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不同意性交等罪(刑法177条)の法定刑はなぜ「5年以上」なのか――強盗罪との量刑均衡という立法事実(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 検討の対象と時点

本記事は,刑法177条(不同意性交等罪)の法定刑が,殺人罪や強盗罪といった他の重大犯罪と比べてどのような水準に位置づけられているか,またその水準が立法過程でどのような根拠に基づいて定められてきたかを,条文,国会審議,裁判所の判断及び公的統計から整理するものである。対象時点は2026年8月9日現在であり,令和5年(2023年)の刑法等改正後の状況を中心に扱う。生成AIを用いて,e-Gov法令検索の現行条文,裁判所ウェブサイトの判決全文,国立国会図書館国会会議録検索システムの発言記録及び法務省・法務総合研究所の公表資料を確認した上で構成している。

不同意性交等罪の構成要件(何が同罪に当たるか,同意しない意思の形成等を困難にする事由とは何か)そのものの詳細な解釈論は,本記事の主題ではない。本記事が扱うのは,同罪の法定刑の重さが他の犯罪との関係でどのように説明されてきたか,実際の量刑がどのように分布しているかという,量刑バランスの観点に限られる。構成要件そのものの組立て及び諸外国の性犯罪規定との比較については,別途不同意性交等罪の国際比較で扱っている。

2 法改正の経過

不同意性交等罪に至るまでの法改正は,主に次の3回である。①平成16年(2004年)改正(平成16年法律第156号)は,強姦罪の法定刑下限を2年以上から3年以上へ,強制わいせつ罪の上限を7年以下から10年以下へ引き上げた。②平成29年(2017年)改正(平成29年法律第72号)は,強姦罪を強制性交等罪へ改め,法定刑下限を3年以上から5年以上へ引き上げるとともに,被害者の性別を問わないものとし,肛門性交及び口腔性交を対象に加え,監護者わいせつ罪・監護者性交等罪を新設した。③令和5年(2023年)改正(令和5年法律第66号)は,強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪及び強制性交等罪・準強制性交等罪をそれぞれ統合し,不同意わいせつ罪・不同意性交等罪として規定し直した。本記事では,このうち法定刑の水準に直接関わる①②と,構成要件及び公訴時効に関わる③を扱う。

第2 不同意性交等罪の法定刑

1 条文の構造

刑法177条1項は,「前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(略)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する」と定める(e-Gov法令検索)。ここでいう「前条第一項各号」とは,176条1項の1号から8号までの8類型の事由であり,①暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと,②心身の障害を生じさせること又はそれがあること,③アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること,④睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること,⑤同意しない意思を形成し,表明し又は全うするいとまがないこと,⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖させ,若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し,若しくは驚愕していること,⑦虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること,⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していることである(e-Gov法令検索)。

176条1項(不同意わいせつ罪)は同じ8類型の事由を要件としながら,法定刑は「六月以上十年以下の拘禁刑」にとどまる。両罪の違いは,行為が性交等(性交,肛門性交,口腔性交及び陰茎以外の物又は身体の一部の挿入)に当たるか,それに至らないわいせつな行為にとどまるかという一点にある。179条(監護者わいせつ及び監護者性交等)は,現に監護する者であることによる影響力に乗じてわいせつな行為又は性交等をした場合を処罰する規定であり,法定刑はそれぞれ176条1項及び177条1項の「例による」とされ,暴行・脅迫等の事由を問わず同水準の刑が科される。181条(不同意わいせつ等致死傷)は,これらの罪又はその未遂罪を犯し人を死傷させた場合を規定し,176条・179条1項系は無期又は3年以上,177条・179条2項系は無期又は6年以上の拘禁刑としている(以上,いずれもe-Gov法令検索で確認)。

2 拘禁刑・執行猶予・公訴時効の基本ルール

拘禁刑(刑法12条)は無期及び有期の2種であり,有期拘禁刑は1月以上20年以下である。刑の全部の執行猶予(同法25条)は,3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の言渡しを受けた場合に限って言い渡すことができる。177条の法定刑下限は5年であるから,酌量減軽(同法66条・68条)によって言渡刑を法定刑の下限のさらに2分の1未満まで下げない限り,理論上,全部執行猶予の対象にすら至らない。併合罪の加重(同法47条)は,最も重い罪について定めた刑の長期に2分の1を加えたものを長期とし,各罪の長期の合計を超えることはできないとする。

