仲裁の取扱い

アメリカの司法制度は,日本の裁判所においては,外国裁判所の判決の承認及び執行並びに仲裁合意の効力という形で問題となる。民事訴訟法118条は外国裁判所の確定判決の効力を認める要件を定め,民事執行法24条は執行判決を求める訴えについて定める。

懲罰的損害賠償については,最高裁判所第二小法廷平成9年7月11日判決(平成5年(オ)第1762号,民集51巻6号2573頁)が,外国裁判所の判決のうち,補償的損害賠償等に加えて見せしめと制裁のために懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分については執行判決をすることができないと判示した。同じ日に同じ原審に係る別事件について言い渡された最高裁判所第二小法廷平成9年7月11日判決(平成5年(オ)第1761号,民集51巻6号2530頁)は,外国裁判所の判決に記載がない利息であっても,当該外国の法制上,判決によって支払を命じられた金員に付随して発生し執行することができるとされている場合には,これを付加して執行判決をすることができると判示している。両者は事件番号が異なる別事件であるから,引用の際には事件番号まで特定する必要がある。

この準則は,その後さらに及ぶ範囲が明らかにされた。最高裁判所第三小法廷令和3年5月25日判決(令和2年(受)第170号,民集75巻6号2935頁)は,民事訴訟法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合,その弁済が外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても,これが当該部分に係る債権に充当されたものとして執行判決をすることはできないと判示した。

承認要件の判断枠組みについては,最高裁判所第一小法廷平成26年4月24日判決(平成23年(受)第1781号,民集68巻4号329頁)が,人事に関する訴え以外の訴えにおける民事訴訟法118条1号のいわゆる間接管轄について,基本的に日本の民事訴訟法の定める国際裁判管轄に関する規定に準拠しつつ,個々の事案における具体的事情に即し,外国裁判所の判決を承認するのが適当か否かという観点から条理に照らして判断すべきであるとした。また,最高裁判所第二小法廷平成31年1月18日判決(平成29年(受)第2177号,民集73巻1号1頁)は,判決の内容を了知させることが可能であったにもかかわらず,訴訟当事者にこれが了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより,不服申立ての機会が与えられないまま確定した外国裁判所の判決に係る訴訟手続は,同条3号にいう公の秩序に反すると判示した。

仲裁については,最高裁判所第一小法廷平成9年9月4日判決(平成6年(オ)第1848号,民集51巻8号3657頁)が,国際仲裁契約の成立及び効力の準拠法は第一次的には当事者の意思に従って定められると判示している。前記第7のとおり,アメリカにおいて事前仲裁合意の効力が広く認められていることを前提とすると,日本の当事者が米国の事業者との契約に仲裁条項を置く場合には,この準拠法の問題と,合衆国法典第9編第4章による例外の有無とを併せて検討する必要がある。外国への送達の方法については外国送達の方法,送達条約及び公示送達を参照されたい。

第11 開示文書を引用する際の留意点

以上の検討を,開示文書の頁ごとに整理すると次のとおりである。左欄の頁数は開示文書の頁である。

開示文書の記述現在の状態
3頁 部族裁判所の管轄が交錯すること記述としては誤りではないが,2022年の合衆国法典第25編1304条の改正及び2020年以降の3件の連邦最高裁判所判決により,対象犯罪及び管轄の重なり方が変わっている
7頁 連邦控訴裁判所179人,連邦地方裁判所677人現在も同数。2024年の増員法案は拒否権により不成立
7頁 州籍相違事件の係争価額7万5000ドル1996年から据置きであり,現在も条文どおり
10頁 連邦検察局93庁現在も93庁(司法地区は94)
11頁 連邦検察官及び連邦検察官補5812人(2013年3月)対応する現在の数値は司法省の公表資料からは確認することができなかった
18頁 司法試験の合格が通常必要であること現在もそのとおりであるが,オレゴン州の監督実務によるルートが例外として稼働している
18頁 MBE・MEE・MPT等の利用2026年7月から10法域で新試験(NextGen UBE)が実施されている
19頁 送達期間2015年12月1日から90日(改正前は120日)
20頁 開示(discovery)の範囲2015年12月1日から「事件の必要性に比例する」範囲に限定。旧文言は削除済み
20頁 電子情報の保存規則37条(e)(2015年12月1日改正)に対応する記述がない
19頁以下 民事訴訟の過程多地区訴訟に関する規則16.1が2025年12月1日に新設された
25頁 陪審の評決は連邦及び大部分の州で全員一致2020年以降は全州。ただし遡及効はない
26頁 量刑基準2024年の改正により,連邦裁判所で無罪となった行為が関連行為から除外された
26頁 死刑は連邦と32州で存続現在は連邦と27州。ほかに執行停止4州
29頁 事前の合意による仲裁は拘束力を持つこと2022年に合衆国法典第9編第4章が新設され,性的暴行等に関する紛争について例外が設けられた

