目次第1 総論
1 「3つのe」からなる裁判手続等のIT化
2 3つのeの導入経緯
第2 令和2年度に開発を開始したmints(民事裁判書類電子提出システム)
1 総論
2 mintsの名称の由来
3 mintsの操作関係
4 mintsの位置づけ
5 mintsに関する論文
第3 令和4年度に開発を開始したRoootS(裁判所職員向けのe事件管理システム)
1 総論
2 RoootSの導入の遅れ
3 最高裁の財務省に対する説明内容
第4 令和5年度に開発を開始したTreeeS(国民及び裁判所職員向けのe提出・e法廷・e事件管理システム)
1 総論
2 最高裁の財務省に対する説明内容
第5 mintsはTreeeSに移行する予定であること
第6 令和6年3月下旬に発生した登記・供託オンライン申請システムの障害
第7 ロータス・ノーツを基盤とした裁判事務処理システムの全国展開の中止(平成16年5月)
第8 システム開発失敗の原因及びその裁判例
1 システム開発失敗の原因
2 システム開発失敗の裁判例
第9 関連記事その他
第1 総論
1 「3つのe」からなる裁判手続等のIT化
(1) 平成29年6月9日,未来投資戦略2017(成長戦略)及び骨太の方針2017において,裁判手続等のIT化を推進することとされました。
(2)ア 平成30年3月30日,同検討会で「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて-」が取りまとめられられましたところ,同取りまとめ20頁では,①フェーズ1は現行法の下でのウェブ会議・テレビ会議等の運用(e法廷)であり,②フェーズ2は新法に基づく弁論・争点整理等の運用(e法廷)であり,③フェーズ3はオンラインでの申立て等の運用(e提出及びe事件管理)であるとされました。
イ 平成30年6月15日,未来投資戦略2018において,民事訴訟に関する裁判手続等の全面IT化の実現を目指すとされました。
ウ 行政のデジタル化に関する基本原則及び行政手続の原則オンライン化のために必要な事項等を定めたデジタル手続法(令和元年5月31日法律第16号)は令和元年12月16日に施行されました(地方自治研究機構(RILG)HPの「デジタル手続法の概要(令和元年12月)」参照)。
(3) 令和2年7月17日,成長戦略フォローアップにおいて,「2025年度中に当事者等による電子提出等の本格的な利用を可能とすることを目指し、一部について先行した運用開始の検討」等を司法府に期待し,行政府は必要な措置を講ずるとされました。
2 3つのeの導入経緯
(1) e法廷
ア フェーズ1としてのTeamsを利用したe法廷は,令和2年2月3日に東京地裁及び大阪地裁等で開始し,令和4年11月7日にすべての下級裁判所で開始しました(裁判所HPの「全国の高等裁判所及び地方裁判所でウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の運用を開始しました。」参照)。
イ フェーズ2としてのTeamsを利用したe法廷は,弁論準備手続期日及び和解期日については令和5年3月1日に開始し,弁論期日については令和6年3月1日に開始しました。
ウ 証人尋問及び当事者尋問をWeb会議で行うという意味でのe法廷は,令和8年5月24日までに開始する予定であり,TreeeSを利用したものになるかもしれません(最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)437頁参照)。
(2) e提出
ア e提出の一部先行実施であるmints(民事裁判書類電子提出システム)は,令和4年2月15日に甲府地裁本庁及び大津地裁本庁で試行運用が開始し,令和5年11月28日にすべての裁判所で本格運用が開始しました(裁判所HPの「民事裁判書類電子提出システム(mints)について」参照)。
イ フェーズ3としてのe提出はTreeeSを利用したものであり,令和8年5月24日までに開始する予定です。
(3) e事件管理
ア 裁判所職員向けのe事件管理はRoootSを利用したものであり,令和6年5月以降に一部の庁で先行導入される予定です。
イ フェーズ3としてのe事件管理はTreeeSを利用したものであり,令和8年5月24日までに開始する予定です。
金融法務事情2191号
・垣内秀介「民事裁判手続IT化の全体像と到達点」
・脇村真治ほか「民事訴訟法等の一部を改正する法律の概要」
・橋爪信ほか「民事裁判書類電子提出システム(mints)の概要と運用状況」
を読了。
