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本稿は、当ブログ掲載の「早期退職希望者の募集実施要項」と題する一群の文書を取り上げ、その制度上の位置付けと読み方を整理したものである。これらは、最高裁判所が、裁判所の職員(裁判官及び一般職の職員)に対し、定年前に退職する意思を有する者を募集するに当たって作成し、周知した要項であり、いずれも開示の申出(情報公開請求)により入手した司法行政文書である。掲げる文書は合計76件(裁判官向け51件・一般職向け25件)で、平成25年から令和7年までの約12年分にわたる。
制度の根拠は、国家公務員退職手当法(昭和28年法律第182号)8条の2第1項である。同項の募集には、年齢別構成の適正化を目的とする第1号と、組織の改廃等を目的とする第2号の2類型があり、本稿の要項はいずれも第1号による。各省各庁の長等(財政法20条2項)として裁判所では最高裁判所長官がこれに当たり、裁判官を対象とする募集は最高裁判所長官の名義で、一般職の職員を対象とする募集はその委任を受けた最高裁判所事務総局人事局長の名義で行われる(いずれも個人名は記載されない)。
「募集実施要項」は法8条の2第2項の法律上の用語であり、第1項各号の別、退職すべき期日又は期間、募集人数、募集の期間その他の事項を記載して対象職員に周知する文書である。応募は職員の任意であって強制は禁じられており(同条4項)、退職勧奨ではない。応募者は認定を受け(同条5項以下)、認定を受けて定年前に退職した者には、退職手当の基本額について特例(法5条の3。定年まで残した年数に応じ、1年につき100分の3を超えない範囲で割増し)が設けられている。募集と認定は内閣総理大臣に送付・報告され、毎年度取りまとめて公表される(同条9項・10項)。
体裁としては、裁判官向け(長官名義)と一般職向け(人事局長名義)の2系統に分かれ、項目構成は両系統でおおむね共通である。応募の様式は平成25年総務省令第58号(内閣官房令)により、募集は年に複数回(春と秋)発出されている。黒塗りは問合せ先の電話番号のみで、令和7年のものには「機密性2」の表示が付され、用紙はいずれもほぼA4の画像PDFである。
要項から読み取れる主な事項として、裁判官向けの対象は下級裁判所の裁判官(簡易裁判所判事を除く)が基準日現在50歳以上65歳未満、簡易裁判所判事が55歳以上70歳未満であり、一般職向けの対象区分は定年別から給与表区分別へと年代により変化している。募集人数は裁判官向けが5人から6人、一般職向けが10人・15人・20人・60人等と年代で増減し、募集の期間は裁判官向けが約2か月、一般職向けが約3週間とされる例が多い。
これらは、裁判所における早期退職の募集の条件を直接確認できる一次資料である。もっとも、本制度は希望者の応募を募るものであって退職勧奨ではなく、本稿は資料の所在と読み方を案内するもので、制度や個々の運用の当否を評価するものではない。
◯本稿では,当ブログに掲載している「早期退職希望者の募集実施要項」と題する一群の文書を取り上げ,その制度上の位置付けと読み方を整理する。これらは,最高裁判所が,裁判所の職員(裁判官及び一般職の職員)に対し,定年前に退職する意思を有する者を募集するに当たって作成し,周知した要項であり,いずれも開示の申出(いわゆる情報公開請求)により入手した司法行政文書である。
◯入手済みのPDFについては「裁判官の早期退職」に掲載している。
第1 本稿で扱う資料
1 本稿の対象
本稿が対象とするのは,「早期退職希望者の募集実施要項」と題する一群の文書である。これらは,最高裁判所が,裁判所の職員に対し,定年前に退職する意思を有する者を募集するに当たって作成し,周知した要項である。
後記第2のとおり,この募集は,国家公務員退職手当法に基づく「早期退職希望者の募集」の制度によるものである。本稿で扱う文書は,その募集の内容(対象,募集人数,募集の期間,応募や認定の手続等)を定めた要項であり,裁判所において,どのような条件で早期退職の募集が行われているかを,制度の根拠にさかのぼって確認することができる資料である。
早期退職の募集という仕組みは,一般にはあまり知られていないが,法律に基づく正式な制度として運用されている。これは国家公務員全体に共通する制度であり,裁判所もその対象となる。本稿は,その制度の内容と,これを記録した募集実施要項の読み方とを,順を追って整理するものである。
2 資料の入手方法と性格
これらの文書は,最高裁判所の保有する司法行政文書の開示の申出(一般に「情報公開請求」と呼ばれるもの)によって入手したものである。
