司法大観は,一般財団法人法曹会が作成・発行する,法曹関係者の顔写真と略歴を収録した資料である。
本記事では,実物を確認できた令和3年版を中心に,掲載対象と収録上の限界,平成28年の答申で確認された販売状況,図書館・古書での探し方及び情報公開手続での取扱いを整理する。
販売対象に関する記載は平成28年12月21日答申の調査時点のものであり,現在の販売条件を示すものではない。
第1 司法大観の正式名称と資料の性格
1 令和3年版の書誌
令和3年版の奥付によれば,司法大観の編集・発行者は一般財団法人法曹会である。
令和3年版は「裁判所の部」と「法務省の部」の2分冊であり,いずれも令和3年8月1日現在の情報を収録し,同年12月に刊行された。
各巻には,掲載者の顔写真,氏名,出生年,出身地,学歴及び職歴等が掲載されているが,項目及び表示方法は掲載者や版によって異なる。
2 掲載の同意と略歴の限界
令和3年版の凡例によれば,掲載対象者のうち,写真及び略歴の掲載に同意した者が収録されている。
そのため,掲載対象となる職にある者が全員掲載されているとは限らない。
また,規格をそろえることができなかった写真や,本人の希望による従前の写真が掲載される場合があるほか,併任及び海外出張等は略歴から省略されている。
司法大観は人物の同定や経歴調査に有用であるが,顔写真の撮影時期や省略された異動の有無を確認せず,完全な経歴記録として扱うことはできない。
第2 令和3年版の掲載対象
1 裁判所の部
令和3年版「裁判所の部」の凡例が掲げる主な掲載対象は,次のとおりである。
① 裁判官(出向等職員を含む。)
② 最高裁判所(司法研修所,裁判所職員総合研修所及び図書館を含む。)の課長以上,最高裁判所配置の裁判所調査官,首席書記官,上席の書記官,上席の教官,参事官,審査官,首席技官,次席技官,秘書官,健康管理医及び課長補佐(庶務主任)
③ 高等・地方・家庭裁判所の事務局長,首席書記官,首席家庭裁判所調査官及び上席の裁判所調査官
④ 高等裁判所の秘書官及び事務局次長
凡例に記載された職名は「健康管理医」である。
また,基準日前に退職し,基準日後に任命された者についても,本人の希望により掲載される場合がある。
2 法務省の部
令和3年版「法務省の部」の凡例は,検察官,法務省本省・検察庁・法務局等の一定の幹部職員,公証人,出入国在留管理庁,公安調査庁,公安審査委員会及び矯正関係機関等の一定の職員を掲載対象として個別に列挙している。
具体的な掲載対象は版によって変わり得るため,利用する版の凡例を確認する必要がある。
第3 司法大観の購入・閲覧方法
1 平成28年答申時の販売状況
平成28年度(最情)答申第40号によれば,法曹会は当時,裁判所,法務省,検察庁,法務局等の機関及びその所属職員のほか,公証人,法曹会特別会員,司法記者クラブ,日本調停協会連合会,日本弁護士連合会,日本司法書士会連合会及び日本公証人連合会を販売対象としていた。
同答申は,それ以外の購入希望についてもその都度販売の可否を検討し,販売した例があり,最終的には法曹会代表理事が判断していたとする。
もっとも,同答申の調査時点では,地方支分部局等からの申込みを断る場合があり,弁護士個人には販売していなかった。
以上は平成28年12月21日答申に記載された当時の取扱いであり,現在の販売方針を確認した資料ではない。
2 図書館で所蔵を探す方法
CiNii Booksの「司法大観」書誌では,昭和32年,昭和42年,昭和49年及び昭和55年の各版と,これらを所蔵する大学図書館を確認できる。
国立国会図書館サーチにも昭和32年版の書誌があり,利用条件を満たす登録利用者向けの個人送信対象として案内されている。
また,国立国会図書館のレファレンス事例には,昭和63年2月15日現在の版が調査済み資料として挙げられている。
個々の図書館の現在の所蔵,利用資格及び複写条件は変わり得るため,来館前に各館の蔵書検索と利用案内を確認する必要がある。
3 古書で探す方法
日本の古本屋では,昭和42年版,昭和63年版及び平成23年版等の在庫又は過去の販売記録を確認できる。
古書の在庫は変動するため,特定の版を常時購入できるとは限らない。
また,現物を確認していない版について,特定の司法修習期の裁判官まで掲載されていると推測することはできない。
4 利用者による感想
次の感想は,司法大観を実際に閲覧した利用者の感想として掲載するものであり,掲載範囲,販売条件又は刊行頻度の根拠となる資料ではない。
勝手にコメントさせていただくとJが数人集まれば司法大観を見ながら数時間は余裕で語れます。飲み会の最高のおつまみなので捨てるなんてもったいないですね😅 https://t.co/ncqabIfJD1
— Jはお前なんだよ (@tako_kora_) October 15, 2024
第4 情報公開手続における取扱い
1 開示手続の対象となる司法行政文書か
平成28年度(最情)答申第40号によれば,最高裁判所は司法大観を法曹会から購入し,来訪予定者や各種協議会等の出席者の経歴・顔写真を事前に確認するために使用していた。