現時点のIT化の到達点を概観するのに便利です。— K (@iroha123456789m) October 5, 2022
第2 令和2年度に開発を開始したmints(民事裁判書類電子提出システム)1 総論
(1) mintsは,①民事訴訟法132条の10等に基づき裁判書類をオンラインで提出するためのシステムであり,②対象となるのは,準備書面,書証の写し,証拠説明書など,民訴規則3条1項によりファクシミリで提出することが許容されている書面であり,③当事者双方に訴訟代理人があり、双方の訴訟代理人がmintsの利用を希望する事件において利用できます(mints規則1条1項及び民訴規則3条1項のほか,裁判所HPの「民事裁判書類電子提出システム(mints)について」参照)。
(2) mintsを通じてオンライン提出された裁判書類は印刷して紙の訴訟記録となります(令和4年改正前の民訴法132条の10第5項参照)。
(3) 令和4年2月15日に甲府地裁本庁及び大津地裁本庁で試行運用が開始し,令和5年11月28日にすべての裁判所で本格運用が開始しました。
(4) mints利用事件数(令和5年6月から同年10月までの分)を掲載しています。
2 mintsの名称の由来
(1) 民事訴訟手続における裁判書類の電子提出に係るアプリケーションの主な機能等について(令和3年6月17日付の最高裁判所情報政策課参事官,民事局総括参事官の事務連絡)には以下の記載があります。
「mints」とは,「MINji saibansyorui denshi Teisyutsu System」の略称である。本システムの利用により,一層,裁判手続のIT化(デジタル化)が促進され,裁判手続の新しい時代を迎えることを示すものとして,「mint(ミント)」のさわやかな語感も意識し,命名したものである。
(2) かなやま総合法律事務所HPの「mintsについて(裁判のweb化)について」には「「電子」が略語に入っていないと書記官が自嘲気味に仰っていましたが電子化が重要ですからそのご指摘は仰る通りかと思います。」と書いてあります。
3 mintsの操作関係
(1)ア アップロードする電 子データは,A4又は A3サイズのPDF 形式とする必要があります(mints規則2条 1項)。
イ A3サイズのPDFをアップロードできるようになったのは令和5年4月1日です(裁判所HPの「mints機能改修の概要~mintsに5つの機能が増えます~」(令和5年3月の最高裁判所事務総局の文書)参照)。
(2) オンライン提出の際に識別符号(アカウント)及び暗証符号(パスワード)を入力するため(mints規則2条2項)、提出書面への押印は不要となります。
(3)ア 住所,氏名等の秘匿申立て(民訴法133条1項)及び秘匿事項の届出(民訴法133条2項)は書面でしなければなりません(前者につき民訴規則52条の9第1号)から,mintsを利用することはできません。
イ 令和4年改正民訴法が施行された後であっても,秘匿事項の届出は書面又は電磁的な記録媒体(例えば,USBメモリ)で行うことが想定されています(東弁リブラ2024年5月号の「民事裁判手続のIT化の現在とこれから(後編)」(リンク先PDF10頁)参照)。
(4) mints(民事裁判書類電子提出システム)HPに「操作マニュアル」等が載っています。
4 mintsの位置づけ
(1) mintsは,e提出の一部先行実施である現行民訴法132条の10に基づく準備書面等の電子提出を可能とするために開発されたシステムであり(裁判所をめぐる諸情勢について(令和5年8月の最高裁判所事務総局の文書)32頁参照),令和2年度から令和3年度にかけてクラウド上で開発されました(最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)438頁)。
(2) 東弁リブラ2024年4月号の「民事裁判手続のIT化の現在とこれから(前編)」には「mints の導入段階について、mints がオンライン申立ての機能の一部を実施するものであることから「フェーズ 3 の先行実施」とするものもあるが、改正前民訴132条の10第1項に基づく最高裁規則の制定により始まったmintsは改正民訴法を前提とするフェーズ3とは異なる側面もあることから、本稿では「フェーズ 1における e 提出実施段階」と捉えることとする。」と書いてあります(リンク先のPDF7頁)。
5 mintsに関する論文