公訴時効(刑事訴訟法250条3項)は,令和5年改正により,177条若しくは179条2項の罪又はこれらの未遂罪については15年,181条の罪(人を負傷させたときに限る。)若しくは241条1項の罪については20年,176条若しくは179条1項の罪又はこれらの未遂罪については12年と定められている。同条4項は,これらの罪について,被害者が犯罪行為の終了時に18歳未満であった場合,上記の期間に,犯罪行為の終了時から被害者が18歳に達する日までの期間を加算するものとしている(いずれもe-Gov法令検索)。改正前の177条の時効期間は10年であったから,今回の改正で5年延長されたことになる。

第3 他の重大犯罪との法定刑比較

不同意性交等罪の法定刑を,生命及び身体に対する罪並びに財産犯である強盗罪と並べると,次のとおりとなる(いずれもe-Gov法令検索で現行条文を確認)。

条文罪名法定刑
199条殺人死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑
204条傷害15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
205条傷害致死3年以上の有期拘禁刑
236条強盗5年以上の有期拘禁刑
240条強盗致死傷負傷=無期又は6年以上,死亡=死刑又は無期拘禁刑
177条不同意性交等5年以上の有期拘禁刑
241条1項強盗・不同意性交等無期又は7年以上の拘禁刑
241条3項強盗・不同意性交等致死死刑又は無期拘禁刑

この表から読み取れるのは,不同意性交等罪の法定刑下限(5年以上)が,強盗罪の下限と同一であり,傷害致死罪の下限(3年以上)を上回っているという点である。強盗の罪を犯した者が不同意性交等罪をも犯した場合(またはその逆の順序の場合)を規定する241条は,単純な強盗罪や不同意性交等罪単体よりも重く,無期又は7年以上とされている。241条は,平成29年改正までは「強盗強姦罪」と呼ばれていた罪の現行名称であり,強盗殺人罪等と併合して起訴される事案では死刑又は無期懲役の量刑が争われることが多い罪名である。裁判所ウェブサイトの裁判例検索で「強盗強姦」を全文検索すると,最高裁判所第二小法廷平成27年2月3日決定(刑集69巻1号99頁)のように,強盗殺人・強盗強姦未遂等の複数の重大犯罪が競合した事案で死刑と無期懲役のいずれが相当かが争われた判例が複数登載されている。もっとも,これらは強盗殺人罪等との併合事案であり,不同意性交等罪単体又は強盗・不同意性交等罪単体の量刑水準を直接示すものではない。

第4 法定刑「5年以上」はどのように定まったか

1 平成16年改正まで――強盗罪の半分以下だった時代

現行刑法が明治40年(1907年)に制定されてから平成16年(2004年)改正まで,強姦罪の法定刑下限は2年以上であった。この経緯について,南野知惠子法務大臣(当時)は,平成16年11月30日の参議院法務委員会で,「明治四十年に現行法が制定されている過程では、帝国議会での修正により強盗罪の法定刑が引き上げられ、その結果、強姦罪の法定刑の方が強盗罪より低くなったものというふうに承知いたしております」と説明している(国会会議録検索システム)。同じ委員会で参考人として意見を述べた木村光江氏(東京都立大学教授,法制審議会刑事法(凶悪・重大犯罪関係)部会委員)は,「強姦罪は下限を二年から三年に引き上げると、強制わいせつ罪は上限を七年から十年に引き上げるという改正がなされようとしている」と述べ,強姦罪の有罪判決の約4分の1が改正前の3年未満の懲役であったこと,男女共同参画会議等では下限を5年に引き上げるべきだとの意見もあったが「急激に下限を二倍以上に上げるというのはやや乱暴な議論」であるため3年の線に落ち着いたことを説明している(同)。平成16年改正は,強姦罪の下限を2年以上から3年以上へ,強制わいせつ罪の上限を7年以下から10年以下へそれぞれ引き上げたが,強盗罪の下限(5年以上)との較差はなお残った。

