ポツダム命令とは,連合国による占領期に,ポツダム緊急勅令(昭和20年勅令第542号)に基づいて発せられた勅令・政令・省令等の総称である。
本記事では,ポツダム命令が占領期間中に日本国憲法にかかわりなく「憲法外」で法的効力を有したこと,講和条約の発効によってその多くが失効し又は個別の法律によって存続したこと,そして現在も「出入国管理及び難民認定法」などが法律としての効力を保っていることを,法令の原文と最高裁判例に即して整理する。
第1 ポツダム緊急勅令とポツダム命令
1 ポツダム緊急勅令(昭和20年勅令第542号)による授権
ポツダム緊急勅令とは,大日本帝国憲法(明治憲法)8条1項の緊急勅令として制定された「『ポツダム』宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件」(昭和20年9月20日勅令第542号)をいう。
同勅令は,連合国最高司令官の要求に係る事項を実施するために特に必要がある場合に,政府が命令をもって所要の定めをし,必要な罰則を設けることができるものとした。連合国最高司令官の要求が立法事項に及ぶときでも,帝国議会の立法手続を経ずに命令で対応することを可能にする授権の仕組みである。
政府ハ「ポツダム宣言」ノ受諾ニ伴ヒ聯合國最高司令官ノ爲ス要求ニ係ル事項ヲ實施スル爲特ニ必要アル場合ニ於テハ命令ヲ以テ所要ノ定ヲ爲シ及必要ナル罰則ヲ設クルコトヲ得
2 旧憲法下での効力――帝国議会の承諾
緊急勅令は,明治憲法8条2項により,次の会期に帝国議会へ提出して承諾を求めることとされていた。
勅令542号は昭和20年12月に帝国議会の承諾を得たため,旧憲法下で法律と同一の効力を有した。
日本国憲法施行後は,日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律(昭和22年法律第72号)1条の2が,同法1条による旧命令の効力整理はポツダム命令の効力に影響を及ぼさない旨を定めた。この1条の2は当初の制定時からあったのではなく,昭和22年12月29日公布・施行の昭和22年法律第244号によって追加された規定である。
3 ポツダム命令の意味と件数
ポツダム命令とは,勅令542号に基づいて発せられた勅令・閣令・省令・政令等の総称である。
国立国会図書館調査及び立法考査局の調査によれば,平和条約発効日(昭和27年4月28日)までに発せられたポツダム命令は合計526件に上る。
もっとも,昭和26年9月21日の閣議了解「ポツダム緊急勅令等の措置に関する件」の時点で現行であったポツダム命令は,他の法令を廃止するものを除き,政令又は勅令95件及び省令等56件の合計151件であった。制定総数526件と講和前の現行数151件とは,数える時点と方法が異なるものである。
4 講和による勅令542号の廃止と存続措置
ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律(昭和27年法律第81号)は,日本国との平和条約の最初の効力発生日である昭和27年4月28日に勅令542号を廃止した。
同法は,別に廃止又は存続の措置が講じられないポツダム命令について,同日から180日間に限り,法律としての効力を有するものとした。
他方で同法は,ポツダム命令によって既存の法律又は命令を廃止し,又はその一部を改正した効果には影響を及ぼさないものとした。したがって,すべてのポツダム命令が180日後に一律に失効したわけではなく,個別の措置法によって廃止又は存続の措置が講じられたものとを区別する必要がある。
5 法令番号が政令のまま残る例――出入国管理及び難民認定法
出入国管理令(昭和26年政令第319号)は,ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律(昭和27年法律第126号)4条により,講和後も法律としての効力を有するものとされた。
同令は,昭和56年法律第86号による改正で,昭和57年1月1日から「出入国管理及び難民認定法」という現在の題名になった。
現在も「昭和26年政令第319号」という法令番号を持つのは,制定時にはポツダム命令たる政令であり,その後に法律としての効力が与えられたためである。この経緯は,参議院法制局「法律番号が付されていない法律」でも説明されている。
第2 占領期間中の法的効力に関する判例
占領期間中は,我が国の統治権が連合国の管理下に置かれ,連合国最高司令官が降伏条項を実施するため適当と認める措置をとる関係では,日本国憲法にかかわりなくポツダム命令が効力を有した。以下の判例は,いずれも占領という特殊な統治状況を前提とするものであり,ポツダム命令が現在も一般に憲法外で効力を有するという趣旨ではない。
1 公職追放に関する判例(最高裁昭和25年2月1日判決)
