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遺産分割調停・審判の管轄,移送と自庁処理(AI作成)

遺産分割調停の申立先は,原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所である。これに対し,遺産分割審判の申立先は,原則として相続開始地を管轄する家庭裁判所である。この違いは,調停が不成立となって審判へ移行する場面で,移送又は自庁処理の問題を生じさせる。

本記事は,令和8年8月9日現在の家事事件手続法及び家事事件手続規則を前提として,国内土地管轄,調停不成立後の処理,関連裁判例及び国際裁判管轄を整理するものである。

第1 調停と審判の管轄は異なる

1 基本的な区別

遺産分割の調停と審判では,法定の申立先が次のとおり異なる。

手続原則的な管轄家庭裁判所合意管轄主な根拠
遺産分割調停相手方の住所地を管轄する家庭裁判所あり家事事件手続法245条1項・2項
遺産分割審判相続開始地を管轄する家庭裁判所あり同法191条1項・66条,民事訴訟法11条2項・3項

相続は被相続人の住所において開始するため,審判の「相続開始地」は通常,被相続人の最後の住所地である(民法883条)。したがって,申立人,相手方及び被相続人の最後の住所地が異なる事件では,調停の法定管轄と審判の法定管轄が一致しないことがある。

2 同じ裁判所で当然に続くわけではない

遺産分割調停が不成立になると,調停申立時に審判申立てがあったものとみなされる(家事事件手続法272条4項)。もっとも,この規定は申立ての時点を定めるものであり,調停を担当した家庭裁判所に審判の土地管轄を当然に発生させるものではない。

調停裁判所が審判の法定管轄又は合意管轄を有しない場合,同裁判所は,管轄家庭裁判所へ事件を移送するか,事件を処理するために特に必要があると認めて自ら審判を処理するかを判断する。この後者が自庁処理である(同法9条1項)。

第2 遺産分割調停の管轄

1 相手方住所地と複数の相手方

家事事件手続法245条1項は,家事調停事件を,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属すると定める。遺産分割手続では共同相続人及び包括受遺者等の全員が当事者となる必要があり,申立人以外の者は相手方となる。

相手方が複数いる場合,そのうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることができる。この取扱いは,裁判所の全国共通案内にも明記されている。複数の候補があるときは,調停不成立後の見通し,当事者の出頭負担,遺産及び証拠の所在地を検討して申立先を選ぶ必要がある。

2 住所がない場合又は住所が知れない場合

管轄が人の住所地によって定まる場合,日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所地,日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所地を管轄する家庭裁判所が管轄する(家事事件手続法4条)。

住所は生活の本拠であり,住民票上の記載だけで常に決まるものではない。もっとも,申立ての段階では,住民票,戸籍の附票その他の資料によって住所を確認するのが通常である。

3 調停の合意管轄

当事者は,合意によって調停の管轄家庭裁判所を定めることができる。合意は,書面又はその内容を記録した電磁的記録によってする必要がある(家事事件手続法245条2項,民事訴訟法11条2項・3項)。

遺産分割は全員が当事者となる手続であるから,管轄合意も全当事者について成立していることを明確にすべきである。また,合意書では,対象となる被相続人及び遺産分割調停事件を特定し,管轄家庭裁判所を明示するのが安全である。

4 相続開始地は調停の法定管轄ではない

法制審議会に先立つ調査研究では,遺産分割調停の法定管轄に相続開始地を加える案も検討された。しかし,現行法はこれを採用せず,相手方住所地又は合意管轄という規律を維持した。

したがって,「遺産分割事件であるから,調停も被相続人の最後の住所地に申し立てられる」という理解は正確でない。相続開始地の家庭裁判所に調停を申し立てるには,相手方住所地として管轄があるか,管轄合意があるか,例外的に自庁処理がされる必要がある。

第3 遺産分割審判の管轄

1 相続開始地の家庭裁判所

遺産分割に関する審判事件は,相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する(家事事件手続法191条1項)。民法883条により,相続は被相続人の住所において開始するため,通常は被相続人の最後の住所地が基準となる。

被相続人が施設への入所,長期入院又は複数拠点での生活をしていた場合には,住民票の記載と生活の本拠が一致するかが問題となり得る。住所に争いがあるときは,居住期間,生活状況,家財の所在及び住居に戻る意思を基礎付ける客観的事情を確認する必要がある。