2 平成29年改正――強盗罪との量刑均衡という立法事実

平成29年改正で法定刑下限が懲役5年へ引き上げられた根拠は,改正の審議に法制審議会刑事法部会の幹事として関与した橋爪隆参考人(東京大学教授)が,平成29年6月16日の参議院法務委員会で次のとおり証言している。

「現行法では、実は強盗罪の方が法定刑が高い犯罪でございます。すなわち、強姦罪の法定刑の下限が三年であるのに対して、強盗罪の刑の下限は五年です。このような法定刑の逆転現象はやはり看過し難い……強姦罪の法定刑につきましても、少なくとも強盗罪と同じ程度までの引上げをすることが重要である」(国立国会図書館国会会議録検索システム,第193回国会参議院法務委員会)

同じ立法事実は,令和7年(2025年)に至って裁判実務でも確認されている。後述する東京高等裁判所令和7年10月16日判決は,判決理由中で「従前の強姦罪につき実務において法定刑の下限が懲役5年である強盗罪及び現住建造物等放火罪よりも重い量刑がされる事件の割合が高くなっている状況等を踏まえ、強姦罪の悪質性・重大性に対する社会一般の評価は、少なくとも強盗罪及び現住建造物等放火罪のそれらに対する評価を下回るものではないと考えられ、強姦罪の法定刑の下限は低きに失して、国民意識と大きく異なることとなっていると認められたことから、法定刑の下限を懲役5年に引き上げることとされたものである」と説示している。平成16年改正時の参考人意見(前記1の木村光江参考人らが指摘した強盗罪との比較批判),平成29年改正の立案担当者(法制審議会幹事の国会証言)及び裁判実務(前掲東京高判)が,時期を異にしながら独立に同一の史実――強姦罪の法定刑が強盗罪より軽いという「逆転現象」の是正――を法定刑引上げの中核的な立法事実として位置づけていることになる。

平成29年法律第72号の附則は,施行後3年を目途とした見直しを義務付けていた。令和元年(2019年)5月15日の衆議院法務委員会で,山井和則議員は,同年3月に相次いだ性犯罪の無罪判決を契機に開催されたフラワーデモに触れ,「刑法の見直しの審議を始めてほしい」とする被害当事者団体の要望書を紹介した上で,「刑法については、法律の施行後三年をめどとして見直し作業をして、その結果に基づいて所要の措置を講ずるということになっております」と質している(国会会議録検索システム,第198回国会衆議院法務委員会)。同じ質疑で言及されている伊藤詩織氏の記者会見での発言(強制性交等罪も被害者が抵抗できないほどの暴行・脅迫を受けたと証明できなければ罪に問えないことは変わらない旨)は,平成29年改正後もなお残っていた暴行・脅迫要件の運用上の課題を示すものとして,令和5年改正に至る議論の出発点の一つとなった。

3 令和5年改正――構成要件の明確化と法定刑の維持

令和5年改正は,強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪及び強制性交等罪・準強制性交等罪をそれぞれ統合し,構成要件を改めて不同意わいせつ罪・不同意性交等罪とした(法務省法務総合研究所,令和6年版犯罪白書第2編第1章)。改正案の立案に法制審議会刑事法部会の幹事として関与した嶋矢貴之参考人(神戸大学教授)は,令和5年6月13日の参議院法務委員会で,改正前の規定に不明確さやばらつきが生じていた要因として,「百七十六条、百七十七条の暴行、脅迫に解釈上、程度が要求され、その程度の理解につき振れ幅が大きかった」ことなどを挙げ,改正案について「八つの困難事由について、程度を要求することなく、従来の裁判例で認められていた類型や、心理学、精神医学の知見から同等の事態が想定されるような類型、それを取り出し、定めている」と説明している(国会会議録検索システム,第211回国会参議院法務委員会)。