・ 52期の橋爪信最高裁民事局参事官及び56期の内田哲也最高裁総務局参事官は,他の2人との連名で,NBL1212号(2022年2月15日号)に,「民事裁判書類電子提出システム(mints)の運用開始について」を寄稿し,金融法務事情2191号(2022年8月10日号)に「民事裁判書類電子提出システム(mints)の概要と運用状況」を寄稿しています。
裁判書類の電子提出に係るアプリケーション(mints)の構築は株式会社NTTデータが行っていることが分かる書類を添付しています。 pic.twitter.com/PtI8TDNgWp
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) November 14, 2021
第3 令和4年度に開発を開始したRoootS(裁判所職員向けのe事件管理システム)1 総論
(1) RoootSは,法改正を経ることなく実現可能な裁判所職員向けのe事件管理システムであり,令和4年4月からクラウド(MicrosoftAzure)上で開発が行われています。
(2) RoootSは,高地裁民事だけではなく,MINTASを利用している家裁家事・人訴,NAVIUSを利用している簡裁民事,最高裁事件管理システムを利用している最高裁民事も対象とすることとし,これらのいずれについても令和5年度に新システムを導入することを目指して開発されています(全司法新聞2381号(2022年7月)参照)。
(3) 令和6年7月16日,RoootSの裁判所での導入が開始しました(裁判所HPの「民事・家事分野の裁判手続における文字の取扱いについて」参照)。
2 RoootSの導入の遅れ
(1)ア RoootSは,令和5年8月当時,令和6年1月までに一部の裁判所(最高裁裁判部,広島及び札幌の高地家裁(本庁)及び簡裁)での運用を開始する予定でした(裁判所をめぐる諸情勢について(令和5年8月の最高裁判所事務総局の文書)33頁参照)。
イ RoootSは,MINTAS(民事裁判事務支援システム)に代わる事件管理システムであり,令和5年8月当時,令和6年度前半に全国の家裁に導入される見込みでした(裁判所をめぐる諸情勢について(令和5年8月の最高裁判所事務総局の文書)35頁)。
(2) 令和5年11月16日の最高裁判所事務総局会議において,令和6年1月までのRoootSの先行導入を同年5月以降とすることが報告されましたところ,同日の会議資料には「本年6月の導入計画の見直し後の経過」として以下の記載があります。
・ 実務の安定的運用のためのシステムの品質確保を最も重視し、本年6月に導入計画を見直して、お伝えした態勢強化等の対策は全て実施した上で、受注業者に対し全てのテスト工程のやり直しを指示し、最高裁と工程監理業者とで毎日監理してきました。単体テスト(機能・画面ごとのテスト)及び結合テスト(機能間・画面間のテスト)を再実施し、これらのテスト工程については、概ね順調に進んできました。
・ 本年8月頃より、再度、総合テスト(受注業者が開発工程の仕上げとして行う総合的なテスト)を実施し始めたところ、同月末頃から、テストが予定どおり進まないケースが見られるようになりました。具体的には、総合テストのシナリオ(業務に沿ったテストケース)の実施・完了を阻害するバグが多く発生し、そのバグの解消に時間を要したり、バグを解消してシナリオを進めると更に別のバグが発生してシナリオの実施が中断したりし、総合テスト全体の進捗状況が悪化しました。
・ 総合テストは本年9月末に完了する予定でしたが、現在まで完了せず、その後の最高裁による受入テストを実施するに至っていません。システムの品質を確保し、その上で、運用開始までの各庁における準備や習熟に十分な時間を確保する観点から、令和6年1月までの先行導入は断念し、 先行導入時期を延伸すべきものと判断しました。
3 最高裁の財務省に対する説明内容
(1) 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)436頁には以下の記載があります。
「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ ―「3つのe」の実現に向けて― 」における内閣官房の取りまとめ結果によると,「3つのeの検討・準備にいずれも着手した上で,そのうち実現可能なものから速やかに,段階的に導入していき,柔軟な見直しを図りつつ,IT化の全面実現に向けた環境整備を順次,かつ確実に進めていくのが相当」との提言があるところ,このうち,職員向けの e 事件管理システムの大部分については,法改正を経ることなく実現することが可能であり,法改正後のフェーズ3への対応を意識し,IT化の全面実現に向けた環境整備を進めていくためにも,クラウド環境への移行を前提とした e 事件管理システムを速やかに設計・開発して段階的に導入していくことが相当である。
