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未分割遺産の分割後にする相続税の更正の請求―4か月の期限・要件・裁判例(AI作成)

第1 未分割遺産に関する更正の請求とは何か

1 未分割のまま申告した相続税を分割後に調整する制度

相続税の申告期限までに遺産分割が成立していなくても,申告期限は延長されない。そのため,相続税法55条は,未分割財産について,各共同相続人又は包括受遺者が,寄与分を除く民法上の相続分又は包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして,暫定的に課税価格を計算することを定めている。

その後に遺産分割が行われ,実際に取得した財産に係る課税価格が暫定計算額と異なり,既に確定した課税価格及び相続税額が過大となった者は,相続税法32条1項1号により更正の請求をすることができる。この制度は,当初申告の誤り全般を直すためのものではなく,未分割時の暫定課税と後日の遺産分割とのずれを調整する特則である。

2 最初に4か月の期限を確認する必要がある

相続税法32条1項の期間は,各号所定の事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内である。通常の更正の請求に関する国税通則法23条1項の期間が原則として法定申告期限から5年であることと混同してはならない。

遺産分割協議,調停又は審判が成立・確定した後は,更正の請求書と計算資料の完成を待って期限を管理するのではなく,まず分割の成立日又は確定日,請求人がこれを知った日及び4か月の満了日を特定すべきである。本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,具体的な申告及び請求については,分割内容と従前の申告書を確認した上で税理士その他の専門家に相談する必要がある。

第2 相続税法55条・31条・32条・35条の関係

1 相続税法55条による未分割時の計算

相続税法55条が適用されるのは,相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が,共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていない場合である。一部分割が済んでいるときは,分割済みの財産を実際の取得内容によって計算し,未分割の財産だけを同条によって計算する。

同条は民法904条の2の寄与分を暫定計算から除外している。寄与分,特別受益及び一部分割が関係する未分割財産の計算は,単純に残余財産へ法定相続分を掛けるだけでは足りない場合があるため,国税庁タックスアンサーNo.4208の計算例に照らして確認する必要がある。

2 分割後の減額・増額を処理する三つの経路

同じ遺産分割により,ある相続人の税額が減少する一方,他の相続人の税額が増加することがある。分割後の処理は,次のように分かれる。

分割後の状態主体・手続主な根拠
自分の課税価格及び税額が過大となる納税者が更正の請求をする相続税法32条1項1号
自分の課税価格及び税額が増加する納税者が修正申告をする相続税法31条1項
他の相続人の更正の請求と同じ分割事由により税額が増加する税務署長が増額更正をすることができる相続税法35条3項

令和7年8月1日現在の法令等に基づく国税庁の質疑応答事例は,遺産分割調停の途中で,共同相続人の一人が相続財産を取得しないことだけが確定した事案について,その者の更正の請求を認め,他の相続人は修正申告をする必要があると説明している。一人だけの取得内容が確定した一部分割であっても,32条1項1号の「分割」となり得ることを示す現行の公的取扱いである。

3 更正の請求が認められるための五つの確認事項

相続税法32条1項1号の適用に当たっては,①請求人が相続税の申告書を提出した者又は決定を受けた者であること,②対象財産について相続税法55条による未分割時の計算がされていたこと,③その計算後に同じ財産について法的に分割と評価できる事実が生じたこと,④分割に起因する課税価格の変動により請求人の税額が過大となったこと,⑤その事由を知った日の翌日から4か月以内であることを順に確認する必要がある。

申告前に既に分割が成立していたのに,申告書だけを法定相続分により作成した場合は,「申告後の分割」という後発的事由を欠く。また,全財産を特定の相続人に相続させる遺言によって相続開始時に財産が帰属していた場合も,後日の未分割財産の分割を前提とする1号の適用が否定され得る。

第3 「分割」と4か月の起算点

1 協議・調停・審判ごとに基準日が異なる

遺産分割協議では合意の成立日,家事調停では調停成立日が通常の基準となる。後日作成又は交付される遺産分割協議書若しくは調停調書を受け取った日まで,当然に起算が遅れるわけではない。署名日が分かれる持回りの遺産分割協議では,最後の同意により協議が成立した日と,各相続人が成立を知った日を資料から確定する必要がある。