法務省「性犯罪関係の法改正等Q&A」も,暴行・脅迫要件の解釈により「犯罪の成否の判断にばらつきが生じ、事案によっては、その成立範囲が限定的に解されてしまう余地があるのではないか、といった指摘」があったことを受け,「性犯罪の本質的な要素を『同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態』という表現を用いて統一的な要件とすることとされました」と説明する(法務省ウェブサイト)。ここで重要なのは,令和5年改正が不同意性交等罪の法定刑(5年以上の有期拘禁刑)自体は変更していないという点である。改正の主眼は構成要件の明確化及び処罰範囲の実質的な拡張(暴行・脅迫がなくとも一定の事由があれば処罰対象とする)にあり,量刑の重さそのものを直接引き上げる制度設計とはなっていない。構成要件の組替えと法定刑の見直しとを切り離したこの設計は,比較法的にみて自明の選択ではない。スペインは,2022年9月6日組織法10/2022により暴行の有無による類型区分を廃して同意の欠如を要件とする単一の類型へ統合したところ,法定刑の枠が広がって下限が下がり,刑の軽い法律を遡って適用する原則により既に確定していた刑が見直される事態を招いたため,2023年4月27日組織法4/2023(同月29日施行)で加重類型の量刑段階を組み直している。構成要件をどう作るかは,量刑体系の整合性を通じて法定刑の側へ跳ね返る。

性交同意年齢についても,改正前の13歳未満から,13歳以上16歳未満の者との間で行為者が5歳以上年長である場合を含む形に実質的に引き上げられた(177条3項)。嶋矢参考人は,5歳差要件について「三歳差とすべきではないかという議論もあった」が,「三歳差では、例外なく年齢差により同意しない意思の形成等が困難になる性的自己決定の侵害があると言えないのではないか」という理由から5歳差の案となったと証言している。この修正案を衆議院に提出した宮崎政久議員は,令和5年5月26日の衆議院本会議で,5歳差要件をめぐり「五歳差未満であれば行為者が十八歳以上の成人であっても全部許されることになるのか、中学生が守られないことになるのではないか」という懸念が委員会質疑で示されたことを紹介し,法律の趣旨の周知を図る規定を附則に追加した経緯を説明している(国会会議録検索システム,第211回国会衆議院本会議)。同じ発言で,宮崎議員は,この改正法の施行後5年を経過した場合に政府が施策の在り方を検討する旨の検討条項を附則に設けたことも明らかにしている。この施行後5年の見直しについては,第7で改めて触れる。

第5 量刑の実際の分布

1 不同意性交等罪単体の科刑状況

法務総合研究所研究部報告68(2025年)は,通常第一審における不同意性交等罪の有罪人員(懲役)の刑期別構成比の推移を示している。同報告によれば,令和5年の有罪人員(懲役)は388人であり,平成16年(709人)と比べて約2分の1に減少した。刑期区分別の構成比(令和5年)は,3年以下(全部執行猶予)が11.1%,3年以下(実刑)が7.2%,3年を超え5年以下が34.8%,5年を超え10年以下が41.0%,10年を超え15年以下が4.4%,15年を超え30年以下が1.5%である(同報告書。合計100.0%)。同報告書は,「5年を超え10年以下」の割合が平成16年以降上昇傾向にあり,令和5年は平成16年と比べて21.0ポイント上昇したこと,「3年以下(実刑)」の割合が同期間で14.8ポイント低下したこと,全部執行猶予率が同期間で10.1ポイント低下したことを述べている。

これらの数値を単純に合計すると,令和5年に不同意性交等罪で懲役刑の言渡しを受けた者のうち,全部執行猶予となったのは11.1%にとどまり,残る約88.9%が実刑となる。対比として,不同意わいせつ罪(176条)の令和5年通常第一審有罪人員(懲役)は929人であり,全部執行猶予率は75.0%である(同報告書)。同じ8類型の困難事由を要件としながら,行為が性交等に当たるかどうかで,執行猶予率が11.1%と75.0%という大きな差になっていることになる。