2 審判の合意管轄

遺産分割審判は家事事件手続法別表第二の事件であり,同法66条による合意管轄が認められる。この合意は第一審に限られ,一定の法律関係に基づく事件について,書面又は電磁的記録で行う必要がある(同法66条,民事訴訟法11条2項・3項)。

調停についての合意だけで審判の管轄まで当然に合意したことになるとは限らない。調停と審判を同じ家庭裁判所で行うことを意図する場合は,両手続を明示した管轄合意にするのが安全である。

3 寄与分事件との関係

遺産分割審判が係属している場合,寄与分を定める処分は,その遺産分割事件が係属する裁判所の管轄に属する(家事事件手続法191条2項)。遺産分割審判と寄与分審判は,併合して手続及び審判をしなければならない(同法192条)。

調停についても,同法245条3項がこれらの規定を準用する。このため,寄与分の主張が予定される事件では,遺産分割事件と別々に管轄を検討するのではなく,一体として申立先を確認する必要がある。

第4 調停不成立後の移送と自庁処理

1 審判申立てのみなしと管轄判断

遺産分割は家事事件手続法別表第二の事項であるため,調停が不成立で終了すると,調停申立時に審判申立てがあったものとみなされる(同法272条4項)。この制度は,新たな審判申立てを不要にし,申立時に関する利益を保全する。

もっとも,調停と審判は別個の手続であり,管轄も別に判定される。調停裁判所が相続開始地を管轄せず,審判についての管轄合意もない場合,審判事件は管轄外の家庭裁判所に係属することになるため,家事事件手続法9条による処理が必要となる。

2 移送が原則で自庁処理が例外である

裁判所は,家事事件の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは,申立て又は職権で管轄裁判所へ移送する。もっとも,家庭裁判所は,事件を処理するために特に必要があると認めるときは,管轄を有しない別の家庭裁判所へ移送し,又は自ら事件を処理することができる(家事事件手続法9条1項)。

「特に必要」があるかは,個別事件の事情によって決まる。実務上は,①調停段階で蓄積した審理内容,②各当事者の住所,年齢,健康状態及び経済的負担,③遺産及び証拠の所在地,④関連事件の係属,⑤移送による手続遅延,⑥遠隔参加によって負担を軽減できる程度などを具体的に示すことが重要である。この列挙は法定の限定列挙ではなく,条文,立法資料及び裁判例から整理した考慮要素である。

3 意見聴取と即時抗告

家庭裁判所は,自庁処理をする前に,当事者及び利害関係参加人の意見を聴かなければならない(家事事件手続規則8条1項)。移送又は自庁処理について希望がある当事者は,結論だけでなく,前記の考慮要素に関する具体的な事情及び資料を提出する必要がある。

移送決定及び管轄違いを理由とする移送申立てを却下した裁判には,即時抗告をすることができ,即時抗告には執行停止の効力がある(家事事件手続法9条3項・4項)。これに対し,自庁処理をする旨の裁判自体については独立の即時抗告規定がないため,自庁処理に反対する当事者は,自庁処理の裁判前に移送申立てを明示する必要がある。

第5 申立先を決める際の実務上の検討

1 調停から申し立てる場合

調停から申し立てる場合は,次の順序で検討すると整理しやすい。

① 共同相続人,包括受遺者等の全当事者を確定する。

② 申立人以外の各相手方の住所地を確認し,選択できる管轄家庭裁判所を列挙する。

③ 相続開始地を確定し,調停不成立後に審判の法定管轄がどこになるかを確認する。

④ 調停裁判所と審判裁判所を一致させる必要があれば,両手続について管轄合意を得られるかを検討する。

⑤ 合意がない場合は,調停不成立後に移送される可能性と,自庁処理される可能性の双方を見込んで申立先を選ぶ。

2 最初から審判を申し立てる場合

遺産分割には調停前置主義がないため,最初から審判を申し立てることはできる。もっとも,家庭裁判所は審判事件を職権で調停に付すことができる(家事事件手続法274条1項)。その場合,審判を担当する家庭裁判所は,調停の法定管轄を有しなくても,付された調停事件を自ら処理することができる(同条3項)。

