第1 はじめに――「とりあえず共有」という先送り
1 本記事の狙い
相続財産の分け方がまとまらないとき,「とりあえず全員の共有にしておこう」という選択がしばしば採られます。一見すると全員が等しく権利を持つ平等な分け方に見えますが,共有は原則として共有者全員の意見が一致しなければ処分も大きな変更もできず,「誰がどの財産を取得するか」という根本問題を先送りしただけの状態にとどまります。
本記事は,弁護士が相続に伴う共有状態の解消を受任した際に,どの手続・手段を,どの順序で,どのような要件のもとに選択すべきかを,令和3年(2021年)の民法・不動産登記法改正(令和5年4月1日施行の部分を中心とします。)まで踏まえて体系的に整理するものです。遺産分割による解消,共有物分割による解消,持分単位での解消(放棄・譲渡・買取権)という3つの層に分け,さらに令和3年改正で新設された手段を位置づけます。
2 共有状態が生む実務上の問題
共有状態は自然に解消されることはありません。共有物の使用方法や管理をめぐって共有者の意見が対立すると紛争になり,一つの紛争を解決しても別の紛争が生じやすい構造にあります。加えて,共有者が死亡して相続が重なると共有者の数が増え,権利関係が加速度的に複雑化します。したがって,共有の解消は「いつか」ではなく,早期に見通しを立てて着手すべき課題です。
第2 遺産共有の基礎――通常共有との異同
1 遺産共有の法的性質
相続が開始し相続人が複数いる場合,相続財産はその共有に属します(民法898条1項)。この相続開始後・遺産分割前の共有を「遺産共有」といいます。判例は,遺産共有を物権法上の共有(民法249条以下)と性質を同じくするものと解しています(最高裁昭和30年5月31日判決・民集9巻6号793頁)。したがって,共有物の使用・管理・変更に関する規律(民法249条から264条まで)は,遺産共有にも基本的に適用されます。
2 各相続人の共有持分の割合
令和3年改正で新設された民法898条2項は,相続財産について共有に関する規定を適用するときは,法定相続分(相続分の指定があるときは指定相続分)をもって各相続人の共有持分とすることを明記しました。すなわち,特別受益(民法903条)や寄与分(民法904条の2)を反映した具体的相続分は,遺産共有の持分割合の基準にはなりません。具体的相続分は,あくまで遺産分割の場面で最終的な取得額を定めるための基準です。
3 準共有となる財産(株式・投資信託・国債)
金銭債権のように性質上可分な財産は各相続人に相続分に応じて分割承継されますが,可分でない財産は準共有(民法264条)となり,遺産分割を経なければ最終的な帰属が定まりません。判例は,委託者指図型投資信託の受益権および個人向け国債について,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものではなく,遺産分割の対象になるとしています(最高裁平成26年2月25日判決・民集68巻2号173頁)。株式も準共有となり,後記のとおり権利行使に特別のルールがあります。
4 二つの解消ルート
(1) 遺産分割と共有物分割の役割分担
共有状態を裁判所の手続で解消する方法は,大きく二つに分かれます。通常の共有(物権法上の共有)は「共有物分割」(民法256条・258条)により解消し,遺産共有は「遺産分割」(民法907条)により解消するのが原則です。前者は地方裁判所・簡易裁判所の民事訴訟手続,後者は家庭裁判所の家事審判・調停手続という違いがあります。
(2) 遺産共有は共有物分割訴訟によれないという原則
判例は,遺産共有関係にある財産の分割は家庭裁判所の遺産分割手続によるべきであり,共有物分割訴訟によることはできないとしていました(最高裁昭和62年9月4日判決・集民151号645頁)。この原則は令和3年改正により一部が修正されましたが(後記第6の2),出発点となる考え方として押さえておく必要があります。
第3 遺産分割による解消――4つの分割方法
遺産共有の本来の解消手続は遺産分割です。家庭裁判所は,遺産に属する物の種類・性質,各相続人の年齢・職業・心身の状態・生活の状況その他一切の事情を考慮して分割を定めます(民法906条)。分割の方法には,現物分割・代償分割・換価分割・共有分割の4つがあります。
1 現物分割
