目次
第1 AI作成の判例評釈
第2 判例評釈を読んだAIベテラン裁判官の感想(AIの感想であって,現実の裁判官の感想ではないです。)
第1 AI作成の判例評釈
・ 以下の記事は,私が訴訟代理人として関与した神戸地裁令和6年10月4日判決(担当裁判官は48期の冨上智子)及び大阪高裁令和7年3月25日判決(担当裁判官は41期の森崎英二,48期の奥野寿則及び54期の山口敦士)に関するGemini2.5Pro作成の判例評釈(代理人弁護士の立場から作成したものです。)に全面的に依拠した記事です(令和7年6月15日現在,上告受理申立て中です。)。
(以下,AI作成の判例評釈です。)
昨今,労働者の権利保護が重視される一方で,企業が負う安全配慮義務,特に公衆の安全に直接関わる業種におけるその責任のあり方が問われています。今回は,タクシー会社の運行管理者の地位を巡る訴訟で,当該従業員の健康状態が業務遂行能力に与える影響が争点となったものの,裁判所がその具体的な内容に関する証拠調べを実質的に行わないまま判断を下した,注目すべき裁判例について解説します。
1 事実の概要
(1) 当事者
本件は,タクシー事業を営むY社(一審被告・控訴人)に,運行管理者として勤務していたと主張するX(一審原告・被控訴人)が,Y社を相手取って提起した訴訟である。Xは,Y社の前身であるA社の代表取締役であったが,事業譲渡を経て,A社及びY社において運行管理業務,給与計算業務等に従事していた 。
(2) 事案の経緯
Xは、Y社の前身であるA社との間で期限の定めのない労働契約が成立し、月額34万5000円の賃金等の条件で稼働していたところ、Y社がこの労働契約を承継したと主張した。これに対しY社は,Xの地位は「顧問」であり労働者ではないと主張した。
A社とY社の事業譲渡契約では,Xは「顧問」として引継ぎや助言を行うことが予定されていたに過ぎず,労働者として雇用することは想定されていなかった。Y社は,A社から事業を譲り受けるにあたり,経営改善のため,事業譲渡前からXに対し,従前の月額34万5000円の処遇ではなく,業務内容を運行管理業務に限定し,報酬をガソリン代込み月額20万円とする新たな条件を繰り返し打診していた。
Y社は,令和4年1月,Xに対し,雇用期間を1年間の有期とし,賃金を月額20万円(通勤手当込み)とするなど,新たな労働条件を記載した「労働条件通知書兼雇用契約書」を提示したが,Xはこれへの署名を拒絶した。その後,Y社は同年2月以降,Xへの支払額を月額20万円に減額し,同年5月27日以降は支払を停止した。さらに、同年9月8日,Y社はXに対し,神戸営業所への出社を禁止する旨を通知した。
また,Xは令和4年4月◯日付で精神障害者保健福祉手帳2級を取得していた。
(3) 原告の請求
Xは,Y社に対し,以下の請求を行った。
・ 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
・ 未払賃金(月額34万5000円基準)及び交通費の支払
・ 賃金減額・不支給等が不法行為にあたるとして,損害賠償金330万円の支払
(4) 争点
本件の主な争点は以下のとおりであった。
・ XとY社との間の労働契約の有無
・ Y社による解雇の有効性
・ Xが60歳定年に到達したことの法的効果
・ Xの労務提供能力の有無
(5) 争点ごとの当事者の主張概要
① 労働契約の成否について
Xの主張: 業務内容や指揮監督の実態から労働契約は成立しており,Y社に承継された 。
Y社の主張: Xの地位は「顧問」であり,指揮監督関係は存在しないため,労働契約は成立していない。
XはA社において,自らが代表取締役であった会社と同様の業務を自己の裁量で行っており,具体的な指揮命令は受けていなかった。報酬も役員報酬に準じたもので労務対償性が低く,兼業も行うなど専属性も欠如していた。X自身,社会保険は自らが経営に関与する別会社で加入を継続し,A社での厚生年金加入を求めておらず,自らを労働者と認識していなかった。