2 他の重大犯罪との比較

犯罪白書(令和6年版)資料2-3表「地方裁判所における死刑・懲役・禁錮の科刑状況(罪名別)」により,令和5年の主要罪名の科刑状況を整理すると,次のとおりである。死刑及び無期拘禁刑の言渡人員は,同表では有期拘禁刑の総数とは別に計上されているため,表では両者を分けて示す。

罪名有期拘禁刑の総数実刑(割合)全部執行猶予(割合)死刑・無期(別掲)
殺人216人157人(72.7%)59人(27.3%)無期6人
強盗(致死傷等を除く)212人139人(65.6%)73人(34.4%)0人
強盗致死傷及び強盗・不同意性交等169人147人(87.0%)22人(13.0%)死刑1人・無期5人
傷害(傷害致死を含む合算値)1,822人671人(36.8%)1,151人(63.2%)0人
わいせつ等(176~179条の合算値)1,427人618人(43.3%)809人(56.7%)0人

割合は原資料の実数から当方で算出したものである。「傷害」及び「わいせつ等」の2行は複数の罪名を合算した数値であり,不同意性交等罪単体の数値ではない(単体の数値は前記1のとおり別の資料による)。この表から,不同意性交等罪単体の実刑率(約88.9%,前記1)は,殺人罪の実刑率(72.7%)及び強盗罪単体の実刑率(65.6%)を上回り,強盗致死傷及び強盗・不同意性交等の実刑率(87.0%)とほぼ同水準にあることが読み取れる。平成29年改正が「強盗罪並みに」を根拠として法定刑を引き上げた結果,令和5年時点の量刑実務では,不同意性交等罪の実刑化の程度がむしろ強盗罪単体を上回るに至っていることになる。

同じ地方裁判所の量刑統計を用いた分析としては,交通事故に関する重大犯罪である危険運転致死罪についても刑期別の分布を整理した記事を別に公開している。量刑分布のデータの見方や,年ごとの推移の追い方については,そちらも参照されたい(危険運転致死罪の量刑分布)。

第6 法定刑の合理性が争われた2件の高裁判決

不同意性交等罪の法定刑及び性交同意年齢規定の合理性は,令和5年改正の施行から日が浅いこともあり,現時点でなお裁判で正面から争われている。裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認できた範囲では,次の2件の高等裁判所判決がある。

1 東京高等裁判所令和7年10月16日判決

高等裁判所刑事判例集77巻2号23頁(令和7年(う)第1040号,原審は東京地方裁判所立川支部令和7年5月22日判決)。被告人が16歳未満の被害者2名(当時13歳・14歳)に対し口腔性交に及んだ事案である。弁護人は,①口腔性交という「わいせつ行為の一種」に176条を大幅に上回る法定刑を科すのは不合理であって憲法14条に違反する,②16歳未満か否かで処罰の有無を分ける177条3項も不合理な区別であって同条に違反すると主張した。裁判所は,前記第4の2で引用した理由により平成29年改正の合理性を認め,さらに177条3項についても「性的行為に関して有効に自由な意思決定をするための能力の内実として、行為の性的な意味を認識する能力だけでなく、行為の相手方との関係において、行為が自己に及ぼす影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手方に対処する能力が必要であるところ、これらの能力が十分に備わるとみることができる年齢は早くとも16歳であり……」と判示して合憲性を肯定し,控訴を棄却して原判決(懲役5年)を維持した。

2 東京高等裁判所令和6年10月15日判決

高等裁判所刑事判例集76巻1号1頁(令和6年(う)第1138号,原審は東京地方裁判所令和6年5月29日判決)。弁護人は,年少者の性的成熟度によっては真摯な同意による性行為もあり得るのに,これを一律禁止する177条3項は年少者の性的自己決定の自由を侵害し憲法13条に違反する,令和5年改正前は不可罰であった行為まで原則実刑の重罰に処するのは加重の程度が極端で憲法14条1項に違反すると主張した。裁判所はこれを排斥し,177条3項は「相手方との間に対等な関係がおよそありえず、上記のような能力に欠ける場合に限って処罰する観点」からの立法であって憲法13条・14条1項に違反しないと判示し,控訴を棄却して原判決(懲役4年)を維持した。弁護人は,被告人と被害者の関係が深まったのは令和5年改正の施行前であるとして遡及処罰(憲法39条)にも触れたが,裁判所はこの主張も採用しなかった。