したがって,最初から審判を申し立てれば必ず審判手続だけが進むとは限らない。他方,相続開始地の家庭裁判所で審判を申し立て,その裁判所が調停に付して自ら調停を処理すれば,調停から審判まで同じ家庭裁判所で進むことがある。

3 遠隔地の家庭裁判所に申し立てる場合

ウェブ会議等による遠隔参加が可能な場合でも,参加方法は土地管轄そのものを変更しない。遠隔参加によって負担をどこまで軽減できるかは,申立先の選択及び移送・自庁処理に関する意見を組み立てる際の一事情となる。

家事調停一般の手続については,家事調停に関するメモ書きも参照されたい。

第6 関連裁判例

1 大阪高裁昭和39年12月18日決定

大阪高裁昭和39年12月18日決定(昭和39年(ラ)第233号,移送審判に対する即時抗告事件,高民集17巻8号628頁,家月17巻2号35頁)は,遺産分割調停の土地管轄を正面から判断した裁判例である。

同決定は,①遺産分割調停の管轄は相続開始地ではなく,相手方住所地又は合意管轄であること,②相手方が複数の場合は各相手方の住所地を管轄する家庭裁判所が管轄を有することを判示した。また,旧家事審判規則の下で,自庁処理の必要性は移送決定に対する即時抗告理由にならないとした(裁判所公式PDF)。

前二点は現在も基本となる。もっとも,自庁処理と不服申立てに関する部分は旧法下の判断であり,移送申立権及び即時抗告を明文化した現行の家事事件手続法9条に即して読み替える必要がある。

2 大阪高裁昭和36年11月28日決定

大阪高裁昭和36年11月28日決定(昭和36年(ラ)第210号,移送の審判に対する抗告事件,高民集14巻7号508頁)は,養育費調停事件について,身体状況,経済的事情及び手続遅延等を考慮し,自庁処理の必要性は移送決定に対する抗告理由となり得るとした(裁判所公式PDF)。

遺産分割事件そのものではないが,家事調停における自庁処理の肯定説を示した裁判例である。現行法の逐条解説も,家事事件手続法9条の明文構造の下では,この肯定説が妥当であるとする。

3 名古屋高裁昭和44年1月10日決定

名古屋高裁昭和44年1月10日決定(昭和43年(ラ)第130号,移送申立却下審判に対する即時抗告事件,判例タイムズ242号324頁)は,先行する遺産分割審判に関連する土地使用範囲の確認調停について,自庁処理の必要性は裁量事項であり,当事者による移送申立て及び不服申立ては許されないとした(裁判所公式PDF)。

もっとも,同決定は付言として,当事者,係争不動産及び関連事件が本来の管轄地に集中し,当事者の高齢・病気による遠距離移動の困難もあることから,職権移送が相当であると述べた。本決定も旧法下の判断であり,現行法上の不服申立てについては家事事件手続法9条3項・4項が基準となる。

4 旧法裁判例の対立と現行法上の到達点

旧法下では,自庁処理の必要性を裁判所だけの裁量とみるか,移送決定の適法性に関する法律問題として抗告審の審査対象とみるかについて裁判例が分かれていた。

現行法は,管轄違いを理由とする移送申立て,その却下決定及び移送決定に対する即時抗告を明文化し,自庁処理前の意見聴取を規則で義務付けた。このため,移送決定に対し「申立裁判所が自庁処理すべきである」と主張できるとの見解が有力である。他方,自庁処理の裁判自体に独立の不服申立てがない点は区別しなければならない。

第7 国際裁判管轄が問題となる場合

1 国際裁判管轄を先に判断する

被相続人又は相続人が国外に居住し,あるいは遺産が国外にある事件では,まず日本の裁判所に国際裁判管轄があるかを判断し,その後に日本国内のどの家庭裁判所が土地管轄を有するかを判断する。国際裁判管轄と国内土地管轄は別の問題である。

相続に関する審判事件について,家事事件手続法3条の11は,原則として相続開始時における被相続人の住所等を基礎として日本の裁判所の管轄権を定める。遺産分割及び特別の寄与に関する処分については,当事者による国際裁判管轄の合意も認められる。