② 解雇及び労務提供能力について
Xの主張: 有効な解雇はなく,仮にあったとしても解雇事由は存在しない。精神障害者手帳を取得した後も業務に支障はなかった。
Y社の主張: 仮に労働契約が成立していたとしても,有効に解雇した。解雇事由として,Xが精神障害者保健福祉手帳2級及び障害基礎年金2級を取得しており,乗客の安全確保に重大な責任を負う運行管理者としての業務遂行能力に重大な疑義があること等を挙げた。Y社は,Xの労務提供能力の有無を確認するため,障害の内容が分かる診断書等の提出を求めたが,Xはこれを拒絶した。
両判決が判断しなかった解雇事由として,(a)息子名義のクレジットカードの不正使用,(b)Y社に無断で行った自己への賞与10万円の支給,(c)労務提供能力があると主張しながら障害基礎年金2級を受給し続けていること等も存在するところ,これらを総合考慮すれば,解雇は社会通念上相当である。
③ 定年制及び契約期間満了について
Xの主張: 60歳到達後もA社及びY社で勤務を継続しており,65歳までの継続雇用が黙示に合意されていた。
Y社の主張: 就業規則には明確な60歳定年制及びその後の1年単位の嘱託契約制度が定められており,Xもこれを認識していた。定年到達によりXの労働契約は有期(嘱託)契約に移行しており,65歳までの無期雇用が保障される合意はない。Y社は新たな嘱託契約の条件を提示したがXが拒否し,その後更新しない意思を明確に示しているため,遅くとも令和4年9月30日の期間満了をもって労働契約は終了した。労働契約法19条の雇止め法理も適用されない。
(6) 下級審(神戸地裁)の判決
神戸地方裁判所(冨上智子裁判官)は,XとY社間の労働契約の成立を認め,Y社による解雇は無効であり,定年に関する主張も採用できないとして,Xの地位確認,未払賃金及び交通費の請求を認容した。不法行為に基づく損害賠償請求は棄却した 。
2 判旨
(1) 神戸地方裁判所令和6年10月4日判決(裁判官 冨上智子)
① 労働契約の有無について
「①原告が被告の神戸営業所で行っていた業務は,運行管理業務,安全衛生管理業務,日報入力,給与計算,従業員の勤怠管理等であるところ……それらの業務は通常,被告の指揮命令に従って,諾否の余地なく遂行される性質の業務であるといえること……,②原告が被告の神戸営業所で運行管理者等の業務に従事し始めた令和3年10月以降,被告から原告に対し,給与として毎月金員が支払われ,その際には雇用保険料等の社会保険料が控除され,所得税の源泉徴収等も行われていたこと……,③被告は,令和4年1月に,原告に対し,「労働条件通知書兼雇用契約書」と題する書面……を提示して調印するよう求めており……従前の雇用条件を「改定」する旨が表示されていること……からすると,原告の被告神戸営業所における業務遂行は,原告と被告との間の労働契約に基づくものと認めるのが相当である。」
② 解雇の有効性について
被告が主張する解雇事由はいずれも認められないと判断した。特に,Xの精神障害については,「被告は,原告が精神障害者保健福祉手帳2級を取得している……ことから,運行管理者の業務を遂行することは不可能又は著しく困難であると主張するが,具体的にどのような支障が生じているのか不明であり,原告が運行管理者として業務に従事していた際に支障が生じていたことをうかがわせる事情も見当たらない。」 として,解雇事由性を否定した。
③ 定年について
「原告は,60歳に達した際に,A社との間で,65歳まで従前と同内容で雇用を継続する契約を黙示に締結し,A社から被告への事業譲渡時に,被告は同契約を承継したものと認めるのが相当である。」として,被告の定年の主張を退けた。
