最高裁判所における刑事事件の弁論期日


目次

1 最高裁判所における刑事事件の弁論期日
2 関連記事その他

1 最高裁判所における刑事事件の弁論期日
・ 最高裁裁判所裁判部が作成した,刑事書記官実務必携(平成31年4月1日現在)71頁ないし75頁には以下の記載があります。

第9 公判
1 期日前の準備
(1) 弁護人がない場合の措置
   審議の結果,弁論が開かれることになった事件について,上告審の弁護人が選任されていないときは,次の要領により,弁護人の選任に関する照会等の手続を進める。
ア 必要的弁護事件であるときは,担当調査官と相談の上,被告人に対して弁護人選任に関する照会を行い,被告人が弁護人を選任しないときは,速やかに東京地方事務所に国選弁護人候補指名通知を依頼する。
イ 任意的弁護事件であるときは,担当調査官に相談の上,主任裁判官の指示を待って前記弁護人選任に関する照会等の手続を進める。
(2) 期日の調整,指定及び変更
ア 審議の結果,弁論が開かれることとなった事件については,担当調査官又は先任裁判官の秘書官から,審議終了後直ちにその旨の連絡があり,担当調査官から期日の指定等について必要事項の連絡ないし指示がある。担当書記官は,直ちに首席書記官に報告するとともに,前記指示に基づき, 当該小法廷の所定の開廷日の中から複数期日を選定して検察官及び弁護人に電話で期日の都合を打診する。
   この場合,期日の選定に当たっては,弁論要旨等の作成提出に要する期間,弁護人の住所地からの交通の便等をも考慮し,期日指定の日から公判期日まで少なくとも1箇月くらいの余裕を見込むのが通例である。
   また,要警備事件については,期日調整の時点で,裁判関係庶務係を通して,東京地裁警務課の差支えの有無を確認しておく。
   なお,この期日調整は,情報管理の観点からできるだけ短時間のうちに済ませ,調整後直ちに,期日の指定・通知等の事務処理を完了する。
イ 期日の調整が終了したときは,直ちに首席書記官に報告するとともに,担当調査官の承諾を得,秘書官を通じて当該主任裁判官の支障の有無を確認した上,公判期日指定書を作成し,裁判長の決裁を受ける。
ウ 期日の調整の際, 出頭予定の弁護人の数及び氏名,弁論時間その他弁論進行予定等を確かめるほか,事案によっては被告人を含めた傍聴人の見込み数等法廷警備に関する情報をも収集する。
エ 期日が指定告知された後, この期日の変更請求があったときは,直ちに,その旨担当調査官に連絡するとともに,相手方の意見を聴いた上,所要事項を記載した決裁票,期日変更請求書,相手方の意見書(又は電話聴取書)の順にクリップで一括し, 当審記録とともに担当調査官,主任裁判官に提出して決裁を受ける。
   その上で,公判期日変更決定(又は却下決定)書を作成し,裁判体の押印を受ける。変更決定の場合は訴訟関係人にその謄本を送達する。
(3) 公判期日の通知
   期日が指定されると,弁護人には特別送達郵便により,被告人には簡易書留郵便により,検察官には検察庁送付簿により,それぞれ公判期日通知書を送達又は送付して通知する。収容被告人であっても封筒の表書きは被告人本人あてとする。被告人に通知したことは,記録表紙継続用紙の通知事項欄に所要事項を記入し,書記官が認印してこれを明らかにするとともに,前記公判期日指定書及び公判期日通知書の写しを記録に編てつする。
   なお,国選弁護人の場合は,東京地方事務所(霞が関分室)に当該事件について公判期日が指定された旨電話連絡する。それを受けて同事務所から公判等時間連絡メモが送付される。
(4) 期日表の作成及び配布
   期日指定後,同期日の立会検察官が決まった段階で刑事弁論期日表を作成し,関係者に配布する。
   期日表の作成は, 開廷時刻,立会検察官名を記入するほか, 同表の「摘要」欄には,経過を明らかにする趣旨で「21.1.29の弁論期日変更」等と記入し,更に該当する事件は「検察官上告」, 「双方上告」, 「死刑事件」と記入する。
   事例によっては,弁論後即日判決を宣告することが予想される場合(非常上告事件にその例が多い。)があるが,期日表には弁論期日のみ記載することとされている期日表の配布先と必要部数は,原則として以下のとおりである。

