司法研修所教官


目次

1 総論
2 司法研修所教官等の身分
3 判事補又は検事への採用希望者に対し,法律事務所等の内定を求めるような指導はしていないこと
4 司法研修所教官は出世コースの一つであること等
5 在任中に死亡した司法研修所教官の出勤状況が分かる文書は存在しないこと等
6 関連記事その他

1 総論
(1)ア 司法研修所には,裁判官の研修を担当する第一部と,司法修習生の修習を担当する第二部があります(司法研修所規程3条1項)。
イ 単に司法研修所教官といった場合,司法研修所第二部の教官をいいます。
ウ 司法研修所第一部は,昭和57年3月までは簡易裁判所判事及び判事補の研修だけを行っていましたが,同年4月以降,判事の研修も行うようになりました(「裁判官研修の現状と課題」参照)。
(2) 司法研修所第二部の教官として,裁判官出身の民事裁判教官及び刑事裁判教官,検察官出身の検察教官,並びに弁護士出身の民事弁護教官及び刑事弁護教官がいます。

2 司法研修所教官等の身分
(1)ア   司法研修所長,司法研修所事務局長及び司法研修所教官は本来,裁判官以外の裁判所職員です(裁判所法55条及び56条,並びに司法研修所規則3条2項参照)。
    しかし,現実の運用では常に裁判官をもって充てられています(司法研修所長及び司法研修所事務局長につき司法行政上の職務に関する規則1項,民事裁判教官及び刑事裁判教官につき裁判所法附則3項(裁判所法等の一部を改正する法律(昭和24年6月1日法律第177号)による改正後のもの))。
イ 裁判所法附則3項は以下のとおりです。
    最高裁判所は、当分の間、特に必要があるときは、裁判官又は検察官をもつて司法研修所教官又は裁判所職員総合研修所教官に、裁判官をもつて裁判所調査官にそれぞれ充てることができる。
ウ 「最高裁判所とともに」(著者は高輪1期の矢口洪一元最高裁判所長官)180頁及び181頁には以下の記載があります。
たとえば裁判所の中でも、司法行政に従事する有資格事務官と判事、判事補の格差の問題があったのです。裁判をするかどうか、で形式的に区分することとして発足したのですが、事務総局等司法行政事務部門で有資格者が不可欠である以上、事務官への任命により昨日までの判事の待遇を下回る給与とすることは実務上不可能で、昭和二四年六月には、最高裁判所調査官、研修所教官や司法行政上の職に、判事、判事補を、そのままの身分で充てることができるようにされています。

(2)ア 検察官及び弁護士が司法研修所教官に就任できる法的根拠は司法研修所規則2条です。
イ   司法研修所規則2条は以下のとおりです。
    最高裁判所は、必要があると認めるときは、裁判官、検察官、弁護士又は学識経験のある者に司法研修所教官の事務の一部を嘱託する。

3 判事補又は検事への採用志望者に対し,法律事務所等の内定を求めるような指導はしていないこと(1) 判事補への採用志望者の場合

・ 根拠となる文書は以下のとおりです。
① 平成31年 2月21日付の不開示通知書
② 平成31年 4月16日付の理由説明書
③ 令和 元年10月25日付の補充理由説明書

(2) 検事への採用志望者の場合
・ 根拠となる文書は以下のとおりです。
① 平成31年 2月20日付の不開示通知書
② 平成31年 4月16日付の理由説明書
③ 令和 元年10月25日付の補充理由説明書