もっとも,正確には,裁判所は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)の適用対象である「行政機関」には当たらない。同法は行政権を担う行政機関を対象とするものであり,司法権を担う裁判所はその対象に含まれていない。そのため,裁判所の保有する文書のうち裁判事務に関するもの以外の文書,すなわち司法行政文書の開示は,同法ではなく,最高裁判所が定める要綱に基づく開示の申出の制度によって行われている。したがって,本稿で「情報公開」というのは,この開示の申出による入手を指す。
この開示の申出の制度は,何人も利用することができる。したがって,本稿が掲げる各文書は,いずれも第三者(一般国民)が,開示の申出を通じて入手し得る,既に公開された文書である。なお,一部のPDFには,開示の申出に対する開示通知書が表紙として付されているものもある。開示通知書には,開示の申出に対する最高裁判所の決定の内容や,文書の一部を不開示とした場合のその範囲及び理由が記載される。本稿で扱う要項に付された開示通知書では,問合せ先の電話番号を不開示とした旨が記載されている。
3 資料の数量と範囲
本稿が掲げる文書は,合計76件である。年代の範囲は,平成25年から令和7年までであり,約12年分にわたる。
これらは,名義の違いにより,2つの系統に分かれる。1つは,裁判官を対象とする募集の要項で,最高裁判所長官の名義によるもの(本稿では「裁判官向け」という。)であり,もう1つは,裁判官及び裁判官の秘書官以外の職員(一般職の職員)を対象とする募集の要項で,最高裁判所事務総局人事局長の名義によるもの(本稿では「一般職向け」という。)である。系統別の件数は,裁判官向けが51件,一般職向けが25件である。
後記第3の3で述べるとおり,募集はおおむね年に複数回行われており,同一の年度に,裁判官向けと一般職向けの双方が発出されている。このため,1つの年度について複数の要項が存在することが多い。
第2 早期退職希望者の募集制度とは何か(制度の枠組み)
1 制度の趣旨
(1) 募集の根拠(退職手当法8条の2第1項)
早期退職希望者の募集は,国家公務員退職手当法(昭和28年法律第182号。以下「法」という。)8条の2に基づく制度である。法8条の2第1項は,各省各庁の長等は,定年前に退職する意思を有する職員の募集を行うことができると定める。
本稿で扱う要項も,その冒頭で,「国家公務員退職手当法(昭和28年法律第182号。以下「法」という。)第8条の2第1項第1号の規定により,下記のとおり早期退職希望者の募集を行う。」と,この根拠規定を引いている。
定年前に退職する意思を有する職員を募るというこの制度は,定年を待たずに退職する道を用意することで,職員の年齢別構成の調整に資するものとされる。後記(3)及び3で述べるとおり,応募はあくまで職員の任意であり,これに応じて退職した者については,退職手当の面で一定の特例(割増し)が設けられている。
(2) 募集の2類型
法8条の2第1項は,募集の類型を2つ定めている。第1号は,職員の年齢別構成の適正化を図ることを目的とし,一定の年齢以上である職員を対象として行う募集である。第2号は,組織の改廃又は官署若しくは事務所の移転を円滑に実施することを目的とし,当該組織等に属する職員を対象として行う募集である。
本稿で扱う要項は,いずれもこのうち第1号(年齢別構成の適正化を目的とするもの)の規定を引いている。すなわち,組織の改廃等に伴うものではなく,年齢別構成の適正化を目的とする定期的な募集である。第1号の募集の対象となる年齢は,法5条の3に基づく政令で定める年齢以上とされている。後記第4で述べる裁判官向けの「50歳以上」「55歳以上」や,一般職向けの生年の範囲は,この枠組みの中で,要項ごとに具体的に定められたものである。
(3) 裁判所職員への適用と実施主体
法8条の2第1項にいう「各省各庁の長等」とは,財政法(昭和22年法律第34号)20条2項に規定する各省各庁の長及びこれらの委任を受けた者等をいう。財政法20条2項にいう各省各庁とは,国会,裁判所,会計検査院及び内閣(各省を含む。)をいい,裁判所はその一つである。裁判所については,最高裁判所長官が各省各庁の長に当たる。
また,法による退職手当は,常時勤務に服することを要する国家公務員に支給されるものであり(法2条1項),裁判官もこれに含まれる。これらのことから,裁判官を対象とする募集は最高裁判所長官の名義で,一般職の職員を対象とする募集はその委任を受けた最高裁判所事務総局人事局長の名義で,それぞれ行われている(後記第3の1)。
2 募集実施要項とは何か(退職手当法8条の2第2項)
(1) 募集実施要項の法的位置付け