また,このように,e 事件管理部分について先行開発を行って段階的に導入していくことは,法改正後のフェーズ3への円滑な移行に資するものであることから,本システムの開発等に係る経費を要求する。
(2) 最高裁判所の令和5年度概算要求書(説明資料)380頁には以下の記載があります。
本システム(山中注:RoootSのこと。)は、民事訴訟手続のデジタル化を実現するシステム(山中注:TreeeSのこと。)のうち、令和5年度中のリリースを目指して開発するe事件管理部分(第1次開発部分)のシステムであり、令和5年度に第1次開発を実施することで、フェーズ3で民事訴訟手続の全面デジタル化を実現するための環境整備を段階的に実施する必要がある。
(3) 最高裁判所の令和6年度概算要求書(説明資料)399頁には以下の記載があります。
本システム(山中注:RoootSのこと。)は、民事訴訟手続のデジタル化を実現するシステム(山中注:TreeeSのこと。)のうち、職員向けのe事件管理部分(第1次開発部分)のシステムであるところ、フェーズ3で民事訴訟手続の全面デジタル化を実現するための環境整備を段階的に実施するため、令和5年度中のリリースを目指して第1次開発を実施し、リリース後は本システムの運用・保守を実施する。
令和6年5月になりましたが、何のアナウンスもありません。
令和6年5月「以降」ですから、期限がないのと同じ状態です。
膨らんだ経費について、会計検査院が関心を示さないものなのでしょうか??
— Jの犬C🐶 (@VpFgXjDXzzpcfJc) May 18, 2024
第4 令和5年度に開発を開始したTreeeS(国民及び裁判所職員向けのe提出・e法廷・e事件管理システム)1 総論
(1) TreeeSは「Trial e-filing e-case management e-court Systems」の略称であり(日弁連法務研究財団HPに載ってある「民事訴訟のIT化と今後の課題」(2024年3月13日付)7頁参照),国民及び裁判所職員向けのe提出・e法廷・e事件管理システムです(裁判所をめぐる諸情勢について(令和5年8月の最高裁判所事務総局の文書)33頁参照)。
(2) TreeeSのうち,RoootS以外の民事訴訟手続のデジタル化に係るシステム開発については,令和4年度に法改正の内容を踏まえた要件定義を行った後,令和5年4月から開発を行われています(裁判所をめぐる諸情勢について(令和5年8月の最高裁判所事務総局の文書)33頁)。
2 最高裁の財務省に対する説明内容
(1) 最高裁判所の令和5年度概算要求書(説明資料)380頁には以下の記載があります。
第208回通常国会で成立した民事訴訟法等の一部を改正する法律については、公布の日から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日において施行とされている(附則第1条)ところ、令和4年6月7日に閣議決定された規制改革実施計画においては、「民事訴訟手続のデジタル化について、遅くとも令和7年度に本格的な運用を円滑に開始する」こととされており、本改正内容にかかる規律は令和7年度中に施行される見込みである。
そのため、同法律に定める訴状等のオンライン提出や、訴訟記録を電子化して裁判所としても本改正内容を実現するためのシステムを開発(第2次開発)する必要があるところ、開発に要する期間を考慮すると、令和5年度予算に必要経費を計上した上で開発を進め、施行に備える必要がある。なお、本システムは別途開発を行うe事件管理システム(第1次開発部分)と疎結合することで、全体として民事デジタル化を実現するシステムとなる。
そこで、令和5年度はこれらのシステム開発にかかる経費を要求する。
なお、本件は、複数年度にわたる契約を締結する必要があるため、併せて3箇年の国庫債務負担行為によることを要求しており、令和5年度はその1年目である
(2) 最高裁判所の令和6年度概算要求書(説明資料)399頁には以下の記載があります。
208回通常国会で成立した民事訴訟法等の一部を改正する法律については、公布の日から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日において施行とされている(附則第1条)ところ、令和5年6月16日に閣議決定された規制改革実施計画においては、「民事訴訟手続のデジタル化について、遅くとも令和7年度に本格的な運用を円滑に開始する」こととされており、本改正内容にかかる規律は令和7年度中に施行される見込みである。