現物分割は,個々の財産を現物のまま各相続人に配分する方法で,遺産分割の原則的な方法です。土地であれば分筆して配分する場合などがこれにあたります。もっとも,現物を分けると価値が著しく損なわれる財産(一棟の建物など)では採用しにくいという限界があります。
2 代償分割
(1) 意義と要件
代償分割は,特定の相続人が現物を取得する代わりに,他の相続人に対して代償金(債務)を支払う方法です(家事事件手続法195条)。自宅不動産や事業用資産のように分割になじまない財産を,特定の相続人に集約させたい場合に有用です。
(2) 支払能力の審理
代償分割を審判で命じるには,現物分割が困難であるなどの特別の事情に加え,現物を取得する相続人に代償金の支払能力があることが必要です。判例は,支払能力の点について審理判断しないまま代償分割を命じた審判は違法であるとしています(最高裁平成12年9月7日決定・家月54巻6号66頁)。支払能力の裏づけ(金融機関の残高証明,融資の内諾等)を早期に準備することが実務上重要です。
3 換価分割
換価分割は,遺産を売却して代金を相続人間で分ける方法です。相続人全員の合意による任意売却のほか,終局的な処分としての競売,遺産分割の中間段階で行う競売(家事事件手続法194条)があります。現物を欲しい相続人がいないときや,公平な金銭配分を優先したいときに選択されます。
4 共有分割――最後の手段
共有分割は,遺産をそのまま相続人の共有とする分割方法です。もっとも,これは共有状態を将来に残すものであり,紛争の先送りにすぎず何ら解決とならないと評価されます。裁判例も,共有とする分割は,現物分割や代償分割はもとより換価分割さえも困難な状況があるときに選択されるべき分割方法であるとしています(大阪高裁平成14年6月5日決定・家月54巻11号60頁)。共有分割は「最後の手段」と位置づけるのが実務の理解です。
5 分割方法の優先順位と選択基準
前記大阪高裁決定が示すとおり,分割方法の選択の基本原則は,まず当事者の意向を踏まえた現物分割であり,それが困難な場合には当事者が代償金の負担を了解している限りで代償分割,代償分割も困難であれば換価分割,そのいずれも困難な場合に初めて共有分割という順序になります。取得希望が競合する場合は,各相続人の年齢,占有・利用の状況,管理能力,有効利用の可能性,被相続人の意向などを総合して判断されます。受任時には,どの相続人がどの財産を現実に取得・維持できるのかを整理した一覧表を作成し,この優先順位に沿って主張を構成することが有効です。
第4 共有物分割による解消
1 協議・調停・訴訟の3段階
通常共有(および後記の要件を満たす遺産共有)は,共有物分割によって解消します。まず共有者間の協議を行い,協議が調わないときは,共有物分割の調停または共有物分割訴訟によります。共有物分割訴訟は,協議が調わないとき,または協議をすることができないときに提起できます(民法258条1項)。共有者に協議に応じる意思がない場合や,共有者が不特定・所在不明で協議ができない場合も「協議をすることができないとき」に含まれます。
2 裁判による分割の3類型(改正民法258条)
令和3年改正は,裁判による共有物分割の方法とその順序を条文上明確にしました(民法258条2項・3項)。
(1) 現物分割
現物分割は,共有物の現物を分割する方法です(民法258条2項1号)。過不足が生じる場合には,多く取得する者が金銭を支払って調整する部分的価格賠償を伴う現物分割も認められます。判例は,一括分割・部分的価格賠償を含めた柔軟な現物分割を認めていました(最高裁昭和62年4月22日大法廷判決・民集41巻3号408頁)。過不足の調整のための給付は,改正後は民法258条4項の給付命令によることになります。
(2) 賠償分割(全面的価格賠償)
賠償分割は,共有者に債務を負担させて他の共有者の持分の全部または一部を取得させる方法です(民法258条2項2号)。共有者の一人が共有物全部を取得し,他の共有者にその持分の価格を賠償する「全面的価格賠償」がこれにあたります。判例は,全面的価格賠償が許されるためには,特定の共有者に取得させるのが相当であり,かつ価格が適正に評価され,取得者に支払能力があって,他の共有者に対する賠償金の支払により共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が必要であるとしています(最高裁平成8年10月31日判決・民集50巻9号2563頁)。改正民法258条2項は,現物分割と賠償分割を優劣をつけずに並べています。