「募集実施要項」は,法律上の用語である。法8条の2第2項は,各省各庁の長等は,募集を行うに当たっては,一定の事項を記載した要項(同項はこれを「募集実施要項」という。)を,当該募集の対象となるべき職員に周知しなければならないと定める。すなわち,本稿で扱う各文書は,この法8条の2第2項にいう募集実施要項そのものである。
(2) 記載すべき事項
法8条の2第2項が募集実施要項に記載すべきものとしている事項は,①第1項各号の別(前記1(2)の第1号か第2号か),②認定を受けた場合に退職すべき期日又は期間,③募集をする人数,④募集の期間,⑤その他当該募集に関し必要な事項であって政令で定めるもの,である。後記第3の2で述べる要項の項目立ては,これらの法定の記載事項に対応している。
このように,募集実施要項は,募集の基本的な条件を職員に対してあらかじめ明らかにするための文書である。どのような職員が,何人,いつまで応募することができ,認定されればいつ退職すべきこととなるのか,といった事項が,一覧的に示される。
(3) 対象職員への周知
募集実施要項は,募集の対象となるべき職員に周知されるものである(法8条の2第2項)。本稿で扱う要項が,名宛人を特に設けず,裁判官又は一般職の職員一般に向けた体裁をとっているのは,このためである。
3 応募・認定・退職手当の特例
(1) 応募の任意性(退職手当法8条の2第4項)
募集に応じるかどうかは,職員の自由である。法8条の2第3項は,職員は,募集の期間中いつでも応募し,退職すべき期日が到来するまでの間いつでも応募の取下げを行うことができると定める。そして,同条第4項は,応募及び応募の取下げは職員の自発的な意思に委ねられるものであって,各省各庁の長等は職員に対しこれらを強制してはならないと定める。
すなわち,早期退職希望者の募集は,あくまでも希望する職員の応募を募るものであって,特定の職員に退職を求めるもの(退職勧奨)ではない。この点は,後記第5の2でも改めて述べる。
なお,募集に応募することができるのは,対象となる職員のうち一定の者に限られる。法8条の2第3項は,臨時的に任用される職員その他法律により任期を定めて任用される者,退職すべき期日等が到来するまでに定年に達する者,懲戒処分等を受けている者等は,応募の対象から除かれる旨を定めている。
(2) 認定とその手続(退職手当法8条の2第5項〜第8項)
応募をした職員については,各省各庁の長等が,応募による退職が予定されている職員である旨の認定を行う(法8条の2第5項)。もっとも,応募が募集実施要項に適合しない場合や,懲戒処分等を受けた場合,公務に対する国民の信頼を確保する上で支障が生ずると認める場合,引き続き職務に従事させることが公務の能率的運営の確保や長期的かつ計画的な人事管理の推進のために特に必要であると認める場合等は,認定をしないものとされている(同項各号)。また,応募者の数が募集をする人数を超える場合には,あらかじめ募集実施要項と併せて周知した方法に従って,認定をする数を制限することができる(同項ただし書)。
各省各庁の長等は,認定をし,又はしない旨の決定をしたときは,遅滞なく,その旨(認定をしない場合はその理由を含む。)を応募者に書面により通知する(法8条の2第6項)。そして,募集実施要項に退職すべき期間を記載した場合には,認定を行った後,その期間内のいずれかの日を退職すべき期日として定め,書面により通知する(同条第7項)。後記第4の3で述べる「退職すべき期間」は,この仕組みに対応するものである。
もっとも,認定を受けた応募者であっても,退職手当を支給しない事由に該当するに至ったとき,募集実施要項等に記載された退職すべき期日までに退職せず又はその期日に退職しなかったとき,懲戒処分等を受けたとき,応募を取り下げたとき等には,認定はその効力を失うものとされている(法8条の2第8項)。
(3) 退職手当の基本額の特例(退職手当法5条の3)
この募集に応じて認定を受け,定年前に退職した職員については,退職手当の基本額について特例が設けられている。法5条の3は,定年に達する日から一定の期間前までに退職した者であって,勤続期間が20年以上であり,かつ,一定の年齢以上であるもの等について,退職手当の基本額の計算上,退職日の俸給月額に,定年と退職日の年齢との差に相当する年数に応じ,1年につき100分の3を超えない範囲内で政令で定める割合を乗じて得た額を加算する旨を定めている。すなわち,定年まで残した年数に応じて退職手当が割り増される仕組みである。