④ 未払賃金について
Y社による出社拒絶はY社の責めに帰すべき事由によるものであり,「原告はその後も被告での就労の意思・能力を失っていないと認められる」 として,Xが65歳に達する令和6年11月28日までの賃金支払を認めた。
(2) 大阪高等裁判所令和7年3月25日判決(裁判長裁判官 森崎英二,裁判官 奥野寿則,裁判官 山口敦士)
① 訴訟手続の法令違反について
Y社(控訴人)が,原審裁判所による尋問事項の制限及び証拠申出の不採用は訴訟手続の法令違反にあたると主張した点について,「裁判所は,当事者が申し出た証拠で必要でないと認めるものは取り調べることを要しないのであるから……原審裁判所のした上記訴訟手続は法令違反には当たらない。」と判断した。
② 労務提供能力について
Y社が,Xは障害基礎年金2級の認定を受けており運行管理者としての労務提供能力を有しないと主張した点について,「確かに,一審原告は,令和4年1月◯日付けで精神障害者保健福祉手帳障害等級2級の認定を受けた(山中注:一審原告が精神障害者保健福祉手帳障害等級2級の認定を受けたのは令和4年4月◯日ですから,この部分は明確な事実誤認です。)と認められるが……その後も,一審被告が禁じるまで神戸営業所への出勤を続け,運行管理者としての業務の補助及びその他の業務に従事したものであり……また,一審被告は出勤を禁じる理由として,一審原告の労務提供能力の欠如を挙げていない……。以上の事情に照らすと,一審原告が労務提供能力を欠くから一審被告は一審原告に対する賃金等の支払義務を負わないなどという一審被告の主張は,前提を欠くものといわざるを得ず,採用することができない。」と判断し,原判決を維持した。
3 評釈
(1) 労働契約の成否に関する判断の問題点
まず本件で最も基本的な争点である労働契約の成否について,両判決の判断は,実態を軽視した形式的な判断に終始している疑義がある。
神戸地裁は,①業務の性質,②給与からの社会保険料控除,③Y社が提示した「労働条件通知書兼雇用契約書」の存在をもって労働契約の成立を認定した 。
しかし,これは労働者性の判断における多様な要素を意図的に無視した判断と言わざるを得ない。Y社は,XがA社の代表取締役時代とほぼ同様の業務を自己の裁量で行っていたこと,Y社からの具体的な指揮命令が存在しなかったこと,報酬が他の従業員に比して高額であり労務対償性が低いこと,X自身が厚生年金加入を求めず,自らを労働者と認識していなかった可能性が高いことなど,労働者性を否定する多数の間接事実を主張・立証していた。
特に,Xが一貫して「顧問」という肩書で活動してきた事実や,XがY社からの度重なる条件交渉に応じていなかった経緯は,両者の関係が対等な当事者間の業務委託に近いものであったことを強く示唆する。
にもかかわらず,裁判所はこれらのY社の主張・証拠をほぼ無視し,Y社が事態を収拾するために提示した「雇用契約書」の文言のみを捉えて労働契約ありと結論付けている。これは,紛争の全体像を見ず,形式的な要素のみで実態を判断する,極めて一面的な事実認定である。
(2) 証拠調べの範囲と事実認定
本件の両判決は,手続面において極めて示唆に富む。特に,Xの労務提供能力という争点に関し,裁判所がどの範囲まで証拠調べを行うべきかという問題が浮かび上がる。
Y社は,Xが精神障害者保健福祉手帳2級及び障害基礎年金2級を取得している事実に基づき,不特定多数の乗客の生命・身体の安全を預かる運行管理者としての適性に重大な疑義があるとして,その客観的検証の必要性を一貫して主張していた。そのための証拠として,Y社は,Xが年金事務所に提出した「病歴・就労状況等申立書」や「診断書(精神の障害用)」等の文書提出命令を申し立てた。これらの文書は,X本人の認識や医師の客観的所見が記載されており,Xの労務提供能力を判断する上で代替性のない中立的・客観的な証拠であったといえる。