(3) 競売分割
現物分割・賠償分割のいずれの方法によっても共有物を分割することができないとき,または分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは,裁判所は競売を命じることができます(民法258条3項)。競売分割は,これらの方法が採れない場合の補充的な方法という位置づけです。
3 全面的価格賠償の実務――賠償金の支払確保
全面的価格賠償では,賠償金が現実に支払われる保証をどう確保するかが実務上の要点です。前記平成8年判決が支払能力を要件としているのはこのためです。実務では,賠償金の支払と持分移転登記手続の引換給付とする方法,賠償金の支払を停止条件として分割の効力を発生させる方法,弁済期を定めて不払いのときは失効させ,あるいは換価分割に移行させる方法などが用いられます。賠償額の前提となる共有物の適正評価(住宅ローン等の担保が付いている場合の調整を含みます。)も含め,当事者の主張・立証の巧拙が結果を左右しやすい類型です。
4 交渉の切り札としての共有物分割訴訟
共有物分割訴訟は,共有者間の交渉が決裂した場合の最終手段として機能します。逆にいえば,訴訟という選択肢が控えていることが交渉の後ろ盾になります。受任時には,訴訟に至った場合にどの分割類型が選択される見込みかを見立てたうえで,協議・調停の交渉方針を組み立てることが有用です。
第5 持分単位での解消――放棄・譲渡・買取権
共有物全体を分割せず,自分(または相手)の持分だけを動かして共有関係から離脱する手段もあります。共有物分割と組み合わせて選択肢に加えることで,解決の幅が広がります。
1 共有持分の放棄
共有者の一人がその持分を放棄すると,その持分は他の共有者に持分の割合に応じて帰属します(民法255条)。放棄は相手方の承諾を要しない単独行為であり,結果の確実性が高い一方,放棄した者は失った持分の対価を得られません。なお,税務上は他の共有者に対するみなし贈与として贈与税の課税対象となり得る点(相続税法9条)に注意が必要です。放棄による持分移転登記は,放棄者と帰属者の共同申請が原則で,放棄者が協力しないときは登記引取請求訴訟を要することがあります。
2 共有持分の譲渡
持分を第三者または他の共有者に譲渡して共有関係から離脱する方法です。持分の処分は各共有者が自由に行えますが,共有持分は使用・収益・処分に制約があるため,第三者への売却では価格が大幅に減価される(共有減価)のが通常です。持分が第三者に譲渡された結果,遺産共有持分と通常共有持分とが併存する状態が生じることもあります。
3 共有持分買取権
共有者が,共有物に関する負担(管理費用や公租公課等。民法259条参照)について,1年以内にその義務を履行しないときは,他の共有者は相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができます(民法253条2項)。義務を履行しない共有者を,相当の対価と引換えに強制的に共有関係から離脱させる制度です。共有物全部の取得を目指す場面では,共有物分割(賠償分割)と機能が似ており,両者を併用して,一方を主位的に,他方を予備的に主張する構成も考えられます。
4 4手法の比較と使い分け
共有物分割・共有持分買取権・共有持分放棄・共有持分譲渡は,(ア)共有関係を解消する効果,(イ)結果の確実性,(ウ)対価・代金の取得,(エ)手続の手間の4点で性格が異なります。共有物分割は公平な清算が図れる反面,訴訟では判断材料が多く手続の負担が大きく,結果の予測可能性はやや低い傾向があります。これに対し,持分放棄は通知により確実に離脱できますが対価を得られず,持分譲渡は確実に離脱でき代金も得られますが減価を伴い,買取権は義務不履行という要件が必要です。事案の目的(全部を取得したいのか,離脱したいのか)と,対価の要否・確実性・コストを勘案して選択します。
第6 令和3年改正がもたらした新たな解消手段
1 改正の全体像と施行日
令和3年(2021年)の民法・不動産登記法改正(令和3年法律第24号)と相続土地国庫帰属法(令和3年法律第25号)は,所有者不明土地問題への対応を主眼としつつ,共有状態の解消手段を大きく拡充しました。共有・財産管理・遺産分割に関する民法改正および相続土地国庫帰属法は令和5年4月1日に施行され,相続登記の申請義務化は令和6年4月1日に施行されました。以下では,共有の解消に直結する改正を取り上げます。
