目次
第1 司法修習生の身分に関する最高裁判所事務総局審議官の説明
第2 平成16年の裁判所法改正で修習専念義務を明文化した理由
第3 関連記事その他
第1 司法修習生の身分に関する最高裁判所事務総局審議官の説明
・ 37期の菅野雅之最高裁判所事務総局審議官は,平成23年8月4日の「第4回法曹の養成に関するフォーラム」において以下の説明をしています(リンク先の7頁及び8頁)(ナンバリング及び改行を追加しました。)(掲載資料の一覧につき,法務省HPの「法曹の養成に関するフォーラム第4回会議(平成23年8月4日開催)」参照)。
1 今,川上オブザーバーから御指摘いただいた点,具体的には日弁連提出資料の資料6の資料1としてペーパーをお出しいただいているわけですが,このペーパーの中で2ページの3,「司法修習と給費制は不可分一体のもの」との見出しを付けたパラグラフの記述におきまして,その主張の根拠として最高裁判所判決,あるいは最高裁判所事務総局編の裁判所法逐条解説等の記載が援用されているわけでございますが,これらの点については,ちょっと論旨を誤って用いられているのではないかと思われますので,この点についてのみ一言申し上げさせていただきます。
なお,念のためここで引用されている判例につきましては,本日御参考までに全文を資料7として提出させていただいておりますし,文献につきましては日弁連さん御自身が資料として提出されていますので,正確な事実関係については,後ほどこれらの原典に当たっていただければ,私どもの申し上げたいことを十分に御理解いただけるものと思っております。
2 まず,日弁連が援用する昭和42年の最高裁判所判決は,司法修習生がその身分を離れるに際し,退職手当の支給を求めた事件について,「司法修習生は国家公務員退職手当法にいう国家公務員又はこれに準ずる者に当たらない」との判断を示し,退職手当の請求を棄却した原審の判断を是認したものです。
この判決は,司法修習生は法曹資格を取得するための修習を行うものであって,国の事務を担当するものでないなどとして,国家公務員には当たらないとし,また,修習期間中,国庫から一定額の給与を受けるほか,諸手当や旅費が支給され,さらに,一定の身分上の規律に服し,兼業を禁止され,守秘義務を負うが,これらは司法修習生をして修習に専念させるための配慮ないしは修習が秘密事項に関することがあるための配慮に過ぎず,司法修習生の勤務形態が国の事務に従事する職員に類似し,又はこれに準ずる形式ないし実態があるからではないとした上で,これらの取扱いを根拠として司法修習生を退職手当法の適用を受け得る職員に準ずる者と解することはできないとしております。
3 このようなことから明らかなように,この判決は,給費制がとられている時代の司法修習生について,給費を受けていることが国家公務員に準じる者に当たると解する根拠にならないとの判断を示したものであって,その理由の中で給費は職務の対価ではなく,修習に専念させるための配慮に過ぎないと述べているものです。
この事件では給費制の当否が争点となっているのではないことから,この程度の判断にとどまるのは当然のことですが,司法修習生をして,修習に専念させるための配慮として,給費制が必須のものという判断を示したものでないことは明らかでありまして,給費制が政策的に望ましいかどうかについて言及するものでないことも明らかです。
司法修習制度と給費制が不可分一体のものという日弁連の主張の裏付けとして,この判決を援用するのはいかがなものかと思います。
4 なお,日弁連のペーパーには,修習生の給費と「公務員に準じた身分」とが不可分一体のものであることの根拠として,日弁連提出資料の2番の旧版の司法修習生便覧に,「司法修習生は公務員ではないが,給与,規律,その他の身分関係については公務員に準じた取扱いを受ける」との記載があることを指摘しております。
しかし,このような記載は給費制のもとで司法修習生に対して給与等が公務員に準じて支給されている実情があることから,それらを含めた司法修習生の身分関係に関する規律を簡潔に説明するものとして,公務員に準じた「取扱い」を受ける旨の表現を用いたものに過ぎず,様々な法律関係において司法修習生を準公務員として取り扱うべきという内容のものではありませんし,またこの司法修習生の身分と給費が不可分一体ということを述べているものでないことは,記載自体からも明らかだと思われます。
5 次に,日弁連がどのような趣旨で裁判所法逐条解説の記載を注記されているのか,ちょっと真意をはかりかねるところはございますが,その記載というのは,貸与制が導入される前の旧裁判所法67条2項に,「司法修習生は,その修習期間中,国庫から一定額の給与を受ける」との規定の解説の一部分でありまして,司法修習生について給費制の当否を論じ,給費制をとるべきであるという結論を述べるものでは全くなく,給費制がとられている場合には,その給与は弁護士会などからではなく,当然,「国庫から」受けるべきであることを述べているのに過ぎません。
弁護士会での実務修習もあり,疑義を避けるために,法文上,特に「国庫から」給与を受けることを明らかにしたものであることを解説したものであり,このことは日弁連御自身が提出された資料6の5の逐条解説の「22/49」と表記されております。
6 397ページの末行部分のその該当部分及びその前後を併せ読めば明らかだと思います。
特に,該当部分の前の部分では,先ほどの判例と同様に,給費は職務の対価ではないことを明言しております。
したがいまして,司法修習制度と給費制が一体不可分のものという日弁連の主張を裏付けるものではないように思っております。
