第1 この記事が扱う相続と,適用される法の決め方
1 相続分は相続開始時の法によって定まる
相続登記が長期間されないまま放置された不動産や,先代・先々代の名義のままになっている土地について遺産分割や相続登記を進めるときは,被相続人が死亡した日を基準として,その当時に施行されていた法律による法定相続分を計算しなければならない。現行の民法900条1号は,子及び配偶者が相続人であるときの相続分を各2分の1と定めているが,この割合が適用されるのは昭和56年1月1日以後に開始した相続に限られる。本記事は,昭和55年12月31日以前に開始した相続について,どの時期にどの割合が適用されるのかを,官報に掲載された公布時の条文にさかのぼって整理するものである。作成に当たっては,AIを用いて官報,国会会議録及び裁判所ウェブサイトの原資料を通読し,条文の文言と数値を原典と逐語で照合した。
この整理の出発点となる経過措置は二つある。一つは,民法及び家事審判法の一部を改正する法律(昭和55年法律第51号)附則第2項であり,「この法律の施行前に開始した相続に関しては、なお、第一条の規定による改正前の民法の規定を適用する」と定める。もう一つは,民法の一部を改正する法律(昭和22年法律第222号)附則第25条第1項であり,「応急措置法施行前に開始した相続に関しては、第二項の場合を除いて、なお、旧法を適用する」と定める。相続分は,相続人の範囲と同じく相続開始時に施行されていた法によって決まり,その後の改正によって遡って変わることはない。
本記事は,被相続人が日本人であり日本法が準拠法となる場合を対象とする。被相続人が外国人であるときは相続の準拠法は本国法であり,最高裁判所第二小法廷昭和37年8月10日判決は,大韓民国人について昭和31年当時に生じた遺産相続の相続人を,当時の同国の慣習によって認定している。在日韓国・朝鮮人が被相続人である事案の相続人調査については在日韓国・朝鮮人の相続人調査で扱っている。また,相続人の範囲そのもの,すなわち家督相続と遺産相続の区別,家督相続人が選定されなかった場合の処理及び家附の継子の相続権については旧民法が適用される相続の相続人の特定で扱っているため,本記事は相続人が確定した後の割合の計算に対象を絞る。
2 適用される法の時期区分
相続開始日によって適用される法は,次の5期に分かれる。境界となる日付は,いずれも各法律の施行期日に関する規定から導かれる。
| 相続開始日 | 適用される法 |
|---|---|
| 昭和22年5月2日以前 | 旧民法(明治31年法律第9号として公布された民法第四編親族・第五編相続)。家督相続又は遺産相続 |
| 昭和22年5月3日から同年12月31日まで | 日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和22年法律第74号)及び旧民法の遺産相続に関する規定 |
| 昭和23年1月1日から昭和37年6月30日まで | 民法(昭和22年法律第222号による改正後のもの) |
| 昭和37年7月1日から昭和55年12月31日まで | 民法(昭和37年法律第40号による改正後のもの) |
| 昭和56年1月1日以後 | 民法(昭和55年法律第51号による改正後のもの) |
各境界日の根拠は次のとおりである。応急措置法の附則は「この法律は、日本國憲法施行の日から、これを施行する。」と定めるから,同法は憲法施行日である昭和22年5月3日から適用される。昭和22年法律第222号附則第1条は「この法律は、昭和二十三年一月一日から、これを施行する。」と定める。昭和37年法律第40号附則第1項は「この法律は、昭和三十七年七月一日から施行する。」と定め,昭和55年法律第51号附則第1項は「この法律は、昭和五十六年一月一日から施行する。」と定める。なお,応急措置法の附則には失効期日を定める規定が置かれておらず,同法及び同時期の関係法律の整理に関する法律にも同法を廃止する条項は見当たらないが,新民法の施行によって相続に関する規律が引き継がれた結果,昭和23年1月1日以後に開始した相続には新民法が適用される。
第2 昭和55年改正が設けた分水嶺
1 改正法附則の経過措置
民法及び家事審判法の一部を改正する法律は,昭和55年5月17日に公布され,官報同日付本紙第15994号5頁に掲載された。その附則は7項から成り,相続分の計算に直接かかわるのは次の2項である。
1 この法律は、昭和五十六年一月一日から施行する。
2 この法律の施行前に開始した相続に関しては、なお、第一条の規定による改正前の民法の規定を適用する。
この経過措置は,改正後の規定を施行前に開始した相続へは一切及ぼさないという完全な不遡及を定めるものである。したがって,被相続人が昭和55年12月31日に死亡した相続と,翌日である昭和56年1月1日に死亡した相続とでは,遺産分割や相続登記を現在行うとしても,適用される相続分の割合が異なる。