開示文書は,条文番号と出典が付されている点で精度の高い資料であり,2015年2月時点のアメリカの司法制度を確認する資料としては現在も有用である。他方で,本記事が確認した限りでは,組織及び定員に関する条文はほとんど動いていないのに対し,手続規則,量刑基準及び判例は継続的に動いており,同じ文書の中でも部分によって陳腐化の速度が大きく異なる。開示文書を引用する場合には,引用する箇所が条文に関する記述か,規則又は判例に関する記述かを区別し,後者については施行日又は言渡日を確認する必要がある。

出典・参考資料

1 法令・規則

民事訴訟法(平成8年法律第109号)118条(e-Gov法令検索)
民事執行法(昭和54年法律第4号)24条(e-Gov法令検索)
合衆国法典第28編1条(連邦最高裁判所の構成及び定足数。United States Code, 2024 Edition,govinfo)
合衆国法典第28編133条(連邦地方裁判所の判事数。同)
合衆国法典第28編152条(破産裁判所の裁判官の任命及び任期。同)
合衆国法典第28編171条(連邦請求裁判所。同)
合衆国法典第28編251条(国際通商裁判所。同)
合衆国法典第28編541条(連邦検察官の任命及び任期。同)
合衆国法典第28編542条(連邦検察官補。同)
合衆国法典第28編543条(特別検察官。2010年改正。同)
合衆国法典第28編546条(欠員時の任命。同)
合衆国法典第28編631条(マジストレイトジャッジの任命及び任期。同)
合衆国法典第28編1332条(州籍相違管轄及び係争価額。同)
合衆国法典第25編1304条(特別部族刑事管轄。同)
合衆国法典第9編401条402条(性的暴行及びセクシュアルハラスメントに関する紛争の仲裁。同)
Federal Rules of Civil Procedure(2025年12月1日現在版)4条(m)・16条・16.1条・26条(b)(1)・37条(e)(United States Courts)
Federal Rules of Criminal Procedure(2025年12月1日現在版)41条(b)(6)(United States Courts)
JUDGES Act of 2024(上院法案4199号・上院可決版)(govinfo)
S.4199の立法経過(BILLSTATUS)(govinfo)
Executive Order 14164, Restoring the Death Penalty and Protecting Public Safety(連邦官報90巻19号8463頁~8465頁,2025年1月30日登載)
Code of Virginia §18.2-10(ヴァージニア州法典。Virginia Law Portal)
Missouri Revised Statutes §211.021(ミズーリ州法。Missouri Revisor of Statutes)

