目次
1 総論
2 尋問における留意事項
3 反対尋問をする側の一般的注意点
4 関連記事その他
1 総論
証人尋問又は当事者尋問の際,陳述書の言葉を暗記してそのとおりに話さなければならないといったことは全くないのであって,自分の言葉で記憶のとおりに供述すればいいです。
ただし,陳述書と異なる事実関係を供述した場合,反対尋問での攻撃材料となりますから,尋問の直前に陳述書を読み直すことで記憶喚起しておいた方がいいです。
2 尋問における留意事項
以下の事項に留意して供述した方がいいです。
(1) 主尋問と反対尋問とで共通の留意事項
① 質問事項に対してはっきり答えること
→ 証人尋問では,一問一答式の質疑によって回答する必要があります(民事訴訟規則115条1項参照)から,質問事項に対してはっきりと答えて下さい。
ただし,記憶が曖昧であるときは,そのとおり曖昧であることを率直に述べて下さい。
② 質問事項以外に回答する必要はないこと。
→ 不用意に長い回答をすると,予期しない反対尋問を誘発する危険があります。
特に,理由や根拠に関する証言は,質問されない限り答える必要はないのであって,必要があれば,重ねて質問します。
③ 趣旨が不明の質問や聞き逃した質問には,改めて質問をしてもらうようにすること。
→ 尋問者の質問の趣旨がよく理解できなかった場合,理解が不十分なままに回答するのではなく,尋問者に対して質問の趣旨を尋ねたり,もう一度質問をしてもらったりするよう要求して下さい。
④ 裁判長の求めがある場合,図面を書かせられたり,図面に記入したりする場合があること(民事訴訟規則119条)。
→ 不動産事件では不動産の占有状況や現況を説明させたりする場合に図を用いたり,交通事故の事件で車両の動きを矢印で図示したりする場合があります。
(2) 反対尋問での留意事項
① 相手の弁護士の質問には全部について答える必要はないこと。
→ 尋ねられたことでも,覚えていないこと,知らないことはその旨を率直に回答すればよいのであって,質問された以上,必ず何かを回答しなければならないという気持ちは持たないで下さい。
また,日時など細かいことを思い出せない場合,「細かいことは思い出せませんが,大体,〇〇だったと思います。」という風に答えればいいですし,資料を見なければ分からない場合,「資料を見なければ,分かりません。」という風に答えればいいです。
② 想像で答えないこと。
→ 何か答えなければ格好が付かないとか,依頼者に対して少しでも多くを語って協力したいとの心境で,想像を交えて答える人もいますが,止めて下さい。
③ 相手の弁護士の挑発に乗らないこと。
→ あえて証人を怒らせるのも法廷における反対尋問の作戦の一つですものの,相手の弁護士の挑発に乗ると,冷静を失い,事実が述べ足らなかったり,余計な発言をしたり,事実に相違することを述べたりする危険が高まります。
また,同じ事柄を聞き方を変えて何回も質問された場合,何回でも同じ答えを繰り返せばいいです。
④ 文書を示して質問された場合,すぐに回答する必要はないこと。
→ 文書をじっくり読んで理解したうえで,質問に対する回答をしてください。
⑤ 証人と当事者との利害関係を尋ねられる場合があること。
→ 訴訟代理人と事前に打ち合わせたとか,本人とどんな経済的関係にあるかといった点が,相手の弁護士や裁判官から尋ねられることがありますものの,率直に答えてもらえれば結構です。
このことは,民事訴訟規則85条が「当事者は,主張及び立証を尽くすため,あらかじめ,証人その他の証拠について事実関係を詳細に調査しなければならない。」と規定していることからも確認できます。
⑥ 主尋問と反対尋問とで態度に区別を設けないこと。
→ 真摯かつ誠実に対応できた方が裁判所の印象はよいものです。
裁判の証人になってくれる会社従業員のためのパンフレットを作ってみました。こんな感じでどうでしょう。 pic.twitter.com/dUvOeAe1XO
— 高橋喜一 エンジニアから弁護士になった男 (@kiichiben_omote) May 17, 2021
3 反対尋問をする側の一般的注意点
やっぱり世界は**しい!ブログの「反対尋問のテクニック」によれば,反対尋問をする側の一般的注意点として以下のことが記載されていますから,これらの点にも留意して反対尋問に対応してもらう方がいいです。
① テンポは速くする。
・ 証人を動揺させ、考える時間もなくすことで、矛盾する証言を引き出しやすくなる。
② 質問のスタイルは証人によって変える
・ 例えば、証人に対し友好的な態度を示し油断させるスタイルと、威圧的に質問するスタイルは、相手によって使い分けるべきである。
③ 答えが「イエス・ノー」でできる質問にする
④ 証言の根拠・理由は原則として聞かない
⑤ 出たとこ勝負にしない
⑥ 予定時間通り行う
⑦ 総花的に行わない
・ 証言すべてが虚偽ということは無いので、そもそも総花的反対尋問の意味はない。おかしいと思うところを集中的に攻撃することで、証言全体を弾劾できるので、反対尋問は一点豪華主義が効果的である。
⑧ 異議を出されないようにする。
・ 証人に休憩する暇を与えないため。
⑨ 深入りしない
⑩ 失敗した場合は早めに切り上げ、次の質問に移る
・ 証言の信用性を強めたり、不利な証言が出そうな場合には、方向転換をしなければならない。その場合、失敗を悟られないため、「今の質問は質問の趣旨がわかりにくかったと思うので、次の質問に移ります」とか、「表現が適切でなかったので撤回します」といった決まり文句をストックしておくとよい。
反対尋問は、①客観証拠との矛盾を示すこと、②供述の変遷を浮かび上がらせること、③供述の不自然・不合理を際立たせることに目的がある。
有利な供述の鹵獲なんか狙う必要はない。この三つの視点だけでいい。
民事の場合、①、②は書証をぶつけて行くことで達成できる。刑事ほど難しくはない。— 弁護士A (@NOlHT1yemE0873v) October 31, 2022
尋問が嫌いな街弁はあんまりいないと思うけど、反対尋問の際に意味もなく相手を劇詰してしまう姿を見たりする。反対尋問であっても示すべきは敵性証人に対する敵対ではなくて受容と共感だと思うんですよね。それを示すからこそペラペラ喋ってくれるようになるのです。北風と太陽みたいなもん。
— 教皇ノースライム (@noooooooorth) November 2, 2022
4 関係記事その他
(1) 訴訟の心得94頁には以下の記載があります。
証人の態度が,おろおろしているとか,冷や汗をかいているとか,目を逸らしてばかりいるとか,慌てて言葉をかんでしまっているとか,そういうことは,殆ど関係ない。推理小説や法廷小説ではないのだ。証人というのは,一生に一度裁判所に行くことがあるかどうかという人ばかりであり,荘厳そうな法廷で,偉そうな裁判官がニコリともせずにひな壇から睨みつけていれば,緊張するに決まっている。態度が堂々としていたかどうかで証人の信用性など測れない。そんなことなら,ヤクザや詐欺師のほうが実に堂々としている。そもそもそのような事情で証人の信用性を判断しても,控訴審の裁判官には理解されない。
(2) 以下の記事も参照して下さい。
・ 証人尋問及び当事者尋問
・ 陳述書作成の注意点
・ 陳述書の機能及び裁判官の心証形成
・ 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言
・ 陳述書の作成が違法となる場合に関する裁判例