2 改正された条文の内容
改正文は,改正前の文言をそのまま引用したうえで置き換える形式で書かれているため,改正前の民法900条1号から3号までの文言を改正文から確定することができる。官報に掲載された改正文は次のとおりである。
第九百条第一号中「子の相続分は、三分の二とし、配偶者の相続分は、三分の一」を「子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一」に改め、同条第二号中「配偶者の相続分及び直系尊属の相続分は、各、二分の一」を「配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一」に改め、同条第三号中「三分の二」を「四分の三」に、「三分の一」を「四分の一」に改める。
同じ改正法により,あわせて次の改正がされた。第一に,889条2項中「及び第三項」を削り,兄弟姉妹が相続人となる場合の代襲相続人の範囲を兄弟姉妹の子までに制限した。第二に,901条2項中「直系卑属」を「子」に改めた。第三に,904条の2を新設し,寄与分の制度を設けた。第四に,906条中「職業」を「年齢、職業、心身の状態及び生活の状況」に改めた。第五に,1028条1号を「直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の三分の一」に改め,同条2号中「三分の一」を「二分の一」に改めて,遺留分の割合を変更した。相続分の割合だけでなく,代襲相続の範囲,寄与分の有無及び遺留分の割合も昭和56年1月1日を境に変わる。
3 e-Gov法令検索で経過措置を確認するときの限界
現在の民法をe-Gov法令検索で表示すると,末尾に歴代の改正法の附則が収録されており,昭和55年法律第51号の附則も掲載されている。もっとも,そこに表示されるのは「抄」であって,前記の第1項及び第2項だけが収録され,戸籍法の一部改正(第4項),相続税法の一部改正(第5項),相続税に関する経過措置(第6項)及び民事訴訟費用等に関する法律の一部改正(第7項)は落ちている。相続税の取扱いまで確認する必要がある場合は,e-Govの附則だけを見て「附則は第2項までである」と判断してはならない。
また,e-Gov法令検索の改正沿革のデータは平成28年以降の版に限られており,時点を指定して昭和55年当時の条文本文を取得することはできない。改正前の条文を確認する必要があるときは,官報に掲載された公布時の条文又は改正文まで戻る必要がある。
第3 昭和23年1月1日から昭和55年12月31日までの法定相続分
1 配偶者と血族相続人の割合
昭和22年法律第222号によって全面的に改められた民法900条は,官報昭和22年12月22日本紙第6283号235頁に掲載されている。その1号から3号までは次のとおりである。
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、左の規定に従う。
一 直系卑属及び配偶者が相続人であるときは、直系卑属の相続分は、三分の二とし、配偶者の相続分は、三分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分及び直系尊属の相続分は、各々二分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、兄弟姉妹の相続分は、三分の一とする。
この割合は,昭和55年法律第51号による改正まで変わっていない。現行法と対比すると次のようになる。
| 相続人の組合せ | 昭和22年5月3日から昭和55年12月31日まで | 昭和56年1月1日以後 |
|---|---|---|
| 配偶者と子(直系卑属) | 配偶者3分の1,子(直系卑属)3分の2 | 配偶者2分の1,子2分の1 |
| 配偶者と直系尊属 | 配偶者2分の1,直系尊属2分の1 | 配偶者3分の2,直系尊属3分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者3分の2,兄弟姉妹3分の1 | 配偶者4分の3,兄弟姉妹4分の1 |
2 同順位の相続人が数人あるときの割合
同順位の相続人が数人あるときの割合は,同条4号が定めている。
四 直系卑属、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。但し、嫡出でない直系卑属の相続分は、嫡出である直系卑属の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
昭和55年以前に開始した相続では,嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1として計算する。この点は違憲決定との関係で誤解が生じやすいため,後記第7で改めて扱う。具体的な計算例を示すと,被相続人に配偶者,嫡出子1人及び嫡出でない子1人がいる場合,配偶者は3分の1,子全体で3分の2となり,これを2対1で分けるから,嫡出子は9分の4,嫡出でない子は9分の2となる。