最高裁判所大法廷昭和25年2月1日判決(昭和24年(そ)第4号,刑集4巻2号108頁)は,公職追放令違反事件に関する非常上告事件について,追放が日本の裁判所の権限外にある処分であることを次のように判示した。昭和21年から昭和27年にかけて実施された公職追放をめぐる判断である。
追放は,前示一九四六年一月四日の覚書(山中注:昭和21年1月4日附連合国最高司令官覚書「公務従事ニ適シナイ者ノ公職カラノ除去ニ関スル件」のこと。)を履行するために行われる特別な行政処分であつて,日本国憲法の枠外にある冷厳な処分であるから,これが手続一切はその初頭たると中途たると結果たるとを問わずすべて日本の裁判所の権限外であり,従つて,その手続の結果追放処分が行われたときは,その処分の根拠が真実であるか又は充分であるか等処分の根拠の有無を審理することは日本の裁判所の権限内にないものと解すべきである。
2 政令201号事件(最高裁昭和28年4月8日判決)
最高裁判所大法廷昭和28年4月8日判決(昭和24年(れ)第685号,刑集7巻4号775頁)は,政令201号違反事件について,勅令542号は日本国憲法にかかわりなく憲法外で法的効力を有すると判示した。判文には次の記載がある(読みやすさのため番号を付した。)。
1 連合国の管理下にあつた当時にあつては,日本国の統治の権限は,一般には憲法によつて行われているが,連合国最高司令官が降伏条項を実施するため適当と認める措置をとる関係においては,その権力によつて制限を受ける法律状態におかれているものと言わねばならぬ。すなわち,連合国最高司令官は,降伏条項を実施するためには,日本国憲法にかかわりなく法律上全く自由に自ら適当と認める措置をとり,日本官庁の職員に対し指令を発してこれを遵守実施せしめることを得るのである。
2 かかる基本関係に基き前記勅令第五四二号,すなわち「政府ハポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ聯合国最高司令官ノ為ス要求ニ係ル事項ヲ実施スル為,特ニ必要アル場合ニ於テハ命令ヲ以テ所要ノ定ヲ為シ及必要ナル罰則ヲ設クルコトヲ得」といふ緊急勅令が,降伏文書調印後間もなき昭和二〇年九月二〇日に制定された。この勅令は前記基本関係に基き,連合国最高司令官の為す要求に係る事項を実施する必要上制定されたものであるから,日本国憲法にかかわりなく憲法外において法的効力を有するものと認めなければならない。
この事件は,別名を国鉄弘前機関区事件という。昭和23年7月31日政令第201号1条1項が「公務員は,何人といえども同盟罷業又は怠業的行為をなし,その他国又は地方公共団体の業務の運営能率を阻害する争議行為をとってはならない」と定めていたところ,これに違反したとして起訴された事件である。
3 レッドパージに関する決定(最高裁昭和35年4月18日決定)
最高裁判所大法廷昭和35年4月18日決定(昭和29年(ク)第223号,民集14巻6号905頁)は,昭和24年から昭和25年にかけて実施されたレッドパージに関する事件について,平和条約発効前の連合国最高司令官の命令指示に対する服従義務を次のように判示した。
平和条約発効前においては,わが国の国家機関及び国民は,連合国最高司令官の発する一切の命令指示に誠実且つ迅速に服従する義務を有し(昭和二〇年九月二日降伏文書五項,同日連合国最高司令官指令一号一二項),わが国の法令は右指示に牴触する限りにおいてその適用を排除されるものであることは,当法廷の判例とするところである(昭和二六年(ク)一一四号,同二七年四月二日大法廷決定,民集六巻四号三八七頁参照)。
第3 占領期間終了後の法的効力に関する判例
1 政令325号事件(最高裁昭和28年7月22日判決)の免訴判決
最高裁判所大法廷昭和28年7月22日判決(昭和27年(あ)第2868号,刑集7巻7号1562頁)は,いわゆる「アカハタ及びその後継紙,同類紙の発行停止に関する指令」に関する昭和25年政令第325号違反被告事件について,10人の多数意見により免訴の判決をした。
同指令は,昭和25年6月26日付(朝鮮戦争発生の翌日である。)で1か月間の発行停止を,同年7月18日付で無期限の発行停止を指示したものである。
(1) 多数意見・少数意見・反対意見の対立
6人の意見(真野毅,小谷勝重,島保,藤田八郎,谷村唯一郎及び入江俊郎の意見)
政令325号は,占領状態の継続及び最高司令官の存続を前提とするものであるから,昭和27年4月28日の平和条約発効と同時にその効力を失い,「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。」に当たる。政令325号の効力を維持する法律は,既に失効した政令325号の罰則を事後的に復活させている点で憲法39条に違反する,とするものである。
