生年月日 S43.7.31
出身大学 東大
定年退官発令予定日 R15.7.31
R5.2.28 ~ 福岡地裁1刑部総括
R4.4.1 ~ R5.2.27 福岡高裁1刑判事
H31.4.1 ~ R4.3.31 佐賀地裁刑事部部総括
H30.4.1 ~ H31.3.31 福岡高裁3刑判事
H27.4.1 ~ H30.3.31 大分地裁刑事部部総括
H24.4.1 ~ H27.3.31 東京地裁1刑判事
H21.4.1 ~ H24.3.31 福岡高裁2刑判事
H19.4.10 ~ H21.3.31 大阪高裁4刑判事
H18.4.1 ~ H19.4.9 大阪地裁判事補
H14.4.1 ~ H18.3.31 熊本地家裁玉名支部判事補
H11.4.1 ~ H14.3.31 岐阜地家裁判事補
H9.4.10 ~ H11.3.31 浦和地裁判事補
*0 以下の記事も参照してください。
・ 部の事務を総括する裁判官の名簿(昭和37年度以降)
・ 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部
*1 平成19年4月17日発生の長崎市長射殺事件に関する長崎地裁平成20年5月26日判決(39期の松尾嘉倫,49期の安永武央及び56期の内藤寿彦)(判例秘書に掲載)は死刑を言い渡したものの,福岡高裁平成21年9月29日判決(26期の松尾昭一,49期の今泉裕登及び51期の杉原崇夫)は原判決を破棄して無期懲役を言い渡し,最高裁平成24年1月16日決定で支持されました。
*2の1 福岡高裁平成21年9月29日判決は,死刑の原判決を破棄した理由として以下の判示をしています(改行及びナンバリングを追加しています。)。
① 本件犯行は,前記のとおり,暴力団幹部が公共の場所でけん銃を発砲して人を殺傷したという暴力団犯罪の典型であり,行政対象暴力としても,選挙妨害としても最悪なものであること,その動機が暴力団特有の論理・思考に基づく理不尽で反社会的なものであること,犯行態様,特に公共の場所で銃器を使って射殺するという殺害手段の悪質・残忍さ,一命を奪ったという結果の重大性,遺族や社会に及ぼした影響の重大性,被告人の犯罪性向等を併せ考慮すれば,被告人の罪責は誠に重大であって,被告人を死刑に処した原判決も理解できないものではない。
② しかし,更に検討すると,死刑は,人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における窮極の刑罰であって,その適用は慎重の上にも慎重に行われなければならないことはいうまでもない。
そして,本件においては,殺害された被害者が1名にとどまっていることを十分考慮する必要があり,所論もこの点を指摘しているところである。もちろん,被害者が1名であることが直ちに死刑の選択を妨げる事情になるわけではないが,この点は全体の犯情評価との関係で重視される事情であることは否定できない。
そこで,本件の犯情についてみると,上記のとおり,本件犯行の動機となった長崎市への不当要求に対し,長崎市も毅然として不当要求を断ったもので,その過程で,被告人が長崎市関係者に暴力を振るうなど,実力行使をしたような状況はないし,被告人が何らかの不当な利得をしたようなこともない。
また,本件犯行は,被告人が所属する暴力団組織を背景として,その組織の意向に沿って犯行に及んだというものでもない。本件犯行は,組織内では孤立していた被告人が,経済的に困窮し,自己の病気等により自暴自棄になる中,長崎市への不当要求等が思いどおりにならなかったことで,思い詰めてこれがいわば暴発したという側面も否定できず,経済的利益等何らかの利益を得るため,冷酷で用意周到な殺人計画を練り,これに基づいて実行したという事案とまではいえない。被告人も,捜査段階で,「私としてはできる限りの手を尽くしたが,行き詰まってしまい,だんだんと思い詰めるようになって,視野も狭くなり,しまいには自分の人生はもう終わってもいいと考えるようになった。そして市役所に対する怒りがそのトップであるQ市長に対して向かうようになった」旨供述しているところである。
もちろん,本件犯行に至るまでの本件融資や本件車両事故に関して長崎市に行った不当要求等は,不当な利益を得る目的でなされたものであるが,本件犯行の動機,目的自体には利欲目的は皆無であり,その意味で身代金目的や強盗目的等のような利欲的側面は認められない。また,自分のいうことを聞かない者を排除して,今後の暴力団活動に役立てようとの意図も認められない。さらに,市長候補者である被害者殺害により,直接的な選挙妨害を引き起こしたことは,民主主義に対する挑戦との評価は当然とはいえ,被告人が被害者を殺害した主要な動機が被害者に対する恨みであり,被害者が市長選挙に立候補したことを契機として本件犯行に及んだというものであって,選挙妨害そのものを目的として被害者殺害に及んだということではない。
以上のような事情は,本件犯行の量刑評価に当たっては軽視できない犯情というべきであり,これらの点を含め,前記のとおりの犯情にその他の情状として説示した事情を総合考慮すると,当裁判所としては,被告人に対し,死刑を選択することについてはなお躊躇せざるを得ない。そうすると,被告人を死刑に処した原判決は重過ぎるというべきである。
③ 量刑不当をいう論旨は理由がある。
*2の2 最高裁平成24年1月16日決定は,以下のとおり判示して福岡高裁平成21年9月29日判決に対する検察官及び弁護人の上告を棄却しました(改行を追加しています。)。
原判決は,これらの事情等に照らし,被告人の刑事責任は誠に重大であるとしつつも,本件においては殺害された者は1名であることを考慮する必要があるとした上で,本件犯行は,組織内で孤立していた被告人が,経済的に困窮し,自己の病気等により自暴自棄になる中,長崎市への不当要求等が思いどおりにならなかったことで思い詰めて,これがいわば暴発したという側面もあり,経済的利益等何らかの利益を得るために実行した事案とはいえず,本件犯行の動機,目的自体には利欲目的はなかったとし,さらに,何らかの政治的信条に基づき,その主義主張を実現する手段として,本件犯行に及んだものではなく,本件の主要な動機は被害者に対する恨みであり,選挙妨害そのものを目的としたものではないことなどを指摘する。
そして,以上の事情は,本件犯行の量刑評価に当たって軽視できない犯情であり,これらの事情も総合考慮すると,被告人に対し,死刑を選択することについてはなおちゅうちょせざるを得ないと判示している。
原判決のこのような判断は首肯し得ないではなく,第1審判決を破棄し,被告人を無期懲役に処した原判決が,刑の量定において甚だしく不当であるということはできない。
*3 福岡地裁令和5年10月27日判決(裁判長は49期の今泉裕登)は,交差点を右折しようとした車が対向車線を赤信号で直進してきたバイクと衝突した事故で車のドライバーが罪に問われるかが争われた裁判において無罪を言い渡しました(NHKの「赤信号直進のバイクと衝突 車のドライバーに無罪判決 福岡地裁」参照)。
*4 福岡地裁令和6年7月19日判決(裁判長は49期の今泉裕登)は,登校中の小学生に性的暴行をしたなどとして、不同意性交罪などに問われた福岡県宗像市の無職の被告人に対し,「女児の人格を踏みにじる卑劣で悪質な犯行」として,懲役6年6月(求刑は懲役7年6月)を言い渡しました(読売新聞オンラインの「登校中の小学生女児に性的暴行、20歳の男に懲役6年6月判決…福岡地裁「人格踏みにじる卑劣な犯行」 」参照)。