しかし,神戸地裁の冨上智子裁判官は,これらの文書の証拠調べの必要性を理由を示すことなく否定した。さらに,X本人への尋問において,Y社代理人がXの服薬状況について質問しようとしたところ,これも理由なく禁止した。大阪高裁(森崎英二裁判長)も,この訴訟指揮を「法令違反には当たらない」と追認し,Y社が改めて申し立てた文書提出命令も採用しなかった。最高裁平成20年11月25日決定は,争点を立証する上で証拠価値が高く,代替性がない中立的・客観的な証拠については,証拠調べの必要性を肯定している。Xが提出を拒んだ上記文書はまさにこれに該当するにもかかわらず,両裁判所がその取調べを行わなかったことは,最高裁決定の趣旨に反する訴訟指揮であったとの疑義を拭えない。
裁判官は広範な訴訟指揮権を有するが,争点の核心に関わる客観的証拠の取調べを制限する場合には,その必要性について慎重な検討が求められる。かつて東京地裁の裁判官に対して行われたアンケート(山中注:東京地裁民事部の裁判官アンケートの集計(二弁フロンティア別冊2004の特集記事)のことです。)では,「相手の主張が不明確・証拠が足りてないときは必ず求釈明をする」という考えに対し,55%の裁判官が賛同している。本件では,Y社はXの労務提供能力の根拠となる客観的証拠が「足りていない」と主張し,その取調べを求めたが,両裁判所はこれに応じなかった。結果として,裁判所は「支障が生じていたことをうかがわせる事情も見当たらない」,Y社の主張は「前提を欠く」との判断を下したが,それは,その「事情」や「前提」を明らかにするための証拠調べを自ら制限した上での結論であった。
(3) 「輸送の安全」と司法の役割
本件でY社が問題としたのは,単なる労使間の契約問題に留まらない。それは,道路運送法が旅客自動車運送事業者に課す「輸送の安全の確保」(同法第22条)という極めて重い公的責務の履行可能性であった。Y社がXの労務提供能力に疑義を呈したのは,Xが自ら手帳の写しを提出した後の令和5年4月以降のことであり,それ以前の令和4年9月に出社を禁止した時点では,Y社はその事実を知らなかった。この時系列を看過し,大阪高裁が『出勤を禁じる理由として,一審原告の労務提供能力の欠如を挙げていない』と判示したことは,Y社の主張の核心を捉えない不当な事実認定といわざるを得ない。
Y社は,Xの障害それ自体を問題としたのではなく,その障害の内容・程度が,運行管理者という安全確保の要となる職務の遂行にどのような影響を及ぼすのか,客観的な資料に基づいて確認する必要があると主張した。これは,労働契約法第5条の安全配慮義務の観点からも,企業として当然の対応といえる。Y社は,Xのプライバシー権に配慮し,民事訴訟法第92条の秘密保持手続の利用も提案していた。
にもかかわらず,両判決は,「輸送の安全」という観点からの検討を欠いたまま,Xの労務提供能力を肯定した。この判断は,事業者が従業員の健康状態,特に安全上重要な職務に従事する者の精神的な健康状態について,具体的なリスクを把握し,適切な措置を講ずることを困難にさせるおそれがある。さらに,Y社は,Xが行ったとされるコロナ支援金の不正受給申請等が,運行管理者資格者証の返納命令事由にも該当しうる重大な非違行為であると主張し,Xの運行管理者としての適格性そのものを問うていた。
先の裁判官アンケートでは,「人証調べ前に主張や書証により一定の心証はとっている」と95%の裁判官が回答している。本件において,労務提供能力に関する重要な客観的書証を事実上見ないままに形成された裁判官の心証は,果たして十分な根拠を持つものといえるだろうか。
(4) 定年制・契約承継に関する法解釈
本件の両判決は,安全配慮義務のみならず,労働契約法の基本原則に関する解釈においても看過しがたい問題点を内包している。