4人の意見(井上登,栗山茂,河村又介及び小林俊三の意見)
政令325号は,アカハタ等についてあらかじめ全面的にその発行を禁止する点で明らかに憲法21条に違反するから,昭和27年4月28日の平和条約発効と同時にその効力を失い,「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。」に当たる。政令325号の効力を維持する法律もその内容からして憲法21条に違反する,とするものである。
4人の反対意見(田中耕太郎,霜山精一,斎藤悠輔及び本村善太郎の反対意見)
「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。」とは,犯罪後の法令により,既に発生・成立した刑罰権を特に廃止する国家意思の発現があったときをいう。本件は大赦令の対象となったわけではなく,政令325号の効力を維持する法律まで制定されているから,これに当たらない。政令325号の合憲性の判断をすべきではなく,上告を棄却すべきである,とするものである。
(2) 政令325号の沿革とアカハタの改題
政令325号の正式名称は,占領目的阻害行為処罰令(昭和25年10月31日政令第325号)であり,その前身は,聯合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令(昭和21年6月12日勅令第311号)である。
政令325号の効力を維持する法律の正式名称は,ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律(昭和27年5月7日法律第137号)である。
なお,アカハタは,昭和41年2月1日に「赤旗」となり,平成9年4月1日に「しんぶん赤旗」となった。
2 同趣旨の後続判例
最高裁判所大法廷昭和28年12月16日判決(昭和27年(あ)第669号,刑集7巻12号2457頁)及び最高裁判所大法廷昭和30年4月27日判決(昭和27年(あ)第2011号,刑集9巻5号947頁)も,いずれも昭和25年政令第325号違反被告事件について,前記昭和28年7月22日判決と同趣旨の判断をしている。
第4 軍政三布告の撤回と間接統治
占領当初,連合国軍は日本を直接軍政下に置くことも構想していた。
国立国会図書館「日本国憲法の誕生・詳細年表1」によれば,昭和20年9月3日,マッカーサーが重光葵外相と会談し,軍政三布告を撤回した。その結果,日本政府を介する間接統治が基本となった。
軍政三布告の関係原資料は,国立公文書館デジタルアーカイブ「終戦関係書類・其の一」で確認できる。ポツダム命令という仕組みは,この間接統治の下で,連合国最高司令官の要求を日本政府の命令として実施するための法的な受け皿であった。
第5 現在も法律としての効力を有するポツダム命令
現在も法律としての効力を有するポツダム命令には,次のものがある。
- 出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)
- 物価統制令(昭和21年勅令第118号)
- 学校施設の確保に関する政令(昭和24年政令第34号)
- 死産の届出に関する規程(昭和21年厚生省令第42号)
これらが現在も効力を有する根拠は,占領期の命令が現在も憲法外の効力を有するからではなく,講和時の国内法によって法律としての存続措置が講じられたためである。
いずれも法令番号は制定当時の政令・勅令・省令の番号のままであるが,現行の法令データベース上はいずれも法律としての効力をもつものとして扱われている。
第6 「法廷秩序維持問題」(昭和28年)にみる占領下の司法
以下はポツダム命令そのものではなく,占領管理下の司法をめぐる関連資料である。
法曹時報5巻1号(昭和28年1月発行)に掲載された「法廷秩序維持問題」(筆者は田中耕太郎最高裁判所長官)には,当時の法廷の状況について次の記載がある。この論考が発表された当時,既に法廷等の秩序維持に関する法律(昭和27年法律第286号)が制定されていたが,田中長官は,これに加えて刑法95条の公務執行妨害罪等の活用を説いた。
(6頁の記載)
我が国における法廷の状態は,とくに特定の思想的傾向を帯びた事件又はかかる思想的傾向の者に関する事件の審理について,特別の立法的措置を必要とするにいたった。かような事件についての公開の法廷の情況は誠に遺憾なものがあった。傍聴人や被告人被疑者等の拍手喝采,喧騒,怒号,罵り等は往々裁判長の訴訟指揮を不可能ならしめる程度に達したこと新聞の報道や,もっと具体的には情況の録音によって明瞭である。さらに裁判官の命令や係員の制止を無視して暴力を振い,係員を傷害し建物や施設を破壊するがごとき事態も再三ならず発生するにいたった。しかも法廷のかような状態は,多くの場合に「法廷闘争」として指導され,計画的組織的に準備し遂行されているところから来ているものと推定しても誤りないのである。