3 昭和37年改正が変えたものと変えなかったもの
昭和37年法律第40号は,官報昭和37年3月29日本紙第10580号702頁に掲載されている。同法は900条にも手を入れているが,その改正文は「第九百条中「直系卑属」を「子」に改める。」というものにとどまり,割合の数値は動かしていない。この点は,法案の逐条説明において,888条,889条,900条及び901条の改正が「いずれも……八百八十七条の改正に伴いまして、条文の整理をいたしたものでございます」と説明されていることからも確認できる。
割合が昭和55年改正まで変わっていないことは,昭和55年改正法の提案理由説明からも裏付けられる。昭和55年3月18日の衆議院法務委員会において,法務大臣は「現行の民法は、法定相続分につき、子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分は三分の二、配偶者の相続分は三分の一、配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者及び直系尊属の相続分は各二分の一、配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は三分の二、兄弟姉妹の相続分は三分の一と定めております」と述べている。昭和55年の時点で「現行の民法」とされている数値は,昭和23年の施行当時と同一である。
したがって,昭和37年7月1日は法定相続分の割合の分岐点ではない。同日を境に変わったのは,代襲相続の範囲,相続放棄の効果及び同時死亡の推定である。昭和37年法律第40号は,887条を全部改正して被相続人の子が相続人となる旨と代襲及び再代襲を明示し,888条を削除し,889条1項に「但し、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。」を加え,939条を全部改正して「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかつたものとみなす。」とし,32条の2に同時死亡の推定を新設した。改正前の939条は「放棄は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずる。」「数人の相続人がある場合において、その一人が放棄をしたときは、その相続分は、他の相続人の相続分に応じてこれに帰属する。」と定めており,逐条説明でも同条2項の解釈が分かれて実務上支障を来していたと説明されている。
さらに注意を要するのは,昭和37年改正法附則第2項が「この法律による改正後の民法は、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、従前の民法によつて生じた効力を妨げない。」と定め,原則として遡及適用としている点である。昭和55年改正が完全な不遡及であるのに対し,昭和37年改正は原則遡及であるという非対称があるため,昭和37年6月30日以前に開始した相続であっても,代襲相続の範囲や相続放棄の効果は,既に生じた効力を害しない限度で改正後の規定によって処理されることになる。
第4 応急措置法が適用される相続の相続分
日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律は,昭和22年4月19日に公布され,官報同日付第6077号191頁に掲載された。相続に関する規定は次のとおりである。
第七条 家督相続に関する規定は、これを適用しない。相続については、第八条及び第九条の規定によるの外、遺産相続に関する規定に従う。
第八条 直系卑属、直系尊属及び兄弟姉妹は、その順序により相続人となる。
配偶者は、常に相続人となるものとし、その相続分は、左の規定に従う。
一 直系卑属とともに相続人であるときは、三分の一とする。
二 直系尊属とともに相続人であるときは、二分の一とする。
三 兄弟姉妹とともに相続人であるときは、三分の二とする。
この期間の相続分の計算は,重畳的な構造になっている。すなわち,家督相続は開始せず(7条前段),相続人の順位は直系卑属,直系尊属,兄弟姉妹の順となり(8条1項),配偶者は常に相続人となってその相続分は3分の1,2分の1又は3分の2となる(8条2項)。もっとも,同順位の相続人が数人ある場合の割合について応急措置法は何も定めていないから,7条後段により旧民法の遺産相続に関する規定が補充的に適用される。その結果,同順位者の間では均分となり,直系卑属が数人あるときは庶子及び私生子の相続分が嫡出子の2分の1になるという旧民法1004条の規律が,この期間にもなお働くことになる。
