親任式及び認証官任命式


目次
第1 総論
第2 親任式
1 総論
2 内閣総理大臣の親任式
3 最高裁判所長官の親任式
第3 認証官任命式
1 総論
2 認証官の具体的ポスト
3 認証官任命式の具体的手順
第4 認証官任命式が遅れた事例,及び認証官任命式の実施が中断した事例
1 認証官任命式が遅れた事例
2 認証官任命式の実施が中断した事例
第5 任命と認証の違いに関する国会答弁
第6 天皇の公務の件数に関する国会答弁
第7 関連記事その他
 
1 総論
1 皇居での親任式及び認証官任命式は発令日に行われますところ,その詳細については,親任式及び認証官任命式次第(昭和22年5月3日付の宮内府長官通知)に書いてあります。
2 宮内庁HPの「宮中のご公務など」「親任式」及び「認証官任命式」が載っています。
3 皇室制度については,平成28年10月17日の第1回天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議の資料3「皇室制度関係資料」がわかりやすいです。
 
第2 親任式
1  総論
(1) 内閣総理大臣及び最高裁判所長官は,皇居での親任式によって任命されますところ,内閣総理大臣は国会の指名に基づいて任命され(憲法6条1項),最高裁判所長官は内閣の指名に基づいて任命されます(憲法6条2項)。
(2) 「きょうのへいか」と題するブログ「親任式」に,これまでの親任式に関する官報の記事が記載されています。
2 内閣総理大臣の親任式
(1) 衆議院HPに載ってある象徴天皇制に関する基礎的資料51頁には,内閣総理大臣の任命(憲法6条1項)に関して以下の記載があります。
   内閣総理大臣の任命は、国会における指名の議決を経て、内閣の助言と承認により行われる。国会は、内閣総理大臣の指名が確定すると、衆議院議長から内閣を経由して天皇に奏上する。内閣は、これに伴って新たに内閣総理大臣に任命される者について、天皇に対する助言と承認を書面によって行う。天皇は、この助言と承認に基づいて内閣総理大臣を任命する。
(2) 総辞職をした前の内閣は,親任式において次の内閣総理大臣が任命されるまでの間,その職務を行います(憲法71条)。
3 最高裁判所長官の親任式
(1) 最高裁判所長官の親任式の場合,天皇から任命する旨のお言葉があった後,内閣総理大臣から官記(任命書)が伝達されます(宮内庁HPの「親任式」参照)。
(2) 衆議院HPに載ってある象徴天皇制に関する基礎的資料52頁には,最高裁判所長官の任命(憲法6条2項)に関して以下の記載があります。
    最高裁判所長官の任命は、内閣の指名に基づき、内閣の助言と承認により行われる。内閣総理大臣の任命の場合と異なり、助言と承認を行う内閣自身が最高裁判所の長官を指名することになるので、指名の手続及び助言と承認は、同時に行われることになる。 