そのため、裁判所としては、同法律に定める訴状等のオンライン提出や訴訟記録の電子化といった本改正内容を実現するためのシステムを開発(第2次開発)する必要があるところ、令和5年度に引き続き、令和6年度予算に必要経費を計上した上で開発を進め、施行に備える必要がある。なお、本システムは別途開発を行うe事件管理システム(第1次開発部分)と疎結合することで、全体として民事デジタル化を実現するシステムとなる。
そこで、令和6年度においても、これらのシステム開発にかかる経費を要求する。
なお、本件は、複数年度にわたる契約を締結する必要があるため、併せて3箇年の国庫債務負担行為によることを要求しており、令和6年度はその2年目である。
第5 mintsはTreeeSに移行する予定であること
・ 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)437頁には以下の記載があります。
本要求(山中注:「民事訴訟手続のIT化に係るシステム開発のための法改正等に伴う要件定義及び調達支援業務並びに移行設計方針策定」に関する概算要求)にかかる令和4年度においては,前記の令和5年度からのシステム開発に向けた要件定義について,法改正内容を踏まえた修正等を行う必要がある。また,令和7年度のフェーズ3実現時に,令和5年度に開発するシステムも含めて,e 法廷,e 提出及び e 事件管理の「3つの e」に係るシステムが整合的に稼動するよう,将来的な移行方針も定めておく必要がある。
そこで,(1)令和3年度要件定義において明確に定義できなかった事項や変更点等について,令和4年の法改正の内容を踏まえた修正等を行うための経費及び(2)令和7年度にフェーズ3を実現するシステム(山中注:TreeeSのこと。)を運用開始することを前提に,先行導入されている「e 法廷」(現在 Teams を活用して運用している。),「e 提出」(クラウド(MicrosoftAzure)上に開発している。)(山中注:mintsのこと。)及び「e 事件管理」(令和4年度から先行開発するシステム(山中注:RoootSのこと。)及び既存システム(オンプレミス上で稼動している裁判事務支援システム(NAVIUS)及びMINTAS等の諸システム。))からのスムーズな移行及び将来的な運用方針を立てるための経費を要求する。
なお,こうした作業を裁判所職員のみで行うことは非常に困難であり,外部の知見も活用しつつ検討を進めていくことが必須である。
R060621 最高裁の不開示通知書(TreeeSの導入計画)を添付しています。 pic.twitter.com/IgMq4tX3ww
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) June 24, 2024
第6 令和6年3月下旬に発生した登記・供託オンライン申請システムの障害
1 登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと 供託ねっと)は,平成23年2月14日,法務省オンライン申請システムとは別のシステムとして運用を開始しました(同HPの「登記・供託オンライン申請システムとは」参照)。
2 令和6年3月に生じた登記・供託オンライン申請システムの障害に関し、法務省に対し、国民の信頼に足るシステムの改善及び適正運用等を強く求める会長声明(令和6年4月5日付の東京司法書士会の会長声明)には以下の記載があります。
令和6年3月25日(月)及び同月29日(金)、法務省の登記・供託オンライン申請システム(以下「本システム」という。)に障害が生じ、長時間にわたり、インターネットによる登記申請(以下「オンライン登記申請」という。)ができない状態となった。とりわけ3月29日の障害の程度は非常に重く、午前、午後ともに障害が生じ、午後の障害では、午後2時30分頃から午後7時30分頃までオンライン登記申請ができない状態であった。
法務省は、3月29日当日の障害への対策として、通常は法務局の窓口開庁時間、オンライン登記申請の受付時間のいずれも午後5時15分までとしているところ、同日の法務局の窓口開庁時間を午後8時まで、障害から復旧後のオンライン登記申請の受付時間を午後9時までとする措置を採った。