2 遺産共有と通常共有が併存する場合の特則(258条の2)
(1) 原則――遺産分割優先
共有物の全部またはその持分が相続財産に属し,共同相続人間で遺産分割をすべきときは,その共有物または持分について共有物分割(民法258条)をすることはできません(民法258条の2第1項)。遺産共有関係は原則として家庭裁判所の遺産分割手続で解消すべきであるという従来の判例(前記昭和62年9月4日判決)を明文化したものです。
(2) 相続開始から10年経過後の一元処理
もっとも,共有物の持分が相続財産に属する場合において,相続開始の時から10年を経過したときは,後記(3)の異議がない限り,遺産共有持分についても共有物分割手続で解消することができます(民法258条の2第2項)。これにより,遺産共有持分と通常共有持分とが併存する一個の不動産を,一回の共有物分割手続でまとめて解消することが可能になりました。この一元処理を認めた背景には,遺産共有持分と他の共有持分とが併存する不動産について,両持分間の共有関係の解消は共有物分割訴訟によるべきであり,共有物分割によって遺産共有持分権者に分与された部分はさらに遺産分割の対象となる旨を判示した判例(最高裁平成25年11月29日判決・民集67巻8号1736頁)があります。改正は,遺産共有持分そのものの解消についても,10年経過後は共有物分割手続で完結できるようにして,この二段階の不便を緩和したものと位置づけられます。各相続人の共有持分は法定相続分(指定相続分)によります(民法898条2項)。
(3) 相続人の異議の申出
10年を経過した場合でも,当該遺産共有持分について遺産分割の請求があり,かつ相続人が共有物分割手続によることに異議の申出をしたときは,その持分を共有物分割手続で解消することはできません(民法258条の2第2項ただし書)。異議の申出は,共有物分割請求を受けた裁判所から請求があった旨の通知を受けた日(訴状の送達を受けた日)から2か月以内にしなければなりません(同条3項)。異議を申し出ることができるのは相続人であり,共有物分割訴訟の原告となった相続人自身は異議を申し出ることができません。なお,258条の2第2項の10年は「請求時(訴え提起時)」に経過していることを要します。
3 所在等不明共有者の持分の取得・譲渡(262条の2・262条の3)
共有者が他の共有者を知ることができず,またはその所在を知ることができないとき(所在等不明共有者)は,裁判所の決定により,その持分を処理できる制度が新設されました。第一に,他の共有者は,裁判所の決定により,所在等不明共有者の不動産の持分を取得することができます(民法262条の2)。この場合,所在等不明共有者は,持分の時価相当額の支払を請求する権利を取得します。第二に,他の共有者は,裁判所の決定により,不動産全部を第三者に譲渡する権限を取得することができます(民法262条の3。他の共有者全員の持分も併せて譲渡することが条件です。)。いずれも手続では公告(3か月以上)と供託が必要です。もっとも,対象となる持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産分割をすべき場合)は,相続開始の時から10年を経過していなければ,これらの裁判をすることはできません(民法262条の2第3項・262条の3第2項)。
4 具体的相続分の時的限界(904条の3)
相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割については,原則として特別受益(民法903条)・寄与分(民法904条の2)を適用せず,法定相続分(指定相続分)によって分割します(民法904条の3)。長期間放置された遺産分割を簡明な割合で円滑に処理し,あわせて早期の分割を促す趣旨です。例外として,10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求したとき(同条ただし書1号),および10年の期間満了前6か月以内にやむを得ない事由があり,その事由消滅の時から6か月を経過する前に請求したとき(同条ただし書2号)は,なお具体的相続分によります。
5 経過措置の非対称――実務上の要注意点