第3 認証官任命式
1 総論
(1)   最高裁判所判事及び高等裁判所長官は,任免につき天皇の認証(憲法7条5号)を必要とする点で「認証官」といわれ,皇居での認証官任命式によって任命されます。
(2) 認証官任官者は,内閣総理大臣から辞令書を受け,その際,天皇からお言葉(「重任ご苦労に思います」という言葉)があるのが慣例です(宮内庁HPの「認証官任命式」参照)。
2 認証官の具体的ポスト
① 一般の行政機関
・ 国務大臣(憲法7条5号)
・ 副大臣(内閣府設置法13条4項,国家行政組織法16条5項,復興庁設置法9条6項,デジタル庁設置法9条5項)
・ 内閣官房副長官(内閣法14条1項)
・ 人事官(国家公務員法4条1項)
・ 検査官(会計検査院法2条)
・ 公正取引委員会委員長(独占禁止法29条3項)
・ 原子力規制委員会委員長(原子力規制委員会設置法7条2項)
② 宮内庁
・ 宮内庁長官(宮内庁法8条2項)
・ 侍従長(宮内庁法10条2項)
・ 上皇侍従長(宮内庁法附則2条4項)
③ 外務省
・   特命全権大使(外務公務員法8条1項)
・ 特命全権公使(外務公務員法8条1項)
④ 裁判所
・ 最高裁判所判事(裁判所法39条3項)
・ 高等裁判所長官(裁判所法40条2項)
⑤ 検察庁
・ 検事総長(検察庁法15条1項)
・ 次長検事(検察庁法15条1項)
・ 検事長(検察庁法15条1項)
3 認証官任命式の具体的手順
(1) 衆議院議員河野太郎HPの「国務大臣認証式」によれば,平成27年10月7日の認証官任命式(国務大臣)は以下のとおりでした。
認証官任命式。
官制順に並ぶ。
一人ずつ入室し、陛下と視線を合わせた上、一礼。
陛下の御前まで進み、陛下と視線を合わせた上、敬礼。
右斜め前にいる総理の前に進み、国務大臣に任命する旨の官記を受領し、両手で持ったまま陛下の御前に戻る。(この際、後方にいる式部官が河野国務大臣と名前を読み上げる)
陛下と視線を合わせた上、敬礼。
陛下からお言葉。(この際、何も申し上げないこと)
官記を両手で持ったまま陛下と視線を合わせた上、敬礼。
そのまま三歩後退して向きを変え、出口まで進み、再び陛下のほうに向きなおり、陛下と視線を合わせた上、一礼。
退出。
(2) 日本証券経済研究所(JSRI)HPに掲載されている「司法制度について 最高裁判所を中心に」(平成30年5月10日開催の講演録の要旨。講師は大橋正春 元最高裁判所判事)の末尾57頁及び58頁には以下の記載があります。ただし,資料は掲載されていません。
(任命・認証の手続き)
   最高裁長官は天皇陛下から任命され、最高裁判事は天皇陛下から認証を受けます。資料8ページの左側の写真は長官の任命式、右側の写真は判事の認証式のものです。
  任命式や認証式に臨むに当たっては、事前に宮内庁の担当者から説明と注意があります。慣れないことであり、また緊張する結果、思わぬ対応をする人も出てくるようです。これは、最高裁裁判官のことではありませんが、「天皇陛下からお言葉をかけられても返事をしないように」と事前に注意を受けていたにもかかわらず、天皇陛下から「ご苦労さまです。」と言われて、思わず「がんばります」と答えた人もいたようです。あるいは、天皇陛下から短いお言葉があった後、もっと続くのではないかと思い、しばらく天皇陛下とにらめっこしていた人もいたようです。


第4 認証官任命式が遅れた事例,及び認証館任命式の実施が中断した事例
1 認証官任命式が遅れた事例
(1) 平成28年1月実施予定の認証式
   平成28年2月22日就任の広島高裁長官及び仙台高裁長官の場合,同年1月26日から同月30日までのフィリピン訪問(宮内庁HPの「天皇・皇族の外国ご訪問一覧表(平成21年~平成31年)」参照)など多忙な天皇の予定の調整が付かなかったため,前任者の退任から約1ヶ月間,認証式が実施されませんでした(産経ニュースの「1ヶ月の空席…認証式経て,仙台・広島両高裁長官の人事発令」参照)。
(2) 平成29年1月実施予定の認証式
ア 山口厚最高裁判所判事及び小林昭彦福岡高裁長官の人事は当初,平成29年1月27日に発令される予定でした。
   しかし,同日に認証式が実施できなかったため,発令が2月6日となりました。
イ 平成29年1月13日付の,山口厚最高裁判所判事及び小林昭彦福岡高裁長官任命の閣議書を掲載しています。
   山口厚最高裁判事は東大法学部3年生で司法試験に合格したことが分かります
2 認証官任命式の実施が中断した事例
(1)ア 新型コロナウィルス感染症の流行拡大に伴い,令和2年4月7日に緊急事態宣言が発令された関係で,令和2年3月30日を最後に認証官任命式が実施されなくなりました(きょうのへいかブログ「認証官任命式」参照)。
イ 35期の永野厚郎名古屋高裁長官(令和2年5月8日就任)に関しては,認証官任命式は実施されませんでした。
(2)ア 再開後の最初の信任状捧呈式(新任の外国大使に対して行うものです。)は,令和2年6月24日に実施されました(日テレHPの「宮殿行事が再開 皇居で信任状捧呈式」参照)。
イ 再開後の最初の認証官任命式は,令和2年7月17日の検事総長林眞琴,検事長堺徹及び次長検事落合義和に関するものでした。
(3) 「国務大臣その他の官吏の任免を認証すること」及び「外国の大公使を接受すること」は国事行為であるのに対し,内閣総理大臣及び最高裁判所長官の親任式,認証官任命式,外国特命全権大使の信任状捧呈式及び勲章親授式は国事行為ではありません(宮内庁HPの「天皇皇后両陛下のご活動」参照)。