第2 平成16年の裁判所法改正で修習専念義務を明文化した理由
1 裁判所法67条2項は,従前は給費制を定めた条文でしたが,貸与制が導入されてからは,修習専念義務を定めた条文となっています。
2 この点に関する法務省の説明は以下のとおりです(平成16年9月13日付の法務省の参考資料参照)。
修習資金は,後記のとおり,司法修習生がその修習期間中に修習に専念することができるようにするための経済的支援を行い,修習の実効性を確保するため,すなわち,司法修習生が修習に専念する義務(以下「修習専念義務」という。)を担保するために貸与するものであるところ,このような貸与性の趣旨を法律上明確にするためには,制度の目的・前提となる修習専念義務を法律上規定し,法制的にこれを明確に位置付ける必要がある。そこで,第67条第2項中,削除すべき「国庫から一定額の支給を受ける」を「最高裁判所の定めるところにより,その修習に専念しなければならない」に改めることとしたものである。
現行の給費制においては,「給与を受ける」と規定することにより,修習期間中の生活を経済的に保障して司法修習生が修習に専念することができるようにする趣旨であることが法律上も明確に定められているということができ,その上更に修習専念義務を法律上規定する必要はないものと考えられるが,貸与制においては,「修習資金を貸与する」と規定するだけでは貸与の趣旨が法律上明確であるとはいえず,これを明確にするためには,法律上,制度の目的・前提となる修習専念義務を規定し,法制的にこれを明確に位置付けた上で,修習資金が,司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金であることを規定する必要があると考えられる。
そして,貸与制においても,司法修習の意義・重要性や修習専念義務の内容は変わるものではなく,修習専念義務についての上記の規定は,現在と同じ内容の修習専念義務(抽象的な行為規範としての修習専念義務)を,上記のような法制的な理由から法律上規定するものであり,その具体的な内容(具体的な修習への専念の在り方)については現在と同様に最高裁判所規則で定めるべきものと考えられる(現在は,第67条の第3項の包括委任を根拠として定められている現行規則が,新第2項の個別委任を根拠とすることになるものであり,現行規則の形式等に何ら変更を要するものではない。)。
第3 関連記事その他
1 裁判所HPの「司法修習生」に「司法修習生は,国家公務員ではありませんが,これに準じた身分にあるものとして取り扱われ,兼業・兼職が禁止され,修習に専念する義務(修習専念義務)や守秘義務などを負うこととされています。」と書いてあります。
2 37期の小川秀樹法務省民事局長は,平成25年10月30日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
まず、お尋ねのありました、修習生の法的な立場について御説明いたします。
司法修習生は、先ほどからもお話がありますように、公務員ではございませんで、裁判所法上、法曹に必要な能力を身につけるための修習を行うべき者と位置づけられております。このような司法修習生の法的地位は、平成十六年の裁判所法改正により給費制から貸与制に移行しても何ら変更されていないものと承知しております。
なお、司法修習生は公務員ではございませんが、従前は給与の支給が公務員に準じて行われていたことから、その意味で、公務員に準じた面があったものと承知しております。
次に、労働基準法との関係でございますが、司法修習生は、公務員に準ずる、準じないとは別に、いずれにせよ事業または事務所に使用される者ではなく、労働基準法上の労働者の性質は有しないということでございますので、労働基準法の適用はないとされてきたものと承知しております。
3 金融庁HPの「「貸金業の規制等に関する法律施行令の一部を改正する政令の一部を改正する政令(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について」(平成24年3月23日付)のリンク先のPDF4頁(12番のやり取り)には以下の記載があります。
(コメントの概要)
改正政令案の(改正後の平成十九年政令第三百二十九号)附則第二十条第二項第二号イの「学生、生徒、児童又は幼児」の「学生」には、学校教育法上の学校の「学生」のみならず、航空大学校や海技大学校のような特別の法律(独立行政法人航空大学校法、独立行政法人海技大学校法等)に基づいて設立された法人において、人材養成のための教育訓練を受けている者も含まれると解して良いか。
(金融庁の考え方)
ご意見のとおりと考えます。
4 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の給費制と修習給付金制度との比較等
・ 司法修習生の罷免
・ 71期以降の司法修習生に対する戒告及び修習の停止
・ 71期以降の司法修習生に対して,戒告及び修習の停止を追加した理由
・ 司法修習生の逮捕及び実名報道
・ 司法修習等の日程(70期以降の分)
以下の事項を理由に司法修習生が戒告処分を受けた事例に関する文書の存否は不開示情報です。
・ 交通事故
・ セクシュアル・ハラスメント
・ 無許可の兼職・兼業
・ 入寮許可願への虚偽の記載 pic.twitter.com/bgEVfy61Ef— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) May 15, 2022