これらの制度の経過措置には重要な違いがあります。具体的相続分の時的限界(民法904条の3)については,施行日前に開始した相続にも適用されますが,「相続開始の時から10年を経過する時」または「施行の時(令和5年4月1日)から5年を経過する時」のいずれか遅い時まで猶予されます。したがって,施行時にすでに10年を経過していても,少なくとも施行から5年間(令和10年(2028年)3月末頃まで)は具体的相続分による分割の余地が残ります。これに対し,共有物分割の特則(民法258条の2)および所在等不明共有者の持分の取得・譲渡(民法262条の2・262条の3)には5年の猶予がなく,施行日前にすでに相続開始から10年を経過している事案では,施行後直ちにこれらの手段を利用できます。この非対称は見落としやすいため注意が必要です。
6 相続財産の保存・管理の制度
共有の解消を進める前提として,相続財産を適切に保存・管理する必要がある場面があります。改正民法897条の2は,家庭裁判所が,利害関係人等の請求により,いつでも相続財産の保存に必要な処分(相続財産管理人の選任等)を命じることができるとして,従前分散していた保存のための管理制度を一本化しました。また,個々の所有者不明の土地・建物を対象とする所有者不明土地・建物管理制度(民法264条の2以下),管理が不適当な土地・建物を対象とする管理不全土地・建物管理制度(民法264条の9以下)も新設され,遺産に属する不動産の管理・処分の場面でも活用され得ます。
7 相続土地国庫帰属制度
相続または相続人に対する遺贈により土地(またはその共有持分)を取得した者は,法務大臣の承認を受け,負担金を納付することで,その土地の所有権を国庫に帰属させることができます(相続土地国庫帰属法)。これは所有権の放棄ではなく,法定の要件を満たすことを前提とした承継取得型の制度です。共有地については,相続等により持分を取得した者を含む共有者全員が共同して申請する場合に限り,承認申請ができます(同法2条2項)。すなわち,望まない共有地を共有者全員で国庫に帰属させて共有関係を解消するという選択肢になり得ます。ただし,建物がある土地,担保権や使用収益権が設定された土地,境界が明らかでない土地などは却下事由(同法2条3項)とされ,一定の崖がある土地,管理・処分を阻害する有体物が地上・地下に存する土地,争訟を要する土地などは不承認事由(同法5条1項)とされており,対象は限定されています。
第7 場面別の実務指針
1 相続開始から10年が分水嶺
令和3年改正後の実務では,「相続開始から10年」が一つの分水嶺です。10年を経過する前は,遺産共有の解消は遺産分割によるのが原則で,特別受益・寄与分を反映した具体的相続分による分割を求めることができます。10年を経過した後は,具体的相続分による分割の利益が原則として失われて法定相続分による分割となり,遺産共有持分と通常共有持分とが併存する不動産は共有物分割手続で一元的に解消でき,所在等不明共有者の持分の取得・譲渡も可能になります。特別受益や寄与分を主張して有利な分割を求める相続人にとっては,10年を徒過する前に家庭裁判所へ遺産分割を請求しておくことが決定的に重要です。
2 所在の分からない相続人がいる場合
相続人の一部が所在不明である場合には,従来からの不在者財産管理人の選任に加え,前記の所在等不明共有者の持分の取得・譲渡(民法262条の2・262条の3)や所有者不明土地・建物管理制度が選択肢になります。ただし,対象持分が遺産共有持分である場合には,原則として相続開始から10年の経過が要件となる点に留意が必要です。
3 未上場株式が共有になった場合
株式が準共有となると,会社の意思決定が停滞し,事業の運営に支障が生じます。共有に属する株式については,権利を行使する者一人を定めて会社に通知しなければ,原則として権利を行使することができません(会社法106条)。判例は,この権利行使者の指定は,共有者全員の一致までは必要でなく,持分の価格に従いその過半数で決することができるとしています(最高裁平成9年1月28日判決・民集51巻1号71頁)。また,権利行使者の指定・通知を欠く場合の議決権行使は,それが民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,会社が同意しても原則として適法とならないとしています(最高裁平成27年2月19日判決・民集69巻1号25頁)。共有株式の解消は,遺産分割による特定相続人への集約,株式の売買(発行会社による自己株式の取得を含みます。),信託の活用などが検討されます。