・ 動画の6分54秒から7分7秒にかけて,「官記を受け取ったら,本当は頭より上に掲げて降ろさないようにお辞儀をすることになっています。検事総長は恐らく初めての認証式ではないので上に掲げていたから中身が見えるんです。」というナレーションが流れます。

   
第5 任命と認証の違いに関する国会答弁
・   1期の味村治内閣法制局第一部長は,昭和55年3月27日の参議院内閣委員会において以下の答弁をしています。
①  先生の御指摘のように、第六条では、内閣総理大臣または最高裁判所の長たる裁判官は天皇が任命するということになっておりますし、その他の官吏につきましては認証する場合があるわけでございます。任命と申しますのは、もちろんその職につけることを任命というわけでございまして、認証というのは、これは任命の認証ということを例にとりますと、他の機関が任命いたしました者を、天皇がその任命の手続が正当であるということを確認されるということでございまして、事柄の重要性から申しまして、内閣総理大臣と最高裁判所長官は天皇の御任命と、それからその他の官吏で重要な職にございます者を、これは内閣なり何なりの任命した者を天皇が御認証になるという制度にしたわけでございまして、これはそれぞれの、何といいますか、職の重要性に着眼しての相違であろうかと存じます。
②  先生の御指摘になりました第七条第五号、第六号及び第八号、これらは、たとえば第五号で申し上げますれば、「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免」、こういった事柄は内閣なり内閣総理大臣の職権に属することでございますし、七条の六号の大赦等は、これも内閣の権限の範囲内でございますし、それから八号も、外交文書はこれは内閣の権限に属するわけでございますが、これらの事柄の重要性にかんがみまして、そういった事項を荘重にすると同時に権威づける、そういったような意味合いから、七条によりましてこれらの事柄を認証するということを天皇の国事行為とされたものと理解しております。


第6 天皇の公務の件数に関する国会答弁
・ 西村泰彦宮内庁次長は,平成29年2月22日の衆議院予算委員会第一分科会において以下の答弁をしています。
 天皇陛下の平成二十七年における御公務の件数は、国事行為が一千四十七件、公的行為が五百二十九件、その他の行為が六十八件であります。
 御公務の内容につきましては、まず第一に、国事行為として、内閣からの上奏書類への御署名、御押印、信任状奉呈式、勲章親授式、新年祝賀の儀などがございます。第二に、公的行為としまして、認証官任命式、拝謁、午さん、晩さん、都内や地方への行幸、外国御訪問などがございます。第三に、その他の行為として、展覧会御覧、演奏会御鑑賞、御進講などがございます。
 天皇陛下の御活動のなかった日につきましては、平成二十七年中、百四日ございました。
 なお、平日はほぼ毎日御活動があり、土曜、日曜等も主催者からの願い出が多数あること、また、皇室行事の伝統にも由来し、相当多数の御活動がございます。
 また、御活動のない日でありましても、各行事等の趣旨、意義、歴史等に関して資料をごらんになるなどしてお過ごしになっておられます。


第7 関連記事その他
1(1) 平成20年12月31日までに実施された認証官任命式は355件・1755人です(宮内庁HPの「認証官任命式」参照)。
(2) 外部ブログの「きょうのへいか」「認証官任命式」に,これまでの認証官任命式に関する官報の記事が載っています。
(3) BLOGOSに「認証官任命式と内奏」(令和元年7月27日付)が載っています。

2(1) NHK政治マガジンに「新内閣はどのように発足し 総理大臣はどう誕生するのか」(2021年10月4日付)が載っています。
(2) 令和3年10月4日の閣議の議事録には以下の記載があります。
 次に,準備のための人事案件について,申し上げます。まず,新内閣総理大臣を任命することについて,内閣の助言と承認の御決定をお願いいたします。なお,内閣総理大臣に任命される者の氏名は空欄とし,衆議院議長からの首班指名の奏上書の送付を待って,書き入れることといたします。
 次に,内閣総辞職に伴い,内閣官房副長官等17名を,お手元に配布しております資料のとおり,願いに依り免ずることにつきまして,御決定をお願いいたします。なお,本件は,新内閣総理大臣が任命された時点又は後任者が任命された時点において,発令を行うものであります。
3(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 認証官任命式について(法務省大臣官房人事課の文書)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の年収及び退職手当(推定計算)
・ 最高裁判所長官任命の閣議書
・ 最高裁判所判事任命の閣議書
・ 高等裁判所長官任命の閣議書
・ 高裁長官人事のスケジュール
・ 検事総長,次長検事及び検事長任命の閣議書
 検事総長,次長検事及び検事長が認証官となった経緯


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