第1 戒告・修習停止を追加した理由と適用対象
司法修習生に戒告及び修習の停止が追加された理由は,罷免するほどではない非行に対しても,行為の内容に応じた法的措置を採れるようにするためである。
衆議院法務委員会の平成29年3月21日会議録では,政府参考人が,従来は罷免以外の懲戒的措置がなく,司法研修所長らによる注意・指導にとどまっていたため,実効的かつ柔軟な規律確保の方策として両処分を設けると説明している。
同じ答弁は,修習給付金制度の創設に伴い,司法修習を一層確実に履践させる必要があることも理由に挙げている。
したがって,この改正は,修習給付金という経済的支援の新設と,修習上の規律を確保する処分制度の整備を併せて行ったものである。
裁判所法の一部を改正する法律(平成29年法律第23号)は,平成29年4月26日に公布され,同年11月1日に施行された。
附則4項は,改正後の裁判所法68条を施行後に採用された司法修習生に適用し,施行前に採用された者の罷免等については従前の例によると定めている。
第71期以降を対象とする制度改正であり,法務省の平成28年12月19日発表も,新たな給付制度の対象を第71期以降と説明していた。
本記事は,令和8年8月30日を基準日として,この改正の理由と検討資料の読み方を扱う。
処分の具体的な手続や運用と,制度を新設した際の説明とは区別する。
第2 分限的措置と懲戒的措置を法律上書き分けた理由
改正前の裁判所法68条は,司法修習生の罷免について一つの項で規定していた。
平成29年改正では,修習継続が困難であることを理由とする罷免と,非行を理由とする罷免等を別の項に分け,後者に修習停止及び戒告を加えた。
現行の裁判所法68条の構造は,次のとおりである。
法律が掲げる事情に加えて,最高裁判所が定める事由及び取扱いによることが条文上の前提となっている。
| 区分 | 法律が掲げる事由の性質 | 法律上の措置 |
|---|---|---|
| 68条1項 | 成績不良,心身の故障その他の修習継続が困難である事由 | 罷免 |
| 68条2項 | 品位を辱める行状その他の司法修習生たるに適しない非行に当たる事由 | 罷免,修習の停止又は戒告 |
この区別により,修習を継続できるかという問題と,非行にどう対応するかという問題が,法律上も分けて示されることになった。
罷免は両方の項にあるため,罷免されたという事実だけで,非行を理由とする処分だったとはいえない。
なお,「分限」という用語が,どの法律でも懲戒を除く意味で用いられているわけではない。
裁判官分限法3条1項は,同法1条1項の裁判と2条の懲戒に関する事件を合わせて分限事件と呼んでいる。
この用語上の違いは,源法律研修所の「『分限』から見た法令用語辞典の注意点」でも取り上げられている。
第3 修習停止と修習専念義務の関係
修習停止は,司法修習生の身分を失わせず,一定期間修習をさせない処分である。
一方,裁判所法67条2項は,最高裁判所の定めるところにより修習に専念する義務を定めている。
本ブログ掲載の「司法修習生に対する分限・懲戒的措置について」のPDF1頁~2頁は,罷免を退学,修習停止を停学に対応させ,戒告を責任の確認と将来への戒めを目的とする処分として説明している。
同資料のPDF2頁は,短期間の停止であれば修習への影響は限定的であり,反省・自戒を通じてその後の修習への専念や周囲への教育的効果が期待できると説明する。
これは修習を中断させる処分と修習専念義務との関係についての制度設計上の説明であって,個々の処分で実際に教育的効果が生じたことを示す実証資料ではない。
停止期間については,司法研修所『司法修習ハンドブック(令和7年1月)』41頁(PDF46頁)に収録された司法修習生に関する規則18条が,1日以上20日以下と定めている。
同条は,停止中も身分を保有する一方,修習をすること及びその期間の修習給付金を受けることはできないとする。
第33回司法修習委員会議事録6頁~7頁では,事務局側が,停止期間は暦日で計算すること,修習単位の欠席が一定の範囲を超えると修習を終了できず,実質的に罷免と同じ結果になり得ることを説明している。
20日以下という上限には,このような結果を避ける制度設計上の考慮もあった。