2 日本に遺産があるだけでは足りない

日本国内に遺産が存在するという事実だけでは,遺産分割審判について日本の裁判所の国際裁判管轄は生じない。財産所在地を管轄原因とする相続財産の保存又は管理に関する事件と,遺産分割審判とを区別する必要がある。

家事調停事件については,対応する訴訟又は家事審判について日本の裁判所が管轄権を有するとき,相手方の住所等が日本国内にあるとき,又は所定の管轄合意があるときに,日本の裁判所の管轄権が認められる(家事事件手続法3条の13)。

3 国際的合意と国内の合意を区別する

「日本の裁判所に申し立てる」という国際裁判管轄の合意と,「特定の家庭裁判所を申立先とする」という国内土地管轄の合意は同じではない。渉外事件で特定の日本の家庭裁判所に手続を集中させる場合は,両方の要件を満たす合意が必要となる。

日本に国際裁判管轄がある場合でも,日本での審理が適正かつ迅速な審理を妨げ,又は当事者間の衡平を害する特別の事情があるときは,家事事件手続法3条の14による例外的な申立ての却下が問題となる。ただし,遺産分割について日本の裁判所だけに申し立てる旨の専属的な国際管轄合意に基づく申立ては,この却下の対象外である。

第8 申立て前の確認事項

遺産分割の申立先を決める前に,少なくとも次の事項を確認する必要がある。

① 国外居住者又は国外財産があるか。

② 相続開始時の被相続人の住所及び最後の住所はどこか。

③ 共同相続人,包括受遺者等の全当事者は誰か。

④ 各相手方の現在の住所はどこか。

⑤ 調停と審判の双方について管轄合意があるか,又は合意を得られるか。

⑥ 調停不成立後に移送又は自庁処理となった場合,各当事者の負担,証拠の所在地及び手続期間にどのような影響があるか。

⑦ 移送又は自庁処理について意見を述べるための客観的資料があるか。

第9 出典・参考資料

1 法令・規則

① 家事事件手続法3条の11,3条の13,3条の14,4条,7条,9条,66条,191条,192条,245条,272条及び274条(e-Gov法令検索)

② 民法22条及び883条(e-Gov法令検索)

③ 民事訴訟法11条(e-Gov法令検索)

④ 家事事件手続規則6条及び8条(令和8年4月1日現在,裁判所ウェブサイト)

2 裁判例

① 大阪高裁昭和36年11月28日決定(昭和36年(ラ)第210号,移送の審判に対する抗告事件,高民集14巻7号508頁,裁判所公式PDF

② 大阪高裁昭和39年12月18日決定(昭和39年(ラ)第233号,移送審判に対する即時抗告事件,高民集17巻8号628頁,家月17巻2号35頁,裁判所公式PDF

③ 名古屋高裁昭和44年1月10日決定(昭和43年(ラ)第130号,移送申立却下審判に対する即時抗告事件,判例タイムズ242号324頁,裁判所公式PDF

3 公的資料

① 裁判所「遺産分割調停

② 名古屋家庭裁判所「遺産分割調停

③ 法務省『非訟事件手続法及び家事審判法の見直しのための調査研究報告書』冊子頁122頁・234頁~236頁(PDF実頁130頁・246頁~248頁)

4 文献

① 金子修編著『逐条解説 家事事件手続法』(商事法務,2013年)冊子頁18頁~27頁・613頁~614頁・738頁~739頁(調査用PDF実頁38頁~47頁・633頁~634頁・758頁~759頁)

② 金子修編著『一問一答 家事事件手続法』(商事法務,2012年)冊子頁62頁~63頁・237頁(調査用PDF実頁75頁~76頁・250頁)

③ 内野宗揮編著『一問一答 平成30年人事訴訟法・家事事件手続法等改正―国際裁判管轄法制の整備』(商事法務,2019年)冊子頁142頁~145頁・149頁~157頁(調査用PDF実頁158頁~161頁・165頁~173頁)

④ 秋武憲一・片岡武編著『コンメンタール家事事件手続法Ⅱ〔159条~293条〕』(青林書院,2021年)766頁~767頁

⑤ 仲隆・浦岡由美子共編『遺産相続事件処理マニュアル』(新日本法規,2019年)124頁~125頁

⑥ 山城司『Q&A 遺産分割事件の手引き』(日本加除出版,2022年)7頁・460頁~461頁