4 司法研修所教官は出世コースの一つであること等
(1) 西川伸一Online「幹部裁判官はどのように昇進するのか」の7頁に以下の記載があるとおり,司法研修所の裁判教官は裁判所内における出世コースの一つです。
   司法研修所長とはもちろん、裁判官の研究・修養(第一部)と司法修習生の修習(第二部)のために最高裁が設置する司法研修所のトップである。このポストにも代々裁判官が就いている。所長のみならず、第一部教官や第二部の民事裁判官教官および刑事裁判官教官となって裁判官が司法研修所に出向している。司法研修所教官も有望ポストとみなされている。さらに司法研修所付(「所付」とよばれる)となる裁判官もいる。当然、彼らは裁判実務には携わらない。
(2) 「裁判官も人である 良心と組織の間で」91頁には以下の記載があります。
   「実際、すぐれた能力とセンスが備わっていても、教官が示す法律解釈などに異を唱えたり、論破したりする修習生は、裁判官の任官希望を出しても採用されないと言っていい。」
   こう前置きして語るのは、ある地裁の裁判長だ。
   「修習生は実務研修といって地裁や検察庁、弁護士事務所でも修習するのですが、私のところに来た修習生で、いいのがいたので裁判官への任官をすすめようとしたら、勝手に声掛けしたらいかんと、司法研修所の教官から注意された。教官は、最高裁に対して修習生の保証人という役割も担っていて、修習生が裁判官になれるかなれないかは教官が決定権を握っている。教官とすれば、素直さに欠ける修習生を裁判官にしてあとで問題になると困るということなんでしょう」

5 在任中に死亡した司法研修所教官の出勤状況が分かる文書は存在しないこと等

(1) 裁判所職員採用試験HPに掲載されている,50期の鈴木千帆裁判官のメッセージには,「裁判所は,ひとりひとりを大切にする組織です。」と書いてあります。
    しかし,42期の花村良一司法研修所民事裁判上席教官は,平成28年9月29日に死亡しましたところ,死亡した月の出勤状況が分かる文書は存在しないことになっています平成28年11月4日付の司法行政文書不開示通知書平成28年12月2日付の最高裁判所事務総長の理由説明書及び平成28年度(最情)答申第42号(平成29年1月26日答申)参照)。
(2)ア 平成29年10月31日付の司法行政文書不開示通知書によれば,花村良一裁判官の急死を原因として遺族から国家賠償請求訴訟を提起される可能性があることについて最高裁がどのように考えているかが分かる文書の存否を答えることは,不開示情報である個人識別情報を開示することとなるので,同文書の存否を答えることはできません。
イ 平成29年12月19日付の司法行政文書不開示通知書によれば,花村良一裁判官の死亡を原因として遺族から国家賠償請求訴訟を提起される可能性があることについて最高裁がどのように考えているかが分かる文書は存在しません。

6 関連記事その他
(1) 
平成29年6月14日付の司法行政文書不開示通知書によれば,司法研修所弁護教官室が,弁護教官の人数を増やしてほしいという趣旨で提出した意見書は存在しません。

(2)ア 日弁連は,昭和50年5月24日の第26回定期総会において,「司法研修所弁護教官の選任及び新任拒否に関する決議」を採択しました。
   その原因は,昭和50年4月,最高裁が,司法研修所弁護教官の選任について,日弁連と協議することなく,日弁連の推薦順位を無視したこと等にあります。
イ 月刊大阪弁護士会2020年1月号の「元最高裁判所判事・元弁護士 鬼丸かおるさん」に,「弁護士会が裁判所関係に人を推薦するときは、最低でも求められている人数の2倍を候補者として推薦します。」と書いてあります。
(3) 31期の瀬木比呂志裁判官が著した「絶望の裁判所」101頁には以下の記載があります。
    司法研修所は、事務総局人事局と密接に結び付いて最高裁長官や人事局長の意向の下に新任判事補を選別し、また、裁判官の「キャリアシステム教育」を行う、実質的な意味での「人事局の出先機関」なのである。人事局と司法研修所教官、ことに修習生の教育選別を行う部門と裁判官教育を行う部門との各上席教官(後者の上席のほうが格は上)、また司法研修所事務局長(以上、いずれも東京地裁裁判長クラスの裁判官)とのパイプはきわめて緊密である。そして、彼らを通じて、人事局は司法研修所教官を動かしている。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 司法研修所民事裁判教官の名簿
・ 司法研修所刑事裁判教官の名簿
・ 司法研修所の教官組別表,教官担当表及び教官名簿
・ 司法研修所弁護教官の任期,給料等
・ 司法研修所教官会議の議題及び議事録
・ 司法研修所の職員配置図,各施設の配置及び平成24年8月当時の門限
・ 最高裁判所の職員配置図(平成25年度以降)


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