遺産分割審判に即時抗告がされた場合は,抗告審の決定によって審判が確定する時期と,請求人がその決定を知った時期を確認する。国税不服審判所平成16年11月8日裁決は,即時抗告を棄却する高裁決定の後に特別抗告及び許可抗告の申立てがされた事案で,高裁決定が告知された時点を基準として4か月を計算し,その後の申立ては期間の進行を妨げないとした。

2 一部分割及び取得しないことの確定も対象になり得る

民法907条1項は遺産の全部だけでなく一部の分割も認めており,相続税法32条1項1号も,全遺産の最終的な分割が終了するまで請求を待つ制度ではない。特定財産の帰属又は特定相続人が取得しないことが先に確定し,その部分について税額が過大となれば,その確定を知った日の翌日から4か月が進行し得る。

一部分割を重ねる場合は,各分割が別々の後発的事由となるため,分割ごとに対象財産,成立日,知った日,増減税額及び請求期限を管理する必要がある。全体の調停又は審判が終了するまで待つ取扱いは,先に成立した部分の4か月を徒過させる危険がある。

第4 分割後に直せる評価と直せない誤り

1 当初から存在した評価誤りは原則として対象外である

最高裁令和3年6月24日第一小法廷判決は,相続税法32条1号及び35条3項1号を,遺産分割という後発的事由による変動の限度で一般の期間制限を外す特則と位置付けた。したがって,通常の更正の請求期間を経過した後に,分割を契機として当初の非上場株式の評価方法又は価額まで変更することはできない。

同じ理由により,当初申告時から存在した債務の計上漏れ,財産の計上漏れ,評価基本通達の適用誤りその他の原始的な計算誤りは,相続税法32条1項1号だけでは是正できない。これらは,国税通則法23条1項の通常の更正の請求期間内であるかを別に検討する必要がある。

2 分割自体が評価単位又は評価条件を変えた場合

他方,分割前後で全ての評価額を機械的に固定するわけではない。国税庁の平成18年11月2日付情報の問11は,一つの土地を分割した結果,評価単位が変わって分割取得した土地の評価額の合計が変動する事例について,その変動を更正の請求及び他の相続人に対する増額更正へ反映する一方,分割と無関係な計上漏れ債務は反映しない取扱いを示している。

この区別の中心は,評価額が変わったかどうかではなく,その変化が遺産分割に起因するかどうかである。土地の画地又は評価単位が分割によって変わる場合や,取引相場のない株式を取得した後の株主区分が分割によって変わる場合は,分割後の評価条件を検討する余地がある。非上場株式の相続税評価と遺産分割上の評価を混同しないための基本的な区別は,遺産相続における非上場株式の評価方法で説明している。

3 代償分割では相続開始時価への引直しが問題となる

代償分割では,現物財産を取得する相続人が他の相続人に支払う代償金について,相続開始時の価額と分割時の通常の取引価額との関係が問題となる。東京地裁令和6年5月23日判決及び東京高裁令和6年11月28日判決は,長期間後に成立した代償分割について,相続税基本通達11の2-10(2)による相続開始時価への引直しを是認した。

遺産分割上の取得割合が法定相続分に沿っていても,分割対象,評価時点及び評価方法が民法上の分割と相続税で異なるため,各相続人の税負担が同じ割合になるとは限らない。代償金の額をそのまま相続税の課税価格とする前に,何を基礎として代償額を定めたかを確認する必要がある。

第5 配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例との関係

1 未分割の当初申告では適用できない特例がある

配偶者の税額軽減及び小規模宅地等の特例は,実際の分割取得を前提とするため,未分割財産について当初申告時から適用することはできない。もっとも,申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し,原則として申告期限から3年以内に分割した場合は,分割日の翌日から4か月以内に更正の請求をして特例の適用を求めることができる。