午後9時までにオンライン登記申請をしたにもかかわらず、同日付けの受付とならず、令和6年4月1日付けの受付扱いになった事案も多く、その後法務省は、これらについて「3月29日付けの受付にするシステム上の対応を実施します。」、「システムにおいて個々の申請ごとに対応する必要があるため、一定のお時間をいただくことになります。今後1週間程度を目処に行いますが、具体的な実施日等については改めてご連絡いたします。」と公表し、現在においても障害の影響は続いている。
令和6年3月29日(金)に発生したシステム障害では、登記・供託オンライン申請システムのホームページが閲覧できない状態となり、情報発信が行えなかったため、今後は登記・供託オンライン申請システムのX(旧Twitter)や法務局のホームページにおいても、情報発信を行うとのことです。
— 日本司法書士会連合会 (@nisshirensns) April 15, 2024
第7 ロータス・ノーツを基盤とした裁判事務処理システムの全国展開の中止(平成16年5月)
1 最高裁判所総務局制度調査室は,これまでの稼働状況等を踏まえて,円滑にシステム導入を進めるという観点から,専門業者によるシステム監査を行わせたところ,その結果として,平成15年12月末になって,当時の裁判所のシステムの基盤となっていたロータス・ノーツは,大量かつ複雑なデータ処理が要求される裁判事務処理と適合しない面があり,ユーザ数やデータ量の増加に伴ってレスポンスがさらに低下することが予想されるため,現行のシステム基盤を維持したまま,特大規模庁を含む全国展開を進めることは再考すべきであるとの報告書が提出されました。
また,平成16年4月になって,システム運用業者から,ノーツのバージョンアップを実施したとしても,コストに比較して微小な改善効果しか見込まれないことから,対策として推奨しない旨の調査結果の報告がありました。
そのため,最高裁判所は,平成16年4月下旬,ロータス・ノーツを基盤として開発されていた従前のシステム(主たるものは民事裁判事務処理システム及び刑事裁判事務処理システム)のまま全国に展開を進めることを中止しました(全国裁判所書記官協議会会報第167号35頁及び36頁参照)。
2(1) 会報書記官第8号29頁には,「裁判事務処理システムの全国展開の中止(平成16年5月)」と書いてあります。
(2) 「裁判所の情報化の流れ」には,平成17年1月1日以降の裁判所の情報化の流れが書いてあるだけであるため,平成16年5月の,ロータス・ノーツを基盤とした裁判事務処理システムの全国展開の中止のことは書いてありません。
R031111 最高裁の不開示通知書(平成16年5月に全国展開を中止した民事裁判事務処理システム及び刑事裁判事務処理システムにつき,開発請負業者及びコンサルタント業者の名前が分かる文書)を添付しています。 pic.twitter.com/2vVirsu51O
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) November 14, 2021
第8 システム開発失敗の原因及びその裁判例1 システム開発失敗の原因
・ Qiitaの「こんなシステム開発はもうイヤだ!ありがち失敗事例10連発 ~ あるいはユーザーが本当にホントーに欲しかったものは何か」によれば,システム開発の失敗原因としては以下のものがあります。
① 現場が、アレが欲しいコレが欲しいと言うだけ
② IT部門が、要件をまとめられない
③ 経営者が、やれと言うだけで調整しない
④ 新規事業企画で、市場検証せずにシステム開発を始める
⑤ 要件定義があいまいなまま、開発会社にマル投げする
⑥ 必要な機能か見極められず、無駄な機能を作り込む
⑦ 開発スケジュールが間に合わず、開発者が疲弊する
⑧ 開発プロジェクトの人手不足
⑨ 開発スケジュールを厳守するため、品質にしわ寄せ
⑩ 技術力不足
2 システム開発失敗の裁判例
(1) 弁護士法人モノリス法律事務所HPの「システム開発と関係のある法律上の「責任」とは」には以下の記載があります。
システム開発の仕事にかかわる人にとって、ある意味、もっとも法律上の「責任」というものを身近に理解しやすいのは、業務を受注するベンダーにとっての「プロジェクトマネジメント義務」と、業務を発注するユーザーにとっての「協力義務」の二つでしょう。すなわち、システム開発の専門家として、ベンダーも責任を負うし、ユーザーも自社のシステムの問題を他人事にせず開発業務に協力する責任を負っているというわけです。