なお,同法9条は「兄弟姉妹以外の相続人の遺留分の額は、左の規定に従う。」として,直系卑属のみが相続人であるとき又は直系卑属及び配偶者が相続人であるときは被相続人の財産の2分の1,その他の場合は3分の1と定めている。この割合は,後記第9のとおり,新民法1028条の制定時の規定と同じである。
第5 旧民法の遺産相続における相続分
1 遺産相続人の順位
旧民法の相続は家督相続と遺産相続の二本立てであり,戸主の地位の承継である家督相続は単独相続であるから相続分の計算は生じない。割合が問題となるのは,戸主以外の家族が死亡したことによって開始する遺産相続の場合である。旧民法の該当条文は,官報明治31年6月21日第4491号(民法第四編第五編を掲載した号外)に掲載されている。
第九百九十二条 遺産相続ハ家族ノ死亡ニ因リテ開始ス
第九百九十四条 被相続人ノ直系卑属ハ左ノ規定ニ従ヒ遺産相続人ト為ル
一 親等ノ異ナリタル者ノ間ニ在リテハ其近キ者ヲ先ニス
二 親等ノ同シキ者ハ同順位ニ於テ遺産相続人ト為ル
第九百九十五条 前条ノ規定ニ依リテ遺産相続人タルヘキ者カ相続ノ開始前ニ死亡シ又ハ其相続権ヲ失ヒタル場合ニ於テ其者ニ直系卑属アルトキハ其直系卑属ハ前条ノ規定ニ従ヒ其者ト同順位ニ於テ遺産相続人ト為ル
第九百九十六条 前二条ノ規定ニ依リテ遺産相続人タルヘキ者ナキ場合ニ於テ遺産相続ヲ為スヘキ者ノ順位左ノ如シ
第一 配偶者
第二 直系尊属
第三 戸主
旧民法の遺産相続では,配偶者は常に相続人となるわけではない。直系卑属及びその代襲者がいる限り配偶者は相続人とならず,直系卑属がいない場合に初めて第1順位の相続人として単独で相続する。応急措置法及び新民法の下で配偶者が常に相続人となるのとは構造が異なるから,昭和22年5月2日以前に開始した遺産相続について「配偶者3分の1,子3分の2」と計算することはできない。
2 庶子及び私生子の相続分
相続分の割合を定めるのは1004条である。
第千三条 各共同相続人ハ其相続分ニ応シテ被相続人ノ権利義務ヲ承継ス
第千四条 同順位ノ相続人数人アルトキハ其各自ノ相続分ハ相均シキモノトス但直系卑属数人アルトキハ庶子及ヒ私生子ノ相続分ハ嫡出子ノ相続分ノ二分ノ一トス
第千五条 第九百九十五条ノ規定ニ依リテ相続人タル直系卑属ノ相続分ハ其直系尊属カ受クヘカリシモノニ同シ但直系卑属数人アルトキハ其各自ノ直系尊属カ受クヘカリシ部分ニ付キ前条ノ規定ニ従ヒテ其相続分ヲ定ム
条文が減額の対象としているのは「庶子及ヒ私生子」であって,「非嫡出子」という語は用いられていない。庶子は父の認知を受けた子を,私生子は父の認知のない子を指す当時の用語であり,二次的な資料ではこれをまとめて非嫡出子と言い換えていることがあるが,戸籍の記載を読み解いて相続分を計算する場面では,条文の文言のまま確認するのが安全である。
第6 代襲相続の範囲が三段階に変わること
法定相続分を計算するときは,割合の数値だけでなく,代襲相続によって相続人となる者の範囲も確認しなければならない。代襲相続人が増減すれば,同順位者間で頭割りする際の分母が変わるからである。兄弟姉妹が相続人となる場合の代襲相続の範囲は,時期によって三段階に変わる。
第1段階は応急措置法が適用される期間であり,兄弟姉妹の代襲相続は認められない。最高裁判所第二小法廷昭和43年11月22日判決は,「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律の施行中に相続が開始し、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合において、同人らが右相続開始前に死亡していたときは、同人らの直系卑属は代襲相続権を有しない」と判示している。応急措置法8条1項が相続人の順位を定めるだけで代襲について何も定めておらず,旧民法の遺産相続に関する規定にも兄弟姉妹についての代襲の準用がないことによる。
第2段階は昭和23年1月1日から昭和55年12月31日までであり,兄弟姉妹の代襲相続の範囲に制限がない。昭和22年法律第222号の889条2項は,兄弟姉妹が相続人となる場合について代襲相続を定めた888条を準用しており,昭和37年改正後の889条2項も887条2項及び3項を準用していたから,甥姪が死亡していればその子以下も代襲する。第3段階が昭和56年1月1日以後であり,前記第2の2のとおり889条2項から「及び第三項」が削られた結果,代襲は甥姪の一代限りとなる。
したがって,昭和55年12月31日以前に開始した相続について,現行法の感覚で兄弟姉妹の代襲を甥姪一代限りに限定すると,相続人を取り落とすことになる。逆に,応急措置法が適用される8か月弱の期間について甥姪の代襲を認めると,相続人を過大に把握することになる。相続開始日がこの期間に近接している事案では,戸籍上の死亡日を1日単位で確認する必要がある。
第7 嫡出でない子の相続分と違憲決定の射程
嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号ただし書前段については,最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定が違憲と判断している。もっとも,同決定は違憲となる時期と,判断が既存の法律関係に及ぼす影響の双方を限定している。
1 民法900条4号ただし書前段の規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していた。
2 民法900条4号ただし書前段の規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたとする最高裁判所の判断は,上記当時から同判断時までの間に開始された他の相続につき,同号ただし書前段の規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。
これに先立つ最高裁判所大法廷平成7年7月5日決定は,同じ規定について「民法九〇〇条四号ただし書前段は、憲法一四条一項に違反しない」と判断していた。平成25年決定が違憲と判断した基準時が「遅くとも平成13年7月当時」とされていることからも明らかなとおり,違憲判断の効力は昭和55年12月31日以前に開始した相続には及ばない。したがって,本記事が対象とする期間の相続については,嫡出でない子の相続分は嫡出子の2分の1として計算することになる。旧民法が適用される期間についても,前記第5の2のとおり庶子及び私生子の相続分は嫡出子の2分の1である。
なお,900条4号ただし書前段は,平成25年12月11日法律第94号によって削除されている。現在の条文だけを見て過去の相続分を計算すると,この点でも誤りが生じる。
第8 地域による適用法の違い
新民法が本土で施行された昭和23年1月1日の時点で,奄美群島及び沖縄県は日本の施政権の外にあった。実務書の整理によれば,奄美群島については,奄美群島の復帰に伴う法令の適用の暫定措置等に関する法律及び昭和28年12月24日政令第404号により,昭和28年12月25日以後に新民法及び新民法附則が適用されることとなり,昭和28年12月23日民事甲第2524号民事局長通達がその取扱いを示した。本土復帰前については,奄美大島に本籍がある法定推定家督相続人について家督相続の適用があるとされ,昭和29年1月18日民事甲第94号民事局長電報回答がこれを明らかにしている。
沖縄県については,米国の施政権下では旧民法が適用されていたところ,昭和30年12月31日公布の琉球政府立法院立法第84号「民法の一部を改正する立法」が昭和32年1月1日から施行され,本土の新民法とほぼ同一の内容が適用されることとなった。昭和32年4月18日民事甲第680号民事局長通達がその内容を示している。同立法23条が本土の新民法附則25条に相当する規定であり,沖縄では応急措置法を経ずに新民法相当の規律へ移行した点が本土と異なる。昭和47年5月15日の本土復帰後は,沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律(昭和46年法律第129号)等により本土の民法が適用されている。
この地域特例により,沖縄県に本籍のある被相続人が昭和22年5月3日から昭和31年12月31日までの間に死亡した場合には,本土の時期区分表をそのまま当てはめることができず,旧民法が適用される可能性がある。本記事のこの部分は実務書の記述によるものであり,引用されている琉球政府立法及び各通達の原文自体は確認していないため,具体的な事案では該当する通達に当たって確認する必要がある。
第9 相続分の計算に連動する制度
1 遺留分
遺留分の割合も,相続分と同様に相続開始時の法によって定まる。昭和22年法律第222号の1028条は「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、左の額を受ける。」として,1号で「直系卑属のみが相続人であるとき、又は直系卑属及び配偶者が相続人であるときは、被相続人の財産の二分の一」,2号で「その他の場合には、被相続人の財産の三分の一」と定めていた。昭和55年改正はこれを直系尊属のみが相続人であるときは3分の1,その他の場合は2分の1に改めたから,配偶者が相続人となる場合の遺留分は,昭和55年12月31日以前に開始した相続では3分の1にとどまる。改正前の遺留分減殺請求によって生じた共有関係の解消については改正前の遺留分減殺請求によって共有となった不動産の解消方法で扱っている。
2 寄与分
寄与分を定める904条の2は,昭和55年法律第51号によって新設された規定であり,同法附則第2項により,昭和55年12月31日以前に開始した相続には適用されない。この期間の相続については,寄与を主張して具体的相続分を修正することができない。これに対し,特別受益の持戻しは旧民法1007条及び新民法903条により当初から制度として存在しており,昭和22年法律第222号附則第31条は「応急措置法施行前に分家又は廃絶家再興のため贈与された財産は、新法第九百三条の規定の適用については、これを生計の資本として贈与された財産とみなす。」と定めている。現行法における寄与分及び特別受益の主張方法は,遺産分割における寄与分の主張方法及び特別受益の主張・立証方法で扱っている。