期日表の配布先と部数

配 布 先弁論期日表宣告期日表備考
各裁判官室3(×5)3(×5)
首席・上席調査官室
主任調査官室
各調査官室1(×3)1(×3)
大法廷書記官室
小法廷書記官室首席・上席書記官控えを含む
他の小法廷書記官室1(×2)1(×2)死刑事件のみ参考送付
裁判関係庶務係
合   計3131

(5) 答弁書,弁論要旨等の提出と付随事務   公判期日における弁論に備え, 当事者から答弁書,弁論要旨等が提出されたときの措置は,次の要領による。ア 答弁書は,原本を記録に編てつするとともに,その謄本を速やかに相手方に送達し,その写しを全裁判官及び担当調査官に配布する。公判期日までに相手方に送達する時間的余裕がないときは,公判開廷前に交付送達する。イ 弁論要旨についても前記と同様であるが,相手方には,普通郵便その他適宜の方法で送付すれば足りる。送付したことは,原本初葉左欄外下部に,その旨及び年月日を記載し,書記官が認印するなどの方法により, これを記録上明らかにしておくのが相当である。(6) 期日の接近に伴う準備ア 記録を再点検し,追加された弁護人の氏名,その他変動のあった事項の記録表紙への記載の有無や,公判期日等の通知,答弁書の送達,弁論要旨の送付の有無,適否などについて調査する。   また,公判期日において陳述,顕出が予定される書面については,事案により,その初葉下部に書面の標題を記載した附せんを付けるなどして,法廷での検索がしやすいように記録を整理する。さらに,顕出が予定される証拠物,取寄せ記録等があるときは,仮出し手続をするなどの準備をしておく必要がある。イ 弁論進行予定表は,担当調査官から必要なデータの提供を受けて担当書記官が作成するが,担当調査官の了解を得た後,必要部数をコピーし,各裁判官及び首席書記官等に配布する。ウ 法廷備付けの録音機を使用する事件にあっては, 開廷日の前日にマイクロホンを設置した上,試験操作を行う。(7) 法廷内の準備   小法廷には, 当事者席10 (検察官側,弁護人側各5) ,報道記者席24,傍聴席48が設けられている。出頭弁護人が多数で5人を超える場合の当事者席の増設については,担当調査官を経由して,主任裁判官の指示を受ける。   また,被告人の出頭が予定されるときは,傍聴券(特別傍聴券を含む。)を発行し,指定された傍聴席に被告人を着席させる(法廷警備事件以外で被告人が出頭したときは,一般の傍聴席に着席させる。) 。
2 期日の開催(1) 開廷準備ア 法廷出入口の開扉,法廷内空調及び照明等の設備の調整,法廷入口の所要事項の掲示,裁判官入退廷扉の開閉点検, 当事者出頭確認,合議室の整備及び法卓上の裁半リ官席札の配列(注①),法廷内のマイクロホンの設置等の開廷準備は,法廷担当事務官が行う。   なお,法廷担当事務官は,2人で一期日の事務を担当し, 1人は法廷内における事件の呼上げ等に,他の1人は合議室と法廷との連絡等に,それぞれ従事する。イ 事件記録は,1,2審判決のつづられている記録及び当審記録のみを裁判長の法卓上に置き,その他の記録(注②),証拠物等は書記官の卓上に置く。ウ 立会書記官が法廷に携行するものは,筆記用具,手控え用紙,弁論期日表,録音テープ,陳述が予定される書面の写し等である。(2) 入廷   訴訟関係人及び傍聴人の入廷は,原則として, 開廷15分前までに終了させる。   訴訟関係人は,それまでは控室において待機する。傍聴人の入廷が終わった段階で,裁判関係庶務係職員から傍聴人に対し,傍聴心得が伝達される。(3) 審判ア 審判の進行順序等   開廷宣言は主任裁判官(裁判長)が,休廷宣言は当該事件の裁判長が, 閉廷宣言は最後の事件の裁判長が,それぞれ行うこととされている。また,同一日に民事及び刑事の判決及び弁論が行われるときは,原則として次の順序による。(ア) 刑事判決 裁判官就任順弁論 裁判官就任順(イ) 民事判決 裁判官就任順弁論 裁判官就任順イ 弁論の実施(ア) 立会書記官の執務   立会書記官のうち1人は,主として弁論経過の記録を担当する。他の1人は,主として法廷の秩序維持に関する事務を担当し,法廷担当事務官に対して必要な指示を与えるほか,弁論経過以外の法廷内の状況を記録する。(イ) 弁論の経過当審における弁論はa  告申立人上告趣意書陳述b 相手方答弁書(又は弁論要旨)陳述c 裁判長(当事者双方に対し,他に陳述する事項があるかどうかを確かめた上)弁論終結,判決宣告期日追って指定の経過によって終了するのが通例である。ウ 調書の作成(ア) 公判調書   公判調書は,立会書記官のうち1人が作成し, これを板目紙に添付して担当調査官に供閲の上,裁判長に提出して認印を受ける。   なお,期日に行われた訴訟行為について,公判調書への記載に疑問を生じた場合は,担当調査官の意見を聞く。(イ) その他の調書等    立会書記官のうち法廷の秩序維持に関する事務を担当した者は,法廷等の秩序維持に関する規則9条に定める制裁調書等を作成するほか,法廷内における特異な事項, これに対する裁判長の措置等について経過書を作成する。注① 各小法廷における裁判官の入廷・着席は,合議室では,裁判官就任順に着席される。法廷では,主任裁判官が中央に着席し,続いて傍聴席に向かって右,左と就任順に交互に着席される。構成が5人に満たないときは,必要に応じて入廷・着席順序を繰り上げることとされているので,席札もこれに従って配列する。    なお,数件のうち1件の弁論について不関与の裁判官の退席を必要とする場合は, 当該事件の呼上げを最後に回し,席札の移動はしない。もっとも,いったん裁判官全員が退廷し,構成を改めて再入廷する場合は,席札の配列替えをする。② 事件記録が多数のときは,法廷に搬入する記録につき, 、担当調査官を経由して裁判体の指示を受ける。

