最高裁判所裁判官の任命に関する各種説明

1 内閣答弁書の説明
内閣は,平成21年5月22日付の「衆議院議員鈴木宗男君提出最高裁判所裁判官の指名等に関する質問に対する答弁書」において以下の答弁をしています(読みやすいようにナンバリングを変えています。)。
① 最高裁判所の裁判官の任命資格については、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第四十一条第一項において、「識見の高い、法律の素養のある年齢四十年以上の者」と規定されており、これを踏まえ、最高裁判所の裁判官にふさわしい人物を指名し又は任命している。
② 「司法試験」については、司法試験法(昭和二十四年法律第百四十号)第一条第一項において、「裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験とする」と規定されている。
  「法曹資格」については、一般的には、裁判官、検察官及び弁護士となる資格という意味で用いられているものと承知している。
③ 過去十年間に最高裁判所の裁判官に任命された者で、司法試験に合格していないもの又は司法試験に合格していても司法修習を終了していないものは六人であり、これらの者の主な前職は、京都大学教授、特命全権大使(アイルランド国駐箚)、内閣法制局長官、東北大学教授、労働省女性局長及び外務事務次官である。
④ 「天下り」とは、一般的には、各府省で退職後の幹部職員を企業、団体等に再就職させることをいうものと考えている。
⑤ 最高裁判所の裁判官の指名又は任命に当たっては、裁判所法第四十一条第一項に規定する任命資格を満たし、最高裁判所の裁判官にふさわしい人物を選考しており、「「最高裁裁判官」の身分が行政官の天下り先となっているとも受け止められる」ことはないものと考える。
⑥ 過去十年間に高等裁判所又は地方裁判所の裁判官に任命された者で、司法試験に合格していないもの又は司法試験に合格していても司法修習を終了していないものはいない。

2 内閣官房の説明

内閣官房は,我が国の国政上の重要事項や内閣の重要政策に関する企画,立案及び総合調整,情報の収集及び分析,危機管理等をつかさどる機関であります(最高裁平成30年1月19日判決)ところ,平成14年7月5日の司法制度改革推進本部顧問会議(第5回)の資料4「最高裁裁判官の任命について」には以下の記載があります。

◎最高裁裁判官の任命について
○ 最高裁裁判官の任命は、最高裁長官の意見を聞いたうえで、内閣として閣議決定する。
○ 最高裁長官に意見を聞くのは、最高裁の運営の実情を踏まえたものとなるよう人事の万全を期すため慣例として行っている。
○ 最高裁長官の意見は、一般的には、出身分野、候補者複数名と最適任候補者に関するものである。
○ 候補者については、(ア)主として裁判官、弁護士、検察官の場合は、最高裁長官から複数候補者について提示を受け、(イ)行政、外交を含む学識経験者については、原則内閣官房で候補者を選考し、いずれの場合も内閣総理大臣の判断を仰いだうえで閣議決定する。
○ その際、最高裁裁判官は国民審査をうける重い地位であることに鑑み、極力客観的かつ公正な見地から人選している。

○ 現在の最高裁裁判官の出身分野は、最高裁の使命、扱っている事件の内容などを総合的に勘案した結果のもの。
※ 現在の最高裁裁判官の15 人の出身分野
裁判官6(民事5、刑事1)、弁護士4、学識者5(大学教授1、検察官2、行政官1、外交官1
※最高裁裁判官の法律上の任命資格〔裁判所法 41 条〕
・ 識見の高い、法律の素養のある40 歳以上の者。15 人のうち少なくとも10 人は、
① 高裁長官又は判事を10 年以上
② 高裁長官、判事、簡裁判事、検察官、弁護士、法律学の教授等で、通算20 年以上
※ 最高裁の使命→憲法判断、法令解釈の統一
※ 平成12 年度;新規受理件数 約6,400 件(うち民事事件 約4,500 件。刑事事件 約1,900 件。)、大法廷事件(憲法判断・判例変更)8 件。
○ 以上について、内定後官房長官記者会見で、可能な範囲で選考過程、選考理由を明らかにする。
   なお、候補者を含め具体的な人選の過程は公表しない。

3 最高裁判所人事局長経験者の説明
「一歩前へ出る司法」(著者は泉徳治 元最高裁判所人事局長・元最高裁判所判事)157頁ないし159頁に以下の記載がありますから,引用します。

渡辺 最高裁判事を経験された先生方の回想録などを読みますと,最高裁判事への就任の打診はいろいろな形で行われるようですが,先生の場合はどのように打診されたのですか。