(23頁及び24頁の記載)
(山中注:法廷等の秩序維持のために)採るべき措置の第二は刑法第九十五条の公務執行妨害罪や職務強要罪の規程を活用することである。私はこれ等の規定が従来裁判官,検察官等裁判関係者の職務執行に関しどの位の程度において適用されてきたかを知らないのであるが,恐らくこれ等の規定が眠っているのではないかを疑わしめるのである。しかるに法廷の内外における情況は痛切にこれ等の規定の発動を要求するような状態にある。法廷の内外における計画的な暴行主義を以てする,裁判所の職務執行に対する妨害行為は,正に第一項の構成要件を充足するものと認められる。暴行については疑問の余地は存しない。裁判官やその家族に対し日夜を分たず書面や電報によって繰り返される脅迫ことに「人民政府成立の暁には裁判官自らが絞首刑に処せられるだろう」というごとき脅迫を以て被告人や被害者の無罪や釈放を強要するがごときことは,第一項又は第二項の罪に該当する行為ではなかろうか。
出典
1 法令
- 「ポツダム」宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件(昭和20年9月20日勅令第542号)
- 日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律(昭和22年法律第72号)1条の2
- 日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律の一部を改正する法律(昭和22年12月29日法律第244号)
- ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律(昭和27年法律第81号)
- ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律(昭和27年法律第126号)4条
- ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律(昭和27年5月7日法律第137号)
- 出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号),物価統制令(昭和21年勅令第118号),学校施設の確保に関する政令(昭和24年政令第34号),死産の届出に関する規程(昭和21年厚生省令第42号)
- 占領目的阻害行為処罰令(昭和25年10月31日政令第325号),聯合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令(昭和21年6月12日勅令第311号),政令第201号(昭和23年7月31日)
2 裁判例
- 最高裁判所大法廷昭和25年2月1日判決・昭和24年(そ)第4号・刑集4巻2号108頁(公職追放令違反事件に関する非常上告)
- 最高裁判所大法廷昭和28年4月8日判決・昭和24年(れ)第685号・刑集7巻4号775頁(政令201号事件・国鉄弘前機関区事件)
- 最高裁判所大法廷昭和28年7月22日判決・昭和27年(あ)第2868号・刑集7巻7号1562頁(政令325号違反・アカハタ後継紙事件)
- 最高裁判所大法廷昭和28年12月16日判決・昭和27年(あ)第669号・刑集7巻12号2457頁
- 最高裁判所大法廷昭和30年4月27日判決・昭和27年(あ)第2011号・刑集9巻5号947頁
- 最高裁判所大法廷昭和35年4月18日決定・昭和29年(ク)第223号・民集14巻6号905頁(レッドパージに関する仮処分事件)
- 最高裁判所大法廷昭和27年4月2日決定・昭和26年(ク)第114号・民集6巻4号387頁(上記昭和35年決定が引用する決定)
3 公文書・歴史資料
- 昭和26年9月21日閣議了解「ポツダム緊急勅令等の措置に関する件」
- 国立国会図書館「日本国憲法の誕生・詳細年表1」
- 国立公文書館デジタルアーカイブ「終戦関係書類・其の一」
- 参議院法制局「法律番号が付されていない法律」
4 文献
- 越田崇夫「明治憲法の緊急事態条項」レファレンス881号(2024年)31頁~60頁
- 行政法制研究会「ポツダム緊急勅令・ポツダム命令」判例時報1472号24頁~27頁
- 村上尚文(原著)・清野憲一(改訂)「憲法逐条注解〔第2版〕」立花書房(2022年)370頁~371頁,477頁
- 田中耕太郎「法廷秩序維持問題」法曹時報5巻1号(昭和28年1月)
※本記事中の判例及び法令の引用は,読みやすさのため句読点を「,」に統一した。仮名遣い・漢字等の表記は原典のままである。