2 関連記事その他

(1) 昭和24年7月15日発生の三鷹事件(死者6名,負傷者20名)に関する最高裁大法廷昭和30年6月22日判決では,8対7という意見の相違がある事件(意見の内訳は,8人が上告棄却(死刑確定),7人が破棄差戻し(死刑判決の審理やり直し))であり,かつ,地裁判決の無期懲役が書面審理だけの高裁判決で死刑に変更された重大事件であるにもかかわらず,「理由がないことが明らかである」場合にのみ適用される刑訴法408条に基づき(判決文12頁),弁論を開かないで判決をしたことが物議を醸しました。
   そのため,最高裁大法廷昭和30年6月22日判決より後は,どの小法廷においても,また,大法廷においても,死刑事件については必ず弁論を開くようになりました(「最高裁判決の内側」(昭和40年8月30日発行)142頁及び143頁参照)。
(2) 以下の判示をした最高裁平成16年2月16日判決に関して同年1月23日に開催された口頭弁論の体験談が,福岡県弁護士会HPの「最高裁判所弁論出席感想記」に載っています。
    第1審判決が,起訴された事実を理由中で無罪とした上,同事実に含まれるとして,同事実と併合罪の関係にある事実を認定して有罪の判決をし,それに対し被告人のみが控訴したなど判示の訴訟経過の下では,控訴審裁判所が,刑訴法378条3号前段,後段に違反する違法があるとして第1審判決を破棄するに当たり,第1審判決の理由中で無罪とされた事実について,有罪とする余地があるものとして第1審に差し戻すことは,職権の発動の限界を超えるものであって,許されない。
(3) 上告裁判所が原判決を破棄するに当たり,原判決の宣告手続に法律に従って判決裁判所を構成しなかった違法があるという破棄事由の性質,被告事件の内容,審理経過等によっては,必ずしも口頭弁論を経ることを要しません(最高裁平成19年7月10日判決)。
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 刑事上訴事件記録の送付事務について(令和3年6月18日付の最高裁判所訟廷首席書記官の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 死刑執行に反対する日弁連の会長声明等
・ 弁護人上告に基づき原判決を破棄した最高裁判決の判示事項(平成元年以降の分)
・ 最高裁判所における民事事件の口頭弁論期日
 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携


広告
スポンサーリンク