同答申は,司法大観が不特定多数への販売を目的とする書籍とはいえず,最高裁判所が司法行政事務に使用していたことから,司法行政文書として開示手続の対象とすべきであると判断した。
これは,開示手続の対象文書に当たるという判断であり,直ちに全部を開示すべきであるとしたものではない。
2 法人の正当な利益を理由とする不開示判断
(1) 平成28年度(行情)答申第753号
情報公開・個人情報保護審査会の平成28年度(行情)答申第753号(平成29年2月27日)は,当該事案の司法大観を公にすると,法曹会の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとして,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号イに該当すると判断した。
同答申が挙げた事情は,①法曹会が構成,内容及び掲載対象等を選択して作成した著作物であること,②部外非売品・転載不許を前提として掲載者から情報提供を受けていたこと,③複製の頒布により販売利益や掲載者との信頼関係を害し,将来の情報提供にも影響するおそれがあることなどである。
(2) 平成23年版に関する不開示通知書
最高裁判所事務総長は,平成29年3月17日付の司法行政文書不開示通知書により,平成23年版の「司法大観(裁判所の部)」を文書全体として不開示とした。
したがって,司法行政文書に該当することと,実際に開示されることとは別の判断段階である。
(3) 抜粋部分と令和3年版に関する判断
令和2年度(情)答申第19号は,別の司法行政文書に含まれていた司法大観の抜粋についても,掲載者との信頼関係及び法曹会の販売利益を害するおそれを認め,同法5条2号イ相当の不開示情報であると判断した。
また,令和4年3月25日付の司法行政文書不開示通知書は,令和3年版の「司法大観(裁判所の部)」について,文書全体が同号イに定める不開示情報に相当するとした。

これらは各開示申出と対象文書についての判断であるため,「司法大観は将来の版を含めて常に全部不開示である」と一般化することはできない。
第5 裁判官・検察官の経歴を調べる代替資料
1 書籍及び図書館資料
歴史的な裁判官の異動を調べる資料として,『全裁判官経歴総覧―期別異動一覧編〔第5版〕』(公人社,2010年)がある。
弁護士ドットコムライブラリー収録の『リーガル・リサーチ[第5版]』(日本評論社,2016年)298頁も,裁判官の異動等を調べる人物資料として同書を紹介している。
ただし,刊行済みの書籍はその後の人事異動を反映しないため,現在の在職状況は最新の公表資料と照合する必要がある。
2 本ブログの関連資料
検察官及び法務・検察幹部については,法務省作成の検事期別名簿及び法務・検察幹部名簿(平成24年4月以降)を参照されたい。
裁判官の性別に関する集計については,女性判事及び女性判事補の人数及び割合の推移,歴代の女性最高裁判所判事一覧及び歴代の女性高裁長官一覧に整理している。
第6 司法大観に関する評価
瀬木比呂志は,講談社現代新書の平成26年3月9日付記事「『絶望の裁判所』の裏側」において,司法大観を裁判官・検察官の写真と職歴を収録する資料として紹介し,裁判官組織における人事への関心を論じている。
もっとも,これは著者の経験に基づく評価であり,司法大観の公式な利用目的,刊行頻度又は収録内容を示す一次資料ではない。
第7 出典
1 法令・公文書
① e-Gov法令検索「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」
② 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会「平成28年度(最情)答申第40号」(平成28年12月21日)
③ 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会「令和2年度(情)答申第19号」(令和2年10月23日)
④ 情報公開・個人情報保護審査会「平成28年度(行情)答申第753号」(平成29年2月27日)
⑤ 最高裁判所事務総長「司法行政文書不開示通知書」(最高裁秘書第1087号,平成29年3月17日)
⑥ 最高裁判所事務総長「司法行政文書不開示通知書」(最高裁秘書第799号,令和4年3月25日)
2 文献・ウェブ資料
① 一般財団法人法曹会編『司法大観 裁判所の部』(法曹会,2021年)「刊行に当たって」・凡例,PDF2頁~5頁
② 一般財団法人法曹会編『司法大観 法務省の部』(法曹会,2021年)凡例,PDF1頁~4頁
③ 国立情報学研究所「CiNii Books―司法大観」
④ 国立国会図書館「国立国会図書館サーチ―司法大観」
⑤ 国立国会図書館レファレンス協同データベース「名張毒ブドウ酒事件一審を担当した小川潤という人物について調べてます。」
⑥ いしかわまりこほか『リーガル・リサーチ[第5版]』(日本評論社,2016年)298頁
⑦ 瀬木比呂志「『絶望の裁判所』の裏側」(講談社現代新書,平成26年3月9日)