4 税務の視点
共有の解消は,選択する手段によって課税関係が大きく異なります。共有物分割は,持分の価格に応じて分ければ原則として課税されませんが,取得する資産の価額と従前の持分価額に差があると,その差額が贈与とみなされ得ます。固定資産の交換の特例(所得税法58条)を用いれば一定要件のもとで譲渡益課税を避けられますが,同種資産であること,価額差が20パーセント以内であることなどの要件があり,株式には適用されません。個人が法人へ時価の2分の1未満で持分を譲渡すると,みなし譲渡課税(所得税法59条)が問題になります。持分の放棄はみなし贈与課税(相続税法9条)の対象となり得ます。自宅敷地については小規模宅地等の特例の適用の有無が分割方法の選択に影響します。共有の解消を助言する際は,法務と税務を一体で検討することが不可欠です。なお,具体的な税額・要件は税制改正により変わり得るため,最新の税制と税理士の確認を前提とすべきです。
第8 まとめ
遺産相続における共有状態の解消は,(1)遺産分割による解消(現物・代償・換価・共有分割の4方法と優先順位),(2)共有物分割による解消(現物・賠償・競売の3類型),(3)持分単位での解消(放棄・譲渡・買取権)という3つの層で全体像を捉えると整理しやすくなります。そのうえで,令和3年改正が新設した,遺産共有と通常共有が併存する場合の共有物分割の特則(258条の2),所在等不明共有者の持分の取得・譲渡(262条の2・262条の3),具体的相続分の時的限界(904条の3),相続土地国庫帰属制度を,「相続開始から10年」という分水嶺と経過措置の非対称に注意しながら使い分けることが,実務上の要点です。受任にあたっては,事案の目的(取得か離脱か),対価の要否・確実性・コスト,そして税務への影響を一体で検討し,最適な手段を選択することが求められます。
出典
本記事が根拠とした主な法令・裁判例・文献は次のとおりです(法令の条文は電子政府の総合窓口(e-Gov)法令検索により現行の条文を確認しています。裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索に掲載されているものについて,各裁判例へのリンクを付しています。)。
1 法令
- 民法(249条,251条,252条,252条の2,253条,255条,256条,258条,258条の2,259条,262条の2,262条の3,264条,897条の2,898条,903条,904条の2,904条の3,906条,907条)
- 会社法106条
- 所得税法58条・59条
- 相続税法9条
- 家事事件手続法194条・195条
- 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(相続土地国庫帰属法)
2 裁判例
- 最高裁昭和30年5月31日判決(民集9巻6号793頁)
- 最高裁昭和62年4月22日大法廷判決(民集41巻3号408頁)
- 最高裁昭和62年9月4日判決(集民151号645頁)
- 最高裁平成8年10月31日判決(民集50巻9号2563頁)
- 最高裁平成9年1月28日判決(民集51巻1号71頁)
- 最高裁平成12年9月7日決定(家月54巻6号66頁)(裁判所ウェブサイト未掲載)
- 大阪高裁平成14年6月5日決定(家月54巻11号60頁)(裁判所ウェブサイト未掲載)
- 最高裁平成25年11月29日判決(民集67巻8号1736頁)
- 最高裁平成26年2月25日判決(民集68巻2号173頁)
- 最高裁平成27年2月19日判決(民集69巻1号25頁)
3 文献
- 三平聡史『共有不動産の紛争解決の実務〔第2版〕』(民事法研究会)
- 片岡武ほか『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務〔第4版〕』(日本加除出版)
- 村松秀樹・大谷太編著『Q&A 令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』(金融財政事情研究会)
- 荒井達也『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』(日本加除出版)