泉 最高裁判事は内閣が任命します。内閣は,最高裁判事の任命にあたっては,最高裁長官の意見を聴くという慣行があります。首相が最高裁長官に直に会って意見を聴きます。ただし,任命権はあくまでも内閣にありますから,最高裁長官としても複数の候補者を挙げて,優先順位を付けて意見を述べるということをしております。そして,歴代内閣は,最高裁長官の意見を尊重してきたと思います。内閣の任命権と司法の独立を調和させるという考えから,こういう慣行ができてきたのだと思います。新聞の「首相の動静」欄に,首相が最高裁長官に会ったということが書かれていれば,だいたいがこの意見具申です。そこで,首相からこの候補者を任命しようという意向が示されると,最高裁長官が候補者に内定を伝えるという運びになります。人事局長が長官に代わって内定を伝えることもあります。私の場合,山口繁長官が官邸から戻られてから私に電話で内定を伝えてこられました。それまでは,意向打診等の話は何もありませんでした。

山元 先生が電話をしてお願いできませんか,と候補者の方にいわれたこともあったのですね。

泉 人事局長のときに,長官の指示で電話をしたことが何度かありました。長官が官邸から帰ってきてから電話をしておりました。相手が内部の裁判官だと,長官が直々に電話をするということもあります。

山元 受けられた方のリアクションも千差万別だったのでしょうか。

泉 最高裁から内定を伝えるのは裁判官と弁護士です。大体は,ありがたくお受けしますということだったと思います。検察官の場合は,法務省が候補者を最高裁に推薦してきますし,本人への内定の通知も法務省がしております。行政官と学者の場合は,内閣が直接人選しますので,最高裁は関与しません。ただし,行政官と学者の場合も,最高裁長官が首相に会って,内閣の人選に最高裁として異存がないということを伝えます。また,学者については,内閣の意向で,人選の段階から最高裁が意見を述べたり,本人への内示も最高裁が行うということはあります。ケース・バイ・ケースです。
   弁護士の場合は,日弁連が最高裁長官に複数の候補者を推薦してきます。最高裁長官は,その中からある程度人数を絞って内閣に推薦しております。日弁連には最高裁判所裁判官推薦諮問委員会があります。以前は,委員会が自ら候補者を選んでいたようです。そのため,東京の三弁護士会と大阪弁護士会から選ばれる,例外的に神戸,名古屋の弁護士会から選ばれる,これらの弁護士会の幹部の意向が反映させることがあったようです。また,最高裁長官が日弁連の推薦にない弁護士を内閣に推薦するということもあったと,野村二郎「最高裁全裁判官」(三省堂,1986年)などに書かれております。ところが,中坊公平さんが1990年に日弁連会長になってから,広く全国から候補者を募集するというようになりました。現在では,弁護士会および会員が候補者を推薦できる,会員が推薦するときは50人以上の推薦人を要するとなっております。その中から委員会が面接などで日弁連として推薦する候補者とその順位を決めて日弁連会長に答申する。日弁連会長は,委員会の答申に基づいて候補者を最高裁長官に推薦するという手順になっております。