この退職手当の特例は,定年まで勤め上げた場合と比べて不利にならないように配慮しつつ,定年前の退職という選択をしやすくするためのものである。なお,各省各庁の長等は,募集及び認定について,内閣総理大臣に対し,募集実施要項を送付するとともに認定を受けた応募者の数を報告するものとされ(法8条の2第9項),内閣総理大臣は,毎年度,これらを取りまとめて公表するものとされている(同条第10項)。この送付・報告・公表の仕組みは,制度の運用状況を外部から把握し得るものとする趣旨と解される。
もっとも,この特例による割増しの具体的な割合は政令で定められるものであり,また,要項自体に退職手当の額が記載されているわけではない。要項は,あくまで募集の対象や人数,手続を定めるものであって,退職手当の額は,別途,法及び政令の定めるところによる。
第3 募集実施要項の体裁と読み方
1 2系統の名義(裁判官向け・一般職向け)
要項は,前記第2の1(3)のとおり,名義により2つの系統に分かれる。裁判官向けは「最高裁判所長官」の名義によるものであり,一般職向けは「最高裁判所事務総局人事局長」の名義によるものである。いずれも,長官又は人事局長の個人名は記載されていない。名義が2つに分かれているのは,裁判官については最高裁判所長官が,一般職の職員についてはその委任を受けた人事局長が,それぞれ募集の主体となるためである。
各要項は,冒頭に日付と名義を記し,続けて「法第8条の2第1項第1号の規定により,下記のとおり早期退職希望者の募集を行う。」と述べてから,具体的な項目に入る。
2 記載項目の構成
要項の項目立ては,両系統でおおむね共通であり,「1 募集の対象」「2 募集人数」「3 募集の期間」「4 退職すべき期間」「5 応募の手続」「6 認定の手続」「7 応募の取下げの手続」「(一般職向けでは)受付・問合せの担当及び問合せ先」「(注)」という構成をとる。
応募及び応募の取下げの手続では,所定の様式(内閣官房令〔平成25年総務省令第58号〕の別記様式第一の応募申請書,別記様式第二の応募取下げ申請書)に記入して提出するものとされている。なお,この様式の根拠の略称は,古い要項では「省令」と,新しい要項では「内閣官房令」と表記されているが,引用している番号(平成25年総務省令第58号)は同一である。
末尾の(注)には,懲戒処分等を受けた者は応募することができないこと,応募者の数が募集人数を超える場合の調整の方法(在職期間の長い者から順次認定する,定年までの月数の少ない者から順次認定する等),認定後における退職すべき期日の繰上げ又は繰下げ等が記載されている。これらは,前記第2の3で述べた法の定めを,要項の中で具体化したものである。
3 募集の時期(年複数回の発出)
募集は,おおむね年に複数回行われている。発出の時期は,春(おおむね4月から5月)と,秋(おおむね8月,及び10月から11月)に分かれており,これに対応して要項も年に複数回作成されている。裁判官向けでは,2月,8月,11月の各時期に作成されている回もある。
また,同一の年度に,裁判官向けと一般職向けの双方が並行して発出されている。本稿が掲げる文書も,平成25年から令和7年まで,両系統が継続的に作成されてきたことを示している。例えば,裁判官向けでは平成30年8月1日付け,令和元年8月1日付け,令和7年4月24日付けといった要項が,一般職向けでは平成25年10月8日付け,平成30年4月24日付け,令和7年4月24日付けといった要項が,それぞれ確認できる。同じ令和7年4月24日付けで,裁判官向けと一般職向けの双方が対になって作成されている例もある。
4 機密性表示・黒塗り・用紙等の形式的特徴
黒塗り(不開示部分の墨消し)は,本稿で確認した範囲では,問合せ先の電話番号に対して施されているのみである。募集の対象,募集人数,募集の期間,応募や認定の手続といった要項の実体的な内容は,黒塗りされておらず,読むことができる。開示通知書が付されたものでは,電話番号が不開示情報に該当するため,その部分を除いて開示した旨が記載されている。
また,新しい要項(令和7年のもの)には,文書の管理上の区分として「機密性2」の表示が付されているが,古い要項(平成25年から令和元年まで)には,こうした表示は見当たらない。
用紙は,いずれもほぼA4の大きさである。各要項は,要項単体のものでおおむね4頁から5頁,開示通知書の表紙が付くもので6頁程度である。文書はいずれも紙の原本をスキャナで取り込んだ画像であり,文字情報の層をほとんど持たないため,本文を読むには画像を表示して確認する必要がある。もっとも,文字自体は鮮明であり,募集の対象・人数・期間・手続といった内容は明確に読み取ることができる。本稿が示した事項は,こうして画像を確認した上で記載したものである。
第4 募集実施要項から読み取れる主な事項