申告期限後3年を経過する日に訴えが係属しているなど,一定のやむを得ない事情により分割できない場合は,申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに承認申請をする制度がある。承認後も,分割できることとなった日の翌日から4か月以内の分割と,分割日の翌日から4か月以内の更正の請求という別々の期限を管理しなければならない。具体的な条件及び様式は,国税庁タックスアンサーNo.4208で確認できる。

2 通常の5年と特則の4か月を別々に検討する

国税通則法23条1項の通常の更正の請求期間内に遺産分割が行われた場合に,通常の5年と相続税法32条の4か月がどの範囲で競合するかについては,配偶者の税額軽減に関する相続税基本通達32-2を除き,あらゆる分割事由に共通する明文の取扱いは確認できない。

そのため,通常の5年以内であることだけを理由に4か月を経過させるべきではない。分割に起因する減額は4か月以内に請求し,当初申告の計算誤りが別にある場合は,その理由と通常の更正請求期間を区別して同時に検討するのが安全である。

第6 更正の請求書と添付資料

1 提出先及び請求書

更正の請求は,納税地の所轄税務署長に対して行う。国税通則法23条3項は,更正後の課税標準等又は税額,更正の請求をする理由,請求に至った事情の詳細,更正前の納付税額その他の事項を記載した請求書の提出を求めており,国税庁の相続税の更正の請求書の様式には,本紙と付表が掲載されている。

2 分割事由と計算を対応させる資料

通常は,①当初申告書,修正申告書,更正通知書又は決定通知書,②遺産分割協議書,調停調書又は審判書及び必要に応じた確定関係資料,③分割前後の財産別・相続人別の課税価格計算,④土地の評価単位,株主区分又は代償財産の評価が変わる場合の評価明細,⑤配偶者軽減又は小規模宅地等の特例に必要な申告時・分割後の書類,⑥分割及びその成立を知った日を確認できる資料を整えることになる。

特に,分割による変動と当初申告の誤りを一つの差額にまとめてはならない。財産ごとに,分割前の確定価額,分割後の取得者,分割に起因する評価条件の変化,分割とは無関係な誤りを分け,どの差額が相続税法32条1項1号によるものかを説明できる計算表が必要である。

第7 主要な裁判例・裁決

1 適用要件と射程を示す判断

裁判例・裁決主な判断実務上の意味
神戸地裁平成14年10月28日判決・税務訴訟資料252号順号9221当初の保証債務等の計上漏れは分割に起因しないとして,32条による是正を否定した分割と原始的な計算誤りを区別する必要がある
名古屋高裁平成17年7月21日判決・平成17年(行コ)第17号・税務訴訟資料255号順号10085相続財産でない財産を誤って申告した場合は一般の計算誤りであり,55条計算後の分割による後発的事由ではないとした申告後に分割があるだけでは32条の対象にならない
東京地裁平成24年4月18日判決・平成23年(行ウ)第284号・税務訴訟資料262号順号11931遺産分割審判の確定時期と4か月の期間を検討し,配偶者軽減及び小規模宅地等の手続も問題となった抗告関係と特例書類を含む日程管理が必要である
最高裁令和3年6月24日第一小法廷判決・令和2年(行ヒ)第103号・民集75巻7号3214頁32条・35条は分割による変動の限度の特則であり,一般の期間経過後に当初評価を修正できないとした基礎価額固定と分割起因の変動を分ける現在の基準である
東京地裁令和6年5月23日判決・税務訴訟資料274号順号13989,東京高裁令和6年11月28日判決・同号順号14048長期間後の代償分割について代償財産を相続開始時価へ引き直す取扱いを是認した代償金額と相続税上の価額が一致するとは限らない
国税不服審判所令和7年10月29日裁決第一次相続の分割により第二次相続財産が減少しても,第二次相続の確定価額を前提としない請求は,第二次相続についての32条1項1号に当たらないとした複数の相続では,どの被相続人の未分割財産に関する後発事由かを分ける必要がある

2 裁判例から導かれる判断順序

裁判例・裁決は,分割があったという事実だけで更正の請求を認めていない。先に,どの申告又は処分で,どの財産が55条により計算されたかを確定し,次に,その財産について申告後の分割があったかを確認し,最後に,請求額のうち分割と因果関係のある部分だけを抽出している。