   本人への内定の連絡が終わってから,閣議決定があり,内閣から報道発表されます。内閣の任命ですから,最高裁が報道機関に話すということは一切ありません。

4 最高裁判所事務総局の説明(ナンバリングを追加しています。)
(1) 平成28年度(最情)答申第10号(平成28年4月27日答申)の記載
ア 最高裁判所裁判官のうち,最高裁判所長官は,内閣の指名に基づき天皇が任命し(憲法6条2項),その他の裁判官である最高裁判所判事は,内閣が任命する(憲法79条1項)とされているところ,法律上,内閣において最高裁判所や最高裁判所長官の意見を聴くこととはされておらず,また,最高裁判所において日本弁護士連合会,法務省等に推薦を依頼することともされていない。したがって,本件各開示申出文書の存在が法律上推認されるということはできない。
  しかし,最高裁判所の職員の説明によれば,内閣は,最高裁判所裁判官を任命等するに際し,慣例として最高裁判所長官の意見を聴くこととなっている。また,当委員会庶務に調査させたところ,このような慣行の存在については首相官邸のホームページにおいても公表されていることが確認された。したがって,最高裁判所裁判官の任命等について,最高裁判所長官は,意見を述べることになっており,その際に何らかの書面が作成される可能性は否定できない。 
   もっとも,このことについて,最高裁判所の職員は,内閣に対してどのような意見を述べるか,推薦依頼をするかなどについては,最高裁判所長官がその都度決めることであり,これらをどのような方法によって行うかを含め一切の事柄が,そのときどきの最高裁判所長官の判断に委ねられているから,最高裁判所事務総局としては,その立場上どのような文書を授受するかを定めた文書は作成していない旨を説明する。最高裁判所長官が内閣に対して述べる意見が,最高裁判所裁判官の任命等という高度な人事に関する事柄を対象としていることや,その意見が慣例として述べられているにすぎないことからすると,意見を述べるための準備行為等について,最高裁判所事務総局が組織として何らの定めも設けていないことは,不自然なこととはいえない。 
   また,日本弁護士連合会は,「日本弁護士連合会が推薦する最高裁判所裁判官候補者の選考に関する運用基準」を定め,同会が推薦する最高裁判所裁判官候補者の選考のために最高裁判所裁判官推薦諮問委員会を設置しているが,上記運用基準にも,誰に対して推薦をするのか,推薦に当たってどのような書面を作成するのかなどについての定めはなく,同基準の存在をもって,本件各開示申出文書の存在を推認することもできない。 
   そうすると,他に本件各開示申出文書の存在をうかがわせる事情が見当たらないことからしても,本件各開示申出文書は作成し,又は取得していないとする最高裁判所事務総長の説明は合理的であるといえ,最高裁判所において,本件各開示申出文書は保有していないと認められる。
イ 本件各開示申出対象文書は,①最高裁が日弁連に対し,新任の最高裁判事の推薦を依頼する際,どのような文書を授受することになっているかが分かる文書,及び②最高裁が法務省又は検察庁に対し,新任の最高裁判事の推薦を依頼する際,どのような文書を授受することになっているかが分かる文書です。
(2) 平成29年度(最情)答申第54号(平成29年12月22日答申)の記載
ア 口頭説明の結果によれば,最高裁判所長官は,最高裁判所判事の任命等につき,内閣から意見を求められる慣例があるが,内閣に対する最高裁判所判事の後任候補者の提示等については,どのような方法によって行うかを含む一切の事柄が,そのときどきの最高裁判所長官の判断に委ねられているとのことである。
この説明を踏まえて検討すれば,最高裁判所判事の任命という高度な人事について,その具体的手続の一端が明らかになると,第三者が不当な働き掛けを試みるおそれが生じるなど,今後の人事に対して適切でない影響を与えて,適正な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,本件開示申出文書が存在するか否かは,法5条6号に規定する不開示情報に相当する。
したがって,本件開示申出文書について,その存否を答えるだけで法5条6号に規定する情報に相当する不開示情報を開示することになるとした原判断は,妥当である。

イ 本件開示申出文書は,特定の最高裁判所判事の後任について最高裁判所が内閣に対して提示した候補者の人数及び日本弁護士連合会からの推薦の有無が分かる文書です。
(3) 平成30年度(最情)答申第54号(平成30年12月21日答申)の記載
ア ①   別紙記載1の文書について,最高裁判所事務総長の上記説明によれば,事務総局における決裁は審査公報の原稿を送付することを対象とするものであり,原稿の内容等については判事に一任されているので,当該文書は作成し,又は取得していないとのことである。本件開示申出の内容に照らして検討すれば,このような説明の内容が不合理とはいえない。そのほか,最高裁判所において別紙記載1の文書を保有していることをうかがわせる事情は認められない。
   したがって,最高裁判所において別紙記載1の文書を保有していないと認められる。
② 別紙記載2の文書について,苦情申出人は,対象文書の存否を答えるべきである旨を主張する。しかし,別紙記載2の文書の存否を答える場合には,特定の最高裁判所判事について本件開示申出に係る身上調査資料が存在するか否かが明らかになることからすれば,法5条6号に規定する不開示情報に相当する特定の最高裁判所判事の人事の具体的手続に関する情報を開示することになるので,文書の存否を答えることができないという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。
   したがって,別紙記載2の文書について,存否を答えるだけで法5条6号に規定する情報に相当する不開示情報を開示することになるとした原判断は,妥当である。

イ 別紙記載1の文書は「別件の開示申出に対して開示された特定の文書の記載内容について,間違いないとの確認・検査の上での是認と思料される。何と照合されたか,原資料名とその原本。」であり,別紙記載2の文書は「特定の最高裁判所判事の身上調査資料」です。
また,特定の最高裁判所判事というのは,学校法人加計学園の監事をしていた木澤克之最高裁判所判事のことと思います。