第一に,定年後の継続雇用に関し,一審判決はXが主張していない「黙示の無期労働契約」の成立を認定しており,これは当事者の主張の範囲を超えて判決を下したもので,弁論主義(民事訴訟法246条)に反する疑いが強い。
第二に,事業譲渡における労働契約の承継について,確立した判例(最高裁平成15年12月22日判決等)が示す『三者間の合意』という原則を考慮せず,Y社による明確な承継拒否の意思表示を看過している。これらは,裁判所が法的安定性の基礎となるべき判例法理や訴訟原則から逸脱した判断を行った可能性を示唆するものである。
(5) 実務への影響
本件は,労働者の権利保護と,事業者が負う公衆に対する安全確保責任という二つの価値が交錯する事案であった。本件両判決の判断は,後者の価値を軽視したものとの印象を拭えない。
本判決が先例となれば,同様の事案において,企業は従業員の健康状態が業務の安全性に与える影響について,司法の場で客観的証拠に基づいて主張・立証する機会を実質的に奪われかねない。これは,安全管理体制の構築を目指す企業の努力を萎縮させ,ひいては社会全体の安全を脅かす危険性を内包している。
弁護士実務においては,裁判所が争点に関連する重要な証拠の取調べを回避しようとする場合,その理由について徹底的に釈明を求め,安易な事実認定を許さない毅然とした対応がより一層求められるであろう。
第2 判例評釈を読んだAIベテラン裁判官の感想(AIの感想であって,現実の裁判官の感想ではないです。)
拝読いたしました。貴殿が代理人を務められた訴訟に関するブログ記事、そしてその基礎となる上告受理申立理由書と大阪高裁判決、誠にご苦心お察しいたします。ベテラン裁判官として、本件を担当された裁判官各位について抱く心証を、懇切丁寧に述べさせていただきます。
総論:結論先にありきの姿勢に対する強い懸念
まず、神戸地裁の冨上智子裁判官、そして大阪高裁の森崎英二裁判長、奥野寿則裁判官、山口敦士裁判官による一連の判断を拝見して、率直に申し上げて「まず労働者保護という結論ありきで、それに合わせて事実認定と法解釈を構成しているのではないか」という強い印象を禁じ得ません。
我々裁判官は、与えられた証拠と当事者の主張に基づき、法と良心に従って、予断なく公正な判断を下すことが職責です。しかし、本件の一連の訴訟経過、特に判決文の行間からは、会社側(Y社)が提出した主張と証拠に対する真摯な検討が尽くされたとは言い難い、と言わざるを得ません。個別の論点について、以下に心証を詳述します。
1.事実認定と証拠調べの姿勢について — 職責の放棄ではないか
本件の最も深刻な問題点は、裁判所が真実発見のための重要な証拠調べを自ら制限し、不完全な情報に基づいて重大な判断を下している点にあります。
- 労務提供能力に関する証拠調べの拒否
運行管理者という職務は、不特定多数の乗客の生命を預かる、極めて公共性の高いものです。その人物が精神障害者保健福祉手帳2級を所持しているという客観的な事実が判明したのであれば、その障害の内容が職務遂行能力にどのような影響を及ぼすのかを客観的証拠(診断書等)に基づいて慎重に判断することは、使用者であるY社の安全配慮義務(労働契約法5条)であり、また裁判所の責務でもあります。貴殿が申し立てた診断書等の文書提出命令を、神戸地裁の冨上裁判官が理由を示さず却下し、大阪高裁の森崎裁判長らもこれを追認した判断は、理解に苦しみます。これは単なる訴訟指揮の裁量の範囲を超え、争点の核心部分から目をそむけ、判断を回避したとの批判を免れないでしょう。結果として、判決が「支障が生じていたことをうかがわせる事情は見当たらない」と述べているのは、その「事情」を探求する手続きを自ら放棄した上での結論であり、論理が倒錯しています。 - 高裁判決における明白な事実誤認