二つ以上の相続,一部分割,代償分割又は分割前の更正処分がある事案では,この順序を省略すると,別の相続に属する変動又は既に確定した評価の修正を32条へ持ち込むことになる。既存の相続税関係資料を横断して確認する場合は,相続事件に関するメモ書きも参照できる。

第8 分割成立後の確認手順

1 4か月以内に確認する事項

分割が成立したときは,①当初申告時に未分割であった財産の範囲,②その財産に用いた確定価額及びその後の更正・決定,③今回の分割対象及び各相続人の取得内容,④分割の成立日・確定日と各相続人がこれを知った日,⑤分割に起因する評価条件の変化,⑥配偶者軽減・小規模宅地等の分割見込書及び承認申請の有無,⑦他の相続人に生じる増額修正の見込みを一覧化する必要がある。

この確認は,遺産分割の民法上の清算表だけでは完結しない。相続税では相続開始時の価額,財産評価基本通達上の評価単位,相続税法17条の税額按分及び各種特例の適用要件を用いるため,分割協議上の取得割合と税額の増減が一致しないことがある。

2 相続税法32条を利用できない場合の分岐

当初申告時に対象財産が未分割でなかった場合,申告後の分割がない場合,又は税額減少の原因が分割と無関係な当初評価の誤りだけである場合は,相続税法32条1項1号による請求を進める根拠が乏しい。この場合は,国税通則法23条の通常の更正の請求期間が残っているか,他の後発的理由又は相続税法32条1項の別号に該当する事由があるかを確認する。

4か月を経過した事案でも,期限を無視した請求を当然の前提とするのではなく,まず分割の法的成立時期と現実に知った時期を資料により再確認する。それでも期間を経過している場合は,通常の5年との関係又は別の法定事由を具体的に説明できない限り,更正の請求が認められるとの見通しを示すべきではない。

第9 出典・参考資料

1 法令・通達

相続税法(昭和25年法律第73号)19条の2,31条,32条,35条及び55条(e-Gov法令検索)

国税通則法(昭和37年法律第66号)23条,24条及び70条(e-Gov法令検索)

相続税法基本通達・第32条関係32-1~32-3(国税庁)

2 裁判例・裁決

最高裁令和3年6月24日第一小法廷判決(令和2年(行ヒ)第103号,民集75巻7号3214頁,裁判所ウェブサイト)

神戸地裁平成14年10月28日判決(税務訴訟資料252号順号9221,裁判所ウェブサイト)

名古屋高裁平成17年7月21日判決(平成17年(行コ)第17号,税務訴訟資料255号順号10085,裁判所ウェブサイト)

東京地裁平成24年4月18日判決(平成23年(行ウ)第284号,税務訴訟資料262号順号11931,国税庁税務訴訟資料)

東京地裁令和6年5月23日判決(税務訴訟資料274号順号13989)及び東京高裁令和6年11月28日判決(同号順号14048,国税庁税務訴訟資料)

国税不服審判所平成16年11月8日裁決(裁決事例集68集203頁)

国税不服審判所令和7年10月29日裁決(国税不服審判所公表裁決)

3 国税庁資料・文献

国税庁タックスアンサーNo.4208「相続財産が分割されていないときの申告」(令和7年4月1日現在法令等)

国税庁「共同相続人の1人が遺産分割の調停において相続財産を取得しないことが確定した場合の相続税法第32条第1項の規定に基づく更正の請求」(令和7年8月1日現在法令・通達等)

国税庁「遺産分割により相続税の課税価格の合計額に変動がある場合の相続税法第32条第1号の規定による更正の請求及び同法第35条第3項の規定による更正」(平成18年11月2日付情報,問11)

国税庁「相続税の更正の請求書(令和5年1月分以降)の様式」

⑤佐藤繁『Q&A 未分割遺産の税務』新日本法規出版,令和6年,143頁~152頁

⑥新井宏『税務の専門家も参考にする 相続税質疑応答集 第4版』法令出版,令和4年,612頁~613頁