5 法曹制度検討会における,最高裁判所裁判官人事に関する議論
第12回(平成14年11月12日)ないし第14回(平成14年12月10日)の法曹制度検討会における各委員の発言内容をまとめた,「最高裁裁判官の選任過程について透明性・客観性を確保するための適切な措置」について(議事整理メモ)には,以下の記載があります。
○選任された最高裁裁判官についての説明の在り方などについての意見
・ 選任過程の透明化もさることながら、選任された裁判官が、国民の目から見て納得できる人かどうかが重要である。実際に選任された裁判官が、信頼に値すると判断できるような十分な説明をして欲しい。最高裁の裁判官はいわば公人であるから、プライバシーを多少犠牲にするくらいの覚悟があってしかるべきである。(第12回・中川委員)
・ 新たに行われるようになった内閣官房長官の記者会見による説明については、透明化という面で足りるのか、という感じを受ける。また、記者会見の内容がマスコミ報道の中で詳しく述べられているかというと必ずしもそうではない。だれが最高裁の裁判官に任命されることになったかということと、その人の経歴だけが報道されているのが実態であり、国民が、任命に関する透明化された情報を知ることができないという現状が続いているのではないか。(第13回・松尾委員)
・ 内閣として選任過程をどこまで説明できるかということになるが、個人のプライバシーのことも考慮する必要はあるが、最大限の努力をする必要がある。それとともに、国民審査においても、対象となる裁判官についての、これまでよりも一歩も二歩も踏み出した情報提供が可能であり、現状では、そのような側面からの改善が望ましい。(第13回・小貫委員)

6 最高裁判所裁判官人事に関する滝井繁男 元最高裁判所判事のインタビュー記事
坂田宏のペイジ「(インタビュー)最高裁人事という「慣習」」(2014年4月17日05時00分)(発言者は滝井繁男 元最高裁判所判事・元大阪弁護士会会長となっています。)には,以下の発言があります。

① 最高裁の竹崎博允(ひろのぶ)長官が辞任し、後任に寺田逸郎(いつろう)最高裁判事が就任しました。最高裁の意向に沿った、「順当な人事」ということでいいのでしょうか。
   「最高裁長官は、内閣の指名に基づいて天皇が任命すると、憲法に定められています。内閣には、この指名について説明責任があります。しかし、内閣は今回も、なぜこの人を起用したのか、どういうプロセスを経て選んだのかを、全く明らかにしていません。長官以外の最高裁判事は内閣が任命します。長官や判事の人事に、米国ほどではなくても、国会が何らかの形で関わることで透明化を図る必要があります
② 米国の連邦最高裁の判事はどうやって任命されるのですか。
   「大統領が上院の同意を得て任命します。上院の司法委員会では、銃規制や妊娠中絶など、政党間で激しく対立する問題についてどう考えるか、徹底的に質問されます。判事候補に対する聴聞は一大政治イベントになり、メディアでも大きく報道されます。上院の同意が得られなかったなどで、任命されなかった人は過去に27人もいます。大統領と上院が共に選任プロセスに関わる仕組みなのです。政争の場と化するという弊害もありますが、手続きの透明化という観点では優れています」
③ 最高裁の判事や長官の選任を透明化するには、どうすればいいでしょうか。
   「最も簡単なのは、長官や判事が選任された後、なぜその人を選んだのか、国会で首相らに質問して説明を求めることです。国会がつくった法律や政府の行為を無効にできる権限を持ち、国民生活に重要な影響力を持つ最高裁判事らの選任に、国会はもっと関心を持ち、内閣に説明責任を果たすよう迫るべきです。また、カナダで2006年以来行われているように、新任の最高裁判事を議会の委員会に呼んで聴聞するということも検討に値します。その聴聞会は紳士的で、内閣の任命を覆すものではなく、国民に新任判事をお披露目することが主眼のようです」
④    「最高裁判事についての国民の関心の低さは深刻です。三権の長の一人である最高裁長官の名前さえ、一般国民ならまだしも、法科大学院の学生でもほとんど知らない最高裁の判事や長官の任命過程について厳しく追及しない国会やメディアの責任もあるかもしれませんが、国民審査の活性化に向けた議論を始めなければならないと思います

7 以下の記事も参照してください。
① 最高裁判所発足時の裁判官任命諮問委員会,及び最高裁判所裁判官任命諮問委員会設置法案等
② 日弁連推薦以外の弁護士が最高裁判所判事に就任した事例
③ 最高裁判所裁判官国民審査