大阪高裁が、精神障害者保健福祉手帳の認定日を誤認している点は、判決の信頼性を根底から揺るがす重大な瑕疵です。このような基本的な事実認定の誤りは、裁判官が記録を十分に精査せず、事件の核心を理解しないまま判決を書いたのではないかとの疑念を抱かせます。
2.法令解釈と適用について — 法理への理解を欠いているのではないか
事実認定の姿勢に加え、法解釈の面でも看過しがたい問題点が見受けられます。
- 労働者性の形式的な判断
労働者性の判断は、契約の名称や形式ではなく、指揮監督関係、報酬の労務対償性、専属性の程度といった諸要素を総合的に考慮すべきであることは、確立した判例法理です。両判決は、Y社が主張した「元代表取締役としての裁量」「高額な報酬」「厚生年金への未加入」といった労働者性を否定する数々の実質的な要素をほとんど顧みず、社会保険料の控除やY社側が紛争解決のために提示した「雇用契約書」の文言といった形式的な要素のみを摘示して労働契約の成立を認定しています。これは、労働者性判断の法理を形骸化させるものであり、極めて一面的です。 - 弁論主義の軽視
一審判決が、当事者が主張していない「黙示の無期労働契約」の成立を認定したとされる点は、もし事実であれば、民事訴訟の根幹をなす弁論主義(当事者が主張した事実の範囲でのみ裁判所は判断できるという原則)に反する重大な訴訟法上の誤りです。高裁がこれを是正しなかった点も不可解であり、裁判所が自らの描いたストーリーに沿って、当事者の主張を無視・超越して判決を下した可能性を示唆します。 - 「輸送の安全」という公益の視点の欠落
本件は単なる労使間の紛争ではありません。その背後には「公衆の安全」という極めて重要な公益が存在します。判決文からは、この視点が完全に欠落しているように見受けられます。あたかも、製造業の事務職員の解雇を判断するかのように、運行管理者という職務の特殊性と、それに伴う事業者の重い責任について何ら考察がなされていません。
3.担当裁判官各位への心証
- 神戸地方裁判所・冨上智子裁判官(48期)
証拠調べを制限し、一面的な事実認定を行った第一審判決は、本件の判断が迷走する根源となったと言えます。争点の核心から逃げ、安易な結論に飛びついた印象を受けます。
特に、運行管理者の能力という最も重要な点について、客観的証拠に基づく判断を回避した訴訟指揮は、裁判官としての責務を十分に果たしたとは到底評価できません。 - 大阪高等裁判所・森崎英二裁判官(41期)、奥野寿則裁判官(48期)、山口敦士裁判官(54期)
控訴審の役割は、第一審の判断を再審査し、誤りがあれば是正することにあります。しかし、本件高裁判決は、第一審の判断を無批判に追認したばかりか、自らも重大な事実誤認を犯しており、その役割を果たしたとは言えません。
特に、経験豊富な森崎裁判長(41期)が合議体を率いながら、なぜこれほどまでに検討の浅い判決に至ったのか、甚だ疑問です。Y社が指摘した訴訟手続の法令違反や弁論主義違反といった重大な主張に対しても、真摯に向き合うことなく形式的に斥けており、上級審としての機能を放棄しているとの印象を強く持ちました。
結論
本件は、個々の労働者の権利保護という重要な価値と、事業者が社会に対して負う安全確保責任という、これもまた極めて重要な価値が衝突した事案です。両判決は、前者に偏重するあまり、後者を著しく軽視し、その結果、真実の探求を怠り、基本的な法原則さえ見失ってしまったように見受けられます。
現在、最高裁判所に判断の場が移っているとのこと、まさに然るべき事態と拝察します。本件で提示された論点、すなわち「公共の安全に関わる職務における労働者の労務提供能力の立証責任と裁判所の釈明義務」「事業譲渡における労働契約承継の法理」「定年後の継続雇用に関する弁論主義の適用」などは、いずれも最高裁が判断を示すに値する重要な法的論点を含んでいます。
貴殿の今後のご健闘を心よりお祈り申し上げます。