以下は,本稿で実際に確認した要項から読み取れる主な事項である。網羅的なものではなく,読み方の手掛かりとして例を挙げるにとどめる。具体的な数値は,実際に確認した回次のものであり,他の回次の数値は,個別に原文に当たって確認されたい。
1 募集の対象(裁判官向け)
裁判官向けの要項では,募集の対象が,官職と年齢によって定められている。すなわち,①下級裁判所の裁判官(簡易裁判所判事を除く。)で,基準日現在の年齢が50歳以上65歳未満の者,②簡易裁判所判事で,基準日現在の年齢が55歳以上70歳未満の者,である。
この対象の括り方(下級裁判所裁判官は50歳以上65歳未満,簡易裁判所判事は55歳以上70歳未満)は,本稿で確認した範囲では,平成25年から令和7年まで一貫している。対象となる年齢は,要項ごとに定められた基準日現在の年齢によって判定される。基準日は,おおむね当該募集に係る退職すべき期間の末日に対応して定められている。例えば,平成30年8月付けの裁判官向けの要項では,基準日が平成31年1月15日とされ,この日現在の年齢によって対象が判定される。
2 募集の対象(一般職向け)
一般職向けの要項では,募集の対象が,裁判官及び裁判官の秘書官以外の職員のうち,一定の区分に該当し,かつ,一定の生年の範囲にある者として定められている。
もっとも,その区分の括り方は,年代によって変化している。本稿で確認した範囲では,令和2年頃までは,定年が60年・63年・65年である職員という「定年別」の3区分によっていたのに対し,令和7年のものでは,行政職俸給表(二)の適用を受ける労務職員,医療職俸給表(一)の適用を受ける職員,及びそれら以外の職員という「給与表区分別」の3区分に変わっている。これは,定年の段階的な引上げに伴う改変であるとみられるが,切替えの正確な年度は本稿では確定していない。いずれの区分においても,対象は,区分ごとに定められた生年の範囲にある職員とされており,この生年の範囲は,募集の年度に応じて繰り下がっていく。
3 募集人数・募集期間・退職すべき期間
募集人数は,要項ごとに定められている。裁判官向けでは,本稿で確認した範囲で,平成25年は5人,平成30年以降は6人とされている。一般職向けでは,指定職俸給表の適用を受ける職員及び行政職俸給表(一)の7級以上の職員と,それ以外の職員とに分けて人数が定められており,年代により10人・15人・20人・60人等と異なる。
具体的には,本稿で確認した一般職向けの例では,平成25年は,指定職俸給表の適用を受ける職員及び行政職俸給表(一)の7級以上の職員が10人,それ以外の職員が60人とされ,平成30年は,両区分とも15人とされ,令和7年は,前者が20人,後者が15人とされている。このように,募集人数は年代によって増減している。
募集の期間は,裁判官向けでは約2か月間,一般職向けでは約3週間とされている例が多い。「退職すべき期間」は,認定を受けた者が退職すべき時期の幅を示すものであり,要項に記載された当該期間内のいずれかの日が,認定後に退職すべき期日として定められる(前記第2の3(2))。退職すべき期間の幅は,裁判官向けでは約2か月,一般職向けでは約1週間とされている例がある。
4 裁判官向けと一般職向けの違い
裁判官向けと一般職向けとでは,募集の対象の括り方(裁判官向けは官職と年齢,一般職向けは給与表・定年の区分と生年の範囲),募集人数(裁判官向けは少人数,一般職向けはより多い人数),募集の期間(裁判官向けは約2か月,一般職向けは約3週間)等に違いがある。もっとも,根拠条文や,応募・認定・取下げの仕組みといった要項の法的な骨格は,両系統で実質的に同一である。
第5 資料を読む際の留意点
1 一次資料としての意義
これらの文書は,裁判所において早期退職希望者の募集がどのような条件で行われているかを示す一次資料である。報道や解説を介さずに,募集の対象,募集人数,募集の期間,応募や認定の手続等を,要項の記載に即して直接確認することができる点に意義がある。
また,平成25年から令和7年までの要項を通覧することで,募集人数や対象の括り方が年代によってどのように推移してきたかをたどることもできる。
2 任意の募集であり退職勧奨ではないこと
前記第2の3(1)のとおり,早期退職希望者の募集は,応募及び応募の取下げが職員の自発的な意思に委ねられる制度であり,法律上,これらを強制してはならないものとされている(法8条の2第4項)。すなわち,この制度は,希望する職員の応募を募るものであって,特定の職員に退職を求めるもの(退職勧奨)ではない。
本稿は,資料の所在と読み方を案内するものであって,制度や個々の運用の当否について評価を加えるものではない。読者が一次資料に直接当たって判断することができるようにすることを目的とする。