3 相続税法上の相続分と配偶者の税額軽減
相続税法55条は,相続財産が未分割である場合について,各共同相続人が「民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分」に従って財産を取得したものとして課税価格を計算する旨を定めている。ここでいう相続分も,相続開始時の民法によって定まる。東京地方裁判所昭和62年10月26日判決は,同条にいう「相続分」について,民法900条から904条までの規定により定まる相続分のみをいうのではなく,共同相続人間で相続分の譲渡がされた場合における当該譲渡の結果定まる相続分も含まれると判示している。
昭和55年法律第51号は,民法だけでなく相続税法にも手を入れている。同法附則第5項は,配偶者に対する相続税額の軽減を定める相続税法19条の2第1項2号イ中の「三分の一」を「二分の一」に改めるとともに,同法32条及び55条中の「民法の規定」を「民法(第九百四条の二を除く。)の規定」に改め,新設された寄与分を課税価格の計算に反映させない旨を明らかにした。そのうえで同附則第6項は「前項の規定による改正後の相続税法の規定は、この法律の施行の日以後に相続又は遺贈……により取得した財産に係る相続税について適用し、同日前に相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税については、なお従前の例による。」と定めている。配偶者に対する相続税額の軽減の基準となる割合も昭和56年1月1日を境に変わるため,古い相続についてさかのぼって申告や更正の請求を検討する場合には,民法上の相続分と併せて確認する必要がある。
第10 計算の手順と誤りやすい点
1 計算の手順
計算は,①戸籍によって相続開始日を確定する,②前記第1の2の時期区分により適用法を確定する,③その時期の規定によって相続人の範囲を確定する,④その時期の規定によって相続分を当てはめる,⑤特別受益及び(昭和56年1月1日以後の相続については)寄与分を検討する,⑥遺留分が問題となる場合は相続開始時の1028条によって割合を確認する,という順序で進める。旧民法の期間については,死亡以外に隠居,入夫婚姻,国籍喪失といった生前の相続開始原因があるため,死亡日だけを追っていると相続開始の時点を取り違えることがある。
数次相続の事案では,各相続について別々に適用法を確定する必要がある。先代の相続に旧民法が適用され,次代の相続に新民法が適用されるという組合せは珍しくない。最高裁判所第二小法廷昭和38年4月19日判決は,昭和22年法律第222号附則25条2項によって新法により相続人となる者について,同法施行当時に生存している必要はないとしたうえで,その者が応急措置法施行前に死亡していた場合には,その者の相続については旧法を適用すべきであると判示している。相続人の一部が行方不明である場合の処理については,相続財産清算人・管理人・不在者財産管理人の違いと代位相続登記を参照されたい。
2 誤りやすい点
実際に生じやすい誤りは,①昭和55年12月31日以前の相続に配偶者2分の1を当てはめること,②旧民法の遺産相続で配偶者を直系卑属と並べて計算すること,③昭和55年12月31日以前の相続について兄弟姉妹の代襲を甥姪一代限りに絞ること,④応急措置法が適用される期間について兄弟姉妹の代襲を認めること,⑤昭和37年改正を不遡及と誤解すること,⑥嫡出でない子の相続分を一律に嫡出子と同等として計算すること,⑦昭和55年12月31日以前の相続に寄与分を持ち込むこと,⑧相続税の配偶者の税額軽減を現行の基準で計算すること,の8点である。
このうち②から④までは,割合の数値ではなく相続人の範囲に関する誤りであるが,同順位者の頭数が変われば各人の相続分も変わるため,結果として計算を誤ることになる。また,昭和37年7月1日を相続分の割合の分岐点として説明する資料が見受けられるが,前記第3の3のとおり,官報の改正文と国会における逐条説明のいずれからも,同日に割合が変わった事実は確認できない。同日を分岐点として挙げる記述に接したときは,代襲相続の規律の変更と取り違えていないかを確認する必要がある。
3 計算した相続分が争われた場合
昭和55年以前に開始した相続の相続分は,多くの場合,相続登記が未了のまま推移した不動産の持分をめぐって現実の争いとなる。相続財産の共有の性質について,最高裁判所第三小法廷昭和30年5月31日判決は,「相続財産の共有は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する『共有』とその性質を異にするものではない」と判示しており,旧法が適用される相続についても現行の遺産分割及び共有の規定によって処理される。昭和22年法律第222号附則第32条が新民法906条及び907条を旧法の遺産相続に準用していることも,これと整合する。未分割の共有状態の解消手段については遺産相続における共有状態の解消方法で扱っている。