(2) IT・システム判例メモ(筆者は弁護士伊藤雅浩)の「判例一覧」には,システム開発紛争に関する裁判例が時系列で掲載されていますし,「【争点別】システム開発をめぐる紛争インデックス」には,システム開発紛争に関する裁判例が争点別に掲載されています。
(3)ア 東京高裁平成25年9月26日判決(担当裁判官は29期の小池裕,38期の大久保正道及び44期の西森政一)(判例秘書掲載)は,ユーザーである甲とベンダーである乙間で締結されたシステム開発契約に基づくプロジェクトがシステムの開発に至らずに頓挫した責任はいわゆる「プロジェクト・マネジメント義務」に違反した乙にあるとして甲が乙に対して115億8,000万円の損害賠償を求めた請求を74億1,366万6,128円の賠償を求める限度で認容した第1審判決を控訴審において変更して41億7,210万3,169円の賠償を求める限度で認容した事例です(ユーザー勝訴ということです。)。
イ ウエストロージャパンの「第15号 勘定系システム開発失敗で約42億円の支払を命じる判決 ~システム開発トラブルで起きる諸問題(スルガ銀行vs日本IBM事件 )」は,東京高裁平成25年9月26日判決の判例評釈です。
(4)ア 札幌高裁平成29年8月31日判決(担当裁判官は33期の竹内純一,47期の高木勝己及び48期の小原一人)(判例秘書掲載)は,病院情報管理システムの構築と同システムをリースすることを目的とする契約(以下「本件契約」という。)に関し,一審原告(ユーザー)は,一審被告(ベンダー)に対し,納期までに上記システムの完成及び引渡しがなかったために損害を被ったとし債務不履行に基づく損害賠償を請求し,一審被告は,一審原告に対し,上記遅滞につき,一審被告には帰責性はないのに一審原告の協力義務違反及び不当な受領拒絶により,売買代金を得られなくなったとして,債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案において,一審原告には本件契約上の協力義務違反がある一方,一審被告にはプロジェクトマネジメント義務違反があったとは認められず,一審被告には債務不履行(履行遅滞)について帰責性はないとして,一審原告の請求を棄却し,一審被告の請求のうち,元金ベースで14億1501万9523円を認容しました(ベンダー勝訴ということです。)。
イ イノベンティアHPの「システム開発において仕様確定後の大量の追加要望等がユーザの協力義務違反に当たるとした札幌高裁判決(旭川医大対NTT東日本事件)について」は,札幌高裁平成29年8月31日判決の判例評釈です。
第9 関連記事その他
1(1) 令和4年5月公布の民事訴訟法の改正については法務省HPの「民事訴訟法等の一部を改正する法律について」に「改正の概要」等が載っています。
また,令和5年6月公布の民事執行手続等の改正については法務省HPの「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律について」に「改正の概要」等が載っています。
(2) 東弁リブラ2024年4月号に「民事裁判手続のIT化の現在とこれから(前編)」が載っていて,東弁リブラ2024年5月号に「民事裁判手続のIT化の現在とこれから(後編)」が載っています。
2(1) 内閣官房HPの「これまでの成長戦略について」に,「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-(2013年)」から「戦略(2021年)」までが載っています。
(2) 全司法新聞2391号(2022年12月)には「当事者サポートの方策として、TreeeSにおけるAIチャットボット機能の活用を検討していることを明らかにしました。」と書いてあります。
3 新版 システム開発紛争ハンドブック 第2訂 ―発注から運用までの実務対応―(2023年3月8日出版)はシステム開発に係る「紛争」にフォーカスした書籍であり,条項解説 事例から学ぶシステム開発契約書作成の実務(2023年12月1日出版)には「紛争を想定した契約条項の作り方」が載っています。
4 以下の記事も参照してください。
・ 民事裁判手続のIT化
・ 令和4年度概算要求書における,民事訴訟手続のIT化に関する最高裁判所の財務省に対する説明内容
・ 裁判所の情報化の流れ
・ 歴代の最高裁判所情報政策課長
・ 最高裁判所事務総局情報政策課
・ 最高裁判所事務総局情報政策課の事務分掌
・ 裁判所における主なシステム
・ 最高裁判所の概算要求書(説明資料)
・ 最高裁判所の国会答弁資料
・ 最高裁及び法務省から国会への情報提供文書
・ 裁判所をめぐる諸情勢について