いずれも高等裁判所判例集登載判例であり,本記事の調査時点(2026年8月9日)で,これらの事件について最高裁判所への上告の有無及びその結果は裁判所ウェブサイトの裁判例検索では確認できていない。令和5年改正で導入された規定の合憲性をめぐる判断は,今後さらに蓄積されていくと見込まれる。

第7 施行後5年の見直しに向けて

令和5年法律第66号附則20条(検討等)は,「政府は……この法律の施行後五年を経過した場合において……新刑法等の規定の施行の状況を勘案し……とりわけ性的同意についての意識も踏まえつつ、速やかに性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」と定める。同条2項は,「政府は、前項の検討がより実証的なものとなるよう、性的な被害を申告することの困難さその他性的な被害の実態について、必要な調査を行うものとする」とも定めている。施行日は令和5年7月13日であるから,見直しの目途は令和10年(2028年)7月ごろとなる。

平成29年改正の施行後3年見直し(前記第4の2)が令和5年改正につながったのと同じ構造で,今回の施行後5年見直しも,蓄積された量刑データや性的被害の実態調査を踏まえた次の制度見直しの契機となる可能性がある。令和5年改正後の不同意性交等罪の量刑データは,本記事執筆時点でなお施行から日が浅く,改正が量刑実務に与えた影響を評価するには今後の統計の集積を要する状況にある。附則20条1項が検討の考慮要素として「性的同意についての意識」を挙げていることとの関係では,同意の有無を条文の中核に据えた国がその法定刑をどう設計したかも参照材料となる。ノルウェーは,2025年6月20日法律第86号(同年7月1日施行)により刑法291条を改め,言葉でも行動でも同意していない者との性的行為を6年以下の拘禁刑,暴行若しくは脅迫的行動による場合又は相手方が拒む意思を表明している場合等を10年以下の拘禁刑とし,21年以下の拘禁刑という加重類型(同法293条)は後者にのみ適用する構造を採った。同意の欠如だけを理由とする処罰と,強制手段を伴う処罰とを別の法定刑で並べたことになる。各国が同意をどのように条文化し,これに対応する法定刑をどう設計したかについては,別途不同意性交等罪の国際比較で扱っている。

出典・参考資料

1 法令

刑法(明治四十年法律第四十五号)12条・25条・47条・176条・177条・179条・181条・199条・204条・205条・236条・240条・241条(e-Gov法令検索)
刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)250条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

東京高等裁判所令和7年10月16日判決(令和7年(う)第1040号,高等裁判所刑事判例集77巻2号23頁,裁判所ウェブサイト)
東京高等裁判所令和6年10月15日判決(令和6年(う)第1138号,高等裁判所刑事判例集76巻1号1頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷平成27年2月3日決定(平成25年(あ)第1729号,刑集69巻1号99頁,裁判所ウェブサイト)

3 国会会議録(国立国会図書館国会会議録検索システム)

第161回国会参議院法務委員会(平成16年11月30日)南野知惠子法務大臣発言
第161回国会参議院法務委員会(平成16年11月30日)木村光江参考人発言
第193回国会参議院法務委員会(平成29年6月16日)橋爪隆参考人発言
第198回国会衆議院法務委員会(令和元年5月15日)山井和則議員発言
第211回国会参議院法務委員会(令和5年6月13日)嶋矢貴之参考人発言
第211回国会衆議院本会議(令和5年5月26日)宮崎政久議員発言

4 公的資料・統計

法務省「性犯罪関係の法改正等Q&A」(法務省)
②法務総合研究所研究部報告68「精神障害を有する者等の性犯罪被害に関する研究」(法務総合研究所,2025年)第2章第1節・第4節
令和6年版犯罪白書第2編第1章(法務省法務総合研究所)
④令和6年版犯罪白書資料2-3表「地方裁判所における死刑・懲役・禁錮の科刑状況(罪名別)」(法務省法務総合研究所)