もっとも,共同相続人の一人が自己の相続分を超える部分を占有管理している場合には,相続回復請求権の期間制限が実質的な帰趨を左右する。最高裁判所第三小法廷昭和54年7月10日判決は,旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人が他の共同相続人の相続権を侵害している場合について相続回復請求権の規定の適用があるとしたうえで,侵害している者がその部分が他の共同相続人の持分に属することを知っているとき,又はその部分につき相続による持分があると信ぜられるべき合理的な事由がないときは,同規定の適用が排除されると判示している。古い相続の相続分を計算した結果,登記名義と食い違う持分が判明した場合には,割合の計算と並行して,この期間制限の主張が成り立つかどうかを検討することになる。以上は一般的な情報提供であり,個別の事案についての法的助言ではないため,具体的な処理は資料を確認したうえで判断する必要がある。
出典・参考資料
1 法令
①民法(明治29年法律第89号)900条・904条の2並びに附則(昭和22年法律第222号,昭和37年法律第40号及び昭和55年法律第51号の各附則)(e-Gov法令検索)
②相続税法(昭和25年法律第73号)19条の2・55条(e-Gov法令検索)
③日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和22年法律第74号)(日本法令索引)
2 裁判例
①最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定(平成24年(ク)第984号,民集67巻6号1320頁,裁判所ウェブサイト)
②最高裁判所大法廷平成7年7月5日決定(平成3年(ク)第143号,民集49巻7号1789頁,裁判所ウェブサイト)
③最高裁判所第二小法廷昭和43年11月22日判決(昭和41年(オ)第106号,民集22巻12号2777頁,裁判所ウェブサイト)
④最高裁判所第二小法廷昭和38年4月19日判決(昭和34年(オ)第1273号,民集17巻3号518頁,裁判所ウェブサイト)
⑤最高裁判所第三小法廷昭和54年7月10日判決(昭和50年(オ)第878号,民集33巻5号457頁,裁判所ウェブサイト)
⑥最高裁判所第三小法廷昭和30年5月31日判決(昭和28年(オ)第163号,民集9巻6号793頁,裁判所ウェブサイト)
⑦最高裁判所第二小法廷昭和37年8月10日判決(昭和34年(オ)第1194号,民集16巻8号1712頁,裁判所ウェブサイト)
⑧東京地方裁判所昭和62年10月26日判決(昭和55年(行ウ)第86号,裁判所ウェブサイト)
3 公文書・歴史資料
①官報明治31年6月21日号外(第4491号)(民法第四編第五編=明治31年法律第9号。992条・994条から996条まで・1003条から1005条まで。国立国会図書館デジタルコレクション)
②官報昭和22年4月19日第6077号191頁(日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律=昭和22年法律第74号。国立国会図書館デジタルコレクション)
③官報昭和22年12月22日第6283号235頁(民法の一部を改正する法律=昭和22年法律第222号。887条から889条まで・900条・901条。附則は229頁以下。国立国会図書館デジタルコレクション)
④官報昭和37年3月29日本紙第10580号702頁(民法の一部を改正する法律=昭和37年法律第40号。改正文,附則及び改正前条文を掲げた参照欄。国立印刷局官報情報検索サービスにより確認)
⑤官報昭和55年5月17日本紙第15994号5頁(民法及び家事審判法の一部を改正する法律=昭和55年法律第51号。改正文及び附則第1項から第7項まで。国立印刷局官報情報検索サービスにより確認)
⑥第91回国会衆議院法務委員会議録第7号(昭和55年3月18日。法定相続分の改定等に関する提案理由説明。国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑦第40回国会衆議院法務委員会議録第5号(昭和37年2月15日。提案理由説明及び逐条説明。国立国会図書館国会会議録検索システム)
4 文献
①中込一洋『相続開始時別 相続人の範囲と遺産の割合――明治民法・応急措置法・現行民法』(新日本法規出版,2023年)223頁
②末光祐一『事例でわかる戦前・戦後の新旧民法が交差する相続に関する法律と実務』(日本加除出版,2017年)236頁~239頁