前記「司法修習生に対する分限・懲戒的措置について」のPDF2頁は,教育訓練に専念する立場にある防衛大学校等の学生にも停学制度があることを比較材料として挙げている。
ただし,これは同資料が示す立法上の比較であり,司法修習生に自衛隊の懲戒制度が適用されるという意味ではない。
第4 原資料と成立した法律を区別して読む
1 資料の構成と位置付け
「司法修習生に対する分限・懲戒的措置について」は,全4頁の資料である。
PDF1頁~2頁に導入理由,2頁~3頁に他の資格・身分との比較,3頁~4頁に当時の参考条文が掲載されている。
資料内の「現行裁判所法」や,停止期間を今後定めるという記述は,改正を検討していた時点の説明である。
資料自体には作成日及び作成部局の記載が見当たらないため,現在の条文や確定した制度内容を確認する際には,成立法,国会会議録及び最高裁判所規則と照合して読む必要がある。
2 「修習手当の償還」という記述
同資料のPDF1頁には,修習手当を創設し,懲戒的措置によって罷免された場合に限って償還を義務付ける制度を予定している旨が記載されている。
この記述も,分限的措置と懲戒的措置を法律上書き分ける理由の一つに挙げられている。
しかし,成立した平成29年法律第23号が新設したのは修習給付金制度であり,同法には,懲戒的罷免を理由として修習給付金の償還を義務付けるという前記記述に対応する条項は置かれていない。
そのため,この資料の記述を,成立法が定めた償還義務として紹介することはできない。
また,裁判所法67条の2の修習給付金と,同法67条の3の修習専念資金の貸与・返還は別の制度である。
修習停止中に給付金を受けられないことも,既に受給した金銭を返すという原資料の記述とは異なる。
第5 自主的な活動への影響をめぐる当時の議論
制度の新設には,規律確保という説明の一方で,処分権限の拡大による影響を懸念する意見もあった。
青年法律家協会弁護士学者合同部会の平成29年4月5日声明は,処分の要件や手続を最高裁判所に委ねることによる恣意的運用と,自主的な学習活動等への萎縮効果を懸念し,戒告等の新設に反対している。
これに対し,衆議院法務委員会の平成29年3月22日会議録では,法務副大臣が,従来の注意・指導の対象となっていた行為について規律を明確化するものであり,司法修習生の活動を制約する趣旨ではないと答弁している。
これは声明より前の国会答弁であり,同声明に対する個別の回答ではない。
両資料から確認できるのは当時の制度評価と政府の説明であって,その後の運用で萎縮効果があったかどうかまでを確定するものではない。
第6 関連記事
①71期以降の司法修習生に対する戒告及び修習の停止―処分の種類,手続,停止の効果及び公開資料で分かる実績の範囲。
②司法修習生の罷免―罷免事由,手続,再採用及び給付・貸与への影響。
③司法修習生の罷免事由別の人数―過去の期別集計と資料の収録範囲。
第7 出典
1 法律・最高裁判所規則
①e-Gov法令検索「裁判所法」67条2項,67条の2,67条の3及び68条。
②「裁判所法の一部を改正する法律」(平成29年法律第23号)本則及び附則1項~4項(衆議院掲載)。
③e-Gov法令検索「裁判官分限法」1条~3条。
④最高裁判所「司法修習生に関する規則」18条(司法研修所『司法修習ハンドブック(令和7年1月)』41頁,PDF46頁所収)。
2 国会会議録・制度検討資料
①第193回国会衆議院法務委員会第4号(平成29年3月21日)―戒告・修習停止の趣旨についての政府参考人答弁。
②同委員会第5号(平成29年3月22日)―自主的な活動への影響についての法務副大臣答弁。
③最高裁判所「司法修習委員会(第33回)議事録」(平成29年7月12日開催)6頁~7頁(PDF6頁~7頁)。
④法務省「司法修習生に対する経済的支援について」(平成28年12月19日報道発表)。
⑤「司法修習生に対する分限・懲戒的措置について」(本ブログ掲載,資料内に作成日・作成部局の記載なし)―本文PDF1頁~2頁,比較・参考条文を含む全体はPDF1頁~4頁(資料上の頁番号なし)。
3 団体の声明・民間の解説
①青年法律家協会弁護士学者合同部会「修習生に対する戒告処分等を新設する裁判所法改正案に反対する声明」(平成29年4月5日)。
②源法律研修所「『分限』から見た法令用語辞典の注意点」「4 法令用語としての『分限』」(令和3年11月掲載)。