2 裁判例

最高裁判所第二小法廷平成9年7月11日判決(平成5年(オ)第1762号,民集51巻6号2573頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷平成9年7月11日判決(平成5年(オ)第1761号,民集51巻6号2530頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷平成9年9月4日判決(平成6年(オ)第1848号,民集51巻8号3657頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷平成26年4月24日判決(平成23年(受)第1781号,民集68巻4号329頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷平成31年1月18日判決(平成29年(受)第2177号,民集73巻1号1頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷令和3年5月25日判決(令和2年(受)第170号,民集75巻6号2935頁,裁判所ウェブサイト)
Ramos v. Louisiana(連邦最高裁判所2020年4月20日判決,事件番号18-5924)
Edwards v. Vannoy(同2021年5月17日判決,事件番号19-5807)
McGirt v. Oklahoma(同2020年7月9日判決,事件番号18-9526)
United States v. Cooley(同2021年6月1日判決,事件番号19-1414)
Oklahoma v. Castro-Huerta(同2022年6月29日判決,事件番号21-429)
Epic Systems Corp. v. Lewis(同2018年5月21日判決,事件番号16-285)
Viking River Cruises, Inc. v. Moriana(同2022年6月15日判決,事件番号20-1573)
Coinbase, Inc. v. Bielski(同2023年6月23日判決,事件番号22-105)
Smith v. Spizzirri(同2024年5月16日判決,事件番号22-1218)
Bissonnette v. LePage Bakeries Park St., LLC(同2024年4月12日判決,事件番号23-51)
Oil States Energy Services, LLC v. Greene’s Energy Group, LLC(同2018年4月24日判決,事件番号16-712)
Lucia v. SEC(同2018年6月21日判決,事件番号17-130)
United States v. Arthrex, Inc.(同2021年6月21日判決,事件番号19-1434)
Axon Enterprise, Inc. v. FTC(同2023年4月14日判決,事件番号21-86)
SEC v. Jarkesy(同2024年6月27日判決,事件番号22-859)
Loper Bright Enterprises v. Raimondo(同2024年6月28日判決,事件番号22-451)
Corner Post, Inc. v. Board of Governors of the Federal Reserve System(同2024年7月1日判決,事件番号22-1008)
Trump v. CASA, Inc.(同2025年6月27日決定,事件番号24A884)

3 公文書・行政資料

アメリカ合衆国の司法制度(最高裁判所開示文書。全32頁)
令和6年10月9日付け司法行政文書不開示通知書(最高裁秘書第2739号)(最高裁判所事務総長)
U.S. Attorneys Listing(2026年7月30日更新。United States Department of Justice)
Overview of the Judiciary(2026会計年度)(連邦裁判官の定員。United States Courts)
Conference Acts to Promote Random Case Assignment(2024年3月12日。United States Courts)
Committee on Rules of Practice and Procedure, Agenda Book, June 3-4, 2026(525頁の証拠規則諮問委員会2026年5月17日付け報告を含む。United States Courts)
Pending Rules and Forms Amendments(United States Courts)
Proposed Amendments Published for Public Comment(United States Courts)
Rules for the Oregon Supervised Practice Portfolio Examination(2026年1月1日施行版。Oregon State Bar)
Arizona Code of Judicial Administration §7-209(2024年8月29日改正版。アリゾナ州司法行政法典。州公式サイトから取得することができなかったため,同一内容を掲載する大学サイトにより確認した)

4 統計・データ

Judicial Business 2025(2025会計年度の連邦司法部の事件処理統計。United States Courts)
MDL Statistics Report – Distribution of Pending MDL Dockets by Actions Pending(2026年7月1日現在。United States Judicial Panel on Multidistrict Litigation)
Council of the Section of Legal Education and Admissions to the Bar releases annual law school data(2025年12月15日。American Bar Association)
ABA Profile of the Legal Profession(2025年版。American Bar Association)
Ten Jurisdictions Complete the Inaugural Administration of the NextGen Uniform Bar Examination(2026年7月31日。National Conference of Bar Examiners)
Statement on the July 2026 NextGen Bar Exam Administration(National Conference of Bar Examiners)
States With and Without the Death Penalty(Death Penalty Information Center。死刑の存廃に関する立場を有する民間団体による集計である)
U.S. Sentencing Guidelines Manual, Chapter One(2025年11月1日版1B1.3条。United States Sentencing Commission)

5 文献

①丸山英二『入門アメリカ法〔第4版〕』(弘文堂,2020年)(開示文書の脚注1が引用する第3版(2013年)の現行版)
②溜箭将之『英米民事訴訟法』(東京大学出版会,2016年)
③芳賀雅顯『外国判決の承認と執行』(慶應義塾大学出版会,2025年)